スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「第4段階を開示します。救済は過去を変更しません」
大結界の文字に、小咲の顔から血の気が引いた。
オルドは続ける。
「拒絶、遅れ、別の者が選ばれた事実は残ります。完全同期した存在による真正な選択が成立したとき、その後へ新しい確定結果が追記されます」
空中に1本の履歴線が現れる。
選ばれなかった。そこで切れず、その先へ空白が続いている。
「やり直しじゃ、ないんだ」
小咲が呟く。
「撫子は、暦お兄ちゃんに選ばれなかったまま?」
「その事実は残ります」
「じゃあ、そのあとで選ばれる」
撫子の声に、執着が宿る。
鐘が鳴る。
9位、10位決定戦。小野寺小咲対千石撫子。
領域へ無数の未送信の手紙と、未完の自画像群が現れる。
撫子が先に蛇道を走る。
「過去が消えないなら、早く新しい結果を足したほうが勝ちだよ」
『蛇皮1枚同行』が小咲の手紙へ巻き付き、過去の弱さを引きずり出す。
「小咲ちゃんは、約束が見つからなかった日も、言えなかった日も残る。9位になっても消えないよ」
屈服判定が小咲へ集まる。
小咲は『追伸告白』を開く。
「消したくない」
手紙へ今の文字が加わる。
「消えたら、今の私が誰の続きか分からなくなる」
屈服判定が揺らぐ。
「撫子ちゃんは、過去を残したまま選ばれるのが怖くない?」
未完自画像のうち、可憐な撫子だけが小咲へ向く。
「選ばれれば、怖くないよ」
「選ばれた結果で、過去の自分を正しかったことにするの?」
蛇が止まる。
小咲は鍵のない扉を押す。
「暦に選ばれたら、可愛い撫子も、怒った撫子も、全部愛されるべきだったって思える。でも選択は、過去の判決を無罪にするものじゃない」
屈服判定が撫子へ移る。
俺は2人の対立を見る。
「小咲は追伸として現在を加える。撫子は蛇皮を1枚ずつ現在へ連れる。どちらも過去を消さないが、選ばれた結果を過去の意味へ逆流させるかが争点だ」
撫子は未完自画像へ黒い線を加える。
「無罪にしないよ。悪かった撫子も選ばれたいだけ」
『有罪被選択願望』。
反省したからではなく、許されたからでもなく、罪を負った自分のまま選ばれたいという武装。蛇が黒白の縞へ変わり、小咲の扉を砕く。
「小咲ちゃんこそ、選ばれたら『待っていてよかった』って思わない?」
手紙へ赤い印がつく。
「遅れも沈黙も、最後には届くための遠回りだったって」
小咲の動きが止まる。
過去が物語の伏線へ変わる危険。選ばれた結末が来れば、言えなかった日々まで美化できてしまう。
「思うかもしれない」
小咲は認める。
屈服判定が強まる。
「だから、追伸で前の手紙を書き換えない」
過去の手紙と現在の追伸を別々に綴じる。
『別紙現在』。
言えなかった過去は、言えなかったまま。今言う言葉はその正当化ではない。屈服判定が砕ける。
「撫子ちゃんも、選ばれたあと『悪くても愛された』を免罪符にしないで」
小咲の別紙が撫子の自画像へ貼り付く。
撫子はそれを剥がさない。
「しない。でも、悪かったから愛されちゃいけないとも思わない」
2人の武装が正面から拮抗する。
小咲は手紙を扉へ変え、1枚ずつ前へ進む。撫子は過去の自分を1人ずつ連れ、扉の内側へ入り込む。
「誰の選択を信じるの?」
撫子が問う。
「楽くんと同じ存在? それとも、審判さん?」
小咲の足が止まる。
情報開示が生んだ問い。完全同期した想い人からの選択と、その身体を差し出す俺自身の選択。
「両方であってほしい」
小咲は言う。
「楽くんとして私を見て、審判さん自身も嘘だと思わない選択」
俺の胸に重く落ちる。
撫子は笑う。
「欲張りだね」
「撫子ちゃんは違うの?」
「撫子も、両方ほしい」
2人の屈服判定が同時に消えた。
勝負は、どちらが過去を残したまま現在を強く選べるかへ移る。
小咲は『本日指定』の時計を出す。撫子は『蛇皮1枚同行』で時計へ絡む。
「今日、私は言う」
「今日、撫子は1枚連れていく」
小咲の追伸が撫子へ飛ぶ。撫子の自画像が小咲を囲む。
小咲は1枚ずつ像へ言葉を渡す。可愛い撫子へ、怒る撫子へ、責任を拒んだ撫子へ。「それでも、何を望むの」と問い続ける。
撫子は答えながら近づく。
「選ばれたい」
「誰として?」
「全部の撫子として」
「1度に?」
撫子の足が止まる。
まだ1枚ずつしか連れられない。全部を選ばれたい願いは、現在の受容より先に走っている。
小咲はそこへ追伸を差し出す。
「私は、全部言えなくても、今日言える分を言う」
『一文告白』。
長い手紙のすべてではなく、今伝えられる一文だけを確定する。小さな言葉が撫子の蛇を1匹ずつ止めた。
撫子は巨蛇を呼ぼうとする。だが巨蛇は、置いてきた蛇皮を全部まとめた姿だ。呼べば1枚ずつ同行する論理が崩れる。
迷いの一瞬。
小咲は扉を開き、撫子の背後へ回る。手紙の帯が腕と腰を包んだ。
撫子は「選ばれたい」と叫びながら抵抗する。小咲はその願いを否定せず、帯だけを締める。
「その言葉、消さないよ。負けても残るから」
10秒。
鐘が鳴った。
「勝者、小野寺小咲」
順位が刻まれる。
9位、小野寺小咲。
10位、千石撫子。
撫子は帯が消えたあとも、しばらく床へ座っていた。
「負けた撫子も、連れていかなきゃ駄目?」
「うん。私も、言えなかった私を連れていく」
小咲が手を差し出す。
俺は2人の要求を忘れないよう刻む。同期した想い人と俺自身、その両方が偽りなく選ぶこと。
順位の文字が消えたあと、小咲は俺の前へ来た。
『過去が消えないなら、私は約束を見つけてもらえなかった私のままなんですね』
『そうなる』
『それでも、そのあとに選ばれる』
彼女は確認するように繰り返す。撫子も少し離れて聞いていた。
『追記された結果は、前の人たちの記憶も変えるの?』
『今の開示では分からない』
オルドが代わりに答えた。『他者の過去を改変するものではありません。対象者自身の概念履歴へ、新しい確定結果を加えるものです』
つまり、元の世界で楽が別の選択をした事実も、周囲がそれを知る記憶も変わらない。撫子の過去も同じだ。救済は世界全体を都合よく書き換える勝利ではなく、彼女たち自身がその後へ続くための結果だ。
『誰にも証明できなくても?』撫子が問う。
『大結界が記録します』
『でも、元の世界の人には分からない』
オルドは否定しなかった。
撫子の顔へ寂しさが浮かぶ。選ばれたという結果を得ても、かつて選ばれなかった物語の登場人物たちはそれを知らないかもしれない。その孤独は、偽物の勝利と疑う理由になる。
小咲は撫子の隣へ立った。『私たちが知ってるよ』
『慰め?』
『証人。私も撫子ちゃんが選ばれるところを見る。撫子ちゃんも、私のを見て』
撫子はすぐ頷かなかった。やがて、小さく『うん』と言う。
16人が互いの救済の証人になる。その構造は、順位争いと矛盾する。先へ行きたい相手の選択を、最後には見届けなければならない。競争相手は同時に、結果を孤独へしない唯一の証人になる。
俺はその事実を胸へ刻んだ。同期した想い人と俺の二重意志だけでは足りない。選択を受け取る本人と、それを見届ける同じ敗者たちの関係も、救済を現実へつなぐ。
次は五更瑠璃対由比ヶ浜結衣。
7位と8位。大結界は、その二重の意志をどう判定するのかを明かそうとしていた。