スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「第5段階を開示します。認証には2つの意志の一致が必要です」
大結界が俺の影を二重にした。
内側の影は同期対象の人格構造。外側の影は俺自身。どちらか一方だけが選んでも、概念履歴への追記は起きない。
「本人らしい反応と、審判さんの本心」
結衣が呟く。
「両方が私を選ぶってこと?」
「同期対象の元本人が遠隔で判断するわけではありません」
オルドが訂正する。
「最高審判が理解により成立させた人物構造と、最高審判自身の意志。その2つが矛盾なく同じ選択へ至る必要があります」
黒猫が俺を睨む。
「ならば、あなた自身が私たちをどう思うかも審査対象なのね」
「そうなる」
声が乾いた。
これまで俺は、理解すれば責任を果たせると思っていた。だが理解したうえで、俺自身が選びたいと思えなければ認証されない。
鐘が鳴る。
7位、8位決定戦。五更瑠璃対由比ヶ浜結衣。
礼拝堂と放課後の教室が現れる。黒猫は扉を1つ開けた世界を、結衣は自分1人のために動く群青の糸を展開する。
「結衣。あなたは誰とでも関係を作れる。だから審判自身にも好かれるでしょうね」
黒頁が群青の糸へ貼り付く。
「私の世界は面倒で、理解に時間がかかる。同期した京介なら選べても、審判本人はあなたを選ぶかもしれない」
言葉は攻撃であると同時に、黒猫自身の恐怖だった。
屈服判定が集まる。
結衣は糸を自分の椅子へ結ぶ。
「それ、あたしが話しやすいから価値が軽いってこと?」
「軽いとは言っていない。広く好かれる者は、特定の理解を要求しない」
「要求するよ」
結衣の不都合着席が礼拝堂へ食い込む。
「あたしは、明るいだけじゃない。優しいだけでもない。黒猫ちゃんが審判さんに深く理解されたいのと同じように、自分勝手なあたしまで見てほしい」
屈服判定が揺れる。
「黒猫ちゃんこそ、理解に時間がかかることを特別さにしてない?」
黒頁が止まる。
「簡単に分かる子より、難しい私を分かった人の愛は深い。そう思ってるんじゃない?」
礼拝堂の壁に亀裂が入る。
俺は2人の対立を見る。
「黒猫は個別理解の深さを、結衣は関係へ入る広さを持つ。だが深さは優越へ、広さは自己希薄化へ変わり得る。どちらが選ばれる価値を高く持つかではなく、その価値尺度を手放せるかが争点だ」
黒猫は頁を破る。
「思っていたわ。私の難解さを越えた者だけが、私を愛せると」
屈服判定が強まる。
「でも、理解できないまま扉の前にいる者を追い返さないと決めた」
『解釈不問入場』。
礼拝堂の扉に説明書がなくなる。理解の試験を課さず、入る意志だけを相手へ問う。
「審判が私を完全に理解することも、本当は怖い。分からない部分を残したまま、それでも選ぶ意志を見たい」
屈服判定が砕ける。
今度は黒猫が問う。
「あなたは、誰とでも結べる糸を切れる?」
結衣の糸が揺れる。
「審判自身に選ばれたいなら、同期した八幡と審判の双方へ同じ顔を向けることになる。2人の期待が違ったら、また間を結ぶの?」
結衣の椅子が2つの影の間に現れる。
一方は八幡らしい皮肉と不器用な優しさ。もう一方は試合を見続けた俺。2人の意志が一致しなければ救済されない。
「両方に好かれる私を作るんじゃない?」
屈服判定が結衣へ集まる。
結衣は糸を2つの影へ伸ばしかけ、止めた。
「作らない」
「なら、どちらかに嫌われるかもしれない」
「うん」
結衣は糸を自分の椅子へだけ結ぶ。
『単独提示』。
期待へ合わせず、自分1人を2つの意志へ同時に差し出す。どちらがどう受け取るかを調停しない。
「同じあたしを見て、2人とも選んでほしい。選ばれなかったら、悲しむ」
屈服判定が消える。
黒猫が笑う。
「随分欲張りになったわね」
「黒猫ちゃんに言われたくない」
2人の武装が激突する。
黒猫の頁は結衣の言葉へ難解な意味を足し、群青の糸は頁同士を関係で結んで読みやすくする。互いの強みが相手の表現を変えてしまう。
黒猫は扉を閉じず、結衣を礼拝堂へ招く。結衣は糸で内部を勝手に整理せず、そのまま進む。
「分からない」
結衣は壁の黒い文章を見て言う。
黒猫の動きが一瞬止まる。
「でも、分からないまま戦う」
その受容で、解釈不問入場は力を失わず、逆に黒猫自身の退路を消した。理解されないことを盾にできない。
結衣は『自己要望先取』で突進する。黒猫は『黒歴史巡礼』の足跡を踏み、正面から迎える。
肩と肩がぶつかる。黒頁が糸を切り、糸が翼を縛る。
黒猫は結衣の椅子を頁で覆い、教室から切り離そうとする。結衣は糸を誰にもつながず、自分の身体へ巻いて耐えた。
「1人でも座る!」
「なら、その席ごと奪う!」
黒猫が翼を広げ、椅子と結衣を礼拝堂の奥へ引き込む。暗闇の中で、結衣は黒猫の腕を取った。
「黒猫ちゃんも一緒に来て」
「また結ぶつもり?」
「違う。戦う相手として必要」
群青の糸は友情ではなく、対戦関係だけを結ぶ。黒猫は拒む理由を失い、2人は暗闇で組み合った。
結衣が足を払う。黒猫は翼で反転する。床へ落ちる直前、結衣は椅子を足場にして体勢を入れ替えた。
黒猫の背が石床へ着く。
群青の糸が腕と翼を縛る。黒猫は頁を呼ぶが、結衣は理解しないまま頁ごと押さえた。
10秒。
鐘が鳴る。
「勝者、五更瑠璃」
誰も動かなかった。
最後の瞬間、石床へ着いていたのは黒猫の背だった。だが大結界は別の判定を示す。
『精神的屈服、由比ヶ浜結衣』
結衣の表情が凍る。
暗闇で相手を必要と告げた瞬間、彼女は自分1人の席を守りながらも、なお関係なしでは戦えないと認めた。黒猫は理解されなくても自分の世界を維持し、結衣の糸を必要条件にはしなかった。
「肉体打倒より先に、屈服判定が成立していた」
俺は宣言を補足する。
順位が刻まれる。
7位、五更瑠璃。
8位、由比ヶ浜結衣。
結衣は悔しさに目を潤ませる。
「勝ったと思った」
「私も倒されたわ」
黒猫は石床から起き上がる。
「でも、あなたは関係を求める自分を認めた。それは敗北でも、後退でもない」
「勝者に言われると難しい」
「なら次は勝ちなさい」
2人は手を取らず、並んで退場した。結衣が関係を求めること自体を否定しないために。
順位表示の下で、結衣は自分の椅子へ座った。今度は誰とも結ばれていない。黒猫は礼拝堂の扉を1つ開けたまま、その向かいへ立つ。
『関係を必要としたから負けたんだよね』
結衣の声に、黒猫は首を振る。『必要とすること自体が敗北ではないわ。必要としない私より先に、必要とした事実へ屈したから判定された』
『難しい』
『私にも完全には分からない』
黒猫がそう認めたことで、結衣は少し笑った。理解試験を課していた彼女が、分からなさを共有している。
『じゃあ今、友達になれそう?』
『その安易な分類は断るわ』
『そっか』
『ただし、次に私の原稿を読む権利は与える』
結衣の笑みが明るくなる。だが、すぐに聞いた。『読んでほしいってこと?』
黒猫は目を逸らす。『権利を与えると言ったのよ』
『読みたい。だから読むね』
2人は最後まで同じ言葉を使わなかった。それでも、扉と椅子の間へ細い関係が生まれた。結衣は結ばず、黒猫は試さず、互いが自分の意志で一歩を出した結果だった。
俺はその姿を見て、二重意志の一致を単なる内部判定として考えていた自分に気づく。俺と同期人格が同じ選択をしても、ヒロインがその選択を自分の意志で受け取らなければ、関係は成立しない。大結界の次の開示を待たずとも、彼女たちは試合によって条件を見つけ始めている。
次はランカ・リー対谷川柑菜。
5位と6位。歌と告白、届いた言葉と届かなかった言葉が、2つの意志の前で競う。