スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「あなたの愛は、読まれることを待つ原稿。私の愛は、返事を奪いに行く宣戦布告よ」
二乃の赤い手綱が、詩羽の万年筆を開始前に弾いた。
鐘が鳴る。3位、4位決定戦。赤い1本道と第2稿の書斎が重なり、書かれた文章の上を炎が走る。
詩羽は落ちた万年筆を蹴り上げ、空中で掴む。
「奪った返事に真正性はあるのかしら。大結界は期待どおりの台詞を認証しない。あなたの強引さは、救済方式と最も相性が悪いわ」
『第2稿・宛先複数』。
原稿が二乃を囲み、風太郎が選び得る反応を複数の結末として示す。拒絶、戸惑い、姉妹への配慮。どの頁にも、二乃だけを選ぶ保証はない。
「全部読んだうえで来なさい。あなたは、自分の望む一頁以外を燃やすでしょうけど」
屈服判定が二乃へ集まる。
二乃は頁を燃やさない。1枚ずつ拾い、目を通す。
「拒絶された。選ばれなかった。姉妹の誰かが選ばれた。全部もう知ってる」
赤い受領印を頁へ押す。
『全結末受領』。
望まない答えも破棄せず、自分の履歴へ入れる武装。判定光が砕ける。
「それでも、私は私を選ぶ結末を要求する。強制じゃない。あいつが自分でそこへ来るまで、私の気持ちを引っ込めないだけ」
俺は2人の争点を追う。
「詩羽は相手の自由を空白として残す。二乃は自分の要求を撤回せず、拒絶も含めて受ける。選択を待つ者と、選択から逃がさない者の戦いだ」
二乃が赤い1本道を走る。詩羽は文章で曲がり角を作り、突進の先を空白へ変える。
「あなたは、相手が選ぶまで迫り続ける。それは拒絶を受けたことにならない」
「1度の拒絶で気持ちまで消せってほうが支配よ!」
手綱が原稿を裂く。
「断る自由があるなら、私は好きでいる自由を使う。迷惑なら距離を取る。でも、心の中まで命令させない!」
『拒絶後続行』。
赤い線が、閉じられた結末の先へ新しい道を描く。
今度は二乃が問う。
「詩羽は返事を空白にした。格好いいわね。でも、本当にどんな答えでも受ける気だった?」
詩羽の万年筆が止まる。
「倫也が作品だけ選び、あんたを選ばない。あんた以外を主人公にする。それでも空白でいられる?」
書斎の頁が乱れる。
詩羽は作品と恋を分けた。それでも、最初の読者へ自分も選んでほしい願いは消えていない。
「いられないわ」
屈服判定が集まる。
「空白を残したのは、何でも受け入れるためではない。彼自身の筆跡で、私を選ぶと書かせるためよ」
万年筆から赤黒いインクが溢れる。
『返答誘導校正』。
空白は自由に見えて、周囲の文章が望む答えへ導く。詩羽は自分の操作欲を隠さず武装にした。
「恋に完全な白紙なんてない。私の言葉を読めば、影響される。なら最も深く影響させるだけ」
原稿が二乃の道を包み、風太郎が二乃を選ぶ結末へ導く。望んだ頁なのに、二乃の足が止まった。
「要らない」
「欲しかった結末でしょう?」
「私の言葉に負けて選ぶんじゃなくて、私を見て選ばせる」
二乃は頁を引き裂いた。
「物語が私を勝たせるなら、そんな勝利はあんたにやる!」
『脚本外告白』。
赤い手綱が書斎の外へ飛び、詩羽本人の腰へ巻き付く。作品を介さず、作者を戦場へ引きずり出す。
2人は石床へ転がる。詩羽はペンで手綱を切り、二乃は拳で原稿を弾く。一歩も譲らない肉体戦へ変わった。
詩羽が二乃の耳元で囁く。
「あなたは、審判自身にも選ばれたい?」
二乃の拳が止まる。
同期した風太郎と俺自身、2つの意志。彼女は俺を何度も審判として睨み、試した。だが、選ばれたい相手として意識することは避けていた。
「当然よ」
二乃は俺へ一瞬だけ視線を向ける。
「風太郎として私を選ぶあんたも、全部見たあんた自身も、私を選びなさい」
言い切った瞬間、赤い手綱が俺の影へ届きかける。結界が止める。
詩羽は笑う。
「本当に欲張り」
「詩羽は違うの?」
問い返され、詩羽の表情が固まる。
「倫也として理解されたいだけ? 試合を見て、原稿の外のあんたを知った審判には選ばれなくていい?」
万年筆が震えた。
屈服判定が詩羽へ集まる。
「選ばれたいわ」
詩羽は認める。
「でも、2つの意志を同じ結末へ誘導したくなる。私が欲しい答えへ」
「だからあんたは、認証の瞬間まで作者でいようとする」
二乃は手綱を引く。
「選ばれる側に立つのが怖いのよ。返答を書けない場所で待つのが!」
詩羽の原稿が白紙になる。
精神的屈服の光が強まる。
詩羽はペンを握り直す。だが何も書かない。
「そうね。怖いわ」
白紙を二乃へ差し出す。
「だから、今は書かない。あなたが私より先に、返答の前へ立ちなさい」
詩羽が自ら武装を解除した。
二乃は一瞬ためらい、それでも手綱を詩羽の腕へ巻き、石床へ押さえる。
10秒。
鐘が鳴る。
「勝者、中野二乃」
順位が刻まれる。
3位、中野二乃。
4位、霞ヶ丘詩羽。
詩羽は起き上がり、二乃へ白紙を渡した。
「決勝を見て、あなたがどんな返答を受けるか書くわ」
「勝手に結末を決めたら破るから」
2人は笑わないまま、互いの手を取った。
詩羽は順位表示を見上げたあと、白紙の中央へ1行だけ書いた。
「私は、返答を書かずに待った。」
二乃が覗き込み、鼻を鳴らす。『それ、待った自分を格好よく書いてるだけじゃない?』
『作家に自己演出を禁じるのは酷よ』
『だったら私が脇に書く。怖くて書けなかった、って』
二乃は万年筆を奪い、本当に追記した。詩羽は消さない。2人の筆跡が同じ頁へ残る。勝者の解釈だけでも、敗者の物語だけでもない記録だった。
俺はその頁を見て、選択の真正性も1人の解釈で完結させてはならないと悟る。同期人格、俺自身、受け取るヒロイン。三者が同じ言葉を別の意味で受け止め、それでも選択として一致する必要がある。似た台詞を使えても、意味を流用できない。
二乃は俺へ万年筆を向けた。『3位だからって、3番目に適当な選び方をしたら許さない』
『しない』
『三玖の風太郎とも違う?』
『違う』
『即答が腹立つ。でも覚えてなさい』
詩羽も続ける。『私の番では、倫也の読解力を理想化しすぎないことね。彼は私の文章をすべて理解する完璧な読者ではない』
『分かってる』
『その返事も、作者としては信用しないわ』
2人は順位で上下に分かれても、俺を試す側として並んでいた。救済は勝者へ与える褒賞ではない。敗北まで見た彼女たちが、理解の精度を審査する最後の対話になる。
大結界の空白の履歴線が2本、3位と4位の位置へ移動した。まだ何も書かれていない。その空白は、詩羽の原稿より重く見えた。
詩羽は4位の位置へ立ち、二乃は3位から振り返る。
「1日だけ先ね」
「その1日が欲しくて戦ったのよ」
「ええ。だから譲ったとは言わないわ。あなたが奪った」
二乃は満足そうに顎を上げた。勝敗を慰めへ変えず、詩羽も敗北を物語的な美しさへ逃がさない。順位という具体性が、2人の執着を最後まで現実へつなぎ止めていた。
残るは決勝。レム対中野三玖。
そして、大結界の最後の開示が始まる。
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