スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
同期は、変身より先に拒絶から始まった。
レムの手には、幻視のようにモーニングスターが浮かんでは消える。ロズワール邸で幾度となく握った得物の重さを、俺はスバルとして思い出す。
翌朝、大結界の選択室で俺がスバルの声を出した瞬間、レムは首を振った。
「違います」
外見、声、匂い、歩幅。鏡に映る俺は、俺の知る限りナツキ・スバルそのものだった。それでも認証輪は赤い。
「何が違う」
声まで本人に近い。その事実が自分で恐ろしい。
「スバルくんなら、そんなに慎重にレムを見ません」
レムは静かに言う。
「失敗しない答えを探している目をしません。もっと不器用に、先に言葉を投げてから後悔します」
俺の同期が揺れる。
正確さを求めるほど、観察者としての俺が前へ出ていた。スバルの思考傾向へ合わせながら、誤りを恐れる俺が制動をかける。2つの意志は一致していない。
「もう1度お願いします」
レムは逃げない。
俺は目を閉じる。
彼女の試合を思い返す。報われたい醜さ。必要とされなくても愛す意志。スバルがいなくても残る自分。選び直して同じ朝へ進む自由。結果にならない日常。そして、献身を契約にしない休息。
美しいレムだけを選べば失敗する。
俺は同期を深める。
身体の重心が変わる。呼吸が軽くなり、言葉が思考より先へ出ようとする。魂の波形が大結界へ触れ、内側にスバルらしい衝動が立ち上がった。
「レム」
彼女の肩が揺れる。
「お前、俺に選ばれたら、また全部俺のために使うつもりだろ」
予定していた告白ではない。
レムの瞳が見開かれる。
「そんなの駄目だ」
認証輪はまだ赤い。
「俺は、お前が俺を立たせたから選ぶんじゃない。俺の役に立つからでもない。お前が勝手に俺を愛して、勝手に自分を削って、勝手に笑ってるところは、正直むかつく」
レムの目に涙が浮かぶ。
「スバルくんは、レムにそんなことを」
「言う。少なくとも、君が理解したスバルなら言う」
俺自身の声が一瞬混ざる。
同期が崩れかけた。
レムは厳しく見つめる。
「いま、誰が話しましたか」
「俺だ」
どちらの俺か。
答えを濁せば認証されない。
「スバルとしての俺も、審判としての俺も、同じことを思っている。君の献身を美談だけにして選びたくない」
認証輪が橙へ変わる。
レムは一歩近づく。
「では、レムが報われたいと思ったことは?」
「分かってる。あれだけしたんだから選んでほしいって思った。選ばれない俺を支える自分こそ必要だって、しがみついた部分もある」
「醜いでしょう」
「醜い」
俺は否定しない。
「でも、その醜さがあっても、選ばれなかったあとに俺の幸福を願った。それを綺麗だからじゃなく、君が選んだこととして尊敬する」
認証輪が黄へ変わる。
まだ足りない。
レムは手を胸へ置く。
「スバルくんが、レムを必要としなくなったら?」
「必要じゃなくても、そばにいてほしい日がある」
「それは必要です」
「じゃあ、離れてても生きててほしい」
言葉が出た瞬間、スバルの波形と俺自身の意志が重なった。
「俺を助けなくていい。俺の物語に出てこない日があっていい。別の場所で笑って、俺が知らないことで怒って、それでも戻りたくなったら戻ってこい」
レムの涙が頬を伝う。
「それでは、レムは何者ですか」
「レムだ」
「スバルくんの」
「違う。まずレムだ。そのレムを、俺が選びたい」
認証輪が緑へ近づく。
大結界の声が響く。
同期人格選択、成立。
最高審判本人選択、確認中。
最後の条件が俺へ向く。
スバルなら選ぶ。それだけでは足りない。俺自身はレムを選ぶのか。
俺は彼女を作品として知っていた。試合で現実の彼女を見た。だが、その理解が恋愛感情と同じかは分からない。全員を救う義務に従えば、定型句になる。
「怖い」
俺自身の声で言う。
レムが驚く。
「君を選ぶと言えば、スバルの代用品として成功したことになる。でも、そのあと君が俺を見るたび、誰を見ているのか分からなくなる」
同期した顔が揺れる。
「それでも、君を選びたい。君が俺をスバルとしてしか見られない可能性も含めて、明日も話したい」
俺の意志が確定する。
認証輪が緑になる。
残るのはレムの受容。
彼女は目の前の俺を見上げる。外見も声も魂の波形もスバル。それでも内側には俺がいる。
「レムは、スバルくんから選ばれたいです」
輪が揺れる。
「ですが、あなたの恐怖を消して受け入れることはできません」
彼女は俺の手を取る。
「スバルくんとしてレムを選んだあなたと、レムを見続けたいと願ったあなた。その両方の選択を受け入れます」
3つの輪が重なった。
大結界認証。
履歴追記開始。
青い光がレムの背後へ走る。過去の線は消えない。選ばれなかった記憶も、痛みも、そのまま輝いている。その先へ新しい一文が刻まれた。
かつて選ばれなかった。
その後、彼女のすべてを理解したナツキ・スバルと一致する存在から、真正に選ばれた。
レムの膝が崩れる。俺は抱き止めた。
抱擁は認証条件ではない。ただ、支えたかった。
「選ばれた」
レムが呟く。
「はい」
俺の声は、少しずつ自分へ戻る。
外見が戻り、魂の波形がほどける。腕の中のレムは離れなかった。
「もうスバルくんではありません」
「そうだ」
「それでも、もう少しこのままで」
俺は頷く。
選択室の外では、15人が待っている。
認証後も、選択室の壁には1つの警告が残った。
追記は完了した。だが、同期後の感情は大結界の管理外である。
レムはその文を読む。『つまり、今後どのように思うかは保証されないのですね』
『そうらしい』
『スバルくんから選ばれた結果が加わっても、あなたへの気持ちが自動的に生まれるわけではない』
『逆もそうだ。俺への感情が残る保証もない』
レムは腕の中から少し離れ、俺自身の顔を見る。
『安心しました』
意外な答えだった。
『保証されていたら、それはレムの選択ではありません。これからあなたをどう思うかは、レムが決めます』
『俺も?』
『はい。救済した責任だけで、レムを好きでい続けないでください』
胸へ刺さる。全員を選ぶ義務が、選択後の感情まで固定するなら、俺も別の檻へ入る。大結界は結果を追記しても、未来の関係は書かない。
選択室の記録板へ、同期率と真正性の判定が残る。完全同期、成立。二重意志一致、成立。自発受容、成立。どれも数値ではなく、成立か不成立かだけだった。理解を点数へ変えれば、また相手を攻略対象にしてしまうからだろう。
俺はその簡素さに救われ、同時に恐ろしくなる。成立したから正しいのではない。大結界が認証できた最低条件を越えただけで、その後の関係まで保証しない。
レムは手を差し出した。『最初から、知り直しましょう』
『試合で十分知ったと思ってた』
『考察したレムと、日常を過ごすレムは違うかもしれません』
俺はその手を取る。スバルの記憶ではなく、俺自身の新しい関係として。
扉が開くと、全員の視線がレムと俺へ注がれた。
三玖が最初に問う。
「本当に、追記された?」
レムは涙の跡を残したまま微笑む。
「はい。過去も残っています。ですが、その先があります」
三玖は俺を見る。
次は彼女の番だ。
「風太郎になって」
短い要求のあと、さらに続ける。
「でも、レムのスバルと同じ選び方はしないで」
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