​スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 ​   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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言えなかった私の返事【選択実行2位:五等分/中野三玖】

「料理を褒めるのは、違う」

 

文庫本を胸に抱えたまま、三玖はヘッドホンの片方だけを外した。

 

風太郎へ同期した俺が最初に口にした言葉を、三玖は即座に切った。

 

選択室には静かな教室と1本の細道が現れている。俺の外見、声、姿勢は風太郎へ一致しているはずだった。

 

「三玖が変わった証拠として、料理を使わないで」

 

彼女はヘッドホンへ触れる。

 

「上手になったから選ぶなら、昔の私は選ばれない」

 

認証輪は赤い。

 

俺は言葉を止めた。

 

レムの救済で得た型を流用しかけていた。欠点を理解し、成長を褒め、それでも選ぶ。三玖が拒んだのは、成長後の価値を選択理由にすることだ。

 

「何を求めてる」

 

風太郎の声で尋ねる。

 

「分からないなら、同期が足りない」

 

厳しい返答。

 

俺は試合を思い返す。待っていた自分。特別でない場所から進んだ一歩。嫌いだった過去を継いだこと。休符からでも戦ったこと。二乃を追い越した姉妹追走。そして、レムとの決勝で単独の一歩を選んだこと。

 

理解すべきは「変わった三玖」だけではない。

 

俺は同期を深める。

 

風太郎の思考が立ち上がる。結果を評価する癖。努力を見逃さない視線。曖昧な言葉を嫌い、自分で答えを出させようとする厳しさ。

 

「三玖」

 

「うん」

 

「お前は、俺に見つけてほしかった」

 

認証輪が橙へ変わる。

 

「言えない自分を察して、努力を見つけて、ほかの姉妹より先に特別だと気づいてほしかった」

 

三玖は目を逸らさない。

 

「そう」

 

「それは不公平だ。言わない答えを俺に当てさせようとした」

 

「分かってる」

 

「でも、言えなかったお前が何もしてなかったとは思わない」

 

輪が黄へ変わる。

 

「見ていた。知ろうとした。自分を嫌いながら、変わろうとした。言葉になる前の時間も、お前の恋だった」

 

三玖の指が震える。

 

「風太郎なら、そんなに優しく言わない」

 

同期が揺れた。

 

彼女の指摘は正しい。俺自身の受容が先に出て、風太郎の不器用さを丸めている。

 

「面倒だな」

 

思考より先に言葉が出る。

 

三玖の目が少しだけ大きくなる。

 

「言わなきゃ分からない。俺は察しのいい人間じゃない。これからも全部は気づけない」

 

認証輪が緑へ近づく。

 

「だから、言え」

 

「何を?」

 

「今、何をしてほしい」

 

三玖は沈黙する。

 

それこそ、彼女が何度も越えてきた壁だった。欲しい答えを俺に当てさせず、自分の言葉で要求する。

 

「私を選んで」

 

輪が明るくなる。

 

「変わったからじゃなくて、料理ができるからでも、二乃に勝ったからでもない。言えなかった私、姉妹を妬んだ私、自分を嫌った私も含めて」

 

風太郎の人格構造が答えを作る。

 

同時に、俺自身の意志がその言葉を吟味する。

 

「選ぶ」

 

輪が揺れた。

 

定型句に近すぎる。

 

三玖も顔を曇らせる。

 

俺は続ける。

 

「ただし、言えなかったお前を美化しない。俺に気づかせようとして黙ったことも、姉妹と比べて自分を測ったことも、面倒だと思う」

 

「うん」

 

「それでも、黙ったまま終わらず、俺へ言ったお前を選ぶ」

 

「今の私だけ?」

 

「違う」

 

俺は細道を見る。過去の三玖が、一歩ずつ現在へ続いている。

 

「言えなかったお前がいたから、今言えた。嫌いだった自分を置いてこなかったお前を、最初から最後まで1人として選ぶ」

 

同期人格選択、成立。

 

最高審判本人選択、確認中。

 

また俺自身へ問いが来る。

 

三玖は静かだ。レムのように俺の恐怖を先に受け止めない。答えを待っている。その待ち方は、以前の待機ではない。自分の要求を告げたあと、俺の自由を残す沈黙だ。

 

「俺は、君の静かさを理解できた気になりやすい」

 

自分の声が混ざる。

 

「言葉が少ない分、考察で埋めてしまう。君が本当には考えていないことまで、深い意味にしてしまうかもしれない」

 

三玖は頷く。

 

「間違えたら、違うって言う」

 

「そのたびに直す。君を完成した解釈へ閉じ込めず、これからも知りたい。だから、俺自身も君を選ぶ」

 

2つの意志が一致する。

 

残るのは三玖の受容。

 

彼女は風太郎の顔をした俺へ近づく。視線が外見を確かめ、声を思い出し、最後に俺の目へ止まる。

 

「風太郎」

 

呼ばれた魂の波形が反応する。

 

「私を選んでくれて、ありがとう」

 

輪はまだ重ならない。

 

三玖は言い直す。

 

「審判も、私を選んでくれて、ありがとう」

 

2つを別々に呼び、両方を受け取る。

 

「受け入れる」

 

3輪が重なった。

 

大結界認証。

 

履歴追記開始。

 

履歴線の過去は変わらない。言えなかった日も、選ばれなかった結果も残る。その先へ青い一文が加わった。

 

かつて選ばれなかった。

 

その後、彼女のすべてを理解した上杉風太郎と一致する存在から、真正に選ばれた。

 

三玖は泣かなかった。

 

代わりに、俺の袖を強く掴む。

 

「戻って」

 

俺は同期を解く。風太郎の顔が消え、自分の声へ戻る。

 

三玖は袖を離さない。

 

「風太郎じゃなくなった」

 

「うん」

 

「でも、さっき私を選んだ気持ちは残ってる?」

 

「残ってる」

 

「なら、少しだけこのまま」

 

レムと同じ言葉だった。だが意味は違う。三玖は想い人の残響を求めるのではなく、選んだ俺自身の意志が戻ったあとも消えないかを確かめている。

 

扉の外で二乃が待っていた。

 

三玖を見ると、真っ先に訊く。

 

「どうだった?」

 

「風太郎だった。審判でもあった」

 

「ずるい答え」

 

「二乃も明日、確かめればいい」

 

二乃は俺へ視線を向ける。

 

「三玖と同じ風太郎で来たら、開始1秒で拒否するから」

 

「分かってる」

 

「分かってる顔も腹立つ」

 

三玖が小さく笑った。

 

選択室の空白に、三玖は自分の履歴線を何度も見返した。

 

『選ばれなかった、が残ってる』

 

『消えない』

 

『でも、前より痛くない』

 

彼女は不思議そうに言った。過去の痛みは記憶として同じはずだ。違うのは、その先が空白ではなくなったこと。終点だと思っていた出来事が、途中の1行へ変わった。

 

『風太郎を許したってこと?』俺は訊く。

 

三玖は首を傾げる。『責めてた部分はある。でも、許したから選択を受け取ったんじゃない。風太郎が違う人を選んだことと、今の選択は別』

 

履歴追記の本質を、彼女は言葉にしていた。以前の選択を上書きせず、新しい選択を並べる。矛盾した2つの結果が、同じ人生に共存する。

 

『審判は、私を選んだことを後悔する?』

 

『分からない』

 

三玖の眉が少し下がる。

 

『今は後悔してない。将来の感情を保証して、選択を綺麗な話にしたくない』

 

彼女はしばらく考え、袖を掴む力を緩めた。『それでいい。変わったら言って』

 

『君も』

 

『うん。審判を好きにならないかもしれない』

 

率直な言葉に、胸が少し痛む。三玖はそれを見逃さない。

 

『傷ついた?』

 

『少し』

 

『私も、審判が後悔するかもって聞いて傷ついた。おあいこ』

 

彼女は小さく笑った。想い人としての選択は確定した。それでも俺たち自身の関係は、保証のない会話から始まる。

 

扉の外へ出る前、三玖は1度だけ振り返った。『ありがとう、風太郎』。それから俺を見て、『また明日、審判』と言う。2つの呼び名を混ぜなかった。

 

救済は2人終わった。

 

だが、俺の中にはスバルと風太郎の残響が残っている。同期を解いたはずなのに、思考の端で別々の反応が浮かぶ。

 

次は中野二乃。

 

同じ人物へ、別の完全同期を成立させなければならない。




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