スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「その顔で、三玖に言った言葉を1つでも使ったら帰るから」
苛立ちを隠すように、二乃はエプロンの紐を強く結び直した。かつて誰よりも風太郎を拒んでいた指が、今は迷いなく包丁を握っている。
選択室へ入った二乃は、風太郎へ同期した俺を見て最初にそう告げた。
声も外見も、昨日の三玖のときと同じ基礎人物だ。だが立ち方が違う。三玖へ向けた風太郎は、静かな変化を見落とさないため視線を長く留めた。二乃の前で同じことをすれば、観察してから正解を出す臆病さになる。
「帰るなら勝手にしろ」
口から出た言葉に、二乃の眉が跳ねる。
「止めないの?」
「止めてほしい顔で脅すな。話したいなら残れ」
認証輪は橙へ変わった。
二乃は腕を組む。
「少しは風太郎ね。でも、私が欲しいのは喧嘩相手じゃない」
俺は同期を深める。二乃が求めたのは、強引さへ正面から抗い、拒絶も怒りも受け、それでも逃げない風太郎だ。三玖へ向けた「言え」は使えない。二乃はもう言いすぎるほど言った。
「お前は、俺が困るくらい好きだと言った」
「事実よ」
「俺の時間も、答えも、自分の勢いで動かそうとした」
「それも認める」
「認めたから許されると思うな」
認証輪が黄へ近づく。
二乃の目に怒りが灯る。求めていた厳しさなのに、実際に向けられれば痛い。
「じゃあ、何をすればよかったのよ。黙って姉妹に譲れば満足だった?」
「違う。言ってよかった。だが、言った勇気を相手が応える義務に変えるな」
「変えてない!」
「変えかけた」
俺自身の観察と、風太郎の率直さが重なる。
「何度迫っても、最後には俺の答えを受け取った。悔しがって、姉妹を妬んで、それでも選択そのものは奪わなかった。だから今のお前を見ている」
輪が緑へ近づく。
二乃は唇を噛む。
「今の私だけ?」
「薬を盛ってでも遠ざけようとしたお前も、嫌いだった相手へ一気に惚れたお前も、姉妹に勝つため気持ちを燃やしたお前もだ」
「最低な並べ方」
「きれいに並べたらお前じゃない」
二乃の目から、わずかに警戒が薄れる。
「それで、そんな私をどうするの」
「選ぶ」
輪は緑にならない。
二乃が鼻で笑う。
「安い。三玖にも似たこと言ったでしょ」
正しい。結果だけを言えば同じになる。
俺は風太郎として彼女を見る。強すぎる言葉の裏にあるのは、拒絶されても存在を消されたくない恐怖だ。穏やかに受容すれば、彼女の強さへ迎合する。厳しく拒み続ければ、過去の再演になる。
「お前を選ぶ。だが、お前の言うとおりにはしない」
二乃が目を見開く。
「お前が俺を好きでも、俺は嫌なことは嫌だと言う。お前が正しくても反対する。重いと思ったら重いと言う」
認証輪が光る。
「それでも、離れろと言われるまでは逃げない。お前の勢いに負けて選ぶんじゃない。勢いを受けても、自分でお前を選ぶ」
同期人格選択、成立。
最高審判本人選択、確認中。
二乃はすぐ俺自身へ刃を向ける。
「審判は? 風太郎の判断を借りないあんたは、私をどう思ってるの」
「怖い」
即答した。
「は?」
「見透かしたつもりになれば怒る。距離を取れば逃げたと言う。救済後も俺へ遠慮しないだろう。正直、相手をするのは疲れる」
二乃の顔が引きつる。
「選択の日に言うこと、それ?」
「でも、君が感情を濁さず俺へぶつけるから、俺も模範解答へ逃げられない。君の前では、俺自身で答えざるを得ない」
俺の声へ戻りかけながら続ける。
「疲れる未来も含めて、君と話し続けたい。俺自身も君を選ぶ」
2つの意志が一致した。
残るのは二乃の受容。
彼女は風太郎の顔をした俺へ一歩近づく。
「確認する。私を選んでも、言うことは聞かない?」
「聞いて、決める」
「私が怒っても?」
「怒らせた理由は考える。だからといって全部折れない」
「私より姉妹を優先する日もある?」
「ある」
二乃は悔しそうに笑う。
「やっと、それらしい」
彼女は俺の胸元を掴んだ。
「風太郎の選択と、あんたの選択。両方受け取る。私が欲しかったのは、私に負けて言う『好き』じゃない。最後まで自分で立った相手の答えよ」
3輪が重なる。
大結界認証。
履歴追記開始。
過去の拒絶も、姉妹への嫉妬も残ったまま、その先へ新しい一文が刻まれる。
かつて選ばれなかった。
その後、彼女のすべてを理解した上杉風太郎と一致する存在から、真正に選ばれた。
同期を解くと、二乃は胸元から手を離した。
「今のあんたは風太郎じゃない」
「そうだ」
「でも、疲れるって言ったのはあんたよね」
「取り消さない」
「なら、覚悟して」
二乃は俺の襟を直す。
「私は救済されたから静かになる女じゃない。あんた自身が選んだこと、何度でも思い知らせるから」
扉の外で三玖が待っていた。
二乃は妹へ勝ち誇るでもなく、ただ言う。
「同じ風太郎じゃなかった」
三玖は頷く。
2人の履歴には同じ人物名が刻まれた。それでも、選択へ至った風太郎像は違う。
選択室の記録板には、三玖の時とは異なる同期波形が並んでいた。基礎人物名は同じ。それでも反応速度、声の圧、選択理由の配列が違う。大結界は双方を完全同期として認めている。
二乃は記録を見て、少しだけ黙った。
「同じ人なのに、違っていいのね」
「君たちが知った関係が違うから」
「都合よく私たち向けに変えてるんじゃない?」
「その危険はある。本人像から外れたら認証されない」
「認証されたから正しい、で終わる気?」
また核心を突かれる。大結界が保証するのは存在情報との整合と選択の真正性だけだ。元の本人が現実に同じ選択をしたという証明ではない。
「終わらない。君が違和感を持ったら、認証後でも聞く」
二乃は俺の目を見た。
「今は違和感ない。だから余計に腹立つ。風太郎から欲しかった答えを、あんたが成立させた」
「後悔した?」
「するわけない。でも、簡単にあんたへ感謝したら、風太郎への気持ちまで移ったみたいで嫌」
彼女は胸元へ手を置く。概念履歴では選択が確定した。だが感情の向き先は整理されない。
「風太郎を好きな私と、あんたに選ばれた私。その2つを勝手に1つにしないで」
「分かった」
「本当に?」
「分かったと言い切るのも危ないな。区別し続ける」
「それでいい」
二乃は扉へ向かい、振り返る。
「あと、疲れるって言ったこと。私、忘れないから」
「忘れてほしかった」
「嫌よ。選ばれた証拠の中で、いちばんあんた自身の言葉だったもの」
優しい告白より、俺の不満を彼女は選択の証拠にした。その受け取り方まで、三玖とは違っていた。
次は霞ヶ丘詩羽。
彼女は選択室へ入る前、白紙の原稿を俺へ渡した。
「ここへ私の望む台詞を書いたら、その時点で失格よ」
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