スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
一花は笑っていた。
その笑みは、舞台の上で鍛えた完璧な笑顔だった。演技だと分かっていて、俺はあえて拍手をしなかった。
「その笑顔も役か?」
風太郎へ同期した俺が問うと、彼女の表情が固まった。
「分からない」
「なら、無理に外すな」
認証輪は赤いまま。一花は無地の衣装を着ている。姉でも、女優でも、悪役でも、勝者でもない。だが「役を演じない私」という新しい役になる危険がある。
「風太郎くんなら、もっと疑うよ」
「疑ってる。今の『分からない』さえ、俺が喜ぶ答えとして選んだ可能性がある」
一花が苦笑する。
「嫌な再現度」
俺は同期を深める。姉妹の嘘を見抜こうとした視線。努力を結果で評価する厳しさ。欺かれた怒りと、それでも一花を1人の姉妹として見捨てなかった記憶。
「お前は、相手が欲しい自分を作れる」
「うん」
「俺を選ばせる自分も作れる」
「できると思う」
認証輪が橙へ変わる。
「なら、作るなとは言わない」
一花の目が見開く。
「演じることもお前の能力だ。女優をやめたお前だけが本物じゃない」
「じゃあ、どの私を選ぶの」
「今、選択されるために1番有効な役を選べ」
「試してる?」
「そうだ」
一花は考え、姉の柔らかな笑みを作る。すぐに悪役の鋭い目へ変える。最後に、疲れた女優の顔を見せた。
どれも本物で、どれも構成されている。
「決められない」
「それが今の答えか」
「たぶん」
輪が黄へ変わる。
「決められないお前を選ぶ。ただし、逃げ道として役を増やすなら止める」
「風太郎くんは、私の素顔を見つけてくれないの?」
「見つけるものが1つあると思ってない」
一花の呼吸が止まる。
「姉を演じたお前も、妹の姿を使ったお前も、即興で勝ちに行ったお前も、その行動を選んだ1人だ。どれかを偽物にして、楽になろうとするな」
認証輪が緑へ近づく。
「厳しいね」
「お前が1番知ってるだろ。演技は、責任を消さない」
一花は無地の衣装の胸へ、自分で小さく「私」と書く。
「この文字も役名かもしれない」
「それでも、お前が書いた」
「明日消すかも」
「消したお前も、今日書いたことから逃げられない」
風太郎の人格構造が選択へ至る。
「俺は、正解の一花を見つけたから選ぶんじゃない。役を選び、その結果を引き受けようとするお前を選ぶ」
同期人格選択、成立。
最高審判本人選択、確認中。
一花は俺自身を見る。
「審判は、私に騙されるのが怖くない?」
「怖い」
「本当の気持ちっぽい演技を見抜けないかも」
「見抜こうとして、君の言葉を全部疑うほうが怖い」
認証輪が揺れる。
「俺は、君が言ったことを1度受け取る。後で演技だったと分かったら、その時に怒る。最初から嘘として扱わない」
「利用するかもしれないよ」
「その可能性を知ったまま、関係へ入る。考察で完全防御していたら、君自身とは話せない」
俺自身の意志が固まる。
「予測不能な君に振り回されたいわけじゃない。振り回されたら不満を言う。それでも、役の向こうに固定された素顔を探さず、今選んだ君を見たい。俺自身も君を選ぶ」
2つの意志が一致した。
一花は笑う。演技かどうか、俺には分からない。
「今の笑顔、本物だと思う?」
「分からない」
「正解」
「正解を演じた可能性もある」
「面倒になったね」
「誰のせいだ」
彼女は無地の衣装を握る。
「風太郎くんの選択と、騙される可能性を残した審判の選択を受け入れる。私も、この受容が演技ではないと保証しない」
認証輪が一瞬止まる。
一花は続ける。
「でも、今の私は受け入れたいと思っている。その瞬間の選択は本物」
3輪が重なった。
大結界認証。
履歴追記開始。
鏡の破片が1人ずつ違う一花を映し、そのすべてが同じ履歴線へ集まる。過去の欺きも、選ばれなかった結果も残したまま、新しい一文が刻まれた。
かつて選ばれなかった。
その後、彼女のすべてを理解した上杉風太郎と一致する存在から、真正に選ばれた。
同期を解く。
一花は無地の衣装を脱がず、俺へ近づく。
「今、審判に抱きついたら、風太郎への気持ちを移したことになる?」
「俺に訊くな」
「じゃあ、今日はやめる」
「なぜ」
「迷ってるから。迷ったまま近づく役を、今は選ばない」
彼女は一歩離れた。
扉の外では姉妹たちが待っている。一花は4人を見て、姉の笑みを作りかけ、やめなかった。
二乃が問う。
「それ、姉の顔?」
「うん。今は姉でいたいから」
一花は姉妹の輪へ戻り、衣装の胸に書いた「私」を見せた。五月は、それも役名ではないかと問う。
「かもしれない。出てない私として選ばれた」
三玖が文字へ指を近づける。
「消す?」
「今日は残す。明日は分からない」
同じ風太郎の名が3人の履歴へ刻まれた。それでも、関係から成立した選択は別だ。
「3人の風太郎が同時に話したら、どうなる?」
「やらない」
「できる?」
「分からない。試すつもりもない」
人格断片を同時に表へ出せば、俺自身の中心が壊れるかもしれない。大結界は救済に必要な同期だけを支える。見世物としての利用までは保証しない。
二乃が言う。
「後で曜日ごとに使い分ければ?」
「何の曜日だ」
「まだ考えてない」
冗談に聞こえたが、三玖まで考える顔をした。救済後もなりきりを求められる未来が具体的になる。俺は笑えなかった。
一花はすぐに気づく。
「今は冗談。嫌なら嫌って言って」
「怖い。救済後も想い人役として必要とされ続けたら、自分に戻れなくなる気がする」
姉妹たちは黙った。
「その話、全員が終わってから決めよう。今、弱ってる相手に約束させる役は選ばない」
一花は衣装をたたむ。演技を捨てず、何を演じるかを自分で選ぶ変化は、認証後も続いていた。
次の同期準備で、黒猫との京介像を1度脇へ置く。あやせが白い封筒を持ち、比較の混入は自分が確認すると告げた。
「頼む」
「頼まれてするのではありません。私が必要と判断したからです」
その訂正から、すでに彼女の救済は始まっていた。
一花は扉の前で、最後に俺へ訊いた。
「私が明日、今日の受容も演技だったって言ったら?」
「今日の大結界は真正と認証した。それでも、明日の君がどう解釈するかは止められない」
「怒らない?」
「怒るかもしれない。君が傷つかないために全部演技へ戻したなら、逃げるなと言う」
「でも、演技だった可能性も認める?」
「認める。認めたうえで、今日俺が選んだことは取り消さない」
一花は目を閉じ、素顔とも演技とも決められない笑みを浮かべた。
「それなら、明日の私も続きを始められる」
彼女は「私」と書いた衣装へ、日付だけを小さく加えた。永遠の役名ではなく、今日の選択だったことを示す印だ。
次は新垣あやせ。
彼女は選択室へ白い封筒を持ち込み、京介へ同期する俺に差し出した。
「これは、選択受領保留です。あなたの選択を聞いても、すぐには受け入れない可能性があります」
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