​スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 ​   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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役名のない私を見つけて【選択実行12位:五等分/中野一花】

一花は笑っていた。

 

その笑みは、舞台の上で鍛えた完璧な笑顔だった。演技だと分かっていて、俺はあえて拍手をしなかった。

 

「その笑顔も役か?」

 

風太郎へ同期した俺が問うと、彼女の表情が固まった。

 

「分からない」

 

「なら、無理に外すな」

 

認証輪は赤いまま。一花は無地の衣装を着ている。姉でも、女優でも、悪役でも、勝者でもない。だが「役を演じない私」という新しい役になる危険がある。

 

「風太郎くんなら、もっと疑うよ」

 

「疑ってる。今の『分からない』さえ、俺が喜ぶ答えとして選んだ可能性がある」

 

一花が苦笑する。

 

「嫌な再現度」

 

俺は同期を深める。姉妹の嘘を見抜こうとした視線。努力を結果で評価する厳しさ。欺かれた怒りと、それでも一花を1人の姉妹として見捨てなかった記憶。

 

「お前は、相手が欲しい自分を作れる」

 

「うん」

 

「俺を選ばせる自分も作れる」

 

「できると思う」

 

認証輪が橙へ変わる。

 

「なら、作るなとは言わない」

 

一花の目が見開く。

 

「演じることもお前の能力だ。女優をやめたお前だけが本物じゃない」

 

「じゃあ、どの私を選ぶの」

 

「今、選択されるために1番有効な役を選べ」

 

「試してる?」

 

「そうだ」

 

一花は考え、姉の柔らかな笑みを作る。すぐに悪役の鋭い目へ変える。最後に、疲れた女優の顔を見せた。

 

どれも本物で、どれも構成されている。

 

「決められない」

 

「それが今の答えか」

 

「たぶん」

 

輪が黄へ変わる。

 

「決められないお前を選ぶ。ただし、逃げ道として役を増やすなら止める」

 

「風太郎くんは、私の素顔を見つけてくれないの?」

 

「見つけるものが1つあると思ってない」

 

一花の呼吸が止まる。

 

「姉を演じたお前も、妹の姿を使ったお前も、即興で勝ちに行ったお前も、その行動を選んだ1人だ。どれかを偽物にして、楽になろうとするな」

 

認証輪が緑へ近づく。

 

「厳しいね」

 

「お前が1番知ってるだろ。演技は、責任を消さない」

 

一花は無地の衣装の胸へ、自分で小さく「私」と書く。

 

「この文字も役名かもしれない」

 

「それでも、お前が書いた」

 

「明日消すかも」

 

「消したお前も、今日書いたことから逃げられない」

 

風太郎の人格構造が選択へ至る。

 

「俺は、正解の一花を見つけたから選ぶんじゃない。役を選び、その結果を引き受けようとするお前を選ぶ」

 

同期人格選択、成立。

 

最高審判本人選択、確認中。

 

一花は俺自身を見る。

 

「審判は、私に騙されるのが怖くない?」

 

「怖い」

 

「本当の気持ちっぽい演技を見抜けないかも」

 

「見抜こうとして、君の言葉を全部疑うほうが怖い」

 

認証輪が揺れる。

 

「俺は、君が言ったことを1度受け取る。後で演技だったと分かったら、その時に怒る。最初から嘘として扱わない」

 

「利用するかもしれないよ」

 

「その可能性を知ったまま、関係へ入る。考察で完全防御していたら、君自身とは話せない」

 

俺自身の意志が固まる。

 

「予測不能な君に振り回されたいわけじゃない。振り回されたら不満を言う。それでも、役の向こうに固定された素顔を探さず、今選んだ君を見たい。俺自身も君を選ぶ」

 

2つの意志が一致した。

 

一花は笑う。演技かどうか、俺には分からない。

 

「今の笑顔、本物だと思う?」

 

「分からない」

 

「正解」

 

「正解を演じた可能性もある」

 

「面倒になったね」

 

「誰のせいだ」

 

彼女は無地の衣装を握る。

 

「風太郎くんの選択と、騙される可能性を残した審判の選択を受け入れる。私も、この受容が演技ではないと保証しない」

 

認証輪が一瞬止まる。

 

一花は続ける。

 

「でも、今の私は受け入れたいと思っている。その瞬間の選択は本物」

 

3輪が重なった。

 

大結界認証。

 

履歴追記開始。

 

鏡の破片が1人ずつ違う一花を映し、そのすべてが同じ履歴線へ集まる。過去の欺きも、選ばれなかった結果も残したまま、新しい一文が刻まれた。

 

かつて選ばれなかった。

 

その後、彼女のすべてを理解した上杉風太郎と一致する存在から、真正に選ばれた。

 

同期を解く。

 

一花は無地の衣装を脱がず、俺へ近づく。

 

「今、審判に抱きついたら、風太郎への気持ちを移したことになる?」

 

「俺に訊くな」

 

「じゃあ、今日はやめる」

 

「なぜ」

 

「迷ってるから。迷ったまま近づく役を、今は選ばない」

 

彼女は一歩離れた。

 

扉の外では姉妹たちが待っている。一花は4人を見て、姉の笑みを作りかけ、やめなかった。

 

二乃が問う。

 

「それ、姉の顔?」

 

「うん。今は姉でいたいから」

 

一花は姉妹の輪へ戻り、衣装の胸に書いた「私」を見せた。五月は、それも役名ではないかと問う。

 

「かもしれない。出てない私として選ばれた」

 

三玖が文字へ指を近づける。

 

「消す?」

 

「今日は残す。明日は分からない」

 

同じ風太郎の名が3人の履歴へ刻まれた。それでも、関係から成立した選択は別だ。

 

「3人の風太郎が同時に話したら、どうなる?」

 

「やらない」

 

「できる?」

 

「分からない。試すつもりもない」

 

人格断片を同時に表へ出せば、俺自身の中心が壊れるかもしれない。大結界は救済に必要な同期だけを支える。見世物としての利用までは保証しない。

 

二乃が言う。

 

「後で曜日ごとに使い分ければ?」

 

「何の曜日だ」

 

「まだ考えてない」

 

冗談に聞こえたが、三玖まで考える顔をした。救済後もなりきりを求められる未来が具体的になる。俺は笑えなかった。

 

一花はすぐに気づく。

 

「今は冗談。嫌なら嫌って言って」

 

「怖い。救済後も想い人役として必要とされ続けたら、自分に戻れなくなる気がする」

 

姉妹たちは黙った。

 

「その話、全員が終わってから決めよう。今、弱ってる相手に約束させる役は選ばない」

 

一花は衣装をたたむ。演技を捨てず、何を演じるかを自分で選ぶ変化は、認証後も続いていた。

 

次の同期準備で、黒猫との京介像を1度脇へ置く。あやせが白い封筒を持ち、比較の混入は自分が確認すると告げた。

 

「頼む」

 

「頼まれてするのではありません。私が必要と判断したからです」

 

その訂正から、すでに彼女の救済は始まっていた。

 

一花は扉の前で、最後に俺へ訊いた。

 

「私が明日、今日の受容も演技だったって言ったら?」

 

「今日の大結界は真正と認証した。それでも、明日の君がどう解釈するかは止められない」

 

「怒らない?」

 

「怒るかもしれない。君が傷つかないために全部演技へ戻したなら、逃げるなと言う」

 

「でも、演技だった可能性も認める?」

 

「認める。認めたうえで、今日俺が選んだことは取り消さない」

 

一花は目を閉じ、素顔とも演技とも決められない笑みを浮かべた。

 

「それなら、明日の私も続きを始められる」

 

彼女は「私」と書いた衣装へ、日付だけを小さく加えた。永遠の役名ではなく、今日の選択だったことを示す印だ。

 

次は新垣あやせ。

 

彼女は選択室へ白い封筒を持ち込み、京介へ同期する俺に差し出した。

 

「これは、選択受領保留です。あなたの選択を聞いても、すぐには受け入れない可能性があります」




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