スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「選択します」と言う前に、あやせは白い封筒を俺の手から奪った。
封筒の下には、几帳面な字で綴られた日記の切れ端が覗いていた。宛先のない不満を、彼女はずっとそこへだけ書いてきたのだろう。
「まだ渡していません」
京介へ同期した俺の反射的な動きを、彼女は厳しく見ている。
「兄なら、私が迷っていても早く結論を出そうとするかもしれません。でも、今日は待ってください」
認証輪は赤い。
黒猫のとき、理解できない頁を残した京介。あやせには、その態度を流用できない。彼女が求めるのは、間違った正義まで見て、それでも判断を放棄しない相手だ。
「待つ。だが、保留を逃げ道にするなら言う」
あやせの目が細くなる。
「何をですか」
「お前は、選ばれたい自分を正しさの後ろへ隠した。今度は慎重さの後ろへ隠すつもりか」
認証輪が橙へ変わる。
「私は、誤った選択を受け入れたくないだけです」
「俺の選択が誤りか、どう判断する」
「私の知る兄と一致するか。私の欠点を都合よく美化していないか。審判自身が義務で選んでいないか」
「全部確認して、それでも不安なら?」
あやせは答えない。
俺は京介の人格構造を深める。妹の倫理観に振り回されながら、彼女の善意を知る兄。黒猫への理解とは違い、あやせへは正しさの暴走を止め、しかし善性そのものを否定しない距離が必要だ。
「お前の判断は間違った」
あやせの肩が揺れる。
「理解できないものを危険と決めた。相手の事情より先に、自分の嫌悪を正義へした」
認証輪が黄へ変わる。
「ですが、守りたかったのです」
「知ってる。だから厄介だ。悪意なら距離を取ればいい。善意だから、何度でも止める必要がある」
「それでも私を選ぶのですか」
「正しいから選ぶんじゃない。間違ったあと、再審し、出口を残し、自分も同じ拘束へ入ったお前を選ぶ」
輪が緑へ近づく。
「また間違えます」
「そのときは反対する」
「嫌われても?」
「嫌われたくない。でも、黙って好かれるより言う」
京介の人格構造が答えへ至る。
「俺は、お前が正しくない自分も見せたから選ぶ。正しさを捨てたからではない。間違う可能性を持ったまま判断するお前を選ぶ」
同期人格選択、成立。
最高審判本人選択、確認中。
あやせは封筒を胸へ抱える。
「審判自身は、私を面倒な監視者だと思っていませんか」
「思ってる」
「即答ですか」
「君は俺の同期や選択を最も厳しく審理する。間違いを恐れる俺には苦しい」
認証輪が揺れる。
「でも、君がいると、大結界が認証したから正しいと逃げられない。俺自身の責任を問い続ける君を、そばにいてほしいと思う」
「道具として必要なのでは?」
「その危険はある。君を良心や監査役に固定したら、また役割で選ぶことになる」
俺自身の声で続ける。
「だから、君が俺を審理しない日も、間違って甘える日も、正しくない感情を持つ日も知りたい。俺自身も君を選ぶ」
2つの意志が一致した。
あやせは封筒を開かない。
「今の選択は、私の基準では重大な疑義が残ります」
認証輪は動かない。
「兄と審判の感情を、私は完全には区別できません。選択された喜びが、判断を鈍らせている可能性もあります」
「なら保留するか」
長い沈黙。
「あえて、受け入れます」
「なぜ」
「確実になるまで待てば、永遠に受け取れません。誤りだった場合、受け入れた私の責任として再審します」
彼女は封筒へ自分の署名を書く。
「京介としての選択と、私を役割へ固定しないと述べた審判の選択を、疑いを残したまま受け入れます」
3輪が重なった。
大結界認証。
履歴追記開始。
白と黒のリボンが履歴線を囲む。判決を消さず、再審可能な余白を残したまま、新しい確定結果が刻まれた。
かつて選ばれなかった。
その後、彼女のすべてを理解した高坂京介と一致する存在から、真正に選ばれた。
同期を解く。
あやせは俺を見つめる。
「これで、選択は確定したのですね」
「そうだ」
「それでも私は、あなたの行動を疑います」
「お願いする」
「お願いされると、役割にされた気がします」
「なら、好きにしてくれ」
「そうします」
彼女は封筒を俺へ返さない。自分の判断の記録として持ち帰る。
扉の外で黒猫が待っていた。
「私の京介と同じだった?」
「同じ人物でした。ですが、あなたへ向けた理解の仕方とは違いました」
「合格ね」
「あなただけが採点者ではありません」
あやせは認証記録に自分の署名がないことを確認し、不満そうに封筒の裏へ受容時の疑義を書いた。選ばれた結果を無条件の正解にしない私的な付記だ。
黒猫が覗く。
「選択された記念に異議申立書を書くなんて、あなたらしいわ」
「異議ではなく留保です」
2人の京介像が同一でないことを認めても、競争心は消えない。
あやせが俺へ問う。
「兄なら、どちらの私をより理解できますか」
「答えない。理解の深さを競技へ戻したくない」
「逃げにも聞こえます」
「比較で誰かを傷つける責任から逃げている部分もある」
「なら、後で再審します。今は次の救済を優先します」
彼女は未解決を保存し、別の行動へ移った。
「元の兄には、この記録はないのですね」
「ない」
あやせは痛みを受けるように目を伏せ、それでも顔を上げる。
「だから新しい結果なのですね。元の兄へ責任を負わせない」
「そうだ」
「納得しています。寂しくないとは言いません」
感情を正論で消さなかった。
扉の向こうで羽川と黒い影が待つ。暦へ同期する準備を進めると、撫子の呼び声が残響として浮かんだ。俺はそれを意識的に脇へ置く。
羽川が見ている。
「切り離した?」
「一時的に区別した」
「区別と分離は、どこが違う?」
答えに詰まる。
「その答えも、私の救済で探そう」
羽川は善い笑顔ではなく、不安を含む顔で扉を開いた。
あやせは扉の前で1度立ち止まる。
「選ばれた私は、以前より正しいのでしょうか」
「違う」
即答に彼女の眉が寄る。
「選ばれたことは、人格への合格判定じゃない。君の誤りが減った証明でもない」
「では、何が変わったのです」
「選ばれなかった履歴の先に、選ばれた結果が増えた。それをどう使うかは君次第だ」
あやせは考え、封筒へもう1行書く。
選択は免許ではない。
「この結果を、私の判断が常に正しい根拠にはしません」
「頼む」
「また役割を頼みましたね」
「訂正する。君がそうしたいなら、そうしてくれ」
「はい。私が決めました」
小さな再審が終わり、彼女は満足して扉を出た。
次は羽川翼。
彼女は選択室へ黒い影と一緒に入り、暦へ同期する俺へ言った。
「善い私を選ばないで。かといって、醜い私だけを本物にもしないで」
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