​スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 ​   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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正しくない私への不服申立て【選択実行13位:俺妹/新垣あやせ】

「選択します」と言う前に、あやせは白い封筒を俺の手から奪った。

 

封筒の下には、几帳面な字で綴られた日記の切れ端が覗いていた。宛先のない不満を、彼女はずっとそこへだけ書いてきたのだろう。

 

「まだ渡していません」

 

京介へ同期した俺の反射的な動きを、彼女は厳しく見ている。

 

「兄なら、私が迷っていても早く結論を出そうとするかもしれません。でも、今日は待ってください」

 

認証輪は赤い。

 

黒猫のとき、理解できない頁を残した京介。あやせには、その態度を流用できない。彼女が求めるのは、間違った正義まで見て、それでも判断を放棄しない相手だ。

 

「待つ。だが、保留を逃げ道にするなら言う」

 

あやせの目が細くなる。

 

「何をですか」

 

「お前は、選ばれたい自分を正しさの後ろへ隠した。今度は慎重さの後ろへ隠すつもりか」

 

認証輪が橙へ変わる。

 

「私は、誤った選択を受け入れたくないだけです」

 

「俺の選択が誤りか、どう判断する」

 

「私の知る兄と一致するか。私の欠点を都合よく美化していないか。審判自身が義務で選んでいないか」

 

「全部確認して、それでも不安なら?」

 

あやせは答えない。

 

俺は京介の人格構造を深める。妹の倫理観に振り回されながら、彼女の善意を知る兄。黒猫への理解とは違い、あやせへは正しさの暴走を止め、しかし善性そのものを否定しない距離が必要だ。

 

「お前の判断は間違った」

 

あやせの肩が揺れる。

 

「理解できないものを危険と決めた。相手の事情より先に、自分の嫌悪を正義へした」

 

認証輪が黄へ変わる。

 

「ですが、守りたかったのです」

 

「知ってる。だから厄介だ。悪意なら距離を取ればいい。善意だから、何度でも止める必要がある」

 

「それでも私を選ぶのですか」

 

「正しいから選ぶんじゃない。間違ったあと、再審し、出口を残し、自分も同じ拘束へ入ったお前を選ぶ」

 

輪が緑へ近づく。

 

「また間違えます」

 

「そのときは反対する」

 

「嫌われても?」

 

「嫌われたくない。でも、黙って好かれるより言う」

 

京介の人格構造が答えへ至る。

 

「俺は、お前が正しくない自分も見せたから選ぶ。正しさを捨てたからではない。間違う可能性を持ったまま判断するお前を選ぶ」

 

同期人格選択、成立。

 

最高審判本人選択、確認中。

 

あやせは封筒を胸へ抱える。

 

「審判自身は、私を面倒な監視者だと思っていませんか」

 

「思ってる」

 

「即答ですか」

 

「君は俺の同期や選択を最も厳しく審理する。間違いを恐れる俺には苦しい」

 

認証輪が揺れる。

 

「でも、君がいると、大結界が認証したから正しいと逃げられない。俺自身の責任を問い続ける君を、そばにいてほしいと思う」

 

「道具として必要なのでは?」

 

「その危険はある。君を良心や監査役に固定したら、また役割で選ぶことになる」

 

俺自身の声で続ける。

 

「だから、君が俺を審理しない日も、間違って甘える日も、正しくない感情を持つ日も知りたい。俺自身も君を選ぶ」

 

2つの意志が一致した。

 

あやせは封筒を開かない。

 

「今の選択は、私の基準では重大な疑義が残ります」

 

認証輪は動かない。

 

「兄と審判の感情を、私は完全には区別できません。選択された喜びが、判断を鈍らせている可能性もあります」

 

「なら保留するか」

 

長い沈黙。

 

「あえて、受け入れます」

 

「なぜ」

 

「確実になるまで待てば、永遠に受け取れません。誤りだった場合、受け入れた私の責任として再審します」

 

彼女は封筒へ自分の署名を書く。

 

「京介としての選択と、私を役割へ固定しないと述べた審判の選択を、疑いを残したまま受け入れます」

 

3輪が重なった。

 

大結界認証。

 

履歴追記開始。

 

白と黒のリボンが履歴線を囲む。判決を消さず、再審可能な余白を残したまま、新しい確定結果が刻まれた。

 

かつて選ばれなかった。

 

その後、彼女のすべてを理解した高坂京介と一致する存在から、真正に選ばれた。

 

同期を解く。

 

あやせは俺を見つめる。

 

「これで、選択は確定したのですね」

 

「そうだ」

 

「それでも私は、あなたの行動を疑います」

 

「お願いする」

 

「お願いされると、役割にされた気がします」

 

「なら、好きにしてくれ」

 

「そうします」

 

彼女は封筒を俺へ返さない。自分の判断の記録として持ち帰る。

 

扉の外で黒猫が待っていた。

 

「私の京介と同じだった?」

 

「同じ人物でした。ですが、あなたへ向けた理解の仕方とは違いました」

 

「合格ね」

 

「あなただけが採点者ではありません」

 

あやせは認証記録に自分の署名がないことを確認し、不満そうに封筒の裏へ受容時の疑義を書いた。選ばれた結果を無条件の正解にしない私的な付記だ。

 

黒猫が覗く。

 

「選択された記念に異議申立書を書くなんて、あなたらしいわ」

 

「異議ではなく留保です」

 

2人の京介像が同一でないことを認めても、競争心は消えない。

 

あやせが俺へ問う。

 

「兄なら、どちらの私をより理解できますか」

 

「答えない。理解の深さを競技へ戻したくない」

 

「逃げにも聞こえます」

 

「比較で誰かを傷つける責任から逃げている部分もある」

 

「なら、後で再審します。今は次の救済を優先します」

 

彼女は未解決を保存し、別の行動へ移った。

 

「元の兄には、この記録はないのですね」

 

「ない」

 

あやせは痛みを受けるように目を伏せ、それでも顔を上げる。

 

「だから新しい結果なのですね。元の兄へ責任を負わせない」

 

「そうだ」

 

「納得しています。寂しくないとは言いません」

 

感情を正論で消さなかった。

 

扉の向こうで羽川と黒い影が待つ。暦へ同期する準備を進めると、撫子の呼び声が残響として浮かんだ。俺はそれを意識的に脇へ置く。

 

羽川が見ている。

 

「切り離した?」

 

「一時的に区別した」

 

「区別と分離は、どこが違う?」

 

答えに詰まる。

 

「その答えも、私の救済で探そう」

 

羽川は善い笑顔ではなく、不安を含む顔で扉を開いた。

 

あやせは扉の前で1度立ち止まる。

 

「選ばれた私は、以前より正しいのでしょうか」

 

「違う」

 

即答に彼女の眉が寄る。

 

「選ばれたことは、人格への合格判定じゃない。君の誤りが減った証明でもない」

 

「では、何が変わったのです」

 

「選ばれなかった履歴の先に、選ばれた結果が増えた。それをどう使うかは君次第だ」

 

あやせは考え、封筒へもう1行書く。

 

選択は免許ではない。

 

「この結果を、私の判断が常に正しい根拠にはしません」

 

「頼む」

 

「また役割を頼みましたね」

 

「訂正する。君がそうしたいなら、そうしてくれ」

 

「はい。私が決めました」

 

小さな再審が終わり、彼女は満足して扉を出た。

 

次は羽川翼。

 

彼女は選択室へ黒い影と一緒に入り、暦へ同期する俺へ言った。

 

「善い私を選ばないで。かといって、醜い私だけを本物にもしないで」




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