スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
羽川の黒い影は、本人の隣へ座っていた。
膝の上には、白い猫の毛が一本だけ乗っている。誰の猫かと聞くことすら、今日はしなかった。
暦へ同期した俺は2人を見る。どちらを先に見ても失敗する気がした。
「今、黒いほうを先に見たね」
羽川が指摘する。
「醜い感情こそ本音だと思った?」
認証輪は赤い。
「思いかけた」
「善い私は仮面、黒い私は本物。そう分けたら、また私を2つにする」
俺は同期を深める。暦にとって羽川は、自分より多くを知り、助けを求めず、善くありすぎる少女だった。同時に、彼女の怪異を本人と切り離して扱うことで、理解したつもりになった部分もある。
「羽川」
「何かな」
「お前は善い」
黒い影が笑う。
「善くあろうとして、自分を削った。だが、その善さまで偽物だったとは思わない」
認証輪が橙へ変わる。
「嫉妬も独占欲も本物だ。だからといって、他人を傷つけたくない気持ちが嘘になるわけじゃない」
羽川の目が揺れる。
「両方を並べれば、理解したことになる?」
「ならない。どう両立するか、俺にも分からない」
輪が黄へ変わる。
「分からないまま選ぶの?」
「お前自身も、まだ完全には統合できてないだろ」
「そうだね」
「完成するまで待ったら、お前はまた『理解された後で選ばれる私』を作る。今の不完全なお前を選ぶ」
羽川は黒い影へ目を向ける。
「阿良々木くんは、私を救おうとしないの?」
「助けを求めたら助ける。だが、救って1つにしてやるとは言わない」
認証輪が緑へ近づく。
「統合はお前の仕事だ。俺は隣にいることしかできない」
「隣にいるだけで満足する?」
「しない。お前に頼られたいし、選ばれたい。だから善人の顔で待つだけにはしない」
暦の人格構造が、救済欲を隠さず認めたうえで選択へ進む。
「お前の善さに甘えた俺も、怪異を見て初めて欲へ気づいた俺も未熟だった。それでも、今は善いお前も、醜いお前も、どちらかを本体にせず選ぶ」
同期人格選択、成立。
最高審判本人選択、確認中。
羽川は俺自身を見た。
「審判は、私を理解できることに価値を感じている?」
「感じていた。難しい人物を理解する自分を、特別だと思う危険がある」
「今は?」
「君が俺の理解から外れるたび、怖い。でも、その外れを失敗ではなく君の自由として見たい」
認証輪が揺れる。
「私が善い人のまま戻ったら、退屈する?」
「するかもしれない」
羽川が少し笑う。
「正直だね」
「だが退屈と価値は違う。刺激的な怪異がなくても、君が何を選ぶか知りたい」
俺自身の意志を言葉にする。
「君を心理的な難問として選ぶんじゃない。俺へ答えを与えず、自分の無知で選び続ける1人として、話したい。俺自身も君を選ぶ」
2つの意志が一致した。
羽川は黒い影の手を取る。影は拒まない。
「私がこの影をまた切り離したら?」
「そのとき、なぜ切り離したか聞く。統合し続けることを善として強制しない」
「善い私へ戻ることも、逃げになるかもしれない」
「逃げか休息か、君が決める。間違えたら、また選び直す」
羽川は深く息を吸う。
「阿良々木くんの選択と、理解者であることを手放そうとする審判の選択を受け入れる。善い私も、黒い私も、どちらかを捨てて受け取らない」
3輪が重なった。
大結界認証。
履歴追記開始。
白と黒の頁が交互に履歴線へ重なる。過去の善性も怪異も消さず、その先へ新しい一文が刻まれた。
かつて選ばれなかった。
その後、彼女のすべてを理解した阿良々木暦と一致する存在から、真正に選ばれた。
同期が解ける。
黒い影は消えない。羽川の隣へ座ったままだ。
「1つにならないのか」
「今日は、隣にいることにする」
「それでいいのか」
「さっき、統合を強制しないと言ったよね」
「そうだった」
羽川は俺を見る。
「審判の中には、何人分の影が残ってる?」
答えに詰まる。
スバル、風太郎、倫也、アルト、海人、京介、八幡、楽、暦。同期を解いても、思考の癖が薄く残る。
「数えられない」
「なら、あなたも1人へ戻ることを急がないほうがいい」
彼女の助言を受け、俺は自分の影を見る。複数の輪郭が重なっているが、まだ中心には自分の形がある。
羽川は黒い影と並んで選択室を出た。撫子が近づき、影を見る。
「暦お兄ちゃん、羽川さんには何て言ったの?」
「救って1つにしてやるとは言わない、って」
「撫子には、悪いことを良かったことにしないって」
「どっちが阿良々木くんらしいと思う?」
撫子は首を振る。
「撫子には決められない。でも、撫子へ羽川さんの言葉を言われたら嫌だった」
「私も」
2人は互いの選択を奪わず、それぞれの暦像を持つ。
羽川は俺を見る。
「私たち2人の違いを解説したくなってるでしょう」
「なってる」
「してもいいよ。ただし、違うと言ったら訂正して」
観察者であることを捨てれば、俺自身の一部を偽物にする。彼女は見抜いていた。
「撫子は未完の像を増やし、羽川は切り離した像を1人へ戻そうとしている」
撫子がすぐ反論する。
「撫子も責任を戻してるよ」
羽川も続ける。
「私は1人へ戻すことを正解にしていない。今日は隣に座らせただけ」
「訂正する」
2人は満足しないが、即座の修正を受け取った。
そのとき俺の影へ暦の輪郭が浮かぶ。羽川は見逃さない。
「戻り切っていない。次へ進む前に休んで」
万里花は白い花を持ったまま頷く。
「わたくしは待てます。あなたが自分で歩いて来られるまで、ここにいます」
俺は休止を受け入れた。自分の呼吸を数え、暦の声を隣へ置く。中心の名前が戻る。
休止色が消えると、万里花は白い花を選択室の中央へ置いた。
休止中、羽川は俺の隣へ座った。黒い影はそのまた隣だ。
「私を選んだ阿良々木くんの残響、今もある?」
「ある。困っている人を助けたい衝動として」
「それはあなた自身にもあった?」
「以前からあったと思う。今は境界が曖昧だ」
「なら、全部どちらのものか決めなくていい」
「自分を失わないためには区別が必要だ」
「必要な区別と、無理な切断は違うよ。影響を受けたあなたも、あなたでしょう」
彼女の言葉で、俺は同期を汚染としてだけ見ていたことに気づく。理解すれば変わる。変化をすべて排除して元へ戻ろうとすれば、16人と関わった事実まで否定する。
「変わっても、中心を選び直せばいいのか」
「たぶん。私は今、それを試してる」
俺は自分の名前を言い、続けて今ここで万里花を待たせている申し訳なさを自分の感情として認めた。借り物の反応ではない。中心はまだ答えられる。
扉の外で万里花が待っていた。
次は橘万里花。楽への2度目の同期。
彼女は白い花を1輪だけ持ち、告げる。
「約束の少女として選ばないでくださいまし。今ここへ歩いてきた、目的地を持たないわたくしを見てください」
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