​【完結済】スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 ​   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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約束の外で待つ花【選択実行15位:ニセコイ/橘万里花】

「楽様のもとへは、もう一歩も進みませんわ」

 

温室育ちの薔薇のような強気の裏で、万里花は白い花を一輪、静かに握りしめていた。

 

万里花は白い花を選択室の中央へ置き、楽へ同期した俺へ背を向けた。

 

「選ばれたいんじゃないのか」

 

「選ばれたいですわ。ですが、追えば届くという形へ戻りたくありません」

 

認証輪は赤い。

 

小咲のとき、楽は未送信の手紙を読まず、幼い約束を選択理由にしなかった。万里花にも約束を使わないことが必要だ。しかし彼女の傷は、約束を見つけられなかった側ではない。約束された特別へ自分を預け、その役を守るため走り続けた側だ。

 

俺は同期を深める。押しの強さに困り、逃げながらも、その年月と本気を無視できなかった楽の視線へ重心を移す。

 

「マリー」

 

呼びかけに、彼女の肩が揺れる。

 

「その呼び方で、約束を思い出したふりをしないでください」

 

「思い出を選択の保証にはしない」

 

認証輪が橙へ変わる。

 

「お前は、約束があるから俺を好きでいなきゃいけないと思っていた。身体が弱かった時間も、家の期待も、全部『楽様の相手』になる道へ並べた」

 

「否定はいたしません」

 

「今は約束の役を手放したと言う。でも、手放した自分を俺に評価させようとしてる」

 

万里花が振り返る。

 

「では、何をすればよいのです」

 

「何もしなくていい」

 

認証輪が黄へ変わる。

 

その言葉こそ、彼女にとって残酷だった。努力し、計画し、押し進み、役へ近づくことで自分を保ってきた。何もしない時間は、選ばれる理由が減っていく恐怖に直結する。

 

「立っているだけのわたくしを、選ぶ理由がありませんわ」

 

「理由を作るな。今ここにいるお前を、俺が見る」

 

「見れば、何が分かりますの」

 

「怖がってる。走らなければ置いていかれると思ってる」

 

彼女の笑みが崩れる。

 

「小咲さんより遅くなりました」

 

「順位は最初から決まってた」

 

「それでも、同じ楽様から先に選ばれた。わたくしが追いつく前に」

 

嫉妬を隠さない声だった。

 

「悔しいですわ。15位であることも、約束を持ちながら最後まで勝てなかったことも」

 

「それでいい」

 

「慰めないのですか」

 

「慰めて、立派に待てたお前を褒めたら、また成果で選ぶことになる」

 

輪が緑へ近づく。

 

俺は白い花を拾わない。彼女が置いた現在地の印として、そのままにする。

 

「俺は、追ってくるお前から逃げた。だが、追うのをやめたお前を見失いたくない。約束の少女でも、努力の成果でもなく、止まることを自分で決めたお前を選ぶ」

 

同期人格選択、成立。

 

最高審判本人選択、確認中。

 

万里花は俺自身へ視線を移す。

 

「あなたは、わたくしの執着を恐ろしく思いませんの?」

 

「思う。俺を目的地にされれば、自分の意志を奪われる気がする」

 

「では、なぜ選ぶのです」

 

「君が目的地を固定せず、相手が拒めば到着しないと決めたからだ。それでも道を消さず、自分の場所へ花を植えた」

 

認証輪が揺れる。

 

「俺を待つための場所ではなく、君自身が暮らす場所を作れるなら、そこへ俺も行ってみたい」

 

「来てくださらなくても?」

 

「行く義務は約束しない。だが今は、君と次の場所を見たい。俺自身も君を選ぶ」

 

2つの意志が一致した。

 

万里花は白い花の前へ膝をつく。

 

「選ばれたら、また楽様へ向けて道を引いてしまうかもしれません」

 

「そのときは、俺が嫌なら止まれと言う」

 

「審判自身へも、同じ道を引くかもしれませんわ」

 

「引くのは自由だ。歩くかは俺が決める」

 

彼女は長く目を閉じた。

 

「約束を根拠にしない楽様の選択と、わたくしの道を歩く義務を負わないあなたの選択。その両方を受け入れます」

 

3輪が重なった。

 

大結界認証。

 

履歴追記開始。

 

白い花が1輪ずつ履歴線の脇へ咲く。幼い約束も、届かなかった年月も消えず、その先へ新しい一文が刻まれた。

 

かつて選ばれなかった。

 

その後、彼女のすべてを理解した一条楽と一致する存在から、真正に選ばれた。

 

同期が解ける。

 

万里花は花を拾い、俺へ差し出さない。自分の髪へ挿した。

 

「楽様のためではありませんの?」

 

「今のわたくしが身につけたいからですわ」

 

扉の外で小咲が待っていた。

 

「同じ楽くんでした?」

 

「同じ方ですわ。ですが、あなたの手紙を読まない楽様と、わたくしが止まるまで追わせない楽様は、同じ反応ではありませんでした」

 

2人は互いの履歴線を見つめる。約束を巡って競った過去は残る。それでも、どちらの選択ももう一方を偽物にしない。

 

万里花は扉を出たあと、花を髪へ挿したまま小咲の隣へ立った。

 

「約束を捨てたわけではありませんの」

 

「うん」

 

「楽様を好きだった証拠として、残します。ただし、未来の命令にはしません」

 

小咲は未送信の手紙を胸へ抱える。

 

「私も、手紙を捨てていません。送らないことと、なかったことは違うから」

 

2人は同じ楽を愛し、約束の両側で違う失敗をした。今はどちらも、過去の証拠を未来の義務へ変えないと決めている。

 

「小咲さん」

 

「なに?」

 

「羨ましさは消えておりませんわ」

 

「私もです。万里花さんみたいに進めたらって、今でも思います」

 

「なら、消さずに参りましょう」

 

「うん」

 

勝敗を越えた和解ではない。嫉妬を残したまま、相手の結果も否定しない関係だった。

 

俺は2人を見ながら、同じ楽へ2度同期した残響を確かめる。小咲へ向けた楽は、見つけられなかった過去を罪滅ぼしで埋めない人物。万里花へ向けた楽は、追われた時間を認めながら、止まった彼女へ自分から近づく人物。

 

どちらも本人像の範囲にある。しかし、俺の中では2つの関係として残っている。統合して平均化すれば、双方の選択理由が薄まる。別人格として分裂させれば、元の一条楽から外れる。

 

「審判」

 

万里花が呼ぶ。

 

「苦しそうですわ」

 

「2つを同時に考えた」

 

「今は考えなくて結構。わたくしの救済は終わりました」

 

「忘れていいのか」

 

「忘れろとは申しておりません。今この瞬間、再現を続ける必要はないと言っています」

 

彼女は目的地へ向けた歩みを止めることを覚えたからこそ、俺にも停止を許した。

 

俺は楽の2つの関係像を消さず、記録棚へ戻すように意識する。中心へ自分の名前を置く。呼吸が戻った。

 

小咲が訊く。

 

「全員が終わったあと、私たちの想い人像は、審判の中でどうなるんですか」

 

「分からない。必要なときに再同期できる形で残るのか、俺の記憶へ溶けるのか」

 

「消えたら、選択も消える?」

 

「履歴追記は消えない。俺の再現能力と、成立した結果は別だ」

 

2人は安堵し、同時に寂しそうな顔をした。想い人へ再び会える保証と、選ばれた事実の価値を分けなければならない。

 

万里花は花弁を1枚、俺へ渡す。

 

「これは次の約束ではありません。今日ここにいた記念ですわ」

 

俺は受け取った。未来を拘束しない現在の贈り物として。

 

髪の花と掌の花弁は同じ1輪から分かれた。それでも、どちらが本物というわけではない。彼女が自分へ残したものと、今の俺へ渡したものが、違う意味で同時に存在していた。

 

残る空白線は1つ。

 

中野五月。

 

彼女は赤鉛筆も答案も持たず、選択室へ入った。

 

「私は最後です。だから、最後にふさわしい正解を言おうとしないでください」




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