【完結済】スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「楽様のもとへは、もう一歩も進みませんわ」
温室育ちの薔薇のような強気の裏で、万里花は白い花を一輪、静かに握りしめていた。
万里花は白い花を選択室の中央へ置き、楽へ同期した俺へ背を向けた。
「選ばれたいんじゃないのか」
「選ばれたいですわ。ですが、追えば届くという形へ戻りたくありません」
認証輪は赤い。
小咲のとき、楽は未送信の手紙を読まず、幼い約束を選択理由にしなかった。万里花にも約束を使わないことが必要だ。しかし彼女の傷は、約束を見つけられなかった側ではない。約束された特別へ自分を預け、その役を守るため走り続けた側だ。
俺は同期を深める。押しの強さに困り、逃げながらも、その年月と本気を無視できなかった楽の視線へ重心を移す。
「マリー」
呼びかけに、彼女の肩が揺れる。
「その呼び方で、約束を思い出したふりをしないでください」
「思い出を選択の保証にはしない」
認証輪が橙へ変わる。
「お前は、約束があるから俺を好きでいなきゃいけないと思っていた。身体が弱かった時間も、家の期待も、全部『楽様の相手』になる道へ並べた」
「否定はいたしません」
「今は約束の役を手放したと言う。でも、手放した自分を俺に評価させようとしてる」
万里花が振り返る。
「では、何をすればよいのです」
「何もしなくていい」
認証輪が黄へ変わる。
その言葉こそ、彼女にとって残酷だった。努力し、計画し、押し進み、役へ近づくことで自分を保ってきた。何もしない時間は、選ばれる理由が減っていく恐怖に直結する。
「立っているだけのわたくしを、選ぶ理由がありませんわ」
「理由を作るな。今ここにいるお前を、俺が見る」
「見れば、何が分かりますの」
「怖がってる。走らなければ置いていかれると思ってる」
彼女の笑みが崩れる。
「小咲さんより遅くなりました」
「順位は最初から決まってた」
「それでも、同じ楽様から先に選ばれた。わたくしが追いつく前に」
嫉妬を隠さない声だった。
「悔しいですわ。15位であることも、約束を持ちながら最後まで勝てなかったことも」
「それでいい」
「慰めないのですか」
「慰めて、立派に待てたお前を褒めたら、また成果で選ぶことになる」
輪が緑へ近づく。
俺は白い花を拾わない。彼女が置いた現在地の印として、そのままにする。
「俺は、追ってくるお前から逃げた。だが、追うのをやめたお前を見失いたくない。約束の少女でも、努力の成果でもなく、止まることを自分で決めたお前を選ぶ」
同期人格選択、成立。
最高審判本人選択、確認中。
万里花は俺自身へ視線を移す。
「あなたは、わたくしの執着を恐ろしく思いませんの?」
「思う。俺を目的地にされれば、自分の意志を奪われる気がする」
「では、なぜ選ぶのです」
「君が目的地を固定せず、相手が拒めば到着しないと決めたからだ。それでも道を消さず、自分の場所へ花を植えた」
認証輪が揺れる。
「俺を待つための場所ではなく、君自身が暮らす場所を作れるなら、そこへ俺も行ってみたい」
「来てくださらなくても?」
「行く義務は約束しない。だが今は、君と次の場所を見たい。俺自身も君を選ぶ」
2つの意志が一致した。
万里花は白い花の前へ膝をつく。
「選ばれたら、また楽様へ向けて道を引いてしまうかもしれません」
「そのときは、俺が嫌なら止まれと言う」
「審判自身へも、同じ道を引くかもしれませんわ」
「引くのは自由だ。歩くかは俺が決める」
彼女は長く目を閉じた。
「約束を根拠にしない楽様の選択と、わたくしの道を歩く義務を負わないあなたの選択。その両方を受け入れます」
3輪が重なった。
大結界認証。
履歴追記開始。
白い花が1輪ずつ履歴線の脇へ咲く。幼い約束も、届かなかった年月も消えず、その先へ新しい一文が刻まれた。
かつて選ばれなかった。
その後、彼女のすべてを理解した一条楽と一致する存在から、真正に選ばれた。
同期が解ける。
万里花は花を拾い、俺へ差し出さない。自分の髪へ挿した。
「楽様のためではありませんの?」
「今のわたくしが身につけたいからですわ」
扉の外で小咲が待っていた。
「同じ楽くんでした?」
「同じ方ですわ。ですが、あなたの手紙を読まない楽様と、わたくしが止まるまで追わせない楽様は、同じ反応ではありませんでした」
2人は互いの履歴線を見つめる。約束を巡って競った過去は残る。それでも、どちらの選択ももう一方を偽物にしない。
万里花は扉を出たあと、花を髪へ挿したまま小咲の隣へ立った。
「約束を捨てたわけではありませんの」
「うん」
「楽様を好きだった証拠として、残します。ただし、未来の命令にはしません」
小咲は未送信の手紙を胸へ抱える。
「私も、手紙を捨てていません。送らないことと、なかったことは違うから」
2人は同じ楽を愛し、約束の両側で違う失敗をした。今はどちらも、過去の証拠を未来の義務へ変えないと決めている。
「小咲さん」
「なに?」
「羨ましさは消えておりませんわ」
「私もです。万里花さんみたいに進めたらって、今でも思います」
「なら、消さずに参りましょう」
「うん」
勝敗を越えた和解ではない。嫉妬を残したまま、相手の結果も否定しない関係だった。
俺は2人を見ながら、同じ楽へ2度同期した残響を確かめる。小咲へ向けた楽は、見つけられなかった過去を罪滅ぼしで埋めない人物。万里花へ向けた楽は、追われた時間を認めながら、止まった彼女へ自分から近づく人物。
どちらも本人像の範囲にある。しかし、俺の中では2つの関係として残っている。統合して平均化すれば、双方の選択理由が薄まる。別人格として分裂させれば、元の一条楽から外れる。
「審判」
万里花が呼ぶ。
「苦しそうですわ」
「2つを同時に考えた」
「今は考えなくて結構。わたくしの救済は終わりました」
「忘れていいのか」
「忘れろとは申しておりません。今この瞬間、再現を続ける必要はないと言っています」
彼女は目的地へ向けた歩みを止めることを覚えたからこそ、俺にも停止を許した。
俺は楽の2つの関係像を消さず、記録棚へ戻すように意識する。中心へ自分の名前を置く。呼吸が戻った。
小咲が訊く。
「全員が終わったあと、私たちの想い人像は、審判の中でどうなるんですか」
「分からない。必要なときに再同期できる形で残るのか、俺の記憶へ溶けるのか」
「消えたら、選択も消える?」
「履歴追記は消えない。俺の再現能力と、成立した結果は別だ」
2人は安堵し、同時に寂しそうな顔をした。想い人へ再び会える保証と、選ばれた事実の価値を分けなければならない。
万里花は花弁を1枚、俺へ渡す。
「これは次の約束ではありません。今日ここにいた記念ですわ」
俺は受け取った。未来を拘束しない現在の贈り物として。
髪の花と掌の花弁は同じ1輪から分かれた。それでも、どちらが本物というわけではない。彼女が自分へ残したものと、今の俺へ渡したものが、違う意味で同時に存在していた。
残る空白線は1つ。
中野五月。
彼女は赤鉛筆も答案も持たず、選択室へ入った。
「私は最後です。だから、最後にふさわしい正解を言おうとしないでください」
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