​【完結済】スーパー負けヒロイン大戦 〜選ばれなかった16人の未練を断ち、最高のハッピーエンドを掴み取るIF救済劇〜 ​   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

50 / 52
最後の答案に点をつけない【選択実行16位:五等分/中野五月・選択実行編完結】

「お前は、俺を好きだったのか」

 

五月の部屋には、色褪せた野球のグローブが今も飾ってある。無邪気さの奥にある頑固さを、俺はその硬い革の匂いで思い出す。

 

風太郎へ同期した俺の問いに、五月は目を閉じた。

 

「そこから聞くのですね」

 

「今も答えが完成してない顔をしてる」

 

認証輪は赤い。

 

4度目の風太郎への同期。三玖の静かな歩み、二乃の正面衝突、一花の役の重なり。そのすべてを隔離し、五月との関係へ重心を移す。彼女にとって風太郎は、家族の教師であり、衝突する相手であり、恋と気づくのが遅すぎた人だ。

 

「好きでした」

 

五月は答える。

 

「過去形か」

 

「分かりません」

 

認証輪が橙へ変わる。

 

「分からないと言えば、また保留できる」

 

「はい。だから、分からないまま今日は逃げません」

 

彼女は空の掌を見せる。採点帳も答案もない。

 

「風太郎は、何を答えれば選びますか」

 

「俺に聞くな」

 

「厳しいですね」

 

「お前は正解を知れば、それを言える。だが今日は、お前の答えじゃなきゃ意味がない」

 

認証輪が黄へ変わる。

 

五月はしばらく黙る。

 

「今も好きです」

 

「本当に?」

 

「疑うのですか」

 

「最後だから言わなきゃいけないと思ってないか。姉妹が3人選ばれたあと、自分も同じ気持ちだったと証明したくないか」

 

五月の顔が強張る。

 

「あります」

 

また即答する。

 

「姉妹の中で、自分だけ恋に遅れたことが悔しい。最後に選ばれることで、私も同じ場所にいたと証明したい」

 

「それだけか」

 

「それだけではありません。でも、どこまでが風太郎への気持ちで、どこからが姉妹との比較か、分けきれません」

 

輪が緑へ近づく。

 

「分けなくていい」

 

「二乃や三玖には、分けないことを認めましたか」

 

「同じ言い方はしない。お前の場合、分けられないことを答案へしようとしてる」

 

五月が息を呑む。

 

「『複雑だから分からない』を、完成した結論にするな。今この瞬間、俺をどうしたい」

 

彼女は拳を握る。

 

「選んでほしい」

 

「何を見て」

 

「母の代わりに正しくあろうとした私。姉妹を支える側へ立ち、恋を認めるのが遅れた私。不合格にも意味を付け、最後には意味さえ付けず好きだったと残した私」

 

言葉が震える。

 

「そして、選ばれたあとも本当に恋だったのか疑うかもしれない私を」

 

風太郎の人格構造が答えへ進む。

 

「お前は、答えが遅い」

 

「はい」

 

「食べ物のことになると話が逸れる。正しいことを言おうとして、肝心の気持ちを後へ回す」

 

「否定できません」

 

「だが、遅い答えを提出しに来た。姉妹の母親役でも生徒役でもなく、自分の順位を悔しがるお前として」

 

認証輪が光る。

 

「最後だから選ぶんじゃない。最後まで諦めず、正解のない自分を出したお前を選ぶ」

 

同期人格選択、成立。

 

最高審判本人選択、確認中。

 

五月は俺自身へ問う。

 

「あなたは、4人の風太郎を使い分けました。私は4番目の解釈でしかないのですか」

 

「違う。順番が最後なだけで、理解の深さを順位づけていない」

 

「しかし、3人の経験があったから、私への同期が上手くなったのでは」

 

「そうだ」

 

彼女の目が揺れる。

 

「君は先の3人から得た俺の学びの上にいる。それは不公平かもしれない。だが、三玖への言葉を流用すれば君を誤る。二乃への拒絶も、一花への未決定も、そのままは使えない」

 

俺自身の声が強くなる。

 

「君は最後だから余りものではない。最後まで見た俺が、それでも別に知る必要のある1人だ。君が答えを疑い続けても、俺はその疑いごと話したい。俺自身も君を選ぶ」

 

2つの意志が一致した。

 

五月は空の掌へ目を落とす。

 

「選ばれたら、私は恋だったと確定してしまうのでしょうか」

 

「大結界が確定するのは選択された結果だ。君の感情の名前までは固定しない」

 

「それなら、受け取れます」

 

彼女は顔を上げる。

 

「風太郎の選択と、私を最後の解釈へ固定しないあなたの選択を受け入れます。明日、恋ではなかったかもしれないと迷っても、今日受け入れたことから逃げません」

 

3輪が重なった。

 

大結界認証。

 

履歴追記開始。

 

五色の光が最後の空白線を満たす。遅れた自覚も、選ばれなかった過去も、16位の悔しさも残したまま、新しい一文が刻まれた。

 

かつて選ばれなかった。

 

その後、彼女のすべてを理解した上杉風太郎と一致する存在から、真正に選ばれた。

 

16本すべての履歴線が光った。

 

最後の一文が刻まれた瞬間、広間の外でも変化が起きた。16人を囲んでいた順位表示が消え、名札だけが円形に並び直す。数字は履歴として記録へ残るが、選択機会を配る役割を終えたのだ。

 

二乃が3位の位置を探し、何もない空間へ手を伸ばす。

 

「終わったら、本当に消すのね」

 

「順位を日常の席順へ使わせないためです」とオルド。

 

万里花は15位だった場所から離れ、五月の隣へ並ぶ。

 

「最後の気分はいかがですの?」

 

「悔しさは残っています。でも、最後であることを私の性質にはしません」

 

「良い答えですわ」

 

「採点しないでください」

 

2人は笑った。順位戦の再戦を経た関係が、数字の消失後も残っている。

 

五月は自分の履歴線を見る。

 

「姉妹の中で、私だけ最後でした。その事実も消えません」

 

三玖が近づく。

 

「でも、五月の風太郎は私のとは違った」

 

「分かっています。それでも、羨ましいです」

 

「私も、五月みたいに迷ったまま答えられるところは羨ましい」

 

五月は驚き、少しして頷いた。姉妹間の比較は、救済で終わらない。だが勝敗を再実施する必要もない。

 

俺の掌には16本の細い印が現れた。色も形も異なる。誰か1人の印だけを見ようとすると、ほかが痛む。全員を同時に意識すると、自分の輪郭が薄れる。

 

「これは何だ」

 

オルドが調べる。

 

「追記済み関係の参照痕です。再同期の可能性を保持しますが、常時同期を要求するものではありません」

 

「消せる?」

 

「大結界の管理範囲外です。あなたの能力に定着したものです」

 

16人の顔が変わる。再び想い人へ会える可能性への期待。そして、俺が戻れなくなる恐怖。

 

「今、誰かへなれますか」

 

レムが問う。

 

「試したくない」

 

俺が答えると、誰も強制しなかった。二乃だけが不満を顔に出したが、「今日は」と付け加える。

 

「今日は休みなさい。明日のことは明日決める」

 

彼女なりの譲歩だった。

 

オルドは16本すべての履歴線へ封印印をつける。改変防止のためであり、感情を固定する封印ではない。記録に触れた住民は選択成立の事実を確認できるが、当人の記憶や私的な会話は読めない。

 

「これで全員が救済された、と呼べるのですか」

 

五月が問う。

 

オルドは答える。

 

「大結界上は完了です。心情上の完了は、当人が決めることです」

 

すべての視線が、それぞれ自分の胸へ戻る。レムは満たされた顔だけをせず、三玖は静かな不安を残し、撫子は選ばれた自画像の笑顔を未完成にした。

 

救済完了は、感情の完結ではない。

 

俺はようやく、その言葉の重さを理解した。

 

個別救済、完了。

 

同期が解ける。だが俺の身体は戻り切らず、膝をついた。

 

五月がすぐ支えようとして、先に訊く。

 

「触れてもよいですか」

 

「頼む」

 

彼女は肩を支える。

 

扉の外では15人が待っていた。全員の履歴に、過去のあとがある。

 

二乃が最初に口を開く。

 

「終わったの?」

 

オルドが杖を鳴らす。

 

「十六名全員の追記を確認しました」

 

歓声より先に、長い沈黙が来た。

 

誰も以前の痛みを忘れていない。だからこそ、空白ではなくなった先を1人ずつ確かめている。

 

俺は立とうとする。16の残響が同時に内側で動き、視界が揺れた。

 

レムと三玖が左右へ来る。今度は訊く前に、俺が言う。

 

「支えてくれ」

 

2人は頷いた。

 

すべてを終えたのに、俺自身の問題だけが残った。

 

誰かになり続けた俺は、どこまで元の俺へ戻れるのか。




お気に入り登録や評価で応援していただけると大変励みになります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。