清楚なる快楽主義者と無音なる破滅主義者   二人の出会いは世界を回帰させる   作:瑠璃1

1 / 1
日常への侵食

 

 

 

 

 

 とある豪華な劇場では、人がワイワイと楽しそうな声を響かせている。

 

 だが突如として劇場のライトは消灯し暗く静まり返った。

 

 笑い声、悲しむ声、子供の声すら聞こえない。

 

 そんな中なのに、一人無表情な男へとライトが照らされる。

 

 男は、タキシードの袖を捲り手首を露出させ、カッターで自らの手首を切り付け、その手首を上げ、ライトに照らさせる。

 

 「あぁ、痛いな」

 

 ライトに照らされ、袖から出したタクトを片手に持ち、静寂に包まれる劇場で、優雅にタクトを振るう。

 

 

 

 その、暗く静まり返った劇場は、音は発していない筈なのに、嫌に耳鳴りが鳴り止まない。

 

 

 

 タクトを振るっていた男はピタリと停止した。 感情という表情全てが、抜け落ちたかのような顔で、男は静寂に包まれる空間に、向けて口を開いた。

 

 「さぁ、己の破滅劇場を呼び起こそう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこにでもある普通の大学で、人があまり訪れない穴場の部屋、そこにはサボっている男が居眠りをしている。

 男は、寝苦しさと嫌に静まり返る大学の空気に勘付いたかの様に、男は目を覚ました。

 

「うーーー、よく寝た!!」

 

 男視点

 

「いやーー、流石に寝過ぎたかな?まぁ、大丈夫だろ。俺の授業まだな筈だし」

 

 「‥う、うん??」

 俺は、固まった体をほぐす様に伸びをしながらスマホで、今が何時間目になるのかを確認した。

 

 画面には、奇妙な数字が光っていた

 

 『14:41』

 

「げぇぇえ!!もうこんな時間かよ!」

 

「‥‥ハァ、あいつらも起こしに来てくれてもいいのによ。うん?なんかLINEが来てるな『にげr』だって?どういうことだよ」

 

 スマホの画面は、LINEが大量に溜まっていた。だが、俺はその時は確認しなかった。確認していれば何かが、変わっていたのかもしれないのに。

 

 「‥‥ハァ、取り敢えずあいつらに何があったか聞きにでもいくか。でもなぁ、LINEも来てねぇし、起こしにも来てくれなかったって事は怒ってるのかなぁ。」

 

 俺は、地べたにしゃがみ込み頭を抱えながら、あいつらに何が怒っているかはわからないが、どう謝ろうかと頭を悩ませた。

 

 「よし、土下座しよう。土下座すれば流石のあいつも許してくれるだろう」

 

 俺は体を持ち上げて、真剣な表情で決意を固めた。少しふざけた感じで、行けば笑いを取れてあいつらも許してくれる、かもしれないから少し大袈裟にやるか。

 ‥フッ、見せてやる俺の土下座奥義を。

 

 「まぁ、流石に土下座すれば大丈夫だろ。いや、本当に大丈夫か?うぅーー、いやぁ、もうこれでいいや」

 

 フッとまた、決意が鈍るように俺の頭に不安が押し寄せた、だが考えた所でまた土下座になる堂々巡りになる気がして、こんがらがる思考を停止させあいつらに謝りに行くために扉を開いた。

 

 ガチャ

 

 

 毎回あいつらがいる空き部屋に向かう途中、いつもと大学の様子がおかしかった。誰かしらいるはずなのに、音も話し声も聞こえない。まぁ、こんな事もあるだろうと、その時は気にも止めずにあいつらがいる空き部屋へと走った。

 

 

「すいませんでした!!!!」

 

 俺は、空中に飛び上がり、前のめりに回転しながら、全身を出来るだけ低くして、滑り込む様な土下座を披露した。これで、許してくれーーー!

 

「何かは、わかりませんが怒らせた事をジュースなど奢りますので、許してください!!!」

 

 

    シーーーーン

 

 

 土下座しているのに、なんの反応も起きなかったどころか、話し声や笑い声もしない。不思議に思い土下座したまま、上を見上げた。するとそこには、いつもいるはずのあいつらの姿はなかった。

 

 

 

 「え?あいつらいない?毎回ここにいるのに?」

 

 

 バァーーーン   パリン

 

 

 「グギャーーーア!」

 

 

 「うわ!なんだ?」

 

 

 

 好奇心からか俺は、扉をそっと開け物陰から、音がする方へゆっくりと頭を覗かせた。そこには、トカゲの様な頭とドラゴンの様な大きな翼をバタバタと動かし、大きな目をギョロリと回している怪物がいた。

 

 俺と目が合った気がした。

 

 (やばい!)

 

 俺は、叫び出しそうな口を咄嗟に塞ぎ頭を直ぐに引っ込めた。幸いあの化け物は俺に気づかなかった様で、直ぐに飛び出して行った。俺は慌てて、さっきの部屋へと戻った。

 

 

 「‥‥ハァ、ハァ、なんだよ!あの化け物は、あんなの現実にいたかよ。それに、やっぱりみんないなくなってるよな。は、そうだ!あいつらのLINEを遡れば何が起きたかわかるはずだ!」

 

 慌てて、スマホを取り出して過去のLINEの記録を遡り始めた。そこには、俺を心配するあいつらと、なぜ世界がこうなってしまったかを断片的に記されていた。

 

 

ユウタ『おーーい、いつまで寝てんだ。そろそろ授業始まるぞ』10:50

 

コウキ『お前(笑)やば過ぎ!もう授業始まってんぞ!』11:30

 

タムラ『おい、大丈夫か?体調悪いくて早退するなら返信してくれよ。送るから』11:31

 

ユウキ『おーーい?大丈夫ですか(笑)まぁ、お前に限って大丈夫だと思うけどよ』11:45

 

ユウタ『まぁ、お前の事だから寝てるんだろけど、授業のやつ取り敢えずまとめてたからな』11:56

 

タムラ『おい!なんか、変な鐘の音が聞こえないか?』12:00

 

ユウキ『おい!みんな大丈夫か?なんか化け物が空から降ってきたんだけど』12:05

タムラ『あぁ、見たよ。あれなんだよ、特殊撮影じゃないよね?』12:06

ユウタ『明らかに違うだろ!!とにかく逃げねぇと』12:06

 

ユウキ『やばい、おれだめかも、ちかくにいる』12:20

 

タムラ『大丈夫!取り敢えずじっとしてて』12:21

 

ユウタ『大丈夫か!返事しろ!』12:21

 

ユウタ『おい!大丈夫なんだよな!返事しろ!してくれよ!』12:22

 

タムラ『返事は!ねぇ!返事して!』12:22

 

 スマホの液晶が放つ青白い光に照らされながら、俺はゆっくりと震える指であいつらのLINEの記録を見ている。いつもと変わらないLINEだったはずなのに、12:00を回った瞬間から様子がおかしくなり始めた。

 

 突如としてユウキの返事が途切れ、タムラとユウタは必死な連投をしていた。俺は胃から込み上げてくる何かを、抑えることができそうになかった。

 どれだけ確認しても、ユウキの返事はここで途切れ、あいつらはさらに慌てたLINEの記録が残っているだけだった。

 さっきまで『土下座奥義』や『あいつらに怒られるかも』などと呑気な事を考えていた自分に嫌気がさした。

 

 そして、仲間達が必死に命を逃げている時に、ぐっすりと眠りかけていた自分に腹が立ってしょうがないなかった。

 

 『にげr』それが誰か打ったのか確認にする為に震える指をまたゆっくりと滑らした。

 

 ユウタ『クソが!なんで返事しねぇんだよ!』12:23

 

タムラ『取り敢えず逃げよう。ユウキは後から俺が探しに行く。だから逃げよう』12:23

 

タムラ『なぁ、俺も近くにいるんだ。さっきとは別の化け物が』12:42

 

ユウタ『な!?近づくなよ!!ゆっくりだ!ゆっくりその場から離れろ!』12:42

 

ユウタ『大丈夫だ!俺が迎えに行く。それまでどうにか隠れていてくれ』12:42

 

ユウタ『大丈夫だ。みんなで生き残ってまたゲームしよう』12:43

 

タムラ『むりだ ありがとう いきのk』12:45

 

ユウタ『タムラ!タムラ!返事しろ!お前までクソが!!』12:45

 

 今度はタムラのLINEが途切れた。それ以上俺は確認する気力が無かった。もうわかっていた、ユウタもまた死んだのだと。

 

「‥‥うそだ‥うそだ」

 

 ウプゥ うぇぇーーー

 

「‥‥はぁ、はぁ、あいつら死んだのか?」

 

「‥‥はぁ、はぁ、なんだよ、なんなんだよ!?あいつらが何したって言うんだよ!」

 

 俺は自分が吐いた胃液がチクチクと痛み出す。それが、あいつらが死んだせいなのか、自分が吐いた胃液のせいなのかわからなかった。もう、何も考えたく無かった、だが世界は俺の感情など関係ない様に襲いかかる。

 

 バァーーーン!!

 

「は?また、戻ってきたのか」

 

 俺は、部屋の隅に慌てて隠れ、あの化け物に見つからないために、自分の体を小さく、小さく、丸めた。仲間を殺したくせに、まだ殺したらないのかよ!!

 

(くそ!くそ!くそっ!なんで俺は隠れてんだよ!)

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。