シオリア記〜この国は如何にして成ったのか〜 作:くいあらためよ
「………………は?」
ミューズの間の抜けた声だけが、広い謁見室に響いた。
伯爵は気分を害した様子もなく続ける。
「街道を根城にする野盗どもだ。数はおよそ三十」
「いや、待ってください」
ミューズは慌てて手を振った。
「俺はただの村長ですよ?」
「知っている」
「騎士でもありません」
「知っている」
「兵士ですらありません」
「それも知っている」
話がまるで通じない。
ミューズは助けを求めるようにガルドを見た。
しかしガルドは目を逸らした。
裏切りだった。
「領主様」
仕方なくミューズが聞く。
「なぜ俺なんです?」
伯爵は少し考えるように顎へ手を当てた。
「理由は二つだ」
そして真っ直ぐミューズを見る。
「一つ。君はゴブリンの群れを退けた」
「もう一つ。私は君を試してみたい」
謁見室が静まる。
ミューズは眉をひそめた。
「試す?」
「そうだ」
伯爵は静かに言った。
「私は人を見る目には自信がある」
その眼差しは、まるで剣のように鋭かった。
「君には何かがある」
「だから確かめたい」
ミューズは答えられなかった。
『完全に目を付けられてるじゃねぇか』
エリオが内心で呟く。
ゴブリン討伐の褒賞だけではなかった。
この伯爵は明らかにミューズ自身へ興味を持っている。
何を期待しているのかは分からない。
だが、何かを見ている。
そんな気がした。
「もちろん無理にとは言わん」
伯爵が言う。
「だが成功した場合、それに見合う報酬も用意する」
そう言って従者へ視線を送る。
一枚の羊皮紙が差し出された。
ミューズはそれを受け取り目を通す。
が、読めないのでガルドに読み上げてもらう。
そして固まった。
「これは……」
「開拓許可証だ」
伯爵は笑う。
「シオン村周辺の未開拓地を自由に開発する権利を与える」
ガルドの顔色が変わった。
それは辺境民にとって破格の報酬だった。
「先払いだ」
伯爵は続ける。
「気に入らなければ依頼は断っても構わん」
そう言われてミューズは沈黙する。
しばらく考え、やがて深く頭を下げた。
「お受けします」
翌日。
ミューズとガルドは城塞都市を歩いていた。
「人が足りねぇな」
ミューズが呟く。
ガルドも頷く。
シオン村の人口は百人にも満たない。
開拓許可証は手に入った。
だが開拓する人間がいない。
畑を増やすにも、家を建てるにも、森を切り開くにも、すべて人手が必要だった。
「だな」
ガルドが腕を組む。
「心当たりがあるのか?」
「村の連中だけじゃ無理だ」
「なら集めるしかねぇ」
ガルドはにやりと笑う。
「こういう時にぴったりの人間が、大勢いる場所だ。腕のいい連中ばかりだからな」
苦笑した。
二人が向かったのは都市のスラムだった。
城壁の内側とは思えないほど荒れた場所。
痩せ細った子供。
酒に溺れた男。
仕事を失った元兵士。
希望より絶望の方が多い場所だった。
『なんか後味が悪いな……』
エリオは周囲を見回す。
豪華な城。
豊かな市場。
整備された道路。
そのすぐ隣で、人々は明日の食事にも困っていた。
「返せって言ってんだろ!」
二人は歩いていると、そんな会話を聞いた。
路地裏で怒鳴り声が響いている。
数人の男が一人の少年を囲んでいる。
「金がねぇなら体で払え!」
少年の顔は真っ青だった。
ミューズは足を止める。
ガルドは嫌な予感がした。
「おい」
「なんだ?」
「止めるんだろ?」
「当たり前だ。子供一人に情けねぇ奴らだ」
『やっぱりな』
エリオはため息をついた。
結果、男たちはガルドに叩きのめされた。
少年は無事だった。
そしてその日から少年がつきまとうようになった。
「なあ」
少年が尋ねる。
「本当に住む場所があるのか?」
「ある」
「本当に食えるのか?」
「働けばな」
ミューズは即答した。
少年は困惑していた。
「なんでそこまでするんだ?」
「人が欲しいからだ」
「は?」
「村を大きくしたい」
あまりに真っ直ぐな答えだった。
少年はスラムですれ違う人にミューズの話をした。
その話はすぐに広まった。
最初は誰も信じなかった。
当然だ。うまい話には裏がある。
それがスラムの常識だった。
だがミューズは誰に対しても態度を変えなかった。
借金持ちでも、孤児でも、元傭兵でも、犯罪歴のある流民でも。
働く意思があるなら受け入れる。
それだけだった。
『なんなんだろうな』
エリオは思う。
ミューズは賢いわけじゃない。
口が上手いわけでもない。
特別な理想を語るわけでもない。
それなのに、気付けば人が集まっている。
ゴブリン討伐の時もそうだった。
今回もそうだ。
皆が自然とミューズを見ている。
『不思議な奴だけど、嫌いになれない』
エリオはそう思った。
そして出発の日。
城門の前には大勢の人々が集まっていた。
女子供。
元傭兵。
借金を抱えた男たち。
仕事を失った職人。
総勢六十人以上。
「増えたなぁ……」
ミューズが頭をかきながら呟く。
「増えすぎだろうが」
ガルドが頭を抱える。
荷馬車には食料と資材が積まれていた。
さらに、新しく購入した武器も。
短剣。
そして数丁のクロスボウ。
野盗討伐を見据えた装備だった。
「農民にしちゃ物になったな」
元傭兵の男が笑う。
「最近は物騒な連中ばかりだからな」
ミューズも苦笑した。
周囲から笑い声が上がる。
少しだけ緊張が和らいだ。
やがて城門が開く。
ミューズは振り返った。
六十を超える人々。
不安そうな顔。
期待に満ちた顔。
様々だった。
だが全員が自分を見ている。
その光景に、エリオは既視感を覚えていた。
ゴブリン襲撃の前夜、あの時と同じだった。
皆がミューズを見ている。
信じている。
祈っている。
『不思議な人だな』
英雄らしいことなど何一つ言わない。
立派な理想も語らない。
それがなぜなのか。
それでも人が集まる。
まだエリオには分からなかった。
ミューズは大きく息を吸った。
「行こう」
静かな声だった。
だが、その場にいた全員へ届いた。
「まずは野盗を倒しながら帰る!」
元傭兵や元兵士たちの表情が変わる。
久しく忘れていたものを思い出したような顔だった。
必要とされること。
頼られること。
そのことが少しだけ嬉しかった。
「それから村を広げる」
男たちも女たちも顔を見合わせる。
楽な道ではない。
辺境の開拓村だ。
苦労もするだろう。
失敗だってあるかもしれない。
それでも、今いる場所よりは前へ進める気がした。
「みんなで飯を食える場所を作ろう」
その言葉に、子供たちが顔を上げた。
温かい食事。
雨風をしのげる家。
お腹いっぱい食べられる日々。
そんな当たり前の未来を想像し、自然と笑みがこぼれる。
歓声は上がらない。
だが、誰一人反対しなかった。
それで十分だった。
ミューズは頷く。
「出発だ!」
ガルドが力強く叫ぶ。
その声を合図に、六十余名の一団は歩き始めた。
シオン村へ向かって。
後にシオリア発展の礎となる最初の開拓団が、この日静かに動き出したのである。
その後の行軍は驚くほど順調だった。
六十人を超える集団ともなれば、それだけで抑止力になる。
途中で見かけた小規模な野盗たちは、こちらを見るなり姿を消した。
中には襲ってくる者たちもいた。
だが、長くは続かない。
「前だ!」
元傭兵の男が叫ぶ。
街道脇の茂みから飛び出した野盗が三人。
だが、その瞬間には槍を構えた男たちが立ち塞がっていた。
かつては傭兵、あるいは衛兵。
戦いを知る者たちだ。
「帰れ」
低い声。
それだけで野盗たちは顔色を変えた。
そして逃げ出す。
追撃はしない。
わざわざ命を懸ける理由もない。
時には、いくつかの集団が手を組んで襲いかかってくることもあった。
それでも結果は同じだ。
すべて返り討ちにされていた。
二日目の夜。
一行は森の中で野営していた。
焚火が揺れている。
子供たちはすでに眠りにつき、大人たちは交代で見張りをしている。
どこからか紛れ込んだのか、楽器の演奏が得意な者がいて、軽快な音色を奏でていた。
その周囲では何人かが酒を酌み交わし、小さな宴会が開かれている。
「順調すぎて逆に怖いな」
ガルドが呟く。
ミューズも同感だった。
「確かにな」
あの伯爵が依頼するほどだ。
もっと厄介な相手を想像していた。
だが今のところ大きな被害はない。
拍子抜けするほど順調だった。
『でも、安全に帰れるならそれが一番なんだけどなぁ』
エリオはそう思った。
その時だった。
見張りの男が勢いよく立ち上がる。
「誰だ!」
周囲の空気が一変した。
眠そうだった元傭兵たちも、一斉に武器へ手を伸ばす。
森の闇。
暗闇の中から人影が現れた。
一人。
武器は抜いていない。
ゆっくりと、まるで散歩でもするかのような足取りだった。
やがて焚火の明かりがその顔を照らす。
金髪。
痩せた顔。
擦り切れた外套。
見覚えがあった。
「お前は……」
ミューズが立ち上がる。
男は苦笑した。
「また会ったな」
焚火を囲んだ、あの日と同じ顔だった。
『あっ』
エリオは思わず声を上げる。
『やっぱりこいつか』
予想はしていた。
だが本当に現れると話は別だ。
しかも一人で来ている。
どう考えても何かある。
ガルドは槍を握ったまま問いかけた。
「何しに来た」
男は肩をすくめる。
「飯の借りを返しに来た」
「もう返してもらったと思うが?」
ミューズは苦笑しながら手を上げた。
「武器を下ろせ」
そう言ってから男へ向き直る。
「野盗の情報をくれただろ? おかげで助かった」
「それだけじゃ足りないと思ってな」
男は静かに首を振った。
そしてミューズたちの後ろに並ぶ人々へ視線を向ける。
女たち。
子供たち。
元兵士たち。
荷馬車。
武器。
食料。
そのすべてを見渡し、どこか感心したように笑った。
「なるほどな」
小さく呟く。
「お前は見どころがある。領主に呼ばれるわけだ」
「何がだ?」
「いや、こっちの話だ」
男の表情が少しだけ真面目になる。
「それより大事な話がある」
そして周囲を見回した。
「お前たちは狙われている」
ミューズが訝しげな顔をする。
「……どういうことだ?」
ガルドも鋭く睨みつける。
男は肩をすくめた。
「お前たちは目立ちすぎるんだ」
そう言って荷馬車の列を見る。
「女と子供を連れた集団」
「しかも大量の食料と武器まである」
「野盗から見りゃ上等な獲物だ」
焚火の光を受けながら男は続ける。
「もうすぐ襲撃が来る」
「それもかなりの人数だ」
「野盗ならすでに何度も追い払ったぞ!」
後ろにいた元兵士の一人が声を上げる。
男は首を横に振った。
「あんな小物じゃない」
その声には確信があった。
「ここ一帯を仕切っている連中だ」
「五十人以上いる」
周囲が静まり返る。
男はそのまま焚火の傍へ腰を下ろした。
「なぁ、村長さん」
火を見つめながら言う。
「これは警告だ」
「今すぐ引き返せ」
「じゃないと酷いことになる」
誰も口を開かなかった。
今さら戻ることなどできない。
戻ったところで未来はない。
ミューズはしばらく考え込む。
やがて口を開いた。
「敵は?」
「ん?」
男が顔を上げる。
「敵はどこにいる?」
「おい、正気か!?」
男は思わず目を見張った。
ガルドは頭を抱えそうになる。
考えていることが分かってしまったからだ。
『ミューズ、お前……』
エリオも同じだった。
呆れながらも、どこか納得してしまう。
いかにもミューズらしい。
「襲ってくるなら先に見つける」
ミューズは当然のように言う。
「それだけだろ」
周囲が静まり返った。
元傭兵たちでさえ顔を見合わせる。
男は数秒黙り込んだ。
そして、やがて吹き出した。
「ははっ!」
堪えきれないように笑う。
「なるほどな」
「何がおかしい?」
「いや」
男は笑いながら首を振った。
「なんで領主があんたを気に入ったのか、少し分かった気がする」
そして口元を吊り上げる。
「面白い男だ」
男は立ち上がり、右手を差し出した。
「キース。ただのキースだ。少し手伝ってやるよ」
ミューズも手を差し出す。
「ミューズだ。シオン村の村長をやってる」
二人はしっかりと握手を交わした。
「早速だが、動くなら早い方がいい」
ガルドが口を開く。
「こちらは敵の居場所を知らん」
「心配ない」
キースは気楽な調子で答えた。
そして森の奥へ向かって手を振る。
「おーい!」
その直後だった。
木の上から人影が飛び降りてくる。
周囲がざわついた。
どうやら最初から潜んでいたらしい。
「隊長」
男はキースへ向かい頭を下げた。
「ここから北へ三キロ。古い城塞跡を根城にしています」
「人数は?」
「頭目を含め現在四十名ほどが城塞内に」
「残りは森の各所を巡回しています」
報告は淀みなかった。
『キースって奴、最初から倒す気だったんじゃないか?』
エリオは眉をひそめる。
『それにしても、なんでここまで協力するんだ?』
同じ盗賊のはずだ。
それなのに行動がおかしい。
「なぁ、キースの旦那」
ガルドが険しい表情で言った。
「あんたらのメリットは何だ?」
「同業者の力を削ぐためか?」
ミューズは特に気にしていない様子だった。
だがガルドは違う。
ただ話が出来る相手だからといって、簡単に信用するつもりはない。
キースはしばらく黙り込んだ。
そして少しだけ悲しそうな顔をした。
「そんなもんじゃないさ」
ぽつりと呟く。
「元を辿れば……俺たちにも責任がある」
一同が息を呑む。
だがキースはすぐに首を横へ振った。
「いや、今は関係ない話だ」
そう言って焚火へ視線を落とした。
揺れる炎の向こうで、その横顔だけがどこか後悔しているように見えた。
「まぁいい」
ミューズが口を開く。
「キース。具体的な奴らの位置や拠点は分かるか?」
その言葉に、その場の空気が変わった。
焚火を囲む男たちの表情から笑みが消える。
いつの間にか、キースの部下が地面へ簡単な地図を描いていた。
キースは木の枝を手に取ると、地図の一角を指した。
「ここが連中の根城だ」
地面に円を描く。
「古い城塞跡でな。城壁が半分ほど残ってる」
さらに線を引く。
「こっちに見張り台」
別の場所を指す。
「こっちは洞窟だ」
そして中央付近を軽く叩いた。
「頭目は大体この辺にいる」
ガルドが地図を覗き込み、眉をひそめる。
「面倒だな」
「だろ?」
キースが苦笑する。
「正面から行けば被害が出る」
後ろにいた元傭兵の一人が腕を組んだ。
「なら朝を待って包囲するか?」
だがキースは首を横へ振る。
「無理だな」
「なんでだ?」
「森に逃げられる」
キースは簡潔に答えた。
「連中はこの辺の地形を知り尽くしてる。逃げられたら追いかけるのは骨だぞ」
周囲が黙り込む。
確かにその通りだった。
「夜襲は?」
誰かがぽつりと言った。
ガルドは眉をひそめる。
「城塞だぞ?」
「見張りもいる」
「それに、こっちは寡兵だ。普通はやらん」
他の傭兵たちも頷く。
キースも否定はしなかった。
「普通ならな」
その時だった。
静かだったミューズが口を開いた。
ガルドが顔を上げる。
「何が言いたい?」
ミューズは地図を見つめながら言った。
「連中は強いんだろ?」
「ああ」
キースが頷く。
「騎士崩れの奴もいる」
ミューズは小さく頷く。
「だからこそ油断してる」
周囲の視線が集まる。
「今まで敵なんかいなかったんじゃないか?」
地図を指差しながら続けた。
「周りの盗賊は従う。村人だって逆らわない」
小さく鼻で笑う。
「まるで王様気取りだ」
誰も口を挟まない。
ミューズはさらに続けた。
「俺はガルドみたいに戦の知識はない」
そう前置きしてから言う。
「でも、もし俺がそいつらの立場なら油断する」
「どうしてだ?」
元傭兵の一人が尋ねる。
ミューズは当然のように答えた。
「だって、いつだって狙う側だからだ」
焚火の火が揺れる。
「自分たちが捕食する側だと思い込んでる。襲われるなんて考えてもいない」
ガルドが腕を組んだ。
「つまり夜襲は通る可能性がある、と」
ミューズが頷く。
キースも何か思い当たる節があるのか、反論はしなかった。
そしてミューズが口を開く。
「なら、今夜行こう」
全員が一斉に振り向いた。
「おいおい」
元兵士の一人が苦笑する。
「即決だな」
「だって連中も俺たちを狙ってるんだろ?」
ミューズは当然のように言った。
「だったら待つ意味あるか?」
ガルドが顔を押さえる。
「いや待て」
「作戦ってもんがある」
「あるだろ?」
ミューズは地図を指差した。
「キースたちは場所を知ってる」
周囲を見回す。
「俺たちは人数がいる」
さらに城塞跡を指差す。
「夜なら向こうは油断して寝てる」
そしてガルドたちを見る。
「なら襲う」
『単純すぎるだろ……』
エリオは心の中で思わずツッコんだ。
だが同時に納得もしていた。
ゴブリン討伐の時もそうだった。
ミューズは難しく考えない。
問題を見つけたら潰す。
それだけだ。
キースはしばらく黙っていた。
やがて吹き出す。
「ははっ!」
肩を震わせながら笑う。
「やっぱり面白ぇな、お前」
「笑うな」
ミューズが顔をしかめる。
「悪い悪い」
キースは涙を拭いながら続けた。
「でも嫌いじゃない」
そう言って再び地図を指差す。
「よし」
「やるならこうだ」
周囲の男たちが身を乗り出した。
「俺の部下十五人が先行する」
木の枝で見張り台を叩く。
「まず見張りを無力化」
続いて城門を指した。
「その後、門を開ける」
そしてミューズたちを見る。
「その間にお前らが突っ込む」
元傭兵たちが顔を見合わせる。
悪くない作戦だった。
「相手は四十人」
ガルドが呟く。
「こっちは三十七人」
「互角だな」
「違う」
キースは首を振った。
そしてニヤリと笑う。
「向こうは寝てる」
焚火に照らされたその顔は、いかにも盗賊の頭もしかった。
「今夜だけは」
少し意地の悪い笑みを浮かべる。
「俺たちの方が悪党だ」
周囲から笑い声が漏れる。
緊張が少しだけ和らいだ。
だが誰の目からも警戒は消えていない。
これから人と人が殺し合うのだ。
ミューズは静かに立ち上がった。
焚火を見つめる。
揺れる炎の向こうには仲間たちの顔があった。
元傭兵。
流民。
職人。
孤児。
昨日まで他人だった者たち。
だが今は違う。
守るべき仲間だった。
ミューズは大きく息を吸う。
「生きて帰るぞ」
小さな声だった。
だが全員に聞こえた。
「野盗を倒して」
一拍置く。
「シオン村へ帰る」
誰も反対しなかった。
それで十分だった。
パチリ、と薪が爆ぜる。
その夜。
ミューズたちは決戦のため、静かに動き始めた。
ストックが切れたのでまた頑張って描きます…