着けていた魔装具はボロボロに。右腕はもう上がらない。脚はまだ付いているのかどうか。それでも左手は動く、ステッキも辛うじて折れてはいない。
だったらやれる。ようやく訪れた絶好のチャンス、ここを逃してなるものか!
「…はぁ、はぁ。フゥー」
息を整えろ、全ての魔力をこの一撃に込める。
「さぁ、これが私たちの正真正銘最後の一撃! 爆ぜろ、そして砕け散れ」
名一杯の力を込めてステッキを振り下ろす。
刹那、視界一杯に広がる眩い光。そして聞こえる空全体が崩れ落ちたのかと錯覚するようなとてつもない轟音。
そして視界が開けたとき、私の口から歓喜の言葉が零れる。
「やった、やったんだ」
目の前には完全に原型をとどめていない黒い影。それが霧散するのを見届ける。
全てが終わったことを理解した私の脳裏にはかつての戦友たちの姿が浮かんでくる。
「ツバサ、ユウ、アイ・・・そしてエル」
ようやく普通に戻れるんだ。
☆☆☆☆☆
昔、世界は謎の影に襲われていた。
まぁ、それは襲われていたっていう言葉のまま既に解決したことであるんだけど。
じゃあ、なんでそんな話をしたかって? いや別に深い意味はないんだ。ただ今の情勢を説明するにはそこから説明した方が早いと思ってね。
ある魔法美少女が世界を救ったあと、世界はより混乱したってことをね。
まったくアイツが討伐されなかった方が、少なくとも人類は仲良くしていたはずね。なにせ、今じゃ魔法は近代兵器と並ぶお手軽武力になっちゃったわけだし。
「というわけで、愛純さんにも今度見てもらいたいんです」
「そのスーパールーキーを? リンも知っていると思うけど、私それなりには目が肥えてるよ」
だからこうやって見込みのある娘の品定めをさせられることも多々あるわけだ。
まぁ、私は平和主義者だし本人の意思を尊重しているから戦いたくない娘に強制したりはしないけどね。
ただ、こうやって魔法少女の品定めを勧めてくる連中の考えはどうか知らないけど。
目の前のリンにしても、上司には持ちたくないタイプだし。私のことを慕ってくれてるだけありがたくはあるんだけど。
「愛純さんは世界を救った魔法少女ですからね。もちろん、それは承知していますよ」
「もう魔法少女って年じゃないけどね」
そう、実は私こと生従愛純(おきより あずみ)はかつて世界を救った張本人なのでした。
いやーあの戦いは辛かった。冗談抜けで何度死にかけたことか。まぁ実際に死んだ娘もいるんだけど。
「まだお酒は飲めない年だからセーフですよ」
「年齢がばれるからやめて。で、そのルーキーさんはどんな魔法使いなの? 既に何人かヤっちゃてるとか? 最近は物騒なことに魔法を使う連中が多いから」
「いえ、そんなことはないですよ。それどころか人に危害を加えた記録もありません」
「ならなんで、あんたたちにリストアップされるのよ」
「まぁ、それは会ってからのお楽しみです」
そういうまともなプロフィールのやつに限って変な連中が多いのよね。
というかあれか、私のところに来るような人間なんて変な連中しかいないから、プロフィールが関係ないだけだわ。
「で、いつもの場所に行けばいいの?」
「えぇ。お願いします。使用の許可は得ましたので」
こういう時は大抵、いつもの場所もとい演習場での実技試験となる。
まぁ、実技試験と言っても大抵は私が適当にぼこして終わるんだけど。自慢じゃないけど私ってめちゃくちゃ強いからさ。
「じゃ、準備したら行くわ」
準備と言っても大したことをするわけじゃない。精々動きやすい格好に着替えて、ステッキを持っていくだけ。しかもステッキに関しては本当は無くても構わないくらいだし。
時間にして10分くらいだろうか?
とにかく私が演習場につくまではそれほど時間はかからなかった。
演習場に入った私に目に映ったのは2つの人影。一人は私を出迎えるリン。もう一人が今回の挑戦者ってことね。
うーん、パッと見だけど幼く感じるなぁ。強さに年齢はそこまで関係は無いとはいえ、そういう人間は面倒なバックボーンがありそうで嫌なんだよね。
しかも、見た目よりももっと気になることがあるわけで。
「ねぇリン、あの娘の魔装具って第一世代じゃないの? なんで今更そんな娘がふらっと現れるのよ」
「それが私も分からなくて」
魔装具っていうのは簡単に言えば魔法を使えるようにする道具だ。
昔は個々人の資質に左右された魔法も、各々に調整された魔装具を身に着けることで、ある程度のレベルまでは能力を引き出してくれる。だから今の世代の魔法使いは魔法を伸ばす必要性はそこまで無い。高レベルの魔法は一部の特別な子たちに任せてしまえばいいからだ。
ただ、魔装具は一度着けると換装が難しい。各々にチューニングされているせいで他の魔装具を着ければ拒否反応が出てしまう。輸血みたいなものだと思ってもらえればいい。
そのせいで色々な弊害が出てしまう。魔装具の換装ができないというのは、つまり更新ができないことに他ならない。私たちの力量は各々の能力にも依るけど、基本的には魔装具の性能に左右される。そして、魔装具の性能は日夜向上しているわけだ。つまり、ベテランになればなるほど相対的に力が落ちていく。
私たちの多くは、10代前半から後半にかけて魔装具をつけ始める。その方が適合しやすいからだ。そしてその多くが5年も経たないうちに、明らかに性能が不足してくる。結果どうなるかって? 基本的にはその時点でお役御免。
中には、膨大な費用をかけたワンオフの魔装具を作成して更新していく人間もいるが、それは特別中の特別、一握りの天才だけだ。
第一世代は文字通りその魔装具のオリジナルモデル。私のような初期の魔法使いだけが装着している骨董品のようなものなのだ。
しかも、第一世代の魔装具に関しては、色々とやばいことをしちゃっているので換装は実施不可能。つまり、この装備で戦い続けるしかない。某国民的RPGでいう呪いの装備だ。まぁ、外すことは普通にできるんだけどね。
「まぁ、いいわ。それじゃ軽く遊んでくるとしますか。リンは後始末の準備でもしておきなさい」
「ではお気を付けて。いや、気を付けるのは相手の方でしょうけど」
珍しいリンの軽口は手を振って受け流して、目の前の挑戦者もといルーキーさんに向かって歩き出す。
ある所まで近づいたタイミングで彼女が黄色い声を発した。
「どうも、です」
そして目の前の魔法少女はちょこんと頭を下げる。
身長150㎝前後、小柄な体に長い髪に隠れた幼い表情。
うーん、やっぱり見れば見るほど若いなぁ。彼女が魔装具をつけるころには少なくとも第二世代の魔装具が作られているはずなんだけど。
まぁとりあえず、自己紹介と。私は礼儀正しい女だからね。
「私は生従愛純、まぁアズミって気軽に呼んで頂戴」
「はい。ではアズミさん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますって、まさか本当にこの私と戦うつもり? 言っておくけど私を相手にするには一線級の魔法使いが5人はいるわよ」
「大丈夫です。このフィールドなら問題ありません」
問題ないねぇ。
もしかして舐められてる感じ? いるんだよねこういう娘。そして私はそういう自分の力量が分からないやつは嫌い。それか相手の力量も把握できない愚図か。
どちらにしても軽く捻るだけなんだど。徐々に出力を上げていけば力量差も分かるでしょうし。
「なら、先手は譲ってあげる」
「ありがとうございます。では」
そういうと目の前の魔法少女は手を私に向けて差し出してきた。
「…これは?」
「握手です。こういう時はするものでしょう?」
確かになんの魔力も殺気も込められていない。少なくともこの手を握っても私に危害が及ぶことは万が一にもないことは分かる。これでも場数は踏んでいるから、それくらいは理解できる。
それにこれを払いのければ私の格も落ちるし。私はプライドの高い女だし、堂々と手を差し出すとしますか。
「ご丁寧にどうも」
「こちらこそです。それにあなたが素直な人で良かったです」
握った手から魔力が流れ込んでくるのが分かる。
でも、これは攻撃じゃない? いったい何をされたかな、少し楽しみだ。
「何の魔法を使った?」
「それは秘密です。では始めましょうか」
そういうと目の前の魔法少女は手を放して私と距離を取った。どうやら試合開始のようだ。
さて、どうしようか?
とりあえず、適当に簡単な基礎魔法でもばら撒くとしますか。
「そーら避けられる?」
まぁ、これくらいは避けられるでしょうけど。
問題はどう動いてくれるかだけど、中々回避行動を取らないわねあの娘。このままだと直撃なんだけど…。
どんと大きな音の後、土埃が舞い上がる。
あ、当たった?
やばいまさか殺しちゃったかも。そんなに強い魔法じゃないから大丈夫だとは思うけど、回避もできないレベルだともしかして。
そんな私の焦っている姿を見てか、ルーキーさんは土埃の中で声をあげる。
「おぉ。びっくりしました」
よかった無事だったみたい。
ただ、その言葉は土埃が晴れてルーキーさんの姿を見たときに撤回することになる。
「って、なんで裸なのよ」
一糸纏わぬ姿で再登場したルーキーさんに思わず声を上げる。
「え? だって魔法で燃えちゃいましたから」
「やっぱり直撃してたの? でもその割には無傷なのね」
「えぇ、おかげさまで」
大した魔法じゃないとはいえ、服は燃えているはずだし無傷というのは考えにくいんだけど…。
まぁ、何度か試せばいいか。
「ならこれはどう?」
さっきより気持ち強めに打ってみたけど。さて、どうするかな。
再度、轟音とともに砂ぼこりが舞いあがる。
やっぱり、避けなかったわねあの娘。
うーん、防御魔法を使っている感じはしないんだけどなぁ。
とするとなんらかの固有魔法かな?
「凄い威力ですね」
砂ぼこりから再度姿を現したルーキーさんはやっぱり無傷と。
でもあの娘、大して戦闘経験があるわけじゃなさそうね。あの程度の魔法を凄い威力って言うくらいだし。
「あなたこそ大した魔法ね。中々珍しい魔法を見せてもらったわ」
「やっぱりそうですか。何を隠そうこれが私の魔法、『
自信満々にルーキーさんは宣言する。
あぁ、この娘あれね。戦闘経験云々の前にバカね。ちょっとカマをかけただけでベラベラと語り出しちゃっているし。
「…なるほどね。タネが割れれば大したことないわね。さっきの握手が発動条件かしら?」
「いえ、あれはこの絶対平和宣言の発動に何の影響もありません。あれは私のもう一つの魔法、『
「まーた、面倒くさい魔法を作ったわね。ならあんたはどんな格上が相手にも勝つ可能性があるってことかしら」
「だったらよかったんですけどね。残念ながら魔力を模倣したところで強くはなれません。だから私は絶対平和宣言を作った。つまり私の本領は持久戦です。このまま延々と魔力が尽きるまで何もせず待つだけです。幸いなことにあなたは魔法をいくつか使って私は弱者の模倣以降は使用していない。必然的にあなたの魔力が先に尽きることになります」
なるほど…。バカな割には中々賢いやり方だ。1対1の戦いならこのルーキーはそこそこやれるってことね。
でも、私はスペシャルな魔法少女なんだよね。魔法の仕組みが分かれば対処なんて、どうにでもできる。
「ねぇ、ルーキーさん。あなたに魔法は効かないんだよね?」
「えぇ。私に魔力を介した攻撃は一切効果がありません」
やっぱりね。絶対平和宣言なんて言っても、その実効かないのは魔法だけ。
ならどうとでもやりようはある。
こちとら魔法の黎明期から戦ってたベテラン、魔法を使えない状況なんてどんだけでもあったっていうの。
「ありがとね。それとこれは私からのアドバイス。あんまり自分の魔法は喋るもんじゃないよ?」
さてと、力加減だけ気を付けてと。
では行きますか!
魔装具に力を込める。目標はただ一つ、目の前のルーキーだけ。
さぁ、対応することができるかな?
「え、ちょ…。グエ」
残念!
まだまだ、経験値が足りなかったみたいね。
「じゃあ後は頼んだわよリン」