「…」
店主の店は今日も閑古鳥が鳴いている
ガララッ
「「おじゃましまーす!!」」
「お、お邪魔します…」
「ん、来たか」
店主の店には、毎日夕方ごろになってから小さなお客様がやってくる。遠野一家である
「んじゃ、手ぇ洗って待ってろ」
「はーい!!」
「おじさん、今日は何を作ってくれるの?」
「出てくるまで待ってろ。不味くないのは約束する」
「おじさんのはぜーんぶ美味しいから、今日も楽しみー!」
「はいはい、手ぇ洗ってこい」
「「はーい!!」」
兄妹が洗面台に歩いてく中、遠野ハンナは店主をじっと見ていた
「…なんだ、ハンナ。お前も手ぇ洗ってこい」
「…はい」
ハンナも続いて洗面台に向かって行った
「…?」
店主はハンナの反応に疑問を持ちつつ、厨房に戻った
〜〜〜
ハンナ達遠野一家は、あれから毎日のように、店主…小鳥遊の店に訪れていた
「…はぁ」
「どーしたの?おねーちゃん」
「きぶんわるいのー?」
「ああ、いや、なんでもない。大丈夫だよ」
そう言いながらも、ハンナは考え込んでいた
(…毎日のように私たちに料理を振る舞ってくれるけど、一体そのお金は…どこから、出てるのだろう)
ハンナの考えはもっともなものだった。もしもこれまでに出された料理に使われている材料がとても高価なものである場合、ハンナに支払えるはずがなかったからだ。
(…よし)
そこである日、ハンナはいつも店に行く時間より早い時間に店に行き、店主の動向を調査することにした
(これで店主の方がどこかに買い出しに行ってたら…こんどからは、食べるのを控えよう)
そう思いながら、入り口から店をこそっと覗くと…そこには、何かの準備をしている店主がいた
(あれは、何を準備してるのだろう?手袋に、スコップに…何に使うの、あれ?)
そう考えていると、店主が荷物を背負った
(っ、来る?)
そう思ったハンナは入り口から離れて物陰に隠れると、店主が入り口から出て来た。店主が入り口に看板を立て鍵を閉めると、歩き出した
(…確かあっちは、商店街とは逆の方じゃ…)
ハンナはこっそりと店主について行った
〜〜〜
ハンナは店主についていくと、そこは山だった
(や、山!?どうして、ここに?)
店主は遠慮なく山の中に入って行った
(い、いけないいけない…見失っちゃだめ!)
ハンナは店主についていくようにして山に入った
〜〜〜
(…さっきから何なんだろう?歩いたと思ったら時々しゃがんでスコップで土いじり…?)
ハンナは物陰に隠れながら店主の動向を探っていた
(しゃがんだと思ったら、時々何かを袋に入れてる…まさかあれを料理に?何を考えてるの!?)
物陰から様子を見ていると店主が移動した
(っ、しまった!あっけに取られてたら移動を…!急がないと見失う!)
そう思って移動しようとすると
「あっ…!」
足元が少しぬかるんでいたのか、足元を取られて転んでしまった
(っ、しまった!足を取られて…!)
ハンナがなんとか立ち上がると…すでに店主はその場にいなかった
「…あ…」
ハンナは頭が真っ白になった。今まで店主を追いかけていたからかもちろん帰り道もわからず、その場で立ち尽くしていた
「…ま、待って。待って!!!」
(ま、まだあの人はそこまで遠くに行ってないはず!早く、早くあの人と合流を…!)
そう思い、ハンナは走り出した。走りながらも、足元のぬかるみに足を取られて転びそうになりながら、そしてすれ違う木々のささくれにぶつかって傷がつけられながらも、ハンナは店主と会うために走り続けた
だがどれだけ走っても店主と会うことはなかった
「はあっ…はあっ、はあっ…!」
ハンナは疲れからは絶望感からか、息を切らしながらその場にうずくまった
「ど、どうしよう…どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!?」
(あの人も見つからない。どれだけ走ったの?時計もないから時間もわからない。怖い、怖い怖い怖い…!)
「カアッ!」
「ひ、ひいっ!」
ハンナが絶望感に打ちひしがれていると、どこかからかカラスの鳴き声が聞こえ、ハンナは耳をふさいだ
(わたし、ここで死ぬの?ここで死んじゃうの?妹達を置いて?…嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!)
その時ハンナの脳裏に映ったのは、自分が見殺しにしてしまったいちばん下の妹の姿と、家からハンナ達を置いて出て行った母親の姿だった
(置いていきたくない!あの子達を置いて、死にたくない!やだ、やだぁ…!)
「はっ、はっ、はあっ!はあっ!はあっ!はあっ!はあっ!はあっ!はあっ!」
考えれば考えるほどハンナの呼吸が荒れて、過呼吸になっていった
(やだやだやだやだやだやだやだやだ!!!誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か!!!)
うずくまり、耳を塞ぎ、過呼吸になりながらハンナは思う
(誰か…助けてっ…!)
「…はぁ」
その時、ハンナの口に何かがあてられた
「はぎゅっ!?」
(な、何!?何が起こったの!?口に、何が、何が!?)
そしてハンナの背後から何者かが抱きついて来た、そして…
「そのままゆっくりと呼吸を落ち着かせろ」
「っ!?」
「大丈夫だ、お前は一人じゃない。安心しろ」
「はあっ、はあっ…はあっ、はあっ…」
「いいぞ、そのまま深呼吸だ」
「はあっ、はあっ…はぁー…すぅ…はぁ…」
そしてしばらくして、ようやくハンナの呼吸は落ち着いた
「…落ち着いたか」
「…え、ええ」
背後に抱きついて来た人物はハンナの口から袋を外し、少し離れた
「…全く、まさか山の中で過呼吸を起こすとはな…ハンナ」
ハンナがその人物の方を振り向くと、そこには店主がいた
「…店主、さん」
「…ちょっとそこに座ってろ」
店主は適当な木々から木の枝や木の皮を採取し、慣れた手つきで焚き火を起こした
「…」
ハンナはその姿を見て圧巻されていた
「…ほれ」
「あ、ああ…」
ハンナは店主から、いつのまにか用意されていたカップを受け取った。中には白湯が注がれていた
「…ズズ…」
「ほれ、毛布。羽織っとけ」
「え、ええ」
店主は店主から毛布を受け取り、それを羽織った
「…はぁ。よっと」
「…」
パチ、パチパチ…
その場には焚き火がパチパチと燃える音と、ハンナが白湯を少しずつ啜る音が響いた
「…お前が店から尾行しているのには気付いてた。ある程度まで行ったらお前と合流来て山を降りるつもりだったが…まさか過呼吸を起こすとはな」
「…ごめんなさい」
「謝るな…最初からさっさと合流しとくべきだった。これは俺のミスだな」
「ちがっ、これは…あなたの、責任じゃ…」
「いや、俺の責任だ。そんな薄着で放置した俺の責任だ。…まぁ、もう少ししたら下山しよう。ある程度の食材は採取できたからな」
「…食材?」
「ああ」
そう言って店主は背負ってた荷物の中から、いくつか袋を取り出した
「山菜、キノコ、たけのこ、果実類、食用の野草等々…」
「ちょっと、ちょーっと待って!どれくらいとったの!?」
「ここには森林法*1はあるが、その中で食べ物に関する法律はほぼほぼ皆無だったからな。取り放題だった」
「し、森林法?」
「気にするな、こっちの話だ」
「あ、あと…どうして、私の口に袋を?」
「ペーパーバッグ法*2って言ってな。まぁ応急処置もいいとこだがな、落ち着いてくれてよかった」
「…」
ハンナは俯いた、色々としてくれたことの申し訳なさ等が、今になって襲って来たからだ
「…さて、どうして俺について来たかは聞かないでおく。お前なりに事情があるだろうからな」
「…」
「ま、落ち着いたら言え。下山の準備をするからな・・・ん?」
店主はハンナに接近した
「お前、腕に傷ができてるじゃないか。見せてみろ」
「あ…」
店主がハンナの腕を診た
「…傷は浅いな。だが、消毒はしておこう」
そう言って店主は荷物から簡単な医療キットを取り出した
「しみるぞ、我慢しろ」
「っ・・・!」
店主はテキパキとハンナの傷口を消毒した
「…よし、これでいいだろう」
「…ふぇ、ふぇえ…」
「っ、お、おい?」
「うえええぇぇぇぇ…」
ハンナは思わず目から涙が溢れて、泣き出してしまった
「お、おいおい…そこまで痛かったのか?」
ハンナはその痛みを感じて泣き出してしまった
傷口の痛みではない、心に感じた痛みで泣き出したのだ
ハンナが勝手に店主についていき、そこで孤独感やトラウマを自分で掘り起こしてしまった挙げ句、店主が罪悪感を感じているかつ、献身的な対応をされて、我慢ができなくなったのだ
「うっ、ううっ、ううぅ・・・」
「おいおい…はぁ、全くしかたない…」
店主は荷物をまとめて背負い、ハンナを両手で横抱きにした
「…ふぇっ?」
「下山するぞ。…足元がぬかるんでるからな、怪我を負ってるから、大人しくしてくれると助かる」
「・・・は、はい」
そうして店主とハンナは安全に下山することができ、そのまま店に戻った
〜〜〜
「・・・」
ハンナは席に座っていた
洗面台で手を洗い、店主の言う通りにその場に座っていた
「…できたぞ」
店主は厨房から、具沢山の味噌汁とご飯をハンナの前に差し出した
「・・・」
だがハンナはそれに手をつけず、ただじっとそれを見続けていた
「・・・どうした、食わないのか?」
「…どうして、私たちにご飯を食べさせてくれるの?」
「…試作品を誰に食わせたっていいだろ?」
「本当のことを言って」
「…はぁ」
店主はハンナの向かいに座った
「…ここの…というか、この世界の飯は不味いとは思わないか」
「…まぁ、うん」
「俺やお前達はそんな世界で育ってきたわけだが…俺はこの世界に生まれたことに絶望した」
「子供の頃からこんなクソ不味い飯を食って生きていけって?死ぬまで?…冗談じゃない。だから俺は自己流で料理の技術を身につけて、こうして店を立ち上げたわけだが…まぁ、閑古鳥が鳴いてる。この世界で料理店を出すのがまぁ…やらかしたことだな」
「…で?」
「お前の兄妹達が来た時は目を疑った。そして思ったんだ。…こんな若いのに、あのクソ不味い飯を食いながら育つのは、生き地獄とも言えるってな、俺もそうだった。…だから、お前達に美味いものを食って、健康的に育ってほしい。…そう言った思いで、お前達に飯を食わしている」
「…!」
「だが、試供品ってのも本当だぞ?好評ならそのままメニューに加えてもいいと思ってるが…いかんせんお前達はどんな料理でも美味い美味いしか言わないから参考にならん。もっとこうあるだろ、しょっぱいとか辛いとか、甘いとか…」
「…ふっ、ふふっ」
ハンナは店主の言葉に思わず笑ってしまった
「…おいおい、こっちは真剣に…」
「ご、ごめんなさい…でも、そこまで私達のことを思ってくれてたんだ…」
「ああ、だからお前らは気にせず飯を食ってけばいい」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「…ん?」
ハンナは味噌汁に口をつけた
「…ふぅ、美味しいですわ」
「おい、その口調…」
「・・・二人きりの時くらいは、いいでしょう?」
「…ま、いいか」
店主もご飯と味噌汁を持って来た
「…いただきます、…ってお前、いただきます言ってないな?」
「あら、ごめんあそばせ…ませ?」
「…お前、もう少し口調整えてからそれしたほうがいいんじゃないか?」
「う、うるさいですわ…昔、少女漫画で読んで…」
「はぁ、まぁいいか…ん、我ながらよくできてる」
「…ふふふ」
そう食べていると、店の扉が開いた
「おじゃましまーす!…ってあー!ねーちゃんいつのまに!?」
「ほんとだー!?」
「お前ら来たか。手を洗ってこい、そしてら飯を出してやる」
「「あ、はーい!」」
「…ありがとうございます、店主様」
「…なんか言ったか?」
「いいえ、何も」
そう言ってハンナは再度味噌汁に口をつけた
というわけで、ハンナは店主と二人きりの時だけお嬢様口調を話すようになりました