「…料理を教えてほしい?」
「ええ、そうですわ」
あれから数日、ハンナは時々少し早めに店に来るようになった
「…教えるのは別に構わんが、いいのか?お前の兄妹は」
「…まぁ、心配なことには変わりないですわ。でも…この店に来るまでに車の通りは少ないですし、そこまで変な路地裏はありませんもの」
「…そうか、わかった」
そう言って店主は厨房にいき、あるものを持ってハンナに差し出した
「…これ、は?」
「エプロンと三角帽だ。これを身につけてもらう。あとお前は髪が長いからな、それも上手く束ねてもらう、いいな?」
「え、ええ」
ハンナは店主に教わりながら、エプロンと三角帽を身につけた
「・・・よし、んじゃまずは手を洗え。洗面台で構わん。その間に色々と準備しておく」
「ええ」
ハンナは洗面台で手を洗って戻って来た
「…よし、厨房に入れ」
「…ゴクリ」
「どうした」
「いや、いざ入るとなると…その、へんに緊張しますわね」
「…そこまで緊張する必要はない。早く来い」
そう言って店主は厨房に入った
「…すぅ…ふぅ、よし」
深呼吸しながら、ハンナも厨房に入った
〜〜〜
「…」
ハンナは目の前の光景に圧巻した。様々まで綺麗にされている厨房、ゴミ一つ落ちていなく、チリひとつもない。調理台も綺麗に磨かれていて、自分の顔が反射して見えてしまいそうだ
「…どうした、来い」
「は、はい!」
「…緊張してるな」
「そ、そんなことは・・・」
「お嬢様口調が崩れてるぞ」
「う、うるさいですわ!」
「はいはい…んじゃ、早速やっていくぞ」
ハンナは店主に近づいた
「…よろしくおねがいしますですわ」
「よし、今回作るのは2品だ」
「い、いきなり2つもですの…!?」
「そう緊張するな、いずれも簡単かつシンプルな手順かつ、材料は…この前山で採取したのでつくる」
「…」
「…気付いたか?この前、お前が俺について来た時に採取したのだ」
「…ええ」
「んじゃ、作っていくぞ。まずは…」
そうして、店主とハンナによるお料理教室が始まった
〜〜〜
レッスン1:山菜のおひたし
「まずはおひたしだ。あの山で採取した山菜の…ミズだ」
「みず?…水は飲み物ですのよ?」
「ミズっていう山菜だ、これを使う。まずはこれを食べやすい大きさに切り分ける」
「よ、よし…じゃあ、ハサミを」
「いや、料理する際はこれを使う」
そう言って店主は包丁を取り出した
「…そ、それは?」
「包丁だ。食材を料理するために作られた刃物と言って差し支えない」
「そ、そんなのがあるんですのね…」
「ま、注文する際に色々と大変だったがな。ちなみに包丁にも色々と種類があるが、そのあたりは今は気にしなくていい。これを使って食材を切っていく。まずは手本を見せる」
「わかりましたわ」
「まな板の上に食材を乗せ…そういえばハンナ、お前は右利きか?」
「ええ、そうですわ」
「なら右手で包丁を持ち、反対の手は食材を抑えるために使う。だがこの際に1つ注意だ、食材を抑える手はそのままだと食材と一緒に手も刻みかねない。だから…反対の手は、猫の手にする」
「猫の、手…ですの?」
「ああ、手を握り込んで、指を内側に折り曲げる。これによって食材を切るときに、指が傷つくことはほとんどなくなるわけだ、よってこうして…」
トントントン・・・
店主は慣れた手つきで切り分けた
「…ほれ、やってみろ」
「え、ええ。…えーっと、手を猫の手に…」
そう言いながら、ハンナは両手を猫の手にした
「…片手でいいんだぞ」
「わ、わかってますわ!」
〜〜〜
レッスン2:味噌汁
「さて、次は味噌汁だ」
「…毎回思ってることですけど、味噌汁好きなんですの?」
「楽だからな、切った野菜入れて味噌を溶かして煮込めばできる。さ、やろうか。さっきおひたし作るときに具材を切った時と同じ容量で野菜を切っていく」
「わかりましたわ」
そう言ってハンナは再度包丁を持って食材と向き直った
「…さて、と」
俺は味噌汁の具材の一つを取り出した
「…て、店主さん?どうして木の枝を取り出したんですの?」
「これか?これは木の枝じゃない、ごぼうっていう歴とした野菜だ。これも入れる」
「食べれるんですの?」
「じゃなきゃとってこないだろ」
「…まぁ、本当に騙されたとしても、信じて食べそうではあるけれど…」
「その辺りは騙す気はないからな」
〜〜〜
レッスン3:白米
店主は土鍋を取り出した
「さて、白米に関してだが…これは覚え方がある」
「覚え方ですの?」
「ああ。まずは『初めちょろちょろ』だ」
「ちょろちょろ…水の量ですの?」
「いや、火加減だ」
「…火加減?」
「ああ、簡単にいえば強火ってことだ。このくらいだ。次は『中ぱっぱ』」
「…随分と、可愛い響きですのね?」
「この『ぱっぱ』っていうのは中の水を表す。中の水が沸騰…ぶくぶくしてきたら火を弱めて弱火にする」
「へぇ…」
「そして…」
〜〜〜
「…さて、完成だ」
「おお…案外、やれば私でもできるものなのかも…」
「ま、これも繰り返しやってけばいずれ俺抜きでもできるようになる」
「…なんだか、想像できませんわね…」
「初めはそんなもんだ。さ、そろそろお前らの兄妹達が来る時間だ、用意するぞ」
「ええ、了解ですわ」
その後少ししてハンナの兄妹が店にやって来て、一緒に作ったご飯を一緒に食べた
〜〜〜
そして、月日は流れた。あの日以降ハンナは度々店主の元を兄妹より少し早く来て、店主に料理を教わっていた。寒い日も、暑い日も、春も、夏も、秋も、冬も…
そして、ある日。その日が訪れた
「…来ないな」
店主は遠野一家の来る時間になっても店に来ないことに、少し疑問を抱いていた
「…体調でも崩したか?」
そう思っていると、店の扉が勢いよく開かれた
ガラガラガラッ!
「はぁっ、はぁっ…お、おじさん!おねーちゃん見なかった!?」
店に入って来たのは、ハンナの弟だった。最初会った時と比べたら血色が良くなり、健康的な肉体になっていた
「ハンナか?いや、てっきりお前達と来るもんだと思ってたが…どうした?」
「いなくなったんだ!朝起きたら、突然…妹と一緒に、一緒に寝てたはずなのに!」
「落ち着け…ほれ、水だ」
「あ、ありがとう、ございます・・・」
遠野弟は店主から水を受け取り、それをすぐ飲み干した
「…とりあえず座れ、それと…お前の妹はどうした」
「…たぶん、そろそろ…」
「おじさーん!おねーちゃんが、おねーちゃんが!!」
「…さすがだな、兄妹は。お前も水を飲め」
そして水を飲ませて、2人を席に座らせて色々と話を聞いた
朝起きると、一緒に寝ていたはずのハンナの姿がなかった。初めは家のことでもやっているか、それとも食材を採取してくるかのどっちかだと思ってそこまで深く考えてはいなかった。だが日も傾いてきた頃、ハンナが帰ってくる気配が一切ないのに気付いた2人は、町中を走り回ってハンナを探し始めた。
結果1時間ほど探し回って見つからなかったため、一旦店主の店に来たらしい
「・・・なるほど、な。わかった、俺の方でも探してみよう」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「…とりあえず、晩飯でも食ってけ。走り回って疲れたろ」
「「はーい!」」
俺は厨房に入り、いつもの『試作品』を2人に提供した
今日は4月1日、進学の時期だ。いろんな人が出会い、別れを繰り返すそんな時期だ。
「…無事でいろよ、いろんなことをこの1年で教えたが…」
だかそれから数日の間探し回ったが、ハンナの姿を見ることは無かった
※半ば勢いで書いてます