書きたいことに上手く繋げられず……めちゃくちゃ期間空いてしまいました(>_<)
ちょっと短くなりましたが、今後は文字数戻りますのでご安心を!( ◜ᴗ◝)
第五話 金融屋の家族
「だから――俺が、お前らのパトロンになってやる!」
言い切った瞬間、ハヤトは自分でも少しだけ後悔した。
勢いに任せて立ち上がったまま、右手は三人を指している。これでは宣言というより啖呵だ。しかも内容が内容である。
数秒の沈黙。
最初に口元を歪めたのはタウニーだった。
「……自分で言った」
「…言ったよ。悪いか」
「パトロンになるって」
「お前がそう言ったからだろ!」
「だからって本当にそのまま名乗るとは思わなかったし」
「なんなんだよこいつ……!」
とうとうタウニーが吹き出した。
デウロも堪え切れないように肩を揺らしている。
セイカだけは相変わらず表情を崩さなかったが、ほんの少しだけ目元が柔らかい。あれもきっと笑っているのだと、今日だけでハヤトにも分かるようになってしまった。
「……ちっ、帰るぞ」
「逃げた」
「逃げてねえし、予約的にも帰る時間だわ!」
ハヤトは椅子へ掛けていた上着を乱暴に取った。
さっきまでテーブルを覆っていた八人の失踪者の資料は、既に黒いファイルへ戻してある。
人の命が消え、ポケモンが異常な力で暴れ、どこかの誰かがミミッキュファイナンスを犯人へ仕立てようとしている。
重い話だった。今も何一つ解決していない。
それでも、話すべきことを全て話したからだろうか。個室に入った時より、胸の奥に張りつめていたものは少しだけ軽くなっていた。
「明日の昼、だからな」
出口へ向かいながら、ハヤトは振り返らずに言った。
「契約書を持ってホテルZへ行く。内容を見て、受けるならその場で署名。それまでは正式な依頼じゃない」
「分かってるよ」
「あと、ポケモンの準備」
タウニーの声が急に明るくなる。
「あははっ、忘れてなかったんだ」
「俺から言ったんだから当然だろ」
「勇名が本物か確かめるんだっけ?」
「……そう、そうだ」
「でも?本当はバトルしたいのが目当ての一つ」
ハヤトの足が止まった。
「お前、それずっと言う気?」
「自分で言ったんだから仕方ないし」
「忘れろ」
「嫌」
「性格悪いなマジで!」
言い合いながら個室を出る。
専用のエレベーターで一階へ降り、スタッフに見送られながら正面玄関へ向かう。
外へ出ると、雨は既に上がっていた。
濡れた石畳が街灯を映し、その向こうには夜のミアレが広がっている。
遠くに聳える植物に覆われたプリズムタワーも、雲の切れ間から覗いた空も、数時間前にこの店へ入った時とは妙に違って見えた。
エントランス前には黒塗りの車が一台。
その横で、黒いスーツ姿の男が待っていた。
ハヤトより遥かに年上で、体格もいい。だが近づくと軽く頭を下げ、抱えていた革製のケースを両手で差し出した。
「お預かりしていたものです」
「ああ、ありがとう」
ハヤトが受け取る。
ケースには厳重なロックが掛かっていた。本人の指紋を読み取ると小さな音を立てて開き、中には六つのモンスターボールが一列に収められている。
タウニーが横から覗き込んだ。
「ちゃんと六匹いるし」
「……いるけど、悪い?」
「いや?ただ全然見せないから、何使うのか分かんなかっただけだし」
「会社に来た相手へいちいち手持ち紹介し始める社長がどこにいるんだよ」
「それはそう」
「納得すんなら最初から言うなよな…」
六つのボールはどれも状態が違う。
細かな傷を残したものもあれば、比較的新しいものもある。
その中で、ハヤトの指は迷うことなく一つを選んだ。
最も古びたボールだった。
赤と白の塗装には小さな擦れがいくつもあり、何年もの間、何度も開閉されてきたことが一目で分かる。
「紹介してやるよ。……ミミちゃん、出てきていいよ」
ハヤトが軽く投げる。夜の歩道へ白い光が弾けた。
現れたのは、小さなポケモンだった。
ぼろ布を被ったような身体。その頭部には、不器用な手つきで描かれたようなピカチュウの顔。折れ曲がった耳。
ミミッキュ。
光が消えるより早く、ミミッキュはハヤトを見つけた。
その場で一度だけ身体を揺らしたかと思うと、真っ直ぐ少年の足元へ駆けてくる。
「よいしょ、と」
布の腕が脚へ絡む。
ハヤトは当たり前のように屈み込み、小さな身体を両手ですくい上げた。
腕へ収まった途端、ミミッキュの力が抜けた。
布越しの頭をハヤトの胸へ預ける。
「……ミミッキュ」
タウニーが呟く。
その隣で、セイカは少し別のものを見ていた。
「会社のマーク」
「あ?」
「社屋にあった、それとそのピンバッジにもなってるロゴ。その子に似てた」
ハヤトの手が一瞬止まる。
「……そうだけど」
「ミミッキュファイナンス」
「…見りゃ分かんだろ」
「その子から取ったの?」
ハヤトは答えず、ミミッキュの布を軽く整えた。
それだけで十分な答えになっていた。タウニーの目が輝く。
「かわいい!」
一歩近づこうとした瞬間、ハヤトが半歩下がった。
「近い、来んな」
「何で!?」
「急に来るなよ、驚かせるだろ」
「触っちゃ駄目?」
「本人に聞け」
「本人に?」
「俺のポケモンだからって、何でもかんでも俺が決めるわけじゃない」
言われてタウニーは足を止め、少し腰を屈めた。
「触ってもいい?」
ミミッキュは彼女を見た。
数秒。
それから、短い腕を伸ばして一度だけ左右へ振る。
「これどっち!?」
「知らん」
「ハヤトにも分かんないの?」
「全部分かったら違う仕事してるわ」
そう言いながら、ハヤトの指は無意識にミミッキュの頭を撫で続けている。
普段の彼を知ってまだ半日にも満たない三人にさえ、扱いの違いは明らかだった。ただ、そこにいることを確かめるような手つき。
デウロが穏やかな声で尋ねた。
「ずいぶん懐いてるんだね」
「長いからな」
「会社を作った頃から?」
「…もっと前」
三人の視線が集まる。
ハヤトはそこでようやく、自分が余計なことを口にしたと気づいたらしい。
「…何だよ」
「ハヤトが会社を作ったのってたしか十歳だよね?」
タウニーが聞く。レストランで少しだけは聞いていた。
「そうだけど」
「それより前?」
「ああ」
「じゃあ相当長いんだ」
「…まあな」
それ以上を尋ねられる前に、ハヤトはミミッキュを抱き直した。
拒絶ではない。ただ、その話を今ここでする気はないのだと分かる動きだった。
セイカもそれを察したらしく、追及せず別のことを尋ねる。
「社名にするくらい大事なんだ」
「……」
「違う?」
「べつに、違わねえけど。…ずっと、一緒だったから。」
ハヤトは少しだけ視線を逸らした。
簡単な言葉、それだけだった。
けれど、その一言には、十歳から築かれた巨大な会社よりも前に、この小さなポケモンがハヤトの側にいたという時間が含まれていた。
タウニーが柔らかく笑う。
「じゃあ、会社の看板ポケモン?」
「違う」
「じゃあ何?」
「何でもいいだろ」
「良くない」
「何でお前が決めるんだよ」
「気になるから」
「……家族」
ハヤトの声が、小さく落ちた。
笑われると思ったのか、直後には不機嫌そうに顔を背ける。
けれど誰も笑わなかった。
タウニーも、デウロも、セイカも。
ただ一人、ミミッキュだけが布の先を伸ばし、ハヤトの頬をぺし、と軽く叩いた。
「何だよ」
もう一度。
ぺし。
「……楽しい?」
三度目。ハヤトがミミッキュの頭を両手で挟んだ。
「おい、やめて」
布が楽しげに揺れる。そこでタウニーが堪えきれず笑った。
「ミミッキュには弱いんだ!あくタイプっぽいもんね!ハヤト」
「……あくタイプじゃねえわ」
「めちゃくちゃされるがままじゃん」
「これはコミュニケーションだ」
「さっきのあたしたちとの会話より平和だし」
「当たり前だろ」
口から出た答えは、考えるより早かった。
「ポケモンは裏切らないからな」
今度は、ミミッキュも動かなかった。
ほんの一瞬。空気が静かになる。
レストランで聞いた話を、三人はまだ覚えている。
幼い頃から何度も毒を盛られたこと。
外からだけではなく、内側からも命を狙われたこと。他人の作った料理を身体が受け付けなくなったこと。
今の一言は、おそらくその全てと繋がっていた。
ハヤトも空気の変化に気づいたらしい。
「……変な顔すんな」
「してないよ」
「してる」
「してない」
「……ちっ、ならいい」
それ以上は何も言わず、ミミッキュを抱いたまま車へ向かう。
「乗れ。ホテルZまで送る」
「ハヤトも一緒?」
「ここまで連れてきたの俺だろ。何で帰りだけ放り出すんだよ」
「パトロンだから?」
「否定はしねえ。まだ契約前だけどな」
「でも自称したし」
「……撤回するぞ」
「駄目」
「何でだよ!」
やり取りを聞きながら、黒服の男が無言で後部座席の扉を開ける。
助手席には既にミュールがいた。
「お待ちしておりました」
「ミュールさん!」
タウニーが明るく声をかける。
「お食事はいかがでしたか?」
「すごかったです! あとハヤトが――」
「余計なこと言うな」
「パトロンになりました」
「お前!」
バックミラー越しに、ミュールとハヤトの目が合った。
ミュールは驚くでもなく、静かに一度頷く。
「左様でございますか」
「何で受け入れてんだよ」
「適切な関係ではないかと」
「お前まで」
「調査費用を負担し、MZ団の活動を外部から援助されるのであれば、用語として大きな誤りはございません」
「…そういう意味で言ったんじゃねえし」
「では、どういった意味で?」
ハヤトが黙る。タウニーがにやにやしている。
「……出せ」
運転席へ短く言うと、車が静かに走り出す。
雨上がりのミアレを滑るように進む。
来る時とは、車内の空気がまるで違った。
数時間前は、この車がどこへ向かうのかも分からなかった。
三千万円、保証団体、黒い服の男たち。
ミミッキュファイナンスの社屋。
何をされるのか分からない緊張ばかりがあった。
今は、ハヤトの膝にミミッキュが座っている。
タウニーは革製ケースの方を気にしていた。
「ねえ」
「嫌だ」
「まだ何も言ってない!」
「他の五匹だろ」
「何で分かったの?」
「さっきからケース見すぎ」
「ちょっとだけ教えてよ」
「明日見るだろ」
「タイプ」
「嫌だ」
「一匹だけ」
「嫌だ」
「メガシンカする?」
「さあな」
「今の反応!絶対するし!」
「勝手に思っとけよ」
「どの子?どのポケモン!?」
「うるせえな。対戦相手に手持ち教える方が馬鹿だろ」
タウニーが頬を膨らませる。
その横で、セイカは少し呆れたように言った。
「さっきから普通にバトル前の駆け引きみたくなってる」
「こいつが聞いてくるからだろ」
「だって気になるじゃん」
「だったら明日勝って全部見れば?出来るなら」
「言ったね」
「ああ」
「絶対見せてもらうし」
「そこまで俺のポケモン倒せたらな」
タウニーの目が細くなる。
「……それ、挑発?」
「事実」
「明日覚えててよ」
「忘れるわけねえだろ」
ハヤトは笑った。ほんの僅か。
それでも、レストランで見せていた笑みとは違った。
人をからかうためでも、怖がらせるためでもない。
強い相手と戦えることを、純粋に楽しみにしている顔だった。
デウロがそれを見て言う。
「ハヤトは、どういう相手が好きなの?」
「何が」
「バトル」
少し考える。
「シンプルに、強い奴」
短い答えだった。
「弱いのを一方的に倒してもつまらねえだろ。読み合って、こっちの狙い潰されて、それでも最後に勝つ方が面白い」
言いながら、ハヤトの指がミミッキュの布を軽く撫でる。
「こいつらだって、その方が楽しそうだしな」
「じゃあMZ団は?」
タウニーが聞く。
「だから明日確かめる」
「ふふっ」
「何だよ」
「べつになんでもないし!」
「まじでうぜえな……こいつ」
車内に笑い声が響いた。その後は、事件についてほとんど話さなかった。
誰が一番強いか、メガシンカを使うのか、三対三なら先発をどうするのか。
タウニーが質問し、ハヤトが適当にかわし、デウロが時折横から茶々を入れる。セイカは必要な部分だけ口を挟む。
ミュールは前方で端末を確認しながら、時々ほんの僅かに口元を緩めていた。
やがて、ホテルZの建物が見えてくる。
車は正面で止まり、タウニーたちが降りる。
ハヤトもミミッキュを抱いたまま外へ出た。
「明日、正午な」
「分かってる」
「契約書を読んでから署名」
「分かってるって」
「本当に読めよ?二度目もやったら知らねえぞ」
「しない!」
デウロが笑いながらホテルの扉へ向かう。
セイカもその後へ続いた。
タウニーだけが、少し遅れてその場に残る。
「じゃあ、また明日」
「ああ」
「ミミちゃんも?」
ハヤトが固まった。
「……は?」
聞き間違いかと思ったように、タウニーを見る。
「何?」
「なんで、お前……その呼び方知ってんの」
「その呼び方?」
「ミミちゃん」
ハヤトの眉間に皺が寄る。
「いや、違……どこで聞いた?」
「どこって」
タウニーは不思議そうに瞬きをした。
「さっきハヤトが言ってたじゃん」
「俺が?」
「うん」
「……いつ」
「ミミッキュ出した時」
ハヤトは黙った。
レストランを出て、黒服からケースを受け取った時まで記憶を遡る。
六つのボール、その中から、一番古びたものを選んで。
何の警戒もなく、いつものように。
『紹介してやるよ。……ミミちゃん、出てきていいよ』
「…………」
思い出した。完全に言っている。
しかも誰かに聞かせるつもりで呼んだわけではない。
普段通りにボールを手に取ったせいで、いつもの呼び方がそのまま口から出た。
「……うわ」
ハヤトの顔が一気に赤くなる。
「え?」
「はずい、はずいはずい……!」
「何で!?」
「何でって……!」
ミミッキュを抱いたまま、ハヤトは顔を背ける。
今さら隠したところでもう遅いのに、ミミッキュの頭へ口元を埋めるようにして、タウニーから見えないようにする。
「外で普通にミミちゃんとか言ってたのか、俺……」
「いいじゃん。かわいいし」
「よくねえよ!」
「何が駄目なの?」
「何か……何か駄目だろ!」
理由になっていなかった。
タウニーはしばらくハヤトを見たあと、笑みがこぼれる。
「あははっ! 何それ!」
「笑うな!」
「だって、あんな偉そうに『俺がパトロンになってやる!』って言ってた人が、ミミちゃんって呼んで、それを恥ずかしがってる…!」
「笑うなよ……!」
「ミミちゃん」
「やめろ!」
「ミミちゃん」
「お前絶対面白がってんだろ!」
その騒ぎの真ん中で、当のミミッキュだけは何が問題なのか分かっていないらしい。
ハヤトの腕の中から身体を起こすと、タウニーへ向かって布の腕を小さく振った。
タウニーも嬉しそうに振り返す。
「ほら。ミミちゃんは嫌じゃなさそう」
「本人がいいならいいって話でも――」
言いかけて、ハヤトはミミッキュを見る。
ミミッキュはもう一度タウニーへ腕を振る。
「……お前、そっちにつくの?」
ぺし、と頬を叩かれた。
「痛っ」
タウニーがまた笑う。
「じゃあ決まり。あたしもミミちゃんって呼ぶ」
「決めんな!」
「本人の許可取ったし」
「いつ取ったんだよ!」
「今」
「会話成立してねえだろ!」
「でも嫌がってないよ?」
それだけは否定できない。
ハヤトは不満そうにミミッキュを見るものの、本人はどこ吹く風だった。
「……好きにしろよ、もう」
「やった」
「ただし変なところで言いふらすなよ」
「何で?」
「恥ずいからだよ!」
ついに自分で認めた。言った直後、ハヤトはますます顔を赤くする。
タウニーは笑いながら一歩下がり、ホテルの入口へ向かった。
「じゃあ、おやすみ。ミミちゃん」
ミミッキュが腕を振る。
「また明日ね、ハヤト」
「……おう」
「パトロンさん」
「最後のいらねえだろ…」
タウニーは返事の代わりに笑い、そのままホテルZの中へ駆け込んでいった。扉が閉じる。
静かになった玄関前で、ハヤトはしばらくその扉を睨んでいた。
「……最悪だ」
腕の中から、ミミッキュが見上げる。
「……ミミちゃんのせいじゃないよ」
ぺし。
「だから何で叩くの」
もう一度。
「……楽しいの?」
布の耳が揺れた。
ハヤトは溜息をついた。
それでもミミッキュをボールへ戻すことはせず、そのまま抱いて車へ乗り込んだ。
発車して数分、助手席からミュールの声がした。
「ハヤト様」
「何」
「明日の午後ですが、予定を空けております」
「頼んでないけど」
「バトルをなさるのでしょう」
「……するけど」
「では問題ございません」
ハヤトは窓の外へ顔を向ける。
流れていく街灯を眺めていれば、少しは先ほどの恥ずかしさも収まるかと思った。
「それから」
ミュールが続ける。
「何だよ」
「ミミちゃん、という呼称ですが」
「っ……!」
肩が跳ねた。
「お前も聞いてたの!?」
「車外での会話は聞いておりませんでしたが、レストラン前では」
「……」
逃げ道がなくなった。
ハヤトは両手で顔を覆いたくなったが、腕の中にはミミッキュがいる。
仕方なく、またその頭へ顔を埋めた。
「……忘れて」
「……はい、承知いたしました」
「絶対忘れない言い方だろ、それ」
「そのようなことは」
「じゃあ何でちょっと笑ってんだよ!」
バックミラーに映るミュールの口元が、ごく僅かに緩んでいる。
今日一日で何度目か分からない敗北感に、ハヤトは深く息を吐いた。
「……もういい」
話題を無理やり変える。
「契約書、ちゃんとあいつら側の条件も入れろよ」
「既に反映しております」
「俺が一人で行動するなってやつは抜け」
「既に入っております」
「何でだよ!」
「必要ですので」
「依頼主まで縛る契約があるか!」
「危険な事件へ関わる以上、立場は関係ございません」
「……」
反論しようとして、やめた。この話でも勝てそうにない。
ハヤトは膝の上へ視線を落とす。
ミミッキュは車の揺れが心地いいのか、すっかり落ち着いて身体を預けていた。
さっきまでタウニーに弄られていたせいで、呼びかけるのが妙に意識される。
「……」
ミミッキュが顔を上げる。
「……何」
首を傾げる。ハヤトは一度、窓の外を見る。
ミュールがこちらを見ていないことを確認して。
ほんの少しだけ声を落とした。
「……ミミちゃん」
布の耳がぴんと立った。
「明日、出たい?」
すぐに身体が起き上がる。分かりやすすぎる返事だった。
ハヤトの口元が自然に緩む。
「だよな」
結局、誰に聞かれていようと、本人を前にすれば呼び方を変えることなんてできない。
ずっと昔からそう呼んできたのだから。
「相手、ミアレの英雄だぞ」
ミミッキュが嬉しそうに揺れる。
「……楽しみだな」
ハヤトは小さく笑った。仕事でも、金のためでもない。
誰かを出し抜くためでもない。
明日会う約束があって、その約束を、自分が楽しみにしている。
そんな予定がいつ以来なのか、ハヤト自身にも思い出せなかった。
夜のミアレを、黒い車は静かに走り続けた。
あまりに難産すぎて息抜きで書いた小説が完結してしまいました。
1日1本予約投稿であげて行きますので良ければ読んでください!
曇らせの要素多めです!
https://syosetu.org/novel/423121/