ド田舎で魔術を修める転生者、人は彼女を魔女と呼ぶ 作:うぃっちくらふと
この世界に転生した私は、あの村の出身じゃない。
赤ん坊だった私を、母親らしき人物が連れてきて、そして母親は力尽きたそうだ。
なんとも、意味深な生まれだが、今のところ何か起きたということはない。
今後起きるかも知れないが、それは多分私にとってはおまけになるだろう。
私には、魔女という二つ名がある。
二つ名と言うにはシンプルだけど、この辺りで魔女という呼ばれ方をするのは私くらいだから問題はない。
魔術の才能に溢れた私に対する村人たちの尊敬、それから周囲の畏怖と嫉妬によってそう呼ばれるようになった。
そして実際に、その二つ名が伊達ではないことを私は自覚している。
私が魔術師として知られるようになって以来、村の周辺に湧いて出る厄介な魔物は、
中には、私でも苦労する奴も時折いるが、最終的には打倒してきた。
加えて、外部の魔術師から見ても私はかなり才能がある方らしい。
村にやってくる商人の護衛には、魔術師が混ざっていることもある。
そういった人たちからのお墨付きだ。
外に出れば魔術師として、あるいは冒険者として一角の人物になるであろう、と。
無論、そんなことに興味はない。
魔術の研鑽は村でもできるし、ほとんど独学の私の魔術は、外の魔術と比べてかなり異質。
学んで参考になることはあっても、それ以上はないだろう。
加えて、村への恩義を返すには、村の生活を守るのが一番。
私は、村から出ずに一生を終えるつもりだ。
しかし、そうも言ってられない事情が起きる可能性は考慮している。
今回のように、私の噂を聞きつけてくる人物が現れる可能性だ。
というか、かなりドンピシャだな。
でも、私に外へ出るつもりは毛頭ない。
村が守れればそれでいいのだ。
今回やってきたフレデリカという騎士にも、丁重に帰っていただこう。
この村を収める領主のアルバートは優秀であると聞く。
融通の効かない相手では、ないはずだ。
○
「君は魔女殿について、何かしっているかな?」
「さて、どうでしょう」
私たちは現在、森の中を奥の方へと進んでいる。
魔物の足音か、あるいは魔力。
それらを追っているのだ。
ここで気になるのは、騎士フレデリカが私の正体に気付いているか。
「優秀な魔術師だと聞いている。なんでも、見たこともないような魔術を行使するのだとか」
「ええ、そうですね」
――半々、かな。
なんとなく察しはついているが、確信はないだろう。
まぁそもそも女が一人で山奥にいて、怪しいローブを羽織ってて、危ないと言われてるのに帰らない時点で正体は魔女だと言っているようなものだ。
できれば触れずに帰って貰いたいから名乗っていないだけで、私も隠すつもりはほとんどない。
「いや実に、素晴らしい腕前だと聞いているんだよ。何でも、魔術で紙を自作したり村の井戸を修繕したりするんだって? 私はあまり魔術に詳しくないが、魔術でそういったことをするというのは過分に聞いたことがない」
「そうですか? 魔術とは、死者蘇生以外なら準備次第でどのようなことでもできる印象ですが」
一応、私が魔女であるという言質は出さない。
それはそれとして、魔術は何でもできるというのは本当だ。
ただ、それにかかるコストを度外視すれば。
井戸の修繕とか、費用がとんでもないことになって村長はもう二度とやらないと断言していたくらいだ。
ただその時は、夏真っ盛りで村の生活と薬草の生育に井戸が絶対欠かせない時期だからそうしただけで。
逆に言うとコストさえ用意できるなら、時間と人手を極端に省略できるのが魔術である。
その時は、たまたま商人から材料を調達できたのだ。
何に使うんだこんなもの、みたいな目で見られたけど。
「できるのと、やろうとするのはまた別の話だ。そもそも魔術は古くに開発された”型”を模倣するのが主流なやり方なんだからね。魔女殿のような発想は、そうそう出てこない。いや本当に、素晴らしいことだ」
「はぁ」
「それに、村のためにそれを使うというのもいいな。村のことを、大変、深く、とても強く愛しているのだろう」
「そうですか……」
それから、騎士フレデリカは私のことをそれはもうべらぼうに褒め称えてきた。
褒め殺しというか、褒め鏖殺?
何を言っているんだ。
まあ何にしても、よくわかった。
「……褒め殺して恥ずかしがらせようと思っても、乗りませんからね」
「ははは! 改めてよろしく、ウィチタ殿。フレデリカだ」
「ウィチタです。魔女、と呼ばれていますが、今はそんなことより魔物のことです」
こっちのことをからかっている。
というか、ずいぶんと茶目っ気のある性格をしているんだな。
如何にも堅物って雰囲気なのに。
ただ同時に、人の良さも感じる。
まぁ、悪いよりはマシか。
「足跡の雰囲気からして、魔物は二足型の獣人系魔物だ」
「人型ですか……少し食べるのに度胸がいるんですが、まぁゾンビよりはマシですね」
「ずっと足跡を気にしているようだったが、まさか食べれるかどうかを気にしていたのか……?」
「そりゃそうでしょう、料理は魔術に通じるものがあります」
魔術でも、料理をすることは可能だからだ。
イメージ的には魔術と言うより錬金術で、材料を用意してそれを一瞬で料理に変身させる感じだが。
「何より面白いのは、使う魔術次第で材料が同じでも味が変わることです。違いなんて魔力と詠唱くらいしかないというのに、どうして味が変わるのでしょう。未だにその答えは出ていません」
「ふうむ、そうか」
「きっと体内の魔力と、料理に含まれる魔力の反応が味覚にも影響を与えていると思うのですが、五感というのはどうにも人によってまったく感じ方が異なるものですし、なにより主観そのものであるため自分の感覚も信用なりません。いっそ数値化できないかという試みも試してはみたのですが、そうなると今度は設定すべき数値が多すぎて断念せざるをえませんでした。いえそれより、まず大事なのは味が変化するということは、どれだけ雑な材料でも美味な料理に変換できる可能性があるということです。獣人型魔物は肉が使いにくいですがこれも工夫すればきっとおいしくなりますよじゅるり!」
「落ち着き給え」
「はっ」
しまった、初対面の相手の前で早口になってしまった。
魔術のことになると我を忘れがちなのが、私の悪癖だ。
直そうとは思っているのだが、村人たちはよくわからなくても毎回すごいねぇ、と言ってくれる。
これが本気ですごいと思ってくれているから、私のドーパミンが勝手にこうしてしまうのだ。
ドパガキと言ってくれて結構、罵倒は甘んじて受け入れる。
こほん。
「君がたいへん食いしん坊であるということはわかった」
「失礼ですね」
「とにかく、魔物はこっちだ。先を急ごう」
いいながら、ずんずん騎士フレデリカは森の奥へと進んでいく。
この当たりは人の手が入っておらず進みにくいが、剣で邪魔な草や枝を切り払いつつ魔物の作った道を追いかけていた。
手慣れているな、想像以上に。
「さて、ところで魔女殿としてはこの後、どうしたい?」
「どう、とは?」
「魔物をどう倒すか、だ。君としては、村を守るために自分の力を振るいたいと感じるかな?」
「別に、戦いそのものに興味はありません。ただ……」
「ただ?」
私は少し立ち止まって、返す。
「魔術には興味があります」
いいながら、手をかざした。
騎士フレデリカはそれに注意を向けるものの、警戒した様子はない。
私が何をしようとしているのか、なんとなく察したのだろう。
「フレデリカ様としては、民を守る騎士である以上メンツというものがあるでしょう。そして私は、現れた魔物にどのような魔術が有効かという点にのみ関心があります」
「別に、ここにいるのは私と君だけなのだから、私のメンツを立てて貰う必要はないけれどね」
「この二つを同時に満たしましょう。簡単なことです」
そして、魔力を回して呪文を唱える。
「”剛毅の
私の魔術で、騎士様を強化する。
これなら騎士様のメンツも立つし、私の興味も満たされるはずだ。
「……ふむ」
一瞬光りを帯びて、すぐに収まる。
強化はこれで完了だ。
騎士フレデリカは手を何度か開閉して、具合を確かめている。
それから――
「ふっ」
邪魔な草木を払うために剣を縦に振るい――
一直線に、振るわれた先の草木が吹き飛んだ。
「……やりすぎだな」
「……申し訳ありません」
絶対ここまでする必要はなかったな……と私は少しだけ恥ずかしくなるのだった。