翌日の日曜日。
二人は日用品の買い出しに行くために道を歩いていた。
フリルが付いた日傘を差すミニスカゴスロリ姿の大柄な中年女性という、目立つ要素しかないメサニアだが、道行く人が目を向けることはない。
彼女のような神秘側の存在を人間が視認するには、魔術師や聖職者、あるいは悪魔を召喚した者など、神秘側に近づいている必要がある。
『本当に見えてないんだね……。こんなに目立つ見た目なのに』
契約の繋がりを通じて、思念によってメサニアに話しかける。
『メサニアって身長180cmは超えてるでしょ』
「うふふ、186cmですわ」
『でっか』
メサニアの身長に驚いていた時。
唐突に空が激しく光った。
思わず白斗は目を瞑る。
数秒後に目を開けると、美女が空に浮かんでいた。
古代ローマのトーガのような服を身に纏い、背中には二枚の白い翼。
通行人たちには見えていないようで誰も目を向けない。
美女はメサニアの姿を視認して驚愕の表情を浮かべている。
「ま、まさか……大悪魔メサニア!?」
「あらあら、天使ですか。強大な悪魔が人界に顕現を続けていることを察知した天界に、討伐のために送り込まれたのでしょう?」
「くっ……!」
狼狽する天使に対して、メサニアはいつも通りの余裕ある微笑みを浮かべている。
「戦っても貴方に勝ち目はありませんわ。撤退して上に報告してはいかがかしら? 相手の正体が
「黙れ! 人界の秩序を乱す存在を前にして、おめおめと逃げ帰ることなどできるはずがない!」
天使が叫ぶ。
次の瞬間には、天使、白斗、メサニアは別世界にいた。
地も空も全てが真っ白な世界だ。
「天使は猪突猛進な
「ええ……?」
白斗はいきなりすぎる展開についていけない。
ただ、聞いている限りだとメサニアの方があの天使より圧倒的に格上のようだ。
これから戦闘になる雰囲気だが、負けることがなさそうなのは安心できる。
「横の人間は契約者だな!?」
天使が翼を大きく広げると周囲に無数の光の槍が生み出される。
「塵も残さず纏めて浄化して———」
そこから先の言葉が紡がれることはなかった。
天使の頬に浅い切り傷が出現。
それと同時に命の灯火が消えたからだ。
死を迎えた肉体が地面に墜落する。
「……し、死んでる? 何かやったの?」
「ただ空を飛んで斬っただけですわ」
そうメサニアは言うが。
優雅に日傘を差して佇んでいただけで、特に動いたようには見えなかった。
というよりそもそも飛行能力があることを知らなかった。
「ちなみに、
物体がそんな速さで動くことって理論上ありえないんじゃなかったっけ、という突っ込みを飲み込む。
悪魔の為すことに物理法則を適用する方が間違っているのだろう。
天使が死んだからか、真っ白な世界が薄れていく。
二人は元いた場所に帰還する。
通行人たちの顔ぶれも位置も白い世界に入る直前と同じだ。
あの世界では時間が止まってたりしたんだろうか、と白斗は推測した。
声ではなく思念での会話に切り替える。
『ちょっと遠くて見えづらかったけど、天使の頬に傷ができて死んでたよね』
「あのことですか」
メサニアが日傘に仕込んでいた剣を抜き放つ。
そして、細い剣身に漆黒の
「この
『へ、へー……。すごいね』
死の概念から脱した存在とかいうのはよく分からないのでスルー。
まとめると、光速を遥かに超えた速度で動きながら即死攻撃を放てるということだ。
怖すぎる。
『それにしても、メサニアが戦う姿は見られないのか……。ちょっと見てみたかったな』
「今後機会があれば、ご主人様の目でも捉えられる速度で戦ってみせますわ。それでも大抵の敵は剣術で圧倒できますので。————ただ、今回のように空中にいる相手の場合は難しいですわね」
『どうして?』
「……うふふ。そこは察するべきですわよ? 視認できる速度で空中戦をしていたら、地上にいるご主人様から……見えてしまいますわ」
彼女のミニスカートと、ついでにムッチリ太ももに、思わず目が行く。
大悪魔と言っても、女としての羞恥心は普通に持ち合わせているらしい。
正直、是非とも下から見てみたかった。
残念である。
しかし、とある発想が浮かぶ。
頼めばいけるのでは?
『恋人なんだし見せてくれない? いや、見せてください!』
「堂々としておりますわね。でも駄目ですわ」
駄目だった。
しかし、ここまで鉄壁だとむしろ見たい気持ちが強まってくる。
欲望を抑えきれなくなった白斗は最終手段に出た。
シュバッと。
その場に這いつくばって見上げたのだ。
メサニアは両手で日傘を持っている。
だからすぐに対応できないかもしれない、という魂胆だ。
だが、それはあまりにも浅はかな考えだった。
先ほどメサニアのスペックを知ったばかりだというのに。
そして、見上げた先の光景は。
「ご主人様。おいたはいけませんわよ?」
メサニアが微笑みながら注意してくる。
左手で日傘を差し、右手でミニスカートを押さえていた。
大悪魔様に人間如きが勝てるわけがなかった。