女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる 作:maki@
「ここか……」
夜の闇を疾走し、提示されたマップに記された地点に辿り着く。
「廃病院、だよな……?」
そこにあったのは数年前に廃業し、その後新しい主を迎えていない建造物。だが――
(外観は廃れているが……明らかに人の出入りがあるな)
入口付近の地面にほとんど草が生えていない。定期的に何者かがその場所を踏みしめている証拠。つまり――
「ここから入れる、ってことか。さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
錆びた見た目にそぐわずあっさりと開く扉。中は暗いが、廊下の奥に明かりが見えた。目を凝らすと、どうやら地下への階段らしい。
一段降りるたびに、重苦しい雰囲気と薬品のような匂いが強くなっていく。竦みそうになる脚を叱咤し、手の中のアンプルを握りしめた。相変わらず何の反応も示さないそれが、それでも固く握りしめる。
「……待ってろ、必ずお前に……」
最後に立ちふさがった扉――明らかに汚れが少ない――を押し開く。
無数の怪しいコードや管が這い回り、不気味な電子音が低く脈動する空間の中央――そこに、巨大なカプセルポッドが鎮座していた。
「――っ、あいつ!」
ポッドの中に、影があった。
輪郭が定まらない、ぼやけた黒い影。その姿は酷く薄く、今にも溶けて消えてしまいそうだった。身じろぎすらしないその様子からすると、意識を失っているのだろうか。
だが、ここにいるのはあいつだけではないはず。改めて室内を見回す。
「――ふむ。よく来てくれたな、と言っておこうか。神代蓮」
平坦で、冷酷な声。
この部屋の主である真木が、白衣を揺らし歩み寄って来る。
「ちゃんと一人で来たようだな。他の者に助けを求めていた場合の策も用意はしていたが……その無謀な度胸だけは買ってやろう――黒づくめの悪魔狩り」
「――っ!」
やはり、知られていた。しかし、そうなると解せない点がある。
「――本当に魔障なのか。なぜ人間の姿をしている」
こいつは当たり前のようにあの病院にいた。他の職員も、こいつがいることに何の違和感も持っていないように見えた。
「……まさか、知らないのか? では冥途の土産代わりに浅学な君に教えてやろう――『真木零士』という男は、とっくに死んでいる」
「――は?」
「私たち『DEMON』は、君たち人間の身体に寄生し、その精神を喰らう。では、その後は? 喰いつくされた宿主はどうなると思う?」
何を言っているんだ、こいつは。魔障が人間を喰らった後?
「どうせ、君はこう知らされている。『完全に侵食された宿主は死ぬ』、と」
「――そうだ。精神を食い尽くされ、その命を落とす、と」
「――全く、ばかばかしい」
「違うとでも言うつもりか」
「あぁ、まるで違う。私たちは、宿主を喰う。だが、それは精神――『内側』だけだ。それがなくなれば、『外側』が残るのは当然だろう」
「なら、まさか――」
「内側がなくなった空洞に、私たちは入り込む。その人間の記憶、経験、関係性――人生全てをいただくのさ」
「そ、んな……」
魔障が宿主になり替わる? そんなことが可能だとするなら――
『――あぁ、私が死なせた』
(あの女の言葉は、文字通りの意味だった……? 父さんと母さんを殺した魔障が、祓魔士の皮を被って今ものうのうと生きているって言うのか……?)
「――さて、これで満足か? なら、話を進めようじゃないか」
(――っ! くそっ、考えるのは後だ! 今は――)
一旦思考を外に追いやる。今考えるべきは、どうやってこの状況を切り抜けるか、だ。
「私からの要件はただ一つ――私の手駒となれ」
「……何が目的だ?」
「君の存在は丁度いい。大っぴらに他の同胞を狩るのは外聞が悪いからな。邪魔者を消す傭兵が欲しいと思っていたんだ」
「王になるってやつが臣民を殺すわけにはいかない、と」
「それは知っていたか。その点、
真木の目が見開かれる。自分自身の言葉で高揚していく。天を仰ぎ、言葉を吐き出す。
「単独では何もできない者同士! だというのに、君たちは数々の『DEMON』を――私の実験体すらも討伐した! 接触するタイミングを計っていたんだが……その内に勝手に分離したじゃないか」
好き勝手に話し続ける。まるでこちらの存在を忘れているかのように。
「とりあえず足がつかないうちに
「……道具、だと?」
「うん?」
思わず漏れた声に、ようやく真木の視線がこちらに向けられる。
「何かおかしいかね? 私の好奇心と目的のために使われる、便利な道具だよ、
「――どうだろうな」
(……あぁ、これは、醜悪だ)
真木の言葉に強い嫌悪感を抱く。だが同時に、胸の奥が激しくズキリと痛んだ。
自覚があろうとなかろうと、少し前までの俺も、こいつと何も変わらなかったのだ。あいつ自身の心を見ようともせず、ただ都合のいい『力』として、道具としてしか考えていなかった。改めて目の当たりにすると、己の傲慢さと醜さが嫌というほど理解できる。
「まぁいい。さて、改めてスカウトしようか」
余裕に満ちた表情でこちらに手を差し出す真木。
「私に降れ。研究に協力し、私に敵対する『DEMON』を討伐しろ。そうすれば
こいつの元で魔障を狩る。その中でこいつから情報を抜き取れば、俺の目的にも近づけるかもしれない。この誘いを断れば今この場で殺されるかもしれないし、なによりあいつを救えない可能性が高い。
様々な考えが脳内を駆け巡り――
「……断る」
気づいたときにはそう答えていた。
「――一応、理由を聞こうか」
「あれは、ディードは、あいつの理想なんだよ」
思考を介さずに言葉が滑り出る。一人になってから、ずっと考えていたことが、形となる。
「ここでお前に従ったとして、魔障の言いなりになって魔障と戦うなんて、『ヒーロー』じゃないんだよ。理由は、それだけで十分だ」
アンプルを握りしめ、力強く宣言する。俺がここに来たのは、こいつのご高説を聞くためなどではない。俺の目的は最初からただ一つ。
「……返してもらうぞ、真木。あいつを――あいつの希望を!」
真木の顔から、完全に笑みが消え失せた。一瞬の静寂。次いで、その顔に浮かび上がったのは、怒りですらない。純粋な、底冷えするような侮蔑だった。
「――君はもう少し合理的な判断ができると思っていたんだが。所詮、我々の餌に過ぎない下等生物か」
「俺も同感だよ。合理だけで動けるほど、俺はまだ大人じゃなかったらしい。人間に寄生する害虫程度には、死んでも媚びん」
「そうか、そうか――身の程を知れ」
ゆらり、と真木の手が無造作にこちらへと向けられた。
「――ぐっ!?」
咄嗟に身を躱した次の瞬間、解き放たれた魔力の衝撃波が、研究室を蹂躙した。
資料が舞い、ガラスは割れ、機材は壊れる。
「勘違いするなよ。君自身に価値などない。たまたま
再び叩きつけられる衝撃波。奴の言う通り、ただの人間でしかない俺がそれを躱せたのは、2回までだった。
「ガ、ぁっ……!?」
凄まじい衝撃に叩き飛ばされ、背中から壁に激しく激突する。肺の空気が強制的に吐き出され、骨格の軋む嫌な音が響いた。口内に広がる鉄の味。
「く、っそが……!」
歩み寄る真木を前に、こちらには打てる手が見当たらない。それでも、ここで退くわけにはいかない!
「――おらぁっ!!」
こちらから接近し、全力の拳を叩き込む。少なくとも見た目が人間なら、あるいはダメージが――
「……? 何の真似だ?」
「嘘だろ……」
顔面に直撃した。踏み込みの勢いも込めた、そこらの成人男性なら昏倒させられる威力が載っているはずの拳が。だが、真木の顔は揺るがない。首が傾くことすらなかった。まるで大木の幹に拳を突き込んだかのような、倒せる気配のない感覚。
「折角だ、感動の再会でもするといい」
「ぐっ!? う、おぉぉぉ!?」
そのまま腕を掴まれ、放り捨てられる。無様に転がり、硬質なものにぶつかって、止まる。
(立て! すぐ立て! まだ、終われない!)
背中を預けた
「――蓮?」
「っ!」
背後から聞こえた声。俺がぶつかった衝撃で目覚めたのか、ポッドの中で縛められた影が反応を示した。
「お目覚めか。わざわざ来てくれた相方に、一声かけてやれ。もうすぐ永遠の別れが――」
「――んで」
その言葉を遮って、影が震えだす。そして、叫んだ。
「なんで、なんで来たんだ! 蓮!」
「――は?」
思わぬ言葉に思考が止まる俺を他所に、拘束をガチャガチャと揺らし、叫ぶ。
「分かってただろ! 罠だって! 俺みたいなやつ、見捨てろよ!」
「――――」
言葉が出なかった。これが、こいつのことを見てこなかったツケなのだろうか。
「――全く、相変わらず恩知らずな道具だ。わざわざ来てくれた今の持ち主にそんな態度とはな。また調教が必要なようだ」
背後でため息をつく真木の言葉も、右から左へ通り抜けていく。
「俺なんか放っておけ! 早く逃げろ! 本当に死んじまうぞ!!」
「逃げるかよ……逃げるわけ、無いだろうが!!」
負けじと叫んだ俺の声に、一瞬、あいつの懇願が止む。そう、ここに来た目的を果たすまで、俺が逃げることなど、絶対にないのだから。
(なんでだよ……俺は、お前に死んでほしくないから、だから……)
透明なガラスを挟んで、血濡れの蓮が立ち上がる。手をついた部分に残った手形が、蓮の命が尽きかけていることを教えてくる。
(勝てるわけないだろ! お前ならそのくらいわかってるだろ!)
それでも、立ち上がる。全身が傷だらけで、血にまみれた背中。戦う力なんてない、ただの人間の背中。それが、俺を背にしてゾディアに立ちふさがっていた。
「……なぜそこまで必死になる? 君にとって、
(っ!)
――一瞬、息が止まった。
「――大切なのか、か」
「そうだ。君にとってはただの力を手に入れるための道具ではないのかね?」
「……そうだな。
「――っ!」
そう、蓮は俺の事なんて見てなかった。ただ戦うための、復讐のための力としか見ていなかった。でも、俺はゾディアへの恐怖で、もう戦うことなんてできなかった。そのせいで、蓮を死なせてしまうところだった。
だから逃げた。戦いから、蓮から――『ディード』から。
これで、少なくとも蓮が死ぬ可能性は減る。蓮は賢い。
「こいつがいなくなって、色々考えた。伝えないといけない言葉ができた。だから――お前が邪魔なんだよ!」
ゾディアに捕まって、また実験台にされるってわかったとき、思ってしまったんだ。「助けてほしい」、「ヒーローに来てほしい」って。
そして、
ただの人間の男の背中だった。霊力もない。変身もできない。この場で最も無力な存在が、それでも前を向いて、自分を守るように立っていた。
あの日見た、
お嬢サマの背中は、あまりにも無敵だった。圧倒的な力で敵を蹂躙し、誰もが振り返る眩い光の中にあったそれは、模倣のできそこないでしかない俺にとっては、遠すぎて手が届かない『絶望の光』だった。
だが、目の前にあるこの背中は違う。無敵なんかじゃない。むしろ、今にもボロボロに崩れ落ちてしまいそうだ。
「私が邪魔、とは言ってくれるじゃないか。こちらが連絡しなければ、君は
「なら感動の再会に水を差してる自覚も持ってほしいもんだ」
「その相手に拒絶されたばかりなのに、か?」
「関係ないな。こいつが俺をどう思っていようが、それは俺の思いを伝えない理由にはならない」
それなのに、真っ直ぐに前を向いている。立ち上がり、拳を握る。この場で最も弱く、魔力も霊力もないただの人間の男が、恐怖に牙を剥き、その身を賭けて俺を守ろうとしている。力があるから戦えるんじゃない。
「俺は逃げない。死なない。なんの力もないとしても……俺は、
――無力な癖に、恐怖に抗って一歩を踏み出すその姿こそが、本物の『勇気』だ。
(あぁ、そうか。画面の向こうの誰かの真似じゃない。これこそが、俺がずっと憧れていた――本物のヒーローの背中なんだ。)
「……くだらん。くだらんが――流石に興味が出てきた。言ってみろ、何を伝えに来たというんだ」
「――はっ! お前には理解できないだろうが……まぁいい」
そう言うと、蓮はこちらに振り返る。思わずゾディアの方を見たが、どうやら本当に静観の構えに入ったらしい。
ガンッ、という音に視線を向ければ、蓮がこちらにまっすぐな視線を向け、ガラス壁を殴りつけていた。
「俺はお前を、ただの『力』として……復讐のための道具としてしか見ていなかった! 自分の目的のために、お前を利用し続けていた!」
「蓮……」
それが事実であることは一緒にいた俺が一番分かってる。どこまでも合理的で、冷静に振舞うこいつが、俺のことをどう見ていたかは。
「ずっと欲しかった! 魔障と戦える力が! でも、俺には無理だって、どこかで諦めてた……そこにお前が現れて、突然転がり込んだ力に歓喜した!」
以前話してくれた蓮の過去。それを思えば、こいつが力を求めるのも、理解はできるから。だから、俺が望む『ヒーロー』になれなくても、仕方ないと思ってはいた。
「でも、お前からもらったのは、それだけじゃなかったんだ! 戦ってるうちに、俺の中に別の思いが芽生えてた! 魔障を倒すだけじゃない、誰かを守るために、命を救うために戦う、その尊さを思い出した!」
「――へっ?」
その言葉に一瞬頭が真っ白になる。だって、俺はそんなこと、一度も――
「だから、俺は!」
再びガラスを殴りつける音。ほんの僅か、軋むような音がする。
「お前に、感謝してる!」
軋む音が大きくなる。
「――まさか」
ゾディアが蓮に手を向ける。
「その、証を――!」
蓮が拳を振りかぶる。その手の中から、光が漏れ出しているのが見えた。
「……何っ!?」
ピシリ、という音と共に、眼前に無数の亀裂が走った。
「――手をっ!!」
「ーー蓮っ!!」
ほんの僅か、拘束の中で手を伸ばす。ゾディアの手から魔力が放たれーー先に、俺たちの手が触れ合った。
その瞬間、世界が白く染まった。
真っ白な空間だった。真木も、研究室も、どこかへ消えてしまった。
俺と、もうひとつ。それ以外に何も存在しないその世界で、
「ようやく、会えたな」
影が、震えた。
「……蓮」
「話したいことがたくさんある。でも、まずは……悪かった」
正直に、素直な気持ちを伝える。
「俺はお前を道具だと思っていた。ただの力だって」
「……」
「それは間違いなく事実で――間違いなく、間違いだった」
白い空間に、俺の声だけが響いた。
「お前はお前だ。特撮オタクで、ヒーローが好きで、いつも騒がしい――俺の相棒だ」
「相、棒……? 俺は、お前の相棒なのか? こんな、情けない俺が?」
震えた声。普段なら喜んで飛びつきそうなものなのに、ずいぶんと自信なさげな様子だった。
「なんだよ。普段は自分から言ってた癖に、何か不満か?」
「お前みたいに、強いやつに立ち向かう勇気なんてない。怖くて逃げだすような、何もない空っぽの俺が?」
「それでいいんだよ」
「……え?」
この数日間、色々なことを調べた。考えた。あの静寂の日常の中で、どうすればこいつに気持ちを伝えられるか――結論はシンプルだった。
「お前に足りない部分は俺が埋める。俺の足りない部分はお前が埋める。それでいいんだ」
なぜならーー
「俺たちは――二人で一人のヒーローだから」
「~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「それでも、お前が自分を空っぽのまがい物だと思うなら、俺がお前に『本物』をやる」
「本物?」
「落ちこぼれでも、まがい物でも、なりそこないでもない、お前がお前であるためのーー名前」
「俺の、名前……」
「そうだ」
そして、それを告げる。感謝、謝罪、願い。俺がこいつに抱いている気持ちの全てを込めて。
「『
長い静寂があった。
それから、影が動いた。
輪郭が、震えながら、しかし確かに形を作り始めた。
「……アルマ」
声が、違った。いつもの声だったが、何かが根本から変わった声だった。
「俺の、名前」
「ああ」
「俺が、アルマ」
「そうだ。たとえ弱くても、誰かを模倣していたとしても、お前自身の魂は、心は、本物だ」
影の輪郭が、どんどん鮮明になっていった。ぼやけていた端が、はっきりした線になっていく。色が、現れ始めた。
「俺はただの人間だ。だから、力を貸してくれ。代わりに、お前が怖いときは俺が勇気を貸してやる」
「……うん」
声が、震えていた。
「――最高だ! 俺はアルマ! お前の相棒だ! 俺たち二人で、ヒーローになろう、蓮! 半分、力貸してやる!」
真っ白な光の渦の中で、俺たちは互いに強く手を伸ばした。
触れ合い、その掌をがっちりと握り締める。繋いだ手から、これまでとは比較にならないほど強大で純粋な、莫大な魔力の波動が身体中に流れ込んできた。
次の瞬間、空間がまばゆい黄金の光で満たされ、爆発した。
意識が戻る。現実でも、俺とアルマは手を繋いでいた。ただし、その身を縛めていた拘束が、全てはじけ飛んでいる。
「――何をした」
真木がこちらを警戒するような目を向けてくる。理解できない事象を前に、先程までの余裕が消え失せていた。
「なんてことはないさ。ちょっと『仲直り』しただけだよ」
「俺はもう、お前に怯えたりしない! さぁ、行こう、相棒!」
「あぁ、行くぜ、相棒!」
繋いだ右手に力を込めると、アルマの体が影となって凝縮していく。やがて、それは見慣れた形――『ディードライバー』へと変わった。
『ディードライバー!!』
久方ぶりの装着とやかましい音声に、どこか安心すら覚える。そして、ずっと握りしめていたアンプルを――
(うん? なんか、微妙に形が――まぁ、いいか)
『DESIRE!』
起動したアンプルをドライバーに装填する。
『DAEMON!』
『ん? なんかいつもと違う……?』
(――こっちもか)
『
鼓動のような待機音が鳴り響く、どこか以前とは違う、気分が逸るような音と共に――
「――変身っ!!」
『OVERLAY――ッ!!』
これまで通り漆黒のスーツと装甲が装着されていく。だが、その上から黄金に輝くラインが血管のように全身を彩り、首元にはマフラーを模したような鮮烈な赤い飾りが増設された。
『おいおいおいおい! これ! いいのか!? いいんですか!?』
かつてない重厚な電子音が、進化した戦士の真の定義を空間に告げた。
『DEMON'S・END!! DEED!! UNITY!!!』
『We're the HERO!!』
黄金の光が弾け飛び、新たな姿が降臨する。黒と赤だけだった以前の
「馬鹿な……ただの実験体と人間が、これほどの……!?」
面食らっていた真木が、その手から再び魔力を放つ。先程までは、いや、前までのディードならひとたまりもなかっただろう、魔力の奔流。
『蓮!』
(あぁ!)
ただ、右手をそれに翳す。
正面からそれを受け止める。
俺達には傷一つ付かず、容易く弾き飛ばした。
これまでほとんど余裕を崩さなかった真木が、今起きた事実に戦慄して動きを止める。
「……何だ、これは。ただのガラクタに、なぜこんな現象が起こせる!? 何なんだ、お前たちは!?」
『……蓮』
(わかってる)
もはや言葉を交わすまでもない。アルマの願望が今の俺には手に取るようにわかる――俺も同じ気持ちだからだ。
「俺は――いや」
『俺たちは!』
「『二人で一人のヒーローだ!!』」
自らの意思で、俺は完璧な名乗りを決める。アルマのテンションが天井知らずに上がっていき、比例してスーツの随所に走る黄金のラインが輝きを増していく。その輝きが、そのまま俺たちの力になった。
「身の程を知れぇぇぇっ!!」
真木が咆哮を上げ、人間の皮を破り捨てて異形の怪人態――
「この、虫けらどもがぁっ!」
苛立ちを隠さないゾディアが、その巨大な拳を振るう。確かに強力な一撃だろう。しかし――
「なら、俺たちに負けるお前は虫以下ってことか?」
「なっ――」
その拳を正面から掴んで止める。そのまま強引に引き寄せ、背負い投げの要領で投げ飛ばした。ポッドの残骸を巻き込み、周辺の機械を激しく破壊しながら転がっていく巨体。
『すげぇ! すげぇ力だ! 新フォームのお披露目は、こうでないとな!』
「ぐっ、く、そ……おのれぇ!」
残骸を吹き飛ばしながら立ち上がるゾディア。その目は激しい怒りに燃えている。全身にあったはずの小さな傷が、瞬く間に修復していった。
(実験体と同じ……急速回復か)
「許さん、許さんぞ! この屈辱、倍返しにしてやる!」
「――なら、俺はお前がアルマに与えた苦痛を百倍返しにしてやる」
『『ディードバスター!!』』
「ん?」
いつも通りバスターを虚空から取り出す――なぜか、両手に。
『おぉ? なんか知らないけど2本出せる?』
(理由はわからんが……とりあえず有効活用させてもらおう)
両手に持ったバスターでゾディアめがけて弾丸をバラまいていく。着弾した端から再生していくが、与えた衝撃がゾディアの身体をその場に縫い留める。
「ぐ、ぐぅぅぅ! こんな、攻撃が、効くか!!」
(確かに、これじゃ決定打にはならないか)
『『SWORD MODE!』』
二丁拳銃から、二刀流へ。より鋭く、より致命的な一撃を。
「さぁ、これでどうだ?」
「調子に乗るなぁぁ!」
突進してくるゾディア。もはや冷静さはどこにもなく、怒りと身体能力に任せた乱雑な攻撃。
右のバスターで斬り、左のバスターで受け流す。生まれた隙を、両手のバスターで滅多切りにする。純粋に増えた手数が、ゾディアの荒い攻撃を掻い潜ってその身に叩き込まれていく。
「が、は、あぁぁぁ……無駄だ、どれだけの攻撃を重ねようが、私には……!」
――確かに、どれだけ攻撃しても再生されるのでは意味がない。どうすれば……
『蓮! ここは新しい力を試すぞ! 再生する奴には、それが追い付かないスピードで攻撃するのがお約束だ!』
(……なるほど。こんな力が――)
アルマから伝わってくる、俺たちの新しい力。これなら――!
「私は死なない! さっさと潰れろぉ!!」
狂乱しながら突っ込んでくるゾディア。だが、今の俺たちに追いつくには、あまりにも速度が足りなかった。
『蓮、行くぞ!』
「あぁ!」
『BOOST!』
バスターを投げ捨て、バックルを叩く。聞きなれない音声と同時に、ドライバーから鮮やかな赤と金の粒子が爆発的に吹き荒れた。
『BOOST!!』
叩く。吐き出される粒子が、さらに濃く、その密度を増していく。
『BOOST!!!』
最後にもう一度。限界まで高められたエネルギーで、全身の黄金のラインが輝きを増す。首元から溢れ出す、赤い余剰エネルギーが、暗い室内に俺たちの軌跡を示す一本の尾を引いた。
「なっ!? 消えっ――がっ!」
視界が、急激に引き延ばされる。
これまでとは比べ物にならない、音を置き去りにするほどの神速。こちらに突進してくるゾディアを、反応する隙すら与えず正面から不意打ちする。それだけでは終わらない。
「まだまだ!」
「ぐっ、がぁ! ぐふっ!?」
吹き飛ばしたその肉体の先回りをして、さらに無数の追撃を叩き込む。傍からは、金と赤の光の線が奴の周囲を縦横無尽に駆け巡っているようにしか見えないだろう。
『うおぉぉっ!? 速い、速い! これは映えるぞ!』
(もうずいぶん余裕そうだな……っと!)
思わず苦笑しかけたその時、バックルから再び音声が響いた。
『THREE』
残像すら置き去りにする神速の連撃。ゾディアの体が、一秒で叩き込まれた無数の拳撃によって虚空を跳ね回る。
吹き飛ぶ巨体の先回りをし、死角からさらに苛烈な回し蹴りを叩き込む。金と赤の光の線が奴の周囲を縦横無尽に駆け巡る。
「お、らぁっ!」
「ぐっ! ぐおぉぉぉぉっ!?」
最後に大きく蹴り飛ばした瞬間、暴風のようだった加速の世界がピタリと途切れた。臨界ギリギリの駆動の負荷で、スーツが火花を散らす。だが、一切の外傷がない俺たちと、何度もバウンドし、ボロボロになって床に転がるゾディア。どちらが優勢かは、見るからに明らかだった。
「……おのれ! おのれぇぇぇぇぇっ!! この程度の攻撃で、この『生』の権化たる私がぁぁぁぁっ!!」
魔力によって再び傷が消失していく。だが、傷は消えてもゾディア自身の激情は消えない。それどころか、少しずつ再生速度が落ちてきていた。ゾディアもそれに勘付き、屈辱と怒りに任せて、再び突進してくる。
『蓮! そろそろデカいのをぶち込め!』
「さぁ、決着だ」
『CHARGE ONE!』
激昂して地響きを立てながら突っ込んでくるゾディアに向けて、俺は堂々と真っ直ぐに歩み寄る。その歩みのリズムのままに、バックルのコアを深く押し込んでいった。
『CHARGE TWO!!』
『フィニッシュは必殺技だ! ばっちり決めろ!』
「当然だ。一発で終わらせる」
力が極限まで漲る。俺とアルマ。互いの感情が共鳴し合い、強大な力になる。
『CHARGE THREE!!! FULL CHARGE!!!』
「実験台ごときが、私の覇道を阻むなぁぁぁぁっ!!」
「その薄汚い『生』、丸ごと吹き飛ばしてやる!」
バックルを強く叩き、黄金の輝きをすべて右脚に集束させる。
『DEED・FINISH!!!』
「はぁぁぁぁっ!!」
「が、あぁ、ああああああああっっっ!!!???」
水平の軌道を描いて鋭く跳躍し、その巨体のど真ん中へと、稲妻のごとき蹴りを叩き込む。
迸る黄金の輝きが突き抜けるとともに、ゾディアの巨体が破砕し、地下研究室の空間を白く染め上げながら光とともに爆散した。
『UNLAY……』
爆煙が収まり、漆黒と黄金の装甲がサラサラと解けていく。
「ふぅ――痛っ」
変身が解けた途端、全身に凄まじい鈍痛が襲いかかってきた。生身で受けた余波のダメージだ。骨までは……いっていないといいが。
(これは、どうやって誤魔化したもんか……ん?)
お嬢と当主への言い訳を頭の中で並べ始めて、ふと気づく。脳内に戻っているはずの、アルマの気配がどこにもなかった。脳内からの返答がない。
「どうした、アル……マ?」
周囲を見渡すと、すぐ隣で黒と金の光を孕んだ影が、激しく揺らめいていた。
影はこれまでのぼやけた形ではなく、濃密な密度と確かな輪郭を作り出していく。
光の粒子が収まり、影が晴れた。
そこに、一人の『人影』が立っていた。
「……え?」
思わず声が漏れた。
美しく揺れる、眩いほどの金色の長髪。
顔立ちは凛として整っており――しかし、毎日鏡で見慣れている俺自身の顔を、そのまま少女にしたような面影があった。
背丈は俺より少し低い程度だが、その身体つきは、まるで
肉体的な『美』が、何にも遮られることなくその輝きを晒していた。
そんな
次の瞬間、その顔に朱が差す。
「な……なんだよ! 俺の顔ジロジロ見んなよ、蓮!」
発されたのは聞き覚えのある声。
脳内から一方的に響いていたあのうるさくて騒がしい声が、今は現実の音として、目の前の少女の口から発せられていた。
「……アルマ、か?」
「そ、そうだよ! 俺だよ! なに間抜けな顔してんだよ!」
「……お前、その姿」
「知らん! 気づいたらこの身体になってたんだ! 文句あるか!」
「文句というか……そもそもお前、女だったのか?」
「そうだよ! ……言ってなかったか?」
「聞いてないな。『俺』って言ってたから男だと思ってたが……」
というかこいつ、自分が裸であることに恥じらいとかないのか? 目に毒だから早く服を着てほしいものだが。
「それは、その方がヒーロー、っぽく……あ」
「うん?」
何かに気付いた様子のアルマ。ようやく自身の姿に気付いてくれたか――
「あぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「っ!? なんだ、どうした!?」
この世の終わりのような絶叫。まさか、ゾディアに何か……!
「今週のニチアサ、見逃してるんだけど! いいところだったのに! あっちも新フォームお披露目のはずなのに! どうしよう!?」
「…………あぁ」
そうだ。こいつは、どこまでいってもこういうやつだった。
現実の世界に出てきて、少女の姿になっても、中身は何も変わっていない。その騒ぎ立てる様子がもはや懐かしく、愛らしくすらあった。
「安心しろ」
俺は、小さくため息をついて、ふっと微笑んだ。
「ちゃんと録画してある」
一瞬、静寂があった。
「……へ?」
「もし帰ってきたときに、お前がそう言うだろうと思って録画しておいた。まぁ、俺はひと足早くリアルタイムでもう見たが……」
アルマの顔が、今度は別の意味で真っ赤になった。先程は潤んでいた瞳が、今は爛々と輝き出している。
「っ……よっしゃあ! さっすが俺の相棒! 速攻で帰って堪能するぞ!」
『ディードライバー!!』
言うが早いか、アルマが再びその身をドライバーに変えた。
(そこまで急いで帰らなくても……まぁいいか)
裸の少女を連れて帰るよりはマシだろう。再び漆黒のスーツを身に纏い、夜の闇へと踏み出す。
『蓮! これからも頼むぜ! かっこいいヒーローの姿、期待してるからな!』
「――まぁ、ほどほどにな。今回は全力で乗ったけど、今になってちょっと恥ずかしくなってきた」
脳内で文句を垂れるアルマの声を聞き流しながら、如月家に向かって走る。
この日、俺たちは本当の意味で、背中を預け合える『ヒーロー』になった。
スーツに走る黄金のラインが、月明かりを反射して、夜の闇の中にきらりと煌めいていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
感想、お気に入り、大変励みになりますので是非よろしくお願いいたします。