【2章完結】女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる   作:maki@

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大変長らくお待たせしました……!!

更新していない間も多くの方に読んでいただいて、UAは75000、お気に入りも2000件を超えました!本当にありがとうございます!

そして、本日より更新を再開いたします!

第1章同様、毎日20時の投稿を予定しております。
よろしければお楽しみください。

最後に……新番組「仮面ライダーマイス」、みんなも見よう! (主人公とヒロインの環境が本作とニアミスしていて若干親近感が湧いている顔)



ヒーローは二人で一人
復帰戦と水没と保健室


 湿った潮風が夜の埠頭を吹き抜ける。暗雲に月が隠れた闇の中、二つの影が対峙していた。

 

 

 

「なんなんだ、お前!?」

 

『よっし! 久しぶりにやるか!』

 

「仕方ない――変身っ!!」

 

 

 

 『OVERLAY――ッ!!』

 

 

 

 『DEMON'S・END!! DEED!! UNITY!!!』

 

 

 

 『We're the HERO!!』

 

 

 

『うーん! 改めて見ても、これまで以上に超かっこいいヒーローだ! テンション上がるなぁ、蓮!』

 

(……正直、見た目はどうでもいいが。前より強くなっているのは事実だな)

 

 ――あの廃病院での死闘から数日。ようやく傷も癒え、久方ぶりに夜の街へと繰り出した俺を待っていたのは、例によって魔障憑きとの遭遇だった。

 

 あの日以来となる変身。身に纏うのは、漆黒の装甲にヒーローの赤と、絆の黄金を刻んだ新たな姿――『ユニティ』。

 

「くそっ、くそがぁっ! もう少しで祓魔士を切り刻めたってのによぉ!」

 

 

 威嚇するように刃を擦り合わせる魔障憑き。全身から生えた鋭利な刃は、奴の内に渦巻く『切断』の衝動そのものの形か。

 

 そして俺の背後には、冷たいコンクリートの上に倒れ伏す一人の少女。

 

「うっ……君、は――」

 

「――通りすがりのヒーロー、ってことで」

 

「そう、か。君が、噂の――」

 

 そこでぷつりと言葉が途切れた。全身に刻まれた無数の傷と限界を超えた疲労により、意識を失ったらしい。

 

(このレベルの祓魔士が、一人で戦闘を……?)

 

 目の前の魔障から感じる魔力は大したものではない。しかし、背後の祓魔士から感じる霊力は、手負いであることを差し引いてもあまりに弱々しかった。

 

 本来なら、複数人で協力して任務に臨んでいなければならないはずだが――

 

「邪魔をするなら、お前から切り刻んでやるよぉ!」

 

『蓮、来るぞ!』

 

「――っと!」

 

 殺気を撒き散らしながら突進してくる魔障憑きに意識を集中する。向かってくる腕の先端、月光を反射して青白く光る凶刃。直撃すればこちらの装甲ごと肉を削がれる。

 

 『ディードバスター!!』

 

「はぁっ!」

 

「なにぃ!?」

 

 交差する刃。構えたバスターが激しい火花と金属音を撒き散らす。

 

 互いの力が拮抗し、一瞬の硬着。そこから結んだ怒涛の数合がさらに火花を散らす。一閃ごとに全身へと響く衝撃を殺し、傷を負うことなく滑るように距離を取った。

 

(身体が軽い……! 前よりも体が動く、力が溢れ出てくる! これが、俺たちの新しい力!)

 

『強化フォームの二戦目だからな! ここはしっかり圧勝しておかないと!』

 

「いい剣持ってるじゃねぇか! だがな、俺の刃は二本あるんだぜ?」

 

 再び地面を蹴る魔障憑き。右手の刃をバスターで受け止めた瞬間、凶悪な笑みを浮かべた奴の左腕から、二本目の刃が俺の喉元めがけて突き出される。

 

 以前の俺なら、この手数の差に対応できず後手に回っていただろう。だが――今は違う。

 

(アルマ!)

 

『任せろ!』

 

 『ディードバスター!!』

 

 夜の埠頭に、再び激しい金属音が響き渡る。

 

 奴の左腕の刃を受け止めていたのは、俺の左手に新たに握られた二(・)本(・)目(・)の(・)バスターだった。

 

「お前も、二本目だと!?」

 

「そういうことだ――せいやぁっ!」

 

「ぐっ! がぁっ!?」

 

 敵の動揺を見逃さず、両腕のバスターで奴の刃を勢いよく弾き飛ばす。無防備になったガラ空きの胴体へ、交差する二連撃を一閃。青白い火花が弾け飛び、魔障憑きが苦悶の声を上げて後退した。

『ひゅーっ! 二刀流、やっぱり映えるなぁ!』

 

(戦術の幅が広がったな。このまま、一気に畳みかける!)

 

「おらぁっ!!」

 

「くっ! 俺より、斬れる奴がいるとは……!」

 

 刃の回転数を上げる。空間を切り裂く数多の閃光。

 

 手数と速度の差が、そのまま圧倒的な戦力差となって戦況を支配していく。こちらの装甲には傷一つなく、奴の全身には無数の傷が刻まれ、その身体から活力が霧散していく。

 

『よーし! そろそろ決めるか!』

 

「あぁ……なら、ここはあれを試しておくか」

 

 『BOOST!』

 

 腰のバックル側面を力強く叩き込む。瞬間、眩いばかりの赤と金の粒子が爆発的に溢れ出した。

 

「今度はなんだぁ!?」

 

 『BOOST!!』

 

「これで、一気に決めさせてもらうぞ!」

 

 『BOOST!!!』

 

 バックルを叩くこと、三度。そのたびに光が溢れ、それに比例して全身に力がみなぎっていく。

 

 地面を踏みしめ、爆発的な脚力で踏み出す一歩目。

 

 直後、視界の景色が極限まで引き延ばされ、音すら置き去りにする超加速の世界へと踏み込んでいた。

 

「お、お――おぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「ぐうぅぅ!?」

 

 残像すら残さぬ速度で魔障憑きの横を通り抜けざま、一太刀。すれ違いざまに深く切り裂く――そこまでは、完璧だった。

 

(速すぎる、制動できない! なんだこのスピード!?)

 

『おい蓮! 前! 前ぇぇえ!?』

 

 脳内で叫ぶアルマの声に応じる余裕すらない。とにかく、まずはブレーキを――

 

 

 

 スカッ

 

 

 

「――は?」

 

 踏みとどまろうとした足が空振る。足元にあるはずの地面が、ない。一瞬の浮遊感の直後、必然の結果として重力が俺を突き落とした。

 

「まずっ――」

 

 ドボンッ!

 

 豪快な水柱とともに、全身を凍てつくような冷たさが包み込んだ。

 

(落ちた!? 海か!)

 

 光の届かない漆黒の夜の海。上下の感覚すら失われ、闇の中で必死にもがく。

 

(くそっ、身体が全然浮かない……! スーツが重すぎる!)

 

 全身を覆う装甲。それが鉄の重しとなって、容赦なく俺を海底へと引きずり下ろしていく。もがけばもがくほど肺の酸素が失われ、視界の端が明滅し始めた。

 

(――仕方ない!)

 

 『UNLAY……』

 

 光の粒子とともに全身のスーツが霧散する。重圧から解放された衣服に浮力が働き、急浮上していく。

 

「――っはぁ!? ゲホッ、ゴホッ! はぁ、はぁ……くそっ、さっきの魔障憑きは――」

 

 海面に顔を出し、冷えた空気を貪るように肺に流し込む。全身を苛む激しい倦怠感を無視し、何とか岸壁の陰にしがみついて埠頭の様子を窺う。

 

(――増援の祓魔士か……!)

 

 暗がりの中、目を凝らした先。そこには先程の魔障憑きと交戦する二人の祓魔士の姿があった。倒れていた少女の仲間だろう。

 

(手分けして探索していたところを襲われた、ってことか。だから一人で戦う羽目になって――)

 

 俺が言えたことではないが不用心じゃないか? なんのためにチームで行動しているのか。

 

『蓮、どうするんだ?』

 

(ふむ……)

 

 見る限り、魔障憑きの動きは明らかに鈍い。とどめを刺せないまでも、ある程度はダメージを残せていたらしい。あれなら、駆けつけた二人で問題なく討伐できるだろう。

 

(様子見だな。念のため討伐までは見守るが……まぁ、大丈夫だろ)

 

『強化フォームになってすぐの戦闘が中断……しかも、凡ミスによる実質敗北……! 許しがたい失態だぞ!』

 

(……出力を見誤ったな。ゾディアと戦った時は問題なかったんだが――久しぶりで感覚が狂ったか) 

 

 まさかあれほどの加速が発生するとは。慣れるまでは慎重に使わないといけない。波に揺られながら、脳内で騒ぎ続ける声を聞き流していく。

 

『次はしっかりかっこいい所を――お、終わりそうだぞ』

 

(無事に討伐したか。じゃあ見つからないように退散だな)

 

 流石にこの正面から海から這い上がるわけにはいかない。暗闇に乗じ、離れた足場まで泳いで向かうとしよう。

 

「へっくし!」

 

 ――急いだほうがいいかもしれない。海水の冷たさに身を震わせ、その場からの離脱を試みるのだった。

 

 

 

「――ちょっと蓮。大丈夫?」

 

「……なにが、でしょう」

 

 翌朝。学園に向かう道の途中のことだった。相変わらず俺の手を握ったまま歩くお嬢が声をかけてくる。

 

「反応がいつもより遅い。それにぼーっとしてる」

 

「――少し、寝不足かもしれませんね。問題ありませんよ」

 

 頭の中に重い靄がかかったようだ。お嬢の指摘通り、思考の回転が著しく鈍い。足を止め、俺の手を引こうとするお嬢の動きにワンテンポ遅れて身体がついていく有様だ。

 

「……体調が悪いなら素直に言いなさい。今すぐ屋敷に引き返すわよ」

 

「大丈夫です。ほら、もう学園も見えてきましたし……」

 

 既に校舎が見えている。すれ違う生徒たちも怪訝な顔でこちらを見ていた。

 

「……なら、今日は大人しくしておくこと。少しでも体調が悪いと思ったら――」

 

「えぇ、心得ています」

 

 不服そうに唇を尖らせながらも再び歩き出すお嬢。その後ろを追う俺の足取りは、鉛でも仕込まれたかのように重かった。

 

 

 

「ここは――であるからして……」

 

(やっぱり、無理だったか……?)

 

 教室の席につき、黒板に向かう。しかし、いつもなら機械的に板書を写しているはずの俺の手はぴたりと止まっていた。教師の講義も、まるで遠くのノイズのように右から左へ通り抜けていく。

 

 起きた時点で予感はあった。それでも軽い悪寒程度なら問題ないと判断したが……早計だったらしい。夜の冷たい海に浸かり、夜風に晒された身体が主の意に反して限界を訴えてきている。

 

 思考は空転し、座って重力に抗うことすら億劫になっていく。アルマは今日も寝ているのか脳内は静かで、今にも途切れそうな意識を、鳴り響いた鐘の音がつなぎ止めた。

 

「――っと。では、今日はこれまで。各自、しっかりと復習しておくように」

 

「はぁ……」

 

 教壇を去っていく教師の背中を見送りながら、深く息を吐く。

 

 流石にこれ以上は限界だ。大人しく保健室で休むとしよう。気力を振り絞って立ち上がり、重い足取りで教室を後にした。

 

 

 

(……本格的にやばいな)

 

 視界が揺れる。周囲の音がうまく聞き取れない。自分の身体がまっすぐ歩いているのかも確信が持てない。途切れかける意識を必死につなぎ止め、目的地までの道順を脳裏に描く。

 

 既に次の鐘が鳴り、廊下には人の気配が無くなっていた。壁に手をつき、一歩、また一歩と前進する。

 

(着いた……)

 

ようやく辿り着いた扉。その取っ手に手をかけた瞬間――

 

(あ、まず――)

 

 辿り着いた安堵感からか、最後の一線がプツリと切れた。急激に視界が暗転し、膝からガクリと崩れ落ちる。廊下のひんやりとした床に頬が触れ、熱を奪っていく感覚。開けることの叶わなかった扉が開く気配を感じながら、俺の意識は急速に遠ざかっていくのだった。

 

 

 

(……ん)

 

 重い瞼をうっすらと開けると、差し込むオレンジ色の夕暮れが網膜を刺した。鼻を突くのはツンとした独特の消毒液の匂い。ここ最近、嫌というほど嗅ぎ慣れてしまった匂い。

 

「ここは……」

 

「……やっと起きたのね」

 

 それらを脳が結び付けて答えを出す前に、不機嫌そうな声がかかる。そちらに目をやれば、俺が寝かされているベッドの枕元でパタリと読んでいたであろう本を閉じる白衣の少女。

 

「白石、先輩……?」

 

「ふむ、意識ははっきりしてきたかしら? なんで自分がここにいるかわかる?」

 

 その問いに記憶の糸を手繰り寄せる。確か、体調が悪くなって保健室へ向かったはずで――

 

「あれ? 俺、保健室に行こうと思ってたはずなんですけど……」

 

「へぇ。私が見たのはこの第(・)二(・)保健室の前で無残に転がっていた神代君なわけだけど」

 

 普通の保健室に向かうつもりが、無意識のうちにここ最近で通い慣れてしまったこちらに来てしまったのだろうか。どこをどう通ってここまで来たのかすら記憶があやふやだった。

 

「……すいません。またご迷惑を――」

 

 身体を起こそうとすると、額からぽろりと何かが落ちた。水で絞られた冷たいタオルだ。

 

「ご迷惑をおかけしたみたいで」

 

「えぇ、まったくよ。部屋の外で妙な音がしたから見てみたらあなたが倒れてるし。触っただけでわかるくらいの発熱もあったし。意識のないあなたをなんとかベッドに寝かせて、処置して……重労働だったわ」

 

 ため息と共に先輩の細い手が額に伸びる。

 

「……うん、だいぶマシになったわね。まだまだ平熱とは言えないけど、このくらいなら後は寝てれば自然に治るでしょう」

 

「ありがとうございます。それで――」

 

 ヴーッ! ヴーッ!

 

 俺の言葉を遮るように、ポケットの中でスマホが振動する。

 

「……確認しておきなさい。鳴りっぱなしよ。昼頃から今まで、ずっとね」

 

「――失礼します」

 

 既に結果の予想はつくが、恐る恐るスマホを取り出して画面を見る。そこに表示されていたのは――

 

 

 

【不在着信:18件】

【未読メッセージ:52件】

 

 

 

 画面を埋め尽くす夥しい数の通知。そしてその全てに記載された発信者――如月紗夜(お嬢)の名前。

 

 

 

『蓮? 私のお昼はまだかしら?』

 

『蓮?』

 

『無事?』

 

『どこにいるの?』

 

『ふらっと教室からいなくなったってどういうこと!?』

 

『お願い、返事をして』

 

『どこにいるの……?』

 

 

 

「うおぉ……」

 

 昼食時に宿直室に行かなかったタイミングを境に、凄まじい勢いで安否を確認しようとするメッセージを受信していた。画面内の現在時刻の表示は、既に放課後になってしばらく経過していることを突き付けてくる。 

 

「前にも言った通り、あなたの事情に踏み込む気はない。でも、周りに心配をかけるようなら、医療に携わる人間として苦言くらいは呈させてもらうわ」

 

 呆れたような半目を向けてくる先輩。

 

「自己管理はちゃんとしなさい――ただでさえ、妙な怪我を負う生活をしてるんだから。少しは自分の身体を大切にしておくこと」

 

「返す言葉もないですね……本当、お世話になってます」

 

「そう思うなら、まずはあのお嬢様を安心させてあげなさい。こうも着信があったら気が散って、落ち着いて読書もできやしないわ」

 

「そうですね……」

 

 視線を画面に戻す。深呼吸を一つ、覚悟を決めてメッセージを返信する。

 

「『すみません。無事です』っと――うおっ!?」

 

 ヴヴヴヴヴヴーッ! ヴヴヴヴヴヴーッ!

 

 送信ボタンを押した直後、手の中でスマホが激しく振動する。画面には【着信:如月紗夜】の文字が。

 

「……出なさい」

 

「すみません……」

 

 目線で許可を取り、通話ボタンを押す。

 

「もしも――」

 

『――蓮っ!!』

 

 耳元で炸裂した大音量に、思わず耳からスマホを離す。それでもなお漏れ聞こえてくる声に、先輩が露骨に眉をひそめた。

 

「あ、あの、お嬢。俺は無事なのでもう少し声を……」

 

『……ごめんなさい、取り乱したわ。それで、無事ってどういう意味? あなた今どこにいるの? お昼にも顔を見せないし、教室に行っても誰も知らないって言われたのだけど』

 

 声量こそ落ち着いたものの、矢継ぎ早にまくしたてるお嬢。こちらが答える前に次々と追及が飛んでくる。

 

『何も言わずにどこかに消えるなんて、そんなこと許さないわよ。どれだけ私が心配したか……とにかく、すぐに迎えに行くから。今どこに――』

 

「えっと、それは――って、ちょっ!?」

 

 多少下がったとはいえ、熱に浮かされた脳では到底追いつけない速度。俺が答えに窮していると、不意に横から伸びて来た手がスマホを奪い取った。

 

「病人相手に詰め寄るんじゃないの。彼は私が預かってるから心配しなくていいわ」

 

 流れるような手つきで俺のスマホを耳に当て、淡々とした口調で通話を始める先輩。思わず声をかけようとしたところを、目線一つで制された。

 

「えぇ、白石よ。前に会ったのは病院だったかしらね。そう、たまたま彼が倒れてるのを見かけて――うるさいわね。最後まで聞きなさい」

 

 恐らく先程以上に勢いがあるであろうお嬢相手に、一歩も引かずに毅然と言葉を紡いでいる。

 

「えぇ、そうよ。熱があったみたいだから寝かせてたの。それなりに落ち着いては来たけれど――あなたがここに押し入って騒ぎ立てて、症状が悪化したら困るの。もう少し休ませたら自力で帰れる程度にはなるでしょうから、あなたは大人しくしておきなさい」

 

 漏れ聞こえてくるお嬢の声色が落ち着きを取り戻していく。

 

「――そう。なら、帰してもいいと判断したら彼から連絡させる。それでいいわね? えぇ、ならそういうことで」

 

 話し合いが終わったのだろうか。再びスマホをこちらに戻して来る。

 

「――えっと、お嬢?」

 

『……詳しい話は後で聞かせてもらうから』

 

 それだけ言って通話が打ち切られる。

 

「ふぅ……すみません。助かりました」

 

「気にしなくていいわ。今のあなたに対応させるべきではない、と判断しただけよ。相変わらず愛が重いわね」

 

「そう、ですね……」

 

 淡々と告げながら、先輩はガラガラと医療ワゴンを手元に引き寄せる。

 

「食欲は?」

 

「……ないですね」

 

「そう。なら、これね」

 

 そうして手渡されたのは、白い錠剤と水を入れたコップ。

 

「空腹状態でも服用できる解熱剤。これ飲んでもう一眠りしなさい――次に起きた時には、あのお嬢様の相手をしないといけないからね」

 

「……おぉう」

 

 気が重い。しかし、お嬢にかけた心配を思えば甘んじて受け入れるしかないのだろう。ため息と共に錠剤を飲み込み、再びベッドに横になる。薬の効果か、あるいは疲労か。すぐに眠気が襲ってきた。

 

「全く、手間がかかるんだから……これ以上は――」

 

 最後に聞こえたその言葉の意味を考えるより先に、再び俺の意識は暗闇の中へと落ちていくのだった。

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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