【2章完結まで毎日更新】女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる 作:maki@
とある日の昼休み。いつも通り宿直室での昼食を終え、それぞれの教室へ戻ろうとした俺とお嬢の前に、勢いよく立ちふさがった影。
「如月先輩っ! 少々お時間よろしいですか!?」
「え、えぇ。構わないけれど……」
肩を上下させ、鼻息荒く迫ってきたのは――数少ない俺が顔と名前を完璧に一致させられる後輩、桐生琴音だった。
「あ、神代先輩もご一緒だったんですね。お邪魔しちゃってすみません」
「気にしなくていい。お嬢に用事があるんだろ? 俺はここで――」
「――いえ、大丈夫です。神代先輩も聞いていただけると」
「へ?」
特科の生徒同士の話だろうと、気を利かせて退散しようとした俺の制服の袖が、桐生の小さな手によってギュッと掴まれる。
「……それで、何の用かしら?」
お嬢が少しだけ眉をひそめ、冷ややかな視線を向ける。桐生は一瞬ゴクリと唾を飲み込むと、覚悟を決めたように背筋をピンと伸ばした。
「折り入って如月先輩にお願いがありまして――私を、鍛えていただけませんか?」
(どうしてこうなった……?)
放課後、俺は対魔局内の敷地内に併設された、広大な祓魔士専用訓練場に連れてこられていた。桐生の熱烈な志願を受け入れたお嬢が、なぜか「あなたも来なさい」と俺まで引きずり込んできたのだ。
非戦闘員の俺が、祓魔士の本格的な手ほどきで役に立つことなんてないと思うが……先日も体調を崩して迷惑をかけた手前、尚更お嬢に逆らうことはできなかった。
結果として、広大な訓練場の中央で準備運動に汗を流す二人の少女と、ベンチに腰掛けてそれを所在なく眺める俺、というシュールな構図が完成していた。
(他の利用者がいないことだけが救いだな。流石にここに男がいるのは悪目立ちなんてものじゃないぞ)
『で? これから何が始まるんだ?』
(なんでも、桐生がお嬢に師事するらしい。強くなりたいんだとか)
『へぇ! 特訓パートか! 興味深いな!』
この時間になれば騒がしい相棒も目を覚ましている。少なくとも、退屈することはなさそうだ。
「――よし。それじゃまずは桐生さんの現状の実力を見せてもらわ。あの的に向けて攻撃してみましょう」
「は、はい! 『煌剣』――っ!」
お嬢の指示を受け、立ち位置についた桐生が気合の声を張る。瞬間、彼女の小柄な体躯には似つかわしくない巨大な霊刀が、空間を叩き割るように顕現した。
以前見たときも圧倒されたが、身の丈を遥かに超える巨大な刃が、眩いばかりの純白の霊力を撒き散らす光景は凄まじいの一言だった。
「『刃波』――っ!!」
振り抜かれた霊刀。解き放たれたのは斬撃というよりは――押し寄せる光の質量兵器。地響きとともに放たれた極光が、訓練場の標的を周囲のコンクリート床ごと一瞬にして破砕・蒸発させていく。激しい衝撃波が俺の前髪を激しく吹き散らした。
『おぉ……相変わらず凄い威力だな』
(あぁ、やっぱり出力はかなり高い。でも――)
「ふむ……それじゃ次はあっちにある中で、真ん中のもの
そういってお嬢が指したのはいくつかの標的が密集しているエリア。
「――っ、はい! 集中、集中……!」
桐生が霊刀を構え直す。再び溢れ出す膨大な極光。
――ドンッ!!
地を揺るがす爆音とともに極光が照射されるが、その強大すぎる一撃は目標の標的だけでなく、左右前後に並んでいた他の的まで跡形もなくまとめて粉砕していた。
「やっぱりこうなるわよね……桐生さん、『穿突』はできる?」
「一応、できるにはできるんですが……」
「……? 見せてみて」
途端に自信なさげに縮こまった桐生が、霊刀の切っ先を別の的に向ける。
「ふぅ……行きます! 『穿突』!」
巨大な霊光を極限まで一点に収束させ、突き出す動き。それでも尚巨大な光の線が伸び――標的の横を空しく素通りし、後方の防護壁に巨大な穴を穿つにとどまった。無傷の標的が物悲しい雰囲気を感じさせる。
「あ、あうぅ……また、外したぁ……」
(なるほど?)
「見事に外れたわね……ここを直したい、と」
「はい……お姉ちゃん達にも、威力は良いから制御を学べ、と言われていて……」
「桐生さんの姉……というと、
「はい。天姉にも凛姉にも鈴姉にも、全く同じことを怒られ続けていて――昔からの課題なんですけど、どうしても上手くいかないんです」
桐生の姉――かなり優秀な祓魔士なんだったか。
「
「はい。お姉ちゃん達にアドバイスを聞いてみたこともあるんですけど……」
「上手くいかない、と。まぁこの大出力は中々制御できないでしょうし、他の人のやり方も当てにし辛い、か」
「でも私、どうしても強くなりたいんです! ディード様もまたお姿を見せてくれるようになりましたし、今度は私がディード様をお助けできるくらいに!」
『うーん、相変わらず健気で熱いファンだなぁ、蓮!』
(こうまで純粋に思ってもらえるのは光栄なんだが……立場上、胃が痛いな)
まっすぐな情熱を瞳に宿す桐生。対照的に、お嬢の口角はぴくぴくと引きつっていた。
「……桐生さん? 一応念のために言っておくけれど、あれは対魔局の公式見解としては『正体不明の警戒対象』だからね?」
「でも、私個人の見解では百パーセント確実に私達の味方なので……」
「妙なところで頑固ね……」
「何度も助けられましたから! でも、このままじゃまたディード様に助けてもらうことになりそうで……私自身の力で戦えるようになりたいんです!」
「まぁ、動機がなんであれ、強い祓魔士が増えることはいいことよね。それじゃあ――」
そうして、本格的なお嬢の指導が始まる。
……俺、本格的にただの置物じゃないか?
「よし、一度休憩にしましょうか」
「は、はい……ありがとう、ございました……!」
(本当に置物だったな……)
息を整える二人へ近づき、あらかじめベンチに用意しておいた冷えたスポーツドリンクと清潔なタオルを差し出す。最低限、このくらいの雑用はこなさなければ格好がつかない。
「ん、ありがと」
「ふはぁ……ありがとうございます、神代先輩……」
「いえ、進捗は……芳しくはなさそうでしたが」
「あうっ」
「そうねぇ……」
タオルに顔を埋めて沈む桐生と、腕を組んで思案に暮れるお嬢。結局、放課後いっぱいを使って制御の向上を試みたものの、桐生の放つ光線は標的の周囲にすり鉢状の巨大なクレーターを作り続けるだけだった。
「祓魔士の基本三技能――『纏刃』、『刃波』、『穿突』。これらは互いの欠点を補うように長年体系化されてきた技術よ。どれか一つでも欠ければ戦術の幅は一気に狭まる。前者二つはまぁ及第点だから、やっぱり課題は『穿突』ね」
『お嬢サマがやると、リンゴの種だけ射抜くみたいに綺麗に的に穴が開くのにな。桐生ちゃんのは大砲を振り回してるようなもんだ』
(大雑把に範囲攻撃で敵を叩き潰すぶんには、これほど頼もしい祓魔士もいないんだがな。本来なら前衛と組んで後方支援に回るのが最適解だ。だが――)
それでは桐生の望む戦い方ではないのだろう。自分の足で立ち、自分の手で大切な存在を守る。それが彼女の譲れない拘りなのだから。
「――蓮? 外から見ていて、何か気付いたことはないかしら?」
「――ふむ。俺ですか」
突然お嬢から水を向けられ、目を丸くする。まさか、そのために俺を連れてきたのだろうか。一応、俺は表向き非戦闘員なのだが。
「えぇ。何でも構わないわ。見ていて思ったこと、何かない?」
「お願いします、神代先輩! どんなことでもいいんです!」
桐生が縋り付くような勢いで俺の顔を覗き込んでくる。文字通り藁にも縋る思いなのが伝わってきた。
(気付いたこと、ねぇ……)
「では、僭越ながら。『刃波』を打つ時に比べて、『穿突』の時の桐生の体の動きが、どこか硬く見えました」
ダイナミックに全身を使って振り抜く『刃波』と、どこか縮こまってぎこちない『穿突』。脳裏に焼き付いた二つの残像の差異をそのまま言葉にする。
「硬い、ですか……?」
「型にはめようとしている、というか。なにか手本のようなものに寄せようとしているように感じました」
「……なるほどね。桐生さん、どう?」
「は、はい……幼い頃から教本にある『正統な型』に沿った動きを徹底的に叩き込まれてきました。霊力の精密制御には、教科書通りの型を寸分狂わずなぞることが絶対だと教わってきたので……」
「そうね。霊力とは本来、形のない曖昧なエネルギー。それを均一に出力・収束させるためには、洗練された身体の型が必要不可欠よ」
「そういうもの、ですか。俺は祓魔士の技術には疎いので……素人の発言と聞き流してください」
祓魔士の戦い方なんて、今まで学んだことも無い。その必要がなかったし――自分にはない霊力の扱い方なんて知りたいとも思わなかった。己の無力感を煽るだけだったから。
「いいえ、むしろ凄くいい意見だわ。まさにそういう、私達にない視点が欲しかったのよ」
「はい?」
「型にはめた方がいい、それは事実よ。でも、その型が間違っているとしたら?」
「へっ?」
そんなことがありえるのか? 古くから洗練されてきたものじゃないのか。
「既存の型は、あくまで標準的な霊力量を持つ祓魔士に向けた『最大公約数』に過ぎないわ。それが彼女の破格の霊力と合致していないなら、完全に別の動きを試してみる価値はあるわね」
「別の型、ですか……」
「それがどういうものかは私にもわからないし、そもそもないかもしれないけどね。でも、これは型の鍛錬を重ねてきた私達祓魔士には出せない発想よ。とりあえずやってみましょう」
「うーん……」
三人であーでもない、こーでもないと頭を捻る。型そのものを疑うという発想こそ出たものの、二人はどうしても既存の方に思考が引っ張られるし、そもそも霊力の知識がない俺では、実用的な代替案など出せるはずもない。
『ふーん。型、型ねぇ……』
(なんだ。なにか考えでもあるのか)
話し合いを始めてから黙りこくっていたアルマが、ふと妙に思わせぶりな声を漏らした。
『今求めてるのは、桐生ちゃんのあのデカい剣で突きを繰り出す動作、だよな?』
(そうだな。体が自然と反応するような強いイメージが必要だ)
『逆に言えばだ。彼女の脳裏に完璧に焼き付いていて、寸分狂わず再生できる動きがあるなら、それを「新しい型」って言い張れるわけだろ?』
(……まあ、理論上はそうなるが)
『だったら話は早い。桐生ちゃんだからこそ使える、とびっきりの「型」があるじゃん! つまり――』
「――『穿突』のイメージを、『ユニコーンアタック』に置き換えてみる?」
「……はい? 蓮、いきなり何を言って――」
「あ、いや! 今のは口が滑ったというか……!」
思わず脳内の会話をそのまま口に出してしまっていた。呆れ果てたような目を向けてくるお嬢。しかし――
「………………ッッ!!!」
桐生の表情が劇的に一変した。
雷に打たれたように目を大きく見開き、勢いよくベンチから立ち上がる。
「あ、ちょっと桐生さん!?」
制止するお嬢の声を置き去りに、桐生は一直線に訓練場の中央へと駆け出していく。
「『穿突』……『ユニコーンアタック』……! そうか……そうだったんだ! あの重心の移動、あの踏み込み……! それなら……私にも!!」
彼女の手元に、再び巨大な霊刀が顕現する。だが、その構えは先ほどまでの教科書通りのコンパクトな型とはまるで違っていた。
身の丈を超える大剣をあえて斜め後ろへ大きく倒し、全身のバネを極限まで溜め込むような、劇的で、何より――『魅せる』ための美しい躍動的なフォーム。
「――はぁぁぁぁっっっ!!!」
裂けんばかりの気合いとともに、一筋の閃光が解き放たれた。
先ほどまでとは一線を画す、針の穴を通すような高密度の極光の槍。それは一直線に十数メートル先のターゲットへと吸い込まれ――
『ほらな? 良いもの見れたぜ!』
「おぉ……本当に成功した……」
「…………嘘でしょ」
周囲の的には一切傷をつけず、中央の標的だけを正確無比に貫通、粉砕してみせた。
脳内のアルマが得意げな声を上げる。正解に導いたのは間違いなくこいつの特撮知識だが、それを完璧に再現してみせた桐生の執念も凄まじい。
「やった……やりましたぁぁぁ! 神代先輩っ!」
「ちょっ、うわ!?」
全身で爆発的な喜びを表現しながら、弾丸のような勢いで飛び込んできた桐生を必死で受け止める。
「まさかこんな形でできるようになるなんて……! しかも、私が大好きな『神獣戦士ユニコーン』の必殺技で成功するなんてぇぇ!」
「わかった、わかったから一度離れろ……!」
興奮のあまり全力で抱きついてくる彼女の、制服越しでもはっきりと伝わる
「ふぅ……」
「……んんっ!! それで、説明してくれる?」
あからさまな咳払いが響く。振り返れば、お嬢が般若のような笑顔でこちらを睨みつけていた。
「……ええと。桐生に必要なのは、体に染み付いたブレないイメージでした。それも、あの巨大な霊刀で無理なく威力を一方向に収束させられる、絶対的な成功体験の動きです」
「それがさっきの『ユニコーン――何だったかしら」
「『ユニコーンアタック』です! 『神獣戦士ユニコーン』の主人公が、強化武装『ユニコーンドリル』から発射する必殺技なんです!」
目を輝かせて熱弁する桐生と、ますます頭痛を深めていくお嬢。まぁ、無理もないだろう。俺もアルマの一声が無ければ想像もしなかった手段だ。特撮ヒーローに興味のないお嬢からすれば、正体不明の謎の呪文に聞こえても無理はない。
「細かい説明は省きますが……要するに桐生が何百回、何千回と映像で見て脳裏に焼き付いていた『必殺技のイメージ』をそのまま型として転用したんです。本来は剣ではなく槍のようなもので繰り出す技ですが……桐生の霊刀なら無理なく再現できる動きだったようですね」
「うーん……伝統ある祓魔士の型が特撮番組の技に負けたなんて、納得はいかないけれど……結果として命中精度が劇的に改善したのなら、文句は言えないわね……」
「これなら、他の技の制御ももっと良くなるかもしれません! 神代先輩、本当に、本当にありがとうございました!」
「まぁ、力になれたなら何よりだ」
(アルマも、今回は助かった)
『いいってことよ! 俺もいいもの見させてもらったしな! まさか現実で『ユニコーンアタック』が見られるとは……!』
脳内と目の前で、重度の特撮オタク二人がそれぞれ歓喜の声をあげている。
ヒーローに憧れる少女が、ヒーローの技で己の限界を打ち破った――まさに、特撮ドラマの一幕のような放課後だった。
数日後。俺は対魔局内の自身デスクで頭を抱えていた。
『うおぉー!! ついに俺たちもネットの世界にデビューか!』
(最悪だ……完全に火がついてる……!)
目の前のモニターに映し出されているのは、現在各種SNSや動画配信サイトでトレンド入りを果たしている一本の動画だった。
『すごい演出!』
『CGのエフェクトがかっこいい!』
『初めて見たな……情報が出てこないぞ。新作か?』
いつも通りの隠蔽工作。いつもと違うのは――
『こんなヒーローいたっけ?』
『生産者情報求む!!』
『怪人の方も滅茶苦茶リアルだな……!』
動画の中心で縦横無尽に暴れ回っているのが、変身した
昨夜、市街地の路地裏で突如遭遇した魔障憑きとの戦闘。
それが、運悪く周辺の防犯カメラや一般人のスマホカメラにバッチリと捉えられてしまっていたのだ。
(新しい力の試運転なんてしてる場合じゃなかった……!)
前回盛大に失敗した力の制御を目的に、ブーストギミックの段階的な出力調整を試していたのだ。現れた魔障憑き自体は大した脅威ではなく、本来なら一瞬で処理して闇に葬れるはずだった。
しかし――
『くそがぁっ! なんなんだお前はぁぁっ!』
妙に知性の高いその個体は、不利と悟るや否や、プライドも投げ捨てて一目散に逃走を開始したのだ。それも、夜間でも人がごった返す繁華街の中心部に向かって。大通りに出る直前でなんとか追い詰め、撃破することには成功したものの――その一連の激闘が、大勢のギャラリーの目に触れてしまった。
『フィニッシュは必殺技で決まりだ!』
『いいね、いいねぇ! 最高の画だ!』
脳内でノリノリのアルマの指示に従い、ヒーローとしての見栄えを意識した派手な必殺技でトドメを刺し、遅れてやってきた対魔局の処理部隊に後始末を丸投げして現場を離脱したのだが……
正体こそ隠し通せたはずだが、初めてと言っていい、ディードの大規模な露見。様々な方法で虚構に落とし込んではいるものの、普段の祓魔士の戦闘と比べてあまりにも派手な動画となってしまったそれは、別の方面でバズってしまった。つまり、怪異のオカルト動画ではなく、ヒーローものの特撮映像作品として。
(これ、流石に対魔局の上層部が黙ってないだろ……!)
みぞおちの奥がキリキリと痛む。
頼むから、これ以上大事にならないでくれと、胃薬を飲み込みながら祈るしかなかった。
「――流石に看過できない」
対魔局最高司令部、特別会議室。人類の防衛を司る組織の頂点たる11人の傑物たちが集うその部屋に、極寒の氷を思わせる厳かな声が響き渡った。
「これほど鮮明な映像が世に出回ってしまっては、市民の動揺は避けられん。万が一、この者が人類と敵対した場合、社会に及ぼす混乱は未知数だ」
流れるような銀髪を揺らし、円卓の首座から見下ろす妙齢の女性。対魔局の頂点に君臨する最高司令官――
「全局員に通達。この者の捜索に優先的に戦力を割くように。例の異常個体に関する調査も、ようやく終息の目処が立ったはずだな?」
「はっ! 異常個体を発生させていたと思われる、廃病院内の研究施設の検証が完了しております。今後、同様の異常個体が発生する可能性は低いかと」
「結構。では早急にこの者を捕らえよ。これ以上、不穏分子を放置はできん」
「――司令、発言の許可をいただけますでしょうか」
緊張感の漂う空気を破り、挙手をしたのは幹部陣の中でも異例の若さで座を占める一人の女性だった。
「……桐生か。どうした?」
「では恐れながら。この者――報告によれば『ディード』、という呼称らしいですが。現場の祓魔士達からは『味方である』、『助けられた』などの好意的な報告が多く上がってきております。あまり大々的に敵視するような動きを見せると、彼女たちからの反発を招く恐れがあります」
「ふむ。その件については私もいくらか耳にしている。その上での判断だ」
「問題はない、と?」
「ええ。そう言った甘い報告を上げてくるのは、大半が未熟な若手祓魔士ばかり。単独で魔障を討伐する力を持たない、弱者たちだ。対して、前線で数々の修羅場を潜り抜けてきた精鋭たちの見解は異なる。『魔障に極めて類似した禍々しい気配を纏い、接触を試みれば即座に逃走する、極めて危険な異分子』とな」
「なるほど……」
「まずは拘束し、取調べを行う。その力の出所、目的、背景関係を全て吐かせなさい。我々と志を同じくする者であると証明されれば、共に並び立つ道も探せるだろう。……しかし、そうでなかった場合は――」
討伐する。その言葉が鏡華の口から直接紡がれることはなかった。しかし、部屋に満ちる圧倒的な殺気が、その結論を雄弁に物語っていた。
「――承知しました。では、ディード捜索に人員を割きます」
「あぁ、頼むぞ。全ては、人類の平穏のために」
その一言をもって会議は散会となり、幹部たちが重々しい足取りで退室していく。最後まで部屋に残り、モニターに映し出された黒い人型の姿を凝視していたのは、先ほど鏡華に問いを投げかけた女性だった。
(琴音……お前が幼子のように信じ切っているその『ディード様』とやらは、本当に味方なのか……? このままでは本当に取り返しがつかなくなるぞ……!)
桐生天音。最年少で司令部入りした女傑であっても、対魔局という国家規模の巨大な組織の歯車を止めることは出来ない。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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