【2章完結まで毎日更新】女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる 作:maki@
「それで、今日も魔障憑きが襲ってきたのね?」
「えぇ。私が祓魔士だってわかるとすぐに逃げていったんだけど……」
「そう……」
お嬢による護衛が始まってから数日。食卓を囲むお嬢と当主の間では、頻繁に俺への襲撃に関する情報交換が行われていた。
「本当に毎日毎日……! 一体蓮に何の用があるって言うのかしら!」
「お嬢、落ち着いてください。お皿のフチを叩いても肉は増えません」
当主の前だというのに珍しく行儀の悪い行動。立て続けに俺が襲われている現状が、よほど腹に据えかねているようだ。
「複数の魔障憑きが明確に意図をもって対魔局の人間を襲っている……これだけ襲撃の被害が出ているのに、その目的がわからないのは本当に不気味ね。いつまでも祓魔士を護衛に付けておくわけにもいかないし――」
「私としてはもうしばらくこのままでも――蓮に張り付いておく名目にもなるし」
「……お嬢、それではいつまで経っても俺が襲撃され続けることになるのですが……」
『大体そんなことになったら俺達はいつ変身できるようになるってんだ! こっちがどれだけ我慢してると……!』
お嬢が護衛に付いてからというもの、その力で近づく魔障を片っ端から退治してしまうために、俺たちが変身して戦う機会は皆無になっている。おかげで、今日もアルマは不機嫌さを隠そうともしない。
「それは困るけど――少なくとも私が傍にいる間は、ちゃんと蓮を守れるもの。襲撃がなくなって目を離した途端に、なんてことになったらもっと困るわ」
「……まぁ、守っていただいている身で言うことでもないですが、そこまで――」
「するわよ。大切な『家族』なんだから。私だけじゃない、お母様だって同じ思いのはず。でしょう?」
お嬢から同意を求められた当主は、しかしどこか遠くを見るような重い表情で手元のグラスを見つめていた。
「……お母様?」
「――っ、そうね。蓮が安全に過ごせるなら、それに越したことは無いわ」
呼びかければ答えてくれるものの、どうも様子がおかしい。最近、心ここにあらずというか、思い悩むような姿をよく見ている気がする。今も、あまり箸が進んでいない。
「――お口に合いませんでしたか?」
「そうじゃないの。いつも通り美味しいわ――ちょっと、考え事をしていただけよ」
そう言って食事を再開する。それ以上の追求を拒むように、彼女は微笑みを崩さなかった。
(何か悩んでいるなら解決したいところだが……対魔局関連だと俺にはどうしようもないしな)
自分の無力さに歯がゆさを感じながらも、明日の夕食は当主の好物にしようと脳内のメモに書き込んでおくことにした。
(本当に、どうしたものかしら……)
夕食を終え、自室に戻る。結局、蓮の心配そうな目線が私から外れることはほとんどなかった。息子同然の存在に心労を見抜かれるなんて、随分と鈍ってしまったものである。
(局員に対する襲撃、正体不明の『ディード』の捜索。そして通常通りの魔障への対処……いい加減手が回らなくなってきてる)
思考を支配するのは、日に日に悪化していく対魔局の窮状。人手は常に不足し、それどころか襲撃を防げなかった結果、更に後方支援員が離脱していく。現状、死者が出ていないことは幸いだが、今後もそうとは限らないし、そもそも対魔局自体の動きが止まれば終わりだ。
(その上、蓮は毎日のように襲撃されて――本当に、紗夜がいてくれてよかった)
蓮の無事を喜ぶたびに、そこに紗夜の存在が不可欠であると認識させられる。そしてそれは、そのまま私に自分の
(選んでしまった。何を優先するのかを。それも、組織のためじゃなく、私情で)
鏡華が宣言した護衛対象の選抜。それは対魔局が組織としてあるために必要な、非情な判断。それを下した彼女に比べて自分はどうだ。
護衛を付けるに値する人員の選考に手を加え、自分自身の『
(『アルゴス』の件と言い……最近、少し勝手が過ぎるわ。こんな様で、対魔局の最高司令部なんて……)
一度芽生えた自責の念は、毒のように全身を駆け巡る。
(蓮が如月家に縛られているのは分かってる。それに、対魔局で『なにか』を探し求めていることも。それでも、何かのきっかけで心変わりして魔障と関わらない人生を歩んでくれるなら――そのきっかけを作ることが、輝夜からあの子を引き継いだ私の使命)
蓮が『アルゴス』で働くことを選ぶならそれでいい。表の世界で、平和に生きていけるのだから。だが、少なくとも今はそうじゃない。だからこそ――
(今はあなたを守ることだけを考える。そのためならどんな罪も背負うし、どんな罰も受ける。対魔局を利用してでも、あの二人の形見であるあなたを、必ず――)
「さ、蓮。帰りましょっか」
「えぇ。よろしくお願いします」
対魔局の仕事を終え、お嬢と合流して帰路に就く。その道中で襲撃を受けて、お嬢がそれを撃退する。ここ最近はずっとその繰り返しだった。
『だぁ、もう!! いつになったら俺たちのヒーロータイムが始まるんだよ!!』
(仕方ないだろ。お嬢がいる以上、変身するわけにはいかない。そもそもお嬢がいればその必要すらない)
俺が戦うまでもなく、一刀のもとに魔障憑きを討伐するお嬢が全てを片付けてしまう。
『折角新フォームも慣れてきて、いくつか新技も考えたのに……お披露目できないんじゃ意味ないだろ!』
(そうは言うがな……俺達が変身するってことは少なくともお嬢が戦えなくなってる状態だぞ? お嬢が勝てない魔障憑き相手に、俺達が勝てるか?)
『相手がどんなに強かろうと、ヒーローは逃げないし負けないんだよ!』
威勢は良いが、現実はそう甘くない。正確な比較は難しいが、もしそうなったら俺達の勝率は五割を切るだろう。
(せめて最大出力の加速状態を完璧に制御できないとな……先は長い)
「――蓮、何か考え事?」
「……いえ、大丈夫です」
「そ。またいつ魔障憑きが襲ってくるかわからないんだから、気を抜いちゃ駄目よ?」
「はい。気を付け――」
「あら、神代君?」
落ち着いた穏やかな声に、足を止める。
「っと、白石先輩。お疲れ様です」
「お疲れ様。そっちも帰りかしら?」
「えぇ、まぁ。ここからが本当の戦いかもしれませんが」
「あぁ……君、襲われたのね」
「ここのところ毎日ですよ。お嬢が全部追い払ってくれていますけどね」
「へぇ……」
白石先輩の目がお嬢に向く。
「……なにか?」
「いいえ? 如月さんの神代君に対する愛の重さは重々承知してるから。護衛としては申し分ないだろうと思っただけよ」
「当然です。蓮は私が守りますから」
「すごい自信ね……あなたも見習ってほしいものだけど?」
「家族愛より強いモチベーションなんて、この世にそうそうないよ~? 私だってちゃんとお仕事はしてるじゃない~」
白石先輩の背後から、間延びした長閑な声とともに一人の女性が現れた。
「初めましてかな~? 如月学園三年~、桐生鈴音だよ~」
「一年の神代蓮です――桐生?」
「わぁ、君が噂の神代君か~。琴音ちゃんがお世話になってます~」
言われてみれば確かに桐生と顔立ちが似ている。しかし、全身から「元気爆発!」といった覇気を放つ桐生とは対極的に、この人からは捉えどころのない、どこか浮世離れした空気が漂っていた。
……だが、その緩い雰囲気や口調に騙されてはならない。桐生鈴音――この人物は。
「そっちは~如月家の次期当主さんだよねぇ」
「はい。直接ご挨拶するのは初めてですね――
「そんな大層なものじゃないけどね~。めんどくさい雑務ばかりで嫌になっちゃうよ~」
如月学園の生徒会長であり、あの学園において、それはそのまま
「天姉さんも~凛姉さんもそうだったからね~。私だけ負けてはいられなかったんだ~」
「『桐生の三乙女』も大変ね。そうやって常に比べられて」
「雛乃ちゃんは一人っ子だもんね~。でも~私は家族のことが大好きなので~いてくれてよかったなぁと思うわけですよ~」
綿あめのようにふわふわとした口調。だが、その瞳の奥には、決して揺らぐことのない絶対的な強者の芯が通っていた。これが、現在の如月学園の頂点か。
「それと~。その『三乙女』って呼び名も~、近いうちに変えなきゃいけなくなると思うんだよね~」
「どういう意味?」
「神代君と如月さんのおかげで~可愛い可愛い琴音ちゃんが急成長中なのです~」
「へぇ? そうなんだ」
白石先輩の瞳に、興味深げな光が宿る。十中八九この前の特訓のことだろうが……
「ほんの少しアドバイスしただけです。もし桐生が強くなったのなら、それはあいつ自身の努力の結果ですよ」
「でもでも~、琴音ちゃん『神代先輩のおかげで世界が開けた!』ってすっごく喜んでたよ~? だから~君たち二人にはお礼を言いたいと思っていたのですよ~」
「……まぁ、そういうことなら」
『ふふん! 俺の的確な助言のおかげだな! これからもいろんな技が見れると思うとワクワクするぜ!』
(目的変わってないか……?)
得意げな様子のアルマだが、あれは特撮を再現するためにやったわけではない。そうそう同じようなことにはならないと思うが……
「……いろいろと面白い話が聞けそうね。どう? 途中まで一緒に帰らないかしら」
「えっと……お嬢?」
「いいんじゃない? 鈴音さんがいるなら、もっと確実にあんたを守れるだろうし」
「大船に乗ったつもりでいたまえ~。私も~私が知らない琴音ちゃんの話とか気になるよ~」
そういうわけで、4人で移動することに。話題は様々だったが、やはり一番多くを占めていたのは――
「それにしても~なんのために襲撃なんてしてるんだろうね~?」
この状況のきっかけでもある、魔障による襲撃事件の事。
「白石先輩は今まで一度も?」
「えぇ。いきなり護衛が付く、なんて言うからどうなるのかと警戒してたんだけどね」
「私は仕事が無くて楽だけどね~」
「……そう聞くと、お嬢には大変な負担を課してしまっている気分になりますね」
「そんなこと気にしなくていいの。それが今の私の仕事で、やりたいことなんだから」
お嬢が護衛に付いてからというもの、毎日のように襲撃されている。いったいどうしてここまで差がつくのか……
「それに、襲ってくる連中もすぐに逃げるやつばかりじゃない。大した負担でもないわよ」
「そうなの~?」
「はい。蓮めがけて襲撃してくるんですけど、私が割り込むとあっさり逃げていくんです。まるで、祓魔士には何の用もない、みたいな雰囲気で」
お嬢のその証言を聞いた瞬間、桐生先輩の目が細められた。
「ふ~ん……? そういえば~雛乃ちゃんって今回の被害者の治療も担当してたよね~?」
「そうね。治療と、後は簡単な問診も。それがなにか?」
「その被害者の人たち~、襲ってきた魔障憑きについて何か言ってなかった~?」
「……個体ごとの見た目や能力に共通点はなかったわね。あるとすれば……何かの意図をもって様子を窺っていた、かしら」
奴らはなにかを探っているのだろうか。それこそ、俺を
「う~ん……それじゃ、被害者の方は~? なにか、共通点みたいなものは~?」
「そうね……比較的若い、かしら。学生を中心に被害が広まっているみたいね」
「でも、蓮があれだけ狙われていて、白石先輩はそうじゃない……ただ単に学生ってくくりでもないんじゃないですか?」
「神代君と雛乃ちゃん……わかりやすいのはやっぱり男女の違いかなぁ?」
「――待って」
各々の考えを述べていく中で、白石先輩が突然歩みを止めた。
「……それかもしれない。少なくとも、今回の件で私が担当した被害者は全員男性だった。そもそも祓魔士じゃない対魔局所属の女性が少ないから違和感を覚えてなかったけれど――」
「――そもそもの狙いが、「非戦闘員」じゃなく、「男性」だった~?」
――矛盾は、しない。俺と白石先輩の現状、そして被害者たちの共通点。女性しかなれない祓魔士の性質上気付きにくかったが、そう考えれば様々なことに説明がつく。後は――
「仮にそうだとして、ならなんで男性だけを狙っているのか、という話に戻ってきてしまいますね」
「そこだよね~。逆に神代君はなにか心当たりないの~?」
「――あったら対策もできたんですけどね」
ディードの事について話せないのもあるが、実際問題なにも――
(――待て)
この一連の襲撃で、標的になったのが若い男性に限られているという前提で、俺が
「――白石先輩、一つ質問良いですか?」
「えぇ。なにかしら」
もし、この質問で返ってくる答えが予想通りなら――
「被害者の中で、「
「……いいえ? むしろ何人かは「
(これで、ほぼ確定か)
『なんだよ、わかったのか?』
(あぁ、奴らの目的は――)
「神代君、ストップ~」
「っ!?」
思考に集中していた俺の肩を、柔らかい手が叩く。振り返れば、先ほどまでの制服姿ではなく、美しい霊衣を顕現させた先輩が鋭い目線を前方に向けていた。
「なにか思いついたのかもしれないけど~お話はここまでかな~」
口調は変わらず緩いままなのに、放つ雰囲気がこれまでとまるで違う。触れれば斬れるような、鋭い気配を身に纏っていた。
「桐生さん? いきなりなにを――」
「白石先輩、下がっててください――来ました」
お嬢も即座に『残月』を抜刀し、困惑する俺と白石先輩を背中に庇う。
二人の祓魔士が鋭い視線を向けたのは――路地裏の深い暗闇。
(……アルマ?)
『うーん……? 言われてみれば、気配がする、ような?』
(おいおい……この距離で感知するのか? これが祓魔士でも上位の実力を持った人間の知覚能力か)
いくら周囲に人気が無いとはいえ、数十メートルは離れている場所の気配を察知するなど、尋常ではない。
「早めに出てきた方が良いよ~? ――じゃないと、そのまま死んじゃうかもね」
「それは困るなぁ」
(うわ、本当にいた……)
奥から現れたのはかなり人間からその輪郭を外れている魔障憑き。大きな翼に鋭い爪、鳥のような身体だった。
「よく気付いた、と言いたいところだが――」
「あなただけじゃないよね~? 珍しくもう一匹いるでしょ~?」
「――おいおい、なんなんだ? あんた」
続けて現れたのは、爬虫類じみた鱗を全身に生やした魔障憑き。
「……どっちも、かなり浸食が進んでるみたいね」
近頃は少なかった、完全浸食手前の個体、しかもそれが同時に二体。
「桐生先輩、あっちのトカゲみたいなやつは私が――」
「あぁ、いいよいいよ~。どっちも私が相手するから~」
こともなげに、一対二の戦闘を制すると宣言した桐生先輩。その表情に緊張はなく、驕りもなく、ただ自負だけがあった。己と敵の力量を正確に推し量り、順当に自身が勝つという確信が。
「――舐めるな!」
鳥のような魔障憑きがその翼を羽ばたかせる。そこから切り離された大量の羽がこちらに向けられ――
「って、やばっ!?」
「きゃっ!?」
咄嗟に白石先輩を庇う。揃って回避するだけの猶予などどこにも――
「それはこっちの台詞なんだよね~」
――しゃらん。
鈴のような音が響き、一瞬のうちに飛来した羽の全てが撃ち落とされた。
「そんな豆鉄砲が通用するわけないでしょ~?」
桐生先輩は霊刀を一振りしただけ。だというのに、そこから放出された霊力は空中で複雑に枝分かれし、正確に飛翔する羽の一本一本を迎撃したみせたのだ。
『うおっ……!? なんだ今の!?』
(なんて操作技術だ……!)
「……貴様」
「う~ん、とはいえ何度もそっちを狙われたら面倒だね~。如月さん、お願いできる~?」
「……わかりました。二人を連れて安全な場所まで撤退します」
「お願いね~。流石に、もうこれ以上はいないと思うけど、注意だけは怠らないように~」
「はい! 蓮、白石先輩、走りますよ!」
お嬢の先導のもと、俺たちは背を向けて一気に路地裏を駆け出した。
「みすみす逃がすと思うか!」
「祓魔士に用はないんだよ!」
「あは~? だから~それは通らないって~」
後で炸裂する凄まじい衝撃波と、怪異の悲鳴。
遠ざかっていく戦闘音の中で、桐生先輩の声色から「余裕」が消えることは、最後まで一度たりともなかった。
「ふぅ、はぁ……っ! 私、生粋のデスクワーカー、なんだけど……!!」
路地裏を駆ける。白石先輩は既にかなり息が上がっているが、今はとにかくさっきの連中から距離を開けておかないといけない。
「こっち、急ぎましょう」
大通りの人目を避け、進んでいくお嬢の背中には一切の迷いが見られない。それだけ、桐生先輩の実力を信用しているということなのだろう。
『さっきの、凄かったな……今後の参考に、もうちょっと見ておきたかった……!』
(今回は無理だぞ。流石にここで戻るのは不自然すぎる)
『わかってるよ……ほんと、早く解決しないかなぁ? お嬢サマが張り付いたままじゃどうにもならな――蓮っ!』
「――っ! 止まって!!」
アルマが警告してくるのと同時、前を走っていたお嬢が制止の声を上げる。なんとか踏みとどまった前方、俺達が通り抜けようとした空間――そこが一瞬光ったかと思うと小さな爆発が連鎖して起こった。
「――勘がいいな。ここで足は奪っておくつもりだったんだが」
「……そっちが気配隠すの下手なだけじゃないかしら」
ゆらり、と爆炎の先でまたも魔障憑きが行く手を阻む。全身にコードのようなものを這わせた、機械のような身体つき。
「祓魔士に用は無いんだが――まずはお前を倒す必要がありそうか」
「へぇ? これまでのやつはみんなすぐに逃げ出してたけど。あんたは違うのね」
「状況が変わったので――なっ!」
「っ!」
魔障憑きが腕を振るうと、そこから光の粒子がばらまかれる。どう考えても危険物なそれから、とっさに距離を取った。
「すみません先輩!」
「へっ? ――きゃっ!?」
呆けていた白石先輩を引きずって、お嬢も後退する。その直後だった。
「BOMB!!」
一瞬の間を開けて、またも爆発が空間を埋め尽くす。爆炎が晴れた中心部では、コンクリートは抉れ、壁にはひびが入っている。まともに食らえば戦闘不能になりかねない威力だ。
「さぁ、いつまで逃げられる? お前たちは大通りには行かない。この狭い路地裏に逃げ場なんてないぞ?」
「チッ……! 面倒ね」
奴の言う通り、このまま爆破を続けられればどこかで躱しきれないタイミングが来る。そうなる前に奴を倒すしかないが……
「た、助かったわ。神代君」
(流石に足手纏い二人を連れた状態で戦うのは無茶だな……)
いくらお嬢でも、遠距離攻撃ができる個体相手に護衛対象二人を抱えた条件は厳しいだろう。同じ考えなのか、お嬢の表情にもわずかな焦りが見える。
……仕方ないか。奴らの目的を考えるとリスキーだから、できれば取りたくなかったが――
「――お嬢! 白石先輩は俺が! 急いで離脱します!」
「させるかよ!」
再び粒子を撒き散らす。それが殺到する前に――
「こっちだって! 『刃波』っ!!」
抜刀一閃、振りぬかれた光の斬撃が粒子を飲み込み、消し去っていく。
「~~~~っ! 行きなさい! すぐこいつ倒して追いつくから!」
「はい! 先輩、こっちです!」
「へ? わ、ちょっ……!」
状況の変化に追いつけていない様子の先輩の手を取って走り出す。あの程度の魔障憑きなら、お嬢一人なら確実に対処できるはず。とにかく、急いで邪魔にならない場所まで移動しないといけない。
付近の構造を脳裏に描く。大通りを避け、袋小路にならないような逃走ルートを算出――!
『おい蓮、どうするつもりだ?』
(とにかく、今は逃げる! 誰か別の祓魔士と遭遇できるのがベストなんだが……!)
可能ならそこで先輩を預けたい。じゃないと――
「はぁ、はぁ……。無事に帰ったら、少しは運動しようかしら……!」
「健康のためにも、いいことかと……!」
先輩の体力が限界を迎えてしまう。おそらく連中は俺を狙っては来るだろうが、祓魔士が近くにいる状態なら先輩が狙われることはないはずだ。
『――チッ、蓮! 今日は千客万来みたいだぞ!』
(何体いるんだよ!?)
今度は純粋な人型に近い魔障憑き。ただし、その身体は半透明で、まるでスライムのようだった。
「ようやく邪魔者が消えたか……手柄は俺が頂くぞ」
「……随分と大所帯で襲撃してくれるな」
「それだけ、優先度の高い標的ということだ」
(当たってほしくない予想が当たってそうだな……)
「――あなたたちの目的は何? なんのために対魔局の人間を襲っているのかしら」
問いかける先輩に対し、魔障憑きは興味なさげに視線を向ける。
「……お前に用はない」
「っ! 危ない!」
徐に振るわれた腕から、奴の身体の一部が先輩に向けて飛ぶ。咄嗟に先輩を抱えて転がることで回避したが、それが着弾した箇所が煙を上げて溶解しているのを確認して背筋が冷える。
「やっぱり、狙いは俺か」
「そういうことだ。標的以外の人間などどうでもいい」
「だったら、先輩は見逃せよ」
「神代君!?」
腕の中で驚愕する先輩。だが、今はこの要求を通すしかない。
「……ふむ。まぁ問題はない、ないが……」
「待ちなさい、私は――!」
「すみません先輩、ここは俺に任せてください」
「……いや、駄目だな」
少しの間考え込んだ魔障憑きだったが、出た結論は俺にとって望ましいものではなかった。
「本来の目的とは何の関係もないが……俺は若い女の肉体を溶かして喰うのが好きでな。ついでにそっちも楽しませてもらおう」
「ひっ!?」
『うわぁ……なんかすごい悪趣味なやつだな……』
(流石にこれは
上手くいけば何とかなるかと思ったが――ここらへんが潮時か。
(――アルマ)
『――いいのか?』
(あぁ、もう正体がどうこう言っている場合じゃない。今、この瞬間、先輩を守れるのは俺たちだけだ)
脳内の相棒が、最高の笑みを浮かべる気配がした。
『――へへっ! 久しぶりの変身、それも誰かを守るためになんて、最高のシチュエーションだ!』
『ディードライバー!!』
「神代、君……?」
「先輩、下がっててください」
『DESIRE!』
「ほう! やはり
「うるせぇ。お前らのせいだぞ――ほんと、いい迷惑だ」
『DAEMON!』
「それ、まさか……」
「知ってましたか――できれば、秘密にしておいてください」
震える声の先輩に、一応のお願いをしておく。そして、力強くいつもの言葉を叫ぶ。
「――変身っ!!」
『OVERLAY――ッ!!』
『DEMON'S・END!! DEED!! UNITY!!!』
『We're the HERO!!』
「さぁ、さっさと片づけるぞ!」
「やってみろ。やれるものならなぁ!」
拳を握る。目の前の敵を倒すため――先輩を守り抜くために。漆黒のヒーローが、久方ぶりのその姿を現した。