女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる 作:maki@
喉元に突きつけられた『残月』の冷たいプレッシャー。祓魔士としての研鑽を積み重ねてきたお嬢の威圧感を正面から叩きつけられている。
『どうする? 今にも斬りかかってきそうだけど』
(流石に戦闘に入るのは避けたい……! なんとか話し合いで解決できないか?)
変身中なら、仮面越しの声は変質している。話しただけでバレることはないだろうが……
「――答えるつもりはないのね。なら、斬るわよ」
「――っ! 待て!」
切っ先が揺らめく。これ以上の沈黙は不可能だろう。
「……何よ、話せるんじゃない」
「とりあえずその刀を引いてくれないか? おっかなくて話もできやしない」
「引くわけないでしょう。敵対の意思がないと証明できるの?」
そう言って更にこちらに『残月』を近づけてくる。
『怖っ! お嬢サマってこんなだったか!?』
(本格的に不審者扱いだな……)
取り付く島もない。ひとまず両手を挙げて無抵抗を表明してみる。
「これでいいか? 本当に戦う気はないんだが」
「……いいわ。それで? あなたは何者?」
ようやく切っ先が下がる。依然、臨戦態勢は崩れていないが。
「人間の敵じゃない、と言えば信じてくれるのか?」
「そんな魔障聞いたことないわね。もしそうだとして、ここで何をしていたのかしら?」
『そもそもディードは魔障じゃないんだけどな!』
(魔力を使っている以上、向こうから見れば同じだろうよ)
「ここで暴れていた魔障を倒しに来たんだ」
「へぇ? 私が通報を受けてからここに来るまで、10分はかかってないと思うんだけど。随分と耳が早いのね」
「まぁ、ちょっとな。魔障を倒して一息ついたところに君が来た、というわけだ」
正直に事実を述べる。これを信じてもらえなければいよいよ手詰まりだ。強引に撤退するしかないが……
「……ふーん。それで――」
「如月先輩っ!」
追及を続けようとするお嬢の後方から、新たな声。お嬢の意識がほんの一瞬、俺から逸れた。望外の好機。
(今だっ!)
その瞬間、全力で地を蹴って距離を取る。
「っ!?待ちな――」
お嬢の鋭い一閃が空を切り裂く。俺の身体は既に間合いの外まで逃れている。
「悪いな。ここまでだ」
『おぉ! 正体不明のヒーローっぽいぞ!』
捨て台詞を一つ、逃走を開始する。幸いここは街中で、障害物になる建造物も多い。変身によって強化された身体能力を遺憾なく発揮し、追跡の目を振り切る。
脳内の地図に、カメラの類が設置されていないポイントを描く。仕事柄、監視の死角となる場所は把握済みだ。物陰に滑り込み、周囲に人影がないことを確認。
『UNLAY……』
アンプルをドライバーから引き抜く。漆黒のスーツが粒子となって霧散し、いつもの制服姿に戻った。
(なんとか逃げ切ったか……危ない所だった)
『まさに危機一髪だったな』
(次も同じ手が通用するとは思えない。何か対策を考えないとな……)
思考を回しつつ、大きく乱れた呼吸を整える。そして、何事もなかったかのように避難誘導の担当エリアへと歩き出すのだった。
(逃げられた、か。結局、あいつは何者なのかしら)
大きく息を吐きつつ『残月』を霊力に還元する。結局、何もわからないままに取り逃がしてしまった。
(魔障を倒した、そう言っていたわね。それが本当なら、確かに敵ではないと言えるけど――)
「如月、先輩……あの、今のって……」
「あなたは……桐生さん、だったかしら」
「は、はいっ! 特科一年、
桐生琴音。成績優秀、霊力適性も高い、期待の新人として私の耳にも入ってきている後輩だ。
「……桐生さん。あなた、さっきの黒づくめについて何か知っているの?」
「えぇっと、私もよくは知らないんです。ただ……」
「ただ?」
俯かせていた顔を勢い良く上げる。後ろに結んだ髪が元気に跳ねた。
「見間違いじゃなければ、なんですけど……昨日の夜、廃倉庫で私を助けてくれたヒーローにそっくりでした!」
「……はい?」
聞き間違いだろうか? しかし、桐生さんは興奮したように語り始める。
「昨日、別の魔障との戦闘で、ピンチになったところを助けてくれたんです! 廃倉庫に颯爽と現れ、一撃で魔障を倒して去っていく……まぎれもなくヒーローでした! 本人もそう言ってましたし、誰がどう見てもあれはヒーローですよ! きっと、仲間になってくれると――」
「待って! ちょっと、待って……!」
マシンガンのように放たれる言葉。その中に、聞き逃せないものがあった。
「倒したの? 魔障を?」
「はい! それはもう、かっこよく! 必殺キックでズドン! と!」
(それが本当なら、この現場でも魔障を倒した……? 人に憑りつく前の魔障なら、討伐後には何も残らない。矛盾は、ないわね……)
「昨日、お礼を言いそびれてしまったので、是非伝えたかったのですが……」
「……そう。他に、何か知っていることはあるかしら?」
「えっと、変身する前は男子みたいです。学生服を着ていたので。どこの学校のものかは暗くてわかりませんでしたけど――」
「――変身?」
聞き慣れない単語。
「はい! こう、ベルトを巻いて、ガチャガチャっとして、変身! って感じでした! まさにヒーロー! ですね!」
そう言って腰のあたりで手を動かす桐生さん。それはつまり……
(じゃあ、まさか。あいつは、人間? それも、男?)
「男が魔力を纏って、魔障と戦う、か。一体なんの冗談なんだか……」
混乱が収まらない。ひとまずこの内容はきちんと報告しておくべきだろう。この色々と知っていそうな後輩にも手伝ってもらわなければ――さっきから興奮した様子の彼女から情報を聞き出すのは、苦労するかもしれないが。
(これは、またお母様の帰りが遅くなるでしょうね……)
今回の報告は、対魔局全体を揺るがすのに十分な衝撃を与えるだろう。残業が確約されたお母様に内心で合掌しつつ、報告の内容を詰めるのだった……
『いやぁ、それにしても今日の戦闘は良かったぞ! 毎回こうならいいのにな!』
(あんなもん、今回だけだ。誰が好き好んで非効率な戦い方を選ぶかっての)
現場の後処理を済ませ、ようやく如月家に帰還する。離れに荷物を置き、軽く制服を緩めた。
『もったいないなぁ。あの姿でかっこよく戦えば、余計な疑惑なんて抱かれないだろうに』
(そんなわけあるか。そもそも見つからないのが一番なんだよ――っと)
馬鹿なことを言う声を窘めていると、スマホがポケットの中で短く震えた。交友関係の広くない俺にとって、これが意味するのは『仕事』か如月家関係であることがほとんどだ。今日の仕事は終えているため、必然――
『どうした?』
(当主からだ。今日は遅くなるから夕飯はいらないとよ)
如月家当主――如月薫子。お嬢の母親にして、俺を拾ってくれた人でもある。対魔局の中でも上層部――司令部の構成員で、忙しない生活を送っている。それでも毎日の朝食と夕食だけは一緒に摂ろうとしてくれる辺りに、人の好さが表れている。
用意する量は減ってしまったが、さっさと夕飯の用意をするとしよう。今日は何にするか――「蓮? いいかしら?」――ん?
「お嬢? どうぞ」
「入るわよ」
扉を開け、お嬢が入ってくる。手には何かしらの袋。制服のブレザーを脱ぎ、肩の力を抜いたその姿は、先ほど
「どうかしましたか?」
「さっきお母様から連絡があって――」
「あぁ、俺も頂きました。今日は遅くなるとのことで。これから夕食を用意しますね」
「そのことなんだけど――いや、その前に」
お嬢は少しだけ不満げに頬を膨らませ、こちらを睨むように見つめてくる。
「お母様は帰りが遅いし、他の使用人も全員帰ったわ。今、この屋敷にいるのは私とあんただけ。だから……」
「――わかったよ。紗夜」
「ええ、それでいいの。全く、堅苦しいのよ」
満足げに息を吐く紗夜。誰の目も届かない場所で、紗夜はよく俺にこういった振る舞いを求める。俺が如月家に来る前の――幼馴染の砕けた振る舞いを。常日頃から如月家としてのプレッシャーと戦う彼女にとって、貴重な息抜きの時間――らしい。
「俺、使用人。お前、主人。あれが適切な距離感だろうが」
「だから普段は文句言ってないでしょ?」
そう言うと、持参した袋をテーブルに放って、俺のベッドへ勢いよく倒れ込んだ。
「紗夜、流石に男のベッドで横になるのはどうなんだ?」
「別にいいでしょう? 昔はよくやったじゃない」
「小学校に上がるか上がらないかぐらいには昔の話だろうが……!」
このモードに入った紗夜の距離感はあまりにも近い。主従どころか年頃の男女ですらない、幼馴染の距離感。
「いいから起きろ。そもそも何しに来たんだ」
「もう、ケチね。それとも、私の匂いがしたらドキドキして眠れなくなっちゃうのかしら?」
寝転がったまま、からかうような笑みを向けてくる紗夜。スカートの裾が少しだけ乱れ、綺麗な脚が覗いている。
『無防備すぎるだろ……蓮、このお嬢サマ、お前の事誘ってるんじゃないのか?』
(そんなわけあるか……! 家でこんなに開放的になるのは久しぶりだからな、それだけ外で背負い込んでるプレッシャーが大きいんだろ。はしゃいでるだけだ)
「それで、要件ね」
「おい、そのまま話を続ける気か」
「今日はお母さまもいないことだし、こっちで気楽にご飯食べたいなって。キッチンあるでしょ?」
無視か。自由過ぎるだろ。
「まぁ、あるが……なんでわざわざ?」
「いいじゃない。ほら、食材は持ってきてあげたから!」
そう言って指さしたのは紗夜が持ってきていた袋。中を確認すると、確かに二人分ほどの食材が入っていた。卵、鶏肉、細々とした野菜……ここから導き出される答えは。
「――オムライス?」
「そ。ちょっと食べたくなっちゃって。いいでしょ?」
「まぁ、別に構わないが……こんなのでいいのか? 折角ならリクエストぐらいは受け付けるぞ?」
「『こんなので』じゃないわ。『これが』いいの」
まっすぐな目。先程までのからかうような色はどこにもなく、ただ正直に思いを伝えてくる。
「……承った」
ご所望とあらば応えるしかない。実際きっちりとしたメニューを作るよりははるかに簡単にできるのだ。凝ろうと思えば凝れるが、おそらく紗夜が求めているのはそういった手の込んだものではないだろう。
手早く調理を進める。省略できるところは省略し、完成度を犠牲に速度を得る。
背後では相変わらず人のベッドでくつろいでいる紗夜の気配。我が物顔過ぎるだろ……いや、間違ってはいないのかもしれないが。
そんなことを考えている間にも、調理の手は進み――
「出来たぞ、ご注文のオムライスだ」
「待ってました!」
ベッドから飛び起きた紗夜は、折り畳みの簡易テーブルの前に座り、嬉しそうにスプーンを手にした。
「いただきます!……うん、この絶妙に安っぽい、時短調理の限界を感じる食感。完璧ね!」
「
「逆。多分本音と建前が逆よ、蓮」
「おっと」
しまった。思わず本音が零れてしまった。いやしかしこれは紗夜が悪いのでは……? 流石に文句の一つも言いたいところだ。
「懐かしいわね……昔食べたときもこんな感じだったわ」
「――昔?」
「覚えてない? あんたがウチに来る前の話。私が祓魔士の修行から逃げ出して、神代の家に転がり込んだ時、あんたが作ってくれたのよ」
「――あぁ、そんなこともあったような……」
記憶の片隅に引っ掛かる感覚。そう言われてみれば、そんなこともあったような気がする。
「今じゃすっかり上手になっちゃったけど、あの時のあんた、レシピとにらめっこしながら頑張って作ってくれて……まぁ全然美味しくはなかったんだけど」
「おい」
「でも、嬉しかったのよね。如月家も祓魔士も関係ない、ただの友達の優しさ、ってやつ? 初めてだったから」
そう言うと本当にうれしそうにオムライスを食べ進める紗夜。その表情を見ていると文句を言う気がどこかに失せてしまった。
「――ふぅ、ご馳走様」
「お粗末様。それで? 夕飯食べに来ただけなのか?」
「それはついで。懐かしい気分に浸りたかったのは嘘じゃないけどね。 まぁ、本題ももう済んだわ」
「いつの間に?」
紗夜が来てからした行動と言えば俺のベッドでダラダラするのとこうしてオムライスを食ったくらいのはずだが……どこに本題があったのだろうか。
「ちょっと気分転換したかったのよ。考えることも多いし……ね」
先程とは打って変わって沈んだ表情。紗夜が悩みそうなこと、か。
(いや、これ俺――というか『ディード』のことでは?)
「あの『黒づくめ』……今度会ったら捕まえてちゃんと話を聞かせてもらわないと」
「く、黒づくめ?」
「え? あぁ、ちょっとね。魔障以外にも変な奴が現れて……」
『変な奴とはなんだ! 超かっこいいヒーローだろ!』
脳内が俄かに騒ぎだす。紗夜からすれば変な魔障が出たとしか思えないだろうし当然の反応だが。
「今日出た魔障を倒してくれて、昨日は私の後輩も助けられたらしいんだけど……正体がわからないのよねぇ」
「あぁ、夕方のあれですか。魔障が魔障を倒した、と?」
「状況証拠の上ではね。まだ確定じゃないけど……多分、お母様の帰りが遅いのもそれ関連でしょう」
まだ正体には感づいていないらしい。だが、あまり接触が増えるとどこから露見するかわからないな……
「ま、おいおいわかるでしょう! じゃ、私は戻るわね。おやすみ、蓮」
「あ、あぁ。おやすみ……」
軽やかに部屋を出ていく紗夜。その背中を見送り、大きく息を吐き出す。
(……もう少し慎重に行動しないとな。そのためには――)
『大体祓魔士だって十分変な恰好してるだろ! 特撮でも見たことないぞ、あんな服! それに比べてディードのスーツはデザインにこだわりぬいているのに――』
この騒ぎ続けるバカをどうにか手懐けないといけない。ヒートアップしていく声をなだめつつ、未来の不安をため息と一緒に吐き出すのだった。
翌日の放課後。
俺は、学園近くの入り組んだ路地裏で『仕事』に従事していた。
現在進行形で戦闘中の魔障と祓魔士から一般人を遠ざけるための工作。ガス事故があった旨の立て看板と、立ち入り禁止ロープの設置作業だ。淡々と作業を進めつつ、頭の中を占めるのは昨日の大立ち回り。
(結局、昨日の戦闘を撮っていた人間はいなかったか……SNSに投稿していないだけ、という可能性もあるが、そこまではどうにもならないからな)
『蓮が珍しくヒーローっぽい動きをしてくれたのに、もったいないな……』
(撮られないに越したことは無いんだよ。どれだけ隠蔽しようと、人の口に戸は立てられない。魔障の存在が都市伝説や地域の伝承になってるのがその証拠だ)
対魔局も手を尽くしてはいるが、それでも実際に起きた事象の隠蔽には限界がある。SNSによる拡散経路を潰したところで、噂まではせき止められない。
一般人が魔障の真実を知れば、社会はパニックに陥り、祓魔士への迫害が起きる可能性がある。過去の歴史が証明したそれを、上層部は何よりも恐れているのだ。
最後の一本のロープを張り終えようとした、その瞬間。
コンクリートの壁を激しく叩き割るような、強烈な爆発音が遠くから急速に接近してきた。
「――っ!?」
『おい蓮、なんか飛んでくるぞ!』
物陰に身を潜めた刹那、突風のような衝撃波と共に、一人の祓魔士の少女が路地裏の地面へと激しく吹き飛ばされてきた。
霊衣はボロボロに裂け、全身に痛々しい火傷を負っている。完全に意識を失っているようだ。
そして、その爆煙を切り裂いて、轟音と共に一匹の異形が着地した。
全身に黒い導火線と配線のようなものが狂わしく巻き付いた魔障。おそらくは『爆発欲』。
「ハハハ!ちょっと人が爆破して遊んでただけなのに、突っかかってきやがって!そんなに死にたきゃ、お前も派手な花火にしてやるよォ!」
今回の現場の情報を思い出す。他の祓魔士は不在、増援の到着までは――残り、数分。
それだけあれば、魔障はあの祓魔士諸共この一帯を爆破できることは想像に難くない。
(おい、やるぞ)
『へえ、今日はずいぶんと決断が早いじゃん! ヒーローのお出ましだな!』
周囲を確認、いるのは魔障と気絶した祓魔士のみ!
『それじゃ、行きますか!』
ドライバーを顕現させ、装着する。
『ディードライバー!!』
「……あァ?なんだお前は?」
突然流れた機械音声に、魔障が狂った首をこちらへ向ける。それに構わず、アンプルを起動。
『DESIRE!』
「なんだ、お前。遊びなら他所でやんな!」
「生憎、俺の遊び相手は目の前にいるんでな」
『DEMON!』
鼓動のような重低音が路地を震わせる。魔障が完全に俺を向いた。その手に現れた爆弾が向けられる。
「邪魔するんならお前も花火になれや!」
「――変身っ!」
襲い来る爆弾を真っ直ぐに見据え、バックルを強く叩き込んだ。
『OVERLAY――ッ!!』
『D・D・O!! ディード!!!』
『I'm a HERO!』
漆黒の装甲が俺の全身を覆う。
直後、複数の大爆発が俺を飲み込み――
「はっ! 雑魚に用はないんだよ!」
「――誰が雑魚だって?」
勝ち誇る魔障の威勢ごと、纏わりつく炎を吹き飛ばす。
「……はぁ?」
『おぉ! 今のめっちゃかっこいいな! お前も分かってきたじゃねぇか!』
「やかましい。たまたまだ――行くぞ!」
あっけにとられる魔障に向けて俺は既に動いていた。接近し、うかつに爆弾を投げられないように立ち回る。流れ弾でさっきの祓魔士が死んだら目も当てられない。軽く拳を入れ、蹴り飛ばす。
「がはっ! お前、なんなんだ!」
「答える必要はない。速やかに、死ね」
「ふざけるなぁぁ!!」
「――っ!?」
再び接近した俺を待ち構えていたのは、突然の爆発だった。大きく吹き飛ばされ、距離が開く。顔を上げれば、そこには妖しく赤の光を明滅させる魔障の姿が。
「ハハハ! 俺の身体は爆弾そのものだ! 触れた瞬間、お前もろとも起爆するぞ!」
(近接格闘はリスクが高いか。なら――)
『任せろ!』
『ディードバスター!!』
虚空から顕現したのは、黒の素体を赤と青のラインで彩った巨大な銃。どこかの特撮番組から得たイメージで作成したらしいそれは、
「銃だと!? そんなおもちゃで――」
「おもちゃかどうか、確かめてみるか?」
トリガーを引くと、赤いエネルギー弾が、凄まじい連射速度で掃射された。この身に宿した『模倣』の魔障。その力で生み出される弾丸が尽きることは無い。
「がっ!? ぐあぁっ!? くそがっ……!」
弾着と同時に魔障の体表面の起爆回路が起動する。しかし、その爆発に巻き込まれるのは魔障自身のみ。連続する衝撃に異形が激しくのたうち回る。
「そんなに爆発が好きなら一人で爆ぜろ」
『DESIRE!』
アンプルをバックルから引き抜き、ディードバスター後部のスロットへと叩き込む。
『GUN CHARGE!』
けたたましいチャージ音が路地裏のコンクリートに反響する。騒がしいことこの上ないが、様式美、というやつらしい。
銃身に宿るエネルギーが限界まで過給され、眩い赤の光が溢れ出た。
「これで終わりだ」
トリガーを引く。
『DESIRE SHOOTING!!』
「がっ――!?」
放たれた光の奔流が、絶叫する魔障をその断末魔ごと飲み込み、その体内に飲み込まれていた宿主を分離した。
爆煙が晴れた路地裏には、霧散していく魔障の残滓と、意識を失った一人の男が転がっている。
『相変わらずあっさりだが、いい画だったぞ!』
(勝手に言ってろ……)
『UNLAY……』
速やかに変身を解除し、対魔局に救急の手配を送信。これでこの現場でできることはもうない。ヒーローの時間は終わり、ここからはいつもの雑用係に戻るのだ。
遠くから鳴り響くサイレンの音を聞きながら、俺は足早に、路地裏の闇へと紛れていった。
深夜、世界の片隅にある一室で無機質な接続音が連続して響き、四つのウィンドウが立ち上がった。
何の変哲もないビデオ会議。口火を切ったのは、明るく雑多な部屋を背にした若い女性だった。
「……面白い画が撮れたよ」
指先で画面を叩き、一つの映像を参加者に共有する。
そこに映し出されていたのは、どこかの街の大通りで繰り広げられている、異形と黒い人型の戦闘。最初に興味を示したのは、研究室のような、無機質な計器に囲まれた初老の男性だった。
『ほう? これは祓魔士ではないな。しかし『DEMON』を容易く討伐している……興味深いケースだ』
「どういう存在かはまだ不明なんだけどね。一月前ぐらいから不自然に『DEMON』の消失が増えてたから、ちょっと調べてみたらこんなのが出てきたんだ」
『くだらん』
一言で斬り捨てたのは、整然とした執務室で書類に目を通している青年。
『わけのわからない存在にかまけている暇はない。早急に排除しておけ』
それだけ告げると早々に通話から退出する。
『排除、か』
最後のウィンドウの向こう、カメラを切っているのか何も映し出されていない人物の声。
『いつも通り、私は関与しない、好きにしろ。そいつが私の渇望を充たすに足りると判断したら、また伝えろ』
感情を排した冷酷な声を残し、また一つウィンドウが消える。
『こちらの実験も佳境だ。検証相手として使わせてもらおう』
「どうぞご自由に」
『クックック。この実験が成功すれば、また新たな進化が――』
不気味な笑い声と共に、最後の通話相手が消えた。残された若い女性は嘆息すると通話を終了させる。
「相変わらず協調性ってものが皆無だねぇ。まぁ、別に構わないけどさ」
不敵に微笑みながら、画面に映る黒い人型を指先でなぞった。
「さぁて、イレギュラーくん。君はどこまで踊ってくれるんだ?」
愉悦に満ちた嗤い声が、夜の静寂の中に溶けて消える。
視線の先では、黒い人型が異形を打ち倒す映像が繰り返し再生され続けていた……
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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