【2章完結】女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる   作:maki@

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助太刀と戦う理由と最後の切り札

「やぁぁぁぁぁっ!!」

 

 裂帛の気合と共に、眩い光を纏った『煌剣』を振り抜く。放たれた光の濁流が空間を塗りつぶし、群がる数体の魔障憑きをまとめて飲み込んでいった。

 

「ふぅ……」

 

「――隙ありぃっ!」

 

「へっ――きゃっ!?」

 

 乱れた呼吸を整える、一瞬の隙。そこを狙って、物陰から弾丸のように魔障憑きが飛び出してくる。ぎらつくその爪を慌てて迎撃しようとするが、『煌剣』の巨大な刀身は咄嗟に振り回すには向かず――

 

「好き勝手暴れやがって! これで――ガッ!?」

 

「――私の妹に何か用か? まぁ、何であれ魔障憑きは斬るが」

 

「凛姉! 助かりました!」

 

 寸前で割り込んできた凛姉に助けられる。霊力を炸裂させるような高速機動を主軸に置いた凛姉の剣技は、私とは真逆で速く、鋭い。瞬きの間に現れ、一刀のもとに魔障憑きを斬り捨てる。

 

「琴音……お前は自分が目立つということをもう少し自覚しろ。危なっかしくて見てられん」

 

「はいぃ……」

 

 膨大な霊力と大出力に任せて魔障憑きの大群を殲滅していった私は、予想以上に敵のヘイトを集めていたらしい。次からは、もっと周囲を注意深く見ないと……!

 

「……とはいえ、だ。随分と立派になったじゃないか。少し前まではろくに制御もできないまま暴れるしかできなかったというのに」

 

「えへへ……全部、ディード様と神代先輩のお陰です! 力の使い方も、それを扱うための自信も!」

 

 私が成長できた最大要因――その二人が、まさか同じ人だったなんて。だからこそ、今度は私が力にならないと。

 

「そうか……彼に会えたら、私も礼を言わねばならないな」

 

「そのためにも、まだまだ頑張りましょう!」

 

『琴音、気合を入れているところ悪いが、少しいいか』

 

「っ、天姉?」

 

 耳元のインカムから天姉の重々しい声が響く。状況に変化があったのだろうか。

 

『琴音の蹂躙の成果もあって、ビル内部の掃討は大部分が完了した。残党の処理も、この分なら問題ないだろう』

 

「じゅ、蹂躙……」

 

 背後を振り返る。私の歩いてきた道は、確かに「蹂躙」と呼ぶにふさわしい破壊痕に塗れていた。

 

『しかし、地下の方はあまり状況が良くな――』

 

「っ! 先輩が!?」

 

 思わず叫んでしまう。作戦では、神代先輩は地下で敵の首魁を欺く役割を課せられていたはず。

 

『……彼は一度こちらの指揮所までたどり着いた後、例の魔障と再び融合して地下へと戻った。その時点で祓魔士の部隊は半壊状態――先程からは通信も途絶えた。恐らくだが、魔人アガレスとの戦闘中だ』

 

「じゃあ、ディード様は今おひとりで戦って……!? すぐに助太刀に!」

 

『あぁ、頼む。敵は全身に目玉のある魔障だ。死角はないと思ってくれ』

 

「了解です! 凛姉!」

 

「あぁ、急ごう」

 

「待って~! 私も~!」

 

「鈴姉!?」

 

 駆け出す寸前、鈴姉が合流してきた。大規模戦闘の疲労からか、珍しく肩で息をしている。

 

「神代君には私も用事があるので~、一緒に行くよ~」

 

 いつも通りの緩い口調。でも、その目にはいつもとは違う強い感情が宿っているように見えた。

 

「――よし、では我々三人で向かうぞ。余力は大丈夫か?」

 

「問題なしです!」

 

「ちょっときついけど~頑張るよ~」

 

 こんな時は、生まれつきの膨大な霊力が頼もしい。大技を連発したというのに、私の体内にはまだまだマグマのような霊力が滾っている。

 

「天音姉さん。地下へのルートは?」

 

『まずは一階エントランスに向かえ。そこから地下に降りられ――』

 

 

 

 ――ドゴンッ!!

 

 

 

『っ! なんだ今の音は! 状況確認!』

 

「……状況が動いたな。とにかく、私たちは一階を目指すぞ」

 

「今は10階――急ぎましょう!」

 

 一秒でも早く、先輩の――ディード様の元へ!

 

『――状況が変わった! お前たちの正面にある窓を破壊して飛び降りろ!』

 

「急を要するんですね。琴音!」

 

「『刃波』っ!」

 

 即座に『煌剣』を一閃。甲高い音を立ててガラスが砕け散る。

 

「よ~し、行くよ~!」

 

 真っ先に鈴姉が飛ぶ。高所への恐れなど微塵もなく、10階から地上へと自由落下していく。

 

「よし、私も……!」

 

「琴音、自力で着地は――おい待て!?」

 

「ひゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 外へと飛び出した瞬間、重力が一気に私の身体を絡め取る。視界が目まぐるしく流れ、凄まじい勢いで迫る地面。

 

「――まったく、本当に危なっかしいな!」

 

「凛姉!」

 

 そんな声と共に、腰のあたりを強く掴まれた。そのまま地面に激突する直前――

 

「せいっ!」

 

 掛け声とともに凛姉が『驟雨』を振る。霊力を放出し、落下の勢いを相殺することで、ふわりと着地した。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「……折角霊力の制御が向上したんだ。今後はこういう小技も覚えていけ」

 

「は、はい!」

 

「――二人とも~! こっち~!」

 

 先に降りていた鈴姉が私たちを呼ぶ。そこにあったのは――

 

「……なんだこの穴は」

 

『わからん。ただ、先程赤い光が地下からその大穴を空けながら空に昇っていったらしい』

 

「てことは~この先に何かがいるってことだよね~」

 

「ディード様……!」

 

 地下は薄暗く、明るい地上からではその様子が伺いづらい。居ても立ってもいられず、そこから飛び降りる。

 

「駄目……駄目ぇぇぇぇぇっ!!」

 

 着地した瞬間、耳に飛び込んできたのは悲痛な叫び声だった。咄嗟にそちらを向けば、そこには倒れる如月先輩と――目玉だらけの怪物に首を掴まれている神代先輩(先輩が危ない!)。

 

 ブチン、と何かが切れる音がした。

 

 即座に『煌剣』を構え、霊力を叩きこむ。加減などしない。全力で――でも、先輩のお陰で掴んだ制御だけは忘れずに。狙った標的だけを正確に撃ち抜く……!

 

 

 

「先輩から……離れろぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 

 閃光が奔る。解き放たれた一撃は、正確に先輩を掴んでいる腕に向かい――寸前で、わずかに狙いを逸らされる。

 

「ぐっ!? 私の知覚外からの攻撃だと……!?」

 

(これで腕を消し飛ばすつもりだったのに……!)

 

 ギリギリであの全身の目が攻撃を捉えたか。渾身の一撃は腕を掠めるに終わった。だが、その衝撃でアガレスの手から力が抜け、神代先輩の身体が空中へ解放され――

 

「――っと! 琴音、上出来だ!」

 

「はいっ!」

 

 背後から一瞬で私を追い抜いた凛姉が、落下する先輩の身体を受け止めた。そのまま如月先輩の近くまで後退し、神代先輩の安全を確保する。

 

「次から、次へと……!」

 

「いや~? もう一人いるんだな~これが~」

 

 いつの間にか私とは別の方向に潜んでいた鈴姉による、同時多面攻撃。緻密に制御された霊力の波は、先輩たちから魔人を引き剥がすように迫る。その隙に、鈴姉自身と私も先輩たちの元へ。

 

「あなた達、は……!」

 

「桐生凛音だ……妹たちが世話になったな」

 

「彼には用事があるから~、やらせないよ~?」

 

「すみません、お待たせしました! 桐生琴音、これより戦線に加わります!」

 

 背後には血を流して倒れる神代先輩と、傷だらけの如月先輩。そして周囲に倒れ伏す大勢の祓魔士たち。

 

「――随分と、大勢やってくれたみたいだね~?」

 

「それはこちらの台詞だ。いくら大した戦闘力でないとはいえ、私の配下を随分と減らしてくれたようだな」

 

「雑兵ばかりだったのでな。あの程度、物の数ではなかったぞ」

 

 確かに、ビル内で戦った魔障憑きの中に、あまり強い個体はいなかったように思う。一撃で薙ぎ払える程度の弱い個体ばかりだった。

 

「当然だろう。やつらはろくに宿主の欲望を喰らっていないからな」

 

「……どういう意味だ」

 

「私の配下――『アルゴス』の社員に憑りつかせた『DEMON』には己の欲望を摂取させていない、ということだ。寄生した『DEMON』は宿主を失えば存在が保てない。だからこそ、宿主という檻に閉じ込め、飼い殺す。それだけで、便利な手駒になるのだからな。余計な力など付けさせて、反逆されても困る。たまに褒美として魔力をやれば、それで十分だ」

 

「初めて見るタイプの下種だね~」

 

「これが私の『支配』だ。そうして従えた一万の魔障の感情が、私の力となるのだよ」

 

「……もういい。聞いた私が愚かだった――疾く、斬る」

 

「やってみろ! 人間風情が!」

 

 戦意が膨れ上がる。凛姉の姿が消え、魔人の周囲から斬撃と霊力が次々と浴びせられていく。

 

「私も行くから~琴音ちゃんは倒れてる人たちをお願いね~?」

 

「は、はい! すぐに救護を終わらせて合流します!」

 

 いくら制御がうまくなったと言っても、私の攻撃が発生させる破壊の規模自体は変わっていない。ここまで周囲に倒れた祓魔士がいる状況で、戦うわけにはいかなかった。二人が引き付けてくれている間に、皆さんの回収と救護を急がないと……!

 

「如月先輩、神代先輩! 大丈夫ですか!?」

 

「私はなんとか平気だけど……蓮が!」

 

「ぐっ……! 俺も、まだ……!」

 

「駄目ですよ! 無理しないでください!」

 

 目だった傷はない。でもそれ以上に、体力の消耗が大きかった。まるで全身の力を使い果たしたかのようにぐったりとする先輩は、どう見ても戦えるような状態ではない。

 

「とにかく、下がってて下さい! 他の皆さんも、なんとか回収してきますので!」

 

 凛姉と鈴姉が魔人と戦う隙間を縫って、一人ずつ負傷者を回収していく。幸いなことに、全員傷は深いけれど、冷たくなっている人はいない。

 

「ちょこまかと鬱陶しい!」

 

「くっ……!」

 

「させないよ~!」

 

 時折、飛び回る凛姉を煙たがった魔人が魔力を全方位に放つ。その瞬間、凛姉は引き剥がされるが――即座に鈴姉がその隙を埋める。ギリギリのところで、均衡が守られていた。

 

(でも、二人ともビル内の戦闘で相当消耗してるはず……これで最後の一人、急がないと!)

 

「いい加減にしろぉ!!」

 

「チィッ!」

 

「おぉっと~!?」

 

 怒号と共に、これまでで最も大きい魔力波が放たれる。凛姉と鈴姉も、たまらず後退してきた。

 

「お待たせしました! 全員救出完了、合流します!」

 

「よくやった――正直、私たちだけでは決定打に欠けていてな」

 

「そもそも攻撃を当てるのも一苦労だし~、流石に霊力も底が見えてきてるんだよね~」

 

「お任せください!」

 

「今更一人増えたところでっ!」

 

 『煌剣』の柄を握り直す。後ろに守るべきものを背負った、負けられない戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

(くそっ……身体が、動かない……!)

 

 三人の祓魔士が果敢にアガレスに立ち向かう光景を、俺は地べたに這いつくばったまま見上げるしかなかった。

 

 前回もそうだったが、あの『切り札』は消耗が激しすぎる。それで倒せるならまだしも、今回のように倒し損ねた場合はこうして窮地に追い込まれるだけだ。

 

「駄目よ、蓮。もうこれ以上は駄目……! 桐生さんたちに任せましょう!」

 

「ですが……!」

 

 なんとか立ち上がろうと力を込めた身体を、お嬢が抑える。

 

「こんな軽い力でも押し返せないじゃない! そんな状態で行ったって、邪魔になるだけよ!」

 

(だったら、先輩にもらったあの薬を……!)

 

 ポケットの中にある薬を意識する。先輩の説明通りなら、多少は動けるようになるはずだ。三人がかりでもアガレスの防御を打ち崩せない現状、先に力尽きるのはこちら側だ。

 

「お嬢、俺のポケットに――」

 

「――いい加減にしてっ!!」

 

「――っ!」

 

 静寂を切り裂くような、悲痛な叫び。

 

「なんでそこまでするの!? 今だけじゃない! 戦う力を得たからって、戦う義務なんてあなたにはないのよ!?」

 

「それ、は――」

 

 ぱたり、と頬に雨が降る。仰向けで倒れる俺を見下ろすお嬢の目から、大粒の涙がこぼれ落ちていた。

 

「話は聞いたわ……偶然助けた子が魔障で、その力でディードに変身してた、って。でも、それだけでしょう!?」

 

 あの日、俺が対魔局に拘束されてからずっとため込んでいたのだろうか。怒り、悲しみ、恐怖、疑問……あらゆる感情が涙と共に溢れ、俺の頬を濡らしていく。

 

「命がけで戦う理由なんてどこにもないじゃない! 危ないことは私に――祓魔士に任せてればいい! 違う!?」

 

「お嬢……」

 

「お嬢じゃないっ! 『如月家の使用人』なんて立場で隠さないで! あんたの――神代蓮の本心を言ってよぉっ!!」

 

(俺の、本心……)

 

 雨は止まない。それどころか、勢いを増す一方だ。これは、俺がお嬢の――紗夜の心を守れなかった結果なのだろうか。だとしたら、俺はこれを止めないといけない。それが紗夜を傷つけた俺の、最低限の責任というものだろう。

 

「――紗夜」

 

「なによ!」

 

「ごめん」

 

 ほんの少しだけ、紗夜の勢いが弱まる。

 

「紗夜の言う通り、俺が戦わないといけない理由なんてないのかもしれない。でも、そうじゃないんだ。俺は俺の意思で。俺の理由で、ディードとして戦ってきた」

 

「――その、理由って……?」

 

「探してる人がいるんだ。ずっと……5年前から」

 

 そこだけは、ずっと変わらない。あの血だまりの記憶は、今も脳裏にこびりついている。あの女を――両親の死に関わった女を見つけ出し、決着をつけるまでは、止まるわけにはいかない。

 

「それは、私に任せられないことなの? 私じゃ、力になれないの……?」

 

「……あぁ。これだけは、俺の手で決着をつけたい」

 

 紗夜も当主も、傷つきながらも旭さんの死を乗り越えて前を向いている。今更俺の復讐に巻き込むわけにはいかない。

 

「だから、俺は魔障との戦いをやめない。でも――」

 

 微かに回復した体力を振り絞り、手を伸ばす。今も降りやまない雨を、止めるために。

 

 

 

「少なくとも……今この瞬間。俺が立ち上がる理由は――紗夜、お前だよ」

 

 

 

「――――えっ?」

 

 驚きで目が丸くなる。その目元を伸ばした指先で拭えば、ようやく雨脚が弱まった。

 

「俺の目的なんて関係ない。ただ、お前を守りたい。だから立つんだ。だから……戦うんだ」

 

 今、立ち上がる理由なんて、それだけでいいのだ。それもまた、紛れもない俺の本心なのだから。

 

「私の、ため……?」

 

「あぁ」

 

「……っ! ううん、駄目よ! そのためにあんたがまた傷ついたら、意味ないじゃない!」

 

「――そうだよな。そこに関しては、全面的に俺が悪かった」

 

 これが、白石先輩の言っていたことだろう。身体だけ守って、心を守れなかった。だから、紗夜はこうして恐怖を感じている。また『家族』を失うのではないかという恐怖を。

 

「その上で――許してほしい。俺が、お前のために戦うことを。今度は負けない。必ず、紗夜の元に戻るから」

 

「そんな、勝手な……っ!」

 

「――っきゃあぁぁぁぁっ!?」

 

「ーーっ!?」

 

 怒気を強める紗夜の言葉を遮るように、悲鳴を上げながら桐生が吹っ飛んでくる。

 

「桐生さん!?」

 

「す、すみません! 大丈夫ですからっ!」

 

 口ではそう強がりながらも、すぐには立ち上がれないほどにその小さな体にダメージが入っている。それに――

 

「ぐぅっ! このっ……!」

 

「う~! いい加減倒れてよ~!」

 

「そらそらぁっ! さっきまでの威勢はどうしたぁ!」

 

 こうしている間にも、戦況は悪化している。もはや、のんびりと説得している暇はない。ポケットに手を突っ込み、包みから丸薬を取り出す。

 

「んぐっ……!」

 

「っ! 今、何を飲んだの!?」

 

「ぐっ、う、お、おぉ?」

 

 飲み込んだ瞬間、腹の底から急激に熱が広がっていくのを感じる。全身の痛みが麻痺し、それが消えた部分に活力がみなぎる。

 

(凄まじい効き目だ……! その分副作用が怖いが――今はありがたい!)

 

「ちょっと、蓮!?」

 

「後でどんな説教も罰も受ける――だから、ごめん」

 

 驚愕する紗夜を置いて、俺は力強く両足で立ち上がった。さっきまでの苦労が嘘のようにあっさりと身体が動く。

 

「ま、待って! 待ちなさい! 蓮っ!」

 

(……待たせたな、アルマ)

 

『お嬢サマはいいのか? ……後が怖いぞ』

 

 ここまで空気を読んで黙っていてくれたアルマを呼び出す。

 

(あぁ。だからこそ、今回はこれ以上の怪我はできない。このまま完勝する)

 

『やれるのか?』

 

(あの三人の協力があれば――『あれ』を叩き込めるはずだ)

 

『まーたぶっつけ本番かよ……そういうの、嫌いじゃないけどな!』

 

 俺たちが編み上げた、もう一つの『切り札』。あれを使う時だ。

 

「お願い、蓮! お願いだから、行かないで……!」

 

 涙を流しながら叫ぶ紗夜。だが、既に力を使い果たした紗夜に、俺を力ずくで止めることはできない。

 

(本当に、ヒーローとしては落第点もいい所だな)

 

 守りたい相手にあそこまで泣かれている時点で、ヒーロー失格だ。それでも、今俺にできる最大限をやるしかないのだ。せめて、その涙を止められるように。

 

『なら、宣言通りきっちり決めろよ。お前は知らないだろうが、お嬢サマ、相当精神的にキてたんだからな』

 

(やっぱりそうなのか……尚更、負けられないな)

 

「大丈夫だよ、紗夜――すぐに、終わらせてくる」

 

 『ディードライバー!!』

 

 紗夜に微笑みかけ、身体をアガレスに向ける。

 

「――ぬっ! 貴様、まだ……!」

 

 アガレスがこちらに気付く。無数の眼球が、妖しく光る。

 

 『DESIRE!』

 

「させるか~っ!」

 

「チッ! 邪魔だ!」

 

 桐生先輩の妨害。それでもなお、強引に魔力波が放たれた。

 

 『DAEMON!』

 

 だが、その一瞬が運命を分けた。俺は力の限り叫び、バックルを叩き込む――!

 

 

 

「――変身っ!!!」

 

 

 

 『OVERLAY――ッ!!』

 

 全身を漆黒のスーツが覆い、赤と金のパーツが重なっていく。それと同時、アガレスの放った魔力波が直撃し――

 

「――蓮っ!?」

 

「いいえ如月先輩! あれは――!」

 

 

 

 『DEMON'S・END!! DEED!! UNITY!!!』

 

 

 

「――フンッ!!」

 

 爆炎を振り払い、仮面越しにアガレスを睨みつける。

 

 

 

 『We're the HERO!!』

 

 

 

「――本物の、ヒーローです!!」

 

 興奮したような桐生の声をバックに、変身が完了した。

 

「この……死にぞこないがぁぁっ!」

 

「――隙あり、だ」

 

「うぐっ!?」

 

 アガレスが俺に気を取られた意識の隙間、凛音さんが痛烈な一撃を叩き込んだ。

 

「そんなに目がいっぱいあっても~、怒ったら視野が狭くなるのは変わらないんだね~!」

 

「くっ……おのれぇぇっ!!」

 

 そこに重ねた桐生先輩の追撃は惜しくも躱される。しかし今の攻防は相当大きなダメージだったようで、奴の顔に明確な焦燥が浮かび上がった。

 

「桐生、いけるか!」

 

「もっちろんです!!」

 

 復帰した桐生が『煌剣』を構え直す。その瞳には、今まで以上の輝きが宿っていた。

 

「桐生先輩、凛音さん! なんとか奴の脚を止めて隙を作ってください! トドメはこっちで!」

 

「……う~ん、今は良いか~。了解~!」

 

「――信じるぞ!」

 

「目の前で作戦会議とは、舐めた真似を……!」

 

 怒りに震えるアガレスだが、その怒りは奴自身の長所を消すだけのものだと先程証明されている。できる範囲で煽らせてもらおう――どうせ、聞かれたところで奴に防ぐ術はないのだから。

 

「桐生! お前は全力の一発を――桐生?」

 

 なぜか無反応な桐生に振り返ると、先程までの瞳の輝きはどこへやら、ものすごく不満げな顔でこちらを見ていた。

 

「どうした?」

 

「――いえ、流石に緊急時ですから飲み込みます……! 私はどうすれば?」

 

「……? 先輩と凛音さんが隙を作ったら、全力の一発を叩き込んでやれ。絶対に受けられないくらいのやつを!」

 

「――えぇ、えぇ。いいでしょう! 全身全霊で叩き込みます……!!」

 

 突然凄まじい殺気を撒き散らし始める桐生。一体何が……?

 

『……お前ってそういうとこあるよな』

 

(何の話だよ? わかってるんなら――)

 

『やなこった。そら、お前も準備しろ』

 

(何だってんだ……?)

 

 何が起きているのかは理解できないが、今はアガレスを倒すことが最優先!

 

 『BO『BOO『BOOST!!!』

 

 短期決戦上等、初手から出力全開だ。

 

「いくぞ!!」

 

 吹き荒れる赤と金の粒子を置き去りに、空中に赤い軌跡を描く。

 

「――っ! 速いな!」

 

「凛音さんこそ!」

 

 最大加速の俺と大差ないスピード――それも、俺と違って完璧に制御している。凄まじい技量だ。

 

「鬱陶しい虫どもがぁぁぁっ!」

 

 誰も追いつけない速度で暴れまわる俺たちに、アガレスは苛立ち混じりの魔力波を放出することしかできない。だが、俺たちもそれに阻まれて決定的な一撃だけは入れられないまま。故に、その膠着状態を崩すのは――

 

 ――しゃらん。

 

「ここだ~っ! 『穿突:第四』~!!」

 

 この機を窺っていた桐生先輩しかいない。アガレスが完全に足を止めた瞬間、霊力をため込んだ霊刀を地面に突き立てる。

 

「――ぐっ!? な、に……!?」

 

「串刺しだ~!」

 

 アガレスの足元から、突如として多数突き出た霊力の槍。足元という、警戒しようのない場所からの攻撃に、流石のアガレスも回避などできず、全身をそれに貫かれる。体勢を崩し、明らかな隙が生まれた。

 

「――ここですねっ! 最大出力――『刃波』ぃぃぃぃっ!!!」

 

 膨れ上がる霊力の気配。太陽ができたのかと錯覚させるほどの極光が、アガレスを襲う。

 

『蓮!』

 

(あぁ!)

 

 

 

 『CHARGE ONE! TWO!! THREE!!!』

 

 

 

「ぐっ! 舐め、るなぁ!」

 

「あぁっ!? そんなぁ!」

 

 迫りくる光の奔流を、しかしアガレスは最後の力で大きく跳びあがることで回避し――その影に潜んでいた俺の頭上へと落下してくる。

 

「なっ! 貴様!?」

 

「ここに来ると思ってたぞ……!」

 

 

 

 『FULL CHARGE!!! IGNITION!!!』

 

 

 

 丁度そのタイミングでチャージが完了する。残りの全エネルギーを、この一撃に。

 

「――それはさっきも見たぞ! 直撃さえしなければ――!」

 

「だったら避けてみろ――できるものならな!」

 

 赤熱する右(・)脚(・)。踏みしめた地面はひび割れ、陥没していく。

 

 

 

 『BOOST!!! DEED・FINISH!!!』

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 全ての力を右脚に集約する。地面を砕きながら跳び上がった俺は、そのまま上下反転して空中のアガレスに光を放つ右脚を叩き込む――これまでの最速機動すら置き去りにするほどのスピードで。

 

「はっ……あ――?」

 

 威力ではなく速度に特化した『切り札』。以前のものとは別のアプローチから、回避も防御も許さない一撃。それが直撃したアガレスは何が起きたのかわからない、とでも言いたげな表情で俺を見ていて――

 

「――いっ、けぇぇぇぇぇ!!」

 

「ぐ、おぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 そのままアガレスの身体ごと上昇する。地下の天井すらも貫通し、地上に出て尚も天に昇っていく。

 

 

 

「まさか――この私が、こんなところで――っがぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 限界を迎え、爆発するアガレス。巨大な爆炎が、空中にもう一つの太陽を生み出し、消えていく。

 

『よぉぉぉぉぉっし!! 最っ高の画だな、蓮――ってやばっ!?』

 

『UNLAY……』

 

「――――はっ!?」

 

 アルマの間抜けな声と共に、上空で突然変身が解ける。一瞬の浮遊感の後、猛烈な勢いで落下が始まった。

 

(なんでだ!? 後ほんの少しでいいのに――!)

 

『――ごめん! 再変身したとはいえ、二回目の『切り札』はやばかったっぽい!!』

 

(嘘だろぉぉぉぉ!?!?)

 

 

 

「――全く。君は琴音とは違う方向で危なっかしいな」

 

 

 

 風を切る落下の途中、ふわりと柔らかい感触に抱き留められた。

 

「凛音さん……!?」

 

「大丈夫か? 最後の最後でなんてことをしてくれるんだ、君は」

 

「すみません……」

 

「いいさ。それよりも、すぐに着地するぞ。君のお嬢様に対する言い訳でも考えておくといい」

 

「いえ、そうではなくて――もう、限界みたいです」

 

 身体が軋む音がする。じわじわと熱が広がっていく――薬の効果が、切れた。

 

 次の瞬間、全細胞が痛みを思い出す。

 

「ぐっ!? あ、あぁあぁあぁぁっ!?」

 

「ちょっ!? 暴れるな!」

 

 体力などどこにも残っていないのに、あまりの激痛で暴れまわる身体が止まらない。そのたびに凛音さんが俺を抱き留める力が増し、柔(・)ら(・)か(・)い(・)感(・)触(・)が強く押し付けられるが――今の俺に、それを意識する余裕など微塵もなかった。

 

「――がっ……!」

 

「っと! 着いたぞ!」

 

 着地の瞬間、一際大きな衝撃が俺の全身を走り抜けた。

 

「神代先輩!? 大丈夫ですか!?」

 

「――凛姉さ~ん? 何したの~?」

 

「ち、違……!? 私は何も……!」

 

 駆け寄ってくる二人の声を聞きながら、俺はあまりの激痛に意識を手放すのだった。

 




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