桐藤ハルは走り出す   作:コンテンダーは良いぞおじさん

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前と少し変わってますが記憶だよりなのとその時の勢いで書いてますのでご容赦下さい




砂漠

 

 

私…桐藤ハルは今、アビドス砂漠を歩いて渡ると言う苦行に挑んでいます。

 

そんな益体もない事を考えながら砂漠を歩く。

 

夜を徹して大回りした結果、砂漠方面が手薄なのを見つけてこれは幸いと包囲網を抜けたのは良かったものの…

 

「これは酷い」

 

砂に飲まれた街並みを前に一人呟く。

 

人の住んでいた形跡はあれど生命を感じさせない風景は何処か物悲しくも恐ろしく感じる。

 

そんな事を思っていようがいまいが日中の太陽は容赦なく肌を焼くから感傷に浸っている暇も無いけども。

 

もはやただの布切れと言って差し支えない上着を頭巾のよう頭から被る…うん、悪足掻きにしかならないねこれ。

 

懐に余裕がない旅路は心にも余裕を持てなくなるなぁ…なんて考えながら廃墟の街を進む。

 

「熱い…暑いじゃなくて熱い…」

 

いくら砂漠とはいえ温度感的にはサウナに匹敵するとは…やはり知識と実際に体験する事では大きく差がある。

 

思っていた以上に余裕はなさそうだな、と気を引き締め直す。

 

早々にコンビニか人の住んでいる民家を見つけなければ出奔後に即自滅とかいう間抜け過ぎる最期を迎えかねない。

 

太陽の方向で方角を確認しながらの原始的な移動方法では尚の事である…最新の地図くらいは手に入れておけば良かった。

 

「…此処まで砂漠化が深刻だとは」

 

記憶している地図…大まかな地形図では、この辺までくればちゃんとした街があるはずだったのだ。

 

アビドス。

かつての大学園の跡地。

 

砂漠化が進んで人が居なくなりゴーストタウン化したという、どうしようもない理由で放棄された悲運の地。

 

トリニティからの脱出には成功したものの、既に学区として成立していない此処ではまだ安心出来ない。

 

管理者の居ない土地ならば極論、好き放題にやっても誰も文句をつけられないのだから。

 

(こう言う所ならブラックマーケット化してもおかしくないと思うんだけど…)

 

連邦生徒会長の失踪後、極度に悪化した治安は弱小学区を潰すには十分過ぎる程の暴徒を生み出した。

 

それらを押さえつけられる程の力を持たない学区は経営が破綻し、行く当ての無い生徒達は同じ様に暴徒へと化す。

 

管理者の居なくなった土地は後ろ暗い企業のいい餌場になり、ブラックマーケットの温床に成る。

 

 

勘違いされがちだけどブラックマーケットとは元々一つの場所を意味している言葉では無い。

 

元々は学区が破綻し管理者の居なくなった土地に不法に住み着いた連中と、そいつらを相手に商売する連中が寄り集まった集落の事を指していた言葉である。

 

有名なのは全盛期の連邦生徒会でも簡単には手を出せなくなるほど大きくなってしまった一大市場…俗にブラックマーケットといえばそこの事を指し、私が目指しているのもその場所ではあるが。

 

今までは破綻した学区や破綻しそうな学区へは連邦生徒会から何かしらの手が伸ばされていたし、最悪の事態になってしまった場合はSRTと言う大鉈が振り下ろされていたから新たに生まれにくくなっていたと言うだけの話。

 

その連邦生徒会が禄に機能していない今、小さなブラックマーケットとも呼べる場所は各所に生まれつつある。

 

 

では何故アビドスがそうなっていないのかと言うと…

 

(十中八九、この砂だろうね)

 

足元に絡みつく細かい砂を蹴り上げながら思う。

 

資源も無く、新たに建造物を建てるにも邪魔な砂が広がり続ける土地では旨味が少なすぎるんだろう。

 

廃墟と化した建物があるにしろ、人が住むには適していない環境。

 

無法者ですら見放した土地と考えると相当である。

 

人が根付かない、根付けないのではかつての栄光が廃れてしまっても仕方がない…少し哀れには思うけれど。

 

最終的には借金しながらの学区を縮小していったと聞いていたけど…この分じゃ既に経済破綻した学区の一つになっている事だろう。

 

 

そんな事を考えながら足を進め続けていると何故だかふと姉様の事が脳裏に過った。

 

姉様が砂漠で干からびた私を見つけた時、一体どんな顔をするんだろう…バカな奴だと笑うかな?

 

もしくはほっと胸をなでおろすだろうか?

これ以上迷惑をかけられずに済むと考えるだろうか?

 

記憶の中の姉様を思い出そうとすると昔の割合が多く、最近の記憶があまり出てこない。

 

…直近での姉様って、どんな人だったっけ?

 

「どう…だったかなぁ…?」

 

最後に話した時、何を話した?

 

多分、他愛もない会話だったとは思う。

 

寮から学舎までの通学路に成っていた林檎は食べても良いのかと聞いたのはその時だったっけ…?

 

いや、あれは入学前のオープン・キャンパス時の話だったかな?

 

まだトリニティの暗い場所を知らず、綺羅綺羅と輝いて見えていた時期の事だったような…

 

「…〜!もう無理!限界だぁ!!」

 

暑すぎて脳が上手く働いていない。

 

どうでも良い事が頭の中をぐるぐると巡り始めたのに気付いて無理矢理思考をリセットする。

 

暑さと寝不足で無意味なことを考えてしまう。

 

一先ず休もうと目に入った比較的形を残している廃墟…知らない誰かが住んでいた家に踏み行った。

 

「おじゃまします」

 

砂に埋もれた玄関からではなく居間だったであろう所に有った大窓の跡から入り込む。

 

屋内でも容赦なく入り込んだ砂が靴裏でジャリッと音を立てた。

 

人が生活してた痕跡は既に無く、足音だけが伽藍とした空間に響き渡る。

 

(まるで世界に一人だけみたいだ)

 

少しの寂寞感を振り払いながら2階に続く階段を登る。

 

2階も砂に飲まれつつあるものの1階よりはマシだった。

…まぁ、部屋は既に砂まみれで休むのには適してなかったけれど。

 

廊下は少し払えば仮眠位なら取れそうだ、と適当に砂を払って横になる。

 

「すみません…ちょっとだけ場所、借ります…ね…」

 

自分ではまだ余裕があると思っていたが限界をとっくに超えていたのだろう。

 

横になった瞬間に襲ってきた眠気に身を任せ、意識を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

「ナギちゃん…」

 

ティーパーティーのテラスで力なく座る友人に話しかけるも反応は芳しくない。

 

いつもなら姿を見せれば何かしらの反応を見せてくれる友人の様子に思わず閉口してしまう。

 

普段なら私相手でもこんな風に弱みとなる部分を見せたりしないナギちゃんが、外見を取り繕う事も出来なくなっている事に少しの驚きとそれだけの事だったのだと思い知る。

 

(…昔ほど仲が良いようには見えなかったんだけどなぁ)

 

まだあの子が中等部…勿論、トリニティとは別の学校だが…にいた頃はよく聞かされた愚痴や笑い話を聞かなくなって久しい。

 

なら妹の方…ハルちゃんの方はどうだったかと言うと、実のところ詳しいことは知らないのだ。

 

顔を合わせた時に挨拶を交わしたり世間話をするくらいはしてたけれど、特別仲が良かった訳でもない。

 

…まぁ派閥も違うし、私の立場(タカ派筆頭)だとフィリウス派(ハト派)と目されるナギちゃんの妹に声をかけるのも難しかったからしょうがないんだけど。

 

だからここまで思い悩んでいるとは思いもしなかった。

 

「ミカさん…みっともない所をお見せしてしまいすみません」

 

すぐに元通りになりますから、少しの間見逃して下さい…

 

そう言いながら無理矢理作った笑顔を向けられて閉口してしまう。

 

あれから一睡もしていないのだろう。

目の下に隠しきれていない隈を残すその顔に普段の余裕は微塵も無く。

 

主が既に限界が近いと感じたからこそ、フィリウス派の子達が派閥の違う私に声を掛けたのだ。

 

パテル派閥の長としてティーパーティーを構成する一角の私に、直接声をかけるのがどれだけのリスクがあるかを分かっていても。

 

無理矢理にでも休ませなければ壊れかねないと判断したのだろう。

 

同格ならば…幼馴染の私なら止められる、と。

 

…確かに、この状態のナギちゃんを見れば形振り構ってられないよね。

 

その判断に感謝しながらゆっくりと話しかける。

 

「ナギちゃん、少し休もう?」

 

優しく、負担にならない様に肩に手を置く。

 

「ハルちゃんの事は皆に任せてさ」

 

正義実現委員会の皆も交代しながら一昼夜を通して捜索に当たってくれている。

 

…それでも見つからないと言うのがナギちゃんに負担を掛けているのだが、それを責める訳にも行かないだろう。

 

純粋にあの子が上手だっただけ。

 

見た目は似通った部分が多いものの、"本当にナギちゃんの妹?"と聞きたくなるほどに性格が違うあの子…桐藤ハル。

 

政治能力や対人能力に自身の才能を振り切った様なナギちゃんと違って身体能力に全ての才能を振った様なハルちゃん。

 

まだ力じゃ負ける気はしないけれど成長したらどうなるか分からないと思わせてきた唯一の後輩。

 

その真っ直ぐ過ぎる気質からトリニティは向いてないんじゃないかと危惧していたが…まさか何も言わずに出奔する程だとは思っていなかった。

 

(それが少しだけ羨ましい…なんて、言えないよね)

 

私と違って守るべき立場もなく。

自由に出歩いて、やりたいように生きられるその在り方に思わないところがないとは言えない。

 

口には出さないし、今後も出すつもりもないけれど。

 

「居場所さえ分かれば私がパッと行って連れ帰ってくるよ」

 

意識して明るく振る舞うも…

 

「はい…いいえ、ミカさんの手を煩わせる訳には…」

 

一瞬の肯定とそれに続く否定。

 

本当に限界じゃん…と呆れながら

 

「良いの!私だってハルちゃんに言いたいことがあるんだから!」

 

目の前で分かりやすく怒って()()()

 

今のナギちゃんは感情がグチャグチャになってる。

 

悲しいのか、心配しているのか。

怒っても良いのか、悪いのか。

 

自身の立場もあって表に出せないから内側に閉じ込めて溢れそうになるまで。

 

そんなの、全然健全じゃない。

 

「ですが…」

 

「ナギちゃんもさ、怒っても良いんだよ?」

 

なんで何も言わなかったんだ、って。

 

「…先に手を離したのは私ですから」

 

そんな事を言う資格なんて…と俯く。

 

「資格とかは今は置いといてさ。思うところはあるはずじゃない?」

 

それを吐き出さないと壊れてしまう。

 

そんな感情をうちに秘めたままではまともに休むことも出来ないだろう。

 

「今なら私しか居ないよ?」

 

人払いをしたテラスには私とナギちゃんしか居ない。

 

それがフィリウス派の子達のお願いに答える条件だったから徹底してくれている…相変わらず下の子達に好かれているなぁ、なんて思っていたが今はそんな事を考えている場合でも無い。

 

「…ッ!」

 

ギリッと歯を食いしばる音と共に一筋の涙が零れ落ちた。

 

「吐き出して良いんだよ」

 

それがどんな言葉でもちゃんと聞いてあげるから。

 

「見られたくないなら席を外しても良い…暫く誰も来ないから」

 

ちゃんと吐き出せるならそれでも構わない。

 

そう告げると肩に置いた私の手を握りしめながら

 

「ッ、すみま、せん…!」

 

止め処なく流れる涙を隠すように嗚咽を漏らす。

 

「気にしないで…ね?」

 

泣き続ける彼女を抱きしめる。

 

少しでも感情を吐き出せた事に安堵しながら。

 

そうして暫くすると泣き疲れたのかスイッチを切るように眠ってしまったナギちゃんを優しく抱き上げる。

 

取り敢えず、ちゃんと寝かせてあげないとね。

 

その後は…

 

「ごめんね」

 

此処に居ないあの子に届くはずもない謝罪を呟く。

 

ハルちゃんとも知らない仲では無いからトリニティを出ていったその意思は尊重してあげたいけれど。

 

ナギちゃんの様子を見て、このまま見逃してあげるわけにも行かなくなっちゃった。

 

「私はナギちゃんの方が大切だから」

 

それが例え喧嘩別れになるだけだとしても。

 

「一度だけでも、さ」

 

お話してもらうね?

 

それで私が恨まれたとしても構わない。

 

腕の中で眠る友人のために。

 

そういう覚悟を今、決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい!…おい良い加減起きろや!!」

 

軽い衝撃と共に目を覚ます。

 

一瞬、自室では無いことに頭が混乱するがすぐに砂漠に来ている事を思い出して冷静を取り戻した。

 

辺りを見渡して目に映ったのは知らない天井ではなく見知らぬ顔ぶれ。

 

…ヘルメットを顔を言って良いのかは怪しいけど、知らない人だって事は同じだよね。

 

「…おはようございます?」

 

慣れない環境で寝たせいか少しボーっとする頭を振って覚醒を促して。

 

そのまま寝ぼけ眼を擦ろうとして拘束されている事に気がつく。

 

おおぅ…縛られてる訳じゃないのが救いだけどキッチリ後ろ手に捕らえられちゃってるわ…

 

この程度の拘束なら簡単に振り払えるけど、不法侵入した私がいきなり暴力に訴えるのは筋が通らない。

 

取り敢えず様子見かな…と今後の行動をまとめた所で

 

「ようやく起きたか」

 

リーダー格だと思われる、少しだけ派手な装飾のヘルメットを被った奴が話しかけてきた。

 

「うん、まぁ…あれかな?此処、君達の家だったりする?」

 

だとしたら悪いことをした…と内心で反省する。

 

「ごめんね?ちょっと限界だったから勝手に入り込んじゃって…」

 

すぐに出ていくよ、と続けるが

 

「あ?…あぁ、そうだな!」

 

その様子じゃ別に君達の家ってわけでもなさそうだね?

 

演技下手だなぁ…分かりやすくて助かるけど。

 

「勝手にあがって休んでんだ…宿泊料ってのが掛かるわな?」

 

勿論、迷惑料も込みでよ!と声を上げるリーダーに追従する子分達。

 

「そうだな…取り敢えず有り金全部でいいぜ?」

 

ヘラヘラと笑う目の前のヘルメットに溜息を吐く。

 

自分の家でもないだろうに。

 

「いや、法外にも程があるでしょ…」

 

勝手に入り込んで休んだ事に対する処罰ならまだ納得出来るけど…こんな砂漠に機能してる自治組織があるとも思えない。

 

辺境とは言えこれだけ放置されてるなら無法地帯も同然だし。

 

何より、君達どう見ても体制側じゃ無いでしょ。

 

僅かに視線を走らせて状況を把握。

 

私を抑えつけてる一人を除けば視界に入っているのは4人。

其々がアサルトライフルやショットガンで武装したチンピラだ。

 

リーダー格だけ手ぶらに見えるが…片手が体の陰に入ってるから何か持ってると考えたほうが無難だろう。

 

寝る時もショルダーホルスターに吊るしたままだった相棒の感触も無い。

 

流石に武装解除されてるか…と少し面倒くさく思って更に溜息を吐くと

 

「何余裕こいてんだ?」

 

下っ端Aにガツン、と頭を叩かれた。

 

そこまで痛くは無いけど腹は立つ。

 

「どういう状況か分かってねぇのかお嬢様?」

 

あ?…あぁ、枕代わりにしてたボロ布に残った校章からトリニティ所属だと思ってるのか。

 

お嬢様と言う言葉に反応したのを見て愉快そうに

 

「抵抗するならしょうがねぇ。お前の家に払ってもらうとしようか」

 

トリニティなら端金だろ?と提示された金額に呆れ果てる。

 

「私にそんな額を出すバカは居ないよ」

 

そもそももうトリニティじゃないし。と続けるが

 

「バカも休み休み言え。その制服はトリニティのだろうが」

 

大分ボロボロだが…と呟くヘルメット団リーダー。

 

「ゲヘナの制服なんかと違ってそいつはブラックマーケットにも出回らない代物だ」

 

手放す奴は居ないし、校章が入った物を盗られたと知れば何が何でも取り返しに来るので有名なトリニティである。

 

格式がどうとか、そう言う面子を潰されかねない所にはキッチリ金を掛ける辺り見栄っ張りなのは間違いない。

 

「テメーがお嬢様かどうかなんてどうでも良い」

 

家が無理なら学校に払ってもらえ、と銃口を突きつけてくる。

 

「割に合わないと思うけどなぁ…」

 

面子を大事にすると言う事は。

 

「トリニティはテロリストには容赦しないよ?」

 

舐められる様な真似は決して許さないという事だ。

営利誘拐自体は少ないものの、年間で見れば全くないと言うわけでもない。

 

それでも逃げ切れたと言う話は一度も聞かないのは何故か?

 

「下手人は全て矯正局送りにしてるからね」

 

そういう時には意見が一致するのだトリニティは。

身内かそれ以外かのラインがある癖に、その身内でもラインを引きまくってる。

 

それでも外部と比べれば身内の方が比重が重いことのほうが多い。

 

仲間思いとは言い難いが結果だけ見ればそう見える、外面の良さは実にトリニティである。

 

「ゴチャゴチャうるせぇ!テメーは黙って従えば良いんだよ!」

 

ヘルメット団のリーダーが振り上げた手に握られた相棒に目が行った。

 

それに気づいたリーダーが見せつけるように嘲笑いながら

 

「こんな産廃使ってるような残念な頭じゃわかんねぇか」

 

そう続ける。

 

「デカい癖に装填できるのは一発だけ。コンビニ売りの拳銃の方がまだマシなんじゃねぇの?」

 

無駄に使い込んでるみたいだがよぉ…と目の前で振り回す。

 

「…丁寧に扱ってよ。そいつは頑丈だけど貴女が思ってるより繊細なんだ」

 

出来るだけシンプルな構造にした特注品だ。

 

必要最低限のパーツで組み直した相棒は1発の弾丸を撃つ以外の機能を排除しているからそこらの市販品よりも丈夫に仕上がっている。

 

それでも粗雑に扱われるのは腹が立つ。

 

「は?こんな玩具に何言ってんだ?」

 

銃把から銃身に持ち替えた手を振りかぶる。

 

「こんなもん、こうやって鈍器として使う意外にねぇだろうがよ!」

 

振り下ろされた相棒を掴む。

 

私の上に乗っていたやつを振り払いながら。

 

「…は?」

 

引鉄に指を掛ける…指先に感じる軽い抵抗から装填されたままだと言うことが分かった。

 

この阿呆、装填状態で振り回してたのか。

 

相棒に安全装置なんて気の利いたものは無いのに…

 

「弾くらい抜いときなよ。暴発したらどうするのさ」

 

こんな風に、そう告げると同時に引鉄を引く。

 

聞き慣れた轟音と共に放たれた弾丸がヘルメットを砕いた。

 

意識を失いつつも銃身から手を離さなかった手を引きはがしてリーダー格を地面に捨てた。

 

「あーあーあー…雑に扱うから変な所に汚れが付いちゃったじゃんか…」

 

銃身にベッタリと付いた指紋を軽く拭き取りながらトリガーガードを操作して銃身を開放、弾き出された空薬莢が宙を舞う。

 

…あちこちに弾を隠し持っておいて良かった。ポケットの中の弾は盗られてたけど襟元の奴と靴に隠してた分は残ってる。

 

この場の全員を撃ってもお釣りが出る位には。

 

襟元から取り出した弾丸を込め直して銃身をロックすると同時に突然の出来事に固まっていたヘルメット団が動き出す。

 

「てめぇ!?」

 

4つの銃口が私に向いた。

 

「はい、ドカンと」

 

それに構わず引鉄を引く。

 

轟音と共に放たれた弾丸がショットガン持ちの頭を叩いて吹き飛ばす。

 

同時にヘルメット団共から撃たれまくるがそれを意に介さず排莢、再装填。

 

パラパラと私に当たった弾は制服の耐久度を越えた分が布を貫通して地肌に当たる。

 

…まぁ全てひしゃげて地面に落ちてったけども。

 

「なんなんだよ、てめぇはぁ!?」

 

フルオートに切り替えたのかバカみたいに連射してくる。

 

「次」

 

引鉄を引く。

 

手前にいたアサルトライフル持ちを吹き飛ばした。

 

銃弾が変わらず私の体を叩き続ける。

 

屈んで靴に隠してた弾丸を2発取り、1発を再装填。

 

「クソッ!なんで、なんで倒れねぇ!?」

 

「次」

 

引鉄を引く。

 

轟音と共に放たれた弾丸が2人のうち1人を吹き飛ばした。

 

トリガーガードを操作して銃身を開放、短時間に4発撃ったことにより熱された銃身から空薬莢が飛び出した。

 

薬莢が地面に落ちた音が響き渡る。

 

既にマガジン内の弾を撃ち尽くしたのか、カタカタと震えながら引鉄を引き続ける、私の後ろで押さえつけていた最後の一人。

 

「なんで…なんで倒れないの…!?」

 

「昔から身体は頑丈でね」

 

チリチリと音を立てながら装填される最後の1発。

 

ゆっくりと振り返ると目があったソイツがビクリと震えた。

 

「この程度なら耐えられる…でも痛いのには変わりないよ」

 

先ほどの可愛がりと比べれば流石に銃撃の方が痛い。

 

まぁこの程度なら頭や心臓部に当たり続けない限り倒れるような事にはならないけど。

 

銃身を定位置に戻してロックされたのを確認。

 

「ば、バケモノが!!」

 

混乱したのか手に持った銃を投げつけて逃走しようとする。

 

投げつけられた銃を払い除けて銃口を向けると最後の力を振り絞って窓から飛び降りるヘルメット団。

 

「逃がす訳ないじゃん」

 

後を追って飛び出す。

 

着地地点の近くにスーツ姿の大人が居た。

 

こいつらの仲間だろうか?

まぁどちらだとしても関係ないが。

 

浮かんだ疑問を打ち消して着地と同時にへたり込んだヘルメットへと銃口を押し付けた。

 

「ま、待って!降参!降参するから…」

 

両手を挙げて抵抗の意思はないと示すヘルメット団。

 

「悪いね…とは思えないな、やっぱり」

 

だから恨んでくれて良いよ、と続けて引鉄に指をかける。

 

 

"ちょ、ちょっと待っ…"

 

制止しようとする言葉を無視して引鉄を引いた。

 

「はい、ドカンと」

 

 

轟音と共に放たれた弾丸がヘルメットを砕いた。

破片が飛び散り、ヘイローが消える。

 

力なく崩れ落ちたヘルメットを尻目にスーツ姿の大人へと向き直る。

 

 

「…で、貴方は?こいつらの仲間?」

 

 

音を立てて排莢しながら問いかけた言葉に呆然としていた男が答える。

 

 

"…私はシャーレの先生だよ"

 

 

私の問いに答えたその人は。

こんな砂漠には似つかわしくない見た目の優男だった。

 

 

 

 

 

 

この時はまだ知る由もないが。

 

これがこれから関わることが多くなる大人との初めての会話。

 

大きなトラブルの渦中にその人ありと称された『先生』との初邂逅はお世辞にも良いものとは言えなかったのである。

 

 

 

 






んー…マイルド?
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