桐藤ハルは走り出す 作:コンテンダーは良いぞおじさん
変化してくかもしれません
暫くの間無言で歩く。
先頭で4人担いだリーダーが少しふらついた拍子に先生が支えて、そこからは2人で会話していたみたいだけど…私は周囲に注意を払っていたのでその会話には参加していない。
(本当に人がいないなぁ…)
また襲撃があるかも、と警戒しているのがバカバカしくなる位に。
…まぁそもそもこんな所を通る奇特な人なんて早々いるはずもなし、強盗するにしてももっと場所を選ぶんだろうけど。
(…で、あれば)
なんでヘルメット団はあんな廃墟に姿を表したのだろうか?
偶然同じ家に入ったのでなければ何かしらの要因があるはず。
こんな何処に行くにも不便しかない砂漠を拠点にしているとも考え難い。
誰かを探していた?
んー…分からない。
取り敢えず聞いてみるか、と和気あいあい?と話している先生達に声をかける。
「ねぇ、貴女…ヘルメット団の」
そう言えば名前知らないな、と頭をかきながら声をかけると
「…相良。相良リョーコだ…です」
「これはどうもご丁寧に」
律儀に自己紹介したヘルメット団リーダー…相良リョーコに軽く頭を下げてそのまま問いかける。
「聞きたいことがあるんだけれど…」
"ハル、まだ自己紹介が終わってないよ?"
先生が嗜める様に割って入ってくるが
「良いんだ、先生。私には聞く権利が無い」
相良がそう言うと口を閉じる先生。
どっちでも良いんだけど…本人がそう言うならそのままで良いか。
「で、何が知りたい…んですか?」
喋りにくそうに敬語を使おうとしているのを見て
「話し辛いならいつも通りで結構。気にしませんから」
私に歯向かわない限りは。と続けると相良から少し肩の力が抜けた。
分かり易すぎるな…と苦笑しながら
「聞きたいのは一つ。何故貴女達はあそこにいたのか」
例えば…誰かに言われたりした?と尋ねると
「…アンタ、トリニティの生徒だろ?」
「元、だけどね」
今は退学処理中。と答えると信じられないものを見る表情で私を見る相良。
「信じられねぇ…トリニティの学籍なんて望んでも取れるものじゃないだろうに!」
経済的に最も安定しているトリニティの学籍をみすみす捨てようとしているのか?と言いたいのだろう。
確かにトリニティは連邦生徒会が機能不全に至った今でも安定した治安を誇る三大学園の一角。
…三大学園の治安が安定しているとは言っても、ゲヘナの治安は元々が悪すぎて連邦生徒会会長の失踪以前と今とで比べても然程変わらないというどうしようもない理由なのはさておき。
ミレニアムは理知的な生徒が多い為か不良生徒自体が少ない。
トリニティも表向きはそう言う生徒が居ないから安定している様に見える。
入学についてはゲヘナは言わずもがな。
ミレニアムでは飛び抜けた学力が必要。
飛び抜けた理系の才能があれば生きやすいらしいが、残念ながら数学関係があまり宜しくない私には無理だった。
トリニティは学力はそこそこで良いが教養が必須。
それもまぁ育ちが良ければ自然と身につく類のもので十分。
「希少って意味ならそうかもね?…水の合う合わないは別だけど」
入学難易度としては個人的にはゲヘナの次に入りやすいと思う。
そこそこ勉強が出来るなら後はマナーの類を覚えさえすれば面接は通れる…多少のゲタを履かされた可能性はあるが私でも通れたレベルだし。
まぁ、それでも表で仲良くしながら後ろ手に殴り合うのが性に合わなかったから辞めたけど。
「…で、私が元トリニティ生って言うのがどう関係してくるの?」
「最近、ブラックマーケットに出入りしてるトリニティの生徒が居るって話でな。どうもこの砂漠を通ってるっぽいんだよ」
…その噂は聞いたことがある。
トリニティの校章を隠しもせずブラックマーケットを出入りしているやつが居るって噂はトリニティ内部でもそこそこ有名な話だった。
所詮は噂の域を出なかったんだけど…相良の話を聞く分に、ブラックマーケットでも目撃されてる可能性は高いか?
視線で続けろ、と促すとまくし立てる様に話しだした。
「他の連中はバカバカしいってやろうともしなかったけど…誰もやらないならアタシが一番乗りじゃん?」
一攫千金狙えると思って虱潰しに探してたらアンタを見つけたって訳だ。
だからあの家で見つけた時は神様に感謝したんだ…と俯く相良。
「こんな、バケモンみたいに強いって知ってたら手なんて出さなかったのに…」
後悔している様に見える相良に向けて
「それはご愁傷さま。でも…その様子だとどの道貴女達は長くなかったでだろうね」
私程度の相手にそう思えるなら本当の上澄みを知らないって事だから。
少し前のことを思い出しながら少し笑う。
まだ幼い頃に姉様に連れられて出会った本物の才能は、当時生まれ持った頑丈さから来る全能感に酔っていた私の自信を粉々に打ち砕いてくれた。
そのおかげで今の私があるから今となっては感謝しかないが。
…戦闘スタイルが少し似通った形になったのはそのせいもあると思っている。
避けずに受けて、ただ愚直に進んで、撃つ。
強みを押し付けて勝ち切る以外に勝ち目がない脳筋スタイルになってしまっているのは私の才能が彼女に遠く及ばないからだろう。
(後はまぁ…趣味が違いすぎるってのもあるかも)
ホルスターに収まった相棒を軽く撫でる。
多少のダメージを無視できる身体と一撃必殺を具現化したような相棒の組み合わせは私の思う浪漫の結晶だ。
…動いてる相手に当てる為にはそれ以外に意識を払う余裕がないとも言えるけど。
正直非効率の塊な欠陥戦法だけど…変えるつもりはない。
正面から堂々とやるのが私にとって一番しっくり来る戦い方だから。
だからまぁ…
「本当の強者はこんなものじゃ無いよ」
例えば正義実現委員会の長と副長。
正統派な強さとはアレらの事を指すんだろう。
チームで発揮される強さと個人技を高レベルで融合させている稀有な2人だ。
でも私が憧れた強さとは違う。
連射する全てが致命的で当たった所が消し飛んだかと思う程の衝撃があって。
それでいて異常なタフネスを誇るトリニティのお姫様。
今なら流石に一撃の重さなら勝てると思う…いや、あの人の事だから更にとんでも大怪獣化してても可笑しくないかな?
そんな事を思って笑みを浮かべる。
あの人は嫌がるだろうけど、武闘派の色が強いパテル派の長としてはあれ以上は無いだろうね…なんて思い出し笑いをしていると妙な顔になって私を見る相良。
「…冗談だろ?」
「本当の話。別に信じなくても良いよ」
こんなものただの雑談だ。
信じるなら少しは不法行為を慎む事で長く続けられるだろうし。
信じないなら近い将来その本物達に吹き飛ばされる羽目になるだろうって話。
そんな事を考えていると、先生が
"静かに…誰かが争ってるね"
そう言われて耳を済ませると幽かに銃声が聴こえてきた。
「…似たようなのがいるみたいだね?」
トリニティの生徒は大人気だなぁ…と呆れていると
「いや、アビドス高校の方向からだし違うんじゃないか?」
あそこ襲っても旨味があるとは思えねぇけど…と続ける相良。
「まぁ、何もなさそうだしね
砂だらけの土地で学校襲っても何の利点もなさそう…と呟いた言葉に
「それもあるけど…あいつらバカみたいに強いんだよ」
全員漏れなく。と溜息を吐く相良。
「へぇ?それはまた妙な話だね」
それだけ腕が立つなら何処に行ったって引く手数多だろうに。
それこそ中小学区なら選び放題じゃないかな?
「アンタ程じゃ無いけど…私程度じゃ逆立ちしたって勝ち目なんて無いレベル」
極まった少数精鋭だけが残ってるパターンかな…母校愛や地元愛が強い学校の生徒にありがちなタイプだ。
下手に腕が立つから抵抗出来ちゃうんだろうなぁ…ジリ貧でもギリギリ学校としての体裁を保ててしまうのは果たして幸せなんだろうか?
関係ないことまで思考がそれ始めているのに気付いてそれについて考えるのを止めた。
…ま、そのアビドス高校が強者揃いだって言うなら早々潰れる事はないだろうと言うのは吉報である。
「なら安心だね」
落ち着くまで待とうか、と言いかけた辺りで先生が走り出す。
「ちょ、先生?」
"ごめん!先に行くね!"
一言告げて全力疾走し始めた。
変な人だなぁ…放っといても変わらないだろうに。
「…えぇと、どうする?」
先生の勢いに乗り損ねた相良から問われるが
「好きにさせておけば?」
それがお仕事なんでしょ、と答える。
「追いかけないのか?」
意外そうな顔で問いかけてくるけどさ…
「そこまでする義理は無いね」
別に仲間って訳でもない、ただの他人である。
あの人が連邦生徒会に縁があるからその意思を尊重してるだけで、勝手に自滅する分には構わないのだ。
何ならさっさと痛い目に遭って考えを改めた方がいいとすら思ってる。
「随分ドライなんだな…」
ソワソワと先生が走って行った方を見ながら言う相良。
わかりやすいなぁ…
「行きたいなら行けば?」
苦笑しながら促す。
「そいつら置いてけば追いつけるでしょ」
私は此処で待ってるから。
「…良いのか?」
嘘じゃないだろうな?と懐疑的な目を向けてくる相良に
「良いよ?此処まで来れば後は引き渡すだけだし」
態々此処まで持ってきたお仲間を見捨てるとも思えないもの、と続ける。
何より…
「心が折れてるならもう敵じゃない」
今までの会話で自分から目線を合わせるのを避けてる時点で私にとって脅威にはなり得ない。
それに例え逃げたとしても残りの4人を引き渡せれば私の目的は達成出来る。
下から目を覗き込む様に見つめると少し肩を震わせてから仲間をゆっくりと下ろした。
「そうでしょ?」
「……そう、だな」
「早く行ったほうが良いよ」
先生ヘイロー無いし。
銃弾一発が大怪我に繋がりかねない。
そう続けるとチラリと仲間を見た後に走り出した。
「おぉ、足速いね…」
あっという間に見えなくなった。
開けた所でやり合ってたらちょっと面倒だったかもしれない。
まぁ銃弾より遅いなら余り変わらないけど。
初見で相棒の弾丸を見切った奴は片手で数えられるくらいしか居ない。
よいしょ、と声を上げながら捨て置かれたヘルメット団達の側に座る。
多分すぐに片がつくでしょ…それがアビドスの敗北に終わったとしても。
数分も経っただろうか。
相棒を軽く清掃してホルスターに戻す時に視界の端に白い何かが過った。
「…んん?」
そちらに視線をやると廃墟の裏に青い布の端が入っていくのが見えた。
ヘルメット団にしては綺麗な服だったからアビドスの関係者の可能性が高い。
大穴で別枠の傭兵とかその辺の賞金稼ぎかな、なんて考えながら呟く。
「割に合わないと思うよ?」
気づかれないようにしてるつもりだろうけど僅かでも敵意が籠もった視線は分かりやすい。
此処まで近ければ大体の位置も分かる。
今は先程隠れた廃墟から2つ先に移動して様子を見てる。
ジャケットの裏に吊るしたホルスターへ手を伸ばしながら警告する。
「そこの裏に隠れた貴女に言ってるんだけど…アビドス高校の人?」
返答がなければ壁毎撃ち抜こうと思っていたが
「ん、バレてた」
あっさり姿を表したのは驚くほど綺麗な白髪と獣人型の耳を持った生徒だった。
制服だろうブレザーに身を包んだその子は油断なく握った銃は銃口こそ私に向けていないものの、何かあれば即座に発砲できるように引鉄に指が掛けられたままだった。
「それだけ熱心に見られればね」
視線には敏感な質でさ。と続ける。
「で、どうなのかな?」
「…アビドスに何か用?」
質問に質問で返すんじゃあない。と言いたいところだが
「私は成り行きで居るだけ。ちょっと通らせてもらおうとしたらヘルメット団に襲われちゃってね」
返り討ちにしたから
「あ、後連邦生徒会の先生って大人が貴女達に会いに来てたよ」
今ドンパチしてる方向に行ってるから向かえば合流出来るんじゃない?と何気なく続けた言葉に少し目の色が変わった。
「ん…シャーレの?」
「そ。シャーレの先生」
先生が役に立つ場面は想像出来ないけど。
そんな事を考えていると引鉄から指を離した白髮の子。
「来てくれたんだ」
感慨深く呟いた言葉には私の知らない感情が乗っている様な気がした。
「…一緒に来て」
端的に告げられた言葉に頷く。
断る理由は無い。
「別に良いけど…コイツらはどうするの?」
側に転がった4人のヘルメット団を見ながら問うと
「ん、2人ずつ持てば解決」
スリングで自分の銃をぶら下げて空いた両手にヘルメット団を軽々とぶら下げながら
「着いてきて」
そう言うと共に軽く走り出した。
「マイペースな…」
溜息を吐きながら追従する。
残された2人は比較的に体格が小さく、重さも然程無い。
片手で襟首辺りを掴んで引きずりながら走る私に
「…ちょっと吃驚。ついてこれるんだ」
「ついて来いって言ったのは貴女では?」
ちょっとこの子の感性が分からない。
理解不能な生き物をみる目で見ていたのが分かったのか言葉を補填する白髮の子。
「見た目より力持ちなんだね」
「一応鍛えてますので」
目標にはまだ届きそうもないが。
それでも見た目の小ささに相反して出力はその辺の力自慢にも負けないと自負している。
「ちょっと急ぐよ」
「はい…え?」
そう告げた瞬間に速度が倍になる。
ついて行けない程じゃ無いけどいきなり過ぎて吃驚するわ。
その後もチラチラと私がついて来てるか確認しつつ市街地を戦闘音のする方へ走り抜けていった。
「………」
目の前に広がる戦場を見て閉口する。
『ん、此処で待ってて』
後で回収に来るから。と言って戦場に駆けていく白髮の子を見送った後の事である。
「なんだ、あれは」
アビドス高校と思われる連中…2人の前衛と数人の後衛を見て閉じていた口が開いて勝手に言葉が溢れ出した。
『アンタ程じゃない』
相良はそう言っていたが。
「見る目なさ過ぎー…」
確かに前線を支えてる黒髪の子はそこまで特筆するような動きじゃない。
それでも他学区に行けば
校舎から放たれるミニガンによる弾幕が黒髪が偶に晒す隙を潰すように振り注いでいる。
殆ど乱戦と言っていい状況でフレンドリーファイアせずに撃ち続けられるだけの腕がある…個人的には好きになれないスタイルだけど腕が立つのは間違いない。
合間合間に飛び交っているドローンもアビドス側だろう。
ミニガン持ちが操作している様には思えないから多分他に数人居るはず。
そのドローンも俯瞰して全体を監視している様な動きをしてる奴と爆撃支援してる奴とで複数飛び回っているのだから笑えない。
(破綻寸前の、それも零細学区の割に実働部隊が強すぎる)
それぞれが補い合うチームとしての完成度が異常に高い。
全員丸ごと移籍したいと言えば三大学園のどこでも入れそうなレベル。
「その中でも…」
あの桃髪。
盾とショットガンを担いで暴れ回ってる小さな影が一番ヤバい。
他の全員を合わせてもあの子1人に及ばないんじゃないか?
防御主体に動いてるから近くじゃ分かりにくいだろうけど此処から見てる限り、常に他のカバーに入れる位置に入り続けている。
「あれは別格だなぁ」
視野の広さと反応の速さが桁違いだ。
今も黒髪の後ろから撃とうとしてたヘルメット団の銃口をさり気なく盾で殴って反らしていた。
その銃口の先に居た別のヘルメット団と相討ちにさせながら。
(後ろにも目がついてるのかな?…そんな訳ないか)
上には上が居るものだとは分かっていた。
それでもこんな僻地で見ることになるとは思ってなかったわ、と途中から桃髪を注視していたんだけど
…今、目が合った。
あの桃髪、目の前で撃ち合ってる相手そっちのけで私を睨みつけてきたな。
「怖…」
この距離で視線に気づくとか完全に私の上位互換じゃないか。
狙撃銃の距離だよ此処…なんでわかったんだ?
その後は視線が合うこともなく白髮の子が合流してからはあっという間にヘルメット団が壊滅、撤退して行く。
さっきまで一緒にいた白髮の子も強かった。
黒髪の子より腕が立つが協調性と言う点では黒髪の子に軍配が上がる、そんな組み合わせだった。
桃髪を抜けば一番強いのはあの白髮の子だ。
多分あの子は正義実現委員会に行ってもすぐに幹部候補に成れる。
「…そういや、先生達は何処で何してたんだろ?」
先に着いたはずの先生と相良の姿が見えなかったことに疑問を持っていると
「いや〜流石に銃弾飛び交う所には出せないよ」
直ぐ側から掛けられた言葉の意味を理解するよりも速く振り向くと、そこには先程まで前線で暴れ回っていた桃髪が居た。
「君が先生の言ってた子かな?」
咄嗟に抜いた相棒を上から優しく抑えられた。
軽く見えてガッチリ抑え込まれてるなコレ…
「ツレと言うのには語弊がありますけどね」
精々知り合い程度でしょう。
そう答えながら銃把を握っていた指から少しずつ力を抜く。
それを見て少し表情を緩めて見せた桃髪。
「そっか…ま、落ち着いた所で一回話そうよ」
名乗ってないのに私の名前を知っている。
…嫌な予感しかしない。
「…一方的に知られてるっていうのは想像以上に気分が良くないですね?」
苦々しい感情を噛み殺しながら答えた私に対して。
あー…ごめんね?と頭を掻きながら軽く続ける桃髪。
「おじさんは小鳥遊ホシノ。よろしくね〜」
ま、先生達も居るから悪いようにはしないよ。と告げて先導し始める。
ついでとばかりにヘルメット団の2人を担ぎながら。
…これは逃げられそうにないなぁ。
後ろ姿にも隙らしい隙がない小鳥遊さんの背中を見ながらついて行く。
面倒な事になりそうだという予感と共に。
蛮族風味は少し薄れました