お前のミスでした―――。 作:責任とれやクソボケ
一部最終章後の時間軸。原作に近い形のハッピーエンドを迎えた後、ヤベーことやらかしたクソボケ。生徒と先生のハイライトは消える。
そのバーは、キヴォトスの無法都市―――ブラックマーケットの一角に存在していた。
住民の多くが生徒、つまり未成年であるキヴォトスにおいてアルコール飲料の規制は厳しく、それらを扱う店は少ない。それ故に、一部の需要を満たすため、このような場所でバーや居酒屋が経営されているのは珍しくない。
バーには、カウンターに座っている少年とマスターの二人のみ。静まり返った室内を、琥珀色の照明が静かに照らしていた。
そして、静寂を壊すようにドアが開き、一人の大人が入って来る。
「お久しぶりですね。幽玄さん」
「黒服さん―――遅かったじゃないですか」
旧友との再開のような暖かい雰囲気の中、黒服と呼ばれた男は「クックック」と笑いながら少年の隣に座った。
「私も忙しい身なんですよ?突然のお誘いだったんですから、勘弁して下さい。……マスター、アイスコーヒーとウォッカのカクテルを」
「カルーア・コーヒー・クーラーで宜しいでしょうか?」
「ええ、それでお願いします」
黒服がオーダーを済ませると同時に、少年もグラスに入ったオレンジジュースを飲み干して、次の注文をする。
「じゃあ僕も……洗剤を一杯」
「ありません」
「無いのか、じゃあ仕方ない。……洗剤ベースのカクテルを一杯」
「ありません」
「クックック……マスターを困らせるものじゃありませんよ、幽玄さん」
少年が正気とは思えない注文を繰り返すのは、彼らの間では日常的なことのようであり、マスターと黒服の二人は少年の言葉を軽く流す。
「じゃ、黒服さんのと同じやつでいいや」
「かしこまりました」
「おや、いいのですか?未成年だったと思うのですが……先生に叱られますよ?」
「いいんだよ、もう先生と会う気は無いんだし」
「本気ですか?」
「うん。もう、僕がシャーレにいる必要は無いでしょ」
カウンターに置かれたカクテルを手に取って、口内を潤してから言葉を続ける。
「当番の生徒は殆ど毎日来るから仕事は滞りなく進むだろうし、三大校を始めとする各校の上層部との関係も良好。一部不良生徒も、先生に好意的だ。それに、プラナがいるのもでかい。先生を守る盾は潤沢だし、外敵を滅ぼす矛も充分だ」
「ふむ、確かにシャーレの持つ権限と武力は凄まじいものですね。しかし、それが「
「なるさ。そもそも、僕みたいな人間が彼女たちと共にいること自体、許されることじゃない。それに……僕の望みは、彼女たちといては叶わない」
そう言って、天井を仰ぎ見る。
未成熟でありながら色気を放つ、中性的な少年の顔が照明に照らされる。
「では、以前ご提案した契約に了承すると?」
「そう……僕の身体を実験台として提供する、その報酬として僕が死ねる方法を作り出す。こんなのだったよね?」
「ええ………ですが、正直私はこの契約を結びたくないのですが……」
「ええーーなんでさぁ?黒服さんの方からの提案だったでしょー?」
カウンターに突っ伏しながら、駄々をこねるように少年は言う。
それに対し、肩をすくめて黒服は答えた。
「状況が変わったんですよ。今、貴方を実験台にしようものなら先生……延いてはキヴォトスの生徒の八割が敵に回りかねない」
「そんなことになるかなぁ?……ま、先生なら見捨てるなんて選択できないか」
手遊びに指先でグラスに浮かぶ氷を沈めながら、つまらなそうに少年は話す。
「………まぁ、その通りですね。それで、私は契約を結ぶつもりはありませんが、幽玄さんはシャーレに戻らないのですか?」
「あーー、それねーー」
「私としては、「戻ってもらいたい」というのが本音なんですが」
「なんで?」
「先生から「ムクロの居場所は知らないか?」なんて問いただされるのが嫌になったんですよ。自分で言うのはなんですが、私はあの方からの信頼とかありませんから、貴方がいなくなると真っ先に疑われるんですよ」
こめかみ(と思われる部分)に手を置きながら、ため息をこぼす黒服。
どうやら、此処に来る前に相当苦労させられたようだ。
「それは大変だ。すまなかったね」
「いえ、日頃の行いとでも思っておきますよ。……マスター、次はジャマイカ・クーラーを」
「かしこまりました」
「え、またコーヒーのカクテルかい?相変わらず好きだねぇ………頭がコーヒー豆みたいだからかな?」
「クックック……容姿と酒の好みに関連性はありませんよ。あと、コーヒー豆呼ばわりは止めて下さい」
カウンターに新たなグラスが置かれる。
黒服はそのグラスを持ち上げながら、少年に問いかける。
「以前から気になっていたんですが、何故貴方は死を望むのです?」
「何故……何故ねぇ……」
薄く笑みを浮かべてから、グラスを傾ける。
口の中に広がる甘みのある濃厚なコーヒーの味をひとしきり楽しんだ後、少年は口を開いた。
「理由はないよ」
「……理由も無く、死を望むと?」
「理由が無いからこそさ。生に意味は無く、死にも意義は無い……僕にとってはね。だから、わざわざ苦しい生を引き伸ばして、無駄に資源と時間を喰い潰して、ただ醜く呼吸し続けることが耐え難い」
「ですが、貴方が生きることを望む人もいるのでは?」
「いないさ。いたとしても、それは僕の裡側を知らないからこそ、そう思えるだけ。
……ってことで、メッキ液をジョッキで」
「ありません」
「無いのか、じゃあ――――――」
「メッキ液ベースのカクテルもありません」
「クックック……天丼も程々にするべきですよ、幽玄さん」
「それはそう。でも、黒服さんにお笑いのセンスがあるとは思わなかったな」
「クックック……酷いですね」
カラン、と乾杯の音が薄暗い室内に鳴り響く。
少年と異形の大人。あべこべな二人の男たちの夜は、静かに緩やかに、ほんの少しのユーモアが添えられて、過ぎていくのであった。
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「ムクロ……」
先生としてキヴォトスに赴任してから、ずっと隣で支えてくれた少年を思う。
ミステリアスで、儚げで、優しい男の子。書類仕事を手伝ってくれて、不良生徒の鎮圧にも手を貸してくれて、一緒にプラモデルを買ってはユウカに叱られて…………。
付き合いは短いけど、思い出は山ほどある。こっちの無茶には怒るくせに、自分はいっつも無茶ばっかり。こっちの心配も知らないで、「僕は平気だよ」なんて言って誤魔化す悪い子。
これからも、ずっと一緒に頑張っていくんだと思ってた。
一緒に生徒たちを支えて、卒業まで見届けて、「教師と生徒は、ずっと一緒には居られない」そんなことは分かっていたけど、きっとムクロは私といることを選んでくれるんだって心の何処かで思ってた。
そんな彼が、突然いなくなった。退部届だけがデスクに置かれたままで。
モモトークの返信も帰ってこないし、通話も繋がらない。彼は忽然と消息を絶った。
いきなり私の世界から彼は姿を消して、怖かった。寂しくて、心細くて、涙が溢れそうだった。
けど、私は先生だから、泣くことは出来ない。それに、私よりも取り乱している子も沢山いる。
早く、早く見つけないと。
怖いよ、寒いよ……君のいないシャーレのオフィスは、とても無機質に感じてしまうの。
世界から色が消えてしまったみたいで、すごく恐ろしい。
どうか、どうか……お願いだから……。
私がおかしくなってしまう前に、私のところに戻ってきてよ、ムクロ……。
「私を一人にしないで……」
私と一緒にいてくれるなら、なんだってするから。
主人公 幽玄ムクロ
死んだと思ったらキヴォトスに来ていて、しかもなんか不死身になってた。
耐久力は前世と同等なので、普通に身体に穴が空いたりする。純粋な戦闘力は一般モブ以下。
ただ、戦闘IQは高く、自分に有利な状況に持っていくのが得意。だけど一人だと戦闘力ミジンコなので、キヴォトス人相手だと碌に戦えない。
(不死身の能力をフルで使えば話は別。でも痛いのも怖いのも嫌なので、そんなことはしない)
前世の死因は服毒自殺。