多分、2話ほどの長さになると思います。
結局、ミサキの拘束を抜け出すことは出来ず、先生に捕まってシャーレに連行された。
そうして押し込められた一室は、まるで取調室のようであり、両手にはヴァルキューレから拝借してきたであろう手錠が嵌められて椅子と繋げられている。手錠を外せたとしても、外にいるであろう幾人もの生徒たちから逃げおおせることは出来そうにない。
そんな部屋の中には、先生と僕の二人きり。
「ねぇ、ムクロ?色々と聞きたいんだけど、いいかな?」
「うん。いいよ」
これはもう、諦めるしかなさそうだね。全てを話してしまえば、きっと先生も…………。
「なんでシャーレを抜けようとしたのかは、ミサキから聞いてる。ムクロは、シャーレに自分は必要ないと思ったんだね?」
沈黙を保ったまま、頷く。
「……これまで、私はずっと目を逸らしてた。だけど今日は、私も向き合ってみせる」
「――――ムクロは、どうして死にたいって思うようになったの?」
何故、僕が死を渇望するようになったのか。
如何にして、僕は自分自身に生きる価値ナシと判を押すようになったのか。
もう、逃げられない。逃げ続けることなど、出来ない。
ならば、今一度思い起こすとしよう。
この悍ましい人間の半生を――――――――。
~~遡ること、約10年前~~
母は、可哀想な人だった。愛した男から見放され、心を壊してしまった。
父親のことは詳しくは知らない。ただ、僕が生まれて直ぐのこと――――――――母は、久しく顔を見せていない父が家に帰って来たことに喜び、父親との間に生まれた子……僕を抱えて、彼に見せたらしい。すると――――――――
『な、子供を作ってやがったのか!?ふざけんな!!』
そう言って家を飛び出して行き、二度と姿を見せることはなかったという。
そもそも、彼らは籍を入れた夫婦という訳では無かったのだ。父親からすれば、一夜の関係……あるいは、都合の良い女だとでも思っていたのだろう。
それから母は心を壊し、愛した男に裏切られたのは全て子供のせいだと考えるようになった。
そうしなければ、己の心を保っていられなかったのだろう。母は、僕を殴りつけ小間使いのように扱った。ほんの少し機嫌を損ねれば、拳が飛んできた。火のついたタバコを押し付けられたこともあった。
けれども、僕は死ぬことはなかった。それは、僅かに残った母の愛情によるものなのか。あるいは、僕が死からも嫌われていたからなのか。今になっても、それがどちらであったかは分からない。
そうして、僕がおおよそ8歳ほどになった頃だ。
母は台所から包丁を取り出し、それを握って僕の方に向かってきた。
『どうして………!どうして何も上手くいかないの!?全部、全部あんたのせいよ!!』
確か、このようなことを話していたと思う。
僕は包丁を持っていた母の手を払いのけて、包丁を手放させることには成功したが、母は僕を床に押し倒して首を絞めた。死を目前にした僕は……床に落ちた包丁を握り、母の首を刺した。
母は自分の首を抑えながらのたうち回り、床に仰向けになって転がっていた。そんな彼女の胸に目掛けて4回、包丁を突き刺した。存外人間の体は頑丈であったらしく、一度で体を刺し貫くことは出来かったが、丁度4回目で包丁が深々と彼女の体に突き刺さったことを覚えている。心臓を貫いてはいなかっただろうが、恐らく肺を傷つけることは出来ていたし、大量に出血もしていたのもあるだろう……じきに母は動かなくなっていった。
視点が移り変わる――――――――。
そこは、古びたボロアパートであった。歩くたびに床は軋み、手すりには赤茶けた錆が浮いている。何故、こんな場所にまで赴くことになったか。ここに暮らしている女が、うちから金を借りていたからだ。そうでなければ、わざわざこんな場所に来たいとは思わない。
「おーい!幽玄さん!いるのは分かってるんですよ!?」
返事は帰ってこない。無理矢理にでもドアを開けてやろうか。そう思い、ドアノブに手をかける。
鍵がかかっていない…………?よもや、借金苦から自殺でもしたか?そんな想像が頭をよぎる。
ドアを開いてみる。古い蝶番が、甲高い悲鳴を上げた。
「な…………!?」
そこには、想像を遥かに超える光景が広がっていた。取り立てようとした女は、胸に包丁を突き立てたまま床に横たわっている。周囲には、血だまりが広がって――――血が、奥の方に続いている。耳を澄ましてみれば、シャワーのような音が聞こえた。
まさか……まさか、犯人が犯行現場でシャワーを浴びているなんてことはないよな?
そんなことを考えながら、抑えきれない好奇心に導かれるまま、浴室に向かった。
そこにいたのは、子供だった。
「おじさん、誰?」
「あ?……誰って、お前…………」
言いたいことは、色々あった。だが、予想外の光景に言葉が出ない。
「ああ……おじさん、ヤクザの人でしょ?母さんがこの辺のヤクザから金を借りたっぽいのは分かってたから。多分、おじさんは取立の人かな?」
幼い子供が、一目見ただけで自分の正体を当てて見せた。
いや、そんなことより――――――――。
「居間のやつは、お前がやったのか?」
「うん、そうだよ。殺されそうになったから」
何でもないことかのように、そう言ってのける。自分の親を、殺しているんだぞ?
欠片ほども表情を変えないこの子供に、俺は恐怖した。
「このままいくと、僕は内臓を売られたりするのかな……?それはちょっと困るな。
そうだ!おじさん、僕を雇ってよ?僕は戸籍が無い。そういう人間は、そっちの世界じゃ重宝するんじゃない?」
「いや、それはそうだが……」
何故、そんなことを知っている?俺たちは、あの女に子供がいることすら知らなかった。恐らくこの子供は、この部屋に監禁されていたはずだ。そうでなければ、必ず何処かで問題になって話が広がっているはずだ。
そんな子供が、どうして――――――――。
「パソコンがあったから。今どき、パソコンさえあれば知識は蓄えられる」
俺の内心を読んで、そう言う。末恐ろしい子供だ。
「で?僕を雇ってくれるの?」
「……俺の一存じゃ、決められない。組長に判断を仰ぐ必要がある」
「あっそ。じゃ、その組長さんの所まで連れてってよ」
ここは、断るのが普通の判断のはずだ。だが、出来なかった。
この子供の目が、あまりにも暗く恐ろしいものに見えたからだ。
「………分かった」
「やった」
そうして、俺はこの子供を組にまで連れて行くことになった。
「そう言えば………お前、名前は?」
「名前、名前か………なんだっけ?」
「はぁ?」
「随分と名前で呼ばれることがなかったから、忘れてしまった。……でも、名前が無いと不便だしな………よし!骸にしよう!」
「骸、だぁ?」
「うん。僕は書類上、生まれてすらいない。まるで、生きた死体だ。だから骸……結構、いいネーミングセンスなんじゃない?」
俺は、その言葉を否定することすら億劫だった。
視点は今一度、ムクロに戻る――――――――。
組長に、組に入れてくれと頼んだけど、その時は入れて貰えなかった。
代わりに、裏のホストで働くように言われた。当時は子供だったけど、裏の世界じゃそういう需要もあったらしい。そこでは色々学んだ。笑顔の作り方、酒の注ぎ方、女性の悦ばせ方………学ぶことは多かった。
それから4年ほどは、裏ホストで働いていた。なんだかんだ成り上がって、経営の方にも口を出せるようになった頃、組の方に勧誘された。その時は、敵組織との抗争の真っ只中。一人でも多くの人手が欲しかったのだろう。組長の命令で、刺青は入れなかった。僕の外見上、刺青が無いほうが潜入などで何かと便利だろうという判断からだ。
そうして、僕のヤクザとしての人生が始まった。
どういう話が見たいですか?今後の参考にしたいです。
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原作ストーリーに介入するムクロ
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最終章後のムクロや先生たちの話
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幽玄ムクロの過去(キヴォトスに来る前)