お前のミスでした―――。 作:責任とれやクソボケ
陽の光は葉で遮られ、昼間でありながら不気味さを醸し出す森の奥。
「らくらくお気楽安楽死~~♪」
腐葉土と樹液の匂いが広がる樹海の中を、少年は歌いながらテーマパークを歩き回るような軽い足取りで進んで行った。荷物は小物しか入らないような手提げ袋のみであり、森の奥に進んでいくには少々軽装備であるように思える。
「お、よさげな倒木はっけーん☆」
そう言って、少年は倒木に腰掛けた。
そして手提げ袋からカップとペットボトル、幾つかの薬品と思われる粉の入った袋を取り出した。
「なんだか、ねるねるねるねを思い出すねぇー」
カップにペットボトルから液体を移し、薬品を入れて混ぜながら少年は呟く。
鬱蒼ととした樹海の中、少年は鼻歌を歌いながらカップをかき混ぜる。木漏れ日が少年の顔を照らし、眩しそうに目を細めた。
「よし、完成~!」
カップを掲げて、陽気に宣言する。
「さて、お薬飲めたねーっと」
そして、勢い良くカップの中身を飲み干した。
「うえーにっが……。味も考慮するんだった……」
お口直しー、と呟きながら手提げ袋を漁り、缶ジュースを取り出す。
蓋を開けて、口をつける。一口飲んだ後、次は駄菓子を取り出して袋を開け、口に運んだ。
そしてまた缶ジュースを飲む。
「ふぅ……おいしーかもー」
缶ジュースを飲み干した後、少年は汚れるのも気にせず倒木をベットにして横たわる。
そして、安らかに眠りにつき、少年は二度と目覚めることは無い――――――ハズだった。
「ん………ここは、あの世ってやつかな?」
目を覚まし少年の回りには、古い木箱やドラム缶。足元は、湿った腐葉土から薄汚いアスファルトに変わっていた。風が葉を揺らす音しか聞こえない静かな森の中から、人の作り出す喧騒と銃声や爆発のような音が広がる物騒な裏路地に………あまりの変化に少年は戸惑った。
「なんだか、想像してたのと随分違うね」
自分は日本人だし、あの世があるなら三途の川とか閻魔大王とかみたいなところに行くものだと思ってたんだけど………と少年が考えていると背後から声をかけられる。
「おい、お前!」
振り返ると、三人の少女が立っていた。外見からして高校生だろう三人。しかし、頭の上には見慣れないものが浮かんでいる。その中の一人が銃を突き付けながら語りかける。
「くくくっ………わざわざ言わなくても、分かるよなぁ?」
「もしかして、天使様とかかな?」
「は!?何わけ分かんねぇこと言ってんだ!?いいから金出せよ!!」
「そんなことを言ってもねぇ………この通り、無一文なのさ」
ポケットの内側を見せながらそう言う。
もしかして、渡し賃とかそういうアレかな?それにしても、なんだか現代的なあの世だねぇ。
などと呑気に少年は考えていた。
「その銃、本物かい?アサルトライフルの現物は見たことがないんだ。良ければ、触らせてもらえないかい?」
「ちっ……いい加減にしやがれ!!」
そう言って、突き付けた銃の引き金を引いた。
放たれた弾丸は容易く少年の胴体を貫き、赤い花を咲かせる。
「え…………?」
想像もしていない事態に少女は動揺した。
この世界……キヴォトスの住人は銃を撃たれても怪我すらしない。手榴弾や戦車砲でもせいぜい気絶する程度で済む。だが、腹部から吹き出される大量の血液は、その傷が致命傷であるのだと語っている。
「げほっ……ごほっ…………あの世でも痛いものは痛いんだねぇ………」
「おい、どうなってんだよ!?」
「ちょっと、あいつヘイローが無いんじゃない!?」
「そんな…じゃ、じゃあ殺しちゃったんじゃ……」
三人の不良は慌てふためき、逃げ出していった。
「これが……地獄の刑罰って、やつ…………なのかな……?」
大量の血液を口からこぼしながら地面に倒れ伏す。
だんだんと意識が遠のいていき、少年は気を失った。
次の瞬間、少年の意識は覚醒する。
「あれ………?」
撃たれた箇所に触れる。しかし、傷が無い……痛みも。
夢でも見ていたのか?などと考えるが、服に空いた穴と、服と地面に広がる大量の血液、口に広がる鉄の味と血の匂いが現実であることを証明している。
「何なんだろうね………これは」
混乱した脳内のまま、行く当てもなく少年は歩き出した。
歩きながら考察する。
あれは本物の銃だった……だが、あの反応は何だ?あの動揺……当たると思って無かった?
いや、そうじゃない。あれは僕の重症具合を見て動揺したように思える。それに、「ヘイローが無い」と言っていたか。天使の輪をそう言うんだったよな……だとすれば、あの少女たちの頭の上にあったやつのことを言っているんだろう。ここではヘイローを持っているのが当たり前なのか…?
そもそも、さっきの現象は一体……?遠のいていく意識、熱を失っていく感覚、あれらは夢や幻なんかじゃ無かった。
「はぁ……しっかり死ねたと思ったんだけどなぁ」
天を仰いで、落胆する。
「少し……宜しいでしょうか?」
声をかけられて、そちらを向く。
そこには、スーツを着た異形の存在が立っていた。
身体は影のように暗く無機質。右目にあたる部分が発光し、そこからひび割れるように亀裂が走っているような見た目。おおよそ人間とは思えない存在を前にしながら、少年は平静を保っていた。
「なんだい?」
「クックック……この世界に訪れたばかりであろう貴方に少しばかりの親切を、と思いまして」
「へぇ……そう。それじゃあ、色々教えてくれるんだね?」
「ええ、こんなところでは何ですし、私のオフィスにいらしてください。どうやら着換えも必要なようですしね」
「そうだね、お言葉に甘えさせて貰おうかな」
信用ならない怪しい人物であることは、少年も理解していた。
それでも、少年は提案に乗ることにした。
理由は二つ。一つは、自分があまりにもこの世界について無知であり、今後情報を得られる機会があるとは限らないという合理的なもの。もう一つは、どうせ死んでるんだしどうでもいいや、という半ば自暴自棄とも言えるようなもの。
少年は異形の大人……黒服の後ろについて、彼のオフィスまで足を運んだ。
「では、ご説明しましょう。この世界―――――キヴォトスについて」
黒服は語る――――曰く、キヴォトスとは数千の学校が集まった学園都市である。曰く、キヴォトスとは生徒が銃で武装するのが常識の超銃器社会である。曰く、生徒たちは銃撃や爆破に対する極めて高い耐性を持ち、銃器によって死亡することは滅多にない。曰く――――――――。
黒服の説明を聞き、少年は得心がいった。先ほど自分を撃った少女たちの反応、あれは銃撃によりこちらが死亡するほどの重傷を負うとは思わなかったが故の反応なのだと。
それにしても、あの世でも無いばかりか、こんな滅茶苦茶な世界に来ることになるなんてね。
事実、小説よりも奇なり。なんて言うけど、奇妙が過ぎるでしょ。
「それにしても、貴方の身体は不可思議なものですね」
「ん?僕からすれば、貴方の方が不思議だけど。ホラーゲームに出てきても違和感ない外見だよ、黒服さんは」
「クックック……私が不可思議だと考えたのは、貴方の能力ですよ」
「ま、そうだろうねぇ」
銃撃を受けた時、自分は確かに死んでいたはずなのだから。いやそれ以前に、自分は自ら調合した毒薬を飲んで死亡したはずなのだ。キヴォトスの住人は死ににくいが、決して死なないわけじゃない。だから、この死から蘇る現象はキヴォトスにおいても異常なのだ。
「幽玄さん、良ければ貴方の身体を研究させては貰えませんか?」
「やだよ。解剖とか薬物実験とかするんでしょ?僕は死にたいだけで、痛いのも怖いのも嫌いなんだ」
「クックック……ですが、研究を進めれば貴方の不死の力を無力化する方法も見つかるかもしれませんよ?」
「…………やっぱ、断るよ」
少しの間、逡巡してからそう答える。
この世界は歪だ。生徒たちは皆銃で武装し、頻繁に銃撃戦も勃発する。大人たちの悪意はそこら中に転がり、生徒が食い物にされるのも珍しくない。そんな物騒な世界でありながら、
「ちょっとこの世界に興味が湧いてきたんだ。少しだけ、キヴォトスを見て回ってみようと思うよ」
「そうですか……幽玄さんのご意思を尊重しましょう。しかし、気が変われば何時でもおっしゃってください。何時でも、歓迎致しますよ?」
「覚えておくよ」
「クックック……ええ、覚えておいてください」
会話を中断し、一息つくように黒服に出されたコーヒーを口に含む。
「あっ!」
「どうしました?」
「僕、一文無しなんだった…………。黒服さん、提案なんだけど」
「なんでしょう?」
「僕の血液とか提供するからさ、おこずかいくれない?」
「クックック……構いませんよ」
「はー、良かった。これで何とか生活は出来そうかな……」
幽玄ムクロ 17歳
身体を売る(物理)ことで、なんとかキヴォトスの金を手に入れる。
今後も、黒服との取引はムクロの重要な収入源になるのであった。
下手したら遺言が「おいしーかもー」になっていた男、その名も幽玄ムクロ。
これもう某アル中だろ(暴論)