デジモンアドベンチャー Re:Life   作:ステルス兄貴

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十話 三つ目タグを求めて‥‥

 

 

二つ目の『蒼海のタグ』を求め、ネットオーシャンへとやってきたタイチとミコト。

 

海の賢者・ホエーモンの尊い命と引き換えに託された新たな力『デジヴァイス01』によって、ミコトは自身の弱点だった「癒やしの力の反動」を軽減することに成功する!

 

さらに、ホエーモンの想いを受け継いだゴンが成熟期のイッカクモンへと奇跡の進化を果たし、一行はいよいよタグが眠る深海の最深部へとやって来た……

 

彼らを待ち受けていたのは、海の支配者を名乗る完全体デジモン・マリンデビモンの圧倒的な力だった。

 

しかし、デジヴァイス01を駆使したタイチとミコトの完璧なデータサポート、そしてゼロ丸とイッカクモンの熱き絆のコンビネーションが完全体の壁を打ち破り、強敵マリンデビモンを撃破した。

 

深い闇の底で、タイチたちはついに二つ目の『蒼海のタグ』を手に入れたのだった。

 

二つ目のタグを手に入れ、次なる冒険の舞台で、タイチとミコトを待ち受ける試練とは――!?

 

「ほら、ミコト。お前が諦めずに、自分の弱点を超えてくれたから手に入ったタグだ。お前が持っていてくれよ」

 

タイチの言葉に促され、ミコトは二つ目のタグとなる蒼海のタグを首から下げた。

 

仲間となったゴンやネットサーフ村のデジモンたちと別れを惜しみながらも、一行は次のタグを目指してネットサーフ村を出発した。

 

一行が三つ目のタグを求めてデジタルワールドを旅している時……このデジタルワールドと似て非なる「もう一つのデジタルワールド」を、同じく旅している子供たちがいた。

 

現実世界において子供会で行われたサマーキャンプのキャンプ場から突如としてデジタルワールドへ放り込まれた七人の子供たち。

 

彼らもまた、この世界に来てから過酷な旅を続けていた。

 

全ての始まりは、絶海の孤島「ファイル島」だった。

 

右も左も分からぬまま、襲い来る黒い歯車に操られたデジモンたち。

 

そして、島を闇で支配していた悪魔型デジモン――デビモンとの死闘。

 

仲間たちの力を合わせ、最後は成長期のパタモンが成熟期のエンジェモンへと進化を遂げ、自らの命と引き換えにデビモンを打ち破った。

 

しかし、ファイル島の冒険は長い旅の序章に過ぎなかった。

 

彼らはデジタルワールドに真の平和を取り戻すため、ネットオーシャンを越え、ファイル島よりもさらに広大な「サーバー大陸」へと旅立ったのだ。

 

だが、サーバー大陸で彼らを待ち受けていたのは、ファイル島とは比較にならない絶望だった。

 

大陸の支配と選ばれし子供たちの抹殺を目論む完全体デジモン――エテモン。

 

陽気な猿の姿をしながらも、その実力は流石完全体と言うべきか、子供たちの成熟期デジモンとは圧倒的な差があった。

 

エテモンの作戦は用意周到で、張り巡らされた「ダークネットワーク」によって子供たちの動向は常に監視され、強力な一撃の前に幾度も敗走を余儀なくされた。

 

完全体のエテモンに対抗するためには、デジヴァイスと対になる「タグ」、そして各地に隠された「紋章」を見つけ出し、パートナーを超進化させるしかない。

 

砂漠を奔走し、ついに自分たちの紋章を手に入れた子供たち。

 

中でも、仲間を引っ張るリーダーの八神太一は、誰よりも早く「勇気の紋章」を手に入れた。

 

しかし、その「勇気」への執着が、最悪の悲劇を生むことになる。

 

「早くアグモンを完全体に進化させなきゃ、みんなを守れないんだ!」

 

エテモンの刺客が迫る中、太一の心に生まれたのは、仲間を守りたいという純粋な願い――そして、それ以上に肥大化した「焦り」と「慢心」だった。

 

アグモンに無理矢理、食事を過剰摂取させ、自らが命の危険に飛び込んでパートナーの進化を強要する太一。

 

その歪んだ心のデータを受け取ったアグモンは、正しい進化の理から外れ、おぞましい漆黒の咆哮を上げた。

 

「アグモン進化ぁ――……スカルグレイモン!!」

 

現れたのは、肉体と共に理性を失い、ただ破壊の衝動に突き動かされるだけの巨大な骨の竜だった。

 

敵味方の区別なく暴れ回り、周囲を灰燼に帰すスカルグレイモン。

 

その圧倒的な恐怖の前に、太一は己の過ちの深さを知り、激しい後悔と絶望に打ちひしがれるのだった。

 

エネルギーを使い果たし、コロモンへと退化した相棒を抱きしめながら、太一は「正しく進化させること」の難しさと重圧に深く心を閉ざしかけていた。

 

スカルグレイモンへの暗黒進化という拭いきれない心の傷。

 

エテモンの執拗な追撃。

 

砂漠の過酷な環境が、子供たちの心と肉体をじわじわと蝕んでいく。

 

そんな中、ピッコロモンと出会い、厳しい修行を受けた太一とアグモンは再び進化の力を取り戻すことはできた。

 

しかし、エテモンからの脅威は依然として続いており、完全体へ超進化するためには、まだ乗り越えなければならない試練が待ち受けていた。

 

緊迫した空気の中、光子郎はエテモンが使用しているダークネットワークを逆探知し、情報を得ようと試みていた。

 

その時、光子郎のパソコンに一通のメールが届く。

 

『私を助けてくれたら紋章の在処を教えよう』

 

一見すると、敵の罠に見える内容だが、このまま当てもなくサーバー大陸の砂漠を彷徨う訳にもいかない。

 

罠かもしれないが、エテモンの追撃がある以上、子供たちはメールの内容を信じてみた。

 

差出人が示す指示に従って進むと、そこには高石タケルの「希望の紋章」が隠されていた。

 

これによって、メールの差出人が敵ではないかもしれないという思いへと変わる。

 

そして残る紋章……竹之内空の「愛情の紋章」は、メールの差出人を助けた後に場所を教えるとのことだった。

 

しかし、その差出人が捕らえられている逆さのピラミッドの内部に、エテモンが堂々と入って行くのが見えた。

 

このままピラミッドに突入してエテモンと鉢合わせになれば、勝ち目はない。

 

子供たちは近くの洞窟に潜み、エテモンが動くチャンスを待つことにした。

 

近くに敵がいるということで、夜は交代で見張りを立てることになった。

 

太一がアグモンと一緒に焚火の前で交代時間を待っていると、空とピヨモンがやってきた。

 

「太一……交代の時間よ」

 

空は、自分の紋章を手に入れるために仲間を危険な目に遭わせるかもしれないことに罪悪感を覚えていた。

 

しかし太一は、「もし立場が逆だったらどう思う?」と明るく問い返す。

 

そして、此処がデジタルワールド……つまり今の自分たちは血肉の通う人間の姿ではなく、データとなっているせいか、どこかお気楽な様子を見せた。

 

「元の世界に戻った時、この世界で出会ったデジモンや体験した事を覚えているのかしら?」

 

「さあな……」

 

今の体はデータの塊で、元の世界に戻れば、この世界に来る前の血肉が通う生身の身体に戻る。

 

その際、記憶も引き継いでいるのか、空は不安でたまらなかった。

 

当初は甘えん坊なピヨモンに戸惑いや苛立ちを覚えたが、今となっては、ピヨモンは空にとって命を預け合う自分の大切なパートナーとなっていた。

 

そのパートナーとの絆の記憶を失いたくないと、空は強く願っていた。

 

太一と交代し、焚火を見つめつつ交代の時間を迎えると、ヤマトとガブモンが交代を知らせにやって来た。

 

「空、交代だ」

 

「ピヨモン、お疲れ様~」

 

「うん……」

 

「ん? どうした? なんか深刻そうな顔だな」

 

ヤマトは空の様子を見て、彼女が何か悩みを抱えていることに気づく。

 

「ヤマト君は、元の世界に戻った時、此処での記憶や体験が失われると思う?」

 

空は先ほど太一にした質問を、ヤマトにも投げかけた。

 

「……ここでの記憶が失われるか、だと?」

 

ヤマトは空の唐突な問いに少しだけ目を見張り、それからいつものように冷たい夜風を遮るように首元をすくめた。

 

ぱちり、と焚き火の爆ぜる音が、静かな洞窟の入り口に小さく響く。

 

隣に寄り添うガブモンが、ヤマトの顔を心配そうに見上げた。

 

「さあな……オレは学者じゃないし、光子郎みたいにパソコンに詳しい訳じゃないから、データだの何だのって難しいことは分からねぇよ」

 

ヤマトはそう言って、焚き火の傍らにドサリと腰を下ろした。

 

視線は、赤々と燃える炎の奥を見つめている。

 

「だけどさ……」

 

ヤマトは隣のガブモンの頭にそっと手を置いた。

 

もふもふとした毛皮の感触が、彼の手のひらに確かに伝わってくる。

 

「ここで感じた寒さや、腹が減った時のひもじさ……それに、エテモンに追い回されて死ぬかと思った時のあの恐怖。全部、本物だったろう?データの塊だからって、痛いものは痛いし、怖いものは怖いんだ」

 

「ヤマト君……」

 

空は胸元で眠たそうに目をこするピヨモンをより強く抱きしめた。

 

「こいつらと出会って、笑ったり、怒ったり、守り合ったりした。その時に動いたオレたちの心が、元の世界に戻ったからって綺麗さっぱり消えちまうなんて……オレには思えない。もし全部忘れるって言うなら、オレの心は今ここにはないはずだ」

 

ヤマトの言葉は静かだったが、そこには彼がこの過酷な旅の中で培ってきた、仲間とパートナーへの不器用な、しかし絶対の信頼が籠もっていた。

 

「ヤマトの言う通りだよ、空」

 

ガブモンがヤマトの手に自分の前足を重ね、優しく微笑んだ。

 

「僕たちの身体がデータでも、ヤマトたちと通じ合わせた心はデータなんかじゃない。何があっても、僕たちは空たちの心の中に残り続けるよ」

 

「ガブモン……うん、そうだよね」

 

空の瞳に、じんわりと温かいものが灯った。

 

失いたくない。この子の温かさも、この世界でみんなと必死に生きた時間も絶対に。

 

「ありがとう、ヤマト君。ガブモン」

 

「ああ……忘れたくない思い、か……」

 

ヤマトの言葉に救われた様子の空であったが、今度はヤマトが何だかしんみりとした表情を浮かべた。

 

「ん? どうしたの?」

 

空はそんなヤマトの様子が気になり声をかける。

 

「……太一には言ったんだけどさ。俺の両親、離婚してな……タケルはオレの実の弟で、元の世界では別々に暮らしているんだ」

 

「えっ? そうなの?」

 

ヤマトからの衝撃的な告白に空は仰天する。

 

「ああ……ただ、オレの兄弟はタケルだけじゃないんだ」

 

「えっ?」

 

「……妹も居るんだ……タケルの双子の妹……」

 

焚き火の火が、ぱちり、と爆ぜた。

 

空は一瞬言葉を失う。

 

ヤマトとタケルに妹がいる――そんな話は、これまで一度も聞いたことがなかったからだ。

 

「えっ? それじゃあ、このサマーキャンプにヤマト君やタケル君と一緒に参加していたの?」

 

「いや……入院しているんだ……初音島って言う離島の病院に……」

 

ヤマトは淡々と答えたが、その声にはどこか引っ掛かるものがあった。

 

空はその違和感を敏感に感じ取る。

 

「……入院?」

 

「……両親が離婚する時、どちらの姓を名乗るか選択肢があったんだ。オレと妹は経済的な理由から親父についていくことになって親父の姓の『石田』のまま、タケルだけがお袋に引き取られて『高石』になった」

 

「そっか、だからヤマト君とタケル君の名字が違っていたんだ……それで妹さんは大丈夫なの?」

 

「……会っていないんだ……もう一年以上も……」

 

「会っていない?どうして?その子もヤマト君の妹なんでしょう?」

 

「……本音を言うと‥な……怖いんだ」

 

ヤマトは焚き火を見つめたまま、小さく息を吐いた。

 

「怖い?」

 

「ああ……妹……ミコトって言うんだけど、ミコトに接すれば接する程、いつか来る別れの時が……あいつが消えてしまうという現実を突きつけられるのが、物凄く怖くてたまらないんだ」

 

ヤマトは自嘲気味に小さく笑うと、膝に置いた自分の拳を強く握りしめた。

 

妹に対する自分の行為は辛い現実から目を背ける現実逃避であることはヤマト自身も自覚している。

 

それでも目を背けざるを得ない。

 

何時消えてしまうのか分からない妹の存在が、ヤマトを精神的に苦しめている。

 

焚き火の橙色の光が、彼のどこか影のある横顔を深く照らし出す。

 

「ミコトは生まれつき身体が弱くてさ……病院の白いベッドの上でいつも白い天井を見つめて、酸素マスク越しに呼吸をするのがあいつの日常で……それがあいつの世界の全てだった」

 

その告白に、空は何も言わず、ただ静かに彼の隣に座る。

 

ヤマトは気にせずにそのまま語り続ける。

 

「親父は仕事で忙しくて、オレもそんな妹にどう接していいか分からなくて……発作のたびにあいつが苦しそうに息をしているのを見ていると、自分の無力さを突きつけられているみたいで……それでオレ、いつの間にかミコトの顔を見に行くのが、だんだん怖くなったんだ。だからアイツの病室から逃げるように……ミコトの事を忘れるようになっていたんだ……」

 

ヤマトは膝の上で拳を強く握りしめ、爪が手のひらに食い込む。

 

「苦しそうなあいつを前に、励ます事も気の利いた言葉一つ掛けられない自分が惨めで……挙句の果て逃げるように病室を出て、あいつの存在を忘れることで自分の心を保っていたんだ。家族の……自分の妹の存在を忘れようとするなんて最低だよな……オレは兄貴失格だ」

 

張り詰めていた糸が切れたように、ヤマトの背中が小さく震えた。

 

空は、胸に刺さるようなその痛みを共有するように、そっとヤマトの隣に腰を下ろした。

 

「ヤマト君……」

 

いつも冷静で、時には頑固なまでに強がるヤマトが、こんなにも脆い部分を曝け出してくれたことに驚き、そして胸が痛んだ。

 

「だからさ、親が離婚してタケルと離れ離れになった時……オレは誓ったんだ。もう二度と、大切な家族から逃げないって……ミコトの時に何もできなかった分、今度はオレがタケルを……弟を絶対に命懸けで守るんだってな」

 

ヤマトの声が、微かに震えていた。

 

いつも旅の中でタケルを過剰なまでに気にかけ、時には太一とも衝突するほど過保護になっていたヤマト。

 

その頑なな態度の裏には、病弱な妹・ミコトの傍に居てやれず、兄としての責任を果たせなかったと言う、拭いきれない深い後悔とトラウマが隠されていたのだ。

 

「でも、さっきの空の話を聞いて、また思い出しちまった……もし、元の世界に戻れたとして、この世界での記憶が全部消えちまったら、オレはまたあの冷たい病室の前で立ち尽くすだけの、何もできない意気地なしに戻っちまうんじゃないかって……それが、無性に怖いんだ」

 

深く俯いたヤマトの背中にガブモンがそっとその大きな身体を預けた。

 

「戻らないよ、ヤマト」

 

ガブモンは優しく、しかし確信に満ちた声で紡いだ。

 

「ヤマトがタケルを想う気持ちも、会えないミコトちゃんを心配する気持ちも、全部ヤマトの『友情の紋章』の力になって、僕に伝わっている。ヤマトの心は、決して逃げてなんかいない。誰よりも優しくて、強いよ」

 

「……ガブモン」

 

ヤマトは隣のパートナーを見つめ、張り詰めていた肩の力を少しだけ抜いた。

 

空は夜空を見上げ、砂漠の冷たい風を頬に受けながら、静かに口を開いた。

 

「ヤマト君。ミコトちゃんはね、きっと待っているよ。ヤマト君がこの世界で一生懸命タケル君を守って、逞しくなって帰ってくるのを……それに、そんな風に自分を責めるほど、ヤマト君はミコトちゃんのことを大切に想ってきたんじゃないの?」

 

「空……」

 

「だってさ、こんなに不器用だけど、誰よりも傷つくことを恐れないで仲間を想えるお兄ちゃんだもん。記憶がどうなるかは分からない。でも、ヤマト君がここで手に入れた『誰かを守る強さ』は、生身の身体に戻ったって絶対に消えないわ。元の世界に戻ったら、今度はミコトちゃんの手をその強い手でしっかりと握ってあげればいいじゃない」

 

空はそう言って、いつもの母性を含んだ温かい笑顔をヤマトに向けた。

 

胸の中のピヨモンも、小さく「そうだよ、ヤマト!」と鳴いて同意する。

 

ヤマトは一瞬、目を丸くして空を見つめていたが、やがてふっと、憑き物が落ちたような穏やかな笑みを浮かべた。

 

「……ハハ、手厳しいな。やっぱり空には敵わねぇや」

 

ヤマトは頭を掻きながら立ち上がり、夜の砂漠を見据えた。

 

「ありがとな、空。少し、目が覚めたよ。オレが今やるべきことは、お前の紋章を手に入れて、エテモンをぶっ倒すことだ……タケルのためにも、な」

 

「うん。私たちも、絶対に負けられないね」

 

二人は互いに力強く頷き合った。

 

ヤマトたちが、遥か彼方の世界で戦うもう一人の「タイチ」と、その傍らで自分の弱点を超えて笑顔を咲かせている「ミコト」の存在を知る由は、今はまだない。

 

けれど、時空を越えた兄妹の絆は、それぞれのデジタルワールドで確かに彼らの背中を押し、前へと進める力となっていた。

 

「じゃあ、交代だ。空、しっかり休んどけよ」

 

「うん、おやすみ。ヤマト君、ガブモン。見張り、よろしくね」

 

空とピヨモンが洞窟の奥へと戻っていき、後に残されたヤマトとガブモンは、静かに燃える焚き火の向こう――不気味に佇む逆さピラミッドを、決意を秘めた瞳で見つめ続けるのだった。

 

夜が明ければ、宿敵エテモンとの決戦が始まる。

 

それぞれの想いを胸に、選ばれし子供たちの運命の夜が、静かに更けていった。

 

ただこの時、ヤマトたちはまだ知る由もなかった……。

 

遥か彼方の別のデジタルワールドで、もう一人の別の世界の“タイチ”が戦っていることを……

 

そしてその隣で、病室では決して見せなかった笑顔を浮かべる、一人の少女の存在がある事を……

 

もう一つのデジタルワールドで、ヤマトたち「選ばれし子供たち」が旅をして、戦い、悩んでいる中で、ミコトもまた仲間と共に旅をし、戦っていた。

 

大地のタグ、そして蒼海のタグを手に入れたタイチたち。

 

一方、これまで二回に渡って失態を演じさせられているエテモンキーは……。

 

「あの人間たちはタグを二つも手に入れたそうだな?」

 

「は、はい……大変申し訳ございません」

 

デジタルワールドの某所にある、デーモン城。

 

エテモンキーは主たるデーモンに、二回もタグ入手阻止を失敗したことを咎められていた。

 

あれだけ余裕ぶった態度で対処に当たったものの、手持ちの部下たちが全てやられ、五つのタグの内、二つも奪われたのだから、デーモンが不機嫌になるのも頷ける。

 

「あの者たちを相手に少し遊びが過ぎているのではないか? エテモンキーよ……我が超究極体の卵は、近い内にその目を覚まさんとしている。あやつらに我が愛しき子の誕生を邪魔させるわけにはいかんのだ」

 

デーモン城の最奥で蠢く、超究極体が宿る禍々しいデジタマは、少しずつではあるが確実な鼓動を打ち始めている。

 

タイチたちが五つのタグを手に入れデーモン城に乗り込んでくるのが先か。

 

それとも、デーモンの育てているこの卵の誕生が先か。もはや時間の問題である。

 

「お任せください、デーモン様。私は、あやつらの弱点を知っています。今度こそ奴らの息の根を止めてご覧に入れましょう」

 

「その言葉、嘘偽りはないな? もし失敗したら……どうなるか分かっているだろうな?」

 

「は、はい……」

 

「これ以上の失敗は許さん!!今度こそ奴らを抹殺せよ!!」

 

デーモンはそう言い放ち、エテモンキーは事実上最後となる任務へと向かった。

 

一方、デーモン側のそんな事情など露知らず、タイチとミコトは三つ目のタグを手に入れるために次の場所に向かっていた。

 

三つ目のタグがあるという場所は、周囲の集落が全て廃墟と化しており、タイチたち一行が足を踏み入れると、そこにはただ乾いた風の音だけが鳴り響いていた。

 

崩れ落ちた家屋。

 

割れた窓ガラス。

 

誰もいないはずの廃墟なのに、視線だけがどこかから突き刺さってくるような、おぞましい感覚。

 

「此処に三つ目のタグがあるらしい……」

 

「な、何か寂しい場所……と言うか、不気味な場所ですね……」

 

ミコトは思わずデビドラモンの翼に寄り添った。

 

(夜の病院と似た雰囲気がある……)

 

「ああ、何だか今にも幽霊が出そうだな」

 

ガーボも周囲を見渡し、今までになく緊張と不安に包まれた面持ちで感想を述べる。

 

「なーにを怖がっていんのさ、君たち? ボクは、全然怖くなんかないよ~♪」

 

そう言いながら、無理に明るく振る舞って呑気に歩くゼロ丸。

 

その足元に、ゴッ、と何かが触れた。

 

「ん?」

 

ゼロ丸が視線を足元に移してみると、そこにあったのは、干からびたデジモンらしき生き物の死骸だった。

 

「ひぃぃっ!?」

 

あまりの恐怖に、ゼロ丸は石のように固まってしまう。

 

ミコトはそれを見て、ホエーモンの言葉を思い出した。

 

(怪我や病気はある程度治せるけど、寿命は治せない……)

 

(多分、死んだデジモンも生き返らせる事は出来ない……)

 

ミコトは静かに死骸の前に屈み込んだ。

 

「……デビドラモン」

 

「ん? 何だい?」

 

「そこに穴を掘って‥なるべく深く」

 

「えっ? ああ、分かった」

 

デビドラモンがその両腕の鋭い爪を活かして土を掘り返すと、ミコトはそのデジモンらしき生き物の死骸をそっと穴に入れた。

 

そして、デビドラモンと共に土を被せて埋葬した後、目を閉じて両手を胸の前で組んだ。

 

その静かな祈りの様子を、タイチは「ミコトらしいな」と思いながら優しく見守っていた。

 

死んだデジモンの埋葬を終え、再び三つ目のタグを目指して不気味な集落を歩く一行。

 

「ねぇ、ガーボさん。デジタルワールドにも幽霊なんて居るの?」

 

ミコトが何気なくガーボにデジタルワールドにおける幽霊の存在を尋ねる。

 

「正しくデータが抹消されなかった場合、幽霊に変わってしまうたちの悪いモンスターも中には居る……というか、そう噂で聞いたことがあるよ。全く出くわさないことを祈るばかりだね」

 

ガーボの説明に、ゼロ丸の尻尾が落ち着きなく左右に激しく揺れる。

 

「大丈夫か?ゼロ」

 

デビドラモンに声をかけられてハッと意識を取り戻すゼロ丸。

 

「だ、大丈夫だって!!」

 

強がるゼロ丸を余所に、タイチは左腕のデジヴァイス01を弄っていた。

 

「ところでタイチ、さっきから何しているの?」

 

ガーボがタイチに声をかける。

 

「ああ、デジヴァイス01についてもっと色々調べて見たくてな。ホエーモンが言っていただろう。『使い方次第で色んな機能を試せる』って……ミコトも海の中での戦いじゃあ結構いろんな事をしていたからな。それに倣って……ほら」

 

タイチがボタンを押すと、ガーボの腹部に向けて赤外線の光が照射された。

 

「な、何だ!? ゲップ……突然、満腹になっちゃったぞ」

 

「俺がスキャンした食べ物のデータを、アップリンクでお前の腹に送ったんだ。ミコトはヒーリング能力をアップリンクしてゴンに送っていただろう? だから、ハーブやその他の色んなデータをデジヴァイス01に取り込んで、直接転送が出来ると思ってな」

 

「これだと、食料がないときは便利ですね」

 

「だろう?なあゼロ、お前もそう思うよな?」

 

得意げに同意を求めたタイチだったが、ゼロ丸はどこ吹く風といった感じで、持参したデジ肉を口一杯に頬張っていた。

 

「う~ん、そうだけどさ、やっぱりこうやって普通に食べた方が良いよ」

 

「あらら……」

 

「確かにこの方法では満腹感を得られるかもしれないが、『食べた』と言う気にはならないな」

 

デビドラモンもやはり食事をするなら口で食べた方が良いと苦笑する。

 

「でも、薬草のデータはこの先の戦いを見越すと良いアイディアだと思う。それが活用できるならミコトの負担も減る訳だし」

 

と、フォローもいれた。

 

その時だった。

 

どんがらがっしゃ~ん! ばた~ん!!

 

背後の崩れた家屋から、何かが転げ落ちる大きな音が響いた。

 

「な、なんだ!?」

 

「た、タイチ! まさか幽霊じゃないよね!?」

 

「いや、そんな訳ないだろう」

 

タイチは物音がした場所を覗き込んでみると、そこには瓦礫の下で一匹の震え上がった哺乳類型の成長期デジモン――パタモンがうずくまっていた。

 

「や、やめて……憑りつかないで……」

 

「パタモン?」

 

タイチたちは、何とか正気を取り戻したパタモンから話を聞いた。

 

「ごめんね、僕てっきり君たちのこと、幽霊だって思って……」

 

「えっ?私たちが幽霊?」

 

「俺たち人間だぜ?ちゃんと足もあるぞ」

 

「というか、ここに住むパタモンが幽霊だと勘違いしたってことは……」

 

「実際に幽霊が居るってことかな?」

 

デビドラモンの言葉に、再び震え上がるゼロ丸。

 

「パタモン、一体この村で何があったんだ?」

 

「あの丘の上の城に『呪いのモンスター』が移り住んじゃってね、それ以来、村のモンスターたちは呪いに憑りつかれて、殺し合いを始めたんだ」

 

「呪いのモンスター!?」

 

「そうか……だからこの辺りには誰も住んでいなかったんだね」

 

パタモンから事情を聴いて理解したものの、ネットサーフ村の時と違い、集落に住人となるモンスターが居ないとなると、肝心のタグがどこにあるのか手がかりが掴めない。

 

「住人が居ないとなると、タグがある場所も……」

 

「ああ、分からないな……まいったなぁ~……」

 

「あ、あの……」

 

「ん? どうした? パタモン」

 

「一人で居るのは怖いし……ボク、タグの在処を知っているんだ」

 

「なんだって!?」

 

「本当に知っているの?」

 

「うん。案内は任せて!!」

 

パタモンはこの集落の生き残りのようだし、タグの在処を知っていてもおかしくはない。

 

タイチたちはパタモンの案内に従うことにした。

 

だが、パタモンが先頭に立って歩き出した時、ミコトはふと違和感を覚えた。

 

道中、また別のデジモンの死骸が転がっていたのだが、パタモンはそれを一瞥することもなく、まるで石ころでも避けるように無関心に通り過ぎていったのだ。

 

「村の仲間」が殺し合った結果だと言うのに、悲しむ素振り一つ見せない。

 

その違和感に気づいていたのはミコトだけではなかった。

 

デビドラモンが小声でガーボに尋ねる。

 

「ねぇ、ガーボ……」

 

「ん?何だい?」

 

「パタモンの属性って何?」

 

「えっ?パタモンの属性?それは僕と同じ『データ種』だけど?」

 

「ふーん……」

 

ガーボから属性を聞いたデビドラモンは、先頭を行くパタモンをジッと見つめた。

 

やがてパタモンは、集落のはずれにある不気味な古城へと一行を案内した。

 

「此処だよ。この城の奥にタグがあるんだ」

 

(此処にタグがあるとなると、この城にタグを守る完全体デジモンが……)

 

これまでの経験から「タグのある場所=敵の完全体デジモンが居る」と身構えていたミコトは、この城の不気味さよりも、敵の存在に対する緊張で息を呑んだ。

 

一方、ゼロ丸はやはりこうしたホラーな雰囲気が苦手なようで、ガチガチに震えている。

 

ガーボはここぞとばかりにそんなゼロ丸をからかって楽しんでいたが、見かねたミコトがそっと手を繋いだ。

 

「大丈夫……大丈夫だよ、ゼロ丸さん」

 

「う、うん」

 

パタモンの案内は、驚くほどスムーズだった。

 

城の内部は迷路のように入り組んでおり、所々に崩落の危険があるにも関わらず、パタモンは迷うことなく一直線に隠し通路や安全なルートを選んで進んでいく。

 

まるで、最初からこの城の構造を完璧に把握しているかのように。

 

(おかしい……いくら村の生き残りだからって、こんな呪われた城の内部に詳しすぎる……)

 

ミコトの胸の中で、小さな疑念が確信へと変わり始めていた。

 

そして一行はついに、城の最深部にある広間へと辿り着く。

 

その中央の台座に、淡い紫色の光を放つ三つ目のタグ――『幻夢のタグ』が静かに安置されていた。

 

しかし、パタモンの案内で難なくタグを見つけたというのに、ミコトの表情は硬いままだった。

 

(やっぱり、おかしい……タグの番人の完全体デジモンが居ない……そんな筈は……)

 

(まさか……)

 

ミコトは、タイチの傍で耳をパタパタと羽ばたかせながら飛んでいるパタモンを鋭く睨んだ。

 

それを見たガーボが不思議そうな顔で尋ねる。

 

「どうしたの?ミコト。何か浮かない顔しているけど?」

 

「タグが此処に有るのに、番人である敵の完全体デジモンが居ないと思って……」

 

「そう言えば……もしかして敵の完全体デジモンも、呪いのモンスターにやられたのかもね」

 

ガーボは呑気にそう推測したが、ミコトはパタモンへ向けて静かに、しかし冷たい声で問い詰めた。

 

「ねぇ、パタモン」

 

「ん?何かな?」

 

「貴方はどうして、此処にタグがある事をあんなにも正確に知っていたの? それに、まるで自分の家みたいに、罠を避けて迷わず案内できたのはなぜ?」

 

「えっ? そんなの簡単だよ。ボク、昔このお城に住んでいたからだよ」

 

「どうしたんだよ? ミコト、お前らしくないぞ」

 

普段の優しいミコトらしくない、まるで敵を尋問するような態度に違和感を覚えるタイチ。

 

「ふーん……そう‥それなら、これはどう言う事かな?」

 

ミコトは自身の左腕にあるデジヴァイス01の画面を、みんなの前に突き出した。

 

そこに表示されていたのは、『パタモン』の名前ではなく、全く別の名前だった。

 

ミコトのデジヴァイス01の画面に表示されていたデジモンの名前は‥‥

 

『バケモン』

 

それを見て、タイチ、ガーボ、ゼロ丸が驚愕する。

 

「っ!?」

 

「バケモン!?」

 

「パタモンじゃないのか!?」

 

「これ、この城に向かっている時に、パタモンをこっそりスキャンしたデータなんだけど?」

 

ミコトはデジヴァイス01を握りしめ、冷徹な目で「パタモン」を見据えた。

 

仲間の死骸を見ても一切動じない冷酷さ、城の内部を完全に把握している不自然さ、そして、番人となる完全体デジモンがいないという最大の矛盾。

 

その全てが、一つの答えを導き出していた。

 

「パタモンをスキャン?」

 

「どうしてそんな事を?」

 

「城に入る前、デビドラモンが教えてくれたの‥‥」

 

「ガーボから聞いたぞ。本来パタモンは『データ種』のデジモンだと……でも、お前からは僕と同じ『ウィルス種』の波動を感じた。だから、ミコトに『パタモンをデジヴァイス01でスキャンしてくれ』って頼んだんだ」

 

デビドラモンが低い声で唸る。

 

「そうか、デビドラモン。君がさっき、パタモンの属性を気にしていたのは、そういうことだったんだね」

 

「それ本当!?」

 

「それじゃあ、やっぱり……」

 

タイチは振り返り、パタモンを睨みつけた。

 

「ククククク……バケケケケケケ!!!」

 

突如、パタモンの愛らしい声が、低く不気味なノイズに塗れた笑い声へと変わった。

 

表情も口元をニヤリと不気味に歪んだ笑みを浮かべ、目つきも嫌らしい目つきを浮かべている。

 

「ククククク…バケケケケケケ!!!よく見破ったね、小娘。ケケケケ!!オレ様の演技は完璧だった筈なんだけど、やっぱり同じウィルス種のデジモンが居るとバレちまうか‥‥」

 

パタモンの目が赤黒く怪しく光り、その体がドロドロと溶けるように崩れ落ちる。

 

そして次の瞬間、頭からすっぽりとボロボロの白い布を被った、幽霊型デジモン――バケモンへと姿を変えた。

 

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