見事三つ目の『幻夢のタグ』を手に入れ、絆をさらに深めたタイチとミコトたちは、旅の途中で風変わりな町、『STAR CITY』へと辿り着いた。
そこは、自称・銀河系No.1スーパースターの「スターモン市長」が治める、自己主張の激しすぎる町だった。
しかし、ヴァンデモンを倒したタイチたちの噂を聞きつけた町のデジモンたちは、市長を完全に無視してタイチたちを「ニュースター」として大歓迎!
これに激怒したスターモンから、真のスーパースターの座を賭けた理不尽な『スターバトル』を挑まれることに。
始まった勝負は、まさかの「歌」 「愛嬌」 「鬼ごっこ」というおかしな種目ばかり!
ゼロ丸の物理的な音波兵器と化した破壊的歌声や凶悪な変顔が炸裂し、さらにはタイチの戦闘ノートの余白にあった「サインの練習」データが誤ってアップリンクされるという前代未聞のアクシデント(?)まで発生した。
しかし、そのドタバタの末にスターモンたちとの勝負に見事勝利を収めるのだった。
敗北し、自信をなくして市長引退まで口にしたスターモン。
だが、ミコトやタイチたちの「本当のスターは周りのみんなを笑顔にする存在だ」という温かい言葉に目を覚まし、町の仲間たちとの本当の絆を取り戻したのだった。
すっかり和解したスターモンの大歓待を受け、お腹いっぱいのご馳走とハーブを補給した一行。
タイチから新しい戦闘ノートをプレゼントされたミコトも決意を新たに次なる目的地を見据えていた。
美味しい食事と笑顔に満ちた夜が明け、次なる四つ目のタグを求めて出発するタイチたち!
果たして、彼らの前に立ちはだかる新たな試練とは――!?
その頃、タイチたちが目指しているデーモン城では‥‥
城の主であるデーモンの前で平謝りしているエテモンキーの姿があった。
五つのタグの内、すでに半数以上のタグ‥三つもタグが奪われた。
このままでは残る二つのタグも取られてしまうのではないかと言う思いがデーモンの中にあった。
「またもや失敗か、エテモンキー‥‥」
「は、はあ。え、えーと…あの者たちは毎回戦うたびに強くなっているようであります。これは大変イレギュラーな事で、私の作戦が失敗に終わっているのはそのせいかと‥‥」
もはや言い訳にすらなってない言い訳を惨めたらしく繰り返すエテモンキー。
「言い訳は無用だ…あの者たちを相手にわざと遊んでいるのではあるまいな?」
「えっ?な、何の事でしょうか?」
「とぼけるな!!」
デーモンの翼から二つのビームがエテモンキー目掛けて発射された。
「うわ!!何をなさるのですかデーモン様!?」
エテモンキーはその素早い身のこなしでデーモンのビームを躱す。
「ワシを甘く見るなよ?エテモンキー‥‥これまでの失敗はお前の命で払ってもらおうか?」
すると、デーモンの背後からデビモンと緑色の鬼の様な姿をしたデジモン‥オーガモンが姿を見せる。
二体のレベルは成熟期‥‥
普通に戦えば完全体のエテモンキーに勝てる筈もない。
しかし、デーモンはこの二体のデジモンをエテモンキーの粛清にけしかけた。
「ダークスピリッツ!!」
当然エテモンキーも反撃をする。
「ぐはっ!!」
「がはっ!!」
エテモンキーのダークスピリッツを受けて吹っ飛ばされるデビモンとオーガモン。
完全体デジモンにいくら二体とは言え、成熟期クラスのデジモンが太刀打ちできる筈もなく、デーモンに対して何とか信頼を取り戻そうと言葉を紡ぐのに必死なエテモンキー。
「どうです?デーモン様!?私が居なくなると困るのはあなた様の方だと思われますが?」
「くくく‥‥浅はかなサルよ。貴様の考えをワシが気づかんとでも思ったか?」
「なにっ!?」
「お前はもう‥用済みだ」
「なんだとぉ~」
最後に発したデーモンの言葉が信じられずエテモンがそう聞き返すと、奥の方からコツコツコツと足音が聞こえてくる。
そしてその足音の方から声が聞こえてきた。
「属種パペットデジモン。必殺技はラブセレナーデとダークスピリッツ、完全体のウィルス種‥‥」
「っ!?」
「それがエテモン‥‥それ以上でもそれ以下でもない」
声の主がエテモンキーの前に姿を現した。
背丈はタイチよりもやや高く、鋭い目つきで狡猾な表情をし、均整の取れた痩せ型の少年がエテモンキーの前に現れた。
「に、人間!?」
エテモンキーはまさかその声の主が人間だと思わず唖然としていた。
本来ならば人間はこのデーモン城に五つのタグが無ければ入れない筈‥‥
しかし、今エテモンキーの前に居るのは紛れもないタイチやミコトと同じ人間だ。
「フフフフ‥‥奴らの戦いぶりを見てな、ワシは理解したのだ。テイマーとはモンスターのポテンシャルを最大限まで引き出せると‥‥故にワシはやつを召喚した。この超究極の卵を育て上げ究極体にまで育てるテイマーを‥‥」
「そ、そんな‥‥」
「来な、遊んでやるよ」
少年が両手を掲げながらエテモンキーに言い放つ。
彼の両腕にはタイチとミコトと同じ型をした漆黒色のデジヴァイス01が装着されている。
「二つのデジヴァイス!?」
少年が二つのデジヴァイス01を掲げると、先ほど自分に襲い掛かって来たオーガモンとデビモンが再び立ち上がり、闘志と殺気をむき出しにする。
「二体を操ろうってか!?こいつは面白い…でもどれだけの雑魚をぶつけたとしても、俺に勝てないのは証明済みよぉー!!」
エテモンキーはもう一度、返り討ちにしてやると言わんばかりに立ち向かう。
「くくく‥‥」
だがそんなエテモンキーの意に介さずその少年は二つの拳を頭上で突き合せた。
そして呟きく‥‥「ジョグレス」と‥‥
するとその少年の目の前に居たデビモンとオーガモンはホログラムとなり、溶け込むようにして中心に吸われていく。
してそこから見たこともない一匹のデジモンが出てきた。
白骨化した悪魔の様な姿で手には長い宝玉がついた杖を持っているデジモン‥‥スカルサタモンだ。
「ネイルボーン」
「うぐああああああ!!」
杖の宝玉から光が放たれ、エテモンキーはその一撃でボロボロになった。
「ふっ、とどめだ‥‥」
少年は瀕死のエテモンキーに止めを刺そうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
もはや後がないと判断したエテモンキーは全てをかなぐり捨てて最後の本音を話す。
「ハァ‥‥ハァ‥‥大したもんだよ、人間ってやつは‥‥あのタイチにミコトもそうだが、人間ってのは計算以上のモノを生み出しやがる‥‥あいつらのバトルは正直見ていて楽しかった‥‥俺がデーモンに協力していたのは人間世界に行く機会を得るため…一回でもいいから人間の子たちと遊びたかった。人間と戦うつもりなんてこれっぽちもなかった‥‥でも、デーモンは違う!!そいつはデジタルワールドを制圧した後、人間界に侵攻するつもりだ!!そいつはお前たちの世界を支配しようとしているんだぜ!!」
エテモンキーはデーモンの野望を包み隠さすに話す。
自分の世界が危険だと知れば眼前の少年もデーモンを見限るに違いないと思った。
しかし、この少年の行動はエテモンキーの予想に反して、
「で?」
「えっ?」
「ヨタ話はもう終わりか?」
と、自分の世界が危険なのかもしれないのに一切態度を変えることはなかった。
「ほ、本当だ!!デーモンは本気でモンスターを使って人間界を支配下に‥‥」
「それがどうしたと聞いているんだ」
「そ、そんな‥‥」
「お前の言うことが真実かどうかなど俺にとってはどうでもいいことだ」
そう言うと少年は両手を真っ直ぐ上に掲げて冷酷に言い放つ。
「真実はたった二つ‥‥一つは間もなく生まれるであろう超究極デジモンを育てるために俺が選ばれたテイマーであるという事実‥‥そしてもう一つが…お前がお払い箱と言う事だ!!」
スカルサタモンの攻撃は再びエテモンキーを襲う。
「うぎゃああああああああああ!!!お、お前‥本当に人間か‥‥?」
この一撃が決定打となり、エテモンキーの身体は粒子となり消滅した。
消滅していく中、少年の言葉がエテモンキーの耳に入る。
「俺は人間以上をめざしている!!」
と‥‥
デーモン城でエテモンキーの粛清と新たな人間の登場が起きていたなんて知る由もなく四つ目の「鋼帝」のタグがあると言われている場所‥‥「メタルエンパイア」に来ていた。
メタルエンパイアの中でもひときわ大きな建物‥‥
その出入り口には『METAL FACTORY』と書かれていた。
「メタル‥ファ‥ファクション?」
「くしゃみかよ。メタルファクター」
「メタルファクトリー!!文字通り鋼の工場だよ!!」
ゼロ丸、タイチの間違いを訂正しこの建物が一体なんの建物なのかを説明するガーボ。
三人の漫才が行われている中、ミコトはデジヴァイス01でメタルファクトリーの電子ロックを解除する。
「開きましたよ」
重苦しい重厚な扉が開き、メタルファクトリーの内部が露になると、
「こ、これはっ!?」
「っ!?な、なにかここでとんでもないことが行われていたみたいだな」
扉の近くでは壊れた機械、身体の一部が機械化したまま死んでいる複数のデジモンたちの死骸があった。
「が、ガーボさん、此処は一体‥‥?」
工場と言うのだから何か製品を作っているのかと思いきや、凄惨な光景にミコトはガーボに此処が一体何の目的で作られたのかを尋ねる。
「ここはモンスター改造工場なんだ」
「モンスターの改造工場!?」
「ああ、より強くなりたいと思っているデジモンを改造できるように建設されたと言われている。ホーリーエンジェモン様はここを閉鎖しようとしたんだけど、デーモンが再び此処を稼働させたみたいだ」
「ってことは、デーモンの奴ここで自分たちのモンスターを改造するつもりなのか?」
「そうみたいだね」
「自分の軍を強くするために自分の部下を人体実験みたいにするなんて‥‥」
すると奥からビーッと警告音が鳴り響き、一体のロボットのようなデジモンが現れた。
「侵入者発見!!侵入者発見!!デーモン軍団以外立ち入り禁止!」
「なんだ?こいつは!?」
「タグの番人か!?」
タイチとミコトがすかさず出現したデジモンのデータをスキャンする。
「違う、こいつは完全体じゃない!!」
「メカノリモン‥成熟期、マシーン型デジモン。ウィルス種」
「マシーンと言う事は、外皮は金属で堅い‥ならば、トリケラモンのデータで、アップリング!!」
「Ok!!タイチ!!外側がダメなら内側のピンポイントを崩す!!!」
ゼロ丸は目の部分目掛けて、ブイブレスアローで的確に突き、メカノリモンを簡単に斃した。
「成熟期でマシーン型デジモン‥‥それにメタルファクトリーってことは此処の完全体デジモンも機械型なのかな?」
メカノリモンとメタルファクトリーと言う立地から此処のタグの番人もマシーン型デジモンなのではないかと予測するミコト。
「どんなデジモンだろうとどんとこい!!さあ、タグを渡せ!!」
ゼロ丸が意気揚々と完全体デジモンを待つ。
すると、
「幻竜型デジモン。必殺技はブイブレスアロー、ワクチン種の成熟期‥それがブイドラモン。もう一体は邪竜型デジモン。必殺技はクリムゾンネイル、ウィルス種の成熟期‥デビドラモン‥‥それ以上でもそれ以下でもない」
人間の声がしたと思ったら、デーモン城でエテモンキーを粛清したあの少年がタイチたちの前に姿を現した。
彼の声と姿を見て、タイチの顔付きが変わる。
その顔つきは、ただの初対面の相手に向けるものではなかった。
「お、お前はっ!?」
「フフ、久しぶりだな、タイチ」
タイチはその声、その顔立ち、そして何よりその冷酷で底知れない瞳に見覚えがあった。
絶対に、見間違えるはずがなかった。
「まさか……お前は……彩羽ネオ」
「えっ?知っている人ですか?」
「ああ、俺の世界に居る、俺が良く知る最強のテイマーだ」
タイチがミコトたちにネオが誰なのかを説明する。
彩羽ネオ‥タイチの居る現実世界においえてデジモンバトルの大会、「D-1」グランプリチャンピオンにして、タイチ同様一度も負けたことがない凄腕の天才テイマー。
D-1グランプリとはタイチの住んで居る現実世界で行われている育成ゲーム「デジモン」を使ってのモンスターバトル大会であり、ネオに勝ったテイマーはまだ一人も居なかった。
タイチも自分の世界ではテイマーとしてこの大会出場‥そして優勝を目指してこれまでデジモンを育てて来た。
しかし、いざ大会当日の受付検査でゼロ丸は規格外のモンスターと判断され、受付で失格を食らい大会に参加できなかった経緯があった。
「その人がどうして此処に?」
「ホーリーエンジェモン様が呼んだのかな?」
そんな天才テイマーがなぜこの世界に現れたのかと戸惑うミコトとガーボ。
「きっと俺たちに力をかしてくれるんだよ!!そうだろう?ネオ。一緒に戦ってくれるんだろう?」
対してタイチはきっと自分たちと同じように一緒にデーモンと戦ってくれるのだろうとネオに同意を求めた。
しかし、ネオの答えはタイチの予想とはまるで違っていた。
「フフフ…戦う‥か‥‥確かにそれは間違っていないな。だが、俺が戦いを挑むのはお前一人だ!!タイチ!!」
「ええっ!!」
ネオの発言に驚くタイチ。
しかし、間髪入れずに事態は動く‥‥
「グォォォォー!!」
雄叫びと共に恐竜と機械を混ぜたようなデジモン‥‥青いメタルグレイモンが姿を現した。
「メタルグレイモン‥‥」
「こいつがタグを守る完全体‥‥」
「ネオ、どういう事だ?」
「俺はデーモンから超究極体デジモンを育成する権利を得た」
「なにっ!?」
「これはテイマーにとって最高の名誉だ。誰も見た事の無いモンスターを育てられるのだからな」
「ふさげるな!!そんな事をすれば世界が滅茶苦茶に‥‥」
「で?」
「えっ?」
「無能な弱者が滅びて新たなる秩序が生まれる‥それだけの事だ」
「何だと!?」
どこまでもタイチたちの言うことなど意に介さないネオの様子にマジ切れのタイチ。
「タイチさん、落ち着いて。完全体とのバトル前に冷静さを失ってはダメです」
激高し、今にもネオに掴みかからんばかりの勢いだったタイチの腕を、ミコトが両手でしっかりと握りしめて引き止めた。
その真っ直ぐで心配そうな瞳に見つめられ、タイチはハッと我に返る。
(そうだ……俺が熱くなってどうする。テイマーが冷静さを失えば、モンスターは本来の力を発揮できない……!)
「……すまんミコト、助かったよ」
タイチは深く息を吐き出すと、己の内に渦巻く怒りを闘志へと変換し、ネオを鋭く睨み据えた。
「ネオ……お前が世界をどう思おうが勝手だ。だが、俺たちはこのデジタルワールドを、そして仲間たちをデーモンの野望から護るために戦っている!お前の思い通りにはさせない!」
「フッ……相変わらず青臭いセリフだな。だが、その青臭さが盤面(バトル)では命取りになる。それに面白いバトルをしてくれると思うぜ、此奴は‥‥さあ、まずはどっちからデリートされたい?」
「俺からだ!!お前が間違っている事を俺とゼロで証明してやる!!」
「くくく‥‥いいだろう。行け!!メタルグレイモン!!」
ネオは冷笑を浮かべ、黒いデジヴァイス01をメタルグレイモンへと向けた。
「お任せください。ネオ様。あの頃の俺とは違うと言う所をお見せしましょう!!」
(あの頃?このメタルグレイモン、この人を知っているの?)
メタルグレイモンのこの発言を聞き違和感を覚えるミコト。
タグの番人はあのエテモンキーが配置した筈でこのメタルグレイモンもその一体の筈‥‥しかし、今の発言からこのメタルグレイモンは何だか最初からネオを知っているかのような口調であった。
メタルグレイモンはゼロ丸目掛けて左手のトライデントアームで襲い掛かってきた。
「ゼロ、トライデントアームを躱し、その隙に奴の脇腹にマグナムパンチだ!!」
「ふっ、かかったぞ、メタルグレイモン。身体を捻って尻尾で攻撃だ」
「ぐはっ!!」
メタルグレイモンの尻尾がゼロ丸の腹部へと叩きつけられる。
「ゼロ!!」
「すかさず連打だ!!」
メタルグレイモンの右手の拳と左手のトライデントアームの突きをゼロ丸に叩き込む。
(くくく‥‥すべてのデータをスキャンして弱点を丸裸にしてやるぜ)
「相手のモンスターにもテイマーが居るから…成熟期と完全体の実力差を埋め合わせる方法はないのか!?」
「そこはタイチさんとゼロ丸さん次第だけど‥‥」
「一旦態勢を立て直せ、ゼロ!!」
タイチはゼロ丸を後退させようとするが、
「逃がすか!!」
「はやい!!」
メタルグレイモンは右手でゼロ丸を掴み、よりダメージを与える左手のトライデントアームでゼロ丸を殴りつける。
ドサッと音を立ててゼロ丸は工場の床に叩きつけられる。
「勝てる!!勝てますよ!!ネオ様!!俺は負けない、もう「ゴミ」ではないのです!!」
狂気じみた様子で自身の勝利を確信するメタルグレイモンに対してミコトの違和感は益々増し、タイチもこのメタルグレイモンの様子にただならぬ気配を覚える。
「タイチさん。あのメタルグレイモンの様子‥変じゃありません?」
「あ、ああ‥何かおかしな‥あのメタルグレイモン」
ミコトとタイチがメタルグレイモンに違和感を募らせると、メタルグレイモン自身がその違和感の原因を語り始める。
「メタルグレイモン!!貴方の言う『ゴミ』ってどういう意味なの?」
(タイチさん、今の内にゼロ丸さんにハーブデータのアップリングを‥‥)
ミコトがタイチのデジヴァイス01にメッセージを送り、時間稼ぎを含めてメタルグレイモンに質問する。
「ハハハ‥‥小娘、いいだろう?冥途の土産に教えてやる。俺はかつてネオ様に育てられていたグレイモンだった」
「なっ!?」
「何だって!!」
「ネオに育てられたモンスター‥‥」
「そうだ!!ネオ様は俺を育てて強くしようとした。でも俺の勝率は上がらず…弱者だと言われて抹消されてしまった。しかし、データの残滓がコンピュータネットワークを放浪し、この世界に辿り着いた!!そこで俺は考えた、もし…俺がもっと強くなれば、ネオ様は決して俺を捨て置かない筈だと。だから俺は自分自身で身体を改造し、このメタルボディを手に入れたんだ!!そして、運命は俺を見捨てなかった!!こうしてネオ様と再会し、共に戦えるようになったのだからな!!」
「メタルグレイモン‥お前、そこまでネオの事を‥‥」
「だから俺は負けない!!負ける訳にはいかないんだ!!」
「メタルグレイモン‥‥」
ミコトは眼前のメタルグレイモンに親近感を覚える。
一度は捨てられ、存在を否定されたにもかかわらず、それでもなおテイマーであるネオを慕い、再び共に戦えることを純粋に喜んでいる。
その一途な想いは、パートナーを信じ、共に歩もうとする本来のデジモンの姿そのものだった。
(この子は、ネオさんのことが本当に大好きなんだ……でも、ネオさんはそんな気持ちを……)
ミコトが胸を痛めている間にも、タイチからの通信を通じてゼロ丸の体内へハーブの回復データが転送されていく。
「シャキーン! 傷が治ってきたぜ! サンキュー、タイチ!!」
立ち上がったゼロ丸が拳を打ち鳴らす。
「よし! 態勢は立て直せたな。行くぞ、ゼロ! 奴の懐に飛び込んでマグナムパンチの連打だ!!」
「おうっ!!」
ゼロ丸は弾かれたように飛び出し、一気にメタルグレイモンとの距離を詰める。
「甘いぞ、タイチ! メタルグレイモン、迎撃‥‥」
と、ネオが指示を出そうとしたその時だった。
ネオは片手に持っていた小型のパソコン端末の画面と、もう片方の腕に装着したデジヴァイス01の数値を交互に見比べ、ピタッと動きを止めた。
(フン。どうやら防御力のデータスキャンは十分な数値が取れたようだな。次は、あのアホ面のブイドラモンがどれほどの火力を持っているか……攻撃力の数値を測るとしよう)
ネオは冷酷な笑みを浮かべ、キーボードを素早く叩く。
そして、デジヴァイス01を掲げ、メタルグレイモンへとコマンドをアップリングした。
(メタルグレイモン。回避も防御もするな。奴の攻撃をその身で全て受け止めろ)
「えっ……!?」
ネオからの指示にメタルグレイモンは耳を疑った。
(ね、ネオ様?)
(どうした?奴の攻撃を受けろ‥‥ブイドラモンのデータを全てスキャンするために‥‥出来るよな?俺の役に立ちたいんだろう?メタルグレイモン?)
(ね、ネオ様の、ご命令とあらば‥‥)
ネオとメタルグレイモンのこのやり取りの隙を突き、
「うおおおおおっ!! マグナム・パンチッ!!」
ドゴォォォォォンッ!!
ゼロ丸の渾身の拳が、メタルグレイモンの腹部にクリーンヒットする。
「グガァァァァッ!!」
装甲のない生身の部分に強烈な打撃を受け、メタルグレイモンは苦悶の声を上げて後ずさる。
(痛い……全身のデータがひび割れ、砕け散るように痛い……ッ!)
しかし、それでも倒れまいと血を吐くような思いで踏み止まる。
(おかしい‥‥さっきはゼロ丸さんが反撃する隙さえも与えなかったのに、今は攻撃を一方的に受けている‥‥)
ゼロ丸はお返しと言わんばかりマグナムパンチの連打をメタルグレイモンのボディに叩き込む。
(耐えろ……! この程度‥‥大丈夫‥‥俺は強くなったんだ!!)
凄まじい衝撃が連続して己の体を破壊していく。それでもメタルグレイモンは決して防御の姿勢を取らなかった。
(これで役に立てる。このくらいネオ様の役に立てられるなら‥‥もう俺は捨てられたくない!!『クズ』には戻りたくないんだ!!)
ネオの役に立とうと、メタルグレイモンは自ら進んでゼロ丸のサンドバッグ状態となる。
「……」
その真っ直ぐで哀れなまでの忠誠心を耳にして、ネオのキーボードを叩く指が一瞬だけピタリと止まった。
ほんのコンマ数秒の静寂‥‥
彼の冷酷な瞳の奥に何がよぎったのかは誰にも分からない。
だが、彼はすぐにまた何事もなかったかのようにキーボードを冷たく叩き始めた。
(此処まで攻撃を受けているのにどうして反撃の指示を‥‥っ!?)
ミコトはメタルグレイモンにどんな指示を与えているのかとネオを見ると、彼はメタルグレイモンの様子など一切見ずにパソコンとデジヴァイス01の画面しか見ていない。
(パソコンにデジヴァイスを見ているだけ‥‥ま、まさかっ!?)
ミコトはメタルグレイモンの不自然な動きとネオの様子を見て何かに気づく。
「とどめだ!!ブイブレス‥‥」
ゼロ丸がメタルグレイモンに留めの必殺技のブイブレスアローを放とうとすると、
「ダメですっ!! タイチさん、ゼロ丸さん!! 攻撃をストップしてください!!」
ミコトの悲痛な叫び声が工場内に響き渡った。
「ミコト!? どうしたんだいきなり!」
技の体勢に入っていたゼロ丸を制止し、タイチが驚いて振り返る。
ミコトは唇を噛み締め、ネオの方を指差した。
「あの人を見てください! あの人、自分のパートナーが傷ついているのにメタルグレイモンの方を一度も見ていない!!パソコンとデジヴァイスの画面ばかり見ています!!」
「なんだと……?」
タイチが視線を向けると、確かにネオは傷つくメタルグレイモンには目もくれず、端末に表示されるグラフや数値の推移だけを食い入るように見つめていた。
戦いに集中していたタイチはネオの行動まで見ている余裕がなく、ミコトが言わなければネオの行動に気づけなかった。
「……数値上昇。打撃の衝撃力、想定の範囲内。やはりブイドラモンの攻撃力はこの程度か」
淡々とデータを読み上げるネオの姿。
「タイチさん! あの人は、ゼロ丸さんの攻撃力をスキャンするために、わざとメタルグレイモンを『的』にしているんです!!」
「なっ……!?」
「ネオさんにとって、あのメタルグレイモンは共に戦う相棒なんかじゃない……ゼロ丸さんのデータを集めるための、ただの『計測器』扱いなんです!!」
ミコトの指摘に、タイチは戦慄した。
テイマーとして、パートナーをあえて傷つけさせ、ただのデータ収集の道具として扱う。
それは、デジモンと共に絆を育んできたタイチたちには絶対に考えられない、あまりにも冷酷な戦術だった。
「……ネオ、お前っ!! 自分を慕ってくれているメタルグレイモンをそんな風に……!!」
タイチの怒号が響くが、ネオは一切悪びれる様子もなく、パソコンの画面から顔を上げた。
「フン、よく気づいたな。だが、それがどうした?」
「ふざけるな! デジモンは道具じゃない!!」
「感情論は無意味だと言っているだろう。コイツは俺のためにデータを集める役割を果たした。ただそれだけのことだ……さあ、データ収集は完了した。用済みのガラクタには退場してもらうとしよう」
「ね、ネオ様‥‥今、何と‥‥?」
ネオの底冷えするような言葉に、メタルグレイモンの巨大な身体がビクンと震えた。
「用済みのデータに存在する価値はない。消えろ、鉄くず」
ネオが一切の感情を交えずにそう告げた瞬間、彼の腕に装着された黒いデジヴァイス01の先端から、対象のデータを強制的に塵へと還す漆黒の『消去(デリート)ビーム』が放たれた。
「ッ……!」
メタルグレイモンはダメージが蓄積しており逃げることも、防御することも出来なかった。
ただ静かに目を閉じ、自分を捨てたテイマーからの無慈悲な一撃を受け入れようとした。
(ああ……また俺は捨てられるのか。結局、俺はどこまで行っても『ゴミ』でしかなかったんだな……ネオ様……)
再び訪れた絶望と死を覚悟したその時、
「させないっ!!絶対に……!!」
「ミコトッ!?」
タイチの制止する声が響く中、ミコトはメタルグレイモンを庇うようにその巨体の前へと飛び出した。
「いけないミコト! それ以上その力を使ったら、君の体が……!」
ガーボが血相を変えて叫ぶ。
彼はミコトが何をするのか察しがついたからだ。
ミコトの持つ『ヒーリング能力』は、対象の傷を癒やしデータを修復する奇跡の力だが、タイチたちはその恐ろしい欠点を知っていた。
それは、治癒する対象のダメージが大きければ大きいほど、ミコト自身の体力を著しく奪い時には彼女自身の生命力さえも危うくしてしまう程の諸刃の剣なのだ。
デジヴァイス01越しでのヒーリングならば幾らかミコトの軽減負担になるのだが、今回は咄嗟の事でデジヴァイス01越しではなく生身のまま能力を使用した。
今のメタルグレイモンは、ゼロ丸の渾身のマグナムパンチを無防備な状態で何発も浴び、データが崩壊する寸前のボロボロの状態でしかもデジモンを消去するビームが迫っていたので、デジヴァイス01よりもそのままで能力を使用した方が早いと判断したのだ。
「やめろ!!ミコト! お前が倒れちまうぞ!!」
タイチの悲痛な叫びも虚しく、ミコトは両手を真っ直ぐに突き出し、その手から眩いさくら色の光を放った。
ズバチィィィィィンッ!!
ネオの放った漆黒の消去ビームが、ミコトの展開したさくら色のバリアに激突する。
「くぅぅぅっ……!!」
凄まじい負荷がミコトの華奢な身体を襲う。
ミコトの視界がぐにゃりと歪み、足元がふらついた。
限界を超えた生命力の酷使により、ツーッと鼻から一筋の赤い血が流れ落ちる。
それでも彼女は、震える足に必死で力を込め、痛みに耐えながら光のバリアで死の光線を完全に弾き返した。
「……チッ、強制消去のコマンドがキャンセルされただと?」
ネオが忌々しげに舌打ちをする。
しかし、ミコトの力はそれだけでは終わらなかった。
バリアとして機能していたさくら色の光は、そのままドーム状に広がり、傷ついたメタルグレイモンの巨体を優しく包み込んだのだ。
「あ、あァ……? な、なんだ?この光は……!?」
消滅の痛みが訪れないことに気づき、恐る恐る目を開けたメタルグレイモンは、自身の体に起きている異変に驚愕の声を上げた。
光が浸透していくにつれ、ボロボロだった装甲の下の生身の傷がみるみるうちに塞がっていくが完全に回復した訳ではない。
しかし、どれも致命傷が完治しているレベルだ。
だが不思議な現象はそれだけではない‥‥強さへの渇望とネオへの執着からウィルス種へと変異し、青黒く変色していた彼の皮膚から、ドロドロとした黒いノイズのようなデータが浄化されていく。
「俺の体が……皮膚の色が……!」
毒が抜けていくかのように、メタルグレイモンの青いボディは、本来のグレイモン種が持つ生命力に溢れた力強い『オレンジ色』へと変化していった。
「すげぇ……メタルグレイモンが、青からオレンジに戻った……!」
ゼロ丸が目を丸くして感嘆の声を漏らす。
「ミコトのヒーリング能力が、奴の傷だけでなく、ウィルス感染によるデータのバグまで浄化してしまったんだ……」
完全に本来のワクチン種としての姿を取り戻したメタルグレイモンは、信じられないものを見るような目で、自分を庇うように立つ小さな背中を見つめた。
「敵である俺を……『ゴミ』と捨てられた俺をどうして助けた……? 傷を癒やし、この淀んでいた心まで……お前は一体……?」
ミコトは肩で荒く息をしながら、ゆっくりと振り返り、メタルグレイモンに向けて優しく微笑んだ。
「よかった……あなたは、ゴミなんかじゃない。ましてや誰かの道具でもない……パートナーを信じて、頑張ろうとしたあなたの心は……絶対に間違ってなんか、ないよ……」
「小娘……」
その言葉を紡いだ直後。
限界を超えてヒーリング能力を行使したミコトの体からガクンと力が抜け、糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
「ミコトッ!!」
タイチが血相を変えて駆け寄り、冷たい工場の床に倒れ込む寸前でミコトの体を抱きとめる。
「ミコト! おい、しっかりしろ!!」
「……ごめんなさい、タイチさん……少しだけ……疲れちゃい、ました……」
ミコトは微かに目を開け、安心したように微笑むと、そのまま意識を手放して、気を失ってしまった。
彼女の顔面は蒼白で、息も絶え絶えの状態だった。
「バカ野郎……無茶しやがって……!」
タイチはミコトをそっと床に寝かせると、ギリッと奥歯を噛み締めた。
自分の体力が奪われることを知っていながら、それでも見ず知らずの敵デジモンの心を救うために身を呈したミコト。
それに引き換え、目の前にいる男は——。
「……フン、くだらない茶番だ。ウィルス種からワクチン種に戻ったところで、俺の集めたデータがリセットされるわけでもない」
ネオの態度は氷のように冷たかった。
むしろ、無駄な感情に振り回されて自滅したミコトを嘲笑うかのような冷酷な視線を向けている。
「ゴミのために自ら体力をすり減らし、倒れるとはな。やはり感情論など無意味だ……まあいい、ブイドラモンの攻撃パターンと最大火力は全てスキャンし終えた。お前たちの底は知れた。もうデータ収集の必要はない」
ネオはパソコンを閉じ、デジヴァイス01を再び真っ直ぐに構えた。
「ネオ……お前っ!!」
タイチはゆっくりと立ち上がった。
その全身からは、これまでに見せたことのないような、静かで、しかしひりつくような激しい怒気が立ち昇っていた。
「お前は……テイマーとして絶対にやっちゃいけないことをした。相棒を道具として扱い、挙句の果てに使い捨てようとした!おまけに、ミコトまであんな目に……!!」
タイチの手の中で、デジヴァイス01が主の怒りに呼応するように激しく明滅を始める。
「絶対に許さねぇ……! ゼロ、行くぞ!! お前の計算(データ)なんかじゃ絶対に測りきれない、俺たちの絆の力で……あの大馬鹿野郎をぶっ飛ばす!!」
「おう!! ボクとタイチの怒り、思い知らしてやるぞ!!」
ミコトの自己犠牲によって命を救われたメタルグレイモンが見つめる中、タイチとゼロ丸の怒りの反撃が始まろうとしていた。