四つ目のタグを求めて「メタルファクトリー」へ辿り着いたタイチ一行は、そこでタイチの世界における無敗の天才テイマー・彩羽ネオと対峙する。
ネオは自らを慕うメタルグレイモンをゼロ丸の能力を測るための「計測器(サンドバッグ)」として非情に酷使し、数値がスキャン出来ると用済みとしてデリートしようとした。
ネオの無慈悲な一撃からメタルグレイモンを救ったのはミコトだった。
彼女は自身の体力を削って限界を超えたヒーリング能力を行使し、ウィルス種だった彼を本来のワクチン種の姿へと浄化するが、代償として倒れ込んでしまう。
仲間の想いを踏みにじるネオに対し、タイチとゼロ丸の怒りは頂点に達する。
しかしネオは、オーガモンとデビモンの二体を融合進化させる「ジョグレス進化」させて、圧倒的な力を持つ完全体ウィルス種・スカルサタモンを誕生させた。
疲労困憊のゼロ丸は必殺の一撃を浴び、ミコトにも死の杖が振り下ろされようとした絶体絶命の窮地——そこへ立ちはだかったのは、ミコトに心を救われたメタルグレイモンだった。
メタルグレイモンは最期の力を振り絞ってスカルサタモンに一矢報い、ミコトはその美しい魂(データ)をデジヴァイス01へと保護する。
その想いを受け取ったタイチとゼロ丸は、怒りと絆の力で限界を突破。完全体であるスカルサタモンを真正面から粉砕した。
敗北してもなお冷徹なネオは、四つ目の「鋼帝のタグ」をタイチに投げ渡し、最後のタグがある「天空樹」での決戦を告げて闇へと消えていく。
満身創痍となったタイチたちは、傷ついた仲間たちを救うため、ガーボの案内で医療の町「ホスピタウン」へと向かうのだった。
「あった!!あそこがホスピタウンだ!!」
ガーボが指さした先にあるのは白を基調とした清潔なドーム状の建物が連なる町——『ホスピタウン』だった。
町の出入り口にも『ホスピタウン』と書かれた看板がある。
「やっと着いたか‥‥」
「ゼロ丸、ミコト、もう少しだからな」
タイチたちがホスピタウンの出入り口まで来るとタイチたちの町への入場を阻止するかのように三体のデジモンたちが出てきた。
「我々はホスピタウン警護隊!!許可なくこの町に入ることは許さん!!」
出て来たのは頭部の皮膚が硬化して甲虫のような殻に覆われた恐竜型デジモン、グレイモン。
上半身が人型、下半身が獣型の半獣半人のデジモン、ケンタルモン。
全身に紅蓮の炎を纏った人型火炎デジモン、メラモンの三体だった。
「俺たちは怪しいモノじゃない。こっちには怪我人が居るんだ!!頼む!!この町で治療させてくれないか!?」
タイチがケンタルモンたちに頼み込むと、直ぐに三体の顔つきが変わった。
「おや?あ、あなた方は……!」
「えっ?何?俺たち何処かで会ったか?」
「お久しぶりです!!タイチ様!!」
「久しぶりってどういうこと?」
突然久しぶりだと言われてビシッと敬意のこもった挨拶をされてタイチたちはタジタジである。
「ボクたちあの時、ホーリーエンジェル城に居たアグモンです!!」
「アグモン?‥‥ああ、あの時の!?」
ケンタルモンに言われて思い出すタイチ。
「進化できてよかったじゃないか!!余りにも様変わりしていたから最初は誰か分からなかったぞ!!」
「我々は進化した後すぐに、様々な町をデーモン軍から守るために派遣されております」
「へぇ~あれからレオはどうしている?まだビシバシしごいていんのか?」
「いえ、レオ様はだいぶ変わられました。厳しさもありますが凄く温かくなられましたよ」
「そんなレオ様も今は進化なさって完全体の『パンジャモン』になられました」
「へぇ~あいつも進化したのか~」
「ちょっとタイチ、世間話をしている場合じゃないでしょう!!」
ガーボから指摘されて現実に引き戻されるタイチ。
「あっ、そうだ!!前の戦闘でゼロとミコトがボロボロになったんだ!!治療できる医者は居るか?」
「医者ですか?それでしたらセントラル病院のジジモン先生が居ます。案内しましょう」
「頼む!!」
ケンタルモンたちの案内でタイチたちはセントラル病院へと向かった。
「なんてひどい傷だ……完全体クラスの攻撃をまともに受けたな!?テイマーの少女も極度のエネルギー消耗とショック状態に陥っている。すぐにバイタルを確認しろ!!」
「頼む……先生、あいつらを……ゼロとミコトを助けてくれ……!」
「心配するな。ここはホスピタウン、我々にはあらゆる傷を癒やす設備と術がある。君も酷い顔をしているぞ、まずはそこのベンチで休んでいなさい」
パタン、と重い扉が閉ざされ、扉の上にある赤いランプが点灯した。
静まり返った待合室に取り残されたタイチは、張り詰めていた糸が切れたように、ズルズルと壁伝いに床へと座り込んだ。
「‥頼むぞ、ジジモン‥‥みんな……」
膝を抱え、震える手でポケットの中の『鋼帝のタグ』を強く握りしめる。
冷たい金属の感触と、消えていったメタルグレイモンの温かい最期の笑顔が脳裏をよぎり、タイチはただひたすらに仲間たちの無事を祈るしかなかった。
やがて、赤いランプが消えてジジモンが処置室から出て来た。
「ジジモン先生!!ゼロは!?ミコトは!?」
「心配するな。事前の応急処置がしっかりとしていたから全員無事じゃ。お前さん、なかなかのテイマーじゃのう」
「無事‥‥良かった‥‥」
タイチはみんなが無事と聞き、一安心する。
「タイチ、心配かけたね」
軽傷だったガーボが戻り、タイチに声をかける。
「ガーボ‥‥ミコトとゼロ丸、デビドラモンは?」
「デビドラモンも、もう直ぐで処置が終わる。ミコトとゼロはまだ治療中だ」
「そうか‥‥」
タイチとガーボは待合室のベンチに座る。
「なぁ、ガーボ‥‥」
「ん?なに?」
「前回の戦いの後で、俺‥決めた事があるんだ」
「なんだい?」
「この先、デーモン‥ネオとの戦いはどんどん激化していく‥‥そんな戦いにミコトをこれ以上巻き込んでいいのか?って‥‥」
「それって‥‥」
「ああ‥ミコトをこのホスピタウンに預けようかと思っている‥‥ミコトの意識が戻ったら、その話をする」
「いいのかい?ソレを聞いたら、ミコトはきっと傷つくんじゃないか?」
「でも、アイツの身の安全を思うと‥‥」
デーモン軍はミコトのヒーリング能力の存在を既に周知しており、その能力を邪魔に思い、ミコト本人を狙い始めている。
このままミコトを旅に連れて行くといずれミコトの命が危ないと思い始めたタイチ。
「‥‥」
「……それでも、あいつが死ぬよりはマシだ」
タイチは膝の上に置いた両手を強く握りしめた。
「あいつはまだ、自分の身を守る術を持たない。もし次も、あんな目に遭ったら…ミコトが目の前で死んだら……俺は……」
ガーボが何かを言いかけたその時、処置室の奥からナース姿のパルモンが小走りでやって来た。
「タイチさん、テイマーの女の子の意識が戻りましたよ。一般病棟のベッドに移しましたから、面会可能です」
「本当か!?」
タイチは勢いよく立ち上がり、ガーボと共に急いでミコトの病室へと向かった。
真っ白なシーツに包まれたベッドの上で、ミコトはまだ少し顔色を悪くしながらも、ゆっくりと身体を起こしていた。
その枕元には、包帯を巻かれたデビドラモンが心配そうに寄り添っている。
「ミコト! 大丈夫か!?」
「あっ……タイチさん、ガーボさんも……ご心配をおかけして、すみません……」
ミコトは力なく微笑んだが、その表情にはまだ戦いの疲労と、ある種の戸惑いが残っていた。
「謝るなよ。無事で本当によかった」
タイチが安堵の息を吐くと、ミコトはふと、思い出したように真剣な眼差しを向けた。
「タイチさん……教えてください。ネオさんが呼び出した、あのガイコツみたいなデジモン……あれは、一体何だったんですか? デビドラモンが一撃でやられてしまうなんて……」
「……あれは『スカルサタモン』。完全体のウィルス種だ」
タイチはベッドの傍らに立ち、慎重に言葉を選びながら答えた。
「でも、タグの番人はメタルグレイモンさんでしたし、最初にあの人が出したのは確か緑色の鬼みたいなデジモンとデビモンの筈じゃあ‥‥」
「ああ。あれは『ジョグレス進化』っていうんだ。二体のデジモンをデータレベルで融合して、より強力な上の世代へと進化する技術さ。ネオは成熟期の二体をジョグレスさせて、たった数秒で完全体を作り出しやがった」
「ジョグレス進化‥‥そんな恐ろしいことが‥‥まさか、デジモン同士を融合進化させる方法があるなんて‥‥」
ミコトは布団を握りしめ、僅かに肩を震わせた。
ネオの冷徹な計算とスカルサタモンの圧倒的な暴力‥その恐怖がまざまざと蘇ったのだろう。
その震える肩を見て、タイチは決意を固めた。
「‥‥それでな、ミコト。お前に大事な話がある」
「なんでしょう?」
タイチのトーンが一段低く、真剣なものに変わる。そのただならぬ空気にミコトもデビドラモンも顔を上げた。
「お前は、ここに残れ」
「えっ……?」
「このホスピタウンなら安全だ。腕のいい医者もケンタルモンたちの警護隊もいる。ここでお前とデビドラモンは身体を休めて、俺たちの帰りを待っていてくれ」
ミコトの目が大きく見開かれる。
「ま、待って、ください。どうしてですか……? 最後のタグがある天空樹には、私も……」
「天空樹には番人の完全体デジモン以外にネオもいるんだぞ!!」
タイチの強い声が病室に響き、ガーボがビクッと肩を揺らした。
「あいつはデジモンを道具としか思ってない。自分の目的のためなら、テイマーである俺たちの命だって平気で狙ってくる……今回みたいなことがまた起きたら、俺は……今度はお前を守り切れる自信がない」
タイチは唇を噛み締め、視線を落とした。
彼の拳がワナワナと小さく震えている。
「お前がスカルサタモンに殺されそうになった時、本当に怖かったんだ。メタルグレイモンを助けたことは、間違ってない。お前の優しさが、あいつを救ったんだって、それは分かっている」
タイチは再び顔を上げ、ミコトを真っ直ぐに見据えた。
「だけどな……それでお前まで消えたら意味がないだろう!?」
それは怒りではなく、心の底からのミコトを失う恐怖と、ミコトを大切に想うからこその痛切な叫びだった。
静まり返る病室。
タイチの切実な本音を受け止めたミコトは、少しだけ目を伏せた。
「……タイチさんは‥優しいですね」
ぽつりとこぼれたその声は、ひどく静かだった。
「でも、それは違います」
ミコトは顔を上げ、タイチの強い視線から逃げることなく、しっかりと見つめ返した。
「私は、守られるためだけにここへ来たんじゃありません。皆と一緒に戦うために来たんです」
「でもお前は満足に戦えないだろ!!」
タイチが反射的に反論する。
しかし、ミコトは全く怯むことなく、はっきりと頷いた。
「はい。私はタイチさんみたいに強くありません。ゼロ丸さんみたいにも戦えませんし、デビドラモンみたいに前に出ることもできません」
自身の非力さを彼女は誰よりも理解し、受け入れていた。
「でも……私にしか出来ないこともあります」
ミコトの胸元で、小さな両手が何かを包み込むように握りしめられる。
「メタルグレイモンさんを助けられたのは、私でした。あの子の心を救えたのも、私でした」
「そ、それは……」
タイチは言葉を詰まらせた。事実だ。あの冷たい絶望の中で、メタルグレイモンの魂に光を灯せたのは、タイチの強さではなく、ミコトの優しさだけだった。
「タイチさん。もし私が、ホーリーエンジェル城に残っていたら、トリケラモンさんは?ディノバレーのデジモンたちは?メタルグレイモンさんは、どうなっていましたか?」
「そ、それは‥‥」
ミコトの静かな問いかけに、タイチは完全に言葉を失った。
「きっと、あのまま消えていました。誰にも信じてもらえないまま……誰にも愛されないまま、自分はゴミなんだって絶望して、真っ暗な中で消えてしまったはずです」
ミコトの瞳から、一筋の涙が頬を伝い落ちる。
「でも、私は助ける事が出来てよかったと思っています。こんなに痛くて苦しくても……私は絶対に後悔していません」
ミコトは涙を拭おうともせず、真っ直ぐにタイチの目を射抜いた。
「だから、私は逃げません……怖いし、痛いのも嫌です。死ぬのも、すごく怖い‥‥それでも、私は行きます。だって……天空樹には、まだ助けを求めているデジモンがいるかもしれないから」
その言葉に宿る強さは、タイチが知るどんな必殺技よりも鋭く、真っ直ぐに彼の胸を打った。
ミコトは胸元で握りしめていた手を開いた。彼女の小さな掌の上には、デジヴァイス01が乗せられている。
「この中には……メタルグレイモンさんがいます。私は、あの子の温かい想いを預かったんです」
デジヴァイスを両手で大切に包み込みながら、ミコトははっきりと言い放つ。
「だから、途中で降りることは出来ません。最後まで見届けたいんです。心を持たないただのデータだなんて……ネオさんが間違っているって、証明したいんです」
病室の窓から差し込む光が、彼女の決意に満ちた横顔を照らしていた。
タイチは、目の前の少女が、自分が思っていたよりもずっと大きく、強い魂を持っていることに気づかされた。
「タイチさんは……私を守りたいんですよね?」
ミコトが、少しだけ表情を和らげ、懇願するようにタイチを見上げた。
「だったら、私を信じてください」
「……ミコト」
「私は弱いです。でも……弱いからこそ、出来ることがあります。だから……私を‥連れて行ってください‥タイチさんが私を守れないと判断した時は‥‥その時は遠慮なく私を見捨てて下さい。私はタイチさんの重荷にはなりたくはありません」
それは、テイマーとしての彼女の魂からの叫びだった。
メタルグレイモンを信じ抜いたミコトが、今度はタイチに「自分を信じてほしい」と突きつけているのだ。
「‥‥」
「‥‥」
病室に長い沈黙が降りた。
タイチは深く息を吸い込み、そして、ゆっくりと吐き出した。
震えていた筈の拳の力がいつの間にか抜け、タイチの顔に、いつもの熱く、頼もしい笑みが戻る。
「……まいったな。お前の方が、よっぽどテイマーとして覚悟が決まっているじゃないか」
「タイチさん……?」
「分かった。お前の負けず嫌いと頑固さは、よーく伝わったよ」
タイチはミコトのベッドに近づき、その小さな頭にポンと手を乗せた。
「分かった。連れて行く‥‥一緒に天空樹に行こう、ミコト」
「……っ!?はいっ!!」
ミコトの顔にパッと花が咲いたような笑顔が広がる。
「その代わり、絶対に俺の側から離れるなよ。お前がピンチの時は、俺とゼロが絶対に守り抜く。お前は、お前にしかできない戦い方をすればいい」
「良かったね、ミコト」
ミコトに寄り添っていたデビドラモンも主の決意を称え、そしてタイチの言葉に同意するように力強く喉を鳴らした。
「ありがとうございます、タイチさん……私、頑張ります!」
傷ついた仲間を癒やす町、ホスピタウン。
そこは身体の傷だけでなく、彼らの心に迷いなく前へ進むための確かな「絆」を刻み込んでくれた。
ネオの待つ天空樹へ‥‥
二人のテイマーは、互いを信じ抜く覚悟を胸に、最後の決戦へと向かう準備を始めるのだった。
タイチとミコトのやり取りが行われている中、病院の外では‥‥
「あれだけの傷を負うとは、かなり激しいバトルをしているのだろうな‥‥ゼロ丸さんたちは‥‥」
ケンタルモンは此処に運び込まれた直後のゼロ丸の傷を見て、ゼロ丸たちの旅の過酷さを窺う。
「今は俺たちもゼロ丸さんと同じ成熟期‥‥しかも三体いる。俺たちの方がゼロ丸さんよりも強いかも‥‥いざとなれば俺たちがデーモンを倒そう」
グレイモンは自分たちが同じクラスでしかも三体いるのだから数の差でゼロ丸よりも実力は上である事を主張する。
「めったなことを言うな!!俺たちがゼロ丸さんよりも強いなんて‥‥」
メラモンはグレイモンを窘める。
慢心は油断となり、自分たちの命を危険にさらす行為だからだ。
ケンタルモンたちは気を引き締めて再びホスピタウンの警護任務に戻った。
「ゼロ丸さんは無事なんですか?」
「ああ、ゼロも無事だ。そろそろ治療が終わるんじゃないか?行って様子でも見てみるか?」
「はい」
タイチとミコトはゼロ丸が居る病室へと向かう。
「それにしても確かにこの病院、傷ついているモンスターが多いですね」
「まぁ、病院の町だからな‥‥」
「いえ、ここ最近はデーモン軍の侵攻が活発化してきていて負傷するモンスターが多いんですよ」
タイチとミコトの疑問を通りがかったナース服を来たピヨモンが答える。
「デーモン軍が‥‥?」
「となると、はやく天空樹に行って五つ目のタグを手に入れないとな」
デーモン軍の侵攻は激しく早い様だ。
はやく五つ目のタグを手に入れてネオとデーモンの野望を止めなければ傷つくモンスターが増え、デジタルワールドの均衡が破れてしまう。
そんな中、
ドガァアン!!
外の方で大きな爆発音が起こる。
「な、なに!?」
「爆発!?」
タイチとミコトは何事かと慌て、もしかしたらデーモン軍が攻めて来たのではと外へ向かう。
「どうした?ケンタルモン!!」
「敵です!!この町にサイクロモンとタスクモンが襲撃してきました!!」
「襲撃!?」
「デーモン軍か!?」
「恐らくは‥‥ですがご安心を!!この町は我々が守ります!!」
「助かる!ゼロはまだ治療中なんだ!!」
すると、身体が緑色で肩から大きな角を生やした恐竜型デジモン‥タスクモンがケンタルモンたちに襲い掛かって来た。
「ホーンドライバー!!」
「ふん、我々の連携を甘く見るなよ!!」
ケンタルモンたちは息の揃った連係プレーでタスクモンを一撃で仕留めた。
流石はホーリーエンジェル城の同期ともいえる見事な連携プレーであった。
「凄いぞ、あいつらチームワーク抜群だ!!」
タスクモンがやられたのだが、兜を被り右腕が左腕よりも発達した黄色い恐竜型デジモン‥サイクロモンは逃げることなくケンタルモンたちへ襲い掛かって来る。
「ストレングスアーム!!」
サイクロモンの両腕が鞭のように伸びてケンタルモンたちを襲う。
三匹ともそれを躱すので精一杯という感じだ。
「腕が伸びている‥‥」
「あれじゃあ、三体とも奴には近づけない‥‥」
恐竜型デジモンの腕が伸びている現象にミコトはやや引き、タイチはあの腕の長さのリーチではなかなかサイクロモンへ接近する事が出来ない事を危惧する。
「殺す!!」
同じ成熟期デジモンながらサイクロモンの殺気と闘気はケンタルモンたち以上である。
「うう‥‥」
「くそっ‥‥」
「なんて闘気だ‥‥」
「ちくしょう!!」
するとグレイモンが態勢を破って攻撃を仕掛けてしまう。
「やめろ!!三身一体のフォーメーションを崩すな!!」
そんなタイチの忠告が耳に届くよりも早くサイクロモンの伸びる腕がグレイモンを捉える。
「ぐっ‥‥」
やはりリーチが有り過ぎるためにサイクロモンには容易に近づけない。
「まずは一匹!!」
倒れたグレイモンにサイクロモンの腕が迫る。
万事休すかと思われた次の瞬間、強烈な音が響き、サイクロモンは後ろに倒れた。
何事かと見てみるとそこにはゼロ丸が立っていた。
「戦闘中に目を瞑るのはよくないよ」
「ゼロ!!」
「タイチ、みんな、ボクはこの通り全快したよ~!!」
ゼロ丸の名前に反応するかのようにサイクロモンは立ち止まる。
「ゼロだと‥‥?」
「ん?随分と殺気立っているな」
「新しい人間の指揮官はエテモンキーよりも遥かに厳しいのでな」
「ネオの事か‥‥!?」
「ネオ?」
「誰だ?」
「エテモンキーから前線の指揮官が変わっていたのか‥‥?」
人間の指揮官と聞いてゼロたちが思い浮かべるのは自分たちの前に立ち塞がったあの人物であった。
しかし、ケンタルモンたちはネオの名前など知らないので一体誰なのだと疑問が湧き上がる。
彼らの疑問に答えるべくミコトが説明する。
「超究極体のモンスターを育てるためにデーモンによって選ばれたテイマーの人です。あの人は、自分のモンスターが役に立たないとなったら一切の迷いもなく抹消しようとする人なんです‥‥」
「戦果を残さなければ、俺が殺される。死ね!!ストレングスアーム!!」
サイクロモンの迫る腕をゼロ丸は余裕で躱して腕を掴みとった。
「ゼロ…町を壊すなよ」
「任せてよ」
その一言と共にゼロは空中にサイクロモンを放り投げる。
「うわぁぁぁっ!!」
そして空中へ投げ飛ばしたサイクロモンに向けて、
「ブイブレスアロー!!」
必殺技を放ちサイクロモンを撃破した。
「つ、強い‥我々と同じ成熟期なのに‥‥」
「やはり、我々よりも遥かに戦闘経験値を積んでいるからなのだろう‥‥」
自分たちが三匹まとめてかかっても倒せなかった敵をゼロはたったの二撃で倒してしまった。
ゼロ丸の強さに改めて敬意を払うケンタルモンたちであった。
「……俺は、なんて思い上がりをしていたんだ」
呆然と立ち尽くしていたグレイモンが、悔しさと恥ずかしさが入り交じった声で呟いた。
「同じ成熟期になって、数も揃っていればゼロ丸さんを超えられるだなんて……実際の戦いでは、全く足元にも及ばなかった」
「ああ……俺たちが手も足も出なかったサイクロモンをゼロ丸さんは正面から一蹴してしまった。これが、タイチ様と共に死線を潜り抜けてきた『本物の強さ』なんだな」
メラモンもまた、自身の未熟さを痛感したように深く頷く。
三体の反省した様子を見て、ゼロ丸は「えへへ」と照れくさそうに鼻の下を擦った。
「そんなに落ち込むことないって! キミたちだって、タスクモン相手には見事なチームワークだったじゃないか。それに、ボク一人じゃここまで強くなれなかった。タイチっていう最高の相棒がいてくれるから、ボクはいつでも100%以上の力を出せるんだ!」
ゼロ丸が振り返り、Vサインを向けると、タイチも嬉しそうに拳を突き合わせて応えた。
「おう!……だけどゼロ、本当に体の傷はもういいのか? スカルサタモンから受けたダメージは相当深かったはずだぞ」
タイチが心配そうにゼロ丸の青い皮膚を見渡すが、焼け焦げていた傷跡は嘘のように綺麗に塞がっていた。
「ジジモン先生の治療とホスピタウンの設備のおかげさ! それに……」
ゼロ丸はチラリとミコトの方へ視線を向け、優しく微笑んだ。
「ミコトがタイチに『連れて行って』って直談判している声、処置室まで聞こえていたからね。あんなにボロボロだったミコトが前を向いているのに、ボクが寝ているわけにはいかないだろ?」
「ゼロ丸さん……」
ミコトはほっと胸を撫で下ろし、嬉しそうに目元を拭った。
その後ろからは、包帯姿のデビドラモンとガーボもゆっくりと歩み寄ってくる。どうやら全員、動けるまでには回復したようだ。
しかし、再会の喜びも束の間、タイチの表情がスッと険しいものへと変わる。
「……それにしても、さっきサイクロモンが言っていた言葉が気になるな」
「ええ……『戦果を残さなければ殺される』……ですよね?」
ミコトが暗い表情で頷いた。
これまでのデーモン軍の指揮官であったエテモンキーも卑劣な手段は使ってきたが、部下のデジモンに対して「成果を出さなければ即座に殺す」といった無機質な恐怖政治を敷くほどではなかった。
「ネオの奴……自分の手持ちのデジモンだけじゃなく、デーモン軍全体に『役に立たないデータは消去する』っていうルールを押し付けているのか‥‥恐怖で縛りつけて無理やり戦わせるなんて‥‥そんなやり方、絶対に間違っている!!」
タイチの拳にギリッと力が入る。
先ほどのサイクロモンの異様な闘気と殺気は、テイマーとの絆から生まれるような熱いものではなかった。
ただ「死の恐怖」から逃れるための、悲痛な足掻きだったのだ。
「ネオさんの目的は『超究極体』による新秩序の構築……もし、あの人の計画が完成してしまったら、このデジタルワールドは、弱いデジモンや役に立たないデジモンが次々と見捨てられ、消去されるだけの冷たい世界になってしまいます」
ミコトは右手でデジヴァイス01を強く握りしめた。
その中には、ネオに見捨てられながらも最期に心を取り戻したメタルグレイモンのデータが眠っている。
「そんな悲しい世界……絶対に作らせちゃいけない」
ミコトの静かで力強い言葉に、ゼロ丸、デビドラモン、ガーボが深く同意するように頷いた。
「ああ、その通りだ……俺たちで終わらせよう。これ以上、ネオの勝手な計算で傷つくデジモンを出させないために!」
タイチが空高く拳を突き上げると、仲間たちの瞳に確かな闘志の炎が灯った。
その様子を見守っていたケンタルモンたちが、畏れ多くも頼もしそうに一歩前に出る。
「タイチ様、ゼロ丸さん。我々も、あなた方の足手まといにならないよう、このホスピタウンの防衛を死ぬ気でやり遂げます。傷ついたデジモンたちは、我々警護隊に安心してお任せください!」
「頼むぜ、ケンタルモン、グレイモン、メラモン! お前たちも立派に戦えていた。自信を持てよ!」
「「「は、はいっ!!」」」
タイチの激励に、三体のデジモンは誇らしげに背筋を伸ばし、最敬礼で応えた。
「よし……行くぞ、みんな!! 目指すは五つ目のタグがある場所……最後の決戦の地、『天空樹』だ!!」
「おうっ!!」
「はいっ!!」
傷を癒やし、決意を新たにしたタイチ一行。
立ちはだかるいかなる絶望のデータも打ち砕く「絆」を胸に、彼らはホスピタウンのデジモンたちに見送られながら、真っ直ぐに天へと伸びる巨大な樹——天空樹へと向かって歩き出した。
天才テイマー・彩羽ネオとの、避けられない運命の最終決戦が、すぐそこまで迫っていた。