デジモンアドベンチャー Re:Life   作:ステルス兄貴

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十九話 もう一人の来訪者

 

 

デジタルワールドの平和を揺るがす、魔王デーモン軍との激闘。

 

聖なる輝きを放つ「五つ目のタグ」が眠る天空樹を舞台に、世界の命運を賭けた壮絶な戦いが繰り広げられた。

 

タイチとゼロ丸を待ち受けていたのは、冷酷なる天才テイマー・彩羽ネオ。

 

ネオはクワガーモンとコカトリモンを瞬時に合体・分裂させる戦術「無限ジョグレス」で完全体メガドラモンを操り、タイチたちを圧倒する。

 

さらにそれだけに留まらず、本来のタグの番人であるジュレイモンをも巻き込んだ「トリプルジョグレス」を敢行。神の領域たる究極体「デスモン」を降臨させた。

 

勝率0%の絶望‥‥しかし、タイチを守り抜くというゼロ丸の熱き叫びが奇跡を呼ぶ!

 

黄金の光と共にゼロ丸は完全体「エアロブイドラモン」へと超進化を遂げ、見事デスモンを撃破。

 

ネオは崩壊する天空樹と共に奈落へと消え去り、タイチたちは最後のタグを手にしたのだった。

 

時を同じくして、負傷したデジモンたちが集うホスピタウンは、死神ファントモン率いるナイトメア・レギオンズの急襲を受けていた。

 

満身創痍の身でありながら、決死の覚悟で防衛戦の指揮を執る少女・ミコト。

 

しかし、狂気の白骨竜スカルグレイモンの圧倒的な暴力の前に、戦況は絶望へと傾いていく。

 

限界の果て、ミコトの左腕のデジヴァイス01が眩く輝いた。

 

かつての強敵・メタルグレイモンの遺したデータとパートナーであるデビドラモンの想いが融合。

 

奇跡の超進化により誕生した暗黒の鋼鉄竜「ギガドラモン」の圧倒的火力(ジェノサイドギア)は、ホスピタウンの襲撃者たちを一掃し、見事に街を守り抜いた。

 

互いに激闘を終え、ホスピタウンの病室で涙の再会を果たしたタイチとミコト。

 

お互いの「覚悟」が起こした奇跡を称え合い、二人のテイマーと二体の完全体デジモンは、より固い絆で結ばれることとなった。

 

ジジモンやピヨモンたちに見送られ、一行はついに最終決戦の地へ向けて歩みを進める。

 

奈落へ落ちてもなお、生き延びて牙を研いでいるであろう宿敵・彩羽ネオ。

 

そしてその背後に君臨する巨悪・魔王デーモン。

 

フォルダー大陸の未来を懸けた最後の冒険が、今、幕を開ける――!

 

 

タイチたちが五つ目のタグを手に入れ、いよいよデーモンの根拠地であるデーモン城を目指している中、ホーリーエンジェル城ではある報告が齎される。

 

「緊急事態発生!!緊急事態発生!!」

 

ホーリーエンジェル城の主たるホーリーエンジェモンの王座に一匹の連絡用のパタモンが駆けつけてきた。

 

「どうしたのだ?天空樹でのことならとうに我々にも伝わっておるぞ!」

 

「いえ、そのことでは御座いません!!デーモン城に潜入中のイガモンより報告!!」

 

「何だ?」

 

「『超究極の卵が生まれかけている』と!!」

 

「「「何だと!?」」」

 

遂にホーリーエンジェモンたちの予期していた最悪の事態が目前に差し迫っていた。

 

イガモンからの報告はホーリーエンジェル城内にどよめきが走った。

 

そんなホーリーエンジェモンたちの危惧は正に今このデーモン城で現実になる。

 

デーモン城内にある育成室にある一つのデジタマが産声を上げようとしていた。

 

「中枢から凄まじいエネルギーの波動が溢れ出しています!!」

 

「す、凄い…ゲージが…」

 

「20000…30000…50000…データ数値がメーターを振り切っている!!もう制御装置が壊れます!!」

 

そして遂に……デーモンの育ててきたデジタマは凄まじい閃光を発し爆発する。

 

閃光と煙の名から出て来たものは……四本の糸で釣られた六本足の禍々しい幼虫型デジモンであった。

 

「ギギ……ギチギチギチ……」

 

新たに生まれたデジモンの姿を見たデーモンがようやくこの瞬間が来たかと悦ばずには居られなかった。

 

「フフフ……遂に生まれたか…この世界を破壊する超究極体が……ハハハハハ……ハーッハッハッハッハ!!!ハーッハッハッハ!!!」

 

そんなデーモンと生まれたばかりのデジモンの姿を物陰から見ていた者が一人いた。

 

「フっ…遂に生まれたか…」

 

その人物は口元を緩めつつ一言呟くのであった。

 

一方、デーモン城目掛けて出発したタイチたちは次々に襲い掛かって来るデーモン軍の敵を相手にする。

 

タイチのエアロブイドラモンとミコトのギガドラモンの行く手を遮るように小さな悪魔型デジモン‥イビルモンの大群が襲い掛かって来た。

 

「マグナムクラッシュ!!」

 

「ジェノサイドギア!!」

 

イビルモンたちを凄まじい拳と無数の有機ミサイルで倒していくゼロ丸とギガドラモン。

 

「さっきからデーモン軍の攻撃が激しくなっている!!」

 

「この辺がデーモン軍の防衛ラインってことでしょうか?」

 

「ああ、だがそれだけじゃない。なあ、ゼロ、気づいているだろ?」

 

「うん、悪のエネルギーを感じる。どんどん強くなっている」

 

「デーモンの覇気が此処まで来ているって事なんでしょうか?」

 

「分からねぇ、けどこのままじゃキリがない!!」

 

数分後、何とか襲撃して来たデーモン軍を蹴散らしたタイチたちは態勢を整えた。

 

「ふぅ~‥‥飛んだ方が早いと思ったけど、こんなにも進み辛いんじゃあ、歩いているのと変わらないよ」

 

「やはり、デーモンの城に近づいているので、空も陸も警備を強化しているってことでしょうね」

 

ネオが生きてデーモン城で待っているとしたら、彼の口からタイチたちが五つのタグを入手した情報は既にデーモン軍に伝わっている筈だ。

 

デーモン城に辿り着く前にタイチたちを襲撃し、撃破出来れば手早く邪魔者を排除できる。

 

例え撃破出来なくても警備を厳重にしておけばデーモン城に辿り着いた頃には体力を消耗しているだろうから、そこをデーモン軍の総力で叩けば結果的にタイチたちを倒せる‥‥と思っているのかもしれない。

 

その時、ゼロ丸の背中から地上を見ていたガーボが何かに気づいた。

 

「あ、あれ……?ねえ、タイチ、ミコト‥‥」

 

「あん?どうしたんだよ?ガーボ」

 

「見て、誰かが何かに追われている」

 

タイチたちが地上に視線を送ると誰かが地面を走っていてそれを低空飛行で追う二体のデジモンの姿があった。

 

「行きましょう、タイチさん」

 

「ああ、ミコト。お前さんは走って逃げている奴を助けてやってくれ、俺とゼロはあの二匹のデジモンを仕留める!」

 

「分かりました。ギガドラモン、行くよ」

 

「了解」

 

タイチとミコトは二手に分かれる。

 

地上に近づくにつれ、追われているのがデジモンではなく自分やタイチと同じ人間である事が分かった。

 

「人間?私やタイチさん‥ネオさん以外にも‥‥?」

 

ショートの髪型にブーツにストッキング、そしてスカートを履いた女の子で自分よりも年上でタイチと同じくらいの年齢に見える。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ここ、一体どこなの?何で私、こんな化け物に追われているのよ!?」

 

「捕まって!!」

 

「え?わああ!!!」

 

すると次の瞬間女の子はギガドラモンの両手の中に居た。

 

そしてすぐさま背中に乗せる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、有難う…ってえっ!?」

 

声をかけられた女の子は驚いた。

 

まさかと思って振り向くとそこには自分よりも年下の女の子が居たからだ。

 

不思議がった女の子は年下の女の子‥ミコトを見るなり彼女の体の彼方此方をペタペタと触る。

 

「あ、あの‥‥」

 

ミコトも流石に彼女の行動には戸惑う。

 

「貴女……もしかして人間?」

 

「は、はい‥‥人間ですけど‥‥」

 

すると女の子はいきなりギュッとミコトを抱きしめる。

 

「えっ?えっ?」

 

余りにも突然の事態にミコトは驚く。

 

ギガドラモンの硬く冷たい金属の背中の上で、女の子はミコトの細い身体にすがりつくようにして、子供のようにわあわあと声を上げて泣き始めた。

 

「よかった……っ! ずっと、ずっと変な化け物ばかりで……言葉も通じないし、食べられそうになるし……私、もうダメかと思った……!」

 

「あ、あの、落ち着いて……もう大丈夫ですから。ねっ?」

 

ミコトは戸惑いながらも、恐怖で小刻みに震える女の子の背中を、優しく一定のリズムでポンポンと撫でた。

 

(化け物って‥‥まぁ、無理もないよね。いきなりこんな世界に放り込まれて、見知らぬデジモンに襲われたら、誰だってパニックになるだろうし‥‥)

 

ミコトの温もりと落ち着いた声に、女の子は少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 

ちょうどその頃、地上ではタイチとゼロ丸の戦闘が佳境を迎えていた。

 

「キリキリキリッ!!」

 

巨大な蜂の姿をした成熟期デジモン‥フライモン二体が、毒を持つ鋭い針を突き出しながら上空から急降下してくる。

 

「ゼロ、サクッと片付けちまおうぜ!」

 

「おうよ! こんな羽虫ども、今のボクの敵じゃないね!」

 

完全体・エアロブイドラモンへと進化したゼロ丸は、フライモンの素早い動きを全く意に介さず、正面から迎え撃った。

 

「『Vウィングブレード』!!」

 

ゼロ丸が雄叫びと共に光り輝く両翼を羽ばたかせると、そこからV字型の超高熱エネルギー波が放たれた。

 

それはフライモンたちの急降下を真正面から打ち砕き、二体のデジモンは悲鳴を上げる間もなく光の粒子となって消滅した。

 

「おーい! ミコト、そっちの女の子は無事か!?」

 

戦闘をあっさりと終わらせたタイチが、地上から上空のギガドラモンに向かって大きく手を振った。

 

ミコトはギガドラモンに指示を出し、ゆっくりとタイチたちのいる地上へと降下していく。

 

ギガドラモンが着地し、ミコトと一緒に背中から降りた女の子は、近づいてくるタイチを見てパッと表情を明るくした。

 

「男の子……!?貴方も人間なのね!?」

 

「おう。俺は八神タイチ。こっちは相棒のゼロ丸だ」

 

「はじめまして! ボク、ゼロ丸!」

 

「ひぃっ!? 喋った!?」

 

気さくに挨拶をしてきた巨大な青い竜(ゼロ丸)と、自分を運んでくれた恐ろしい顔つきの鋼鉄の竜(ギガドラモン)、さらに宙をフワフワ浮いているガーボを見て、女の子は再びミコトの背後に隠れるように身をすくませた。

 

「だ、大丈夫です! この子たちは私たちのパートナーで、友達なんですよ」

 

ミコトが苦笑しながらフォローを入れると、女の子はおずおずと顔を出し、不思議そうにデジモンたちを見つめた。

 

「……友達? この化け物……じゃなくて、生き物たちが?」

 

「ああ。俺たちはテイマーって言って、こいつらと一緒にこの世界を冒険しているんだ。……にしても、お前さん、どうやってこのデジタルワールドに来たんだ? 見たところ、俺と同じくらいの歳みたいだけど……?」

 

タイチがゴーグルを指で押し上げながら、不思議そうに首を傾げる。

 

ミコトやネオの他にも、自分たちのように人間界から来た子供がいるなどとは考えてもみなかったからだ。

 

タイチの問いかけに、女の子はまだ少し混乱した様子で記憶を辿り始めた。

 

「私……家で、パソコンの画面を見ていたの‥‥そうしたら、突然画面がものすごく眩しく光って……気がついたら、見たこともない森の中に落っこちていて‥‥どうにか歩いてたら、さっきの蜂の化け物に見つかって追いかけられたのよ」

 

「パソコンの画面が光って……?」

 

ミコトが顎に手を当てて思考を巡らせる。

 

人間界のパソコンの画面が突如として発光し、この世界へ転送された。

 

それは、かつて自分やタイチがこの世界へやってきた時と同じ状況だった。

 

「なぁ、ゼロ……もしかして」

 

タイチがハッとしたようにゼロ丸と視線を合わせた。

 

「……もしかして、天空樹でのデスモンとのバトルのせいかな?」

 

「ああ。あの時、究極体同士に匹敵するパワーの激突で、空間がメチャクチャに歪んでいたよな。空が真っ黒になって、次元の壁みたいなのがヒビ割れていた」

 

「うん。あの凄まじいエネルギーの余波で、一時的に人間界とデジタルワールドを繋ぐ『ゲート』が開いてしまったんだ……そして、たまたまパソコンの前にいた彼女が、その次元の乱れに巻き込まれてしまった……」

 

タイチとゼロ丸の推察を聞いて、女の子はポカンと口を開けた。

 

「ちょっと待ってよ。バトルの余波って……私がこんな目に遭ったの、貴女たちのせいなの!?」

 

「あっ……いや、その……悪かった! 結果的に巻き込んじまったみたいで……」

 

タイチはバツが悪そうに後頭部を掻きながら頭を下げる。

 

この世界を救うための戦いだったとはいえ、関係のない一般人の少女をこんな危険な世界に引きずり込んでしまった責任は感じていた。

 

「まぁ……助けてもらったから、あんまり強くは言えないけど……」

 

女の子は少しだけ頬を膨らませた後、ふぅっと小さくため息をついて、ミコトとタイチをまっすぐに見つめた。

 

「私はレイ。ねぇ、貴方たちなら、人間界へ帰る方法を知っているんでしょう? 私を元の世界に帰して!」

 

すがるような、それでいて強い要求を突きつけてくるレイの言葉に、タイチとミコトは顔を見合わせた。

 

「「‥‥」」

 

気まずい沈黙が流れる。

 

「……悪いんだけどよ、レイ。今の俺たちには、お前さんを元の世界に帰してやることはできないんだ」

 

タイチが、申し訳なさそうに、しかしハッキリと告げた。

 

「えっ……? なんでよ!? 貴方たちも人間の世界から来たんでしょう!? なら、帰り道くらい……」

 

レイの声が上ずる。ようやく見つけた希望を打ち砕かれ、再びパニックに陥りそうになる彼女の肩に、ミコトがそっと手を置いた。

 

「レイさん、落ち着いて聞いてください。私たちも、帰り道を知らないわけじゃないんです。でも……今は、その『ゲート』が閉じてしまっていて、自由に人間界とデジタルワールドを行き来することができない状態なんです」

 

「閉じているって……じゃあ、私は一生このバケモノだらけの世界に取り残されるっていうの!?」

 

目に涙を浮かべ、へなへなとその場に座り込んでしまうレイ。

 

(無理もないか……普通の女の子が、いきなりこんな過酷な状況に放り込まれたんだもの。誰だって絶望してしまう)

 

ミコトはレイの目線に合わせてしゃがみ込み、彼女の震える手を両手で優しく包み込んだ。

 

自分の場合は直ぐにパートナーであるブイモンに出会え、さらにガーボとタイチ、ゼロ丸に会う事が出来た。

 

もしも、自分がレイの立場なら不安で仕方がないかもしれない。

 

尤もミコトは自分の居た世界に対して多少の未練くらいしかなく、絶対に還りたいという訳ではないが‥‥

 

「ごめんなさい、自己紹介がまだでしたね。私は石田ミコト。そして、後ろにいるのが私の大切なパートナーデジモン、ギガドラモンです。レイさん、絶対に貴女を一人でこんな場所に置き去りにはしませんから、安心してください」

 

レイよりも年下とは言え、ミコトの穏やかで力強い言葉と、その手の温もりに、レイは少しだけ落ち着きを取り戻し、こくりと頷いた。

 

「改めて自己紹介するぜ。俺は八神タイチ。こっちの青いのが相棒のゼロ丸だ」

 

「よろしくね、レイ! ボクたち、絶対にキミを守るからさ!」

 

タイチとゼロ丸がニカッと屈託のない笑顔を向ける。

 

その明るさに、レイの強張っていた表情がわずかに和らいだ。

 

「ミコトちゃんに、タイチ君……それに、ゼロ丸とギガドラモン……。あ、ありがとう。でも、ゲートが閉じているなら、貴方たちはここで何をしているの? どうしてこんな危険な場所を旅しているのよ?」

 

当然の疑問だった。

 

帰る方法がないのなら、安全な場所に隠れていればいい。

 

なのに、彼らは傷だらけになりながら、明らかに危険な敵陣のど真ん中へ向かおうとしている。

 

レイの問いに、タイチの表情がスッと引き締まった。

 

テイマーとしての、決意に満ちた顔つきに変わる。

 

「俺たちが旅をしているのは、このデジタルワールド……そして、俺たちの住む『人間界』を守るためだ」

 

「人間界を……守る?」

 

「ああ。今、この世界はデーモンっていう途方もなく強大で邪悪なデジモンに支配されようとしている。俺たちはそいつの野望を阻止するために、世界に散らばっていた『五つのタグ』ってアイテムを集めていたんだ。そしてついさっき、天空樹での決戦で最後のタグを手に入れたばかりなんだよ」

 

タイチの言葉を引き継ぐように、ミコトが真剣な眼差しでレイを見つめた。

 

「レイさん。デーモンの目的は、このデジタルワールドの征服だけではありません。この世界を完全に支配した暁には……その強大な戦力をもって、私たちの住む『人間界』へ侵攻しようと企んでいるんです」

 

「なっ……!?」

 

レイは息を呑んだ。

 

さっき自分を襲ってきたような恐ろしい化け物たちが、自分たちの街や家族を襲う。

 

その想像を絶する光景が脳裏をよぎり、血の気が引いていく。

 

「そ、そんな……! じゃあ、帰る場所なんて……」

 

「ああ。もし俺たちがここで逃げ出せば、どっちの世界も終わりだ。だから俺たちは行く。デーモン軍の本拠地、『デーモン城』へ。そこにいる魔王デーモンをぶっ倒して、世界の歪みを元に戻す。それが、俺たちが元の世界へ帰るための『唯一の方法』でもあるんだ」

 

タイチはゴーグルを指で弾き、力強くレイに手を差し出した。

 

「今のレイを安全な場所に置いていくことはできない。ここから先は敵の本拠地で、今まで以上に危険な戦いになると思う。……でも、俺とゼロ、ミコトとギガドラモンがいれば絶対に大丈夫だ。俺たちと一緒に来い、レイ!」

 

その真っ直ぐで揺るぎないタイチの瞳と、背後で力強く頷くミコトとデジモンたち。

 

レイは震える手を強く握りしめた。

 

怖い‥足がすくむ。けれど、この少年少女が背負っているものの大きさと、彼らの「覚悟」が、レイの心に小さな勇気の火を灯した。

 

「……わかったわ。私も行く。ここで震えているだけじゃ、何も始まらないものね」

 

レイはタイチの手を借りて立ち上がると、パンパンとスカートの土を払い、凛とした表情で前を向いた。

 

「足手まといにだけはならないように気をつけるわ。……よろしく頼むわね、タイチ君、ミコトちゃん!」

 

「おう! 任せとけ!」

 

「はい! 一緒に頑張りましょう、レイさん!」

 

数奇な運命の糸が絡み合いながら、タイチたちは最終決戦の地、デーモン城へと再び力強い一歩を踏み出した。

 

一方、デーモン城ではタイチの予測通り、天空樹での戦いから生き伸びていたネオがデーモンと話をしていた。

 

「無事に生まれたのは喜ばしい事であるが、問題は貴様がこいつを育てる程の適性があるかどうかだ。貴様は一度ならず、二度までもタイチに負けているのだからな‥‥」

 

エテモンキー同様、ネオは二度タイチに敗れ、タグを奪われてしまった。

 

五つのタグがあると言う事は、タイチたちはこのデーモン城に乗り込むことが可能となっている。

 

生まれたばかりの超究極体デジモンの実力は、まだ幼年期レベル‥‥

 

今のエアロブイドラモン、ギガドラモンの実力ならば簡単に撃破されてしまう恐れがある。

 

デーモンはそれを危惧していた。

 

「確かにバグの一つや二つによってシステムが壊れることもあるでしょう…しかし、一度発見してしまえば除去することなど容易です…俺は必ずこいつを育て忌々しいバグなど消し去ってみせましょう‥‥」

 

「その言葉、忘れるなよ…貴様は我に一度命を救ってもらっているという借りがあるのだからな。ところで、そのバグたちがここに攻めてくる前に間に合うようにこいつを育てられるのか?」

 

ネオがいくら天才テイマーとは言え、育成にはどうしても時間がかかる。

 

タイチたちがこのデーモン城に乗り込んでくるのも時間の問題‥‥

 

「その点は抜かりなく手は打ってあります。人間世界から究極体を操る三人のテイマーをここに召喚してある…その名もエイリアスⅢ!!!こいつらが超究極体育成中の間、忌まわしいバグどもの相手になりますし、そいつらがバグを消去できるやもしれません」

 

ネオは既に自分が知る究極体デジモンをパートナーに持つ三人のテイマーを既にこのデジタルワールドに呼んでいた。

 

タイチたちの前に塞がるであろうこの敵たちを前にしてタイチたちは勝てるのか!?

 

デジタルワールドをめぐる戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

 

ネオの冷酷な言葉と共に、デーモン城の奥底で蠢く新たな脅威――エイリアスⅢ‥‥

 

デジタルワールドだけでなく、人間界をも巻き込もうとする魔王の企みが加速する中、タイチたちは一歩一歩、その決戦の地へと足を進めていた。

 

デーモン軍の防衛ラインを守備するデジモンたちを退け、しばらく進んだ先の鬱蒼とした岩場。

 

激しい連戦の疲れを癒やすために、タイチたちは短い休息を取ることにした。

 

岩に腰掛け、水筒の水を飲むレイを見つめながら、タイチがふと思い出したように声をかけた。

 

「なぁ、レイ。さっきはバタバタしていて聞きそびれちまったんだけどさ。お前は、どこの『人間界』から来たんだ?」

 

「え? どこの、って……」

 

タイチの質問にレイは不思議そうに首を傾げ、水筒を離した。

 

「普通に日本だけど?東京の……」

 

「いや、それがさ‥‥」

 

タイチはゴーグルの位置を直しながら、隣に座るミコトに視線を送った。

 

「実は、俺とミコトのいた人間界って、どうも微妙に違うっぽいんだよな。俺のいた世界では、西暦はもうすぐ2000年を迎えようとしている普通の世界なんだけど……ミコトの世界の話を聞くと、流行っているものとか、街の様子が俺の知っている世界と少しズレていたりしてさ」

 

「ええ、そうなんです」

 

ミコトも小さく頷き、レイを見つめた。

 

「デジタルワールドに繋がっている人間界が一つだけとは限らないみたいで‥レイさんのいた世界が、タイチさんと同じ世界なのか?私のいた世界なのか?……それとも、まだ見ぬ第三の並行世界なのか、ちょっと気になって‥‥」

 

ミコト自身、元の世界には複雑な思いがあり、絶対に還りたいという強い未練はなかった。

 

けれど、自分と同じようにデジタルワールドのバグに巻き込まれたレイが、一体どんな場所から来たのかには純粋な興味があった。

 

「そんなこと、あるわけ……」

 

レイは最初、荒唐無稽な話だと笑おうとした。

 

しかし、現に自分が喋る巨大な竜や鋼鉄の怪物に囲まれているのだ。

 

今さら並行世界の一つや二つ、驚くようなことではないと思い直した。

 

「そうね……私のいた世界も、東京の普通の住宅街よ。西暦は……うん、タイチ君と同じで、もうすぐ2000年になるところ。最近は、ネットの掲示板とか、パソコンでチャットをするのが流行り始めていて……」

 

「おっ、チャットか!? ネットゲームとかもか? 俺の学校の奴らも、パソコン通信とかよく騒いでいるぜ!」

 

タイチが嬉しそうに身を乗り出す。

 

「レイさんの世界では、デジモンは育成ゲームとして存在していますか?」

 

ミコトが自分の世界とタイチの世界との違いの一つであるデジモンと言う名の育成ゲームの有無を尋ねる。

 

「デジモン?ああ、うん。私はやったことが無いけど、私には一つ上の『お兄ちゃん』がいて、お兄ちゃんとそのお友たちはすごくハマっていたよ」

 

デジモンが育成ゲームで存在しているという事は少なくともレイが住んで居る人間界はミコトが住んで居る人間界とは違う世界の様だ。

 

「へぇ~お兄さんが居るのか‥‥じゃあ、今頃お前がいなくなって、そのお兄さんも大騒ぎで探しているんじゃねぇか?」

 

タイチが屈託なく笑う。

 

「……だと、いいんだけどな」

 

レイは自分のスニーカーのつま先を見つめ、ポツリと呟いた。

 

「お兄さんと仲悪いんですか?」

 

「最近のお兄ちゃん、なんだかすごく冷たかったの。いつも何かにイライラしていて‥‥」

 

「レイさん……」

 

ミコトはレイの横顔に、かすかな寂しさの影を見た。

 

レイが現実世界でどんな境遇にいたのかは分からない。

 

しかし、デジタルワールドに落っこちて、こんな怪物たちに襲われながらも、心のどこかで家族を、その「お兄ちゃん」を求めていることだけは痛いほど伝わってきた。

 

「大丈夫だよ、レイ!」

 

それまで静かに話を聞いていたゼロ丸が、大きな頭を近づけて、大きな鼻息と共に元気よく割り込んできた。

 

「どこの人間界だろうと、どんなお兄ちゃんだろうとさ! ボクたちがデーモンをぶっ飛ばして、ゲートを繋ぎ直せば、ちゃーんと元通り会えるって! だから元気出しなよ!」

 

「ガシャッ」と、ギガドラモンも重厚な金属の顎を鳴らし、静かにレイを安心させるようにその巨体を寄せた。

 

「ふふ、そうね。ありがとう、ゼロ丸、ギガドラモン」

 

レイは立ち上がり、顔を上げて微笑んだ。

 

「タイチ君の世界でも、ミコトちゃんの世界でも……私が帰る場所は、あのお兄ちゃんがいる世界だけだから。だから私、二人がデーモン城へ行くの、ちゃんと応援するわ。私にできることがあれば、何でも言ってね」

 

「おう! その意気だ!」

 

タイチが力強く拳を突き出す。

 

「はい。一緒に行きましょう、レイさん」

 

ミコトも優しい笑みを浮かべ、レイの手を握った。

 

少女の語った「お兄ちゃん」が、今まさにデーモン城の最奥で自分たちを抹殺せんとする冷酷な天才・彩羽ネオその人であるとは、この時のタイチたちには知る由もなかった。

 

しかし、その血の繋がった絆が、やがてこの最終決戦の運命を大きく変える鍵となる。

 

三人の人間と二体の完全体デジモン、そして成長期のガーボ。

 

それぞれの想いを胸に秘め、タイチ一行はついに、不気味な黒煙を上げるデーモン城の全貌をその視界に捉えるのだった。

 

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