デジモンアドベンチャー Re:Life   作:ステルス兄貴

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二十一話 究極体との初戦闘

 

 

すべての元凶たる魔王デーモンの野望を打ち砕くため、敵の本拠地「デーモン城」へと歩みを進めるタイチとゼロ丸、そしてミコトとギガドラモン。

 

その過酷な道中、人間界から迷い込んだ少女・レイを保護した一行は、ホーリーエンジェモン城の密偵であるイガモンから恐るべき報告を受ける。

 

それは、デーモン城の最奥では最凶の超究極体「アルカディモン」が産声を上げており、タイチたちの命を狙う冷酷な天才テイマー・彩羽ネオが、その育成を本格的に開始したというのだ!

 

さらにネオは、タイチたちを確実に抹殺すべく究極体デジモンを操る刺客「エイリアスⅢ」を解き放つ。

 

マリと究極体デジモン、ロゼモンの相手をミコトとギガドラモンが引き受け、タイチとゼロ丸は、仮面の少年・シグマと究極体デジモン、ピエモンとの激突を余儀なくされる。

 

シグマが完全に支配する異空間「マスクズ・スクエア」。

 

そこではタイチのデジヴァイスからのコマンド入力がすべて傍受されてしまう。

 

打つ手なしかと思われた絶体絶命の窮地――しかし、幾多の死線を共に潜り抜けてきた「100%のコンビ」に言葉やデータは不要だった。

 

絶対の信頼が生む「アイコンタクト」によるフェイクでシグマの裏をかき、タイチたちは見事にピエモンを打ち破る!

 

かつてのトラウマから心を閉ざし、チャットと仮面の世界に逃げ込んでいたシグマ。

 

だが、タイチの裏表のない真っ直ぐな言葉に触れた彼は、ついに自らの肉声を取り戻し「またいつかな」と不器用なメッセージを残して去っていった。

 

シグマとの死闘を制し、不器用な心を救い出したタイチとゼロ丸。

 

だが、安心している暇はない。

 

場所を移したミコトとギガドラモンの前には、エイリアスⅢの紅一点・マリの苛烈な猛攻が迫っていた!

 

果たしてミコトは究極体ロゼモンを相手に勝利を掴むことができるのだろうか!?

 

 

タイチたちと別れて戦場の地を目指して飛んでいるギガドラモンの背中からミコトはチラッと隣を飛ぶロゼモンとその背中に乗っているマリの姿を見る。

 

(あれが‥‥究極体‥‥)

 

これまで自分が戦って来た最高クラスのデジモンは完全体のファントモンとスカルグレイモン‥‥

 

しかし、今から戦う相手は自分よりも年上のテイマーとそのパートナーデジモンでしかもクラスは究極体‥‥

 

(勝てるの?私たちは‥‥)

 

ミコトが不安に思うのも当然であった。

 

だが、此処で逃げる訳にも負ける訳にもいかない。

 

「さて。此処等辺でいいんじゃない?」

 

マリが話しかけて来て戦場が決まる。

 

降下した先は、荒涼とした岩肌がどこまでも続く、遮るもののない干上がった盆地だった。

 

ギガドラモンの巨体が地響きを立てて着地し、その背から降りたミコトは、冷たい風に吹かれながら目の前の光景に息を呑む。

 

対峙するは、エイリアスⅢの豪徳寺マリと、その傍らで妖艶なオーラを放つ究極体デジモンのロゼモン。

 

夜の帳が下りつつある紫黒の空を背景にロゼモンの持つ真紅の鞭が、パチパチと火花を散らして地を這っていた。

 

ドク、ドク、ドク……

 

ミコトの小さな胸の中で、心臓が早鐘を打つ。

 

デジタルワールドに来てから、現実世界を苦しめていた病気の発作は起きていない。

 

けれど、今感じているこの激しい動悸は、病気によるものではなかった。

 

圧倒的な、捕食者を前にしたような「恐怖」――それが、究極体デジモンの放つ存在感そのものだった。

 

「どうしたの? お嬢ちゃん。そんなに震えちゃって‥‥今なら泣いてネオくんに謝れば、命くらいは助けてあげるかもしれないわよ?」

 

マリが爪をいじりながら、小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 

その言葉に、ミコトはギュッと自分の胸元を握りしめた。

 

「……いいえ、私は逃げません。タイチさんやゼロ丸さんが今も必死に戦っているのに、私だけが怖がっていちゃ……パートナーのギガドラモンにもギガドラモンの心に宿っているメタルグレイモンさんにも顔向けできません!」

 

「その通りだ!!」

 

ミコトの言葉に応じるように、ギガドラモンが金属質な咆哮を上げ、両腕のギガハンドを構える。

 

その鋭いデジタル色の瞳には、一歩も引かぬ闘志が宿っていた。

 

「あら、生意気。八歳のガキのくせに、随分と一丁前の口を利くじゃない……いいわ、ロゼモン。その可愛げのないお人形さんたちを、完膚なきまでにバラバラにしておやり!」

 

「フッ……承知いたしましたわ、マリ。――さあ、覚悟なさい、小さなテイマーとそのデジモン」

 

ロゼモンが美しく宙に舞う。その動きは滑らかで、まるで夜空に咲く大輪の薔薇のようだった。

 

「ギガドラモン! 距離を保って、まずは牽制!!」

 

「了解!!ジェノサイドギア!!」

 

ミコトの鋭い指示とともに、ギガドラモンの両腕から無数のエネルギー弾が撃ち出された。

 

空間を埋め尽くすほどの有機ミサイルの雨が、ロゼモンを目がけて殺到する。

 

「ふふ、そんな大振りの攻撃が、当たるわけがないでしょう?」

 

ロゼモンは余裕がある様子で空中へと優雅に身を翻し、弾幕の間をすり抜けるように加速した。

 

究極体ならではの圧倒的なスピード。

 

そのスピードはギガドラモンの網膜ディスプレイでも、その軌道を完全に捉えきれない。

 

「そこよ、ロゼモン! いっけぇー!」

 

「ソーンウィップ!!」

 

一瞬にしてギガドラモンの死角へと回り込んだロゼモンが、棘のついた鞭を凄まじい速度でしならせた。

 

バチィィィンッ!! と激しい衝撃音が響き、ギガドラモンの堅牢なサイボーグボディから火花が飛び散る。

 

「グアァッ!?」

 

「ギガドラモン!!」

 

衝撃で体勢を崩すギガドラモン。

 

しかし、マリの追撃は容赦がなかった。

 

「一気に畳み掛けなさい!」

 

「ローズピルエット!」

 

ロゼモンが独楽のように高速回転しながら、嵐のような連続蹴りをギガドラモンの巨体に叩き込む。

 

金属のぶつかり合う凄まじい破壊音が盆地に木霊し、ギガドラモンはたまらず地面へと叩きつけられた。

 

ズウゥゥゥンッ!!!

 

「嘘‥でしょう……?ギガドラモンのメタルボディーの装甲が、あんなにも簡単に破られるなんて……!」

 

ミコトは愕然とした。

 

ホスピタウンを守り抜いたあの頑強なギガドラモンが、手も足も出ずに圧倒されている。

 

これが「完全体」と「究極体」の絶対的なクラスの壁なのだろうか?

 

「あはははは! ほら見なさい!データの密度も、格も、何もかもが違うのよ! アンタたちみたいなバグテイマーが、ネオくんの理想の邪魔を出来る訳がないじゃない!」

 

高笑いするマリの姿が、ミコトの視界で歪む。

 

恐怖で足がすくみそうになる。

 

けれど、土煙の中から、ボロボロになりながらも再び立ち上がろうとする鋼鉄の竜の姿が見えた。

 

「ガっ‥ハッ……ミコト……気にするな。僕は……まだ、戦える……!」

 

ギガドラモンは、主であるミコトを守るために、その巨体を必死に支えていた。

 

(私は……ギガドラモンのテイマーなんだ。もう守られてばかりの、病室のお人形じゃない……!)

 

ミコトの脳裏に、これまでの旅の記憶が蘇る。

 

ネットサーフ村での出会い、ホスピタウンでの死闘、そして自分を信じてくれたタイチの言葉。

 

恐怖を振り払うように、ミコトはデジヴァイスに手を触れ、画面に急速にコマンドを入力し始めた。

 

「ギガドラモン、相手は速い。それなら、避ける必要のない『面』での攻撃に切り替えるよ!」

 

「フン、何をやっても無駄よ! ロゼモン、トドメを刺しちゃいなさい!」

 

「終わりですわ。フォービドゥンテンプテーション!!」

 

ロゼモンの周囲に無数の薔薇の花びらが舞い散り、究極体の全エネルギーを込めた破壊の光線が放たれようとする。

 

その圧倒的なエネルギー量に、周囲の空間そのものが歪み始める。

 

しかし、ミコトの瞳は真っ直ぐに敵を捉えていた。

 

「今だ!!ギガドラモン! 地面に向けて、全火力を叩き込んで!!」

 

「応ッ!!ジェノサイドギア!!」

 

ギガドラモンが放ったのは、ロゼモンへの直接攻撃ではなかった。

 

自身の足元――干上がった盆地の地盤へと、多数のジェノサイドギアを限界出力で撃ち込んだのだ。

 

ドグオォォォォンッ!!!

 

凄まじい大爆破とともに、盆地の地面が爆裂し、大量の土砂と岩石、そして濃煙が激しい上昇気流となって、ロゼモンとギガドラモンの間の空間を完全に埋め尽くした。

 

「な、何よ!?これ!? 煙で何も見えないじゃない!」

 

マリが思わず顔を覆う。

 

ロゼモンの放った『フォービドゥンテンプテーション』の光線は、視界を遮る巨大な岩壁と土煙の乱反射によって軌道を狂わされ、ギガドラモンを外れて虚空へと消えていった。

 

「視界を失ったのは、あちらも同じ。ギガドラモン、熱源探知(サーモグラフィ)でロゼモンの位置をロック!!」

 

「捉えたぞ……!!」

 

煙の向こう側、究極体のエネルギーの残滓を放つロゼモンの輪郭が、ギガドラモンの視界にハッキリと浮かび上がる。

 

「これで……負けない!! 最大出力、いっけぇぇぇーーーっ!!!」

 

ミコトの魂の叫びとともに、ギガドラモンはブースターを全開にして煙を突き破り、無防備なロゼモンの胸元へと肉薄した。

 

絶対的な防御力を誇る究極体と言えど、この至近距離での奇襲ならば一矢報いることができるはずだ。

 

「ギルティクロー!!」

 

ギガドラモンの禍々しい漆黒の爪が、ロゼモンの華奢な身体を引き裂こうと振り下ろされた。

 

――しかし、相手はネオが数多くのテイマーの中から選別した『エイリアスⅢ』。

 

その絶対的な余裕は崩れなかった。

 

「ふふっ、本当に甘いわね。おやすみなさい、ローズイクレイドル」

 

ロゼモンが艶やかに微笑むと同時に、彼女の身体から甘く濃厚な薔薇の香りが周囲一帯に放たれた。

 

それはただの香りではない。

 

究極体のデータによって生成された、強力な催眠作用を持つ睡眠ガスだ。

 

「えっ……? なんだか、いい匂い……」

 

ミコトがその香りを僅かに吸い込んだ瞬間、急速に視界がぼやけ、立っていることすらままならなくなった。

 

強烈な睡魔が、ミコトの細い身体から一瞬にして全ての力を奪っていく。

 

「ミコト!!‥ガハッ……! 馬鹿な……サイボーグである、僕……まで……!」

 

生身の人間であるミコトだけでなく、身体の大半が機械化されているギガドラモンでさえも、この強力な睡眠ガスのデータ干渉には抗えなかった。

 

ガクンッ、と重い金属音を立ててギガドラモンがその場に崩れ落ちる。

 

「ギガドラ、モン……」

 

ミコトは手を伸ばそうとしたが、意識は泥のように重い闇の中へと沈んでいった。

 

「……ん、ううん……」

 

どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 

冷たい風に頬を撫でられ、ミコトはゆっくりと重い瞼を開けた。

 

「はっ!? 私は……!?」

 

自分が戦闘の最中に眠らされてしまったことを思い出し、ミコトは弾かれたように跳ね起きた。

 

慌てて周囲を見渡すと、隣ではギガドラモンが「グゥ、グゥ……」と機械的な低い寝息を立てて完全に熟睡している。

 

(私‥殺されてない……? タグも奪われてない……どうして!?)

 

冷や汗を流しながら敵の姿を探したミコトは、少し離れた岩場を見て目を丸くした。

 

「スゥ……スゥ……」

 

「……」

 

なんと、自分たちを眠らせたはずのマリとロゼモンまでが、岩に寄りかかって気持ちよさそうに眠っていたのだ。

 

「ええっ……!? な、なんで貴女たちまで寝ているの!?」

 

あまりの予想外の光景に、ミコトは戸惑いを隠せない。

 

隙だらけの無防備な姿。今なら反撃できるかもしれない。だが、ミコトはマリのこの突拍子もない行動に、言い知れぬ「違和感」を覚えた。

 

(おかしい……あんなに圧倒的だったのに、どうしてトドメを刺さなかったの? まさか、自分のガスを吸ってドジを踏んだ?……ううん、違う。彼女には何か別の目的がある筈……!)

 

そこでイガモンの話を思い出し、

 

(そうか……マリさんの目的は私たちを倒すことじゃない。「足止め」さえできればそれでいいんだ……!)

 

つまり、ミコトたちが眠っているこの時間は、マリにとって最も都合が良く、ネオの計画を進行させるための完璧な「時間稼ぎ」となっていたのだ。

 

「ギガドラモン! 起きて、ギガドラモン!!」

 

ミコトが焦ってパートナーの硬い装甲を叩いて起こそうとした、その時だった。

 

「むぐぅぅーッ!! むがががッ!!」

 

「え?」

 

岩場の陰から、くぐもったような叫び声が聞こえた。

 

ミコトが恐る恐る声のする方へ回り込んでみると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「イ、イガモンさん!?」

 

ホーリーエンジェル城へ伝令に向かったはずのイガモンが、なんとロゼモンの棘のついた茨の鞭でぐるぐる巻きに縛り上げられ、猿轡までされて転がっていたのだ。

 

「むぐーッ!!(ミコト殿、逃げるでござるーッ!!)」

 

どうやら、ミコトたちが眠らされている間に、マリとロゼモンは電光石火でイガモンに追いつき、人質として捕獲していたらしい。

 

イガモンがこの場に捕まっているということは、彼が運んでいた「デーモン軍のホーリーエンジェル城侵攻の可能性」という最も重要な報告が、ホーリーエンジェル城には届いていないことを意味する。

 

「そんな……伝令が、途絶えちゃった……!」

 

ゾッとするような冷たい絶望が、ミコトの背筋を駆け抜けた。

 

ホーリーエンジェル城が防衛の準備を整える前に、デーモン軍が奇襲をかければ、デジタルワールドの希望は完全に潰えてしまう。

 

マリはただ眠っていたわけではない。

 

足止めという自らの任務を完璧にこなしつつ、タイチたちの希望の糸を確実に断ち切っていたのだ。

 

敵の恐るべき狡猾さを前に、ミコトはマリ‥いや、ネオの天才テイマーと言う戦術の凄さを垣間見る。

 

「そうだ、今の内にイガモンさんを!!」

 

マリが寝ている隙にイガモンを助けようとしたミコトであったが、

 

「う~ん…ああ、よく寝た。あれ私どこに居るの?」

 

マリが目を覚ます。

 

「っ!?ギガドラモン、今のうちに攻撃!!」

 

マリが起きてしまったので、イガモンの救助を一時中断してマリとロゼモンの撃破に急遽方針を変えた。

 

「えっ?あ、ああ‥‥ジェノサイドギア!!」

 

「あれ?うわああああああああ!!」

 

寝起き直後ならば、究極体のロゼモンと言えど、不意を突けると思いミコトはギガドラモンに攻撃を命じる。

 

予想通り不意を突かれたロゼモンは後ろにぶっ飛んだ。

 

「ロゼモン!?ちょっと貴女、人が起きようとしている最中に不意打ちだなんて随分と卑怯な真似をするじゃない!!」

 

「戦闘中に油断している方が悪い!」

 

ギガドラモンがバッサリとマリの言葉を切る。

 

「私たちを眠らせて時間稼ぎをしようと思ったのだろうけど、自分たちも眠ってしまったのは誤算でしたね」

 

「ホーッホッホッホ!!何を言っているの?そっちが卑怯な手を使ってくるならこっちだって人質が居ることをお忘れなく」

 

ロゼモンが鞭をからめてイガモンを足元まで引き寄せると、イガモンを踏みつけた。

 

「イガモンさん!!」

 

「ホーッホッホッホ。そう、さっきの居眠りは只の演技。あんたたちが眠っている間に捕まえて来たの」

 

デーモン城でのイガモンのスパイ行為はどうやらネオにバレていたみたいだ。

 

「くっ……!」

 

ミコトは唇を強く噛み締める。

 

(攻撃できない……私たちが無理に動けば、イガモンさんがロゼモンの鞭で消されてしまう!)

 

主の躊躇いと焦りを感じ取り、ギガドラモンもまた低く唸りながらその場に釘付けになるしかなかった。

 

「グオォォ……! 卑怯な真似を……ッ!」

 

「ホーッホッホ! 褒め言葉として受け取っておくわ。さあ、大人しくそこで震えていなさい。私としては、ネオくんの育成が終わるまで、あなたたちが何もしないでいてくれるのが一番好都合なのよ♪」

 

高笑いするマリの足元で、踏みつけられているイガモンはギリッと歯を食いしばっていた。

 

(拙者のせいで、ミコト殿たちの足手まといになっている……! ホーリーエンジェモン様の密偵として、このまま無様に終わるわけにはいかぬ!)

 

成熟期とはいえ、デーモン城という敵のど真ん中で単独スパイ活動を長きに渡って成し遂げてきた優秀なデジモンである。

 

伊達に忍者の格好をしているわけではない。

 

ロゼモンに力強く踏みつけられながらも、イガモンは拘束された腕の関節を外し僅かに動かすと、隠し持っていた『クナイ』を静かに引き抜いた。

 

シャキッ!

 

一瞬の隙。

 

イガモンは己の身体に食い込んでいる茨の鞭をクナイで見事に切断し、口元の猿轡を吹き飛ばした。

 

「なにっ!?」

 

「隙ありでござる!!」

 

驚くマリとロゼモンの足元から素早く抜け出したイガモンは、ただ距離を取るだけでなく、すれ違いざまにマリの懐から一枚の紙切れを奪い取った。

 

「あっ! 私のメモを!!」

 

それは、ネオからマリへ渡された『作戦指令書のメモ』だった。

 

「ミコト殿、受け取るでござる!!」

 

イガモンが力いっぱい投げたメモを、ミコトがすかさずキャッチする。

 

そこに乱暴な字で書き記されていたのは、エイリアスⅢの全体計画の一部だった。

 

【超究極体アルカディモンの育成完了まで、バグテイマーたちを足止めしろ。倒す必要はない、時間を稼げば我々の勝利だ】

 

(やっぱり……! マリさんの目的は最初から、私たちを此処に釘付けにして少しでも時間を稼ぐことだったんだ……!)

 

ミコトの読みが確信に変わる。

 

己の作戦の全貌を暴かれ、さらに手玉に取っていたはずの成熟期に出し抜かれたマリの顔から、先程までの余裕に満ちた笑みが完全に消え失せた。

 

「く、イガモンめ。余計な真似を…この死にぞこないが!!!」

 

夜叉のような形相で激昂したマリが叫ぶ。

 

「ロゼモン!! その目障りな虫ケラを捕まえなさい!!」

 

「逃がしませんわ!」

 

空中に飛び上がり、ミコトたちのもとへ合流しようとしていたイガモンに向け、ロゼモンが新たな茨の鞭を凄まじい速度で放つ。

 

「しまっ――」

 

空中で身をよじって回避しようとしたイガモンだったが、本気になった究極体の鞭の速度は、成熟期の身のこなしを遥かに凌駕していた。

 

バチィィィンッ!!

 

「ぐああっ!?」

 

鋭い棘がイガモンの身体に再び深く巻き付き、そのまま強引に引き戻される。

 

イガモンは再び、ロゼモンの手中に捕らえられてしまった。

 

「ミコト殿!!拙者に構わず!!此奴を倒してくだされ!!」

 

「ふん、例えどんなに強くてもそいつは完全体で、私のロゼモンは究極体なのよ!!アンタに私のロゼモンが倒せる訳がないわ!!やっておしまい!!」

 

「食らえ!!ソーンウィップ!!」

 

ギガドラモンの首に鞭が巻かれ、電撃が走る。

 

「ぐわぁぁぁぁー!!」

 

「ギガドラモン!!」

 

「ロゼモンのその技食らえば例えサイボーグのギガドラモンだろうとロゼモンの色気にメロメロよ。さあロゼモン、今度こそやっておしまい!!」

 

状況はこの上なく最悪である。

 

どんなに強靭な意志があったとしてもサイボーグ型のギガドラモンにとって電流はダメージが大きい。

 

しかもその電流を放っているのは究極体のデジモン‥‥

 

「私の電流にいつまで持つかしら?」

 

もはや成す術なしか…そう思われた次の瞬間……ギガドラモンの右肩にイガモンのクナイが刺さった。

 

「ギガドラモン、意識を取り戻したか?」

 

「ありがとう、イガモン」

 

「この…邪魔すんじゃないよ!!この死にぞこないのゴミが!!」

 

そう言いながらマリはイガモンを足蹴にする。

 

「止めて!!これ以上傷ついているイガモンさんを傷つけないで!!」

 

悲痛な叫びを上げるミコト。しかし、マリはその顔を歪めて醜く嘲笑った。

 

「あはははは! 何が『止めて』よ! この小賢しいネズミが勝手なマネをした罰よ! 究極体である私たちに逆らうからこうなるの!」

 

ドスッ、ドスッ! と無情にもマリの靴先が、傷ついたイガモンの身体に何度も振り下ろされる。

 

「ぐふっ……! ミコト、殿……拙者の、ことは……気にするな……! 早く、奴らを……!」

 

血を吐きながらも、イガモンはミコトたちへ必死に訴えかける。

 

(イガモンさん……!)

 

ミコトの目から涙が溢れそうになる。

 

だが、彼女はギュッと唇を噛み締め、その涙を堪えた。

 

ここで自分が泣き崩れてしまえば、イガモンの命を懸けた行動がすべて無駄になってしまう。

 

それに、自分はもう『守られるだけの病室のお人形』ではないのだ。

 

(マリさんは完全に油断している……ロゼモンの意識も、電撃を流す鞭と足元のイガモンさんに向いている。なら……!)

 

「……ミコト」

 

右腕に深く刺さったクナイの強烈な痛みで強制的にシステムを再起動させ、電撃の麻痺から辛くも逃れたギガドラモンが、低い声で主を呼ぶ。

 

その鋭い瞳には、反撃の炎が静かに、だが激しく燃え上がっていた。

 

言葉を交わさずとも、パートナーであるギガドラモンが何をしようとしているのか、ミコトには完全に理解できた。

 

「ギガドラモン……その鞭を、思いっきり引き寄せて!!」

 

「応ッ!!!」

 

「……え?」

 

マリが間抜けな声を漏らした瞬間、ギガドラモンは自らの首に巻き付いていたロゼモンの真紅の鞭を、巨大な両腕の『ギガハンド』でガシッと掴み取った。

 

サイボーグ型デジモンであるギガドラモンのパワーは、完全体の中でもトップクラスを誇る。

 

「ウオォォォォォッ!!!」

 

凄まじいモーター音と共にギガドラモンが全身のバネを使って後方へ力任せに鞭を引っ張ると、鞭の反対側を握っていたロゼモンの身体が、為す術もなく空中へと強引に引きずり出された。

 

「きゃああっ!?」

 

「ロゼモン!?」

 

まさかの力技。究極体の余裕を完全に崩され、無防備な姿で一直線に空中へ放り出されたロゼモン。

 

その華奢な身体が、ギガドラモンの巨大な砲門の目の前へと引き寄せられる。

 

「アンタの電撃ビリビリマッサージ、なかなか効いたぜ……! 今度はこちらの番だ!!」

 

ギガドラモンの砲口が、怒りの熱を帯びて赤く発光する。

 

「いっけぇぇぇーーーっ!! ジェノサイドギア!!!」

 

ミコトの振り下ろしたデジヴァイスの光と呼応するように、ギガドラモンの両腕から放たれた無数の有機ミサイルが、至近距離からロゼモンの身体へ容赦なく全弾直撃した。

 

ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!

 

「ああっ!? ロ、ロゼモーーーンッ!!」

 

マリの悲鳴が荒野に響き渡る。

 

究極体とはいえ、至近距離からの完全体の全力攻撃を無防備な状態でまともに浴びればタダでは済まない。

 

猛烈な爆煙と共に、ロゼモンは盆地の岩肌へと激しく吹き飛ばされ、その衝撃でイガモンを縛っていた茨の拘束もパラパラと崩れ去った。

 

「イガモンさん!」

 

すかさずギガドラモンが身を翻し、自由になったイガモンの身体をその背中で優しく受け止める。

 

「……すまぬ、ミコト殿。恩に着るでござる」

 

「喋らないでください! 助けてくれたのはイガモンさんの方です。あのクナイが無ければ、ギガドラモンは……」

 

土煙が晴れていく中、ミコトは力強く前を‥マリを見据えた。

 

「マリさん。貴女は究極体の力に溺れて、テイマーとデジモンの『絆』を甘く見すぎました。私たちは……絶対にあなたたちを此処で倒します!」

 

圧倒的な絶望の淵から、イガモンの決死のサポートと、ミコトとギガドラモンの完璧な連携によって起死回生の一撃を叩き込んだ。

 

反撃の狼煙は、今、確実に上がったのだ。

 

もうもうと立ち込めていた爆炎と土煙が晴れていく。

 

盆地の岩肌に叩きつけられたロゼモンは、先ほどの優雅な姿から一転、全身の装甲や花びらに傷を負い、肩で息をしていた。

 

「ハァッ……ハァッ……!い、忌々しい……たかが完全体のサイボーグ風情が……!」

 

「ロゼモン! あんたたち、よくも私のロゼモンを傷物にしてくれたわね……! 許さない、絶対に許さないわ!」

 

マリの顔は怒りで真っ赤に染まっていた。

 

圧倒的優位から一転、バグテイマーと見下していた年下の相手から手痛い反撃を受けた屈辱に彼女のプライドはズタズタに引き裂かれていた。

 

(このままじゃ……予定通りに足止めができない! それなら、もう一度あの死に損ないの忍者を盾にして……!)

 

マリの歪んだ視線が、ギガドラモンの傍らで膝をつくイガモンへと向けられる。

 

「ロゼモン! あの目障りな忍者をもう一度捕まえなさい! 盾にして、あの生意気な小娘ごとミンチにしてやるのよ!」

 

「承知……いたしましたわ!」

 

ロゼモンがよろめきながらも立ち上がり、再び真紅の鞭を構える。

 

その狙いがイガモンに向けられたことを察知した瞬間、ミコトは左腕のデジヴァイス01を右手で触れる。

 

(させない……! 私だって、ただ守られているだけのテイマーじゃない!)

 

「デジヴァイス、ヒーリング・プログラム起動! イガモンさんを回復して!!」

 

ミコトの祈りに応えるように、デジヴァイスの画面が眩く発光し、温かなさくら色の光帯が放たれた。

 

さくら色の光は傷ついたイガモンの身体を優しく包み込む。

 

「おおっ!? これは……!」

 

先ほどまでマリに足蹴にされ、ボロボロだったイガモンの身体から痛みがスッと引いていき、失われていた体力が急速に満ちていく。

 

デジヴァイスを通したテイマーからの直接サポート――それこそが、野生のデジモン同士の戦いや、力のみを信奉するネオのやり方にはない最大の『強み』だった。

 

「ミコト殿、かたじけないでござる! これで存分に動ける!」

 

「小賢しい真似を……! さっさと捕まえなさい、ロゼモン!」

 

(なに?今の機能‥‥あんな機能、デジヴァイスには無い筈‥‥)

 

まだ絶対的に有利かと思っていたマリであるが、ミコトがボロボロの状態であったイガモンを回復させた場面を見て、内心戸惑いと焦りが滲み出ていた。

 

ビュンッ! と空気を裂いて、棘の鞭がイガモンへ向けて真っ直ぐに放たれる。

 

しかし――。

 

「遅いでござるよ!」

 

シュタッ! と軽快な身のこなしで、イガモンは鞭を紙一重で躱し、岩から岩へと高く跳躍した。

 

「チッ……! チョコマカと!」

 

「どうしたの!?ロゼモン!? 相手はたかが成熟期よ!? さっさと捕まえなさいよ!!」

 

「くっ……! マリ、先ほどの至近距離での爆撃のせいで……身体が、重いのですわ……!」

 

マリは苛立ちから爪を噛む。

 

先ほどは、ロゼモンがノーダメージの状態であり、かつイガモンがデーモン城からホーリーエンジェル城へ全速で移動し、イガモンの体力が消費していたため、不意打ち気味に捕獲することができた。

 

しかし今は違う。

 

完全体の中でもトップクラスの火力を持つギガドラモンのミサイルを無防備な状態でしかも至近距離で浴びたのだ。

 

究極体とはいえ、目に見えないダメージが確実に蓄積し、動作に致命的な遅れが生じていた。

 

対してイガモンは、ミコトのヒーリングによって完全回復とまではいかない状態でもダメージの量が異なる。

 

元々の俊敏さに特化した忍者デジモンを、ダメージを負った事で本来のスピードを失ったロゼモンが捕まえるのは至難の業だった。

 

「そこだぁっ!」

 

「ニンポウ、変わり身の術でござる!」

 

「キーッ! どこを狙っているのよ、ロゼモン!! 後ろよ、後ろ!」

 

ロゼモンは執拗にイガモンを追い回し、力の限りに鞭を振り回す。

 

だが、その「意地でも捕まえてやる」という焦りこそが、マリとロゼモンにとって『致命的な隙』を生むことになった。

 

(怒りで周りが見えなくなっている……ロゼモンの意識が、回避に専念しているイガモンさんに完全に釘付けだ。今なら……!)

 

ミコトの冷静な判断と、ギガドラモンの捕捉センサーが、完全に無防備となったロゼモンの背中をロックオンした。

 

「ギガドラモン、相手の死角から一気に攻め込んで!!」

 

「任せろ! 僕たちのコンビネーション、アイツらに見せてやる!!」

 

ギガドラモンは背中のブースターを全開にし、地を這うような低空飛行で突進した。

 

イガモンを追いかけるのに夢中になっていたロゼモンがその駆動音に気づいた時には、漆黒の巨大な影がすぐ背後まで迫っていた。

 

「しまっ――!?」

 

「よそ見している暇はねぇぜ、究極体さんよぉ!!ギルティクロー!!!」

 

「ああっ!!」

 

凄まじい推進力を乗せたギガドラモンの禍々しい漆黒の爪が、無防備なロゼモンの背中に深々と斬り裂き、弾き飛ばした。

 

「きゃあぁぁぁぁっ!!」

 

悲鳴を上げながら、ロゼモンは再び荒野の地面へと激しく叩きつけられる。

 

「ロ、ロゼモン!! う、嘘でしょ……究極体の‥私のロゼモンが……!!」

 

マリは信じられないものを見るような目で、地面に伏すパートナーと、その頭上を堂々と旋回する完全体のギガドラモンの姿をただ呆然と見上げるしかなかった。

 

地響きの余韻が消え、荒野を覆っていた土煙が冷たい風に流されていく。

 

そこには、全身に深いダメージを負い、力なく地面に転がるロゼモンの姿があった。

 

ギガドラモンの至近距離からのギルティクローと物凄い勢いで岩にたたきつけられたダメージでロゼモンはピクリとも動けない様子だ。

 

「う、嘘……私の‥ロゼモンが……負けた……?年下のテイマーに‥‥?完全体のデジモンに‥‥?」

 

マリはへたり込んだまま、呆然とその光景を見つめていた。

 

天才テイマー・ネオに選ばれた『エイリアスⅢ』としての絶対的なプライド。

 

そして、究極体のテイマーであるという絶対的なアドバンテージ。

 

そのすべてが、自分よりもずっと年下の‥たった八歳の少女と完全体デジモンの前に粉々に打ち砕かれたのだ。

 

言い知れぬ屈辱と絶望がマリの心を支配し、彼女の瞳からは完全に戦意の光が失われていた。

 

そんなマリとロゼモンの前に、ミコトとギガドラモンが静かに歩み寄ってくる。

 

サイボーグの翼が奏でる金属音とミコトの足音にマリはビクッと肩を震わせた。

 

(こ、殺される‥‥!)

 

(こんなことになるなら、アイツらが眠っている間に殺しておくべきだった‥‥)

 

ミコトとギガドラモンを眠らせた時、無防備状態でありいくらでも殺すチャンスはあった。

 

しかし、マリは慢心し、ミコトたちが起きている状態で完膚なきまでに叩きのめして越えられぬ壁を経験させて絶望を十分に与えた後に斃すつもりでいた。

 

その結果がこれだ‥‥。

 

死の恐怖と敗北の惨めさが入り混じり、マリは自らを奮い立たせるように、半ばヤケクソになって声を荒らげた。

 

「な、によ……! 何しに来たのよ!!」

 

マリは涙目でミコトを睨みつける。

 

「トドメを刺しに来たの!? それとも、私を笑い者にするために来たわけ!? ええ、そうでしょうね! 究極体を使っておいて格下の完全体に負けたんだから、好きなだけバカにして笑えばいいじゃない!! さあ、やりなさいよ!!」

 

自嘲と怒りにまかせて叫ぶマリ。

 

しかし、ミコトはただ静かに、悲しげな瞳でマリと、傷ついて呻くロゼモンを見つめていた。

 

「……」

 

ミコトは何も言わず、ゆっくりと自身のデジヴァイスを掲げた。

 

「やめるでござるミコト殿! 奴らは敵でござる!!」

 

「イガモン‥良いんだ」

 

「し、しかし‥‥」

 

背後からイガモンが慌てて制止の声を上げるが、ギガドラモンがそれを制止する。

 

ミコトの決意には一切の迷いがなく、

 

「デジヴァイス、ヒーリング・プログラム起動……っ!」

 

ミコトの透き通るような声とともに、デジヴァイスから眩くも温かいさくら色の光の帯が放たれた。

 

しかし、その直後、ミコトの小さな肩がビクッと跳ね、顔からさっと血の気が引いていく。

 

額には玉の汗が浮かび、荒い呼吸とともに膝から崩れ落ちそうになった。

 

彼女の持つ不思議な力――対象を回復させるそのさくら色の光は、テイマー自身の体力と時には自らの命さえも著しく削り取る諸刃の剣なのだ。

 

「ミコト殿!?」

 

イガモンが叫ぶが、ミコトは首を横に振り、自身の身を削りながらも真っ直ぐにデジヴァイスを掲げ続けた。

 

放たれたさくら色の光はマリを通り越し、真っ直ぐにロゼモンへと降り注ぎ、彼女の身体を優しく包み込んだ。

 

「え……?」

 

「あ……あぁ……」

 

ギガドラモンの苛烈な攻撃によって引き裂かれたロゼモンの装甲や花びらが、光に包まれながら見る見るうちに修復されていく。

 

荒い息遣いも次第に落ち着きを取り戻し、ロゼモンはゆっくりと目を開けた。

 

マリは信じられないものを見るような目で、肩で息をするミコトを見つめた。

 

「な、なんで……? どうして、敵である私たちを……私のロゼモンを回復させるの……?」

 

自分はつい先ほどまで、彼らを本気でいたぶり、時間稼ぎの道具として抹殺しようとしていたのだ。

 

それなのに、なぜこの少女は自分たちに情けをかけるのか?

 

マリには到底理解できなかった。

 

ミコトはデジヴァイスを下ろし、ふらつく身体をギガドラモンの強靭な腕に支えられながら、まっすぐな瞳でマリを見つめ返して口を開いた。

 

「私は……貴女たちをバカにしたり、命を奪うために戦っているわけじゃありません」

 

主の著しい疲労と、その奥にある揺るぎない覚悟を感じ取ったギガドラモンは、静かに頷き、ミコトの身体を優しく支え続ける。

 

その光景を見たイガモンもまた、握りしめていたクナイを静かに下ろした。

 

己の身を削ってでも無用な争いを止めようとするミコトの真意に触れ、彼女の『強さ』を誰よりも理解したからだ。

 

「ネオさんは、デジモンをただのデータや道具だと言ってデジモンを利用している。でも……デジモンは道具じゃない。ギガドラモンにも、イガモンさんにも、そしてロゼモンにも、心があるんです。私たちは、そのネオさんの間違ったやり方を止めてデーモンの野望を阻止してこの世界を守りたいだけです」

 

それはミコトがタイチたちと共にこの世界を旅して来た経験から得た心からの叫びだった。

 

「マリさん。貴女はロゼモンが傷ついた時、とても悲しそうな顔をしていました。貴女にも、パートナーを大切に想う心があるはずです。これ以上、私たちが傷つけ合う必要なんてありません」

 

復讐でも、嘲笑でもなく、ただ純粋な思いやりと慈愛。

 

そのミコトの裏表のない真っ直ぐな言葉と優しさに触れ、マリは何も言い返すことができず、ただ回復していくロゼモンの傍らで呆然と座り込んでいることしかできなかった。

 

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