魔王デーモンの野望を打ち砕くため、敵の本拠地「デーモン城」を目指す八神タイチと異世界から来たミコト。
激闘の末、刺客「エイリアスⅢ」のシグマとマリを撃破したものの、天才テイマー・彩羽ネオの冷酷な采配により、最凶のデジモン、アルカディモンは究極体セラフィモンの力すらも取り込み、完全体へと進化を遂げてしまう。
さらに、アルカディモンを超究極体へと導く伝説のアイテム「デジメンタル」の正体は、ネオの実の妹・レイが胸に掲げるペンダントだった。
兄の暴走を止めるため、レイはエイリアスⅢ最後の刺客・藤本秀人と共にデーモン城へと向かう。
タイチとミコト、そして改心したマリは、究極の聖騎士「オメガモン」の圧倒的な力を前に恐怖を抱きながらも、レイを救い出しネオの野望を止めるべく、決死の突入を決意する。
一足先にデーモン城で兄との再会を果たしたレイ。
しかし、「元の世界に帰ろう」という彼女の切実な願いは、冷酷な魔王と化したネオには届かなかった。
ネオの真の目的は、全世界をデータ化し、自らが管理者となる新世界「ネオ・ワールド」の創世。
すべては、妹が歩けなくなった現実を、根底から「作り直す」ための狂気の計画だったのだ。
ネオはレイを幽閉し、そして秀人にタイチたちバグテイマーの抹殺を命じる。
暗い城の通路で、秀人の脳裏に蘇るのは一年前の眩しい記憶。
転校生のネオ、その妹のレイ。かつて彼らは、デジモンを通じて心を通わせた親友同士だった。
しかし、秀人が自身のパートナーの進化を伝えようと声をかけたあの日、不慮の交通事故がレイから歩く自由を奪い、ネオの心を決定的に壊してしまった。
(俺があの時、声をかけなければ……!)
秀人の胸を締め付けるのは、消えることのない深い後悔と罪悪感。楽しかった「あの頃」を取り戻せるのなら、たとえ世界を敵に回そうとも構わない。
悲壮な決意を胸に、秀人は二体の究極体デジモンをジョグレスさせる。
交差する過去と現在‥‥
そして哀しき罪の意識を背負い、最強の聖騎士・オメガモンがタイチたちの前に立ち塞がろうとしていた――。
秀人が自身のパートナーデジモンのウォーグレイモン、メタルガルルをジョグレス進化させてオメガモンにしてタイチたちの元へ向かった事はデーモン城に残ったシグマからマリの元へメールで知らされた。
一方、デーモン城に向かっているタイチ、ミコト、マリ、そしてデジモンたち。
するとマリのデジヴァイス01が反応した。
「あら?シグマからメールだわ‥‥えっ!?」
「シグマはなんて?」
メールにはこう書かれていた、
『ネオの妹の説得は失敗に終わった、現在はプライベートルームに隔離されている。秀人は現在、君たちを抹消するためにそちらに向かっている。デジメンタルはネオの手に渡った。最悪の事態に陥った』
そのメール内容を見てタイチたちは顔を蒼褪めさせた。
まさかと思っていた最悪の事態が起こった。
「ネオの奴、自分の妹を隔離したってこと!?」
「レイさん‥‥」
「くそ、結局失敗か!!」
「ミコト、最悪の事態になっちゃったなわね‥‥」
マリがミコトに声をかける。
あの時、秀人にレイをやはり受け渡したのは失敗であった。
「はい‥‥こうなれば、命をかけてでもネオさんとデーモンの野望を止めてレイさんを助け出します」
「でも、相手はあのオメガモンだ‥‥勝てるのか?」
ガーボがこちらに向かって来るオメガモン相手に勝算があるのかを問う。
「一応データはスキャンしてありますけど‥‥」
秀人とオメガモンが来た時、ミコトはオメガモンのデータを密かにスキャンしていた。
そのデータをタイチとマリにも共有する。
そして、その圧倒的なまでに凄まじいデータにタイチたちはこれまでにない絶望感を覚えた。
「しかし、聖騎士デジモンがネオの側についているなんて凄まじい皮肉だな」
「オメガモンは究極体の同士のジョグレス進化したデジモンですから、当然無限ジョグレスの戦術をとるでしょう‥‥確実にダメージを与えるならジョグレスする瞬間に攻撃するしか‥‥」
「問題はオメガモンをパーディションさせる程、体力とエネルギーを消費させることが出来るかだな‥‥」
「まぁ、此処まで来たなら私も加勢するよ」
「いえ、マリさんは控えておいて頂けますか?」
「何でさ?私のロゼモンも究極体だし、数からいって多い方が有利じゃないの?」
「そりゃあそうだけど‥‥多分、秀人とオメガモンは俺とミコトをメインで狙ってくるはずだ。きっと邪魔立てされて欲しくないはず‥‥」
「真剣勝負のつもり?今はどんな手を使ってもオメガモンを倒してネオを止める必要があると思うけど?」
「ロゼモンのためにあれだけ涙を流したんですから、むざむざとロゼモンを犠牲にする訳にはいきません」
ミコトは本来、マリとロゼモンは狙われていないので、余計な戦闘に首を突っ込んでロゼモンを傷つける必要はないと言う。
すると、前方から凄まじいオーラが迫って来るのを感じた。
「来た‥‥間違いない、オメガモンだ‥‥」
凄まじく雲が荒れ、タイチたちと距離を取って静かに秀人はオメガモンと共にタイチたちと対峙する。
「ついに来たか…」
「エイリアスⅢ、最後の一人のテイマー‥‥」
「藤本秀人・‥」
するとタイチが乗り出して聞いた。
「おい、レイをどこにやった!?」
「お前たちには関係のないことだ」
「関係ないわけあるか! レイちゃんは兄貴のネオを止めるために、自分の危険も顧みずにデーモン城へ向かったんだぞ! それを隔離しただと!? ネオの奴、完全にイカれちまっているぜ!!」
(何故、此奴はレイが隔離されている事を知っている?)
(城の中に内通者が居るみたいだな‥‥)
タイチが怒りを爆発させ、ゼロ丸の背の上で拳を強く握りしめる。
そして、秀人は何故、デーモン城に居るレイの現状を知っているのか疑問に思った。
タイチの隣で、ギガドラモンに支えられたミコトも、悲痛な声を秀人へとぶつけた。
「秀人さん! レイさんは泣いていました……! 家族の絆を取り戻したい、ネオさんと、そして秀人さんと、あの楽しかった頃に戻りたいって、心から願っていたんです! それなのに、ネオさんの狂気に付き合って世界を壊すことが、本当にレイさんのためになるんですか!?」
「……黙れ」
ミコトの叫びは、秀人の胸の最も深い傷を正確に抉った。
脳裏をよぎるのは、さっき城の廊下で見た、デジタルワールドで嬉しそうに跳ね回っていたレイの姿。
そして、一年前のあの日、自分の声に応えて笑顔で振り返り、トラックに撥ねられた瞬間の鮮明な記憶。
胸を掻きむしるような罪悪感が、秀人の表情を歪ませる。
(分かっている……そんなことは、俺が一番分かっているんだ……!)
本当にこれでいいのかという葛藤が、秀人の心を激しく揺さぶる。
だが、ここで立ち止まれば、自分のせいで壊れてしまった彩羽兄妹に対して、一生償うことすらできなくなる。
レイの足が動かないという残酷な現実を覆せるのは、ネオの目指す「ネオ・ワールド」しかないのだ。
「お前たちに何が分かる……!」
秀人は絞り出すように声を震わせ、そして、自らの迷いを断ち切るように鋭い眼光でタイチたちを睨みつけた。
「現実世界は不完全だ!理不尽な事故一つで、人間の未来を簡単に奪っていく! だがデータの世界なら……ネオが創る新世界なら、すべてを完璧に書き換えられる! レイの足だって、事故の前の日常だって、あの頃の時間を全部作り直せるんだ! そのためなら……俺は悪魔にだって魂を売ってやる!!」
悲壮なまでの決意。
それは歪んではいるが、間違いなく親友とその妹を想う、秀人の純粋な「愛」だった。
「秀人さん……」
ミコトは、秀人の言葉の裏にある圧倒的な哀しみと後悔の深さを察し、息を呑んだ。
彼はネオに利用されているのではない。
自ら進んで、罪の十字架を背負いながら、この破滅の道を選んでいるのだ。
「話は決裂、ってわけね……」
後方で待機するマリが、苦々しく呟く。
ミコトから共有されたオメガモンのスキャンデータは、あまりにも異常だった。
攻撃力、防御力、スピード、すべてが完全体の領域を遥かに凌駕し、究極体の中でもトップクラスに位置している。
おまけに秀人の戦術は、ネオと同じくピンチになればジョグレスを解除して体力を回復させ、瞬時に再び融合する「無限ジョグレス」‥‥
まともに戦えば、こちらの体力が尽きるのが先か、あるいは一瞬で消し飛ばされるかだ。
「ミコト、タイチ……死ぬんじゃないよ。あんたたちに死なれたら、私の寝覚めが悪すぎるからね!」
「分かっているさ、マリさん!」
タイチがニカッと不敵に笑う。
その瞳には、絶望的なデータを見せられてなお、微塵の怯えもなかった。
「秀人! お前がどれだけ重い過去を背負ってようが、他人の世界を巻き込んでいい理由にはならねぇ! 歪んだ世界を作り直したって、レイちゃんは絶対に喜ばない! 俺たちの100%のコンビネーションで、お前の目を覚まさせてやる!」
「ボクの拳で、その悲しいツラを引っ叩いてやる!」
ゼロ丸が凄まじい咆哮を上げ、全身から青いオーラを噴出させる。
ギガドラモンもまた、ミコトを守るようにその巨大な翼を広げ、無数のミサイルハッチを展開した。
「一応確認しておく。降参する気はないんだな?」
「ああ、ない。100%ノーだ!!」
「ありません!!」
秀人はゆっくりとデジヴァイス01を構え、冷酷なコマンダーの顔へと戻る。
「……そうか‥‥ならば来い、バグテイマー共‥‥伝説の聖騎士の前に、お前たちのその絆がどこまで通用するか、試してやる!!」
オメガモンが静かに左腕を掲げる。
冷徹な白銀の鎧が、荒れる雲間の光を反射して怪しく輝いた。
「『グレイソード』――!」
秀人の鋭い号令とともに、オメガモンの左腕から無敵の聖剣が突き出され、大気を切り裂く凄まじい衝撃波がゼロ丸たちへと襲いかかる!
「行くぞ、オメガモン!!」
「聖騎士だろうが、究極体だろうが、恐れるか!!」
「行くぞ、ゼロ!」
「応ッ!!」
「ギガドラモン、ゼロ丸さんの援護を!!」
「分かった!!」
タイチとミコトの指示に呼応し、二体のデジモンが動いた。
周囲には、デーモン城に至る険しい岩肌が剥き出しになった尖った岩の地形が広がっている。
ゼロ丸とギガドラモンは、その地形を縫うように高速で移動し、オメガモンの視界を攪乱しにかかった。
「そこだ、ゼロ!」
「ギガドラモン、背後から!」
死角を突く絶妙なタイミング。
ゼロ丸が正面から強烈な拳を振り下ろし、同時にギガドラモンが背後から重い一撃を叩き込む。
前後からの完璧な挟み撃ち――だと思われた。
ガィィィンッ!!
鈍い金属音が響く。
オメガモンは、涼しい顔一つ崩すことなく、左腕のウォーグレイモンの盾でゼロ丸の拳を右腕のメタルガルルモンの装甲でギガドラモンの攻撃を、まるで児戯をあしらうかのように同時に凌いでみせたのだ。
「なっ……!?」
驚愕するゼロ丸の目の前で、オメガモンの左腕から伸びる無双の剣『グレイソード』が、無造作に一振りされる。
ズガアァァァンッ!!
ただの素振り‥‥それだけで発生した凄まじい衝撃波が、近くにあった巨大な岩山を、豆腐でも切るかのように軽々と粉砕してしまった。
「ポ、ポカ~ン……」
「馬鹿っ、油断するなゼロ!」
あまりの桁違いの威力に、思わず呆けたように口を開けるゼロ丸。
その一瞬の隙を見逃す秀人ではない。
「そこだ、弾き飛ばせ」
オメガモンの強烈な裏拳が、ゼロ丸の顔面を捉えようと迫る。
だが、その時だった。
「させません! ギガドラモン!!」
ミコトの声と共に、ギガドラモンが巨大な巨体を割り込ませ、オメガモンの拳の前に立ち塞がった。
ドゴォォォンッ!!
サイボーグ型の強固な装甲を持つギガドラモンだからこそ、その一撃を直接受けても致命傷には至らない。
しかし、究極体の圧倒的な物理的威力までは吸収しきれず、ギガドラモンは背後にいたゼロ丸ごと、後方の岩壁まで一直線に吹き飛ばされてしまった。
「ゼロ! ギガドラモン!」
土煙が舞う中、オメガモンの追撃は止まらない。
まるで瞬間移動のようなスピードで二体の懐に飛び込むと、流れるような連撃を繰り出す。
ゼロ丸もギガドラモンも、その圧倒的な力を前にしては防戦一方となり、躱すだけで精一杯だった。
「ゼロ丸!!ギガドラモン!!」
「ふん、見たか。これが聖騎士、オメガモンの実力だ‥‥」
秀人は自信満々の様子で自らのパートナーデジモンの戦いを見守る。
「遅い!」
オメガモンの重く鋭い蹴りが、二体を同時に薙ぎ払う。
「オメガモン…やっぱり強すぎる。でもどうして?どうしてこんなに強いモンスターが僕たちの敵なのさ?」
オメガモンの圧倒的なパワーとスピードにガーボがぼそりと嘆いた。
なんせオメガモンを構成している片割れが自分の最終進化系のメタルガルルモンなのだから‥‥
「ふん、それは俺たちが正義だからだ」
ガーボの呟きが秀人に聞こえたのか、オメガモンが強い訳を話す。
「そっちが正義なら、僕たちが悪だって言うのか!?」
「落ち着け、ガーボ!!」
「そうだ、ネオのやっていることが良い筈がない!!」
「タイチさんの言う通りです!!秀人さん、オメガモンを育て上げた貴方ならわかる筈だ!!ネオさんのやっていることがどれだけ恐ろしい事か!!」
「レイだって悲しんでいるはずじゃないのか!?」
「くっ、貴様らさっきから聞いてれば‥‥お前たちに一体何が分かる!?」
「じゃあ、アンタは今デーモン城でどれだけレイさんが辛い思いしているのか分かっているのか!?」
「ふん、レイはもうとっくにお前らのことなんて忘れている」
「そんなのは嘘だ!!」
「レイのことを分かってないのはお前の方だ」
「貴様ら‥バグとたかがモンスターの分際で、何も分かってないくせに!!オメガモン、そいつらさっさと始末しろ!!」
「わ、分かった!!」
オメガモンはゼロ丸とギガドラモンに強烈な蹴りを入れて来る。
ゼロ丸とギガドラモンは、その強烈な蹴りを辛うじて両腕で受け止めると、そのままの勢いで互いに視線を交わした。
言葉はいらない。
「いまだ、やっちまえ!!」
「今です!」
二体は同時に動き、オメガモンの背中を覆う純白のマントを左右からそれぞれがっちりと掴み取った。
「なんだと!?」
驚く秀人の声を置き去りに、二体のパワーを合わせた渾身の一本背負いが炸裂する。
ズドゴォォォォォンッ!!
大地が揺れ、オメガモンの巨体が地面に深々と叩きつけられた。
「やったか!?」
「いえ……!」
もうもうと立ち込める粉塵。
しかし、その中からゆっくりと這い出てきたオメガモンの白銀の鎧には、傷一つ、泥の汚れ一つ付いていなかった。
「……無駄な足掻きだ」
「ちっ、何て奴だ!!!オメガモンの奴、殆どダメージを受けてないぞ!!」
秀人は冷徹な瞳でゼロ丸を見下ろす。
その目には、分析を終えたコマンダーとしての冷酷な光が宿っていた。
「タイチ、と言ったな。お前のそのブイドラモン……いや、ゼロ丸は、『古代種』のデジモンだな?」
「……っ!?なんでそれを!?」
「データを見れば分かる。古代種のデジモンは、自らの『怒り』の感情をトリガーとして、一時的に限界を超える力を引き出すことができる。だが……その代償として、デジコアに極度の負担をかけ、寿命を極端に縮めるという致命的な欠陥がある」
秀人の言葉に、タイチは唇を噛む。
それは、ゼロ丸と共に戦う上で、常に背負っている重いリスクだった。
「己の命を削ってまで、こんな無意味な戦いに身を投じるか。愚かだな……お前たちに未来はない」
秀人はふっと目を伏せ、冷たい声で言い放った。
突然告げられた「未来はない」という言葉にミコト、マリ、ロゼモンを含めて驚きの顔を見せる。
(ゼロ丸さんも私と似たようなリスクを負っていたなんて‥‥)
ミコトもヒーリング能力を使えば使う程、自分の命を削るリスクがある。
ゼロ丸も力を出せば出す程、自身の命を削るリスクを負っていた。
「命が惜しいなら、この世界から出て行け。それが、お前たちに対する俺からの最後の情けだ」
だが、その言葉を聞いて、タイチは下を向くどころか、顔を上げて不敵な笑みを浮かべた。ミコトもまた、真っすぐに秀人を見据えている。
「情け、ね……。悪いけど、そんなもん受け取る気はこれっぽっちもねぇよ!」
「ええ。私たちはレイさんを助け、そしてネオさんやデーモンの野望を止めるためにここに来たんです。引き下がる理由なんてありません!」
「それに、ゼロの寿命が縮むなら、俺がその分、誰よりもこいつを大事にしてやる! 俺たちの未来は、俺たちで作るんだよ!!未来を決めるのは秀人、お前じゃない!!」
「その通りだ! ボクとタイチの絆は、そんな計算式じゃ測れないってこと、教えてやる!」
全く折れることのない闘志。
究極体であるオメガモンを前にして、なぜこれほどまでに絶望しないのか?
なぜ、その瞳の光を失わないのか。
(やはり、こいつらは……危険だ。本気でここで斃しておかねば、必ずネオの計画の障害になる……!)
秀人の胸中に、薄ら寒いような脅威が走った。
マリも傍で見て思った。
(ああ、こういう奴らだから今まで勝って来たんだろうなぁ~)
と‥‥どんな運命が待ち受けようとも、その前向きかつ直向きな姿勢で乗り越えていくのがタイチたちなのだろう。
「……ならば、その未来ごと消し去ってやる。オメガモン!!!そいつらの未来を叩き潰せ!!」
「『ガルルキャノン』!!」
オメガモンの右腕、メタルガルルモンの銃口から、絶対零度の冷気を伴った破壊のエネルギーが放たれた。
ドゥアァァァァァァンッ!!!
凄まじい閃光と轟音が周囲を包み込む。
ガルルキャノンの一撃は、ゼロ丸たちがいた岩場一帯を、文字通り跡形もなく吹き飛ばし、巨大なクレーターを穿った。
「ふん……終わったか」
だが、立ち昇る冷気と煙が晴れるよりも早く。
「「まだだぁぁぁッ!!」」
吹き飛んだ岩の破片の影から、二つの影が猛スピードで飛び出してきた。
「なに!?」
左からはゼロ丸、右からはギガドラモン。
キャノンの直撃を間一髪で躱し、地形を利用して死角に潜んでいたのだ。
「いっけぇぇぇ!!」
「ぶち抜けえぇっ!!」
「マグナムクラッシュ!!」
「ギルティクロー!!」
左右同時、完璧なタイミングで放たれた必殺の一撃。
オメガモンが反応するより僅かに早く、ゼロ丸の拳とギガドラモンの爪が、オメガモンの左右の頬にクリーンヒットした。
バキィィィッ!!
無敵を誇ったオメガモンの装甲、その頬の部分に、ピキリと僅かな亀裂が走る。
「チィッ……! 鬱陶しいハエ共め!」
秀人は舌打ちし、瞬時に思考を切り替える。
オメガモンとは言え、パートナーデジモン完全体二体を同時に相手にするのは厄介だ。
ならば、装甲の薄い方から確実に潰す。
「オメガモン! まずはエアロブイドラモンに攻撃を集中しろ!」
指示を受けたオメガモンは、瞬時にギガドラモンを太い腕で乱暴に薙ぎ払い、その標的をゼロ丸一体へと絞った。
「ゼロ!!ちぃっ、オメガモンめ、ゼロから潰そうって魂胆か!!」
ゼロ丸は完全体の中でもトップクラスのパワーとスピードを誇る。
だが、その機動力を生み出すために、防御力が低いという致命的な弱点があった。
ましてや、相手は究極体のオメガモン。
スピードにおいてすら、ゼロ丸は引けを取っていた。
「速いッ……!」
一対一に持ち込まれれば、圧倒的に不利。
オメガモンの怒涛の連撃を前に、ゼロ丸は防戦に回らざるを得ない。
そして、その防御の薄さを的確に突かれた。
「そこだ!」
「ぐあぁぁっ!?」
オメガモンの凄まじい蹴りがゼロ丸の腹部にめり込み、そのまま後方の巨大な岩盤へと激しく叩きつけた。
「ぐああああああああ!!!」
「ゼロ!!」
岩が砕け、ゼロ丸が苦悶の声を上げる。
「トドメだ。『グレイソード』!」
動けなくなったゼロ丸の脳天に向けて、オメガモンが必殺の聖剣を振り下ろした。
万事休す――そう思われた瞬間。
「ミコト!!」
「はいッ! ギガドラモン!!」
「させるか!!」
ガギィィィィィンッ!!!
振り下ろされたグレイソードの軌道上に、弾かれたはずのギガドラモンが身を挺して飛び込んだ。
サイボーグ化された頑強な左腕で剣閃を受け止め、そのまま両腕を激しく交差させて、グレイソードの刀身をがっちりとホールドする。
「なっ……! 貴様、腕ごと斬り裂かれる気か!?」
驚愕する秀人。
「今だ、ゼロ丸!!」
「任せろッ!!」
ギガドラモンの決死のホールドによって生じた、ほんの一瞬の隙。
激突した岩盤の土煙に紛れ、いつの間にかゼロ丸は姿を消していた。
「しまっ……後ろか!?」
秀人が気付いた時には遅い。
オメガモンの背後、完全に無防備な死角に、ゼロ丸は既に回り込んでいた。
正面にはグレイソードを固定して逃がさないギガドラモン。
背後には拳を振りかぶるゼロ丸。
前後からの、回避不能の挟み撃ち。
「これで決めるぞ!!」
「全弾発射!!」
「マグナムクラッシュ!!」
「ヴォルケナパーム!!」
ゼロ丸の渾身の連撃と、至近距離から放たれたギガドラモンの火炎弾が、オメガモンの巨体にダイレクトに突き刺さる。
ドゴゴゴゴゴォォォォンッ!!!
耳をつんざくような大爆発が起こり、オメガモンの姿が爆煙に包まれた。
「やったか!?」
それを見計らい、ギガドラモンは素早く後退し、ゼロ丸と共に並んで身構える。
タイチもミコトも、息を呑んで土煙の先を見つめた。
やがて、風が煙を吹き飛ばし……オメガモンが再びその姿を現した。
「……甘いな」
秀人が不敵に嗤う。
オメガモンは倒れてなどいない。
相変わらずその圧倒的な存在感を放ち、大地に立っていた。
やはり、究極体には通じないのか?
無駄な攻撃だったのか?
だが、タイチたちの目は、ある一つの「事実」を見逃していなかった。
「……いや、無駄じゃねえ」
タイチがニヤリと笑う。
オメガモンの腹部‥先ほどの連携攻撃が集中したその部分の白銀の装甲が、僅かにひしゃげ、焦げ跡を残すようにダメージが蓄積していたのだ。
「少しずつだけど……確かにダメージは通っている!」
「ええ……! このままの連携でいけば、必ず勝機は見えます!」
決して崩れないと思われたオメガモンの牙城。
そこに生じたミリ単位の亀裂は小さくてもタイチとミコト、そして二体のデジモンにとって、大きな希望の光だった。
「だが、この程度、致命傷には程遠い、逆に言えば、これだけの力を出しても貴様らはオメガモンにこれ程のダメージしか与えられないんだ!!絶対に勝てないのにどうしてお前らは戦い続ける!?そんなにも死にたいのか!?死んで英雄として名前を残したいのか!?」
「それは違いますよ、秀人さん‥‥」
「何!?」
「私たちは英雄でもヒーローにもなりたいわけでもありません!!ましてや死ぬつもりもありません!!この世界に住む大事な仲間たちを、この世界を守りたいだけです!!メタルファクトリーではネオさんに使い捨てにされたメタルグレイモンさん‥‥アルカディモンの餌になってしまったデジモン‥‥もうあんな悲惨な思いはしたくない!!マリさんだってロゼモンを大切にして、傷ついた時には涙を流していました!!」
「だったら尚更貴様らは降参するべきだろう!?オメガモンは正義のデジモンだ!!それに楯突くこと悪なのだぞ!?」
「秀人…お前のやっていることは確かに正義だ」
「えっ?」
「タイチさん?」
ミコトたちはタイチの発言に驚く。
「ほう、遂に負けを認めたか?」
「だが!!お前の正義は紛い物の正義だ!!」
「何だと!?」
「ミコトたちから事情は全て聞いている。レイが現実世界で事故によって歩けず、ネオとお前がそんなレイのためにこの世界を作り変えるつもりだってこともな‥だが、その為に罪もないデジモンたちを次々に犠牲にして、無残に殺していくのは本末転倒だ!!そんなもの、只の自己正当化だ!!!!」
「き、貴様ぁ~言わせておけば‥‥お前の正義と俺たちの正義とでは覚悟が違いすぎるんだよ!!お前は例え悪魔に魂を売ってでも守りたいものはあるか!?大切なモノが傷ついた時、死ぬほど後悔したことはあるか!?俺やネオの正義を自己正当の一言で否定させない!!オメガモン!!奴らを叩き潰せ!!」
「うぉぉぉぉぉぉー!!」
強烈な咆哮と共にオメガモンはゼロ丸に凄まじいスピードで襲い掛かり、そそり立つ両岩の尖った部分にゼロの両羽を貫通させた。
「ぐああああああああああああ!!」
「ゼロ!!」
「ゼロ丸さん!!」
「無駄だ、貴様の力ではそこから脱出出来ん」
「これで分かっただろう、貴様らがいかに無力化か。どれだけ綺麗事を言おうが圧倒的な力の前には無意味だ!!オメガモン、ゼロにトドメをさせ!!その次はギガドラモンだ!!」
「これで、終わりだ…グレイソード!!」
身動きが取れないゼロ丸に再びオメガモンのグレイソードが襲い掛かる。
だがそこへギガドラモンが今度は右腕でグレイソードを止める。
「ぐっ‥‥」
「ちっ、目障りな奴だ。ゼロ丸の前にお前から切り刻んでやる」
ゼロ丸は翼を岩で縫い付けられて動けない。
ならば止めを刺すのはいつでもできる。
なので、オメガモンは先にギガドラモンを片付けようとする。
オメガモンがグレイソードを振りかざし、ギガドラモンを切りつけようとすると、グレイソードにロゼモンの茨の鞭が絡みつく。
「ロゼモン!!」
「ロゼモン、何のつもりだ?どうして邪魔をする?」
オメガモンは仲間である筈のロゼモンが自分の邪魔をする事に戸惑う。
「マリ、貴様、本当にネオを裏切ったようだな」
「フン、今のあんたには分からないさ、秀人!!高みから人を見下し、己の欲望のために力を振るうあんたには、自分を捨てて一生懸命戦っているこいつらの素晴らしさが!!今のあんた、間違いなく最低だよ!!男の風上にも置けないよ!!!」
「ならば、お前もバグと認定して此処で倒す!!オメガモン、ロゼモン共々こいつらを殺してしまえ!!!」
「し、しかし、秀人、これ以上は‥‥」
「いいからやれ!!これは命令だ!!」
「‥‥」
オメガモンはガルルキャノンの砲口をロゼモンとマリに向ける。
「させねええぇぇッ!!」
「うぉぉぉぉぉー!!」
その瞬間、タイチの怒号と共に、ゼロ丸の全身から青白いオーラが爆発的に噴き上がった。
それは、古代種特有の「怒り」によるリミッター解除‥‥己の寿命(デジコア)を削って限界を遥かに超える力を引き出す、諸刃の剣。
「ブルゥゥゥアアァァァァッ!!」
ゼロ丸の姿が青き流星と化し、オメガモンとガーボたちの間に割り込む。
その全身を覆うのは、巨大な光の竜のオーラ。
「『ドラゴンインパルス』!!」
「チィッ、邪魔をするな! グレイソード!!」
オメガモンがロゼモンの茨の鞭を強引に引きちぎり、一切の躊躇なく、無双の聖剣を振り下ろす。
だが、限界を突破したゼロ丸のスピードとパワーは、オメガモンの予測を僅かに上回っていた。
ガキィィィィィンッ!!!
凄まじい金属音が響き渡る。
ゼロ丸が放った光の竜の突撃が、真っ向からグレイソードと激突し――あろうことか、最強を誇るはずのオメガモンの聖剣を、根元から真っ二つにへし折ってしまったのだ。
「な、何だと!? グレイソードが……折られた!?」
驚愕な現実に目を見張る秀人。
だが、オメガモンにはまだもう一つの絶対的な武器がある。
「ならば、ガルルキャノンで消し飛ばせ!!」
オメガモンは右腕を掲げ、絶対零度の大砲のエネルギーを充填し始める。
しかし、その動きはほんの一瞬――いや、コンマ数秒、遅れた。
(……本当にこれでいいのか?秀人)
(ネオのやり方は、本当に正しいのか……?)
オメガモンの心に疑問が芽生え始めていた。
ネオの非情な計画と、それに妄信的に従う自身のテイマーへの疑問。
それが、完璧な戦闘マシーンであるはずのオメガモンの思考に致命的なノイズを生じさせたのだ。
その僅かな迷いを歴戦のテイマーとデジモンが見逃すはずがない。
「今だ、ギガドラモン!! スカルグレイモンの時と同じように!!」
「了解だッ!!ジェノサイドギア!!」
ミコトの指示を受け、ギガドラモンの右腕から無数のミサイルが放たれる。
その中の一発のジェノサイドギアが、寸分違わぬ精度で、発射寸前のガルルキャノンの砲口の中へと吸い込まれた。
ドムゥゥゥンッ!!
内部での誘爆。
砲身が内側からひしゃげ、ガルルキャノンは完全に沈黙した。
剣を折られ、切り札である大砲を封じられた最強の聖騎士。
「いっけえええええええッ!!」
「決める!!」
「これでフィニッシュよ!!」
「ドラゴンインパルス!!」
「ヘブンズサンダー!!」
「ローゼスレイピア!!」
リミッターを解除したゼロ丸の光の竜、ギガドラモンの放つ巨大なエネルギー波、そしてロゼモンの全てを貫く茨の刺突。
三体の技が、無防備となったオメガモンの巨体に同時に突き刺さる。
しかし、オメガモンは避けようともせず、また防御の姿勢を取ろうともせず、ただ黙って攻撃を受けた。
ズガガガガガゴォォォォォォォンッ!!!
デーモン城の周囲を揺るがす大爆発。
閃光が収まると、そこには無残に膝を突き、崩れ落ちるオメガモンの姿があった。
「オメガモンッ!!」
秀人が叫ぶ。
だが、彼はすぐに冷酷なコマンダーの顔を取り戻し、デジヴァイス01を操作した。
「フン……バグの分際でよくやったと褒めてやる。だが、無駄だ! オメガモンをパーティションし、体力を回復させて再びジョグレス進化する!」
「ま、まずい、アイツ無限ジョグレスをやるつもりだ!!」
「ジョグレスした瞬間を狙い撃てば多少はダメージを‥‥」
「ハハハハハ!!無駄だ!!貴様らに永久の正義を見せてやる!!もう一度、ジョグレスだ!!出でよ、オメガモン!!」
光に包まれ、オメガモンは二体の究極体――ウォーグレイモンの「オーグ」と、メタルガルルモンの「メルーガ」へと分離した。
そして、再びジョグレスの光が……起こらなかった。
「……ん?何故だ!?何故ジョグレスしないんだ!?」
何度デジヴァイスを操作しても、オーグとメルーガはジョグレスする事なく、ただ静かに、力なくその場に座り込んでいた。
すると、オーグとメルーガが、ぽつりと静かに呟いた。
「もうやめよう、秀人……こんなこと……」
「俺たちは……負けたんだ……」
「何を言っているんだ!?まだ戦いは終わっていない!!モンスターに癖に、テイマーの命令を無視するつもりか!?さっさとジョグレスしろ!!」
血走った目で叫ぶ秀人。
だが、そうやって怒鳴り散らす秀人をオーグとメルーガはどこまでも哀れで、悲しそうな目で見つめ返した。
「なんだ……?どうして、そんな目で俺を見る!?いいからジョグレスをしろ!!モンスター共がぁ!!」
理解できないとばかりに顔を歪める秀人にタイチがずかずかと歩み寄り、その胸倉を力任せに掴み上げた。
「『ジョグレスしない』だと?それはお前が、もうそいつらのテイマーじゃないからだ!!」
「バカな事を言うな!!此奴らは間違いなく俺のモンスター共だ!!」
「パートナーデジモンの気持ちも理解できなくて、何がテイマーだ!! お前、まだ気づいてないのか!? オメガモンは……さっき、自殺しようとしたんだぞ!?」
「なっ、何だと……!?」
タイチの言葉に、秀人は息を呑み、目を見開いた。
「さっきガルルキャノンを撃つ時……オメガモンは一瞬だけ躊躇した。俺たちを倒すことをためらったんだ! だからギガドラモンの攻撃が間に合った。あいつらは、お前の命令に従って俺たちを殺すくらいなら、自分たちが倒される道を選んだんだよ!!」
「そんな……う、嘘だ……」
愕然とする秀人の背後から、ボロボロになったオーグが静かに語りかける。
「タイチの言う通りだ、秀人……俺たちは、これまでお前のために戦ってきた。お前の悲しみを‥レイへの罪悪感を少しでも拭えるなら‥と……だからこそ、どんな過酷な命令にも従ってきた」
メルーガもまた、静かに頷く。
「だが、ネオの創る世界はやっぱり間違っている。罪のないデジモンたちの命を使い捨て、命をデータとしか見ない世界に……レイが喜ぶはずがない。お前は、本当にそれでいいと思っていたのか?」
「お、俺はただ‥‥あの頃の‥‥楽しかったあの頃を‥‥取り戻そうと‥‥」
秀人の手からデジヴァイスが滑り落ち、カラカラと乾いた音を立てて岩肌を転がった。
「秀人……」
オーグが一歩進み出て、秀人の震える肩にそっと手を置く。
「僕たちは秀人を責めているんじゃない。秀人が一人で背負い続けてきた十字架は、十分に重かった。だから……もう、これ以上自分に嘘をつくのはやめてくれ」
「俺たちは、あの頃の……純粋にデジモンを愛していた、優しい秀人に戻ってほしいんだ。ネオが君に俺たちをデリートするように勧めても、君は俺たちをデリートせず、大事に育ててくれた」
「だから僕たちは君と共に、君のために強くなろうって思えた‥でも、今の君はネオと同じだ。考えも無しに弱いモンスターを倒せなんて非情な命令を下すテイマーになってしまった」
一年もの間、レイに対する罪悪感に苛まれ、すべてを押し殺してネオの計画に賛同してきた秀人の心は、そう簡単に素直になれるものではなかった。
「だ、黙れ……!デジモンの癖に知ったような口を利くな!!」
秀人は狼狽えながら後ずさるように叫んだ。
「俺は間違っていない! 現実世界は残酷だ! 理不尽な事故一つで、簡単に人間の未来を簡単に奪っていく! だから俺が、ネオと一緒に全部やり直すしかないんだ! レイのために! ネオのために! それが俺の……俺たちの正義の筈だろう!?」
血を吐くような悲痛な叫び。
しかし、そんな秀人をメルーガとオーグは静かに、そして悲しげに見つめ返した。
「秀人。本当に君がそう思っているなら‥‥」
「どうして君は、そんなに泣いているんだ?」
「えっ……?」
秀人はハッとして、自らの頬に手を触れた。
冷たい指先に、生温かい水滴が触れる。
(ば、バカなっ!?俺は……泣いているのか……?)
ネオの理想のために、心などとうの昔に捨てたはずだった。
悪魔に魂を売ったはずだった。
しかし、自らの手で愛するパートナーを死に追いやろうとした事実、そして彼らからの無償の愛と拒絶を突きつけられ、秀人の心の奥底に封じ込めていた「人間としての感情」が、限界を超えて決壊していたのだ。
「あ……ああ……」
ポロポロと、止めどなく溢れ出す涙。
その温かさが、秀人の心に分厚く張り巡らされていた氷を完全に砕け散らせた。
(俺は……なんてことを……)
ネオのために、レイのためにと心を殺してきた。
だが気づけば、自分の一番近くにいてくれたパートナーデジモンたちの心すら、自分はズタズタに引き裂いていたのだ。
そのどうしようもない事実に直面し、秀人はついに膝から崩れ落ち、両手で顔を覆った。
「ああ……あああぁぁぁ……ッ!!」
デーモン城の荒涼とした岩場に、全てを悔いる秀人の慟哭が、悲痛に響き渡った。
「済まなかった…オーグ、メルーガ…俺はお前たちのテイマー失格だ…レイの事故の埋め合わせを望むあまりに、パートナーであるお前たちまで傷つけてしまって、挙句に大切なお前たち失う所だった…心のどこかではこんなの間違いだって分かっていたはずなのに…許してくれ…オーグ、メルーガ」
「分かっているよ、秀人」
「君は優しく、僕たちにとって最高のテイマーだって」
メルーガがそっと鼻先を擦り寄せ、オーグもまた、力強い腕で崩れ落ちた秀人の背中を温かく包み込んだ。
過ちを認め、素直に涙を流す秀人の姿を見て、緊迫していたタイチやミコト、そしてマリもまた、そっと戦いの構えを解き、静かに表情を和らげる。
後悔と罪悪感に縛られ、自らの心すら殺して冷酷な仮面を被り続けていた藤本秀人の魂が真の意味で救済された瞬間だった。
「……さあ、顔を上げろよ、秀人」
タイチが一歩前に進み出て、真っ直ぐに手を差し伸べながら呼びかける。
秀人はその手をじっと見つめた後、自らの手でしっかりと涙を拭い、その手を握り返してゆっくりと立ち上がった。
その瞳からは、狂気に囚われた冷酷なコマンダーの影は完全に消え去り、かつてデジモンたちと共に笑い合った、純粋なテイマーとしての確かな光が戻っていた。
「俺たちの戦いはまだ終わってねぇ。本当の『あの頃』を取り戻すために……一緒にネオのバカの目を覚まさせに行こうぜ!」
「……ああ。俺が間違っていた……ネオの暴走は、俺の手で止める。レイを……あいつの妹を泣かせたままになんて、しておけない!」
秀人の力強い決意の言葉に、オーグとメルーガ、そしてゼロ丸やギガドラモンたちも呼応するように雄叫びを上げた。
視線の先には、いまだ禍々しい瘴気を放ちそびえ立つデーモン城。
しかし、彼らの心にもはや微塵の迷いも恐れもなかった。
最強の刺客から最も頼もしき仲間へと変わったテイマーと聖騎士の絆を加え、タイチたちは哀しき魔王を止めるべく、決戦の地へと力強く歩みを進めていくのだった――。