デジモンアドベンチャー Re:Life   作:ステルス兄貴

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三十一話 復活の魔王・最終決戦

 

ディノバレーの恐竜デジモンたちとホーリーエンジェルの防衛隊が反撃の狼煙を上げ、戦線を押し返し始めたその時、

 

ネオの苛立ちは頂点に達していた。

 

「たかがバグの寄せ集め共が……これ以上、俺の『ネオ・ワールド』創世を汚すことは許さん!!アルカディモン!!戯れは終わりだ!!城ごとすべてを『無(ゼロ)』に還せ!!」

 

ネオの冷酷な命令に応じ、戦場の中央で沈黙を保っていた異形の魔神・アルカディモンがゆっくりとその巨大な腕を振り上げた。

 

その両腕の隙間から、空間そのものを歪めるほどの圧倒的な闇――『ドットマトリックス』のエネルギーが収束していく。

 

触れたものすべてのデータを強制的に初期化し、消滅させる絶対の死。

 

「……しまっ……退避しろォォォッ!!」

 

レオの悲痛な叫びも虚しく、アルカディモンから放たれた黒い津波が、戦場を呑み込もうと牙を剥いた。

 

――だが、その絶望の波が防衛隊に届く、ほんの一瞬前のことだった。

 

ホーリーエンジェル城の中心、治療室のある塔から、天を貫くような眩い光の柱が立ち昇った。

 

「な、なんだ!?あの光は!?」

 

モニター越しにそれを見たネオが、驚愕に目を見開く。

 

それはただのエネルギーの光ではなかった。

 

古代種のバックログである三つのVタグに秘められた力、ミコトが命を削って遺した「さくら色の光」、そして何より……どんな絶望を前にしても決して折れることのない、テイマーとデジモンの「100%の絆」。

 

それらが一つに融合して生まれた、奇跡の輝きだった。

 

光の柱が『ドットマトリックス』の闇の波と激突する。

 

次の瞬間、絶対であるはずの初期化の波は、光に触れた端からシュウゥゥと音を立てて中和され、完全に霧散してしまったのだ。

 

「『アンチ・ドットマトリックス』……いや、それだけじゃない! なんだ?あのデータ量は……まさか、限界(リミット)を突破したのか!?」

 

司令室のシグマが、モニター上で狂ったように跳ね上がる観測数値を前に、震える声を上げた。

 

雲が吹き飛び、澄み切った青空が顔を覗かせる。

 

光の粒子が雪のように舞い散る中、上空から静かに降臨する二つの影があった。

 

「……待たせたな、みんな。よく持ちこたえてくれた!」

 

空中に浮かぶ輝かしい巨体の肩の上。

 

お馴染みのゴーグルを揺らし、不敵な笑みを浮かべて立つ少年――八神タイチ。

 

そして、彼の足元で雄叫びを上げるのは、かつてのブイドラモンの面影を残しながらも、全く次元の違う神々しさを纏った竜戦士だった。

 

白銀と蒼の聖なる皮膚‥‥

 

内側が艶やかな紅、外側が空の様に蒼き翼‥‥

 

アルカディモンに初期化され失われたはずの右腕と翼は、圧倒的な再生の力(アルフォース)を帯びた、眩く輝くエネルギーの刃と翼となって再構築されていた。

 

究極体、アルフォースブイドラモン!!

 

「ゼロ丸さん……!?なんて力強い光なの……」

 

観測デッキから見上げるミコトの目から、安堵の涙が溢れ落ちた。

 

トリケラモンもまた、その神々しい姿に畏敬の念を込めて低く喉を鳴らす。

 

「ば、馬鹿な……俺の計算式(プログラム)にないぞ、あの姿は!? 進化……いや、データの書き換え(オーバーライト)だと!? 究極体すら超えるというのか!」

 

ネオの狼狽える声は、モニターを通じて戦場にも響き渡っていた。

 

タイチはデジヴァイスを握る拳を、天高く突き上げる。

 

「計算外? 当然だろ、ネオ!」

 

タイチの瞳には、かつての『勝率100%テイマー』としての絶対的な自信と闘志が燃え盛っていた。

 

「お前がどれだけ完璧な数式を並べようと、俺とゼロ丸の『100%のコンビネーション』は、そんな冷たい数字なんかじゃ絶対に測れねぇ!!」

 

「そのとおり、ボクとタイチの絆の力をデータで計れると思うなよ!!」

 

タイチの言葉に呼応し、新たなる姿――超究極体、アルフォースブイドラモン・フューチャーモードへと変革を遂げたゼロ丸が、天地を揺るがすような咆哮を上げた。

 

「さあ、反撃の時間の始まりだ! 行くぜ、ゼロ!」

 

「おうッ! 今度こそ、あの不気味なバケモノを木っ端微塵にぶっ飛ばしてやるぜ!!」

 

すべてをデリートする「絶対の数式(アルカディモン)」か?

 

限界を超え、不可能を可能にする「無限の絆(タイチとゼロ丸)」か?

 

因縁の二人のテイマーによる、デジタルワールドの存亡を懸けた本当の『最終決戦(ラストバトル)』が、今、ついに切って落とされた。

 

ホーリーエンジェル城の上空‥光を纏う新たなる竜戦士・ゼロ丸と共に、タイチはデーモン城のモニター越しにネオを真っ直ぐに見据えた。

 

「ネオ! お前の『絶対の数式』の種明かしは済んだぜ! ドットマトリックスは、もう俺たちには当たらない!!」

 

タイチの宣言に、ネオは鼻で笑った。

 

「虚勢を張るな。データの完全初期化(ドットマトリックス)を前にして、貴様らに何ができる? 躱せるものなら躱してみろ! アルカディモン!!」

 

異形の魔神アルカディモンが両腕を構え、空間を歪める闇のエネルギーを圧縮する。

 

「ゼロ、今だッ!!」

 

アルカディモンからドットマトリックスが放たれたその瞬間、ゼロ丸の姿が掻き消えた。

 

闇の波動は虚空を削り取るだけで、タイチとゼロ丸の姿はどこにもない。

 

「な……消えた!?」

 

「こっちだぜ、ネオ!!」

 

ネオが驚愕するより早く、アルカディモンの遥か背後からタイチの声が響いた。

 

タイチの目は、勝率100%の計算を完璧に弾き出していた。

 

「ドットマトリックスのカラクリはわかっている。対象物を分解するのに同じ量のエネルギーを使い、分解したデータを取り込むことで『プラスマイナスゼロ』にする……だから一瞬で消え去ったように見えるんだろ? ならば、空撃ちさせれば、アルカディモンは勝手にエネルギーを消費するだけだ!」

 

タイチはシグマの解析データを基に、アルカディモンが技を放つ直前に見せる「エネルギーの減少」をシグナルとして、ゼロ丸に超高速の移動指示を出していたのだ。

 

「ま、まぐれだ! もう一度撃て、アルカディモン!!」

 

ネオの焦燥に満ちた命令で、再びドットマトリックスが放たれる。

 

しかし、

 

「遅ぇッ!!」

 

またしてもゼロ丸は波動を軽々と回避し、アルカディモンの死角である背後へと完全に回り込んでいた。

 

「もらったァァァッ!!」

 

ゼロ丸の拳が、アルカディモンの背中に深々と突き刺さる。

 

強烈な衝撃波が空気を震わせ、アルカディモンの巨体が錐揉み回転しながら地面へと叩きつけられた。

 

ズドォォォォンッ!!

 

ホーリーエンジェル城の前の大地が激しく陥没する。

 

「グォォォォ……ッ」

 

立ち上がろうとするアルカディモンの動きは、明らかに鈍っていた。

 

二発のドットマトリックスの空撃ちによる莫大なエネルギー消費が、魔神の巨体を蝕んでいたのだ。

 

「いける! このまま押し切れ、ゼロ!!」

 

「オラオラオラァァッ!!」

 

神速の動きでアルカディモンに接近したゼロ丸が、怒涛の連続攻撃を叩き込む。

 

アルカディモンは反撃すらできず、一方的に防戦を強いられ、分厚い装甲が次々と砕け散っていく。

 

誰もがアルカディモンを斃せると思った、その時だった。

 

「……ククク、ハハハハハッ!!」

 

ホーリーエンジェル城に響き渡るネオの狂気に満ちた高笑い。

 

「見事だ、タイチ。俺のアルカディモンをここまで追い詰めるとはな……だが、予測不能のバグ(イレギュラー)を消し去るための『究極のパッチ』を、俺が用意していないとでも思ったか!?」

 

ネオの手には、禍々しいエネルギーが極限まで充填された一つのアーティファクト‥‥デジメンタルが握られていた。

 

「進化の限界を超えろ!!アルカディモン!!」

 

ネオがデジメンタルを掲げると、途方もない闇のエネルギーがアルカディモンへと注ぎ込まれた。

 

アルカディモンの装甲が弾け飛び、より巨大で、より悪魔的な、神すらも冒涜するような姿へと再構築されていく。

 

究極体をも凌駕する絶望の頂――超究極体への進化。

 

「消えろ、タイチ! ゴッドマトリックス!!」

 

超究極体アルカディモンが放つ、ドットマトリックスを遥かに超える巨大な分解の波。

 

それはホーリーエンジェル城の前の大地をごっそりと消し飛ばし、底なしの巨大な暗黒のクレーターを穿った。

 

しかも、空撃ちによるエネルギー消費の反動は一切見られない。

 

完全なる破壊のエネルギーだった。

 

だが、タイチとゼロ丸は退かなかった。

 

「怯むな、ゼロ! アイツの懐に飛び込め!!」

 

「おうッ!!」

 

ゼロ丸は巨大なクレーターの縁を蹴り、ゴッドマトリックスの射線を掻い潜りながら、アルカディモンの死角へと一気に肉薄する。

 

しかし、超究極体となったアルカディモンに「死角」など存在しなかった。

 

アルカディモンの下半身や腕からは、無数の不気味な触手が蛇のように伸び、ゼロ丸へと襲い掛かる。

 

「邪魔だァッ!!」

 

ゼロ丸の右腕から眩い光の刃、アルフォースセイバーが展開され、襲い来る無数の触手を瞬く間に切り刻んでいく。

 

「そこだ!!」

 

触手を失い一瞬の隙を見せたゼロ丸の真正面に、アルカディモンは零距離からゴッドマトリックスを放った。

 

「もらったぞ、タイチ!!」

 

ネオが勝利を確信した瞬間。

 

「テンセグレートシールド!!」

 

ゼロ丸の左腕から展開された超高密度の光の盾が、絶対の破壊光波であるゴッドマトリックスと正面から激突した。

 

凄まじい光と闇のスパーク‥‥しかし、絆の力で編み込まれたゼロ丸の盾は、ゴッドマトリックスの分解エネルギーを見事に耐え抜き、完全に弾き飛ばした。

 

「ば、馬鹿な!? ゴッドマトリックスが防がれただと!?」

 

「今だ、ゼロ!! 最大出力ッ!!」

 

「シャイニングVフォース!!!」

 

ゼロ丸の胸のV字から、天を貫くほどの極太の光線が放たれる。

 

「グギャァァァァァー!!」

 

至近距離で直撃を受けたアルカディモンが苦悶の咆哮を上げた。

 

さらにその隙を逃さず、ゼロ丸は限界まで光を強めたアルフォースセイバーを一閃。

 

ズシャァァァッ!!

 

アルカディモンの巨大な左腕が、綺麗な断面を残して宙を舞い、地面へと崩れ落ちた。

 

「ア……アルカディモンが……ば、バカな‥‥俺の‥完璧で‥最強の魔神が……こんなバク共にッ!!」

 

ネオはグリフォモンの背中に乗ったまま血走った目を剥き、

 

「撃て! 撃て、撃て、撃てェッ!! ゴッドマトリックスを連射しろ!!あのバグを消去しろ!!」

 

片腕を失いながらも、ネオの悲痛な命令に従い、アルカディモンは乱れ撃ちのようにゴッドマトリックスを放ち続ける。

 

その破壊の波は狙いを定めず、周囲の大地をただ無差別に消し去っていく。

 

「バグなんて認めない……! 予測不可能な世界なんて認めない……!!」

 

ネオの口から漏れるのは、もはや神を気取るテイマーの冷徹な言葉ではなく、傷ついた少年の悲痛な叫びだった。

 

「予測不可能な事故なんて認めない! 俺の世界(ネオ・ワールド)には、あんな理不尽な悲劇など絶対に認めないんだァァッ!!!」

 

タイチは、その悲痛な叫びの中に、ネオがずっと心の奥底に封じ込めてきた妹・レイの凄惨な事故の記憶を感じ取っていた。

 

「事故!?ネオ、やっぱりお前はレイの脚の事故を‥‥」

 

狂気に満ちた破壊の嵐の中で、秀人はただ一人、かつての親友を悲しげな、だが強い決意の籠った瞳で見据えていた。

 

「レイ、もう一度考え直せ‥‥もう直ぐだ。俺たちの世界はもう直ぐ完成する。その世界では、お前は自由に歩くことが出来る。走る事も出来るし飛び跳ねる事だって‥‥あんな予測不可能な事故なんて起きない世界がもう少しで手に入るんだ‥‥レイ、分かってくれるよな‥‥?」

 

血を吐くようなネオの叫びが、破壊の嵐が吹き荒れる戦場に虚しく響き渡った。

 

天才テイマーとしての冷酷な仮面は完全に剥がれ落ちていた。

 

そこにあるのは、ただ妹の幸せを願い、そのための手段を間違えてしまった一人の不器用な兄の姿だった。

 

だが、その狂気と悲哀に満ちた懇願を遮ったのは、他でもない、彼がすべてを懸けて守ろうとした妹・レイ自身の声だった。

 

レイはネオの前に出て、

 

「……違うよ、お兄ちゃん」

 

その震える声は、戦場を覆う爆音を突き抜け、ネオの心を真っ直ぐに射抜いた。

 

「私はそんなこと、一度も望んでない! 私が歩ける代わりに、誰かの命を奪ったり、この温かい世界を壊したりするくらいなら……私、一生歩けなくたっていい!!」

 

「……ち、違う!!」

 

ネオは反射的に首を振り、血を吐くように叫び返した。

 

これまで何十もの試練を乗り越え、すべてを犠牲にしてまで創り上げようとした世界と己の行動を、他でもない妹に否定されたのだ。

 

その絶望と執着は、容易く消え去るものではなかった。

 

「違う……レイは、本当は歩きたいはずだ!! 誰も見ていないところで、何度も泣いていたじゃないか!?俺は知っているんだ!!」

 

「歩きたいよ!」

 

レイの力強い叫びが、ネオの悲痛な抵抗を真っ向から受け止めた。

 

「歩きたい……それにまた走れるようになりたいよ! でも……誰かを傷つけてまで、誰かの笑顔を奪ってまで叶えたい願いじゃない!! そんな風にして叶った願いで、私が心から笑えるわけがないじゃない!!」

 

「レイ……っ!? でも、お前はあの事故のせいで……俺が少し目を離したせいで、脚が‥‥」

 

ネオの顔が苦痛に歪む。過去のトラウマが、深い自責の念となって彼を苛み続けていた。

 

「お兄ちゃんのせいじゃない! 事故は……誰のせいでもない、ただ起きてしまったことなの。でも、私は不幸じゃないよ。だって、私をこんなに想ってくれるお兄ちゃんがいるんだから……! だから、もう誰かを傷つけるのはやめて!」

 

涙ながらのレイの叫びに、ネオは雷に打たれたように言葉を失った。握りしめていたデジヴァイスが、カタカタと震える。

 

「ネオ……聞こえたか?それがレイちゃんの本当の気持ちだ」

 

空中に浮かぶオメガモンと共に、秀人が静かに、だが力強い声で語りかけた。

 

かつてネオと共にエイリアスⅢとして戦い、そして道を違えた親友の瞳には、深い哀れみと、共にやり直したいという強い願いが込められていた。

 

「お前はレイのためだと言いながら、本当は自分自身が『予測不可能な現実』から逃げたかっただけじゃないのか? 傷つくのが怖くて、すべてを計算通りに支配したかっただけなんだ」

 

「……だ、黙れッ! お前に‥‥お前たちに、俺の……俺たち兄妹の苦しみがわかってたまるか!!」

 

ネオは頭を抱え、獣のように呻いた。彼の心の中で、完璧だったはずの「絶対の数式」が音を立てて崩壊していく。

 

「わかるさ」

 

秀人はオメガモンの肩から、かつての親友を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「俺だって……あの日、あの事故の日からずっと逃げ続けていた。理不尽に大切なものが奪われる現実が恐ろしくて、だからこそ、お前の創る計算通りの世界に縋りついたんだ」

 

秀人の声には静かな後悔と、それを乗り越えた確かな強さが滲む。

 

「でもな、ネオ。誰よりも理不尽な思いをして、一番傷ついていたはずのレイは……俺たちなんかより、ずっと前を向いていたんだよ」

 

その言葉に、ネオはハッと息を呑み、涙を流すレイの姿を見つめた。タイチが、ゼロ丸の肩の上からネオへと声を繋ぐ。

 

「未来が予測できないからこそ、俺たちはもがいて、悩んで、誰かと手を取り合って生きていけるんだ。バグも、イレギュラーも、全部ひっくるめて『生きる』ってことなんじゃねぇのか!?」

 

「そうだぜ! 痛てぇ思いをするからこそ、強くなれるんだ!!」

 

タイチとゼロ丸の放つ、嘘偽りのない真っ直ぐな光。それは、ネオが創ろうとした無菌室のような『ネオ・ワールド』には決して存在しない、泥臭くも温かい命の輝きだった。

 

「命の輝き……俺たちよりずっと前から、レイは……そうか……俺は、一番大切なものを、俺は‥見落としていたのか……?」

 

ネオの目から、堰を切ったように涙がこぼれ落ちた。

 

妹の笑顔を取り戻すために始めたはずの戦いが、いつの間にか妹を最も悲しませるものになっていたという残酷な真実‥‥

 

彼はようやく、自らの過ちを、そして本当に守るべきだったものを受け入れたのだった。

 

すると、超究極体のアルカディモンの姿が光に包まれ、ドロドロと退化を始めた。

 

「アルカディモンが……」

 

「退化した……」

 

「デジメンタルが力を失ったんだ……」

 

ネオの手からは光を失ったデジメンタルが滑り落ち、地面で鈍い音を立てる。

 

同時に、ネオの身体を包んでいた禍々しい邪気が霧散していった。

 

激しい頭痛と自己嫌悪に苛まれ、何とか呼吸を整えるのに必死なネオの元へ、ジジモンが静かに歩み寄る。

 

「ネオよ……デジメンタルは、人の純粋な思いで発動するんじゃ。だからこそワシは、心を失ったお主には使いこなせないと思っておった。じゃが……ネオ、お前の妹に対する思いだけは、どこまでも純粋で飾り気のないものじゃったのだろう。じゃからこそ、デジメンタルはお前に力を与えたんじゃ……しかし、お前さんは漸く、その手段が間違いだということが分かったのであろうな」

 

ジジモンの言葉に、ネオはただ深く俯くしかなかった。

 

そこへ、レイが兄の震える手をそっと包み込む。

 

「お兄ちゃん。例え私が歩けるようになっても、ここは現実世界じゃない。私、現実の世界に戻ったら、一生懸命リハビリがんばる。リハビリして、自分の足でまた歩けるようにするから……だから、私たちの世界に帰ろう?」

 

「レイ……」

 

その温かい手の感触に、ネオは憑き物が落ちたように、ようやく肩の荷が下りた気がした。

 

傲慢な天才テイマーの仮面は完全に消え去り、そこにはただ、妹を愛する優しい兄の瞳が戻っていた。

 

「これで、アルカディモンの脅威も去ったか……」

 

「ああ、やっと世界に平和が戻ったんだな……」

 

ホーリーエンジェル城の防衛隊やテイマーたちから、安堵の溜息が漏れる。

 

ネオが完全に戦意を喪失したことで、この不毛な戦闘は終了した。

 

デーモンは既にアルカディモンに喰われて消滅しており、あとはこの力を失った魔神をどこかに永久封印すれば、デジタルワールドに平穏が戻る――誰もがそう確信した、その時だった。

 

「フハハハハ!!! 本当にそう思っているのか!?」

 

「っ!?」

 

「えっ?」

 

「アルカディモンが……」

 

「喋った!?」

 

これまで「ギギギ……」と不気味な鳴き声しか発さず、究極体になっても人語を話さなかったアルカディモンが、突如として禍々しい重低音の声を響かせたのだ。

 

「いや、あれはアルカディモンではない。あの傲慢な声は……デーモンだ!!」

 

かつてデーモンと対峙した経験を持つホーリーエンジェモンが、その声の主の正体を瞬時に見抜く。

 

「何!? デーモンだと!?」

 

「あ、有り得ない! お前はアルカディモンに喰われて、完全に消滅したはずじゃあ……!」

 

実際にアルカディモンにデーモンを襲わせ、そのデータを吸収させたネオ本人が、驚愕に目を見開いて否定する。

 

しかし、アルカディモンの巨体から溢れ出る闇の波動は、嘲笑うかのように激しさを増していく。

 

「フハハハハ!! ワシを見くびるなよ、小僧。貴様の浅知恵など、とうにお見通しだ!!」

 

デーモンは最初から、ネオがいずれ自分を裏切ることなど予期していたのだ。

 

「ワシは消えてなどいない。自分の意志でアルカディモンの中に入ったのだ。そして、この完璧な魔神のデータを内部よりジワジワと書き換えていたのよ!」

 

「何だと!?」

 

「内部からの書き換え……!」

 

「た、確かにデーモンは、0と1の配列を自由自在に操作し、データを書き換える能力(オーバーライト)を持っているって聞いていたけど……」

 

「トリケラモンに狂暴な力を与えたのも、その応用だったわけか……!?」

 

「奴がアルカディモンに吸収された後、まさかその精神と能力を保ったまま体内で生き続けていたなんて……!」

 

タイチたちが戦慄する中、アルカディモンの身体が内側から弾け飛び、ドス黒い魔王の皮膚とアルカディモンの異形が融合を始める。

 

「時間こそかかったが、ワシは完全にアルカディモンの主導権を奪い、その全データを掌握した。つまり……すべてはワシの計画通りだったというわけだ!」

 

「貴様の計画通りだと……!?」

 

裏切ったつもりが、最初からデーモンの手のひらの上で踊らされていた事実に、ネオの顔が青ざめる。

 

「そうだ、愚かな小僧よ。貴様のネオ・ワールド等と言う青臭くちんけな野望など、ワシの描いたグランドシナリオの一部に過ぎん! ワシには、超究極体のデジタマを急速に育成させ、デジタルワールドへの強い執着によってデジメンタルを起動・定着させられる、貴様のような都合の良い『触媒』が必要だったのだ!!」

 

「つまり……お前は最初から、俺を利用するために……!」

 

「貴様らの矮小な憎しみや絶望を増大させ、利用することなど、魔王たるワシにとっては朝飯前よ。ククク……用済みの操り人形は、そこで自分の無力さに絶望しているがいい!」

 

冷酷な事実を突きつけられ、精神的な限界を迎えたネオの意識が急速に朦朧としていく。

 

あまりのショックな事実に崩れ落ちそうになる兄をレイが必死にその小さな身体で支えた。

 

「ネオ!! ……よくも、よくもネオの心を弄びやがったな、デーモン!!」

 

タイチが怒りに拳を握りしめ、デーモンを睨みつける。

 

しかし、デーモンの変貌は止まらない。

 

アルカディモンの究極体データを強引に書き換え、自らの魔王のデータと融合させたその姿は、かつてのデーモン、そしてアルカディモンをも遥かに凌駕する、絶対的な破壊の権化へと変貌を遂げていく。

 

背中から生える巨大な蝙蝠の様な黒い翼。

 

全身を覆うのは、あらゆる光を吸収する漆黒の装甲。

 

溢れ出るデジタルハザードの波動が周囲の空間そのものをメキメキと軋ませる。

 

『デーモン超究極体』。

 

神の領域すら冒涜する究極の魔王がついにデジタルワールドへと降臨した。

 

「すべてを滅ぼし、ワシが統べる暗黒の時代を始めようぞ……貴様等人間界もいずれはワシのモノだ!ハハハハハ‥‥」

 

デーモン超究極体が放つ圧倒的なプレッシャーに戦場全体が恐怖に凍りつく。

 

だが、その絶望の前に、蒼き聖鎧を纏った竜戦士が立ちはだかった。

 

「やらせるかよ! どんなバケモノだろうと、ボクとタイチが叩き潰してやる!!」

 

究極体のアルフォースブイドラモンに進化を遂げているゼロ丸が、眩いアルフォースの翼を羽ばたかせ、神速の突撃を敢行する。

 

右腕から光の刃『アルフォースセイバー』を展開し、デーモンの胸元へと一閃を繰り出した。

 

ズシャァァァッ!!

 

鮮烈な光の一撃がデーモンの漆黒の装甲を切り裂く。

 

しかし、デーモンは痛がる素振りすら見せず、不気味に口元を歪めた。

 

「無駄だ。ワシの一撃を受けてみよ!」

 

デーモンの巨大な爪がゼロ丸を強襲する。

 

ゼロ丸はすかさず左腕の『テンセグレートシールド』でそれを受け止めた。

 

凄まじい衝撃波が走り、ゼロ丸の身体が後方へと吹き飛ばされる。

 

「くっ……! だけど、ボクにはどんな傷も一瞬で再生する『アルフォース』がある!」

 

ゼロ丸はすぐさま体勢を立て直そうとするが、その動きがピタリと止まった。

 

盾で防ぎきれず、掠ったはずの腕の装甲から、不気味な黒いノイズが走り、傷口が広がっていく。

 

「な、何だ?これ……!? 傷が……再生しない……!?」

 

「ゼロ! どうしたんだ!?」

 

タイチが驚愕の声を上げる。

 

ゼロ丸の誇るあらゆるダメージを瞬時に消し去る超再生能力『アルフォース』が、全く発動していないのだ。

 

「フハハハ! 気づいたか? ワシの攻撃は単なる破壊ではない。アルカディモンのデータを書き換えたワシの力は、触れた対象の『再生プログラムそのものを消去・改ざん』するのだ! いかに無敵の再生能力を持とうと、そのシステム自体をバグに書き換えられれば、ただの肉塊に過ぎん!」

 

「そんな……システムの改ざんだと……!?」

 

焦るタイチを他所に、デーモン超究極体の容赦ない追撃が始まる。

 

オメガモン、ロゼモン、ギガドラモンが援護のために飛び出すが、デーモンが放つ暗黒の波動の前に一撃で吹き飛ばされ大地へと叩きつけられていく。

 

「これで終わりだ! 消え失せるがいい、勝率100%のテイマーよ!」

 

「負けるかよ……! ゼロ、最大出力だ! 『アルフォースブイブレスアロー』!!」

 

ゼロ丸が胸のV字から、魂を込めた絶大の光線を放つ。

 

それはデーモンを真っ向から撃ち抜くはずの、魂の一撃だった。

 

しかし――。

 

「ヌウゥゥンッ!!」

 

デーモンが大きく口を開けると、その光線がまるで渦巻く水のように、デーモンの体内に吸い込まれていく。

 

アルカディモンが持っていた「相手のデータを吸収する力」をも、デーモンは完全に己のものとして引き継いでいたのだ。

 

「馬鹿な……ゼロの最大出力の技をそのまま吸収しやがった……!」

 

「あ、あいつ、ボクのエネルギーを吸って、さらに強くなって……っ」

 

技を吸収され、逆にエネルギーを奪われたゼロ丸が、膝を激しく地面につく。

 

オメガモンは満身創痍で立ち上がれず、ロゼモンもオメガモン同様、体中が傷だらけで、ギガドラモンは既に主翼を失い地に伏している。

 

完璧な絶望が、再びホーリーエンジェル城を支配しようとしていた。

 

その凄惨な光景をトリケラモンの背の上から見つめる少女がいた。

 

ミコトだった。

 

「みんなが……ゼロ丸さん……タイチさん……」

 

戦闘の余波でボロボロになり、データが消滅しかけているデジモンたち。

 

自分たちの世界を守るために、命を懸けて戦ってくれている仲間たち。

 

「……誰も、死なせたくない」

 

ミコトの胸の奥から、絞り出すような感情が溢れ出た。

 

これまで彼女の「さくら色の光(ヒーリング)」は、使うたびに自身の体力を激しく消耗する諸刃の剣だった。

 

ミコトがその力を極限まで引き出そうとしていることに彼女を背に乗せているトリケラモンが真っ先に気づいた。

 

「よせ、ミコト! これ以上その力を使えば、お前の生命データそのものが消えてしまうぞ!!」

 

ミコトを背中に乗せているトリケラモンが悲痛な鳴き声を上げ、首を振って彼女を静止しようとする。

 

そのただならぬ様子と、ミコトの身体から漏れ出し始めた淡い光を見て、タイチたちも事態の深刻さを察した。

 

「よせ、ミコト! お前まで犠牲になる必要はねぇ!!」

 

タイチが血を吐くような声で叫ぶ。

 

マリも、涙ながらに訴えかけた。

 

「やめてミコト! これ以上は限界を超えちゃう! あなたの命がなくなっちゃうよ!!」

 

デーモンの攻撃を受け地に伏していたギガドラモンも、薄れゆく意識の中で彼女を見上げ、低く唸った。

 

「やめろ……僕たちのために、お前の命を削るな……!」

 

彼女の能力のリスクを知る者たちが、口々にミコトを止めようと必死に叫ぶ。

 

今ここで全力を出せば、自分の生命データそのものが完全に消え去ってしまうかもしれない。

 

それでも、彼女の心に迷いはなかった。

 

ミコトは皆の悲痛な声に、ただ優しく、決意に満ちた微笑みを向ける。

 

「お願い……みんなを‥‥みんなの命を守って!!」

 

ミコトが両手を天に掲げた瞬間、彼女の身体が、これまでにないほど眩しく、そして消え入りそうなほど淡く儚い、幻想的な「さくら色の光」に完全に包まれた。

 

その光は、彼女自身の「生への圧倒的な渇望」と「仲間を救いたいという純粋な精神データ」そのものだった。

 

その爆発的な感情エネルギーとミコトが首から下げていた『蒼海のタグ』 『幻夢のタグ』が奇跡的な共鳴を起こす。

 

光が収まるとミコトの首には二つのタグではなく、見たこともない強固なプログラムの結晶――【生命の紋章】が輝いていた。

 

 

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「これは……新しいデータ配列……いや、命そのものの概念か!?」

 

司令室のシグマが驚愕の声を上げる。

 

ミコトから放たれた生命の紋章の光は、瞬時に戦場全体へと広がり、傷ついたデジモンたちのデータを優しく包み込んだ。

 

デーモンによって書き換えられた「再生不能バグ」が次々と上書きされ、消去されていく。

 

そして、その聖なる桜色の光を最も強く浴びたのは、メタルグレイモンの心を宿したサイボーグ竜、ギガドラモンだった。

 

「ギガドラモン……貴方の中に眠る不屈の闘志と私の命を……!」

 

ミコトの心の声が、ギガドラモンのコアに直接響く。

 

かつての戦闘で、ギガドラモンのデジタルコアには「メタルグレイモンの心(正義・不屈の闘志)」が宿っていた。

 

本来、ギガドラモンがさらに進化する先にある「メギドラモン」という存在は、世界を滅ぼすほどの邪悪なデジタルハザードを撒き散らす、忌むべき破滅の竜である。

 

しかし今、そのコアに宿る「不屈の正義の心」と、ミコトが命を懸けて発動させた「生命の光」が奇跡の融合を果たした。

 

荒れ狂う破滅の力を、世界を、生命を守るための「鋼鉄の聖炎」へと正しく制御する反転プログラムが作動する。

 

「おおおおおォォォォッ!!!」

 

ギガドラモンの口から、天を焦がすような咆哮が上がった。

 

全身から禍々しい暗黒のエネルギーが噴出するが、それは瞬時にミコトのさくら色の光と混ざり合い、美しく輝く聖なる金属へと昇華していく。

 

「滅びの竜」と「命を育む光」――相反する二つの力が完全に調和した、気高き聖なるサイボーグ型暗黒竜‥‥

 

「ギガドラモン、超進化ァァッ!!! 『メタルメギドラモン』!!!」

 

眩い光の中から、その神々しくも雄々しい姿が現れた。

 

その全身から放たれるのは、デーモンの放つデータ消去プログラムを真っ向から中和する、無限の生命力を孕んだ輝き。

 

デーモン超究極体の絶対的な絶望に対抗できる、唯一無二の破壊と希望の竜戦士が、今、確固たる意志を持って戦場に降臨した。

 

 

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タイチはボロボロになりながらも、再び力強く立ち上がったゼロ丸と共に、メタルメギドラモンを見上げた。

 

その瞳には、再び「勝率100%」を確信する絶対の闘志が灯っていた。

 

「待たせたな、タイチ、ゼロ丸! 僕たちの本当の反撃は、ここからだ!!」

 

「メタルメギドラモン……! メタルグレイモンの正義の心と、ミコトの命の光が、あのデジタルハザードのエネルギーを完全に手懐けやがったのか……!?」

 

タイチは、眼前に聳え立つ気高き聖竜の姿に息を呑んだ。

 

ブルーデジゾイドと硬質なサイボーグシェルに覆われた強靭な巨体、背部から燃え盛る「蒼い命の焔」の巨大な翼、そして胸部に輝く真紅の「V」の紋章。

 

それは歪んだ進化の歴史を乗り越え、真の勇気と絆を証明した勝利の証だった。

 

「チィィッ! どこまでもイレギュラーのバグを吐き出す奴め……!たかが究極体ごときのモンスターが、超究極体となったワシの絶対的な暗黒に勝てると思うてかぁぁッ!!」

 

デーモン超究極体が怒狂い、触れたものすべての再生システムをバグへと書き換える凶悪な暗黒の波動を放った。

 

周囲の空間そのものがメキメキと軋み、黒いノイズがメタルメギドラモンへと襲い掛かる。

 

「やらせるかよ! ギガドラモン……いや、メタルメギドラモン! ミコトの想いを、お前のその胸の『V』の力をデーモンに見せてやれ!!」

 

タイチの叫びに応じるように、メタルメギドラモンの胸の真紅の紋章が、眩い桜色の輝きを放ち始めた。

 

「ウォォォォォォォッ!!! 『ライフハザード・オーバーライト』!!!」

 

極大の桜色の衝撃波が、メタルメギドラモンの胸から周囲一帯へと爆発的に放射された。

 

それはデーモン超究極体が展開していた「データ消去・改ざん」の暗黒領域を真っ向から押し返し、力づくで中和していく。

 

漆黒に染まっていた戦場の大地と空間のデータが、瞬く間に「正常な状態」へと強制的に上書き補正されていく。

 

「な、何だと!? ワシの暗黒の領域が……上書きされていくというのか!?」

 

デーモンが驚愕に目を見開いたその瞬間、地に伏していたゼロ丸の身体が、爆発的な蒼き光に包まれた。

 

バチバチバチッ! とゼロ丸の腕を蝕んでいた黒いノイズが霧散し、みるみるうちに聖なる装甲が再構築されていく。

 

「うおおおおおッ! 体の底から力がみなぎってくるぜ! 傷が……傷が一瞬で消えていくッ!!」

 

ゼロ丸が力強く大地を踏み締め、天高く跳躍した。

 

アルフォースブイドラモン超究極体(フューチャーモード)の誇る、あらゆるダメージを瞬時に無に帰す超再生能力『アルフォース』が、メタルメギドラモンのプログラム上書きによって完全に復活したのだ。

 

「よし、ゼロ! デーモンの『再生不能バグ』は、メタルメギドラモンが完全に焼き尽くしてくれた! ミコトたちが繋いでくれた最高のカウンターチャンスだ、一気に行くぞ!!」

 

「おうよ、タイチ! ボクたちの『100%のコンビネーション』、今度こそあのクソ悪魔にトドメを刺してやるぜ!!」

 

タイチのデジヴァイス01が限界を超えて輝く。

 

勝率100%のテイマーの頭脳が、デーモンを完璧に打ち倒すための勝利の数式を弾き出した。

 

「おのれぇぇ! ならばその輝きごと、すべてを吸い尽くしてワシの糧にしてくれるわッ!!」

 

デーモン超究極体が巨大な口を開け、アルカディモンから引き継いだ「相手のデータを強制吸収する」暗黒の渦を展開した。

 

あらゆる攻撃を吸い取り、自らの力に変える絶対の盾。

 

「それも見切っているぜ! メタルメギドラモン、デーモンの口を塞げ! 『ジェノサイドメギドフレア』だ!!」

 

メタルメギドラモンが大きく口門を開き、同時に背部の蒼炎の翼を大きく広げた。

 

「グラァァァァァッ!!!」

 

次の瞬間、口門と翼から、天を割るほどの超高密度のプラズマエネルギー光線が同時に一斉照射された。

 

激しい音を立ててデーモンの暗黒の渦へと突っ込んでいく蒼い業火。

 

「ハハハ! 愚か者が! 貴様らの全力のエネルギー、すべてワシが喰らい尽くし……な、何だと!? ぐ、ぐわあああああッ!?」

 

吸収しようとしたデーモンが、突如として激しい拒絶反応を起こし、苦悶の悲鳴を上げた。

 

メタルメギドラモンの放つ蒼い業火は、ただの破壊のエネルギーではない。

 

設定したデータのみを選択して完全に消滅させ、逆に味方のデータ構造を活性化・修復する「生命の炎」だったのだ。

 

暗黒のデータを喰らうことで肥大化してきたデーモンの体内で、悪意のコードだけが選択的に消滅させられ、逆に聖なる生命のエネルギーが急激に流入したことで、データの制御が完全に暴走を始めた。

 

「バ、馬鹿な……! 吸収したエネルギーが……ワシの暗黒のデータを内側から消し去っていく……!?」

 

「今だ、ゼロ! 最大神速で懐に飛び込め! メタルメギドラモン、デーモンの動きを完全に封じろ!!」

 

タイチの完璧な指示が飛ぶ。

 

メタルメギドラモンの背後から、2本の金色の尾「ゴールドスピアテール」が、目にも留まらぬ亜光速で射出された。

 

「『ギルティ・ツインランサー』!!!」

 

シュパァァァンッ!!

 

「ギャァァァァッ!?」

 

鋭い金属音が響き、ゴールドスピアテールがデーモン超究極体の巨大な両肩、そしてコアの直近を正確に刺し貫いた。

 

強固なブルーデジゾイドの拘束具のように、デーモンの巨体が完全に空中で縫い付けられる。

 

それと同時に、ミコトの「生命の紋章」から供給される無限の生体データが、尾を通じてデーモンのシステム内へ直接注入(インジェクション)された。

 

「お、おのれ……! 動けん……! それに、何だ?この溢れんばかりのデータ量は……! ワシの体、ワシの暗黒データが……飽和していく……! 崩壊する、システムが、強制終了(シャットダウン)させられるゥゥッ!!」

 

内側から桜色の光が漏れ出し、膨張し、完全に身動きが取れなくなったデーモン超究極体。

 

その絶望の魔王の頭上へと、眩い蒼白の光を纏ったゼロ丸が、限界を超えた速度で肉薄していた。

 

右腕のアルフォースセイバーが、太陽のごとき輝きを放ち、胸のV字の紋章から無限のアルフォースエネルギーが溢れ出る。

 

「ネオ……秀人……マリ……そしてミコト。みんなの想いと、この世界で生きているすべてのデジモンたちの命の輝き……!」

 

タイチはデジヴァイスを握りしめ、魂の底から叫んだ。

 

「お前がどれだけ理不尽な絶望を押し付けようと、俺たちの未来は、お前なんかに消させやしない!! ゼロ丸、これが俺たちの……100%の力だァァァッ!!!」

 

「これで終わりだァァァッ! デーモン!! 『アルフォースブイブレスアロー』!!!」

 

ゼロ丸の胸のV字から、デジタルワールドの夜明けを告げるかのような、極大の、そして絶対的な蒼き光線が放たれた。

 

その一撃は、メタルメギドラモンの『ギルティ・ツインランサー』によって完全に動きを止められ、内側から飽和していたデーモン超究極体のコアを、真っ向から、寸分の狂いもなく貫いた。

 

「バ…バカな…ワシが……この超究極体の力を得たワシが……人間の子供とバグの寄せ集め如きに……敗れるというのか……ッ!?認めん……こんな結末、断じて認めんぞォォォッ!!」

 

デーモンは呪詛の言葉を吐き散らしながら、断末魔の叫びを上げた。

 

だが、その全身が光と炎に包まれ、完全に分解されるまさに直前――魔王の引き裂かれた執念の眼差しが、空中で意識を失いかけている少女、ミコトをハッキリと捉えた。

 

限界を超えて力を引き出した彼女の生命データは、今まさに0になろうとしていた。

 

本来ならば、この奇跡と引き換えに彼女は完全に消滅する運命にあったのだ。

 

(フフフ……まだだ……まだワシは終わらんぞ……!)

 

(今度はお前の未知なる力を使わせてもらうぞ‥‥)

 

巨体が霧散していくその一瞬の隙、デーモンのコアから、肉眼では捉えられないほど微細な、しかし絶対的な悪意を孕んだ「黒い粒子」が密かに放たれた。

 

(人間よ……幼きお前でも‥どれほど清らかでも、心には必ず闇はある。空っぽになったその器、我が因子で満たしてくれようぞ……)

 

その声は誰の耳に届くこともなく、ただ呪縛のコードとなって空間を奔った。

 

空中を滑るように漂った黒い粒子は、消滅の一歩手前にあったミコトの身体へと、音もなく、吸い込まれるように体内へと入っていく‥‥。

 

それはあまりにも微かで、悪意を焼き尽くすはずのメタルメギドラモンの生命の炎さえも通り抜け、ミコト本人も含めて、その場にいる誰も気づくことはなかった。

 

欠落しかけていた彼女の生命データは、皮肉にもその「デーモンの種子」が楔となることで、ギリギリのところで崩壊を免れ、現世に縫い留められたのだ。

 

直後、ゼロ丸の放った絆の光と、メタルメギドラモンの放った生命の炎が、デーモン超究極体の残骸を‥世界を脅かしたリライトコードのすべてを一欠片のデータも残さず、完全に消滅させた。

 

ズドォォォォォォォンッ!!!!!

 

ホーリーエンジェル城の上空で、光と闇の爆発が起き、そして――すべてが、白光の中に消え去った。

 

数瞬の後。

 

激しい戦闘の余波が収まり、ゆっくりと視界が戻ってくる。

 

不気味な黒い雲は完全に吹き飛び、デジタルワールドの空には、これまで見たこともないほどに澄み切った、美しい青空が広がっていた。

 

「やった……のか?」

 

城の観測デッキから、シグマが呆然とモニターを見つめる。

 

「デーモン超究極体……データの消滅を確認」

 

マリの弾んだ声が響き渡り、次の瞬間、ホーリーエンジェル城全体が、割れんばかりの歓声に包まれた。

 

防衛隊のデジモンたちも、お互いに抱き合って涙を流している。

 

「ふぅ……終わった、終わったんだな、タイチ」

 

フューチャーモードから通常のアルフォースブイドラモンの姿へと戻ったゼロ丸が、ドサリとタイチの隣に腰を下ろし、豪快に笑った。

 

「ああ。最高の戦いだったぜ、ゼロ!」

 

タイチはゼロ丸の大きな手に拳をコツンとぶつけ、相棒との勝利の余韻に浸った。

 

地上では、ゆっくりと巨体を降ろしたメタルメギドラモンの姿があった。

 

その傍には、トリケラモンに支えられたミコトが、そっと地面に降り立つ。

 

彼女の身体からは、あの消え入りそうだった儚い光はなくなり、健康的で温かい生気が戻っていた。

 

メタルメギドラモンの『ジェノサイドメギドフレア』の生命の炎が彼女を癒したのだと、誰もがそう信じて疑わなかった。

 

「ミコト!!」

 

「ミコトちゃん!」

 

タイチとゼロ丸が駆け寄る。

 

ミコトは二人を見つめ、それから自分の命を救い、共に戦ってくれた頼もしい聖竜――メタルメギドラモンを見上げて、心からの笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう、メタルメギドラモン。私……生きている。みんなと一緒に、この世界を守れたんだね」

 

「ああ、そうだ‥‥僕たちは今度こそ、勝ったんだ!!」

 

メタルメギドラモンは、その恐ろしくも神々しい鉄の顎を少しだけ緩め、優しく、誇らしげに低く喉を鳴らした。

 

その胸の「V」の紋章は、タイチとゼロ丸、そしてミコトたちの間に結ばれた、絶対に切れることのない無限の絆の証明として、青空の下でいつまでも眩しく輝き続けていた。

 

――だが、その歓喜と絆の光に満ちた平穏の裏で‥‥

 

(小娘よ、貴様の生命の光の奥底で、ワシは再び蘇る……その闇が芽吹く日を楽しみにしているぞ……)

 

「ん?今、誰かに呼ばれたような……?」

 

ミコトがふと、何かに引き寄せられるように、遥か彼方の空を見つめた。

 

「‥‥」

 

その瞬間、彼女の美しい薄紫色の瞳の奥が、ほんの一瞬だけ、不気味な真紅へと妖しく染まった。

 

誰も気づかない、命の奥底に深く植え付けられた暗黒の種子。

 

自らの命を代償にした少女は、最悪の魔王の呪いによってその命を繋ぎ止めてしまったのだ。

 

デジタルワールドに訪れた本当の平和の裏で、新たなる災厄の鼓動が、静かに、しかし確実に始まりを告げていた――。

 




オリジナルデジモン メタルメギドラモン


【挿絵表示】


レベル: 究極体

タイプ: サイボーグ型暗黒竜デジモン

属性: ウィルス種


全身の装甲はブルーデジゾイドと硬質なサイボーグシェルで覆われており、背部からは制御されたデジタルハザードのエネルギーが「蒼い命の焔」となって巨大な翼を形成している。

胸部にある真紅の「V」の紋章は、歪んだ進化を乗り越え、真の勇気と絆を証明した勝利の証。2本に分かれた強靭なワイヤー状のゴールドスピアテールは、敵のデータ構造を物理的・論理的に穿ち、テイマーの意志をダイレクトに叩き込む機構を持つ。


【必殺技】

ジェノサイドメギドフレア

口門および背部の蒼炎の翼から、超高密度のプラズマエネルギー光線を同時に一斉照射する。

この蒼い業火は、任意あるデータのみを選択して完全に消滅させ、巻き込まれた味方の傷ついたデータ構造を逆に活性化・修復する「生命の炎」である。


ギルティ・ツインランサー

背後から伸びる2本の金色の尾「ゴールドスピアテール」を亜光速で射出し、敵のコアを正確に刺し貫く。

貫通と同時に、データを内側から飽和させて強制シャットダウン(崩壊)に追い込む。

ライフハザード・オーバーライト

胸部の真紅の「V」の意匠から、周囲一帯に向けて極大の桜色の衝撃波を放つ最大出力のプログラム兵器。
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