大罪的百合は如何にして成るか 作:モラトリアム末期
「ねえ、ロミオ。今度、家の最寄り駅付近にショッピングモールができるから遊びに来ない?」
「まずはその呼び方をやめてくれる? ジュリエットのなり損ないさん」
「ひどい。そんなこと言うロミオには、この毒薬をあげましょう」
「まずは自分で飲んで、それから他人に勧めなさい」
コーラとメロンソーダとグレープジュース、それに色々なものを混ぜた飲み物を差し出すと、平然と断られた。
仕方なく自分で飲んでみると、混ざった味が深みを生み、甘味料の渋滞を招いていた。
控えめに言って美味しくない。
「んぇ」
「柳って、頭良いのに馬鹿よね」
私と名雪はファミリーレストランにいた。
特にこれといった理由はない。
ただ二人とも弁当がなく、昼は外食を選んだというだけの話だ。
とはいえ、名雪は演劇の練習途中だったため、青いジャケットに白シャツ、下は長ズボンというボーイッシュな格好をしていて新鮮だった。
髪を結っているのも、そこはかとないギャップを感じる。
「それで、返事が聞きたいな」
「私の方はスケジュールほとんど埋まってるけど、そっちは何日が空いてるの」
携帯のカレンダーを見せる。
家族旅行と文化祭の練習、それ以外は講習くらいしかない。
「もしかして結構暇なの?」
「暇で何が悪いのさ」
「ここと、ここと、ここは空いてるから。それで、いつできるの。そのショッピングモール」
「来週くらい?」
「ちゃんと把握しておいて。なら、とりあえず再来週のここね。集合場所は駅前で、時間は――」
◆
柊柳は、高校に入ってから友人になった変わった子だ。
マイペースで無表情で、ときどき笑う。
彼女に興味を引かれたのは、席替えで隣になってから、その人となりを知ってのことだった。
入学して間もない最初の模試で、柳は校内順位一位、全国でも二桁に食らいついた。
その頭脳を持っていながら趣味もなく、普段は勉強以外ほとんど何もしていないという。
しかし授業中は居眠りを繰り返し、しまいにはペアワークすらサボろうとする怠惰っぷり。
そんな彼女を文芸部に誘ったのは、彼女といれば退屈しなさそうだと思ったからだ。
だから五月も中旬に差しかかった頃、昼休みに大きな二段弁当を開けている柳に声をかけた。
「なら、うちの部活来る?」
「名雪、何部だっけ」
「文芸部」
「へぇ、意外。てっきり弓道とかやってるのかと」
「それはどうして?」
「姿勢良いし、ないから胸当てもふよっ?」
私は柳の黒髪を叩いた。
翡翠を宿した瞳と目が合う。
ただ純真なだけの光を宿したその瞳は、親に殴られても訳も分からずにいる子供のようで、私は思わず目を逸らした。
「っもう、知らない」
私は多分、人より怒りっぽい。
でも、あれは彼女が悪いと思う。
放課後にはとっくに怒りは収まっていた。
……否、今思い出しても腹は立つ。
ただ、それで彼女にどうこうしようという話ではない。
今さら掘り返そうとはしないけど、いつまでも忘れはしない。
私は嫌な奴だ。
嫌な奴なりに、友人との付き合い方を探して生きてきた。
しかし、そのときの私は結局仲直りできずにいた。
自分から話しかけに行くのは気まずかったし、何故柳に謝らなければならないのかとも思った。
悪いのは彼女なのだ。
そんなことを考えながら文芸部へ一人足を運び、読みかけの小説を開く。
当然のように内容はあまり頭に入ってこない。
そのとき文芸部には私を含めて5人ほど部員がいた。
3年生1人、2年生2人、1年2人。
部長は3年で、2年生は元からあまり来ない。
だから放課後に鍵を借り、誰もいない部室で1人過ごすのは最近の私の特権だった。
図書室のような静けさと、ゆっくり寛げる空気は私の心を安らげる。
しばらくすると読書にも集中できるようになり、昼のことも忘れていた。
そんな折、部室の扉がノックされた。
返事をする間もなく扉が開く。
私は読んでいた小説を閉じ、顔を上げた。
「名雪、入部届持ってきたよ」
何事もなかったかのように柳はそこにいた。
何も覚えていないように歩み寄る彼女に、わずかな怒りが湧かなかったわけではない。
けれど、それはひとまずもう知らないことにした。
◆
夏休みの猛暑日、私と柳はショッピングモールに来ていた。
「最近また大きくなってきてさ、新しいの買うのも面倒だよね。ついこの間買ったばっかなのに」
ランジェリーショップに立ち寄ると、柳は何を言い出すかと思えば、私の頭より少し下へ視線を向けていた。
「……何見てんの」
「いや、ごめん。名雪には関係ない話しちゃったなって」
私は柳の滑らかな黒髪をはたいた。
彼女は何も反省していなかったらしい。
「同性でもセクハラだから、それ」
私はこのことにおいて、明確に彼女へ憤怒を覚えた。
「……ごめんなさい」
彼女が何を言おうと、しばらく聞く気にはなれなかった。
主人公は色欲も旺盛です。なんかキモいのは大体そのせい