大罪的百合は如何にして成るか   作:モラトリアム末期

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実は大罪をテーマにしているだけでそこまで考えてないという


憤怒

「ねえ、ロミオ。今度、家の最寄り駅付近にショッピングモールができるから遊びに来ない?」

 

「まずはその呼び方をやめてくれる? ジュリエットのなり損ないさん」

 

「ひどい。そんなこと言うロミオには、この毒薬をあげましょう」

 

「まずは自分で飲んで、それから他人に勧めなさい」

 

コーラとメロンソーダとグレープジュース、それに色々なものを混ぜた飲み物を差し出すと、平然と断られた。

仕方なく自分で飲んでみると、混ざった味が深みを生み、甘味料の渋滞を招いていた。

控えめに言って美味しくない。

 

「んぇ」

 

「柳って、頭良いのに馬鹿よね」

 

私と名雪はファミリーレストランにいた。

特にこれといった理由はない。

ただ二人とも弁当がなく、昼は外食を選んだというだけの話だ。

 

とはいえ、名雪は演劇の練習途中だったため、青いジャケットに白シャツ、下は長ズボンというボーイッシュな格好をしていて新鮮だった。

髪を結っているのも、そこはかとないギャップを感じる。

 

「それで、返事が聞きたいな」

 

「私の方はスケジュールほとんど埋まってるけど、そっちは何日が空いてるの」

 

携帯のカレンダーを見せる。

家族旅行と文化祭の練習、それ以外は講習くらいしかない。

 

「もしかして結構暇なの?」

 

「暇で何が悪いのさ」

 

「ここと、ここと、ここは空いてるから。それで、いつできるの。そのショッピングモール」

 

「来週くらい?」

 

「ちゃんと把握しておいて。なら、とりあえず再来週のここね。集合場所は駅前で、時間は――」

 

 

柊柳は、高校に入ってから友人になった変わった子だ。

 

マイペースで無表情で、ときどき笑う。

彼女に興味を引かれたのは、席替えで隣になってから、その人となりを知ってのことだった。

入学して間もない最初の模試で、柳は校内順位一位、全国でも二桁に食らいついた。

その頭脳を持っていながら趣味もなく、普段は勉強以外ほとんど何もしていないという。

しかし授業中は居眠りを繰り返し、しまいにはペアワークすらサボろうとする怠惰っぷり。

 

そんな彼女を文芸部に誘ったのは、彼女といれば退屈しなさそうだと思ったからだ。

だから五月も中旬に差しかかった頃、昼休みに大きな二段弁当を開けている柳に声をかけた。

 

「なら、うちの部活来る?」

 

「名雪、何部だっけ」

 

「文芸部」

 

「へぇ、意外。てっきり弓道とかやってるのかと」

 

「それはどうして?」

 

「姿勢良いし、ないから胸当てもふよっ?」

 

私は柳の黒髪を叩いた。

 

翡翠を宿した瞳と目が合う。

 

ただ純真なだけの光を宿したその瞳は、親に殴られても訳も分からずにいる子供のようで、私は思わず目を逸らした。

 

「っもう、知らない」

 

私は多分、人より怒りっぽい。

でも、あれは彼女が悪いと思う。

放課後にはとっくに怒りは収まっていた。

 

……否、今思い出しても腹は立つ。

 

ただ、それで彼女にどうこうしようという話ではない。

今さら掘り返そうとはしないけど、いつまでも忘れはしない。

私は嫌な奴だ。

嫌な奴なりに、友人との付き合い方を探して生きてきた。

 

しかし、そのときの私は結局仲直りできずにいた。

自分から話しかけに行くのは気まずかったし、何故柳に謝らなければならないのかとも思った。

悪いのは彼女なのだ。

 

そんなことを考えながら文芸部へ一人足を運び、読みかけの小説を開く。

当然のように内容はあまり頭に入ってこない。

 

そのとき文芸部には私を含めて5人ほど部員がいた。

3年生1人、2年生2人、1年2人。

部長は3年で、2年生は元からあまり来ない。

だから放課後に鍵を借り、誰もいない部室で1人過ごすのは最近の私の特権だった。

図書室のような静けさと、ゆっくり寛げる空気は私の心を安らげる。

 

しばらくすると読書にも集中できるようになり、昼のことも忘れていた。

 

そんな折、部室の扉がノックされた。

返事をする間もなく扉が開く。

私は読んでいた小説を閉じ、顔を上げた。

 

「名雪、入部届持ってきたよ」

 

何事もなかったかのように柳はそこにいた。

 

何も覚えていないように歩み寄る彼女に、わずかな怒りが湧かなかったわけではない。

 

けれど、それはひとまずもう知らないことにした。

 

 

夏休みの猛暑日、私と柳はショッピングモールに来ていた。

 

「最近また大きくなってきてさ、新しいの買うのも面倒だよね。ついこの間買ったばっかなのに」

 

ランジェリーショップに立ち寄ると、柳は何を言い出すかと思えば、私の頭より少し下へ視線を向けていた。

 

「……何見てんの」

 

「いや、ごめん。名雪には関係ない話しちゃったなって」

 

私は柳の滑らかな黒髪をはたいた。

彼女は何も反省していなかったらしい。

 

「同性でもセクハラだから、それ」

 

私はこのことにおいて、明確に彼女へ憤怒を覚えた。

 

「……ごめんなさい」

 

彼女が何を言おうと、しばらく聞く気にはなれなかった。




主人公は色欲も旺盛です。なんかキモいのは大体そのせい
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