キミとアイドルプリキュア♪~魂と輝き~ 作:Ryo02913
朝
うたとななは学校へ向かって歩いていた。
その少し後ろを、プリルンとメロロンが鞄の中から顔だけ出している。
「今日も元気いっぱいプリ!」
「ねえたまがいるから当然メロ!」
「二人とも朝から元気だね」
ななが笑う。
「私も負けてられないよー!」
うたが両手を上げた。
「今日も一日、キラッキランラン~!」
「朝から声でかいぞ」
後ろから声がした。
「お兄ちゃん?」
振り返ると、響が少し眠そうな顔で歩いてくる。
「おはよー!」
「ああ」
「元気ないね?」
「お前が元気すぎるんだよ」
何で朝からそんなに声が出るんだ。
響は小さく息を吐いた。
そのとき、うたが道の先に人影を見つけた。
「あれ?」
植え込みの陰に、見覚えのある女子生徒がいる。
「わかばちゃん?」
新橋わかば。
同じクラスの少女だった。
けれど、声をかけても反応しない。
その視線は校門の近くにいる男子生徒へ向いている。
背が高く、バレー部のユニフォーム姿。
何人かの女子生徒から声をかけられている。
「あの人……」
ななが少し考える。
「男子バレー部の翔太先輩だね」
「知ってるの?」
「バレー部のエースで、地区代表にも選ばれてるって聞いたことある」
「へえー!」
うたは感心しながら翔太を見る。
その隣で、わかばの顔が少し赤くなった。
「わかばちゃん、何かいつもと違わない?」
「そうだね」
ななも気づいたらしい。
「心キュンキュンしてます!」
いつの間にか後ろへ来ていたこころが声を上げた。
「こころ!?」
「おはようございます!」
こころはわかばを見て、すぐに表情を明るくする。
「これはもしかして……恋です!」
「恋?」
うたが首を傾げる。
ななとこころが顔を見合わせた。
「え?」
「うた先輩、分からないんですか!?」
「だって、見てるだけだよ?」
「それが大事なんです!」
「そうなの?」
響はそのやり取りを少し離れたところから眺める。
朝から何の話してるんだ。
「お兄ちゃんはどう思う?」
突然話を振られた。
「俺に聞くな」
「即答⁉」
「知らねぇよ」
響はそのまま校門へ向かった。
「逃げた!」
「逃げてねぇ」
――ホームルーム
教室では、近く行われるクラス対抗球技大会の話になっていた。
「それじゃあ、女子バレーはこのメンバーでいい?」
担任が黒板を見る。
うた
なな
わかば
そして数人のクラスメイト。
「はい!」
うたが元気よく手を上げる。
「よろしくね、わかばちゃん!」
「う、うん」
わかばが頷く。
その直後、教室の外を翔太が通った。
わかばの目がそちらへ向く。
また顔が少し赤くなる。
「……」
うたとななが顔を見合わせた。
やっぱり。
――放課後
喫茶グリッターのロフトでは、うた、なな、こころが少女漫画を囲んでいた。
「これが恋……!」
うたがページを見ながら目を輝かせる。
「会うだけで胸が苦しくなって、顔を見るだけで嬉しくなる……!」
「素敵ですね!」
こころも身を乗り出している。
「こころ、近い近い」
ななが苦笑した。
プリルンも漫画を覗き込む。
「恋ってすごいプリ」
「ねえたまにはメロロンがいるメロ!」
「プリ?」
少し離れたテーブルでは、響が宿題をしていた。
さっきから全然集中できない。
「ななちゃんは恋したことある?」
「え!?」
ななの手が止まった。
「えっと……私は……」
「こころは?」
「わ、私ですか!?」
今度はこころが慌てる。
「ありません! まだありません!」
「何で二回言ったの?」
「うた先輩はどうなんですか!」
「私はないよ!」
「即答ですね……」
「でも大丈夫!」
うたは漫画を掲げる。
「これで勉強する!」
何を勉強するんだ。
響は心の中だけで突っ込んだ。
「お兄ちゃんは?」
やっぱり来た。
「だから何で俺に聞くんだよ」
「参考になるかなって」
「ならねぇよ」
「恋したことないの?」
「……宿題やらせろ」
「ごまかした!」
「うるさい」
ななとこころが笑う。
そのとき、下から田中の声が聞こえた。
「うたさん、少しお店を手伝ってください!」
「はーい!」
うたは漫画を置いて一階へ降りていった。
響もようやく静かになったとペンを持ち直す。
数分後。
「お兄ちゃん!」
「今度は何だ」
「カイトさんにも聞いてみた!」
「何を」
「恋!」
「客に何聞いてんだよ」
しかもよりによって響カイトに。
響は額に手を当てた。
――翌日の放課後
体育館。
球技大会に向け、うた達はバレーの練習をしていた。
わかばが上げたボールを、うたが何とか返す。
「わっ!」
「うたちゃん、もう少し前!」
「分かった!」
なながボールを上げる。
今度はわかばが走り込んだ。
鋭いアタックが相手コートへ入る。
「すごい!」
うたが手を叩く。
「さすがわかばちゃん!」
「ありがとう」
わかばは少し照れながら答えた。
そのとき、一つのボールが体育館の入口近くへ転がっていった。
わかばが取りに行こうとする。
その前に誰かが拾った。
「はい」
「あ……」
翔太だった。
「練習?」
「は、はい!」
「頑張って」
翔太がボールを渡す。
「ありがとうございます!」
わかばは両手で受け取った。
翔太が体育館を出ていく。
わかばはその背中をしばらく見ていた。
うたとなな、こころが近づく。
「わかばちゃん」
「……何?」
「やっぱり翔太先輩のこと好きなんだ?」
わかばの顔が赤くなった。
「えっ!?」
「やっぱり!」
「うたちゃん、声大きいよ」
「あ、ごめん!」
わかばはしばらく迷っていたが、やがて小さく頷いた。
「……うん」
三人の表情が明るくなる。
「ずっと前から好きなの」
「そうなんだ!」
「でも……」
わかばの笑顔が少し消えた。
「翔太先輩、もうすぐ転校するんだって」
「え……」
「このままだと、何も言えないままいなくなっちゃう」
わかばはボールを見る。
「気持ちを伝えたいとは思ってる。でも……」
もし断られたら。
その先を言わなくても伝わった。
「怖いんだ」
ななが静かに言った。
「……うん」
「だったら」
うたが前へ出る。
「何か勇気が出るきっかけを作ろうよ!」
「きっかけ?」
「例えば……球技大会で優勝するとか!」
「うたちゃん、それ結構大変だよ」
「でも分かりやすいでしょ?」
こころも頷く。
「いいと思います!」
わかばは三人を見る。
「優勝したら……」
少し考える。
そして拳を握った。
「私、翔太先輩に告白する」
「おおー!」
「一緒に頑張ろう」
「応援します!」
「ありがとう」
わかばの表情に少しだけ迷いが消えた。
――その頃
チョッキリ団。
「まったく!」
チョッキリーヌが腕を組んでいた。
「せっかくダークイーネ様から新しい力をもらったっていうのに、ザックリーは何をやってるんだい!」
「途中まではうまくいってたっすよ!」
ザックリーが言い返す。
「結果が全部だよ!」
「今日は私にお任せを」
カッティーが一歩前へ出た。
「ほう?」
「次こそ、プリキュアの輝きを闇に染めてみせますぞ」
「クラヤミンダーならば、今までとは違いますぞ」
――球技大会当日
体育館は多くの生徒で埋まっていた。
あちこちで試合が行われ、その周囲から声援が送られている。
「がんばれー!」
こころがキラキライトを振る。
その隣ではプリルンも身体いっぱいに動いていた。
「うたー! ななー! がんばれプリ~!」
「ねえたま……」
メロロンがプリルンを見る。
「応援って、そんなに大事メロ?」
「大事プリ!」
「でも、応援してもボールは打てないメロ」
「それでも大事プリ」
「どうしてメロ?」
「応援が届いたら、もっと頑張れるプリ!」
メロロンはよく分からないような顔をする。
少し離れた場所では、響が壁際に立って試合を見ていた。
「お兄ちゃん!」
コートの中からうたが手を振った。
「ちゃんと応援してよー!」
「試合に集中しろ」
「応援してくれないの!?」
「してるだろ」
「声出して!」
「何でだよ」
「ほら!」
面倒だな。
響は小さく息を吐く。
「……頑張れ」
「小さい!」
「集中しろ!」
ななが笑っている。
試合が始まった。
わかばを中心に、うた達のチームは勝ち進んでいく。
わかばのアタック。
ななの安定したレシーブ。
うたも慣れないながら必死にボールを追いかける。
そして決勝戦。
相手は三年生のチームだった。
「強そうだね……」
うたが相手コートを見る。
「でも、ここまで来たんだもん」
ななが構える。
「勝とう」
「うん!」
わかばも頷いた。
観客席ではこころ達がキラキライトを振る。
「うた先輩! なな先輩! わかば先輩! 頑張ってください!」
「頑張れプリ~!」
試合は互角だった。
相手が点を取れば、わかばが取り返す。
なながボールを上げる。
わかばが打つ。
得点。
「やった!」
うたが笑った。
だが次のプレー。
相手のアタックがコートの端へ落ちようとする。
「まだ!」
うたが走った。
身体を伸ばし、左手で何とかボールを上げる。
「わかばちゃん!」
「うん!」
わかばが飛ぶ。
アタックが決まり、点が入った。
「やったー!」
うたが立ち上がる。
その瞬間。
「……っ」
左手首に痛みが走った。
うたは咄嗟に腕を押さえる。
観客席から見ていた響の表情が変わった。
「うた?」
本人は何もなかったように戻ろうとしている。
でも、左手の動かし方がおかしい。
次のプレーでも使おうとしない。
「……」
響は席を立った。
休憩に入ったところで、うたのところへ向かう。
「おい」
「お兄ちゃん?」
「左手」
「え?」
「見せろ」
「大丈夫だよ」
「いいから」
うたが少しだけ困った顔をする。
響は左手首を見る。
腫れは大きくない。
でも、触れようとすると身体が少し引いた。
「痛いんだろ」
「……ちょっとだけ」
「保健室行くぞ」
「でも試合が――」
「悪化させたらもっと出られねぇぞ」
「……」
ななも近づいてくる。
「うたちゃん、行った方がいいよ」
「うん……」
うたは仕方なく頷いた。
保健室。
診てもらった結果、大きな怪我ではなかった。
ただし、しばらく左手をなるべく動かさないよう言われた。
「よかったプリ……」
プリルンが胸を撫で下ろす。
「大丈夫だから!」
うたは笑う。
響はその顔を見る。
「無理して笑うな」
「してないよ」
「してるだろ」
「してない!」
「なら左手動かしてみろ」
「……」
「ほらな」
「お兄ちゃんのいじわる」
「何でだよ」
響は呆れながら立ち上がった。
「戻るぞ」
体育館へ戻る。
試合は終盤に入っていた。
わかば達が必死に食らいつき、点差はほとんどない。
「わかばちゃん……」
うたがコートを見る。
自分も戻りたい。
でも左手が思うように動かない。
そのときだった。
体育館の入口付近。
見慣れない男が立っている。
「さて……」
「ずいぶんと輝いておりますな」
その視線がわかばへ向いた。
「恋に、試合に、友情……実に眩しい」
黒い力が集まる。
「ならば、そのキラキラをクラクラの真っ暗闇にしてしまいましょう」
「クラヤミンダー!」
「え?」
わかばが振り向いた。
闇が身体を包む。
「わかばちゃん!」
巨大なバレーボールのようなクラヤミンダーが体育館に現れた。
響の表情が変わった。
「またこいつか」
以前戦ったものと同じ種類の闇。
「お兄ちゃん!」
「ああ」
響はポケットから死神代行証を取り出した。
「お前、左手使うなよ」
「分かってる!」
「本当か?」
「分かってるってば!」
信用できねぇ。
代行証を身体へ押し当てる。
魂が抜ける。
黒い死覇装。
背中には斬月。
その横で三人もブローチを掲げた
『プリキュア! ライトアップ!
キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!
キミと~! YEAH!
一緒に~! YEAH!
キミと歌う、ハートのキラキラ! 笑顔ニッコリ、キュアアイドル!』
『プリキュア! ライトアップ!
キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!
キミと~! YEAH!
一緒に~! YEAH!
キミと瞬く、ハートの勇気!
お目目パッチン、キュアウインク!』
『プリキュア! ライトアップ!
キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!
キミと~! YEAH!
一緒に~! YEAH!
キミと踊る、ハートのリズム! 心キュンキュン キュアキュンキュン!』
『ウィアー!キミとアイドルプリキュア!』
「恋するわかばちゃんのキラキラを奪うなんて、許さない!」
アイドルが前へ出る。
クラヤミンダーが身体を丸める。
「来るぞ!」
響が叫んだ。
クラヤミンダーが床を転がりながら突っ込んでくる。
三人と響は左右へ避ける。
そのまま壁へ向かったかと思ったクラヤミンダーが方向を変えた。
「戻ってくる!」
ウインクが前へ出る。
『ウインクバリア』
障壁がクラヤミンダーを受け止める。
だが勢いが強い。
ウインクの身体が後ろへ押される。
「ななちゃん!」
アイドルが走る。
「待て!」
響の声より早く、アイドルはクラヤミンダーへ手を伸ばした。
両腕で受け止める。
「くっ……!」
左手首に痛みが走った。
力が抜ける。
「しまっ――」
クラヤミンダーに押し切られ、アイドルの身体が後ろへ飛ばされる。
響が走った。
身体を受け止める。
「だから言っただろ!」
「ご、ごめん……」
「立てるか?」
「うん」
アイドルは立ち上がる。
でも左腕をかばっている。
響はクラヤミンダーを見る。
前回と同じだ。
斬ることはできる。
だが、自分では浄化できない。
なら。
「蒼風、紫雨!」
二人が振り向く。
「俺が引き止める。うたを下がらせろ」
「「はい!」」
響が前へ出る。
クラヤミンダーが転がりながら迫る。
真正面。
「来い」
直前で身体を横へずらす。
斬月を振る。
刃がクラヤミンダーの側面へ入り、軌道がずれた。
「今だ!」
『キュンキュンレーザー』
光がクラヤミンダーへ当たる。
ウインクもバリアを前へ押し出し、動きを止める。
だが闇が再び傷を覆っていく。
「やっぱり戻るか」
響は斬月を構え直す。
その後ろで、アイドルが左手を押さえながら立っていた。
痛い。
思うように動かない。
わかばちゃんを助けたいのに。
「……」
「キュアアイドルー!」
声が聞こえた。
「え?」
入口の方。
避難したはずのプリルンが顔を出している。
その隣にはメロロンもいた。
「がんばれプリ~!」
プリルンがキラキライトを振っている。
「プリルン……」
「負けないでプリ!」
「でも……」
左手を見る。
「応援しても、手は治らないよ」
メロロンがプリルンを見る。
「だったら意味ないメロ」
「違うプリ」
「メロ?」
プリルンはアイドルから目を離さない。
「プリルンが戦うことはできないプリ」
キラキライトを強く握る。
「でも、うたを応援することはできるプリ」
「応援……」
「うたが頑張ってるなら、プリルンも一緒に頑張りたいプリ!」
メロロンはプリルンを見る。
一緒に。
戦えなくても。
力になれる。
「……」
アイドルの表情が変わった。
「そっか」
左手が痛いことは変わらない。
でも。
「私、一人じゃないんだ」
プリルンが応援してくれている。
ななちゃんも。
こころも。
お兄ちゃんも。
わかばちゃんだって、今も闇の中で戦っている。
「だったら――」
アイドルは右手を握る。
「まだできる!」
「アイドル?」
ウインクが振り返る。
「左手は使わない!」
「当たり前だ」
響がすぐに言った。
「でも右手は使える!」
「そういう問題じゃ……」
「お兄ちゃん!」
「何だよ」
「応援して!」
「……は?」
戦闘中に何言ってるんだ。
「ほら!」
「今かよ」
「今だから!」
響は一瞬言葉を失う。
でも。
さっきのプリルンの声を思い出す。
戦えなくても力になれる。
「……負けんなよ」
「小さい!」
「注文多いな!」
少しだけ声を上げる。
「行け、うた!」
アイドルが笑った。
「うん!」
前へ走る。
クラヤミンダーが再び転がってくる。
「ウインク!」
「うん!」
『ウインクバリア』
障壁が進路を変える。
「キュンキュン!」
「任せてください!」
『キュンキュンレーザー』
光がクラヤミンダーの動きを鈍らせる。
「響さん!」
「ああ」
響が踏み込む。
斬月を横に振り抜く。
クラヤミンダーの身体が傾いた。
「アイドル!」
「行くよ!」
左手は使わない。
右拳を構える。
『アイドルグータッチ』
拳が正面へ入る。
クラヤミンダーが後ろへ大きく下がった。
「届いたプリ!」
プリルンが嬉しそうに飛ぶ。
「メロ……」
メロロンはアイドルとプリルンを交互に見る。
「キュアウインクー! がんばれプリ~!」
「うん!」
ウインクが笑う。
「キュアキュンキュンもプリ~!」
「はい!」
「……メロロンも」
メロロンが小さく手を上げた。
「がんばれメロ!」
三人が振り向く。
「メロロン……!」
「ねえたまが応援するなら、メロロンもするメロ!」
「ありがとう!」
クラヤミンダーが再び立ち上がる。
闇が身体の周りに集まっていく。
響はそれを見る。
「また来るぞ」
アイドルがウインク、キュンキュンを見る。
二人とも頷いた。
「お兄ちゃん」
「何だ」
「最後、お願い!」
響は斬月を握り直す。
「最初からそのつもりだ」
クラヤミンダーへ走る。
大きな腕が振られる。
身体を低くして避ける。
懐へ入る。
「そこだ」
斬月を斜めに振り上げる。
身体が大きく傾く。
「今だ!」
「行こう!」
「うん!」
「はい!」
三人が並ぶ。
周囲にステージの光が広がっていく。
音楽が始まった。
三人は息を合わせて歌い始める。
三人の光が一つになる。
『プリキュア・ハイエモーション』
光がクラヤミンダーを包み込む。
闇が消えていく。
『キラッキランラン』
クラヤミンダーの姿が消えた。
その中からわかばが戻ってくる。
「わかばちゃん!」
三人が駆け寄る。
「……うた?」
「よかった!」
「何が……」
わかばは状況が分からない様子だった。
響も斬月を下ろす。
終わったか。
カッティーは悔しそうに三人を見る。
「今日はここまでにしておいてやりますぞ!」
姿を消した。
「やったプリ~!」
プリルンが飛んでくる。
「みんな頑張ったメロ!」
メロロンもその後を追った。
響はうたを見る。
「で」
「え?」
「左手」
「あ」
忘れてた。
「保健室戻るぞ」
「でも試合!」
「出る気か?」
「……」
「応援してろ」
うたは少し驚いた。
「応援?」
「あいつらが言ってただろ」
響はプリルンとメロロンを見る。
「戦わなくてもできることはあるって」
うたは少し黙る。
そして笑った。
「うん!」
――しばらくして球技大会が再開された。
決勝戦。
うたはコートの外にいる。
悔しくないと言えば嘘になる。
でも。
「わかばちゃーん!」
声を出す。
「ななちゃーん!」
プリルンも横でキラキライトを振っている。
「がんばれプリ~!」
「がんばれメロ~!」
メロロンも続く。
こころも一緒だ。
響は少し離れたところで腕を組んでいる。
「お兄ちゃんも!」
「まだやるのかよ」
「ほら!」
何で俺まで。
でも、うたは楽しそうだ。
「……頑張れ!」
さっきよりは大きな声。
「それそれ!」
試合は最後の一点。
なながレシーブする。
ボールが高く上がる。
わかばが走る。
「わかばちゃん!」
うたの声が体育館に届く。
わかばが飛んだ。
翔太先輩へ気持ちを伝える。
そのためだけじゃない。
ここまで一緒に戦ってきたみんなのために。
腕を振り抜く。
ボールが相手コートへ落ちた。
試合終了。
うた達のチームの勝利だった。
「やったー!」
うたが右手を上げる。
ななとわかばも笑っている。
プリルン達も飛び上がった。
響はその様子を見ながら小さく笑った。
応援、か。
今まであまり考えたことはなかった。
戦えるなら自分が戦えばいい。
そう思っていた。
でも。
戦うことだけが力になるわけじゃないらしい。
――夕方
校舎の外。
うた、なな、こころ、響、プリルン、メロロンは少し離れた場所で待っていた。
「まだかな……」
うたが落ち着かない様子で歩く。
「うた先輩が告白するわけじゃないですよ?」
「でも気になるじゃん!」
「静かに待とう」
ななが苦笑する。
やがて、わかばが戻ってきた。
「わかばちゃん!」
「どうだった!?」
うたが近づく。
わかばは少しだけ困ったように笑った。
「……だめだった」
「え……」
「翔太先輩、好きな人がいるんだって」
うた達の表情が沈む。
でも、わかばは笑っていた。
「でもね」
「うん?」
「言えてよかった」
少し寂しそうではある。
それでも、朝までの迷っていた顔とは違う。
「応援してくれてありがとう」
「わかばちゃん……」
そのとき。
「新橋!」
一人の男子生徒が走ってきた。
クラスメイトの藤野だった。
「優勝おめでとう!」
「あ、ありがとう」
わかばの顔が少し赤くなる。
藤野はそれに気づかず、そのまま友人達のところへ戻っていった。
うたがわかばを見る。
「……わかばちゃん?」
「何?」
「今、顔赤くなってなかった?」
「え!?」
「もしかして!」
「ち、違うよ!」
こころの目が輝く。
「新しい心キュンキュンの予感です!」
「違うってば!」
ななが笑う。
響は少し離れたところからその様子を見る。
さっき失恋したばかりじゃなかったのか。
切り替えが早い。
「お兄ちゃん!」
「何だ」
「恋ってすごいね!」
「俺に言うな」
「また逃げた!」
「だから逃げてねぇ」
プリルンとメロロンも笑っている。
今日一日。
試合をして。
戦って。
応援して。
最後にはまた笑っている。
響は空を見る。
声だけでも、誰かの力になる。
まだ少しよく分からない。
でも。
「……悪くねぇか」
「何か言った?」
「何でもねぇよ」
「怪しい!」
「帰るぞ」
「待ってよ、お兄ちゃん!」
うたが追いかけてくる。
響は歩く速度を少しだけ落とした。
ああ おれたちは皆
眼を開けたまま
空を飛ぶ夢を見てるんだ
BLEACH/第9巻 志波岩鷲
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