キミとアイドルプリキュア♪~魂と輝き~   作:Ryo02913

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第17話 封じた想い

――深夜・咲良家

 

「……っ」

 

肩に走る痛みで、響は目を覚ました。

身体を起こそうとしただけで、右肩から背中にかけて痛みが広がる。

 

「……くそ」

 

響は顔をしかめた。

昨日の大虚との戦い。

何とか追い返すことはできたが、その代償は大きかった。

右肩には包帯を巻いている。腕を動かすだけでも痛みが走り、身体のあちこちには打撲が残っていた。

あのとき、月牙天衝で仮面を砕けていなければ。

考えかけて、響は首を振った。

今さら考えたところで、結果は変わらない。

 

「……寝るか」

 

そう呟いて目を閉じようとしたとき、廊下から小さな話し声が聞こえた。

 

「……準備できたプリ?」

 

「できたメロ」

 

プリルンとメロロンの声だ。

こんな時間に何をしているんだ?

響はゆっくりと身体を起こした。

痛む肩を押さえながら扉を開けると、廊下の向こうに二人の姿があった。

プリルンはMOMOを持ち、メロロンは小さな鞄を背負っている。

 

「おい」

 

「プリ!?」

 

「メロ!?」

 

突然声をかけられ、二人が振り返った。

 

「……こんな時間に何してんだ?」

 

プリルンは慌ててMOMOを背中に隠した。

いや、もう見えてるんだが。

響は二人の荷物を見た。

 

「どっか行くつもりか?」

 

プリルンは少し迷ったあと、頷いた。

 

「キラキランドに帰るプリ」

 

「……キラキランド?」

 

予想していなかった答えに、響は眉を寄せた。

 

「何でまた急に?」

 

「プリルン、もっと強くなりたいプリ」

 

プリルンは真剣な表情で答えた。

 

「昨日、みんなが戦ってるとき、プリルンは何もできなかったプリ。助けるつもりだったのに、逆に心配させちゃったプリ」

 

「……ああ」

 

響は昨日のカッティンダーとの戦いを思い出した。

プリルンが飛び出し、攻撃を受けて倒れた場面。

あのときは、本当に肝が冷えた。

 

「だから、キラキランドに帰って、みんなの力になれる方法を探すプリ!」

 

響は黙ってプリルンを見つめた。

その目に迷いはなかった。

……そうか。

こいつも、自分の力が足りないことを悔しがってるんだな。

昨日の自分と、少し似ている。

 

「うたには話したのか?」

 

「動画を残したプリ!」

 

「動画?」

 

「朝になったら見てもらうプリ」

 

「直接言わねぇのか?」

 

プリルンは俯いた。

 

「うたに言ったら、きっと心配するプリ」

 

「……だろうな」

 

響は小さく息を吐いた。

うたなら、間違いなく引き止めるだろう。

それでも、プリルンが決めたことなら。

 

「……分かった」

 

「プリ?」

 

「行ってこいよ」

 

プリルンが目を丸くする。

 

「いいプリ?」

 

「お前が決めたんだろ。だったら俺が止める理由はねぇよ」

 

そう言ってから、響は二人を見た。

 

「ただし、無茶はすんな」

 

「プリ!」

 

「それと、何かあったらすぐ連絡しろ。帰ってこられなくなるようなことはすんじゃねぇぞ」

 

「分かったプリ!」

 

プリルンが元気よく頷く。

その隣で、メロロンは響の右肩を見つめていた。

 

「……響、怪我してるメロ?」

 

「ん?」

 

「さっきから右腕、あんまり動かしてないメロ」

 

響は一瞬、言葉に詰まった。

意外とよく見ている。

 

「……ちょっとな」

 

「大丈夫メロ?」

 

「ああ。大したことねぇよ」

 

そう答えた直後、肩に痛みが走った。

思わず顔をしかめる。

 

「大したことない顔じゃないメロ」

 

「……うるせぇな」

 

メロロンは少し不満そうだったが、それ以上は聞かなかった。

プリルンが響へ近づく。

 

「響も、無理しちゃダメプリ」

 

「……お前に言われるとはな」

 

響は苦笑した。

昨日、無茶をしたのはお互い様だ。

 

「ほら、行くんだろ?」

 

「プリ!」

 

プリルンはMOMOを操作した。

二人の周囲に光が広がっていく。

 

「行ってくるプリ!」

 

「行ってくるメロ」

 

「ああ。気をつけてな」

 

響が見送る中、プリルンとメロロンの姿は光に包まれ、その場から消えた。

静かになった廊下。

響はしばらく、二人がいた場所を見つめていた。

 

「……強くなりたい、か」

 

その言葉は、今の自分にも当てはまる。

大虚を追い返すだけで精一杯だった。

もし次に同じような敵が現れたら、今度は誰かを守れないかもしれない。

響は右手を握りしめた。

 

「……俺も、何とかしねぇとな」

 

そう呟き、自分の部屋へ戻っていった。

 

 

――キラキランド

 

MOMOの光が消えると、プリルンとメロロンの前に懐かしい景色が広がった。

しかし、そこに以前の輝きはなかった。

空は暗く、建物の多くは闇に覆われている。

かつて色とりどりの光に包まれていた道も、今は静まり返っていた。

 

「……帰ってきたプリ」

 

プリルンが呟く。

メロロンも周囲を見回した。

 

「まだ、こんなに暗いメロ……」

 

「でも、大丈夫プリ!」

 

プリルンはメロロンへ手を伸ばした。

 

「みんなが頑張ってくれてるプリ! きっと元に戻せるプリ!」

 

「……ねえたま」

 

メロロンは差し出された手を見つめた。

そして、そっと握り返す。

 

「そうメロ」

 

二人は城へ向かって歩き始めた。

やがて見えてきたのは、キラキランドの中心にある大きな城だった。

その上空には、闇に覆われた巨大なリボンが浮かんでいる。

ビッグキラキラリボン。

本来ならキラキランドを明るく照らしているはずの存在だ。

しかし、今は大きく欠け、光を失っていた。

 

「……まだ元に戻ってないプリ」

 

プリルンはそれを見上げた。

うた達がこれまで何度も戦ってきたことを思い出す。

一生懸命に歌って、傷ついても立ち上がって。

それなのに、キラキランドはまだ暗いままだ。

プリルンは拳を握った。

 

「女王様に会いに行くプリ!」

 

「待って、ねえたま!」

 

メロロンが後を追う。

二人は城の中へ駆け込んでいった。

 

――キラキランド城

 

「女王様!」

 

プリルンの声が広い部屋に響いた。

部屋の奥には、結晶の中に封じられたピカリーネ女王の姿があった。

 

『プリルン、メロロン……戻ってきたのですね』

 

「はいプリ!」

 

プリルンは女王の前へ進んだ。

 

『二人とも、無事で何よりです』

 

「女王様! プリルン、お願いがあるプリ!」

 

『お願い?』

 

「うた達の力になりたいプリ!」

 

プリルンは真剣な表情で続けた。

 

「みんな、キラキランドを元に戻すために頑張ってくれてるプリ。でも、昨日はすごく強い敵が出てきて、みんなが危なかったプリ」

 

『……そうでしたか』

 

「プリルンも助けたいプリ! 何かできることはないプリ?」

 

ピカリーネはしばらく考えるように目を閉じた。

 

やがて、穏やかな声で答える。

 

『プリルン。あなた達が集めたキラルンリボンを持っていますか?』

 

「持ってるプリ!」

 

プリルンは鞄からリボンを取り出した。

 

これまで、うた達がクラヤミンダーやマックランダーを浄化することで集めてきたものだ。

 

一つ一つが淡い光を放っている。

 

『そのキラルンリボンは、ビッグキラキラリボンから失われた光の欠片なのです』

 

「欠片プリ?」

 

『ええ。ダークイーネによって傷つけられたビッグキラキラリボン。その光が散らばったものが、キラルンリボンなのです』

 

プリルンは手元のリボンを見つめた。

 

「じゃあ、これを戻せば……?」

 

『すべての欠片が揃えば、ビッグキラキラリボンは再び輝きを取り戻します。その光がキラキランドの闇を払い、チョッキリ団の脅威も消し去るでしょう』

 

その言葉を聞いた瞬間、プリルンの表情が明るくなった。

 

「それプリ!」

 

「ねえたま?」

 

「ビッグキラキラリボンを元に戻せば、うた達はもう戦わなくていいプリ!」

 

プリルンはリボンを抱きしめた。

 

「これでみんなを守れるプリ!」

 

「待って、ねえたま!」

 

メロロンが声をかけたが、プリルンはすでに走り出していた。

 

「プリルン、行ってくるプリ!」

 

城の扉が開き、プリルンの姿が見えなくなる。

残されたメロロンは、困ったように息を吐いた。

 

「……ねえたま、行っちゃったメロ」

 

『メロロン』

 

ピカリーネが静かに呼びかけた。

 

『プリルンの願いは、今のままでは叶いません』

 

「……メロ?」

 

『ビッグキラキラリボンを元に戻すには、まだ欠片が足りないのです』

 

メロロンは目を見開いた。

 

「そんな……」

 

プリルンがどれだけ喜んでいたか。

今度こそうた達の力になれると思って、あんなに嬉しそうに走っていったのに。

 

「……ねえたま」

 

メロロンは俯いた。

そのとき、鞄の中にあるものを思い出した。

ハート型の錠前と鍵。

以前、ハートの木で見たものとよく似た、伝説のアイテム。

メロロンは鞄を開いた。

 

「女王様」

 

『何でしょう?』

 

「これについて、教えてほしいメロ」

 

メロロンが取り出したものを見て、ピカリーネの表情が変わった。

 

『……ハートキラリロック』

 

「やっぱり、知ってるメロ?」

 

『それを、どこで?』

 

「メロロンがずっと持ってたものメロ。人間の世界で調べたら、願いを叶える力があるって書いてあったメロ」

 

メロロンは錠前を見つめた。

 

「本当メロ?」

 

ピカリーネは静かに頷いた。

 

『ええ。それは二人の願いを叶えることができる、伝説のアイテムです』

 

「だったら!」

 

メロロンは顔を上げた。

 

「これを使えば、ねえたまの願いを叶えられるメロ!」

 

『いいえ、メロロン』

 

ピカリーネの声が強くなった。

 

『それを使ってはいけません』

 

「……どうしてメロ?」

 

『ハートキラリロックには、大きな代償が必要なのです』

 

「代償……?」

 

『願いを叶えるためには、二人がそれぞれ最も大切にしているものを、錠前の中に封じなければなりません』

 

メロロンの手が止まった。

 

「一番、大切なもの……?」

 

『そうです。そして、一度封じられたものを簡単に取り戻すことはできません』

 

メロロンは錠前を見下ろした。

自分にとって、一番大切なもの。

考えるまでもなかった。

ねえたま。

いつも自分に声をかけてくれた、あの人。

一人でいることが当たり前だった自分に、誰かと一緒にいる温かさを教えてくれた存在。

 

『メロロン。決して使ってはいけませんよ』

 

ピカリーネの言葉が響く。

 

「……分かったメロ」

 

メロロンは小さく答えた。

だが、その手は錠前を強く握りしめたままだった。

 

――キラキランド・城の外

 

「これで、きっと大丈夫プリ!」

 

プリルンはビッグキラキラリボンを見上げていた。

うた達が集めたキラルンリボンを、両手に抱えている。

 

「みんなが頑張ったリボンプリ!」

 

一つ目のリボンを掲げる。

すると、リボンが光を放ちながら空へ浮かび上がった。

続いて二つ目、三つ目。

プリルンが持ってきたリボンが、次々とビッグキラキラリボンへ吸い込まれていく。

欠けていた部分に少しずつ光が戻り始めた。

 

「やったプリ!」

 

プリルンが嬉しそうに声を上げる。

 

「もっと、もっとプリ!」

 

最後のリボンが光に包まれ、ビッグキラキラリボンへ戻っていった。

一瞬、周囲が明るくなる。

しかし。

その光は、すぐに弱まってしまった。

 

「……プリ?」

 

プリルンは首を傾げた。

ビッグキラキラリボンは、まだ欠けたままだ。

空を覆う闇も消えていない。

 

「……どうしてプリ?」

 

もう一度、手を伸ばす。

だが、何も起こらなかった。

 

「リボン、全部戻したプリ……」

 

プリルンは自分の手を見た。

そこにはもう、キラルンリボンは残っていない。

 

「……足りないプリ?」

 

誰も答えない。

プリルンはゆっくりと俯いた。

これなら、うた達を守れると思ったのに。

自分にもできることが見つかったと思ったのに。

 

「……プリルン、また何もできなかったプリ……」

 

その声は、誰にも届かなかった。

 

――はなみちタウン・フェス会場

 

「すごーい!」

 

うたが目の前のステージを見上げた。

はなみちタウンフェスの会場には、多くの人が集まっていた。

大きなステージ。

色とりどりの飾り。

そして、ライブを楽しみにしている人達の笑顔。

 

「いよいよ本番だね」

 

ななが隣で微笑む。

 

「はい! 練習の成果を見せるときです!」

 

こころも気合十分だった。

その少し後ろでは、響が右肩を押さえながら歩いていた。

 

「……っ」

 

少し動かしただけで痛む。

昨日よりはましになったが、まだまともに刀を振れる状態ではなかった。

 

「お兄ちゃん?」

 

うたが振り返る。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもねぇ」

 

「……本当に?」

 

うたは響の右肩を見た。

 

「さっきから、そこ気にしてない?」

 

「……気のせいだろ」

 

「絶対気のせいじゃない!」

 

うたが近づいてくる。

響は観念したように息を吐いた。

 

「……昨日、ちょっとな」

 

「昨日?」

 

「虚が出たんだよ」

 

うたの表情が変わった。

 

「えっ!?」

 

「おい、声でけぇ」

 

響は慌てて注意した。

うたは声を抑え、もう一度聞いた。

 

「……一人で戦ったの?」

 

「ああ」

 

「倒したの?」

 

響は一瞬、答えに迷った。

だが、嘘をついても仕方がない。

 

「……いや。追い返すのが精一杯だった」

 

「そんな……」

 

「今までの奴とは比べものにならねぇくらい強かった」

 

響は右肩に手を当てた。

 

「おかげで、この有様だ」

 

うたは心配そうに兄を見る。

 

「だったら、今日は休んでた方が……」

 

「大丈夫だ」

 

「でも!」

 

「お前らのライブ、見に来たんだよ」

 

響はうたの頭に軽く手を置いた。

 

「せっかく頑張って練習したんだろ。ちゃんと見せてくれよ」

 

「……お兄ちゃん」

 

うたは少しだけ俯いた。

そして、顔を上げる。

 

「分かった! 絶対に最高のステージにするから!」

 

「ああ。期待してる」

 

響は笑った。

そのとき、田中がやってきた。

 

「皆さん、そろそろ準備をお願いします」

 

「はい!」

 

うた達が返事をする。

しかし、そこでうたは何かに気づいた。

 

「……あれ?」

 

「どうしたの?」

 

ななが尋ねる。

 

「プリルンとメロロンがいない」

 

「そういえば……」

 

こころも周囲を見回した。

いつもなら、誰よりも早く応援してくれるはずの二人。

だが、今日は姿が見えなかった。

 

「部屋で寝てるのかな?」

 

うたが鞄を開く。

すると、中に入っていたスマートフォンの画面に通知が表示されていた。

 

「……動画?」

 

うたが再生すると、画面いっぱいにプリルンの顔が映った。

 

『うた! なな! こころ!』

 

「プリルン!?」

 

うたが声を上げる。

画面の中のプリルンは、いつものように元気よく手を振っていた。

 

『プリルン、キラキランドに行ってくるプリ!』

 

「ええっ!?」

 

三人が驚く。

 

『みんなが頑張ってるから、プリルンも頑張りたいプリ! メロロンと一緒に、できることを探してくるプリ!』

 

画面の端からメロロンが顔を出した。

 

『ねえたまはメロロンが守るメロ!』

 

『フェス、頑張るプリ! プリルンも応援してるプリ!』

 

二人が笑顔で手を振る。

そこで動画は終わった。

 

「……プリルン」

 

うたは画面を見つめた。

ななも心配そうに口を開く。

 

「何も言わずに行っちゃったんだね……」

 

「きっと、昨日のことを気にしてるんです」

 

こころが呟いた。

カッティンダーとの戦い。

みんなを助けようとして飛び出し、傷ついてしまったプリルン。

そのことを、ずっと悔やんでいたのだろう。

 

「……お兄ちゃん」

 

うたが響を見る。

 

「知ってたの?」

 

「……ああ。夜中に会った」

 

「えっ!?」

 

「キラキランドに帰るって言ってた。うた達には動画を残したってな」

 

「どうして教えてくれなかったの?」

 

「……悪かった」

 

響は少しだけ視線を落とした。

 

「本人が決めたことだったし、お前らには自分で伝えたいんだと思ったんだ」

 

うたはしばらく黙っていた。

 

そして、スマートフォンへ視線を戻す。

画面には、最後の場面で笑うプリルンの姿が残っていた。

 

「……そっか」

 

うたは小さく笑った。

 

「プリルンも頑張ってるんだね」

 

「うん」

 

ななが頷く。

 

「私達も頑張らないと」

 

「はい! プリルン達に負けていられません!」

 

こころが拳を握った。

うたも笑顔を取り戻す。

 

「よーし! みんなで最高のライブにしよう!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

三人の姿を見て、響は少しだけ安心した。

……あいつらなら大丈夫か。

そう思いながら、右肩を動かす。

再び痛みが走った。

 

「……っ」

 

今日は、できれば何も起きないでほしい。

響はそう願った。

 

 

――闇の領域

 

暗い空間の中で、巨大な怪物が膝をついていた。

カッティンダー。

昨日、アイドルプリキュア達と戦い、逃げ去った存在だ。

その身体を覆う闇の奥では、カッティーが苦しんでいた。

 

「……自分は……」

 

かすれた声が漏れる。

 

「何ということを……」

 

思い出すのは、昨日の戦い。

キュアアイドル達を傷つけ、プリルンを攻撃した。

本当は、あんなことをしたくなかった。

自分はチョッキリ団の一員だ。

それでも。

あの三人の笑顔を、もう一度見たいと思ってしまった。

 

「……自分は、もう……」

 

そのとき、暗闇の奥から声が響いた。

 

『カッティー』

 

「……ダークイーネ様」

 

『お前はまだ迷っているのか』

 

「そ、それは……」

 

カッティーは身体を震わせた。

 

『お前の中に生まれた光。それが、お前を弱くしている』

 

「……違いますぞ」

 

『何?』

 

「あの三人は……」

 

カッティーは必死に言葉を続けた。

 

「自分が知らなかったものを、見せてくれたのですぞ……!」

 

闇が大きく揺れた。

 

『不要だ』

 

「ダークイーネ様!?」

 

『光など、すべて消してしまえばよい』

 

黒い闇がカッティンダーの身体を包み込む。

 

「や、やめ……!」

 

カッティーの声は途中で途切れた。

怪物の身体がさらに巨大化していく。

腕が太くなり、全身を覆う闇が濃くなっていった。

その胸元に残っていた小さな光も、黒い闇に覆われる。

 

『行け』

 

ダークイーネの声が響いた。

 

『アイドルプリキュアを、闇に沈めよ』

 

カッティンダーがゆっくりと顔を上げた。

 

そこに、昨日までの迷いはなかった。

 

――キラキランド

 

「ねえたま!」

 

メロロンがプリルンを見つけたのは、ビッグキラキラリボンの下だった。

プリルンは地面に座り込んでいた。

 

「……メロロン」

 

「どうしたメロ?」

 

「……全部戻したプリ」

 

プリルンは空を見上げた。

 

「でも、まだ足りなかったプリ」

 

メロロンもビッグキラキラリボンを見上げる。

確かに、光は少し戻っている。

しかし、闇を払うには程遠かった。

 

「……ねえたま」

 

メロロンはプリルンの隣へ座った。

 

「プリルン、うた達を守りたいプリ」

 

「……メロ」

 

「昨日、みんなが危なかったプリ。響も、すごく頑張ってたプリ。でも、みんな苦しそうだったプリ」

 

プリルンは自分の手を見つめた。

 

「プリルンも何かできると思ったプリ。なのに……」

 

その声が弱くなる。

 

「……また、何もできなかったプリ」

 

メロロンは何も言えなかった。

大好きなねえたまが、こんな顔をしている。

自分は、ねえたまに笑っていてほしいのに。

 

「……ねえたま」

 

メロロンは鞄へ手を伸ばした。

中には、あの錠前と鍵が入っている。

女王様の言葉が浮かぶ。

決して使ってはいけない。

だが、このままでは。

 

「……メロロン、できることがあるメロ」

 

「プリ?」

 

プリルンが顔を上げる。

メロロンはハートキラリロックを取り出した。

 

「これを使えば、ねえたまの願いを叶えられるメロ」

 

「……本当プリ!?」

 

「メロ」

 

プリルンの表情が明るくなる。

 

「じゃあ、これでみんなを守れるプリ!?」

 

「……守れるメロ」

 

メロロンは静かに頷いた。

だが、その顔はどこか悲しそうだった。

 

「でも、ねえたま」

 

「プリ?」

 

「この力を使うには、代わりに一番大事なものを封印しなくちゃいけないメロ」

 

「一番大事なもの?」

 

「ねえたまにも、メロロンにも、大切なものがあるメロ。それを、この鍵で閉じ込めるメロ」

 

プリルンは首を傾げた。

 

「……閉じ込める?」

 

「一度封印したら、簡単には取り戻せないメロ」

 

メロロンはプリルンを見つめた。

 

「ねえたまの一番大切なものって、何メロ?」

 

プリルンは少し考えた。

 

そして、ゆっくりと答えた。

 

「……うたプリ」

 

「……メロ」

 

「うたと出会ってから、プリルン、毎日楽しかったプリ」

 

プリルンの脳裏に、たくさんの出来事が浮かんでくる。

初めて出会った日のこと。

一緒に歌ったこと。

喫茶グリッターで食べたもの。

うたが笑っていたこと。

困っているときには、いつも手を差し伸べてくれたこと。

 

「ななも、こころも、響も、みんな優しいプリ」

 

プリルンは笑った。

 

「でも、うたと出会ってなかったら、プリルンはみんなとも会えなかったプリ」

 

メロロンは黙って聞いていた。

 

「うたが、プリルンを大切なメンバーって言ってくれたプリ」

 

プリルンは両手を胸元へ当てる。

 

「だから、プリルンもみんなを守りたいプリ!」

 

その言葉に、メロロンの胸が痛んだ。

 

「……ねえたま」

 

「プリ?」

 

「ハートキラリロックを使ったら、ねえたまは、うたとの思い出を忘れちゃうメロ」

 

プリルンの笑顔が消えた。

 

「……忘れるプリ?」

 

「そうメロ」

 

メロロンは錠前を見つめた。

 

「一緒に過ごしたことも、楽しかったことも、全部……」

 

プリルンは何も言わなかった。

忘れてしまう。

うたと過ごした時間を。

毎日、一緒に笑っていたことを。

自分にとって、一番大切な宝物を。

 

「……嫌プリ」

 

小さな声が漏れた。

メロロンは顔を上げた。

 

「ねえたま……」

 

「うたのこと、忘れたくないプリ……」

 

プリルンは両手を握りしめた。

あんなに楽しかったのに。

あんなに大好きなのに。

それを全部忘れてしまうなんて。

 

「……でも」

 

プリルンは顔を上げた。

 

「うたが、また危ない目に遭ったら……」

 

昨日の光景が浮かぶ。

倒れるキュアアイドル。

傷ついた仲間達。

必死に立ち上がる響。

そして、自分は何もできなかった。

あんな思いを、もうしたくない。

プリルンはメロロンを見た。

 

「……メロロン」

 

「……何メロ?」

 

「プリルン、決めたプリ」

 

その目には、もう迷いはなかった。

 

「うたを守れるなら、この力を使うプリ!」

 

メロロンは息を呑んだ。

 

「……本当にいいメロ?」

 

「……怖いプリ」

 

プリルンは小さく答えた。

 

「でも、うたが笑っていられるなら、それでいいプリ」

 

「ねえたま……」

 

プリルンは錠前へ手を伸ばした。

しかし、途中で止まる。

 

「……メロロンも、大事なものを封印するプリ?」

 

「……メロ」

 

「メロロンは、何を封印するプリ?」

 

メロロンは少しだけ目を伏せた。

そして、笑った。

 

「……内緒メロ」

 

「プリ?」

 

「ねえたまには、まだ教えないメロ」

 

プリルンは不思議そうに首を傾げた。

だが、メロロンはそれ以上答えなかった。

自分にとって、一番大切なもの。

それを失うことが、どれほど恐ろしいのか。

本当は分かっている。

それでも。

ねえたまが望むなら。

 

「……ねえたま」

 

メロロンは鍵を持ち上げた。

 

「一緒に願うメロ」

 

「……うんプリ!」

 

二人はハートキラリロックへ手を伸ばした。

錠前が淡い光を放ち始める。

プリルンは目を閉じた。

うたの笑顔が浮かぶ。

自分へ向けてくれた、あの温かい笑顔。

忘れたくない。

ずっと覚えていたい。

けれど。

 

「……うた」

 

プリルンは小さく呟いた。

 

「プリルンが、守るプリ……!」

 

二人の手が重なった。

鍵が錠前へ差し込まれる。

その瞬間、まばゆい光が広がった。

プリルンの胸から、淡い光が浮かび上がる。

それは小さな光の粒となり、錠前へ吸い込まれていった。

一つ、また一つ。

その光の中には、うたと過ごした時間があった。

初めて出会った日。

一緒に笑った日。

歌を聞いた日。

大切だと言ってもらえた日。

どれも、プリルンにとってかけがえのないものだった。

やがて、最後の光が錠前へ吸い込まれる。

同時に、メロロンの胸元からも光が浮かび上がった。

 

「……メロロン?」

 

プリルンが声をかける。

メロロンは笑った。

 

「大丈夫メロ、ねえたま」

 

その目には、涙が浮かんでいた。

 

「……メロロンは、ねえたまの願いを叶えたいメロ」

 

二人の光が錠前の中で重なる。

鍵が回った。

そして、ハートキラリロックが閉じられた。

次の瞬間、強い光が二人を包み込んだ。

 

 

――はなみちタウンフェス

 

「みんな、準備はいい?」

 

ステージ裏で、うたが二人へ声をかけた。

 

「うん!」

 

「もちろんです!」

 

三人はそれぞれのブローチを掲げた。

光が広がり、アイドルプリキュアへと姿を変えていく。

 

『プリキュア! ライトアップ!

キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!

キミと~! YEAH!

一緒に~! YEAH!

キミと歌う、ハートのキラキラ! 笑顔ニッコリ、キュアアイドル!』

 

『プリキュア! ライトアップ!

キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!

キミと~! YEAH!

一緒に~! YEAH!

キミと瞬く、ハートの勇気!

お目目パッチン、キュアウインク!』

 

『プリキュア! ライトアップ!

キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!

キミと~! YEAH!

一緒に~! YEAH!

キミと踊る、ハートのリズム! 心キュンキュン キュアキュンキュン!』

 

『ウィアー! キミとアイドルプリキュア!』

 

三人は顔を見合わせ、頷いた。

 

「それじゃあ、行こう!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

ステージへ向かう三人を、響が見送っていた。

 

「……頑張れよ」

 

その言葉に、アイドルが振り返る。

 

「うん! お兄ちゃんもちゃんと見ててね!」

 

「ああ」

 

響は軽く手を上げた。

三人がステージへ出ていく。

その姿を見ながら、響は少しだけ笑った。

昨日まで、あんなに練習してたからな。

今日くらいは、何事もなく終わってほしい。

だが、その願いは叶わなかった。

ステージの上空が、突然暗くなった。

 

「……何?」

 

アイドルが空を見上げる。

広がった闇の中から、巨大な影が姿を現した。

 

「……まさか」

 

響の表情が変わる。

見覚えのある巨体。

太い腕。

全身を覆う黒い闇。

昨日、逃げられたカッティンダーだった。

 

「カッティンダー!?」

 

ウインクが声を上げる。

だが、その姿は昨日とは違っていた。

身体がさらに大きくなり、闇の密度も増している。

 

「……冗談だろ」

 

響は眉を寄せた。

昨日より強くなってやがる。

カッティンダーが腕を振り上げた。

 

「危なぇ!」

 

響が叫ぶ。

三人は左右へ飛び退いた。

巨大な腕がステージを叩き、床板が砕ける。

 

「カッティー!」

 

アイドルが叫んだ。

 

「また来たの!?」

 

しかし、返事はなかった。

カッティンダーの身体から、さらに濃い闇が広がっていく。

ステージの周囲が黒く覆われ、客席との間に大きな闇の壁が生まれた。

 

「……まずいな」

 

響は周囲を見た。

闇の壁の向こうには、まだ多くの人がいる。

このまま放っておけば、会場全体が巻き込まれるかもしれない。

 

「田中さん!」

 

響が叫ぶ。

 

「ステージ周りから人を離してくれ!」

 

「分かりました!」

 

田中はすぐにスタッフへ声をかけ、ステージ周辺の立ち入りを止めた。

響はポケットから死神代行証を取り出す。

だが、その瞬間、右肩に痛みが走った。

 

「……っ」

 

思わず顔をしかめる。

まだ傷は治っていない。

この状態で戦えるか。

いや。

考えている場合じゃねぇ。

響は代行証を胸元へ押し当てた。

肉体から魂が抜け出し、黒い死覇装をまとった響が現れる。

背中の斬月を抜き、ステージへ駆け出した。

 

「お兄ちゃん!?」

 

アイドルが振り返る。

 

「その怪我で戦うつもり!?」

 

「黙って見てられるかよ!」

 

響は斬月を構えた。

 

「お前らはカッティーを助けろ! 俺はこいつの動きを止める!」

 

「……分かった!」

 

アイドルが頷く。

カッティンダーの腕が横から迫った。

 

「ウインク!」

 

「うん!」

 

ウインクが前へ出る。

 

「ウインクバリア!」

 

光の障壁が展開された。

しかし、カッティンダーの腕が触れた瞬間、障壁に亀裂が走った。

 

「……っ!」

 

ウインクが歯を食いしばる。

昨日よりも重い。

このままでは防ぎきれない。

 

「下がれ!」

 

響が横から踏み込んだ。

斬月を振り、腕へ刃を当てる。

しかし。

 

「……っ!?」

 

刃が深く入らない。

黒い闇が硬い外殻のように腕を覆っていた。

響は刀を傾け、攻撃の軌道を変えようとする。

だが、右肩に激痛が走った。

 

「ぐっ……!」

 

力が抜ける。

その隙に、カッティンダーの腕が振り抜かれた。

響の身体が後方へ飛ばされる。

 

「響さん!」

 

キュンキュンが叫んだ。

 

響は何とか着地したが、片膝をついた。

 

「……くそっ」

 

右腕が動かない。

昨日の傷が、思っていた以上に深い。

 

「響さん、無理しないでください!」

 

「分かってる……!」

 

響は左手で斬月を握り直した。

だが、カッティンダーは待ってくれない。

再び腕を振り上げる。

 

「アイドルグータッチ!」

 

アイドルが横から飛び込んだ。

光をまとった拳が怪物の身体へ命中する。

しかし、カッティンダーはほとんど動じなかった。

 

「……そんな!」

 

「アイドル、離れて!」

 

ウインクが叫ぶ。

反撃の腕が迫る。

アイドルは身をひねってかわしたが、続いて放たれた闇の衝撃に押し戻された。

 

「アイドル!」

 

キュンキュンが駆け寄る。

 

「大丈夫!」

 

アイドルは立ち上がった。

だが、その表情には焦りが浮かんでいた。

昨日よりも強い。

三人の攻撃が、ほとんど通じない。

しかも、カッティンダーの中にはカッティーがいる。

力任せに攻撃するわけにもいかなかった。

響は奥歯を噛みしめた。

……まずい。

このままじゃ、押し切られる。

右肩に痛みが走る。

斬月を握る手にも力が入らない。

昨日の大虚との戦いが、まだ身体に残っている。

 

「……ふざけんなよ」

 

響はゆっくりと立ち上がった。

 

「こんなときに……!」

 

カッティンダーが三人へ向かう。

響は地面を蹴った。

 

「そっち行ってんじゃねぇ!」

 

斬月を振り、足元へ刃を当てる。

わずかに動きが止まった。

だが、次の瞬間には腕が迫っていた。

避けようとして、右肩が痛む。

 

「……しまっ!」

 

衝撃が響の身体を捉えた。

ステージの端まで弾き飛ばされ、床に倒れ込む。

 

「お兄ちゃん!」

 

アイドルの声が聞こえた。

響は歯を食いしばった。

立て。

まだ動けるだろ。

そう思っても、身体が言うことを聞かない。

 

「……くそっ!」

 

斬月を支えにして、何とか身体を起こす。

だが、右腕はほとんど動かなかった。

今の自分では、あいつを止められない。

その事実が、嫌でも分かった。

 

 

――キラキランド

 

強い光の中で、プリルンは目を閉じていた。

胸の奥から、大切な何かが離れていく感覚があった。

温かかったもの。

いつもそばにあったもの。

それが、少しずつ遠ざかっていく。

 

「……うた」

 

小さく名前を呼ぶ。

その声すら、光の中に消えていった。

隣では、メロロンがプリルンの手を握っていた。

 

「……ねえたま」

 

メロロンは目を閉じた。

この願いが叶うなら。

ねえたまが、もう悲しまなくて済むなら。

自分は、それでいい。

二人を包む光がさらに強くなる。

やがて、白い光の中に二つの人影が浮かび上がった。

 

 

――はなみちタウンフェス

 

「……っ!」

 

アイドルがステージへ膝をついた。

ウインクもキュンキュンも、すでに限界が近かった。

カッティンダーは三人を見下ろしている。

その腕には、再び闇が集まり始めていた。

 

「……カッティー」

 

アイドルが顔を上げる。

 

「お願い……聞いて!」

 

だが、怪物は答えない。

 

「私達、あなたと戦いたくないの!」

 

アイドルは必死に声を張り上げた。

 

「昨日、あなたの中に光があったの、見えたんだよ!」

 

カッティンダーの動きが一瞬止まった。

 

「だから、きっとまだ……!」

 

しかし、その胸元から闇が広がり、わずかに見えた光を覆い隠した。

カッティンダーが腕を持ち上げる。

 

「うた、下がれ!」

 

響が叫ぶ。

何とか立ち上がろうとするが、足が動かない。

間に合わない。

 

「……くそっ!」

 

そのときだった。

上空から二筋の光が降り注いだ。

 

「……え?」

 

アイドルが顔を上げる。

白と黒の光が、カッティンダーの腕へ命中した。

カッティンダーの身体が大きく揺れ、後方へ押し戻される。

 

「何!?」

 

ウインクが驚く。

キュンキュンも空を見上げた。

 

「……誰ですか!?」

 

光の中から、二人の少女が姿を現した。

一人は、白を基調とした衣装に淡い緑色の飾りをまとっている。

もう一人は、桃色と黒を組み合わせた衣装を身につけていた。

二人はステージへ静かに降り立った。

 

「……何だ、あいつら」

 

響は目を細めた。

どちらも、今まで見たことのない人物だ。

だが、感じる力はプリキュアに近い。

虚でも、死神でもない。

 

「……あんたら、何者だ?」

 

響が問いかける。

白い衣装の少女が振り返った。

 

「もう大丈夫」

 

その声は、落ち着いていた。

 

「ここからは、私達に任せて」

 

隣の少女も前へ出る。

 

「あなた達は下がっていて」

 

「……は?」

 

響は思わず眉を寄せた。

突然現れた相手に、いきなり任せろと言われても。

だが、二人の表情に迷いはなかった。

そして何より。

 

……強ぇ。

 

二人から感じる力は、今の自分よりも明らかに大きかった。

響は斬月を握り直した。

無理をすれば、まだ戦えるかもしれない。

しかし、今の状態で前へ出れば、かえって足を引っ張る可能性がある。

 

「……分かった」

 

響は一歩下がった。

 

「頼んだぞ」

 

白い衣装の少女が小さく微笑む。

そして、カッティンダーへ向き直った。

 

「さあ、始めましょう」

 

二人が並ぶ。

その瞬間、ステージの空気が変わった。

光が広がり、音楽が流れ始める。

 

「……ライブ?」

 

アイドルが目を丸くした。

二人は息を合わせて歌い始めた。

白い衣装の少女が手を伸ばす。

黒色の少女がその動きに合わせて身体を回した。

二人の動きは、最初から一つに決められていたかのように揃っている。

歌声とともに光が広がり、カッティンダーを包んでいった。

 

「……すごい」

 

ウインクが呟く。

 

「二人だけで、あのカッティンダーを……!」

 

キュンキュンも驚きを隠せなかった。

 

 

 

カッティンダーを覆っている闇だけを、取り除いている。

昨日、うた達の歌でも消せなかった闇。

それを、あの二人は消そうとしている。

二人は顔を見合わせた。

そして、同時に光を放つ。

 

『プリキュア・ズキューンキッスディスティニー!』

 

二人の歌声と光が重なり、カッティンダーの巨体を包み込んだ。

 

「……っ!」

 

響は目を細めた。

強い光がステージ全体へ広がる。

カッティンダーを覆っていた闇が、薄れていった。

黒い身体が崩れていく。

その奥から、小さな光が現れた。

 

「……カッティー!」

 

アイドルが叫ぶ。

やがて光が収まると、そこには元の姿へ戻ったカッティーが倒れていた。

 

「……う、うう……」

 

カッティーがゆっくりと目を開ける。

 

「……ここは……?」

 

「カッティー!」

 

アイドルが駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

 

「……アイドルプリキュア……?」

 

カッティーは目を見開いた。

自分の身体を見る。

巨大な怪物の姿ではない。

元の身体に戻っている。

 

「……自分は……」

 

カッティーはゆっくりと顔を上げた。

そこには、アイドルプリキュアの三人と、少し離れた場所で斬月を支えに立つ響がいた。

 

「……また、迷惑をかけてしまったのですぞ」

 

カッティーは俯いた。

 

「自分は、あなた達を……」

 

「大丈夫だよ!」

 

アイドルが笑顔で答えた。

 

「こうして戻ってこられたんだから!」

 

「……アイドルプリキュア……」

 

カッティーはしばらく黙っていた。

そして、二人の新しいプリキュアを見る。

 

「……あなた達が、助けてくれたのですかな?」

 

白い衣装の少女が頷いた。

 

「もう、闇に負けないで」

 

その言葉に、カッティーは目を伏せた。

 

「……はいですぞ」

 

カッティーは静かに立ち上がった。

 

「自分は……少し、考えたいことがありますぞ」

 

そう言い残し、その場を離れていった。

響はその背中を見つめた。

 

「……あいつ、大丈夫か?」

 

「きっと大丈夫だよ」

 

アイドルが答える。

 

「カッティーの中にも、ちゃんとキラキラがあったんだから!」

 

「……そうか」

 

響は小さく頷いた。

そのとき、ウインクが声を上げた。

 

「そうだ! 二人は?」

 

全員が振り返る。

そこには、先ほどの二人のプリキュアが立っていた。

 

「あなた達は、一体……?」

 

キュンキュンが尋ねる。

白い衣装の少女が微笑む。

 

「キュアズキューン」

 

黒色の少女が続けた。

 

「キュアキッス」

 

「ズキューン……キッス……?」

 

アイドルが二人の名前を繰り返す。

 

「新しいプリキュア……?」

 

「そういうことになるのかな」

 

ズキューンは小さく笑った。

その笑顔を見た瞬間。

アイドルの胸が高鳴った。

 

「……っ!」

 

思わず言葉を失う。

何だろう。

初めて会ったはずなのに。

その笑顔を、ずっと見ていたいと思ってしまう。

 

「……すごい」

 

小さく呟いた。

ズキューンはそんなアイドルへ手を伸ばした。

指先を向け、笑顔を見せる。

まるで、ファンサービスをするように。

 

「あなたにも、届け」

 

光が指先から放たれた。

アイドルはその場に立ち尽くした。

 

「……っ!?」

 

顔が赤くなる。

 

「……キラッキランラン……」

 

ウインクが驚いてアイドルを見る。

 

「アイドル?」

 

「……はっ!」

 

アイドルは慌てて顔を上げた。

 

「す、すごかった! 今の!」

 

キュンキュンも目を輝かせる。

 

「私も心キュンキュンです!」

 

その横で、響は腕を組もうとして、右肩の痛みに顔をしかめた。

 

「……おい」

 

誰も聞いていない。

 

「……お前ら、ちょっと落ち着け」

 

アイドルはまだズキューンを見つめていた。

 

「だって、すっごくかっこよかったんだもん!」

 

「……そうかよ」

 

響は小さく息を吐いた。

まあ、言いたいことは分かる。

あの二人が来なければ、どうなっていたか分からなかった。

 

「……助かった」

 

響が二人へ声をかける。

ズキューンが振り返った。

 

「何?」

 

「お前らが来なかったら、危なかった。……ありがとな」

 

その言葉に、ズキューンは少しだけ目を丸くした。

そして、静かに笑う。

 

「どういたしまして」

 

キッスが隣へ並んだ。

 

「それじゃあ、私達はこれで」

 

「えっ!? もう行っちゃうの!?」

 

アイドルが慌てて手を伸ばす。

しかし、二人はすでに背を向けていた。

 

「また会える?」

 

その問いに、ズキューンは振り返った。

 

「……きっとね」

 

そう答えると、二人の姿が光に包まれた。

次の瞬間、二人はその場から消えていた。

 

「……行っちゃった」

 

アイドルが呟く。

ウインクも空を見上げた。

 

「不思議な二人だったね」

 

「はい! でも、すごく強かったです!」

 

キュンキュンが頷く。

響も、二人が消えた場所を見つめていた。

……あの二人。

どこかで感じたことのあるような気配だった。

だが、思い当たる相手はいない。

 

「……気のせいか」

 

響は小さく呟いた。

 

 

――フェス会場・舞台裏

 

戦いが終わり、うた達は控室へ戻っていた。

三人はすでに変身を解いている。

 

「はぁ……」

 

うたが椅子へ座り込んだ。

 

「大変だったね……」

 

「うん。でも、カッティーさんが助かってよかった」

 

ななが微笑む。

 

「それに、新しいプリキュアまで登場するなんて!」

 

こころはまだ興奮していた。

 

「キュアズキューンとキュアキッス……本当にすごかったです!」

 

「うん!」

 

うたも大きく頷く。

 

「特にズキューン! あの笑顔、すっごく素敵だった!」

 

「……まだ言ってんのか」

 

響が呆れたように言った。

 

「だって、本当にすごかったんだもん!」

 

「分かったって」

 

響は椅子へ腰を下ろした。

 

その瞬間、右肩に痛みが走る。

 

「……っ」

 

うたがすぐに気づいた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「……何だよ」

 

「やっぱり怪我、ひどいんじゃん!」

 

響は視線をそらした。

 

「……まあ、少しな」

 

「少しじゃないでしょ!」

 

うたが近づく。

 

「昨日だって一人で戦って、今日も無理して……!」

 

「……悪かった」

 

響は素直に謝った。

 

うたは少し驚いたように目を丸くする。

 

それから、心配そうに兄を見た。

 

「……お兄ちゃんまで倒れたら、私、嫌だからね」

 

響は何も言わなかった。

昨日の大虚。

今日のカッティンダー。

どちらも、自分の力ではどうにもならなかった。

守りたいと思っているのに、その力が足りない。

 

「……分かってる」

 

響は静かに答えた。

 

「次は、こんな無茶しなくて済むようにする」

 

「……うん」

 

うたは小さく頷いた。

 

そのとき、田中が控室へ入ってきた。

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

「田中さん!」

 

「会場の安全確認が終わりました。幸い、大きな被害はありません」

 

「よかった……」

 

ななが安心したように息を吐く。

 

「ですが、本日のライブについては、残念ながら中止とさせていただきます」

 

「……そっか」

 

うたは少し残念そうだった。

あれだけ練習したのに。

みんなで頑張ってきたのに。

それでも、今日は仕方がない。

 

「……また、できるよね?」

 

うたが尋ねる。

 

田中は微笑んだ。

 

「もちろんです。次の機会を作りましょう」

 

「……うん!」

 

うたは笑顔を取り戻した。

 

「次こそ、絶対に最高のライブにする!」

 

「そうだね」

 

「はい!」

 

三人が頷く。

響はその様子を見て、小さく笑った。

……本当に、諦めねぇ奴らだな。

それが、少し羨ましくもあった。

 

 

――夕方・喫茶グリッター

店に戻ると、うたは真っ先に自分の部屋へ向かった。

 

「プリルン、帰ってきてないかな……」

 

扉を開く。

しかし、そこに二人の姿はなかった。

布団はきれいに畳まれている。

いつもなら聞こえてくるはずの声もない。

 

「……まだかぁ」

 

うたはベッドへ腰を下ろした。

スマホを取り出す。

画面には、朝に見たプリルンの動画が残っていた。

 

『プリルンも頑張るプリ!』

 

その笑顔を見ると、少しだけ安心する。

 

「……プリルン」

 

うたは画面を見つめた。

今日は、本当に大変だった。

カッティンダーが現れて、みんなが危なくなって。

でも、新しいプリキュアが助けてくれた。

 

「……プリルンにも教えてあげたいな」

 

うたは小さく笑った。

新しいプリキュアが二人も現れたこと。

カッティーが元に戻ったこと。

そして、キュアズキューンの笑顔が、どれだけ素敵だったか。

きっとプリルンも喜んでくれる。

 

「……早く帰ってこないかな」

 

うたはスマートフォンを胸に抱き寄せた。

 

その頃。

廊下の向こうでは、響が自分の部屋へ戻ろうとしていた。

右肩には、新しく巻き直した包帯がある。

 

「……っ」

 

まだ痛む。

今日の戦いで、傷が悪化したらしい。

 

「……ったく」

 

響は壁に手をついた。

思い出すのは、あの二人のプリキュア。

圧倒的な力でカッティンダーを押さえ、闇を浄化した。

自分にはできなかったことだ。

 

「……強かったな、あいつら」

 

思わず呟く。

あの大虚も、カッティンダーも。

今の自分では、まともに相手をすることすら難しい。

このままでは駄目だ。

響は右手を見つめた。

斬月。

自分の中にある力。

まだ、何かが足りない。

そう感じる。

だが、その答えは分からなかった。

 

「……強くならねぇとな」

 

響は静かに呟いた。

今度こそ。

誰かを守るために、もっと強くなる。

その決意を胸に、響は部屋へ戻っていった。

 

 

――夜・キラキランド

暗い空の下。

誰もいない城の一角で、ハートキラリロックが淡く光っていた。

錠前は固く閉じられている。

その中には、二人が差し出した大切なものが封じられていた。

一人は、かけがえのない思い出を。

もう一人は、まだ誰にも明かしていない大切な何かを。

二人は、願いを叶えるためにそれを手放した。

大切な人を守るために。

けれど。

その願いが叶った代わりに、何を失ったのか。

まだ、うた達は知らない。

そして、そのことを知る日は、そう遠くなかった。

 




誇りを一つ捨てるたび
我等は獣に一歩近づく
心を一つ殺すたび
我等は獣から一歩遠退く

BLEACH/第13巻 更木剣八

キミプリの推しは?

  • 咲良うた/キュアアイドル
  • 蒼風なな/キュアウィンク
  • 紫雨こころ/キュアキュンキュン
  • プリルン/キュアズキューン
  • メロロン/キュアキッス
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