キミとアイドルプリキュア♪~魂と輝き~   作:Ryo02913

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第20話 限界を超えろ!

――咲良家・朝

 朝日が差し込む食卓は、いつもより静かだった。

 うたは目の前の朝食にほとんど手をつけず、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

 昨日、プリルンとメロロンが帰ってきた。ずっと心配していた二人が無事だったことは、本当に嬉しかった。

 けれど、プリルンは自分のことを覚えていなかった。

 

『プリルン、キミのこと知らないプリ』

 

 その言葉が、何度も頭の中で繰り返される。

 

「……プリルン」

 

 うたは小さく名前を呼んだ。

 

「……うた」

 

 向かいに座る響が声をかけた。

 

「……何?」

 

「飯、冷めるぞ」

 

「……うん」

 

 うたは箸を手に取った。しかし、なかなか食事が進まない。

 響はそんな妹を黙って見つめていた。

 昨日、うたが泣きそうになりながらプリルンを呼んでいた姿を思い出す。

 あいつがどれだけプリルンを大切にしていたのか、響も知っていた。

 だからこそ、何と言ってやればいいのか分からなかった。

 

「……お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「プリルン、どうして忘れちゃったんだろう……」

 

 うたが俯く。

 

「私、何かしちゃったのかな……」

 

「……んなわけねぇだろ」

 

 響はすぐに答えた。

 うたが顔を上げる。

 

「お前があいつに何かしたわけじゃねぇよ。それに、メロロンは何か知ってるみたいだったろ」

 

「……うん」

 

「だったら、まずは何があったのか確かめねぇとな」

 

 響は箸を置いた。

 

「理由も分かんねぇうちから、自分のせいにすんな」

 

 うたはしばらく兄を見つめていた。

 そして、小さく頷いた。

 

「……ありがとう、お兄ちゃん」

 

「……別に」

 

 響は視線を食卓へ戻した。

 そのとき、右肩に鈍い痛みが走った。

 

「……っ」

 

 思わず顔をしかめる。

 ヴァルドとの戦いで再び傷口が開いてしまった右肩は、まだ治っていなかった。

 アジューカス。

 あの虚の強さは、今まで戦ってきた相手とは明らかに違っていた。

 月牙天衝を受けても倒れず、こちらが全力を出しても余裕を残していた。

 

『次に会うときは、もっと楽しませてくれよ』

 

 ヴァルドの言葉が頭をよぎる。

 響は無意識に拳を握りしめた。

 

 ……今のままじゃ、勝てねぇ。

 

 そのことは、誰よりも自分が分かっていた。

 

 

 

――喫茶グリッター

 昼前、喫茶グリッターに田中が戻ってきた。

 店に集まったうた、なな、こころ、響の四人は、田中の話を聞いていた。

 

「……そうだったんですか」

 

 ななが悲しそうに呟いた。

 田中はキラキランドでピカリーネ女王から聞いた話を、ゆっくりと説明していた。

 伝説のハートキラリロック。

 二人の願いを叶える代わりに、それぞれが最も大切にしているものを封じるという、強い力を持つ錠前。

 プリルンとメロロンは、うた達を守れる力を手に入れるために、その錠前を使ったのだという。

 

「……じゃあ」

 

 うたが震える声で尋ねた。

 

「プリルンが私たちのことを忘れちゃったのは……」

 

 田中は静かに頷いた。

 

「プリルンが封じたのは、うたさんたちと過ごした思い出だったそうです」

 

「……っ」

 

 うたは言葉を失った。

 ななもこころも、驚いた表情で田中を見ていた。

 響は黙って話を聞いていたが、やがて口を開いた。

 

「……なあ、田中さん」

 

「はい」

 

「あいつら、それを承知で使ったのか?」

 

「……はい。ピカリーネ様からは、代償について説明を受けていたそうです」

 

「……そうかよ」

 

 響は顔をしかめた。

 あの夜のことを思い出す。

 プリルンは、うた達を守るために強くなりたいと言っていた。

 自分と同じように、力が足りないことを悔しがっていた。

 だから、響は二人を送り出した。

 だが、まさかこんな代償を払っていたとは思わなかった。

 

「……あの馬鹿」

 

 響が小さく呟く。

 その声に、うたが顔を上げた。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「……何でもねぇ」

 

 響は首を振った。

 強くなりたいという気持ちは分かる。

 自分だって同じだ。

 けれど、プリルンが何より大切にしていたうたとの思い出まで失うなんて。

 

「……メロロンは?」

 

 こころが尋ねた。

 

「メロロンは、何を封じたんですか?」

 

「それについては、ピカリーネ様も詳しく教えていただけなかったそうです」

 

「……そうですか」

 

 こころは俯いた。

 しばらく沈黙が続いたが、うたが顔を上げた。

 

「……でも!」

 

 その声に、全員が振り返る。

 

「プリルンが私のことを忘れちゃった理由は分かったんだよね!」

 

「……うたちゃん?」

 

 ななが尋ねる。

 

「だったら、思い出してもらえばいいんだよ!」

 

 うたは両手を握りしめた。

 

「プリルンと一緒に過ごした思い出、いっぱいあるもん! その全部を、もう一回見せてあげれば……!」

 

 そこまで言って、少しだけ声が弱くなった。

 

「……思い出してくれるかもしれない」

 

 ななは優しく微笑んだ。

 

「うん。やってみようよ」

 

「そうです! 私達もお手伝いします!」

 

 こころも力強く頷く。

 響はうたを見た。

 昨日まで落ち込んでいた妹の目に、少しだけいつもの輝きが戻っていた。

 

「……そうだな」

 

 響は小さく笑った。

 

「やってみるしかねぇだろ」

 

「うん!」

 

 うたは元気よく頷いた。

 

 

 

――田中の家

 その後、うた達は田中の家を訪れていた。

 プリルンとメロロンは、現在ここで一緒に暮らしているという。

 部屋の扉を開けると、二人の姿があった。

 

「プリルン!」

 

 うたが声を上げる。

 プリルンは振り返った。

 

「……プリ?」

 

 そして、不思議そうに首を傾げる。

 

「昨日の子プリ?」

 

「……うん!」

 

 うたは精一杯の笑顔を作った。

 

「また会いに来ちゃった!」

 

「そうプリ?」

 

 プリルンは首を傾げた。

 隣ではメロロンがうた達を見つめている。

 

「……また来たメロ」

 

「メロロン!」

 

 うたが近づく。

 

「プリルンのこと、絶対に諦めないからね!」

 

 メロロンは一瞬、言葉に詰まった。

 

「……好きにするメロ」

 

 そう答えると、プリルンの隣へ移動した。

 田中はそんな二人を見て、何かを思いついたように頷いた。

 

「そうですね。まずは、プリルンが何を覚えているのか確かめましょう」

 

 その言葉とともに、田中の身体が光に包まれた。

 人間の姿が小さくなり、眼鏡をかけた妖精の姿へ変わっていく。

 

「タナカーンなんタナ!」

 

「……プリ!?」

 

 プリルンの目が輝いた。

 

「タナカーン!」

 

 プリルンが勢いよく駆け寄る。

 

「久しぶりプリ!」

 

「お久しぶりなんタナ!」

 

 二人は嬉しそうに再会を喜んでいた。

 その様子を見て、うた達は顔を見合わせた。

 

「……覚えてる」

 

 ななが呟いた。

 

「そうですね……」

 

 こころも驚いている。

 響は腕を組んだ。

 

「……なるほどな」

 

 うたが振り返る。

 

「お兄ちゃん?」

 

「プリルンは田中さんの妖精の姿を覚えてる。ってことは、全部忘れたわけじゃねぇってことだろ」

 

「……あっ!」

 

 うたの表情が明るくなった。

 

「そっか! 私と出会う前のことは覚えてるんだ!」

 

「そういうことですね」

 

 田中が頷いた。

 うたはプリルンへ駆け寄った。

 

「ねえ、プリルン!」

 

「プリ?」

 

「明日、みんなでピクニックに行かない?」

 

「ピクニックプリ!?」

 

 プリルンの目が輝く。

 

「行きたいプリ!」

 

「本当!?」

 

「プリルン、ピクニック大好きプリ!」

 

 その言葉に、うたは嬉しそうに笑った。

 メロロンもプリルンの隣へ近づいた。

 

「ねえたまが行くなら、メロロンも行くメロ」

 

「やった!」

 

 うたが両手を上げる。

 

「じゃあ、明日ははなみち山に集合ね!」

 

 全員が頷いた。

 ただ一人、響だけは少し考え込んでいた。

 プリルンの記憶を取り戻すことは、うた達に任せられる。

 ならば、自分が今やるべきことは何か。

 その答えは、すでに決まっていた。

 

 

 うた達が田中の家から戻ったあと、響は一人で田中を呼び止めた。

 

「……田中さん。ちょっといいか?」

 

「何でしょうか?」

 

「……俺、しばらく稽古したいんだ」

 

「稽古、ですか?」

 

「ああ」

 

 響は右肩へ手を当てた。

 

「昨日、今までとは桁違いに強い虚と戦った。アジューカスっていう奴だ」

 

「……アジューカス」

 

 田中が表情を引き締める。

 

「その虚に、勝てなかったのですね」

 

「……ああ」

 

 響は頷いた。

 

「そいつが途中で戦いをやめたから助かったようなもんだ。今のままじゃ、次に会ったときも勝てねぇ」

 

 響は拳を握った。

 

「……だから、もっと強くなりてぇんだ」

 

 その言葉を聞いた田中は、しばらく考え込んでいた。

 やがて、静かに頷く。

 

「……分かりました。では、こちらへ」

 

「……ん?」

 

 田中は事務所の奥へ歩き始めた。

 響は不思議に思いながら、その後をついていく。

 やがて辿り着いたのは、普段使われていない部屋だった。

 壁際には大きな棚が並んでいる。

 

「……ここで何すんだ?」

 

「少々お待ちください」

 

 田中が壁にある小さな装置へ手をかざす。

 すると、棚がゆっくりと左右へ移動し、その奥に扉が現れた。

 

「……は?」

 

 響は目を丸くした。

 

「……何だ、これ」

 

「地下へ続く入口です」

 

「……地下?」

 

「はい。以前から準備を進めていたものが、ようやく完成いたしまして」

 

 田中は扉を開けた。

 その向こうには、下へ続く長い階段があった。

 

「……なあ、田中さん」

 

「はい?」

 

「この事務所、いつの間にこんなもん作ったんだ?」

 

「皆さんがアイドル活動をしている間に、少しずつ」

 

「少しずつって……」

 

 響は階段の先を見つめた。

 

「……まあ、いいか」

 

 ここで考えても仕方がない。

 以前から田中の用意する設備には何度も驚かされてきた。

 今さら一つ増えたところで、驚くほどのことでもない……はずだった。

 しかし、階段を下りた響は、思わず足を止めた。

 

「……は?」

 

 目の前に広がっていたのは、巨大な地下空間だった。

 高い天井。

 どこまでも続いているように見える岩壁。

 地面には砂地が広がり、少し離れた場所には岩山まである。

 天井には照明が設置されており、まるで地上のように明るかった。

 その広さは、事務所の地下とは到底思えないものだった。

 

「……おいおい」

 

 響は周囲を見回した。

 

「何だよ、これ……」

 

「アイドルプリキュア事務所の地下修行場です」

 

 田中が当然のように答える。

 

「……修行場?」

 

「はい。皆さんが安全に訓練できる場所があればと思いまして」

 

「……安全って」

 

 響は遠くの岩山を見た。

 

「これ、どう考えても普通の地下室じゃねぇだろ……」

 

「少々広めに作りました」

 

「少々の範囲超えてんだろ!」

 

 響は思わず声を上げた。

 田中は穏やかに微笑んでいる。

 どうやら、本当に何もおかしいと思っていないらしい。

 

「……ったく」

 

 響は頭をかいた。

 だが、すぐに表情を引き締めた。

 

「……まあ、ちょうどいい」

 

「響さん?」

 

「これだけ広けりゃ、多少無茶しても大丈夫だろ」

 

 響は背中の斬月を思い浮かべた。

 今の自分には、まだ知らない力がある。

 それを引き出すには、斬月と向き合う必要があるはずだ。

 なぜそう思うのかは分からない。

 けれど、以前から何度も聞こえていたあの声。

 斬月の奥にいる、あの男。

 今なら、もう一度会える気がした。

 

「……田中さん」

 

「はい」

 

「しばらく、ここを使わせてくれ」

 

「もちろんです」

 

 田中は頷いた。

 

「ただし、怪我をなさっていることは忘れないでください」

 

「……分かってる」

 

 響は小さく頷いた。

 それから、少しだけ間を置いて続ける。

 

「……三日だ」

 

「……三日?」

 

「ああ。三日間、ここで修行する。家には帰らねぇ」

 

 田中が驚いたように目を見開く。

 

「三日間も、ですか?」

 

「……ああ」

 

 響は真剣な表情で答えた。

 

「次にあの虚が現れるまで、どれだけ時間があるか分かんねぇ。だったら、今できることをやるしかねぇだろ」

 

「……分かりました」

 

 田中は静かに頷いた。

 

「決して無理だけはなさらないでください」

 

「……助かる」

 

 響は小さく頭を下げた。

 

「……あと、うたには俺から話す」

 

「承知しました」

 

 

 

――喫茶グリッター・夕方

 夕方、うたは明日のピクニックの準備をしていた。

 テーブルの上には、お弁当の材料やレジャーシートが並んでいる。

 

「これも持っていこうかな……」

 

 うたは楽しそうに鞄へ荷物を詰めていた。

 そのとき、店の入口から響が入ってきた。

 

「……うた」

 

「あっ! お兄ちゃん!」

 

 うたが振り返る。

 

「明日のお弁当、何入れようかなって考えてたんだ!」

 

「……そうか」

 

 響は少し笑った。

 しかし、すぐに真剣な表情へ戻る。

 

「……悪い。俺、明日のピクニックには行けねぇ」

 

「……え?」

 

 うたの手が止まった。

 

「どうして?」

 

「……ちょっと稽古することにした」

 

「稽古?」

 

「ああ」

 

 響は頷いた。

 

「三日間、田中さんが用意してくれた場所で修行する。だから、その間は家に帰らねぇ」

 

「……三日間!?」

 

 うたが驚いて声を上げた。

 

「そんなに!?」

 

「……ああ」

 

「でも、お兄ちゃん、まだ怪我してるでしょ!」

 

「分かってる」

 

「だったら、今じゃなくても……!」

 

「……今やらなきゃ駄目なんだ」

 

 響はうたを見た。

 その表情がいつもより真剣だったため、うたは言葉を止めた。

 

「……昨日の虚、相当強かった。あいつがまた来たら、今の俺じゃ止められねぇ」

 

 響は右手を握りしめた。

 

「……だから、少しでも強くなりてぇ」

 

 うたは黙って兄を見つめていた。

 響が強くなりたいと思っている理由は分かる。

 自分達を守るため。

 誰かが傷つくのを防ぐため。

 それでも、心配だった。

 

「……無茶しない?」

 

 うたが小さく尋ねた。

 

「……なるべくな」

 

「なるべくじゃ駄目!」

 

 うたが頬を膨らませる。

 響は困ったように頭をかいた。

 

「……分かったよ。無茶しねぇようにする」

 

「……本当?」

 

「ああ」

 

 響は頷いた。

 そして、うたの頭へ軽く手を置く。

 

「……プリルンのこと、頼んだぞ」

 

「……うん」

 

 うたは小さく頷いた。

 

「絶対、思い出してもらうから!」

 

「……ああ」

 

 響は少し笑った。

 

「頑張れよ」

 

「お兄ちゃんもね!」

 

 うたは笑顔で答えた。

 響は手を離し、店の奥へ向かった。

 その背中を見送りながら、うたは小さく呟いた。

 

「……三日間かぁ」

 

 何だか少し寂しい。

 プリルンも家にいない。

 そして、今度はお兄ちゃんまで。

 けれど、二人とも頑張っている。

 だったら、自分も頑張らなくちゃ。

 

「……よし!」

 

 うたは鞄へ向き直った。

 

「明日は絶対、楽しいピクニックにするぞ!」

 

 

――地下修行場・初日

 響は地下修行場の中央に座っていた。死神代行証を使い、すでに死神の姿になっている。人間の身体は少し離れた休憩室の寝台へ寝かせてあった。

 田中は休憩室に、響の肉体を保護するための装置を用意していた。キラキランドの技術を利用したもので、身体の状態を監視するだけでなく、長時間の休眠中に衰弱しないよう生命活動を補助する機能も備わっているという。

もっとも、魂の疲労や精神世界で受ける傷まで防げるわけではなかった。

 

「……本当に三日間、ここで修行するおつもりですか?」

 

「ああ。そのつもりだ」

 

 響は斬月を膝の上へ置いた。

 

「ただ、どれくらいかかるかは分かんねぇ。しばらく俺が動かなくても、心配しないでくれ」

 

「……承知しました」

 

 田中は静かに頷いた。

 

「ですが、何か異常があれば、こちらで対応させていただきます」

 

「……ああ。頼む」

 

 響は目を閉じた。

 斬月の力を引き出すためには、もう一度あの場所へ行く必要がある。以前から何度か訪れた、自分の中にある不思議な世界。

 そこにいる男なら、何か知っているはずだった。

 

「……斬月」

 

 小さく名前を呼ぶ。返事はない。

 

「……聞こえてんだろ」

 

 響はさらに意識を集中させた。

 周囲の音が遠ざかっていく。地下修行場の空気も、膝の上に置いた斬月の重さも、少しずつ感じられなくなっていった。

 やがて、響の意識は深い闇の中へ沈んでいった。

 

 

 

――精神世界・初日

 目を開けると、そこには高層ビルが立ち並んでいた。

 暗い空の下、足元には薄く水が張っている。周囲に人の姿はなく、どこまでも静かな景色が続いていた。

 

「……ここか」

 

 響は周囲を見回した。

 

「斬月! いるんだろ!」

 

 声を上げると、背後から低い声が返ってきた。

 

「……来たか」

 

 振り返ると、黒い衣をまとった長髪の男が立っていた。

 斬月のおっさんだった。

 

「……あんたに頼みがある」

 

「……何だ」

 

「俺に、もっと力を貸してくれ」

 

 響は真っ直ぐに男を見つめた。

 

「今のままじゃ勝てねぇ奴がいる。これから先、あいつより強い敵が出てくるかもしれねぇ」

 

 ヴァルドとの戦いが頭をよぎる。

 あの速さと力。月牙天衝を受けても倒れず、余裕を残して去っていった姿。

 

「……俺は、もっと強くならなきゃいけねぇんだ」

 

 響は真っ直ぐに男を見つめた。

 

「だから、頼む。俺に力を貸してくれ」

 

「……響。お前の斬魄刀には、まだ先がある」

 

「……先?」

 

「始解のさらに先。斬魄刀の最終解放――卍解だ」

 

「……卍解?」

 

 初めて聞くはずの言葉だった。しかし、その響きには妙な懐かしさがあった。

 

「……それを使えば、もっと強くなれるのか?」

 

「ああ。だが、今のお前に扱わせるわけにはいかない」

 

「……だったら、どうすりゃいい」

 

「その力を使うに足る者なのか、示してみろ」

 

 響が眉を寄せた。

 

「……どういうことだよ」

 

 そのとき、背後から笑い声が聞こえた。

 

「ようやく俺の出番かよ」

 

 響が振り返る。

 少し離れた場所に、一人の男が立っていた。

白い髪に、白を基調とした死覇装。黒い白目に黄色い瞳。そして、顔つきは自分と瓜二つだった。

その手には、見覚えのある巨大な刀が握られている。

 

「なんだ!?」

 

「なんだはねぇだろ…相棒」

 

 響は男の持つ刀へ視線を向けた。

 

「何でてめえが斬月を持ってんだよ」

 

 男は楽しそうに笑った。

 

「さあな」

 

「……ふざけんな。てめえ、何者だ?」

 

「”何者だ”…? はっ 名前なんか無えよ」

 

 響は斬月のおっさんを振り返った。

 

「おい、どういうことだよ。あいつは何なんだ?」

 

「お前が求める力を手に入れたいのなら、あの男に勝て」

 

「……あいつに?」

 

「そうだ」

 

 男が静かに答える。

 

「斬月を取り戻せ。それが、お前に課す試練だ」

 

 その言葉とともに、響の足元から一本の刀が現れた。

 拾い上げると、それは斬月よりもはるかに小さな刀だった。特別な装飾もない、ごく普通の刀だ。

 

「……何だ、これ」

 

「浅打だ。今はそれを使え」

 

「……こいつで戦えってのか?」

 

 響は浅打を見つめた。

 いつもの斬月とは重さも長さも違う。これまでの戦い方が通用するとは思えなかった。

 

「おいおい、何だよ。その顔は」

 

 ホワイトが笑う。

 

「まさか、斬月がねぇと戦えねぇなんて言わねぇよな?」

 

「……何だと?」

 

「だったらさっさと諦めちまえ。そんな奴に斬月は使いこなせねぇよ」

 

 響はホワイトを睨んだ。

 

「……言ってくれるじゃねぇか」

 

 浅打を構える。

 慣れない刀だったが、ここで引き下がるつもりはない。

 

「……いいぜ。やってやるよ」

 

 ホワイトの口元が歪んだ。

 

「そうこなくちゃな!」

 

 次の瞬間、ホワイトの姿が消えた。

 響が反応したときには、すでに目の前へ迫っていた。

 

「……っ!?」

 

 斬月が横から振り抜かれる。

 響は浅打を立て、何とか受け止めた。

 

「ぐっ……!」

 

 重い。

 浅打を握る両腕が押し戻される。斬月の大きさも、力のかけ方も、今まで自分が使っていたときとはまるで違った。

 

「どうした! そんなもんかよ!」

 

 ホワイトがさらに力を込める。

 響は踏みとどまろうとしたが、耐えきれずに後方へ弾き飛ばされた。

 

「……くそっ!」

 

 体勢を立て直し、すぐに浅打を構える。

 しかし、ホワイトはすでに次の攻撃へ移っていた。

 斬月が頭上から振り下ろされる。

 響は横へ飛んでかわし、そのまま踏み込んだ。

 

「……らあっ!」

 

 浅打を振るう。

 だが、ホワイトは身体をひねって簡単にかわした。

 

「遅えんだよ!」

 

 蹴りが腹部へ命中する。

 

「ぐあっ……!」

 

 響は後方へ吹き飛ばされ、水面へ背中から落ちた。

 すぐに立ち上がろうとしたが、その前にホワイトが間合いを詰めていた。

 

「……っ!」

 

 響は浅打を振り上げた。

 しかし、ホワイトの斬月がそれを弾き飛ばす。

 刀が手から離れ、少し離れた水面へ落ちた。

 

「……おいおい」

 

 ホワイトは肩へ斬月を担いだ。

 

「もう終わりか?」

 

「……誰が!」

 

 響は刀へ手を伸ばした。

 拾い上げると、すぐに構え直す。

 ホワイトは楽しそうに笑っていた。

 その表情には、まだ余裕がある。

 

「……まだやれるってか?」

 

「当たり前だろ」

 

「……いいねえ」

 

 ホワイトは斬月を構えた。

 

「だったら、もっと楽しませてみろよ!」

 

 二人は再び戦い始めた。

 響は何度も斬月を受け止めようとしたが、そのたびに押し負けた。攻撃をかわそうとしても、ホワイトはすぐに間合いを詰めてくる。

 何度立ち上がっても、結果は変わらなかった。

 それでも、響は浅打を手放さなかった。

 

 

 

――精神世界・初日の夜

 どれほど戦っただろうか。

 精神世界の空には相変わらず暗い雲が広がり、景色はほとんど変わらなかった。

 現実世界では、すでに夜になっている。

 しかし、響はそのことを知らなかった。

 何時間経ったのかも分からない。ただ、目の前のホワイトを倒すことだけを考えていた。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 響は荒く息を吐いた。

 腕が重い。足にも疲労が溜まっている。

 浅打を握る手には、何度も刀を弾かれた感覚が残っていた。

 

「……おいおい。随分疲れてんじゃねぇか」

 

 ホワイトが笑う。

 

「そろそろ終わりにするか?」

 

「……ふざけんな」

 

 響は顔を上げた。

 

「まだ一回も勝ってねぇだろ」

 

「だったら、さっさと勝ってみろよ!」

 

 ホワイトが地面を蹴った。

 斬月が横から迫る。

 響は浅打を構えたが、直前で身体をひねって攻撃をかわした。

 そのまま踏み込み、ホワイトの脇腹を狙う。

 

「……っ!」

 

 浅打の切っ先が迫った。

 しかし、ホワイトはわずかに身体を引いただけで攻撃をかわした。

 

「……惜しいな!」

 

 次の瞬間、斬月の柄が響の胸へ叩きつけられた。

 

「ぐっ……!」

 

 響は後方へ倒れ込んだ。

 すぐに起き上がろうとしたが、身体が思うように動かない。

 

「……くそ……」

 

 ホワイトが近づいてくる。

 

「なあ、お前」

 

「……何だよ」

 

「何でそんなに斬月が欲しいんだ?」

 

 響は顔を上げた。

 

「……強くなるためだ」

 

「何のために?」

 

「……守るためだ」

 

 ホワイトは少しだけ目を細めた。

 

「……へえ」

 

 響は浅打を握り直した。

 

「俺が弱けりゃ、誰かが傷つく。そんなのは、もうごめんなんだよ」

 

 ヴァルドとの戦いが頭をよぎる。

 あの虚を倒せなかった。

 もし、あいつが町で誰かを襲ったら。

 もし、自分が間に合わなかったら。

 そう考えるだけで、腹の奥が冷たくなった。

 

「……だから、俺は強くならなきゃいけねぇ」

 

 その言葉に、ホワイトは笑った。

 

「……だったら、そんなところで寝てんじゃねぇよ」

 

「……っ!」

 

 響は歯を食いしばり、身体を起こした。

 足元がふらつく。

 それでも、浅打を構え直した。

 

「……言われなくても分かってる」

 

「……そうかよ」

 

 ホワイトは斬月を肩から下ろした。

 

「なら、続けようぜ」

 

 響は頷いた。

 精神世界での戦いは、まだ終わらなかった。

 

 

 

――地下修行場・初日の深夜

 地下修行場の時計は、深夜を示していた。休憩室の寝台には、響の人間の身体が横たわっている。

田中は身体の状態を確認すると、修行場の中央へ視線を向けた。

そこには、斬月を膝に置き、目を閉じたまま座っている死神姿の響がいた。修行を始めてから、一度も姿勢を変えていない。

 

「……まだ続けているのですね」

 

 返事はない。

 響の意識は、今も精神世界にある。

 田中には、そこで何が起きているのか分からなかった。

 ただ、時折響が苦しそうに眉を寄せるため、楽な修行ではないことだけは伝わってきた。

 

「……どうか、ご無事で」

 

 田中は装置に異常がないことを確かめると、静かに休憩室をあとにした。

 現実世界では夜が深まっていた。

 しかし、響の戦いは止まっていなかった。

 

 

 

――精神世界・二日目

 響は斬月の一撃を受け止めた。

 浅打が大きく押し戻される。

 しかし、今度は無理に押し返そうとしなかった。

 刃を傾け、相手の力を横へ逃がす。

 そのまま身体を回し、ホワイトの側面へ踏み込んだ。

 

「……お?」

 

 ホワイトの表情がわずかに変わる。

 響は浅打を横薙ぎに振るった。

 しかし、ホワイトは斬月の柄で受け止めた。

 

「……へえ」

 

 そして、楽しそうに笑う。

 

「昨日よりはマシになったじゃねぇか」

 

「……うるせぇ!」

 

 響はすぐに刀を引いた。

 反対側から斬り込む。

 ホワイトはそれを受け流し、蹴りを放った。

 響は腕で防いだものの、衝撃に押されて後退した。

 

「……っ!」

 

 足元の水面を踏みしめる。

 何度も繰り返した戦いの中で、少しずつ分かってきたことがあった。

 ホワイトは斬月の大きさだけに頼っていない。

 刀を振るう前から、次の攻撃を考えている。

 足の位置。

 身体の向き。

 相手との距離。

 そのすべてを利用して、こちらの動きを崩してくる。

 

「……ったく」

 

 響は息を整えた。

 

「同じ刀とは思えねぇな……」

 

「ああ?」

 

 ホワイトが首を傾げる。

 

「何か言ったか?」

 

「……何でもねぇよ!」

 

 響は地面を蹴った。

 浅打を振り下ろす。

 ホワイトは斬月で受け止めた。

 しかし、響はそのまま押し込まず、刀を引いて次の攻撃へつなげた。

 

「……っ!」

 

 浅打の切っ先がホワイトの胸元へ迫る。

 だが、相手は身体をひねってかわした。

 

「甘えんだよ!」

 

 斬月の柄が響の肩へ叩きつけられた。

 

「ぐっ……!」

 

 響は地面へ倒れ込んだ。

 すぐに立ち上がろうとする。

 しかし、ホワイトは追撃せず、斬月を肩へ担いだ。

 

「……お前さ」

 

「……何だよ」

 

「さっきから、俺の動きばっか見てんじゃねぇか」

 

「……それの何が悪いんだよ」

 

「悪いに決まってんだろ」

 

 ホワイトは笑った。

 

「俺の真似して、俺に勝てると思ってんのか?」

 

「……っ」

 

 響は言葉に詰まった。

 確かに、ホワイトの動きを見て、同じように刀を使おうとしていた。

 そのおかげで、少しずつ攻撃を受け流せるようになった。

 だが、それだけでは勝てない。

 

「……てめえ」

 

 響は浅打を握り直した。

 

「だったら、どうしろってんだよ」

 

「さあな」

 

 ホワイトは不敵に笑う。

 

「それくらい、自分で考えろよ」

 

 響は舌打ちした。

 答えを教えてもらえるとは思っていない。

 それでも、腹が立った。

 こいつは、何かを知っている。

 自分よりも斬月を理解している。

 だからこそ、何としてでも勝ちたかった。

 

「……いいぜ」

 

 響はゆっくりと立ち上がった。

 

「てめえが教える気ねぇなら、こっちで見つけてやる」

 

「……へえ」

 

 ホワイトが笑う。

 

「面白えじゃねぇか」

 

 斬月を構える。

 

「だったら、見せてみろよ!」

 

 二人は再び戦い始めた。

 響はホワイトの動きを見るだけではなく、自分がどう動くべきかを考えながら刀を振るうようになっていた。

 しかし、それでもホワイトには届かなかった。

 浅打を握る手は疲れ、足も重くなっている。

 何度も倒され、何度も立ち上がった。

 それでも、戦いをやめるつもりはなかった。

 

 

 

――精神世界・二日目の夕方

 精神世界の景色は、相変わらず変わらなかった。

 空は暗く、ビルの間には静けさが広がっている。

 その中で、二人の戦いだけが続いていた。

 響は浅打を構えたまま、荒く息を吐いていた。

 もう何度倒されたのか分からない。

 身体には無数の傷が残り、刀を握る手にも力が入らなくなり始めていた。

 

「……まだやんのか?」

 

 ホワイトが尋ねた。

 

「……当たり前だろ」

 

 響は顔を上げる。

 

「てめえに勝つまで、終わらせる気はねぇよ」

 

「……はっ!」

 

 ホワイトは楽しそうに笑った。

 

「言うじゃねぇか!」

 

 斬月が振り下ろされる。

 響は浅打を構えた。

 だが、今度は受け止めなかった。

 直前で身体を横へずらし、斬月をかわす。

 そのまま相手の懐へ踏み込んだ。

 

「……っ!」

 

 浅打を振り上げる。

 ホワイトは斬月を引き戻そうとした。

 しかし、わずかに間に合わなかった。

 刃が頬をかすめ、赤い線が残った。

 

「……!」

 

 響は目を見開いた。

 初めて、まともに攻撃が届いた。

 ホワイトは頬へ触れ、指先についた血を見た。

 

「……へえ」

 

 そして、嬉しそうに笑った。

 

「……やっと一発入れやがったな」

 

 響は浅打を構えたまま息を整えた。

 今の攻撃は、偶然ではない。

 相手の動きを見て、自分で判断して踏み込んだ。

 初めて、相手の動きに対応できた気がした。

 

「……どうだよ」

 

 響が笑う。

 

「……少しは効いたか?」

 

「……調子に乗んなよ」

 

 ホワイトが斬月を構え直した。

 その笑みが、少しだけ鋭くなる。

 

「ここからだぜ」

 

 次の瞬間、ホワイトの姿が消えた。

 

「……っ!?」

 

 響は反応しようとした。

 だが、間に合わなかった。

 斬月の柄が腹部へ叩き込まれる。

 

「ぐあっ……!」

 

 響は後方へ吹き飛ばされた。

 地面へ倒れ込む。

 顔を上げると、ホワイトが目の前に立っていた。

 

「……一発当てたくらいで満足してんじゃねぇよ」

 

 その声は、先ほどまでより低かった。

 

「俺に勝ちてぇんだろ?」

 

「……ああ」

 

「だったら、そんなもんじゃ足りねぇよ」

 

 響は歯を食いしばり、立ち上がった。

 ホワイトの言うことは正しい。

 一撃を当てた程度では、まだ何も変わらない。

 相手は本気を出していない。

 今のままでは、勝てるはずがなかった。

 

「……分かってる」

 

 響は浅打を構え直した。

 

「……まだまだ足りねぇ」

 

 ホワイトが笑った。

 

「……そうだ」

 

 斬月を肩へ担ぐ。

 

「だったら、もっと来いよ!」

 

 響は再び地面を蹴った。

 長い戦いの中で、少しずつ前へ進んでいる。

 だが、ホワイトとの差はまだ大きかった。

 

 

 

――地下修行場・二日目の夜

 地下修行場の時計は、夜を示していた。

 休憩室には、響の人間の身体が変わらず横たわっている。

 修業場の中央にいる死神姿の響は目を閉じたまま動かなかった。

 精神世界へ入ってから、一度も意識を戻していない。

 身体の状態を確認する装置は、正常に作動し続けていた。

 そのとき、休憩室の端末へ連絡が届いた。

 はなみち山で、うたが倒れたという知らせだった。

 しかし、響にはそのことが分からない。

 意識は今も、精神世界の中にある。

 自分が守りたいと願っている妹に何が起きているのか。

 何も知らないまま、響は戦い続けていた。

 

 

 

――精神世界・二日目の夜

 響は地面へ片膝をついていた。

 浅打を握る腕が震えている。

 身体は疲れ切り、立ち上がることさえ難しくなっていた。

 それでも、目の前のホワイトから視線を外さなかった。

 

「……おい」

 

 ホワイトが口を開いた。

 

「……まだやる気か?」

 

「……当たり前だろ」

 

 響は浅打を支えにしながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……まだ勝ってねぇ」

 

「……はっ」

 

 ホワイトは呆れたように笑った。

 

「どんだけ負けりゃ気が済むんだよ」

 

「……知るか」

 

 響は刀を構える。

 

「てめえに勝つまでだ」

 

 ホワイトはしばらく響を見つめていた。

 そして、ゆっくりと口元を歪めた。

 

「……なあ、お前」

 

「……何だよ」

 

「てめえ、誰かを守りてぇんだろ?」

 

「……ああ」

 

「だったら、何でそんなボロボロになるまで戦ってんだ?」

 

 響は眉を寄せた。

 

「……何が言いてぇ」

 

「てめえが倒れちまったら、誰がそいつらを守るんだよ」

 

「……っ」

 

 響は言葉に詰まった。

ヴァルドとの戦いが頭をよぎる。あのとき、自分は怪我をしていた。それでも戦い続け、結局は相手に見逃された。

あれが、もし本気で自分を殺そうとする相手だったら。

 

「……確かにな」

 

 響は浅打を握り直した。

 

「俺が倒れちまったら、意味ねぇよな」

 

 ホワイトは小さく笑った。

 

「……ようやく分かったか」

 

「けどな」

 

 響はゆっくりと立ち上がった。

 

「だからって、戦わずに逃げるわけにもいかねぇんだよ」

 

 ホワイトの目が細くなる。

 

「……へえ」

 

「守りてぇ奴がいる。だったら、そいつらを守って、俺自身も生き残る。そのための力が欲しいんだ」

 

 響は浅打を構えた。

 

「……だから、てめえに勝つ」

 

 響は浅打を両手で握りしめた。

 疲れは消えていない。

 傷も残っている。

 けれど、目の前の相手から逃げるつもりはなかった。

 

「……来いよ」

 

 ホワイトの口元が歪んだ。

 

「……いいぜ」

 

 斬月を構える。

 

「だったら、もう少し本気で相手してやるよ!」

 

 ホワイトが地面を蹴った。

 響も前へ出る。

 斬月と浅打が交わり、二人は再び戦い始めた。

 精神世界の空は、いつまでも暗いままだった。

 現実世界では二日目の夜を迎えている。

 しかし、響には今が何時なのか分からない。

 何度倒されても、何度傷ついても、ホワイトとの戦いは終わらなかった。

 そして、斬月のおっさんは少し離れたビルの屋上から、その様子を静かに見つめていた。

 

「……まだだ」

 

 男が小さく呟く。

 

「お前には、まだ見えていないものがある」

 

 その視線の先では、響が再び浅打を振り上げていた。

 ホワイトは楽しそうに笑いながら、その攻撃を受け止める。

 

「もっと来いよ!」

 

「……言われなくても!」

 

 響がさらに踏み込む。

 今のままでは、まだ勝てない。

 それでも、少しずつ何かを掴みかけていた。

 その答えが何なのか、響自身にも分からない。

 ただ一つ、確かなことがあった。

 ここで立ち止まるつもりはない。

 

 三日目へと続く戦いは、まだ終わらなかった。




降り頻る太陽の鬣(たてがみ)が
薄氷に残る足跡を消してゆく

欺かれるを恐れるな
世界は既に欺きの上にある

BLEACH/第16巻 日番谷冬獅郎

キミプリの推しは?

  • 咲良うた/キュアアイドル
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  • 紫雨こころ/キュアキュンキュン
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