キミとアイドルプリキュア♪~魂と輝き~ 作:Ryo02913
――前の戦いから、数日が経っていた。
喫茶グリッターには、以前までいなかった新しいアルバイトが加わっている。
「いらっしゃいませ!」
エプロン姿の田中が、店内を忙しそうに動き回っていた。
「田中さん、これお願いします!」
「はい、うたさん」
「こっちもお願い!」
「お任せください、ななさん」
次々と入る注文を手際よくこなしていく田中を見て、うたは感心したように声を漏らす。
「すごい……仕事が早いね」
「当然です」
田中は胸を張った。
「私はアイドルプリキュアのマネージャーですから」
「アルバイトもマネージャーもやってるの?」
「はい」
田中は笑顔で答える。
アイドルプリキュアとして活動を始めたうたとなな。そして二人を支える田中。喫茶グリッターは、以前よりも少しだけ賑やかになっていた。
そんな日々が続いていたある日の朝。
「ねえ、ななちゃん」
「何?」
「最近、キュアアイドルとキュアウインクの話題、すごいよね」
「うん」
二人が学校へ向かって歩いていると、前方から一人の少女が歩いてくる。
紫雨こころだった。
イヤホンをつけ、キュアアイドルの曲を聴きながら歩いている。曲に合わせて小さく身体を動かしている姿を見つけ、うたが声をかけた。
「おはよう、こころちゃん!」
「……!」
こころは振り向くと、嬉しそうに笑った。
「おはようございます!」
「もしかして、キュアアイドルの曲を聴いてた?」
「はい!」
こころはイヤホンを外し、嬉しそうに胸を張る。
「私は『キュアアイドル&キュアウインク研究会』の会長なんです!」
「研究会?」
「はい!」
こころの目が輝く。
「キュアアイドルとキュアウインクについて研究しています!」
「へえ……」
うたは少し驚いた。
「そんなに好きなんだ」
「もちろんです!」
こころは二人の魅力について、楽しそうに語り始める。どんなところが好きなのか、どんな曲が好きなのか。そして、二人がどれだけ素晴らしい存在なのか。
うたとななは、そんなこころの話を笑顔で聞いていた。
「すごいね……」
「うん」
なながうたへ小さく頷く。
放課後
こころは一人で歩いていた。
「プリ……」
その後ろを、プリルンがこっそりとついていく。
「……?」
ふと、こころが振り返った。
プリルンは慌てて物陰へ隠れる。
「……気のせい?」
再び歩き始めたこころの後を、プリルンも追いかける。
しかし、今度は――。
「見つけた!」
「プリ!?」
物陰に隠れていたプリルンが、こころに捕まってしまった。
「あなた、うたちゃんと一緒にいる子だよね?」
「……プリ」
「もしかして……おしゃべりできるの?」
「……プリ」
「やっぱり!」
こころの目が輝く。
「お願い!」
「プリ?」
「キュアアイドルとキュアウインクに会わせて!」
「プリ~!?」
海辺の公園。
そこへやって来たこころの前に、キュアアイドルとキュアウインクが姿を現した。
「きゃあああっ!」
こころの目が輝く。
「本物……!」
キュアアイドルが笑顔を向ける。
「こんにちは」
「こんにちは!」
緊張しながらも、こころは二人への憧れを嬉しそうに語っていく。
「私、ずっと二人のことを応援しています!」
「ありがとう!」
「二人の歌を聴くと、胸がキュンキュンするんです!」
こころは楽しそうに話していたが、ふと、その表情が変わった。
「……私も」
「え?」
キュアアイドルが聞き返す。
「私も、あんなステージに立ってみたい」
こころは二人を見つめる。
「私も……歌って、踊って……誰かを笑顔にしたい」
その言葉に反応するように、こころの胸が高鳴った。
アイドルハートブローチが淡く光る。
「プリ……!」
プリルンが目を見開いた。
「こころは……アイドルプリキュアかもしれないプリ!」
「え?」
プリルンは残っていたアイドルハートブローチを取り出した。
「これを使えば――」
こころは差し出されたブローチを見つめる。
「私が……プリキュアに?」
「そうプリ!」
こころの顔に、嬉しそうな笑顔が浮かんだ。
しかし、その時だった。
「マックランダー!」
遠くから声が響く。
「……!」
こころが振り向く。
街の方から巨大な怪物が姿を現し、建物を壊しながら暴れていた。
「な、何……あれ……?」
こころの表情から笑顔が消える。
「うたちゃん!」
「うん!」
「プリキュア! ライトアップ!
キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!
キミと~! YEAH!
一緒に~! YEAH!
キミと歌う、ハートのキラキラ! 笑顔ニッコリ、キュアアイドル!」
「プリキュア! ライトアップ!
キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!
キミと~! YEAH!
一緒に~! YEAH!
キミと瞬く、ハートの勇気!」
お目目パッチン、キュアウインク!」
二人は変身すると、マックランダーへ向かって駆け出した。
キュアアイドルとキュアウインクがマックランダーへ立ち向かう。
「待って!」
こころはその場に立ち尽くした。
「え……?」
目の前で始まった戦いに、こころは息を呑む。
マックランダーの攻撃を二人がかわし、隙を見て反撃する。拳がぶつかり合うたびに大きな音が響き、周囲の建物まで揺れている。
「危ない!」
マックランダーの攻撃を、キュアアイドルが間一髪でかわした。
キュアウインクもすぐに反撃へ移る。
こころは、その姿をただ見つめていた。
「……」
憧れていたプリキュア。
歌って、踊って、みんなを笑顔にする存在。
自分もいつか、あんな風になりたいと思っていた。
けれど――。
「戦ってる……」
こころの胸に、昼間までとは違う感情が生まれていた。
マックランダーが腕を振り下ろす。
「危ない!」
二人が攻撃をかわす。
その光景を見たこころは、思わず一歩後ろへ下がった。
「……怖い」
戦いが終わり、二人がマックランダーをキラッキランランにしても、こころの表情は晴れなかった。
「こころちゃん?」
キュアアイドルが声をかける。
「……」
こころは手の中のブローチへ視線を落とした。
「私……」
小さく震える手でブローチを握る。
「心キュンキュンしてません……」
「え?」
こころはそのまま二人に背を向けると、走り去ってしまった。
「こころちゃん!」
呼び止める声にも振り返らない。
――その夜。
紫雨家
こころは自分の部屋で、昼間の出来事を思い返していた。
「……」
机の上には、アイドルハートブローチが置かれている。
「私……本当にプリキュアになりたいのかな」
キュアアイドルとキュアウインクの戦う姿が頭から離れない。
「私が憧れていたのは……歌って、踊って、みんなを笑顔にする姿だった」
こころは胸元を押さえた。
「でも……本当は、あんな怖いことをしてたんだ……」
その時だった。
――カタッ。
「……?」
廊下から小さな物音が聞こえた。
「……何?」
もう一度、耳を澄ます。
――ドンッ!!
「きゃっ!」
突然、部屋の壁が大きく揺れた。
「な、何!?」
こころが後ずさる。
部屋の隅で黒い霊圧が渦を巻き始めた。
それは徐々に巨大な人の形へと変わっていく。
白い仮面。
異様に大きな身体。
鋭い爪。
「……なに、これ……」
こころには、その姿がはっきりとは見えていない。
ただ、巨大な黒いもやが部屋の中に現れたように感じていた。
それでも、その気配にはどこか覚えがある。
「誰……?」
黒いもやが、ゆっくりとこころへ近づいてくる。
ドン……。
床が揺れる。
「来ないで……」
こころが後ろへ下がる。
「お願い……」
しかし、虚は止まらない。
次の瞬間、一気に距離を詰めた。
「きゃあっ!」
逃げようとしたこころの身体を、虚の腕が掴む。
「いやっ! 離して!」
必死に抵抗するが、虚の力は強い。
その瞬間、胸の奥から何かが引き抜かれるような感覚が走った。
「え……?」
こころの目が見開かれる。
身体から、自分自身が抜けていく。
「な、何……これ……?」
肉体が床へ倒れ、その隣に魂となったこころが立っていた。
「……私?」
自分の身体を見つめる。
胸元から伸びた魂の鎖が、虚の手に握られていた。
「返して!」
こころは必死に鎖を引っ張る。
しかし虚は、こころの魂を自分の方へ引き寄せていく。
「どうして……私を……」
こころは虚の顔を見る。
「悲しいなこころ…俺の声を忘れたのか?」
「俺だよ わかるだろ」
こころに詰め寄る。
「いやぁ 来ないで」
「あぁ 悲しい 悲しい 悲しい 悲しい!」
虚がこころに襲い掛かろうとしたその時、こころへ伸びてきた虚の爪を斬月が受け止めた。
「この子から離れろ!」
死覇装をまとった響が、こころと虚の間に立っていた。
虚は響を睨みつけると、さらに力を込めて爪を押し込んでくる。響も斬月を握り直し、その攻撃を押し返した。
「この程度……!」
響が斬月を振り抜く。爪を弾き返された虚は大きく後退し、そのまま周囲の暗闇へと姿を隠した。
「逃げた……?」
響は斬月を構えたまま、暗闇の奥を警戒する。
そして、ふと隣にいるこころへ目を向けた。
「……え?」
こころは響の姿をまっすぐに見つめていた。
「あなた……」
こころの目には、死覇装をまとい、斬月を握る響の姿がはっきりと映っている。
「俺が……見えてるのか?」
響は驚いたようにこころを見る。
これまで虚を見ることのできなかったはずの人間に、自分の姿が見えている。
その理由を考えた響は、こころの胸元へ視線を落とした。
「……そういうことか」
こころの胸から伸びている魂の鎖が目に入る。
「魂が身体から抜けてる……」
響はようやく気づいた。
その時、暗闇の中から再び虚の気配が近づいてきた。
「……来る!」
響が斬月を構える。
次の瞬間、暗闇の中から虚が姿を現した。
響が前へ出ようとした瞬間、虚の長い尾が大きく振り抜かれた。
「しまった!」
響の身体が尾の直撃を受け、そのまま家の外へと吹き飛ばされる。
虚の大きな腕がこころへ伸び、その身体を掴み上げる。
「いやっ!」
こころは必死に逃れようとする。
「離して!」
虚はこころを自分の方へ引き寄せる。
その顔が、こころの目の前まで近づいた。
「……!」
白い仮面。
その奥に見える目。
こころの記憶にある父親の姿と、目の前の虚の姿が重なった。
こころの表情が変わる。
幼い頃に何度も見てきた顔だった。
「まさか……」
虚がこころを見つめる。
「こころ……」
かすれた声が響いた。
「……お父さん?」
こころは目を見開いた。
「お父さん……なの?」
虚の顔を見つめながら、こころの中に確信が生まれていく。
目の前にいる怪物は、かつて自分を愛してくれた父親――紫雨信二の魂だった。
「お父さん……」
こころは虚を見つめながら、震える声で呼びかけた。
しかし、虚はその声に反応することなく、こころへ向かって腕を伸ばし続ける。
「やめて……!」
こころは後ずさる。
「私を傷つけないで!」
その言葉に、虚の動きがわずかに止まった。
響はその隙を見逃さず、斬月を握り直す。
「お前は……もう父親としての心は残っていないのかもしれない」
響はこころを守るように前へ出た。
「だけど、俺は……」
斬月の切っ先を虚へ向ける。
「自分の子供を傷つける奴を許すつもりはない!」
虚は低く唸りながら響へ向かってくる。
響も斬月を構え、真正面から迎え撃った。
虚の爪が振り下ろされる。
響は身体を横へかわし、そのまま斬月を振り抜いた。
虚は攻撃を受けながらも怯むことなく、長い尾を響へ向けて振り回す。
「くっ……!」
響は斬月で受け止めるが、その勢いに身体が押される。
なんとか踏みとどまり、響は再び虚との距離を詰める。
斬月が虚の腕を捉え、傷を刻む。
それでも虚は止まらず、響へ向かって爪を振るう。
響は身を低くしてかわし、すぐさま斬月を振り上げた。
しかし、斬月を振り下ろそうとしたところで、響の動きが止まる。
「……」
目の前にいるのは、ただの虚ではない。
こころの父親だった人間の魂が、虚へと変わってしまった存在だ。
斬らなければならない。
そう分かっているはずなのに、斬月を握る手に力が入らない。
「俺には……」
響は苦しそうに呟く。
「こいつを斬れない……」
その言葉を聞いたこころは、ゆっくりと虚へ向き直った。
「……お父さん」
こころは涙を拭いながら、一歩ずつ父親へ近づいていく。
虚がゆっくりと顔を上げる。
「私ね……」
こころの声が震える。
「お父さんがいなくなってから、ずっと寂しかった」
虚は何も答えない。
「もっと一緒にいたかった。もっと話したかった」
こころの目から涙がこぼれる。
「もっと……一緒に笑いたかった」
虚の身体がわずかに震えた。
「……こころ……」
「うん」
こころは涙を流しながらも、父親をまっすぐに見つめる。
「私、お父さんのことが大好き」
虚の腕がゆっくりと下がる。
「だから……もう私を連れていこうとしないで」
こころは一歩近づいた。
「お父さんは、もう頑張らなくていいんだよ」
虚の身体から黒い霊圧が揺らぎ始める。
「私は大丈夫だから」
こころは父親へ笑顔を向ける。
「だから……さようなら、お父さん」
涙をこぼしながら、こころは深く頭を下げた。
「今まで、ありがとう」
その言葉を聞いた信二の身体が静かに震える。
白い仮面に亀裂が入り、その奥から父親としての表情がわずかに浮かび上がった。
「……こころ」
「お父さん……」
信二は響へ視線を向けると、ゆっくりと斬月へ手を伸ばした。
「……?」
響は警戒しながら斬月を構える。
しかし、信二は響を攻撃することなく、そのまま自分の身体を斬月へ向けた。
「待て!」
響が叫ぶ。
それでも信二は止まらない。
こころへ最後の視線を向ける。
「……ありがとう」
そして、自ら斬月へ身を委ねた。
響の斬魄刀が信二の魂を貫く。
信二の身体から霊子が溢れ出し、虚の姿が少しずつ崩れていく。
「お父さん!」
こころが駆け寄る。
白い仮面が消え、その下から生前の信二の顔が現れる。
「こころ……」
「お父さん……!」
「もう……大丈夫だ」
信二は穏やかな表情を浮かべる。
「お前は……もう一人で歩いていける」
「うん……」
こころは涙を流しながら頷いた。
「ありがとう、お父さん」
信二の身体は少しずつ霊子へと変わり、夜の空へ消えていく。
「さようなら……こころ」
「さようなら、お父さん……」
最後の霊子が消えると、そこには静かな夜だけが残った。
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