「実験体1342番の適合実験を開始する。」
スピーカーから聞えてくる人を人とも思わない声で僕は目を覚ました。
寝ぼけた頭で状況を理解しようとするもそう上手くいくはずもなく。
目の前にはドロドロとした粘液の様な物を纏ったナニカが鎮座していた。
そしてソレはすでに触手の様な物を僕の両足に突き刺していた。
不思議と痛みは無い、突き刺されている僕の両足は、やけに冷たく感じた。
そこに目をやるとストレスで抜けたはずの体毛が獣のように濃くなっていた。
正直、僕は“彼ら”のように成ってしまうのだろうか?
最近の記憶は継ぎ接ぎだらけで亜人達が住む街から出て来た時から正確な情報は何一つ覚えていない。
だけど・・・一つだけ分かることは。
僕は人間と亜人両方に人として見られていないこと。
それを考えると体がどす黒い何かに支配されるのを感じる、僕はずっとそれを抱え込んできた。
ドスッ
右腕に触手が刺さり体はさらに毛皮に覆われる。
最後に僕は自分を解放することにした。
もう我慢する必要はない、どうせ誰も人としての僕を知らないから、何をしてもいいはずだ。
ドロドロのナニカの顔らしき部分からマスクが取れ僕の顔に近付いてくる。
最後にマジックミラーの向こうで僕の体を弄繰り回している奴らに精一杯の
「地獄に落ちろ・・・永遠に!!!!」
その言葉を最後に僕の視界は黒に染まった。
マジックミラーの向こうでは“彼”とは正反対ののんびりとした雰囲気が漂っていた。
「どうなるかな今回の適合実験。」
「俺は・・・・・・そうだな、失敗に100$賭けよう。」
「じゃあ俺も失敗に50$」
「俺も失敗にあ~・・・300$」
その後も10人位の研究者が失敗に賭けた。
そんな彼らに一人の研究者が物申した。
「なんだよお前ら、あいつ人間なのに亜人化してる貴重な検体だろ?もっと成功に入れろよ。」
「そう言うお前はいっつも成功に入れて外してんじゃねえか。」
「今回こそはお前らをぎゃふんと言わせてやる!」
そこに彼らの上司っぽいのが割って入る。
「おいお前ら!そんなくだらん会話は後だ!検体に悪魔の仮面が強い反応を見せた!念のため抑圧準備をしておけ!」
「「「!?!?!?」」」
「おいおいマジかよ!」
「大逆転!?来たぁ!」
「五月蠅い!しゃべるよりも手を動かせ!」
「はい!」
「仮面の活性化率・・・200%越え!?」
「仮面、検体の体内に侵入しました。検体の破損した神経系が治癒されていきます!」
「お、おおお!!」
マジックミラーの向こうでは“彼”のマスクに青い光で構成された獣の顔をしながらたたずんでいた。
「早く制御装置を取り付けろ!これで人類の勝利は確定された!」
制御装置と思わしき首輪が完全に毛皮に覆われた“彼”の首に装着されたのと同時にマスクは青い光から赤色に変色した。
「これで、憎き亜人だけを殺すことができるウイルスが生成できる!よくやったぞお前たち!」
「はぁ~~・・・今日はお前が総取りかよ。」
実験に成功し安堵しているのもつかの間。
ビー!ビー!ビー!
計器がけたたましいアラートを鳴らしながら異常を知らせていた。
「どうした!」
計器を見た職員の顔が一気に青ざめた。
「やばいです!!!制御装置が汚染されています!」
「どういう事だ!?あれはアダマンチウムでできているんだぞ!」
「そういうことではありません!外郭を無視して中の機械類が全て駄目になっていきます!」
「このままでは制御装置は破壊されます!」
「抑制剤を散布しろ!何があってもこの施設から奴を逃がすな!」
直後実験室の中に薬剤が噴射され“彼”が動きを止めると誰もが思っていた。
・・・・結果は、
「ダメです!効きません!」
「何だと!・・・・ええい!総員退避!この施設は爆破する!」
上司が施設の自爆スイッチを押して自動ドアから逃げようとすると・・・
「・・・どうした?何故開かない!」
上司はふと自動ドアの上を見上げると次の瞬間彼の顔は土色になった。
なぜかと言うと、自動ドアが開くのを妨げるように“彼”の粘液が付着していたからである。
バリィイン!!
凄まじい音がしてその場にいた全員が音のした方向に目をやる。
『GURARARARARAAAAAAAAAAA!!』
彼らにとっての地獄が始まった。
どことも知れぬ山奥で。
その日は大雨で、誰もが大雨による土砂崩れだと思う轟音が起きた。
だが実際は情報統制が行われ現地には軍隊がいた。
そこで彼らは見つけた。
崩壊した施設の中に、完全に変異した球体の中で眠る“彼”を。