薄暗い要塞内、ほこりっぽい廊下を、ヘルムートは配下のウィッチを引き連れて速足で歩く。向かう先は統合作戦本部だ。
「ヘルムート大尉!!」
幼い声に呼び止められる。頭一つ分低い場所にフラウが立っている。歳は10代前半か。
「誰だ?お前」
ひどく、鬱陶しそうにヘルムートは聞いた。
「あれ?覚えてません?私の名前、ほら教官、これくれたじゃないですかぁ」
得意げに額につけた飛行眼鏡を指さし、はしゃぐこの娘の姿は、まるで主人にしっぽを振る子犬のようだ。
「あ?お前なぞしらんわ!!」
「え?」
ヘルムートの怒りをフラウは理解できない。
「いいか私は忙しい、今日だけで新兵が4人も死んだ、お前ら新兵はいつもすぐ死ぬ!!だから嫌いだ!!あっちいけ!!」
そう絶叫したヘルムートの瞳には怒りと憎しみが満ちていた。
「ごめん、なさい」
「チッ、行くぞ」
小娘のすすり泣く声が廊下に響く、ヘルムートの頭の中には「一体、どれだけ続く?いつまで続ける?」その自問自答でいっぱいだった。
やがてコマンドポストの前にたどり着く、長い夜になりそうだ。
「ウイッチは泣かない、騒がない、乙女たちよ強くあれ」
ヘルムートは今夜も夜明け前、宿舎に帰る。今日はいつにも増して、荒れていた。
こっそりしていた男女交際がばれた。相手はエバンス、技術将校で、20歳を過ぎた彼女の新しい仕事は、技術開発局でエバンスとせっせとガラクタを作ることだった。楽しかった。あっという間に時間が過ぎた。築けばともに食事をとり、できるだけ多くの時間を過ごすようになり。それを望むようになった。二人はいつしか恋人関係に。
それを司令部は面白く思わない。すぐさま査問にかけられ、訓練教官に配置換え、彼と連絡はつかなくなってしまった。
安酒のジャックダニエルをあおる。
ふと資材置き場から騒がしい声がする。
「汚い!あっちいけよ」
「おいこっち来るなよ!!」
「やめ!!いや!!」
三人の少女が一人の女の子を突き飛ばしている。
おいおい、集団リンチか?ここはひとつ。ヘルムートは大きく息を吸って大きな声で。
「よぉ!!楽しそうだな!!俺も仲間に入れてくれよ」
木箱の上から見下ろすように立つ彼女の声はよく通る。まるで轟く稲妻のごとし。三人は一斉に逃げ出した。
「大丈夫か?フラウ」
手は差し伸べない。ヘルムートは意地が悪いのだ。
「うぅ...ひっぐ...」
少女は泣きながらしゃっくりを起こしていた。
「いつまでも泣くな。お前さん、ウィッチ候補生か?なら自分の足でしゃんと立て!ウィッチは泣かない、転ばない」
灰色狼のヘルムートは甘やかさないのだ。
「返事は?」
短く優しく促した。
「Jawohl!!」
小娘はすくっと立つと、最敬礼をした。
「いい返事だ。もっと強くおなりよ、強さとは理不尽を受け流し、いなし、時には立ち向かう。その術と勇気を持つことだ。私のもとで学べば、わかるようになる」
「え?」
「なぁ、来るか?私の天幕へ」
突然始まる引き抜きの勧誘。
「行きます」
「いい子だ、ちゃんと強くなったら私の飛行眼鏡をやろう」
「ほんとですか!!」
小娘は目を輝かせる。
「本当だとも。君の名前は? 」
「ハンナ・ユスティーナ・マルセイユです」
「ハンナ!!ハンナか、私の母もハンナというんだよろしくな、泣き虫ハンナちゃん」
そういうをヘルムートは乱暴にハンナの頭を撫でまわす。そう、ハンナはそれが大好きだった。それが二人の出会いだったのに…
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