普通の人は超能力というものは眉唾ものだ、架空の存在だと切り捨てるだろう。
俺も高校に入るまではそんなことを思っていた。
ただ高校入学直前……体力をつけるためにロードワークをしていたら、俺の体に雷が直撃した。
ビリっとというよりズバーンという体を稲妻が駆け巡るっていう感覚。
いや、死んだと思ったね。
意識を失って倒れて、そのまま通行人が通報して病院に緊急搬送……お陰で俺の命は助かり、脳や体に異常は無い……とのことで、退院することができたんだが、体が妙に軽いというか力が溢れ出てくるというか……そんな感覚が体に宿っていた。
後に分かるんだが、それはサイキックパワーと呼ばれるもの(俺がそう呼んでいる)で、超能力扱える能力だと判明した。
判明した理由も理由で、退院して家の階段から転びそうになった瞬間に体が空中で静止したのだ。
そのまま落下して痛い目を見たが、何か不思議な力があるぞ……ということはなんとなくわかるようになっていた。
そして、その力を使えば物を動かせる力があると分かったのだ。
念力……テレキネシスと呼ばれる能力で、体が空中静止した理由がなんとなくわかったが、意識して使おうとすると、ノートを遠距離からめくる……くらいのしょっぱい力しか使えない能力で、正直がっかり。
催眠術が使えたり、透視能力があったり、未来視ができたりしたらどれだけ面白かっただろう……と思いながら、紙程度の重さのものを数センチ移動できる能力じゃあ使い道ないだろ……と思い、その日を境に忘れることにした。
転機が訪れたのは高校入学して野球部に入り、練習をしていたある日、バッティングピッチャー……通称バッピが足りなくなって、ボールのコントロールがそこそこ上手かった俺は、先輩に気持ちよく打たせる為のピッチャーをやらされたのである。
で、俺はストレートを中心に投げ込んでいたが、先輩から、
「変化球投げられねぇの? そんな棒球だと練習にならねぇよ」
注文を付けられた。
変化球って言ったって、お遊びの斜めに曲がる小便カーブくらいしか投げられないぞ……と思い、どうしようかと思った際に、もしかしたらあの紙を少し動かせる超能力を使えば、少しはボールが曲がるんじゃね?
みたいな安直な考えで、俺はボールを投げて、念力でボールをストップさせる感じを与えた。
するとボールは勢いを無くし、ズドンとバッターの前で落下。
滅茶苦茶キレのあるフォークボール(勢いよく落下するボール)みたいになった。
「おい、大久保……お前、すげぇ球投げるじゃねぇか!」
「フォークボール? すっげぇ落ちたぞ」
「投げるフォームストレートと全く同じだったよな?」
ネットの後ろで見ていた先輩からもすげーすげー言われて、少し気分が良くなった。
連続してさっきの球投げてくれって言われて、俺はさっきと同じように球を落とす。
それを10球くらい続けると、なんか念力の力が入らないような感覚がして、一切落ちなくなった。
先輩達からは、
「何だ握力切れか?」
「フォークって指の握力めっちゃ使うって言うもんな……」
「大久保、バッピまだできるか? フォーク投げなくていいから」
先輩達に気を使わされたが、それを見ていた顧問と顧問の娘でマネージャーをしている同じ1年の女子……清水さんに俺は目をつけられることになる。
「大久保、お前今日からピッチャー組で練習やれ」
バッピをやった翌日。
顧問は俺にピッチャー組で練習をやるように指示をされた。
正直俺はあんまり嬉しくなかった。
ピッチャー組はめっちゃ走らされるからである。
野手組も練習量はそれなりにあるけど、ピッチャーは野手の倍は走らされるし、顧問が元々強豪校のピッチャーを演っていたからか、余計に厳しいことで部内では有名で、俺はピッチャーをやりたくなかったが、顧問に指名されたからには頑張るしかない。
で、案の定めっちゃ走らされて、死にかける。
俺がダウンしていると、冷えたタオルを持った清水さんが俺のおでこにタオルをのせて、
「大久保君、昨日投げてたフォーク凄かったね。あんなに途中で減速するように落ちるフォーク見たことなかったよ」
と言ってくれた。
ゴリラみたいな監督の娘なのに美人……と言うには芋っぽいけど、普通に可愛い女子にいわれたらちょっと嬉しくなる。
ぐったりダウンしていた俺は思考が回らずに、素直に答えてしまう。
あれは超能力を使った力だと。
「超能力? 大丈夫? 頭ゆだってる? もしかして熱中症になっちゃった?」
俺は正気だ。
失礼な。
俺は近くに転がっていたボールを指さして、あれを転がすから見ていてくれって言うと、清水さんは馬鹿にした表情をしていたが、止まっていたボールがコロコロと10メートルくらい転がって清水さんの目の前で止まるのを見せると、
「す、凄い! 凄い! これは野球で武器になるよ!」
と清水さんは大喜び。
でもボールを少し勢い殺すくらいしかできないぞって伝えたが、清水さんは、
「超能力も鍛えれば強くなるかもしれないじゃん! 変化球ってことで練習すればいいし! それよりも超能力を使ってできることを増やしていこうよ!」
と清水さんから笑顔で言われたら断れない。
結局俺はピッチャー組で死ぬほど鍛えられることになるのだった。
「大久保、娘から聞いたけど、お前超能力使えるんだってな。先生にも見せてくれないか」
いつの間にか顧問にもその事が伝わり、俺は清水さんの時と同じように野球ボールを転がして、指定された場所に移動させる。
今日はなんか調子が良かったからか、ボールを2つも同時に動かして、別々の場所に転がすことができた。
「なるほど、あの急減速するフォークはそれが種か。今どれぐらいその力が使える?」
だいたい15球くらいだと伝える。
それ以上だと超能力の力がなくなってしまうと伝えるが……、
「野球よりもゴルフが最適な気がするが……まぁ不思議な力があるのはわかった。俺にもその力をどう鍛えればいいか分からないから、とりあえずそんな力が無くても投手(ピッチャー)としての完成度を高めていくぞ!」
顧問もなんか凄い力が入っていて、基礎体力が足りていなかった俺はとにかく走り込み。
あと食事の指導までされて、清水さんがこっそり弁当を追加で持ってきてくれるようになり、女の子からのお弁当は嬉しいけど、食が細い俺は、詰め込んだ状態で走ろうとすると、吐きそうになる。
なんとかならないかって考えぬいた末に、超能力エネルギーで食事の吸収効率を上げることができないかと本気で考えた。
結果、夏前に人って死ぬ気で習得しようと思えば習得できるもので、ご飯を効率よく吸収して、体にエネルギーとして蓄積する超能力を身につけた。
お陰で、念力の力や回数も少し向上した。
さてさて、夏の甲子園予選……うちの学校は初戦は突破できるくらいの力しか無く、俺もまだ未熟ということで背番号は貰えず、スタンド席で先輩方を応援することしかできなかった。
先輩方は頑張って4回戦まで駒を進めることができたけど、そこで強豪校に当たってしまい、敗退。
3年生の先輩方が引退して、秋の大会の時に、俺は顧問から背番号を貰うことができた。
背番号は10番。
顧問から2番手の中継ぎとして使うと言われて頑張ることに。
とりあえずこの頃にはフォークとストレートを超能力で少しだけ加速させる、ボール1個分バッターの手元に曲がる変化球を身につけたことで、並みのバッターは抑えられるようになったが、強豪校の選手……プロにも注目されるような選手は全然抑えられなかった。
元のストレートの球速が130キロしか出ないのと、投球フォームが顧問と改良途中だったこともあり、超能力使ってバットの芯からボールを外しても、外野の頭上を抜けるヒットを打たれる。
基礎のパワーが違いすぎた。
うちの選手を簡単に打ち取れる様になって、少し天狗気味になっていたけど、秋大会で完璧に鼻をへし折られて、3回戦敗退。
地方大会には行けなかった。
「ほら頑張れ! 頑張れ!」
「むぎぎぎ」
超能力の能力を向上させるトレーニングとして清水が考案したのが、紙飛行機を長く飛ばし続けるというトレーニングで、俺がランニングをしている横をとにかく紙飛行機を飛ばし続けることで、超能力を鍛えながら、体力も向上させる……というとんでもトレーニングを考案され、顧問も走り込みにもなるからやれと号令がかかった。
お陰で俺は超能力を使いながらへとへとになるまで走らされるという普通の人の倍は疲れるトレーニングをやらされていた。
走るのも意識使うし、紙飛行機を飛ばし続けるのも意識をさく。
ちょっと手元が狂うと紙飛行機はすぐに地面に落っこちてしまう。
それに顧問が家庭訪問で、両親にプロ野球選手に成れる素質はあるし、ダメでも関東の名門大学に野球推薦で入学させられる可能性が高いとおだてまくった結果、食事トレーニングに両親も協力するようになってしまった。
今まで以上に飯を食わされた結果、成長期だった肉体は超能力による栄養の吸収効率上昇と合わせて、更にぐんぐんと身長が伸びていく。
正直170くらいで身長止まりそうになっていたけど、ここに来て毎晩成長痛で全身が痛みだし、疲れ切らないと痛みで寝れないという状態に陥り、とにかく疲れることを目的に野球をするようになっていた。
身長だけでなく腕や手のひらも大きくなり、ボールに指が今まで以上に引っかかるようになったこと、体が大きくなったことで、腕のしなりが良くなったこと、下半身にしっかりと筋肉がついて、腰の扱いや踏み込みが安定したこと……色々な要因で、俺の投げる球の質が劇的に向上し、冬の間のトレーニングだけで、球速が15キロ近く伸びたのである。
超能力を使わなくても手の握りで球速を大幅に落とせるチェンジアップという変化球も顧問から教えてもらった。
「超能力の使える回数も増えているんだろ?」
顧問から聞かれた時に、好不調の波はあるけれど、50球は超能力の変化球を投げられるようになったと伝える。
「3年の夏までに全球児の夢である魔球……ソフトボールで言うライズボールを投げられるようにしろ。普通のストレート、チェンジアップ、ライズボール、そして急停止するフォーク、急加速するアクセラレートボール……これを狙った場所に投げ分ける事ができるようになれば普通の打者はまず打てねぇ」
顧問曰く、今年の春大会に先発として俺にマウンドを預けてくれるらしい。
これが一番点が取られないからだ。
「今は手元で少し変化する球をを磨いておけ。毎試合7回までは大久保を引っ張るつもりでいる。それが一番勝てる可能性が高いからな」
そんな訳で2年になって、春大会……夏の甲子園のシード権を掛けた大会が始まる。