普段実況解説をしている俺こと新田も、実況前から選手の試合前の練習中に聞き込み調査をすることがある。
定期的に情報を更新することで、解説の精度を上げ、お客さんに正しい情報を届けることもお仕事の1つ。
後は指導者として呼ばれた際に、現場の動きを知っているのと知らないのでは大きく違ってくる。
まぁ俺は現役時代に色々やらかしているので、監督というのはもうできないだろうけど……。
「高中監督」
「新田さん! 今日も情報収集ですか?」
「まーな、交流戦も大久保を使っていくのか?」
「ええ、まぁ……緊急事態なのと、本人の希望もあって、今日から中2日の投球になりますが」
「うわ……また叩かれるような采配をして……実際どうよ。他のチームも解析が進んできて、当てるように少しずつなってきているし、奪三振も少しずつ減り始めているけど」
「それでも得点も安打も許さないピッチングは続けてくれてますがね……ただ、今日からギアを1段階上げるようですよ」
「まだ上がるのかよ。というか何をそんなに上げるんだ? 新変化球か?」
「ええ、魔球が仕上がってますよ。ブルペンでもう少ししたら最終調整が始まるので見ていきます? 新田さんならお披露目の解説をお客さんにしてもらうのをお願いしたいくらいですし」
俺は高中に連れられて、ブルペンに行くと、大久保、西住ペアが試合前に調整の投球をしていた。
「通常ライズ」
「よし来い」
大久保選手が投げ始めると、最初地面に突き刺さる勢いでボールがワンバウンドの軌道を描いていたが、空中でバウンドするかのように跳ね上がり、Vの字にボールはミットに収まった。
「高中……魔球ってこれのことか」
「ええ、本人達はライズボールって呼んでますが」
「はは、なんじゃこりゃ……2メートル超えの長身から投げ下ろされて、そこからVの字に上がってくるなんて……こんなの打てるやついないだろ」
「本人曰く、このライズの方が170キロ投げるよりも負荷が少なくて済むらしいですよ」
「マジかよ……」
とんでもない球を教えてもらった。
交流戦からこんな球を解禁されたら、打者はまず打てないし、そんなのが中2日だからパリーグ全球団は地獄を見ることに成るだろう。
「ただでさえ、ノーヒットノーラン今季6回、完全試合2回とかわけの分からない事をやっているのに……これからはそれ以上が続くのか……プロ野球が大久保かそれ以外かの戦力構想になるな」
「大久保が投げる時は打撃力偏重オーダーが組めるので、得点力に期待ができて、こっちとしては助かるんですけどね。戦力が足りてないのでやりくりするのに涙が出てきますよ」
「頑張れよ高中……まぁ大久保酷使で指導者としてはケチつくかもしれないが」
「ですよね~」
そんな会話をした後に、大久保選手に軽く取材をしてから解説の準備を行うのだった。
ライズボールが解禁された試合……その日は誰もバットにかすることさえ許さなかった。
俺は面白いようにバッターがくるくる扇風機の如く回転するのを見て笑いが止まらない。
西住も楽だろう。
真ん中からやや高めに構えて、そこにボールが投げ込まれるのを待っていれば、打者は空振るか見逃すかの2択しかないし、偶に普通の直球やフォークを混ぜれば誰も打つことができない。
全球ストライクゾーンに投げ込んだ俺は、9回81球、全打者三振という伝説を作り上げる。
背番号81と同じ数字であった。
試合時間1時間30分という滅茶苦茶早い時間で終わり、18時試合開始で19時半には9回終わっているのだから選手からしたら楽で仕方がなかった。
滅茶苦茶なペースで試合が終わり、周りの皆は早々に夜の街に行く中、俺は記者に囲まれて、全打者三球三振の大偉業の達成とライズボールについての話題で持ちきり。
どうやって投げるかについて聞かれるが、150キロ台の直球で激しくバックスピンをかけることによって浮き上がらせているとしか言えない。
(超能力使っているとは言えないよ……)
「ライズボールも勿論欠点はありますよ。バットに当たれば軽く長打になってしまうので……なのでバットに当たらないようにライズボールの上がり幅を意図的に調整しています」
(((そんなんできるのお前だけだよ……)))
記者達の心が一つになった気がする。
更に俺はライズの回転を調整すれば斜め上に変化できるというのも伝えると、記者からは、
「じゃぁ大久保選手……打者の皆さんは大久保選手と対峙する時に上と左右斜め上、通常ストレート、フォークの4択を迫られると?」
「スライダーやパワーカーブ、シンカー、シュートも投げられるので、上下左右斜め全方向の変化球が来ることになりますね。それに緩急とコースも加わるので……何択あるんでしょうねぇ」
上下左右斜め真ん中の変化球で9択、ストライクゾーン9分割で9択(ボールゾーンを含めるともっと)それに緩急は10キロ差があると打てなくなるから170キロ、150キロ台の変化球、出力抑えめの140キロ、チェンジアップの120キロで4択……324択から正解を選ばないといけないクソゲーである。
それを各球毎に迫られるから、打者からしたらたまったもんじゃないだろう。
1時間近く記者に拘束されて、試合より疲れた。
他の選手は、もう既に帰っているので、俺は球団職員の車で選手寮に送迎されて、風呂や食事、マッサージを受けてから道具の整備をしていると22時を回ってしまい、オフの明日に向けてゆっくり休むのだった。
翌日、寮に置いてある新聞には俺の活躍がデカデカと報道されているし、ニュースでも俺の活躍ばかりが流れる。
よく喝って言う球界のご意見番の人が、
「こういう投手にこそ天晴、いや大天晴を付けるべきだ」
と、不気味なほどニコニコしていてめっちゃ褒められていた。
俺の活躍は球界OBでも昭和で活躍した選手ほど高く評価する傾向が強く、特に投手分業制確立以前のOB達から高中監督の采配批判はするが、健気に応えて投げ続ける俺に対しては、爺さんが孫を可愛がるが如く、滅茶苦茶褒める人が多かった。
周りからは老害って言われていた辛口のOBすらも、俺に対しては
『まだ1年目だから何とも言えんが、2年、3年続けられれば神や仏と同じ領域に入ってくるだろうね』
とのこと。
中年OB達からとにかく壊れないかの心配のほうが先に来ていたが……それはそうと監督は叩かれていた。
可哀想な高中監督……。
とと、今日は球団関係の税理士と顔合わせがあるから資料を見せないと……。
どうなるかなー。
「初めまして、ヤクエナキャッツと契約している税理事務所の渡井と申します」
「ヤクエナキャッツで働かせてもらっている大久保です。よろしくお願いします」
球団側で作ってもらった名刺を交換して、渡井さんと会話するが、最初は昨日の活躍について言われた。
ヤクエナキャッツを応援しているんですが、大久保選手の活躍はファンにとっては希望そのものだとベタ褒め。
こっちとしても気分が良い。
そして俺は彼に株やFX、金融商品で稼いでいる物を見せる。
「あぁ、大久保さん、親会社の株はマズイですよ」
「マズイんですか?」
「いや、報告義務があるはずですよ。チームの成績が株価にも影響するんでインサイダーとはならないですが、結構グレーなので。コンプライアンス研修では習わないでしょうからね」
「結構買っちゃってますが、大丈夫でしょうか?」
「ええ、これくらいなら今から報告しても間に合うので大丈夫ですよ。次に買う際には球団の方に一報入れておくと良いでしょう」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ……それにしてもここまでFXで稼げている人は初めて見ましたよ。でも気をつけてくださいね。直ぐにお金溶けますんで」
「ええ、無理のない範囲(最大倍率)でやらせてもらっていますよ」
「大久保選手ほどの人が破産とか聞きたくありませんからね。球団にも迷惑がかかりますし」
「あはは……」
「で、株や金融商品が時価14億分、FXが10億円ほど稼いでいると……なんか高中さんに言われたのより増えている気がしますが……」
「また勝っちゃいまして……追加で色々と購入してしまって」
「凄い豪運の持ち主か、売買の知識が凄いのか……両方なのか……」
後は経費として不動産を買っておくと、節税の観点で有利に働くと紹介された。
幾つか紹介できる不動産もあるがと教えられたが、なんか直感で、1つ怪しさを感じる不動産があったので、そこは避けて、直感的に一番良さそうなのを選んだ。
不動産に関しては小林先輩が詳しかったはずと思い出し、不動産に関してはそこで終わりにしておいて、節税に関する質問や確定申告に対する質問、個人事業主として覚えておいた方がいいこと何かを色々教えてもらって、1日潰すのだった。