前半戦をなんとか2位でフィニッシュしたヤクエナキャッツだが、高中監督の俺に対しての起用については球界問題へと発展していた。
というのも、俺が活躍し過ぎて、奪三振祭りになっていたために、一部球団で野球ファンの減少が起こるのでは無いかと危惧されたのである。
ヤクエナキャッツ側の球団社長や代表はこれに対して過去の判例を持ち出して抗議したが、野球界で絶対的な権限を有しているコミッショナー(プロ野球において最終決定権を持つ人物)が1人の選手を過登板させるのはいかがなものか……という表明を発表。
流石にヤクエナ側の上層部もコミッショナー側から抗議を受けたとなれば監督に起用の圧力を掛けなければならず、【ペナント中】は中2日未満の【先発】登板は禁止という異例の表明を発表。
なので俺が危惧していた中1日登板というのは流石に防がれたのだが……ペナント中というのと、先発ではという条項が盛り込まれているので、ペナント終了後のクライマックスシリーズと日本シリーズは条件が一切無いこと、先発禁止だから中継ぎとして超ロングリリーフ(第二先発)として登板する……ていうのができてしまうのである。
今の高中監督の俺への依存は、精神安定剤を手に入れたに等しいため、後半戦に球団側から指示が無かったらガチで優勝の為に中1日が本気で検討されていたと聞いて、身震いした。
というか、高中監督から、
「こんな事(新人である大久保の過剰登板)をやらせた責任で首切られるのは確実だから……今年優勝して有終の美を飾らせてくれ」
と、俺に懇願してきた。
いや、俺に懇願されても困るんだが……。
で、メンヘラみたいになっていた高中監督はオールスターに監督推薦では俺を絶対に出さない(俺以外に精神安定剤(大久保)を取られたくない)という異常な執念を見せていたが、こんな成績残している選手を見たくないファンは居ないため、ヤクエナキャッツ以外の他球団ファンが結託して、少しでも俺を疲弊させるためにオールスターに選出させられた。
あと、寺門からホームランダービーのバッピやってくれって頼まれたので、快く了承し、最近練習している球を逆に軽くしながら、異常なバックスピンをかけることで、ピンポン玉の様に球を飛ばすという技術を習得しようとしていた。
これが出来るようになれば、打者に有利な状況に意図的に出来るようになり、味方打線を活性化させられないか……というのを考えていたのである。
で、まだ出力の関係で、マウンドからバッターボックスまでは、これができるのだが、ベンチからバッターボックスまでは距離が微妙に遠くて、出力不足。
超能力の精進が足らないなぁって思っていた。
ホームランダービーでは寺門が俺のアシストもあり、他の選手をぶっちぎって優勝を掻っ攫い、100万円と車をゲットしていた。
良いなぁ車……俺もオフシーズンに球団側と交渉して免許取りに行きたいなぁ……。
オールスターゲームでは他のチームの先輩方にめっちゃ色々聞かれた。
やっぱりライズボールの投げ方について聞かれるが、握りや腕の振り方とかじゃなくて、超能力使ってるだけなので、説明しようがない。
打者の人達もどうやったら打てるかで議論白熱していて、何か本人の俺も呼ばれたが……いや、商売道具なんで打たれるの嫌なんだけどなぁ……。
で、勿論オールスターでも俺は投げさせられる。
最近のオールスターゲームでは、ピッチャーとキャッチャーがマイクを付けて、パフォーマンスをしながら投げるっていうのをやっていて、俺もマイクを付ける。
ちなみにキャッチャーは猛虎イエローズの正捕手で、セ・リーグNo.1キャッチャーと呼ばれている打てるし、肩強いし、リードも上手いという、理想的なキャッチャーである。
『阪本さん、ライズいってもいいですか? 上げ幅30センチで』
『お前変化量も調整できるのかよ』
『高めに構えてください。そこに投げるんで、絶対にミット動かさないでくださいよ』
そんなやり取りをしながら俺はライズを投げ込むと阪本選手はちゃんと捕ってくれた。
というか上げ幅含めてライズ捕れるの西住しか居なかったから、これが日本代表にも呼ばれるキャッチャーか……て、めっちゃ感心した。
バッターはライズって分かっていても打てないから重症であるが、全球ライズって言っていたからか、パリーグのキャッチャー……そこまで打撃力があるわけじゃないけど声優と結婚してネットで玩具にされている愛称がヤバいわよって人がいるんだけど、どうにかなれ〜って振ったバットがジャストミート。
ライズボールが当たったら飛んでくって俺が前に言っていた様に、軽く振り抜いた打球は京セラドームの上段……推定飛距離150メートルというとんでもない特大ホームランが飛び出して、打った本人も驚いていた。
『だからライズは当たったら飛んでくんで、弱点なんですよねぇ……まぁ当てないように工夫するんですけど』
『お前、オールスターMVP無くなったぞこれ(笑)』
『あぁ、マジっすか……』
なんて会話が全国放送されて、ライズボールは当てられたら飛んでくって印象づける事が出来るのだった。
「静香、大学どう?」
オールスターも終わった翌日。
俺は寮でFXを売買しながら静香に電話をかけていた。
『大学は楽しいよ。一部の人からプロ野球選手紹介してって言われることや、利通のサインをねだってきたりする人いるけど、断ってるの繰り返していたら、もう言われなくなったね。まぁ神様みたいに利通崇められていたよ』
「俺神様になっちゃったか……」
『そりゃ昭和みたいなローテーションで投げ続けて、交流戦は完全試合6回もやったんだよ。ゲームでもできないって皆言っていたし……影響力凄いんだから』
「へえー」
『へえーって……』
球場に行けば確かにファンへのサインをしたりとか色々しているけど、基本移動は球団のバスで寮に直行しているし、休みの日も整体の勉強したり、不動産投資の勉強をしたりしていて、先輩方も俺を体調不良にでもさせたらまずいのと、酒を飲ませられる年齢じゃないことを気を使ってもらって、外に食事で誘われるってことも少なかった。
別に仲が悪いって訳じゃなくて、寮内では一緒にゲームをしたりして遊んでいるため、仲は良い方だと思うが……。
あと普通助っ人外国人選手ってアパートを球団側が用意するんだけど、年齢の若いロビカスは寮に空き部屋があったため、ロビカスも寮生活をしていた。
『寮の食事美味しいでーす!』
ハンバーガーリーグと呼ばれる給料が安くて、ハンバーガーしか買えないような劣悪なマイナーリーグでプレイしていたロビカスにとって、日本の環境はマイナーリーグでプレイしている選手からしたら天国に近いらしい。
『しかも日本で一定の成績を残せば、メジャーから直接お声がけがいただけまーす! マイナーすっ飛ばしてメジャーですよ! メジャー! 僕も日本で頑張ってメジャーいきたいでーす!』
というのがロビカスの心境らしい。
まぁロビカスは特に親日家で日本語も堪能っていうのが大きいだろうが……。
『そうなんだ。ロビンソン選手と仲良くしているんだね!』
「同期の人達とも仲良くしているよ。特に西住とはバッテリーだし」
『なるほどねぇ』
静香も大学は順調だし、夏休みの間に運転免許をもう取ったんだーって自慢された。
普通に羨ましい。
「車欲しいのあれば買おうか? というか俺寮生活で当分車駐車する場所ないから静香の実家に駐車スペース余ってるんなら、乗ってていいから置かせてくれない?」
『あー、じゃぁオフシーズンに買いに行かない? 車屋デート』
「了解」
そんな会話をするのだった。
シーズン終盤に入ったある日のこと……夏真っ盛りで屋外球場の神宮は夜になっても暑さでムシムシしているが、俺は周りの空気を超能力で温度調整、湿度調整をしているから、快適に過ごすことができている。
周りの選手が汗だくの中、涼しい顔して投げ続けている俺に、チームメイトから怪物だの、魔王だの、神様だの色々言われているが、踏ん張ってきた小林さんも勤続疲労で防御率が悪化し、少林寺も夏の暑さでスタミナ切れ、藤寺さんも限界を迎えていた。
高中監督は怪我明けで2軍調整が終わった投手を直ぐに上げてきて、実戦で使用。
そういう投手に限ってだいたい炎上するので、投げては炎上からの1軍登録抹消、次の若手を上げる……を繰り返して火だるまになりながらの異次元の投手運用を開始。
それでも俺が中2日で投げるので、週2勝はできていたが、それ以外の日が悲惨なことになってしまい、1勝2敗ペースが積み重なって、8月終了時点で2位だったのが4位に転落。
ファンやネットでは投手は大久保個人軍呼ばわりされて、高中監督はチベットスナギツネみたいな顔になっていたのだった。