オフシーズンが早めに始まり、秋季キャンプまで時間があった俺は寮の自室でゆっくりFXや株をやりながら何気なくネット掲示板を見ていたら、俺の事が書かれているネットのまとめ記事を見つけた。
「なんだこれ?」
記事のタイトルは
『ネットで書かれた大久保の蔑称、愛称、名言、迷言まとめ』
面白そうだったので開いてみると、えげつない量の記事が続いていた。
・神様仏様大久保様
略称 大久保(神)
ネットでよく使われる大久保の愛称
令和で昭和全盛期の酷使を耐え抜いて異次元の成績を残したことから
・奪三振マシーン
異常な奪三振能力を持つため
・40-0
個人成績で40勝0敗だったことから
・プロ野球を壊した男
1人で40勝したのもあるが、20完全試合という化け物の成績を残したことから
・投げる労働基準法違反
異常な登板数が生んだ愛称
・死神
大久保が投げると打線が死んだように沈黙するため
・物理法則に抗った男
ライズボールを投げるから
・和製チャンプマン
メジャーで170キロ投げた投手になぞらえた愛称
・野球ゲームの査定をバグらせた男
ちな野球ゲームの能力
ペナント開始前
選手総合数値 285
球速148キロ
コントロールD
スタミナD
スライダー3
フォーク3
総変化量6
特殊能力
回復B
寸前✕
四球
ペナント終了時
選手総合数値 950
球速173キロ
コントロールS
スタミナS
ライズボール
ライトアッパー
レフトアッパー
スライダー6
カーブ5
フォーク7(最大変化)
チェンジアップ3
シンカー5
シュート5
総変化量34
特殊能力
青い特殊能力山盛り
回復の上位の金の特殊能力
奪三振の上位の金の特殊能力
低めの上位の金の特殊能力
注 野球ゲーム歴代最強投手に1年でランクイン
・テンポ◯
大体の試合が2時間で終わることから
・本物
強すぎて本物と言われてしまう
・
・
・
蔑称も色々あり、恐らく他球団ファンからいわれているのだろうが、
・人外
・黒星乱造マシーン
・歴代記録ぶっ壊しマン
・昭和生まれ
・見るだけで吐き気がする
・気持ち悪い
・ヤクエナが作ったサイボーグ
・大統領
・首相
・総理大臣
・暗殺
・必殺仕事人
・19歳の貫禄ではない
・日本の至宝
・はよメジャー行け、そのまま帰ってくるな
・高中の愛人
・高中の薬
・精神安定剤
・オールドルーキー
・白黒写真が似合う
・特攻兵
・大久保二等兵
・核兵器
・大巨人
・2m
などなど色々な別称が付けられていた。
面白くて笑ってしまった。
「俺ファンからそんな風に見られてるのかよ……精神安定剤って……」
その他にも老け顔だからオールドルーキーとか白黒写真が似合うとか色々言われていたが、見てる分には面白かった。
「小林さん、不動産について教えてもらってすみません」
「いやいや、不動産投資とかに興味を持つのは大切よ。それに今年は大久保におんぶにだっこだったから、これくらいはやってやらないと」
ペナントが終わって、数日。
秋キャンプが始まる前に小林さんと約束していた不動産を見て回るのに、小林が車を出してくれたのである。
「しっかし、初年度から不動産投資って契約金の追加条項を達成したからか?」
「はい! 無事に達成したので、来年球団側が支払ってくれるって約束していただけたので」
「ドラ1位だから5000万くらいか? 40勝もしているから、今年の年俸も期待できるだろうからな」
「ええ! でも今回は特に交渉するつもりはありませんよ」
「それまたなんでだ?」
「心象悪いじゃないですか、1年目から銭闘(契約更改で滅茶苦茶ゴネること)なんかしたら……ねぇ」
「そりゃそうだ。でも何か条件をつけてもいいんじゃないか?」
「そうですねぇ……オフシーズンにアメリカに野球留学かバカンスに嫁連れて行っても良いか聞いてみますわ」
「新婚旅行を球団にねだるのか……そりゃいいかもな。たぶん了承してくれるんじゃないか?」
「だといいんですが……」
そんな会話をしながら、土地や物件を巡っていく。
「どうだ? 良さげな土地はあったか?」
「はい。あと家建てるのに良さげな土地を探している意味合いもあったので! 何箇所か見繕いました。ありがとうございます!」
「俺も息抜きに大久保とドライブできて楽しかったわ。このまま焼き肉でも行くか?」
「はい!」
というわけで焼き肉を小林さんに奢ってもらう。
「ゴチになります」
「おう、じゃんじゃん食え」
焼き肉も食べるが、とにかくご飯をバクバク食べる。
登板過多の影響で、疲労回復を超能力でやっていても、回復するためのエネルギーがどうしても必要になる。
(来年からはライズボールもダウンスイングをすれば当てやすいって気づいている選手がちらほら出てきているから、今年みたいな無双は難しくなってくる……そしたら今年は偶にしか使ってなかった第二の魔球のグラビティボールが威力を発揮してくる)
秋季キャンプでは体力づくりだけでなく、グラビティボールは打たせて捕る球なので、必然的に守備力が重要になってくる。
俺も投手として打球処理の練習をして損はないだろう。
秋季キャンプは守備練習を中心にやりたいと首脳陣に言ったほうがいいだろうか?
「小林さんは新監督のサクセン監督とは面識は?」
「んー、スターズ時代に監督と選手としては対戦経験はあるけど、サクセン監督が現役の時は俺も若手で直接的な対戦はねーな」
「人なりだけでも知っておきたいんですがね」
「まぁたぶん大丈夫だ。高中監督みたいな異次元の多投はやらせないだろう」
「そうだといいんですけど……」
「そんな米ばっかり食ってないで肉食え肉を!」
「ありがとうございます!」
じゃんじゃん焼かれた肉を取り皿によそってもらい、俺は嬉しそうに食べることに集中する。
勿論小林さんの飲み物が少なくなってきたら注文を入れるのは忘れない。
「俺は持ってあと1年か2年だ。40歳過ぎたロートルが戦力になっているのがおかしいんだがな」
「小林さん……」
「なに、戦力のうちは投げ続けるつもりだ。大久保、お前は自分が壊れないことだけに注力しろ」
「はい!」
そんな会話をしながら、焼き肉を楽しむのだった。
球団側経由で俺にスポンサー契約をしたいって申し込みが殺到していると連絡が入った。
スポーツ用品店や食品ブランド、雑貨屋の新商品のモデルなど様々。
プロ野球選手は個人事業主であるが、球団側と契約しているし、暗黙の了解で若手選手については球団職員がアドバイスを送ったりもする事があった。
なので、怪しいものは球団側が先に弾いてから、俺にスポンサー契約するならどこが良いかとか、テレビ出演のオファーについても色々教えてくれた。
とりあえず、オフシーズンにあるプロ野球選手の筋肉番付とデカ盛り料理を制限時間に食べる番組、正月のプロスポーツ選手が難問に挑む番組の3つには絶対出たいとお願いをした。
あとヤクエナの飲料のCMも。
そんなやり取りをした後に、新監督就任挨拶を終えたサクセン監督が俺に話したい事があるとして、寮で同期と一緒に練習をしていた俺を監督室に呼び出すのであった。
「失礼します」
「オー、ナイスガイ! 実際に見るとデカいね! 大久保!」
「ありがとうございます」
サクセン監督……関東3球団を渡り歩いて、外国人選手ながら2000本安打を達成したレジェンド。
神奈川スターズでも作戦をズバズバ命中させて神様の様に崇められている人物だ。
人気も実力もスター性も兼ね備えた見習うべき人物。
それが俺の印象である。
「さて、大久保。君は先発よりも中継ぎの方が向いているように思えるけど、本人はどう思っているか聞きたくてね」
「自分としては先発の方が好きですけど、チーム状況で中継ぎをやってくれと言われたら従いますが」
「うん、意識調査の一環だ。いや、ボク的には中継ぎで使いたい気持ちはあるけど、それはファンが許してはくれないからね。ただ勝負所……シーズン終盤ではスクランブルが起こることも頭に入れておいてくれ」
それだけでなく、サクセン監督は3年かけてチームを正常化させる戦略を話す。
「今回ボクは全権監督……GM(ジェネラルマネージャー)としての役割も持つから、選手の獲得やコーチ配置全ての権限を掌握した。3年はその状態を維持するように球団側へも伝えてある」
「なるほど?」
「3年かけてチームを常勝球団に作り替える。そして大久保は実績だけでなくて、球界の顔としての役割を担える選手に成長してもらいたい」
「自分がですか?」
「今年の半分……いや3分の1の成績でも十分。壊れないで長くチームを支えてくれること、暴れるなら再来年にあるWBCに日本代表として選ばれて、最高のパフォーマンスをすれば……人気は不動のものになる。ボクが3年、その次の桑葉が3年の計6年、君の力を借りたい。そしたらポスティングでメジャーに行くのも球団側は歓迎するから」
「あの……」
「ん? なんだ?」
「自分よほど馬鹿にされた契約じゃなければ、海外FA権(海外球団 メジャーリーグなどに選手の自由で移籍することができる権利 高卒新人だと最短でも27歳のシーズン終了してからじゃないと移籍できない)にするつもりだったんですが……」
「ポスティングじゃなくていいのか? (ポスティングシステム……球団側の了承を得て海外FA権獲得前に海外チームに移籍を了承する権利)」
「ええ、日本で200勝達成してからメジャー行きたいので、毎年20勝近く積み上げれば、海外FAで行ける時に200勝達成で価値を釣り上げてメジャーに行けるので」
「球団側としては非常にありがたいし、運用する側も長期間運用できるからありがたいけど……それまでに故障したらパアだぞ?」
「わかってます。でも日本で200勝、メジャーで200勝したら凄くないですか?」
「クフフ……あはは……そりゃすごいな! じゃぁ海外FAで馬鹿みたいな巨大契約を結べるくらい頑張らないとな!」
「はい!」
俺はサクセン監督と握手をするのだった。