秋季キャンプが始まる前に大きなイベントがある。
それはドラフト会議だ。
セ・リーグ、パ・リーグの王者の頂上決戦日本シリーズの前に来年以降の戦力を決めるドラフト会議が行われる。
というが、今回の俺は傍観者。
俺からすると後輩が入ってくるイベントで、2軍の先輩方からすると、指名された選手によってはこの後に控える契約更改でクビを宣告されるため、気が気でない。
そんな先輩方が食堂のテレビを占領しているため、新人かつ、特に怪我をしたわけでも無かった俺と同期の6人は寺門さんの部屋に大きめのテレビがあるので、ネット配信の中継を見させてもらった。
「6人も部屋に集まるとぎゅうぎゅうだな」
「そりゃ普通の大人よりもデカいからな俺達」
なんだかんだ同期の6人とは仲が良い。
というかドラ1位の俺が人当たりの良い性格だし、2位の寺門さんは大学でも主将をやっているくらい人を纏めるのに長けている。
江西さんと床田さんといった大卒組も大人な性格をしているし、西住はしっかり者、やんちゃなのは少林寺くらいだが、プロの洗礼を浴びてからは性格も丸くなっていたし、俺に頭が上がらないほど実績で上下関係が決まったので、いい感じのグループになっていた。
ちなみに床田さんも終盤に1軍に合流してプロ初ホームランや5盗塁を記録してアピールしていたので、来年か再来年次第では普通に1軍候補である。
「ドラフト候補者の特集雑誌持ってきたけど、うちのチームで何人取るとか大久保、新監督から聞いていたりしないか?」
「いやぁ……でも戦力整えるって言っていたからか結構人数取るんじゃないか? 特に投手。3年かけて常勝球団作るってサクセン監督言っていたからか、即戦力投手と素材型の野手って感じになりそうだと思うけど」
俺は回されてきた雑誌をなんとなく眺めて、超能力由来の直感で1人の高校生をピックアップした。
「宮城の高校生……井端小音(いばた こおん)って投手が良い感じがする」
「なんか美味しそうな名前ですねバターコーンみたいで」
「中性的な顔立ちだな……なんかアンパ◯マンにそんなキャラいなかったっけ」
それはバタコである。
「でも甲子園出てるけど2番手投手で評価は将来性に期待っていう……地雷感満載の投手だけど」
記事によると最速140キロの直球と大きく曲がるカーブが得意。
投球の再現性が高い(コントロールが良い)が将来性に期待って書かれていた。
現段階じゃプロレベルではないって意味であるが……育成契約もしくはドラフト下位でうちの投手不足の現状だったら呼ばれるかもってところか。
ドラフトが始まるが、ヤクエナは1位に即戦力社会人の24歳投手を指名。
2位3位も大卒投手。
去年正捕手だった選手が結局故障が長引いて、現役復帰を断念し、今年で引退を表明、2番手だった人もアキレス腱をやったので、復帰してもキャッチャーの負荷を耐えられないとコンバートされてしまった。
球団側は西住をメインに4位と5位に素材型の捕手を指名したので、3人で競わせて、正捕手争いをさせようという魂胆が見え隠れする。
まぁキャッチャー育てるのが一番時間がかかるけど、西住の捕手としての能力は高いし、俺と組んで、今年ベストバッテリー賞を受賞確実視されているので、後は打撃が伸びてくれれば、文句はない。
6位、7位、8位に素材型の野手で9位に俺が予想した井端小音が指名された。
あと10位も投手で高校生の巴選手。
このピッチャーもなんか直感がビンビンに反応してるんだよなぁ……。
あと育成契約で2人投手を獲得して、合計12中投手7人のドラフトを敢行。
こりゃぁフロントやサクセン監督側は選手の大量解雇を実行する気だと俺達は理解した。
「俺大丈夫かな?」
「少林寺は成績酷かったけど、1年ローテ守ったのはフロントも評価してくれるだろ。というかお前は俺と同じ高卒だし最低でもあと4年は怪我せずに成長続ければクビ切られることはないでしょ」
「だ、だよねぇ……」
「やばいのは怪我している人達だよ……」
ちなみに戦力外通告……つまりクビは時期が2回あり、第一回がペナント終了直後……俺が小林さんと不動産回ったり、サクセン監督と話し合いをした頃に行われていて、第二回戦力外通告は日本シリーズが終わった直後に行われる。
ドラフトが終わった後なので第二回の方が戦力外の通告される人数は多いのである。
ヤクエナキャッツの現在の支配下人数は63人。
そこから10人支配下で入ってくるのと助っ人外国人の枠もあるか8人くらいクビが発生しそうである。
ドラフト会議も終わって、解散となった後、食堂を覗くと、お通夜みたいな雰囲気になっていて、俺はそそくさと自室に戻るのであった。
日本シリーズはクライマックスシリーズを2位からの下剋上で勝ち進んだ猛虎イエローズが勢いそのままに日本一を達成。
プロ野球全日程が終了して、案の定8名の選手がクビになる。
そして秋季キャンプが始まる。
投手守備練習を中心に行うけど、サクセン監督に何故か外野守備の練習もするようにって言われて、外野のグループ……同期の床田や守備コーチの守本コーチに外野守備のイロハを教えてもらいながら猛特訓を繰り返す。
超能力を使いながらであるが、際どい打球を捕球するのにボールの軌道を少し変えて、グローブの中に飛び込んでくるようにしたり、バックホームに投げる際に超能力の力で思いっきり投げればレーザービームの様に凄まじい速度のストライク送球をしたりと、守本コーチから褒められたり。
打撃練習はしなくて良いと言われたけど、サクセン監督は俺を外野の守備でももしかしたら使いたいのか?
何か意図があるのだろうけど……。
春季キャンプでは怪我人ばっかりだったのに、秋季キャンプでは嘘みたいに怪我人が一切出ず、ヤクエナファンからはサクセン監督のご利益が早速出たとか、コーチをほぼ一新した効果だと騒がれていた。
でも秋季キャンプは俺はケロッとしていたけど、多くの人はバテバテ……特に若手は猛特訓を課せられて、死にそうになっていた。
「ああ~効くう……悪いな大久保……投手のお前にマッサージしてもらって」
「いやいや、女房役が倒れられたら困るからな。これくらいならやるよ」
俺は西住のマッサージをしていた。
最初は遠慮していたけど、疲労がピークになってくると、恥を忍んで、俺に頼んできたが、俺の超能力を使ったマッサージがよほど気持ちよかったのか、よだれを垂らしながら西住は爆睡。
うつ伏せで全身もみほぐした後に、あお向けにひっくり返して、布団をかけてやって、西住の部屋から退室した。
ちなみに俺がマッサージするのは西住だけでなく……
「あ! 大久保さーん!」
「ロビカスもマッサージ受けるか?」
「受けまーす! 大久保さんのマッサージ気持ちが良いでーす!」
来年の守護神候補としてサクセン監督にも期待されているロビカスにもマッサージをしてあげていた。
ブルペンで投げる時はペアを組んで練習しているが、ロビカスの成長もぐんぐん伸びていて、最速157キロの直球に高速シンカー、スローカーブだけでなく、カットボールとツーシームも秋季キャンプで覚えたことで、手応えを感じたらしい。
「大久保さんはコーチとしても食っていけるって思いまーす! 大久保さん! メジャーでボク活躍したいんでもっと色々教えてくださーい!」
年上なのにロビカスは大型犬みたいに俺に懐いて仕方がない。
「来季は頼むぜロビカス。守護神に成って、35セーブ超えれば、1億超える年俸に成れるらしいから!」
「1億円……約63万ドルでしたっけ? やっぱり日本は最高でーす! ボクの実績だとメジャーに上がらなければ10万ドル以下で買い叩かれまーす! 若手なのに5倍以上もらえて衣食住を補償してくれる日本のプロ野球は最高でーす!」
ゲラゲラ笑っていた。
実際ロビカスはそれだけ調子が良い……というが覚醒したっていうくらい成長を続けている。
そんなこんなで秋季キャンプは過ぎていくのだった。
秋季キャンプ終了直後、各種タイトル受賞者の表彰式が行われた。
俺は最優秀防御率、最多勝、最多奪三振、最高勝率、最多完封の先発投手が取れる全てのタイトル……投手5冠を達成。
ゴールデン・グラブ賞、ベストナイン、最優秀選手、新人王、そして日本の投手最高の名誉である沢村賞も獲得。
タイトルを総ナメして、俺は1000万円の賞金を獲得。
ネットでは妥当の言葉が並ぶのであった。