「楽しみだね!」
「パスポート作っておいてよかった〜」
12月上旬……俺は静香と一緒に飛行機でアメリカに飛んでいた。
普通選手の旅費を出すことなんかペナント優勝か日本一の旅行にハワイ当たりに飛ぶことか、ウィンターリーグなどに野球留学のため選手を派遣する時くらいである。
「新婚旅行で球団から金を出させるなんて大久保さんやりますねぇ」
「いやいや……すみませんね鈴原さん、通訳として一緒に来てもらっちゃって」
「いえいえ、こちらも球団の金で息抜きできますし、ロビンソン(ロビカス)選手は日本語堪能で、通訳必要ないくらいなので、新外国人選手が来日するまで暇でしたから……逆に仕事回してくれてありがたいくらいですよ」
「そう言ってもらえると助かります」
そんな会話をしながら、俺は飛行機で旅行雑誌を開きながら観光を楽しむ気満々だったが、一応建前は野球留学。
3週間と短い期間だが、野球の本場であるアメリカで勉強……というかガッツリ息抜きしてきなって感じだろうか。
「利通、カジノには行きたいんだよね?」
「ラスベガスのカジノは行きたい!」
ちなみにメジャーチームのカジノーズが本拠地をしているし、ヤクエナはその球団と業務提携しているので、俺が行くのもそこである。
そんな会話をして10時間……アメリカの大地に降り立つのだった。
到着してホテルで少し休んだ後に、超能力で時差ボケを俺と静香の身体を調整し、現地でヤクエナの海外スカウトをしている人と合流。
その翌日にはAAAの球団で練習に参加させてもらった。
でっかい日本人が来たって話題になったが、俺が170キロを投げられると知ると、大盛り上がり。
『大久保! 170キロ見せてくれよ!』
『俺も打席で打ちたい!』
そんな感じの選手が多くて、俺は毎日80球近くバッティングピッチャーをやる羽目に。
まあAAAとはいえ、メジャーに一歩及ばない選手でも、日本の強打者に匹敵するパワーの持ち主がゴロゴロ転がっている。
特にショートの守備が日本と海外だと大きく違うというのがわかる。
日本は有望な選手がいれば投手をやらせるのに対して、アメリカではショートを勧められる。
そのため一番運動神経がいい奴がショートをやるので、レベルが滅茶苦茶高いし、身体能力を活かした広い守備範囲に外国人特有の強い肩……バズーカの様な送球で深い守備位置からアウトを量産する。
日本のショートとのレベル差を痛感しながらも、俺は新婚旅行をしながら、本場のアメリカ野球を楽しむのだった。
で、俺はたまたま立ち寄った球場でA+のリーグの選手が試合をやっていると聞いて、静香と一緒に立ち寄った。
アメリカのプロリーグはメジャーを頂点にAAA、AA、A+、A、ルーキーリーグの6種類が存在し、日本よりもはるかに複雑なのである。
ただプロとして食っていける給料が出るのはAAA以上、そのAAAでも日本円の給料だと500万前後でそれよりも給料が低いAA以下の選手は言わずもがな。
日本の物価と1.5倍近く違うため、実質の給料だと350万円前後。
そりゃハンバーガーリーグ(安いハンバーガーしか食べれないから)って言われますわ……。
ロビカスがメジャーに行きたがるのも、AAA以下のリーグじゃなくて日本に来たがったのも、日本の方がAAAより給料や待遇が良いことが挙げられるし……。
A+の選手なので、そんなにこれはって選手も殆ど居ないのだが、俺はピンと来ている選手を1人見つけた。
一緒に来ていた海外スカウトの人にあの選手化けますよって俺は言う。
「ドミニカ出身のデロスサントス選手か? 年齢は21歳A+での成績は打率.285 20本 35盗塁の俊足巧打のサード兼外野手だけど……」
「なんか直感がビンビンあの選手に反応してます! 声かけてもいいですか?」
「別に良いですけど……」
試合後に俺はデロスサントス選手に通訳と一緒に声をかけた。
「こんにちはデロスサントス選手」
『うお、デカいな! 東洋人か? えっと……あ! オオクボって選手じゃなかったか? 日本で魔球を投げるって噂の』
「俺を知っているのか?」
『知ってるも何も、アメリカでも話題になってたぜ、日本がサイボーグ作ったって。メジャーに来る前に壊れるだろうって言われてるけど、凄い球を投げる投手だって』
「知ってるなら話が早い。俺は君の試合に惚れ込んだんだけど、うちのスカウトが君の実力を懐疑的に見ていてね。ちょっと俺と勝負してくれないか」
『勝負?』
「俺は10球投げるからそれを思いっきり君が打ってくれ、スカウトが合格って言えば、日本で10万ドル以上の契約は結べるから……A+で燻るよりも日本の環境で育った方が君は絶対上手くいくって俺の直感が言ってるから」
『直感って……面白いやつだな。いいぜ、10球勝負な!』
球場側に少しだけマウンドを借りて、俺は10球勝負を行う。
投げる球は170キロまでのストレート。
ライズは使わないけど変化球はバンバン使っていく。
キャッチャーはデロスサントスのチームメイトが受けてくれることになった。
『デロスサントス、日本からのスカウトってすげぇな』
『でも合格しないといけないらしいけどな』
デロスサントスとキャッチャーが喋っていると、投球練習を始める。
俺の170キロの球がキャッチャーのミットに直撃する。
キャッチャーは捕り損ねて、プロテクターに当たり、咳き込む。
『なんだあのボールは! 日本のサイボーグって本当なのかよ……あんな球……メジャーでも見ないぞ……』
『デロスサントス、あんな球打てなくないか?』
『……』
『デロスサントス?』
『球筋は見えた。振り遅れなければ当てられそうだ』
『おいおいマジかよ』
投球練習を終えて、デロスサントスが打席に入る。
1球目……俺はあえてのチェンジアップを選択。
デロスサントスは遅い球に体勢を崩すが、足で踏ん張って、腕の力で持っていった。
打球はセンターのフェンスに直撃する。
2球、3球は見逃すが、3球目はギリギリボール。
ちゃんと球が見えている。
そして俺が放おった4球目、170キロのボールをデロスサントスが思いっきり振り抜くと、打球ぶっ飛び、場外へと消えていった。
10球勝負のうち2球ホームラン更に3球をヒット性の当たりで、ボール球は一切振らない選球の良さ。
「大久保選手、手を抜いた訳じゃなくて?」
「ライズ投げてないけど、他の投手だったらライズはありませんからね。170の直球も150のスライダーや130のチェンジアップにも対応してきました。十分に日本に適応できると思いますけど……というか、残りの時間、デロスサントスと行動を共にしたいんですけど!」
「……まだスカウトには至らないけど、可能性は見えた。スカウト候補として球団側に報告しておこう」
「ありがとうございます」
俺はその日からデロスサントスに付きまとうようになる。
デロスサントスが試合の日は見に行くし、試合が無い日の練習には必ず参加させてもらって……。
少しずつデロスサントスとの仲を深めていった。
「デロスサントス、俺と一緒にカジノ行こうぜ! カジノで美味い飯食いに行くぞ!」
『おう、オオクボの奢りな!』
そんなある日、俺は静香と約束していたカジノに行くのにデロスサントスを誘った。
静香は全くって呆れていたけど……通訳の鈴原さんも一緒にカジノへ。
「唸れ! デスティニードロー! からのブラック・ジャックじゃぁ!」
『ホゲぇぇぇ』
トランプ系だと直感がめっちゃ活躍する。
特にハイアンドローは静香と超能力の直感力を鍛えるためにやりにやりまくっていたので大得意であり、容赦なくディーラーから巻き上げる。
そしてトドメのルーレットで1点36倍に稼いだ全ベットして、周りから笑われたが、それが当たったことで、ディーラーは青ざめていた。
というか俺以外のデロスサントスと通訳の鈴原も青ざめている。
俺が稼いだ金額は300万ドルを超えてしまい、カジノから退室する際に警備員がホテルまで護衛してくれるほどだった。
「じゃぁ鈴原さんにこれを、デロスサントスには契約金も含めてこれを」
俺は鈴原さんとデロスサントスに札束を渡す。
『お、おいおい……100万ドル近くあるが……』
「デロスサントス、日本で生活するのにも金がかかるだろ? 俺からの契約金だ。日本で活躍して、俺を助けてくれよ」
『あ、あぁ! スズハラスカウト! 俺はどんな条件でも日本に行く! オオクボを助けなきゃいけない理由ができた! 契約金0円でも日本に行くぞ』
「落ち着け、デロスサントス。俺も大久保選手とのトレーニングでお前が覚醒しているように成長しているのは分かってるから! 球団側に推すから連絡待ってろ」
そんな出来事がアメリカで起こりながらも3週間はあっという間に過ぎていった。
デロスサントスは俺が日本に帰国後に鈴原スカウトの熱弁で、獲得が決まり、俺に遅れること2週間後に来日。
「俺が大久保のバディーなんだ!」
『俺のほうがオオクボを助けられる!』
デロスサントスもヤクエナの選手寮に住むことになり、ロビカスと俺を取り合って、揉める姿がよく目撃されるのだった。
新助っ人外国人のデロスサントス、そしてロビカスと俺は長い付き合いになるのだった。
本当はラスベガスのカジノは21歳からだけど、場所によっては18歳から大丈夫らしいので……
まぁ深くはツッコミを入れないでください。